2022年02月10日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.1


 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」が、本日2022年2月10の「FT新聞」No.3305より、不定期連載としてスタートします。ミスタラ世界を扱うクラシックD&Dのキャンペーンゲームのプレイリポートとなります。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.1

 岡和田晃

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●はじめに

 本作は岡和田晃がダンジョンマスターをつとめ、2001年11月27日から2003年7月27日まで、およそ1年半、14回にわたってプレイしたクラシックD&Dのキャンペーン・シナリオを、小説風にまとめ直したものです。
 『GAZ1 カラメイコス大公国』(新和)をはじめとした新和版、『キングズ・フェスティバル 王の祭り』、『クイーンズ・ハーベスト 女王の収穫』、『ナイツ・ダーク・テラー 黒い夜の恐怖』、『竜剣物語』&『ミスタラ黙示録』の各シリーズほかメディアワークス版を中心に、各種資料を参照しています。
 なにぶんデビュー前、学生時代の若書きのため、拙い部分も多々ありますが、昨今、クラシックD&Dのミスタラ世界を扱ったレポート記事は珍しいと思い、公開するものです。お含みおきのうえ、ご笑覧ください。
 第1回は、キャンペーン第1話「Return to Basic」、第2話「Dungeonland!」をまとめてお届けします。

●王都スペキュラルム

 “鏡の都市”と謳われる、カラメイコス大公国の首都スペキュラルム。公爵ステファン・カラメイコス3世の統治のもとで、人口5万人の一大都市は、今日も眠らず活動を続けている。そして、暦の上では春となり、厳しかった冬の気候も少しずつ和らいできたトーモント月(3月)の第11日のこと。
 近くの街、ハイフォージからのノームの商隊が到着し、街は一段と活気付いていた。珍しい物品が人々の目を奪い、さながら新年祭の再来のような賑わいを見せている。
 ノース・エンド区に位置する、どちらかといえば上品な酒場、「ブラック・ハート・リリィ」。初代の主ルシアー・スフォルザの恋人の名前を冠したこの場所は、いかがわしい空気に満ちている。一攫千金を夢見るならずものたちの格好の溜まり場だ。そして今またここに、冒険者らしき一団が、昼間から酒を酌み交わし、気息を上げている。
 彼らの瞳は希望に満ちているが、いまだ駆け出しという感は拭えない。
 ノームの町ハイフォージ出身の詩人ドワーフ、タモト・ロックフリンガー。
 無法地帯ブラック・イーグル男爵領の避難民であるマジックユーザー、グレイ。
 カラーリー・エルフの令嬢、シャーヴィリー。
 カラメイコス教会に所属するクレリック、ジーン。
 そして、ギルド〈盗賊の王国(キングダム・オブ・シーフ)〉の一員であるシーフ、ティシュ・リア。
 この5人はスペキュラルムで偶然出会い、パーティを組んで、何度か冒険に出かけていた。だが、依然として大きな成果は得られてはいなかった。暇を持て余した彼らは、にわかに持ち上がった「商隊歓迎」のお祭り騒ぎに便乗することにしたのだった。
 一行は、出店で開かれていた腕相撲や、射的でそれぞれ好成績を収めた。賞金も手に入れ、言うこと無しである。するとどうやら。それを見ていた傭兵らしき男、グリムバルドが話しかけてきた。見たところ、パーティの腕を見込んで、仕事を依頼するつもりのようだ。

●冒険の開始

 彼の話によれば、ノームの商隊の一部の行方が知れなくなってしまったらしい。その安否が危ぶまれているとのこと。直ちに、精鋭を派遣し、彼らの行き先を調べねばならない。グリムバルドの提示した条件はなかなかのものだった。彼の提案を二つ返事で受け入れた一行は、いざ商隊を探しに出発した。
 そして捜索の結果、スペキュラルムから半日ほど北東に行ったところにある遺跡群、クラカトス付近の林の中で、ノームが使っていたと思われる、馬車の残骸が見つかった。
 警戒しながら連綿と続く血痕を辿って行く。
 目の前には、薄暗い洞穴が暗黒の口を晧々と開いていた。そして、入り口の横には2体の、ショート・ソードを手にしたコボルドが陣取っていた。
 慎重派の一行は作戦を練ろうとしたが、純真なドワーフ、タモトは別だった。なんと、気軽にコボルドに話しかけてしまったのである。
 みなまで言い終わらないうちに、コボルドは激昂して斬りかかってきた。当然である。慌てて一行も迎撃体制に入った。
 見張りのコボルドは難なく撃退したものの、戦いの喧騒を聞きつけて、さらなる敵勢が洞窟の中から現れた。しかも、その中の一体は鎧を着ていない。マジックユーザー呪文を使える、「コボルド・ウォーカン」だ。
 犬頭の擬似人間(デミヒューマン)が怪しげな呪文を唱えると、エルフの目の前に巨大な暗黒の球が現れた。「ダークネス」の魔法である。しかしシャーヴィリーは辛くも抵抗のセーヴィング・スローに成功した。
 勢いづいた一行は、ウォーカンもろともコボルド一行を蹴散らして、洞窟内部に足を踏み入れた。無論、パーティは抜け目なく、ウォーカンの持っていたポーションと、呪文書(スペルブック)はちゃんと回収し、バックパックのなかへ格納しておいた。

●ブラック・ベアーとの戦い

 そこで彼らを待ち受けていたのは、さらなるコボルド2体と、巨大な黒熊(ブラック・ベアー)であった。熊の巨大な体躯に恐れをなしたグレイはすぐさま、「スリープ」の呪文を敵に浴びせかけた。
 するとどうだろう、目の前の敵はすべて、昏々とした眠りに落ちてしまった。
 寝ている敵にとどめを刺した一行は、洞窟の中に歩を進める。
 しばらくまっすぐ奥に進むと、やがて道幅が広くなり、三方向に分岐している。
 真ん中を進んだ一行は、樫でできた簡素な扉にぶつかった。扉にはワナが仕掛けてあるようだ。解除を試みる盗賊リア。だが、駆け出しの悲しさか、失敗に終わってしまった。そのうえ、扉に仕掛けてあった毒針のせいで、彼女の体力のほとんどは削られてしまった。

●クリスタル・ボール

 扉の奥には3つの木箱が並べて置いてあった。左から、おそるおそる開けていく。
 左と真ん中には、ノームのものと思われる細工物が入っていた。そして一番右には、ポーションとスタッフ、そして水晶球(クリスタル・ボール)が入っていた。
 マジックユーザーのグレイは珍しく思い、クリスタル・ボールを覗き込んだ。すると、そこにはジャッカルを思わせる頭部をもった人間型生物の姿が映し出された。
 見られていることに気づいたのか、その生き物は顔を上げた。瞬間、二人の視線が衝突した。驚きと恐怖の入り混じった思念が、マジックユーザーの頭の中に響き渡った。
「お、お前は……トラルダーなのか!」

●パーティ半壊

 クリスタル・ボールを目にして呆然とたたずむグレイ。
 映像が途切れた。
 我に返った彼らは、とりあえずダンジョンの別の部屋を探ってみることにした。
 三叉路を右に曲がってしばらく進んでいくと、そこに待ち構えていたのは6体のスタージ(長い鼻と嘴を持った、鳥に似た生物)だった。慌てて逃げ出そうとする一行。だが振り切れず、やむなく戦う羽目に。
 スタージの急降下攻撃に加え、その吸血能力によって、パーティは大打撃を被ることになった。からくも敵を全滅させることはできたが、3人が半死半生の状態に陥ってしまった。危機感を抱いたパーティは体勢を立て直そうと、通路の奥にある扉を開けることを断念し、後退することにした。

●待つ間に

 迷宮を離れ、近くの林で休息を取る。とりあえず、ノームの商隊の商品らしきものは発見したので、グリムバルド(依頼人)から受け取った「伝達の太矢(クォーレル)」を使い、連絡しておくことにした。その間、シャーヴィリーはコボルド・ウォーカンの持っていた呪文書を調べてみた。すると、どうだろう。彼女が本を開いた途端、虹色の閃光がほとばしり、シャーヴィリーを包み込んだのだ!
 次の瞬間、シャーヴィリーがいた場所に座っていたのは、一匹の、大きなアオガエルであった。あわれカラーリー・エルフは、呪文書にかけられていたプロテクション・スペルを発動させてしまったのだ。

●再度ダンジョンへ

 思わぬ出来事に愕然とする一行だが、どうすることもできない。待つしかないのだ。だが次の日になると、二人の部下を引き連れたグリムバルドが駆けつけてくれた。彼が持参してきたヒーリング・ポーションの効果で傷もあらかた癒えた。再度、遠征に出かける準備は整ったのだ。
 ダンジョンへ再突入した一行。途中までは前回と同じルートをたどることになった。しかし、敵とて馬鹿ではない。当然、罠は仕掛け直されている。奥へと進んでいく途中、突然、天井から網が降ってきた。
 一行がもがいているうちに近づいてきたのは、なんと10立方フィート(約3立方メートル)もの巨大な半透明のゼリー状の生物であった。スライム状の体内には金貨や生き物の骨などが見え隠れしている。そう、迷宮の掃除屋こと、ジェラティナス・キューブがやってきたのだ。
 慌てて網を切り始めるが、埒があかない。おまけにキューブの体内に見え隠れする巨額の財宝に目がくらんだグリムバルドは、斧を抱え、我を忘れてキューブに挑みかかる始末。
 しかも、彼の援護に向かった護衛の一人は、逆にキューブの攻撃を受け、重傷を負ってしまった。困り果てたパーティは、キューブの注意を逸らそうと試行錯誤を重ね、松明に火を点して投げつけてみるなど、必死の抵抗を試みた。

●泣きっ面に蜂

 からくも危機を回避した一行だったが、不幸は重なるもの。前回発見したノームの細工物が、すっかりその形を消していたのだ。かさばるだろうと判断して、洞窟の外に持ち出さなかったことが裏目に出てしまったようだ。パーティは、スタージと戦ったときに通った通路の奥も調べてみた。
 そこにあったのは、かろうじてノームの商人チャップ・コリンと判別できる、無惨な死体のみ。
 意気消沈して部屋を出た一行の前に、別ルートを辿って追いついてきた、ジェラティナス・キューブが立ちふさがった。キューブ回避に色々と苦心するパーティ。
 一方、タモトは隠し通路を発見した。その奥に進むと、ホタルのような発光体を抱いた巨大な昆虫、ファイアー・ビートルが待ち受けていた。苦労して敵を掃討したはいいものの、さらに通路は続いている。
 薄明かりに包まれた空洞の中に、様々な白骨が散乱している。そして、その中央には巨大な台座があり、人間大のスケルトンが戦斧を手に座っていた。
 ――もしや、アンデッドか!?
 今までの戦いで傷ついた一行は、しばし奥へ進むことを躊躇した。しかし、破戒僧ジーンは欲望に屈しきれず、部屋の中に突入した。パーティはあわてて後を追う。

●奇妙な宝

 彼らが近づくと、案の定、骸骨は動き始めた。恐怖におののく一行だったが、スケルトンは高らかに斧を振り上げると、そのまま崩れ落ちてしまった。どうしたのだろう。恐る恐るタモトは斧を手にした。
 柄には、古い言葉で何やら銘が刻み込まれている。シャーヴィリーの二の舞になってはたまらないので、彼は斧を袋に入れ、直接の使用を避けることにした。
 何やら難事に巻き込まれつつあることをうっすらと感じたパーティは、これ以上の深追いをためらった。
 しかし、「どうせならば隅々まで探検してしまおう」と主張するグリムバルドの鶴の一声で、いまだ未踏破の領域へ足を踏み入れることになった。

●ゴルサーと予言

 待ち受けていたコボルドどもを難なく倒し、残った一匹を降伏させて情報を聞き出すと、驚くべき計画が明らかになった。どうやら、コボルドの裏には、邪悪な魔術師「ゴルサー」がついているらしい。
 だが幸いゴルサーは今、この洞窟を離れているようだ。戻ってきて鉢合わせしてはまずい。
 彼らは早々にこの場を立ち去ることに決め、グレイの「スリープ」の魔法でコボルドの住居区画の戦闘員たちを無力化し、ノームの財宝を取り返すことに成功したのだった。
 なお、この決断を下すことができたのは、コボルドたちが持ち歩いている「キューブ避け」も手に入れ、キューブに惑わされることなく洞窟を後にすることが可能になったため、という理由によるものが大きい。
 スペキュラルムに戻ったパーティは、約束の報酬を手にし、しばしの休息に入った。各々、手に入れた金で意気揚々と過ごす。タモトが持つ斧が、「バトル・アックス+1対ドラゴン+3、フレームオンコマンド」(コマンドワードを唱えれば斧が炎に包まれる)だということも明らかになった。教会で購入した「リムーブ・カース」の巻物で、無事、シャーヴィリーの呪いを解くこともできた。
 だが、ドリーム通り(歓楽街)をうろついていた際、不吉な予言が投げかけられた。アルヤと名乗る怪しげな占い師によるものだ。
 彼女は告げる。「あなた方の行く手に暗雲が見えます。無数の、凶兆が……」
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2022年02月01日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.19


 2022年1月27日配信の「FT新聞」No.3291に、『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.19が掲載されています。環境の変容、シナリオをどこまで深く記述すべきか、『クトゥルフの呼び声』と比較しつつ考察。複数プロットのシナリオ、オンライン・ツールまで話は進みます。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.19

 岡和田晃
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 くだんのチーズ店の主は、店じまいをしたあと、エプレヒノンプラッツ(勘定広場)からほど近くにある〈爆発する豚〉亭で一杯やるのが日課らしい。
 小売人や商店主、あるいは市が目当ての農民が集まり、社交というか格好の情報収集の場にもなっている。
 中産階級の根城と呼ぶに相応しい。
 いったん酒場に寄って探りを入れるか、それとも、閉まっているはずのチーズ店に、そのまま潜入したほうがよいのだろうか?
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●ある「若気の至り」の告白

 RPGを遊ぶためにはシナリオが必要です。
 コンピュータに準えるのであれば、ルールブックやサプリメントはハードウェア、シナリオがソフトウェアに相当する、というのがわかりやすい話でしょう。
 かつてRPGにおいてシナリオを自作するというのは当たり前の話でした。今でも、シナリオを自作するのは最高の喜びの一つだと言えます。
 自分で読むだけであれば、また気心の知れた仲間と内輪で楽しむだけであれば、どんなシナリオであろうとも問題ないとすらいえます。
 私自身、今でこそきっちりと三幕構成を意識したシナリオを、広い層の読者が想定される商業媒体では書きますが、とりわけ十代の頃は決まったプロットに落とし込むのが苦手で、ほとんど完全アドリブに近いセッションをしていたものでした。
 何が苦手だったかというと、自分の頭のなかにある、茫漠としながらもダイナミックなイメージが、形に落とし込むと消え去ってしまいかねないと危惧したんですよね。
 私の場合、自分がGMしたセッションをプレイヤーがリプレイに起こしてくれることがままあったのですが、「あの時のセッション、完全にアドリブだったんでしょ?」と見抜かれたのは一度や二度ではありません。正確に言えば、完全アドリブではなく、キーワード・レベルではメモを作ってあったんですが……。

●下から二番目に酷いセッション

 今回はそのなかでも、私がやらかしてしまった、下から二番目に酷いセッションをご紹介しましょう。
 『クトゥルフの呼び声』(『クトゥルフ神話TRPG』、以下CoC)。ホビージャパンから出ていたブックタイプの5版が、まだギリギリ手に入った1996年のこと。北海道の片田舎の書店で、清水の舞台から飛び降りる思いで版元に注文、入手できたのはいいものの、単体ではどうやってプレイしたらよいかわからず、途方に暮れたものでした。
 CoC第5版のルールブックには4本のシナリオが収録されていました。最初のシナリオは「屋根裏部屋の怪物」。老人が若かりし頃の過ちを告白するというシチュエーションや、学生がオカルト・サークルで怪しげな儀式を行うという状況設定にピンと来ず、実際にプレイしたのはいいものの、ほとんどキーパー(GM)のひとり語りのような内容になってしまいました。プレイヤーたちが1920年代アメリカの雰囲気を知らず、どう動いてよいものか想像できなかったようなのですね。
 当時、私は中学三年生。『ラヴクラフト全集2』(「クトゥルフの呼び声」が入っていた巻)は読んでいましたが、これをどうやってシナリオ化すべきか、想像もつかなかったというのが正直なところです。むろん、プレイヤーは誰もラヴクラフトもクトゥルフ神話も知りません。ルールブックに収録されているクリーチャーは、探索者(PC)に比してあまりにも強大で、迂闊に登場させられないように思われました。
 仕方がないので、第2回目のセッションは、小説「クトゥルフの呼び声」をそのまま再現することにしました。とはいっても、シナリオノートには、「南太平洋」、「ルルイエ」としか書かれていません。あとは完全アドリブ。乗っている船が遭難して気づいたら南太平洋に漂流して、そこでクトゥルフ御大に出逢うというだけの内容。今思えば、キーパーの私が1d100のSANチェック(正式表記はSANロール)をプレイヤーに振らせたい、というのがミエミエでした。
 このセッションは(ゲーム外で)思わぬ展開を見せます。1d100のSANの喪失を振った直後、中学校で立ち上げたTRPG同好会の面々で、図書館をジャックしてプレイしていたのが運の尽き。図書館に来た別の生徒に、「岡和田君が図書館で黒魔術をやってます!」と通報されてしまったのです……。

●無料のシナリオがいくらでもある時代

 私は受け持ちの大学でゲームデザインを教えており、実際に講義内でRPGのセッションを行い、その成果をソロアドベンチャーや多人数シナリオとしてブラッシュアップしていき、期末レポートとしての完成を目指す、ということをやってもらっています。優秀作は、「FT新聞」でもしばしば掲載いただいているのでご存知の方も多いでしょう。
 昨今のCoCブームも相まって、ネットではいくらでも、無料でCoCのシナリオが転がっています。必ずしも優れた作品ばかりが揃っているわけではありませんが、CoCが採用している基本的なベーシック・ロールプレイングのルール(技能値ベースのd100下方ロール)を呑み込んでしまえば、無料で遊び続けることもできてしまうわけです。
 現役の学生と接していると、つくづく思うのですが、こうした新しい層のゲーマーは、過去に想定されてきたような層とは異なる部分が少なからずあります。
 例えば、今期のゲームデザイン論(や幻想文学論)の受講生は、8割が女性で、全員がCoCのことを知っており、キーパー歴五年という人もいました。私が学生の頃には、考えられなかった状況です。けれども、そうした新しいタイプのゲーマーが、必ずしも他のシステムや、ケイオシアム社が作ってきたオフィシャルのCoCのシナリオを知っているかといえば、そうではない、という現実があります。
 優れた小説を書くためには先達の名作に数多く触れるのが大事なのと同じで、優れたRPGシナリオを書くためにはRPGシナリオをたくさん読み、運用していくのが近道です。そこでは、手近な無料のシナリオだけでは見えてこない世界を提示することが、飽きられないためにも必要不可欠になってきます。
 出版されている公式シナリオは、単にソフトを提供するだけではなく、一定の水準を超えた品質、何よりありうべき世界観の像を提示するという意味で、重要なのです。

●CoCと『ウォーハンマーRPG』のシナリオ構造

 CoCの話を長々と続けてしまったので、『ウォーハンマーRPG』の話に軸足を移しましょう。CoCのシナリオと『ウォーハンマーRPG』のシナリオには共通点が多く、とりわけ、シティ・アドベンチャーとホラーという特徴を活かせば、そのまま『ウォーハンマーRPG』にコンバート可能なCoCのシナリオすら珍しくありません。
 ただ、CoCにおいては、SAN値が減って、やがて0にまで下がると永久的な狂気に陥ってしまうのに比べ、『ウォーハンマーRPG』においては、堕落ポイントが溜まっていくと、混沌へ徐々に変異していき、人ならざる存在へと変化していきます。
 同じd100下方ロールが軸なのに、この違いは意外と重要で、つまりCoCにおいては、人間性への期待が基本にあり、それが失われていくことへの葛藤がドラマを構成しています。
 反面、『ウォーハンマーRPG』においては、始めから人間性は期待されておらず、堕落を積み重ね狂気を上乗せしていけば、人間を超えた上位の存在(ケイオス・チャンピオンなど)になることすら不可能ではなくなっているのです。
 シティ・アドベンチャーについても、CoC(特に、基本となる舞台である1920年代アメリカ)の場合には、奇怪な事件の背後には、必ずといってよいほど人智の及ばぬ宇宙的な邪悪が関与しており、放っておくと、その邪悪な存在によって、日常の平穏は壊滅させられてしまいます。つまり、出発点が日常にあり、それを非日常の侵食から食い止めることが主眼にあるわけです。
 対して『ウォーハンマーRPG』においては、奇怪な事件が起きても、冒険者は必ずしもそれを解決せずともかまいません。極端な話、真相解明よりも、危険に満ちた世界で生き延びること、そのものの方に重きを置かれることすら珍しくないのです(もちろん、解明できれば、それは経験点という形でフィードバックされますが)。言い換えれば、出発点からしてすでに非日常となってしまっていると申しましょうか。

●複数プロットのアドベンチャー

 このような特徴があるゆえに、『ウォーハンマーRPG』においては、他のRPGでは危険すぎて、なかなか試みられてこなかった、ある特殊なスタイルのシナリオが商業出版されています。
 それは、複数プロットのシナリオです。小説や演劇、あるいは映画においては、視点人物を複数置いてそれらの思惑が複雑に絡み合う、そんなタイプの作品がしばしば発表されてきました。
 章ごとに語り手が変わり、個別の事件がそれぞれに扱われるが、物語が進むうちに、パズルのピースが嵌まるがごとく、それらがより大きな構造のなかに収斂されていく……そんな小説を、読んだことのある方も少なくないでしょう。
 最近ではRPGにおいても、それこそ『汝は人狼なりや?』のような正体隠匿型ゲームの要素を盛り込んだ作品が少なからず出ていますし(『パラノイア』シリーズ等)、マーダーミステリーでは、こうした発想が当たり前になってきています。
 ただ、『ウォーハンマーRPG』においては、プレイヤーたちには個別の動機や目的、あるいは秘密があっても、パーティを組んで協力して冒険をこなしていくのが基本のスタイルになっています。そうした基本から逸脱せず、複数プロットをシナリオへ落とし込むことはできるのでしょうか?
 −−できます。『ウォーハンマーRPG』のベテラン・ライター、グレアム・デイビス(デイヴィス)が、初版から存在する、ある有名シナリオ(アドベンチャー)において、複数プロットに挑戦しています。なんと、一つのシナリオにおいて七本のプロットが同時進行する、とんでもない話なのです。それらのプロットが、限られた時間軸のなか、ほぼ同一の舞台に詰め込まれるので、引き起こされる事件はドタバタの極み、プレイヤーの介入の仕方も実に様々、展開はさらに千変万化していきます。
 ネタバレを防ぐためにタイトルは伏せますが、このシナリオは初版の時点から存在し、二冊のシナリオ集に収められ、改訂のうえ第二版のシナリオ集にも収められました。第三版においても、一部設定を踏襲した別のシナリオが書かれるほどの人気で、第四版においても、ブラッシュアップのうえでシナリオ集に収録。個別の単発シナリオとしても、キャンペーン・シナリオとしてもプレイできるように工夫されています。
 あまりにもユニークなので、私自身、『混沌の渦』(佐脇洋平・清松みゆき訳、現代教養文庫、邦訳一九八八年)にコンバートして、このシナリオをGMしたこともあるくらいです。
 さらに、グレアム・デイビスは、複数プロットのシナリオについて世界最大規模のRPGコンベンションGENCONで講演を行い、聴衆の反応をもとに『ウォーハンマーRPG』第4版用の単発のシナリオに仕上げています。
 こちらもまた、七本のプロットが同時進行する作品です。初版からの有名シナリオが一晩の事件を扱うのに比べ、新しく書かれたこちらは、昼から夕方にかけての事件を扱っています。

●A4用紙1枚でシナリオはOK!?

 もっとも、隅々まで作り込んだシナリオの方がいつも優れているわけではなく、往々にしてプレイヤーの自由度を束縛し、アドリブのきかない小さくまとまったセッションをもたらしてしまうこともままあります。
 原作:山本弘・作画:こいでたく『RPGなんてこわくない!』(ホビージャパン、1992年)では、大艦巨砲主義の「究極のRPG」に比べ、A4用紙1枚程度のメモでGMをするやり方が紹介されていました。ただ、事前に準備するシナリオ記述を軽くするということは、それだけGMの側が、世界観を読み込んでおく必要を意味します。単に読み込むのではなく、実際の運用経験が、2桁回数から3桁回数はほしいところです。
 私の場合も、自分が仕事で関わってきたタイトル−−T&T、『エクリプス・フェイズ』、『ウォーハンマーRPG』等は、それなりに世界観に通暁しているため、A4用紙1枚程度のメモでも、ほとんど問題なくGMすることが可能ですが、そうなるまでには、少なからず試行錯誤が必要でした。

●オンライン・セッション支援ツール

 オンライン・セッションでは画像素材を用意するのがオフよりも大事な場合が少なくありません。その反面、システム特有のダイスロールの仕方などは、ダイスボットに落とし込まれ、オフラインよりも素早く処理ができる場合もあるので、オンライン・オフライン、それぞれの特性に見合う形で省力化のコツを把握するのが大事になってきています。
 オンライン・セッションのツールは、ユドナリウムやココフォリアといったものが有名で、ユドナリウムは立体でのグリッド戦闘が行いやすいのが売りですが、ココフォリアには『ウォーハンマーRPG』第4版用のダイスボットが搭載されています。
 それらを覚えるのが面倒ならば、Zoomを使って、ダイスも手振り、画像素材もほとんど使わない形でセッションを進めてもかまわないでしょう。掲示板スタイルのテキスト・セッションも面白いです。プレイ期間が長期に及びがちな反面、プレイヤーは1日数分から参加できるという意味でハードルは低いです。
 新しいオンライン・セッション・ツールとしては、買い切りで高機能なFoundry VTTが注目されており、こちらは有志が「オンセ工房」として日本語化しています(https://foundryvtt.wiki/ja/home)。関連するMODを追加していくことで、機能を拡張していくのがウリということで、CoCはむろんのこと、英語では『ウォーハンマーRPG』第4版の公式MODが販売されています。

2022年01月13日

『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ「トロールストーン〜または伸ばしたブランデストック〜」

 本日2022年1月13日配信の「FT新聞」No.3277に、『トンネルズ&トロールズ』の小説リプレイ「トロールストーン〜または伸ばしたブランデストック〜」が掲載されています。主にT&T第5版時代の断片的な情報から、オリジナルのラルフ大陸の設定を作り、シナリオ化した作品です。

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『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ
トロールストーン〜または伸ばしたブランデストック〜

 岡和田晃
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●はじめに

 本シナリオは、『トンネルズ&トロールズ』(T&T)のリプレイ小説です。5版のルールブック(社会思想社、1987年)に収録されている「トロールストーンの洞窟」を中核に組み入れつつ、ルールブックの随所で仄めかされているラルフ大陸(ドラゴン大陸、ルールフとも)各地の情報やNPCの設定を自分なりに咀嚼し、各種T&Tソロアドベンチャーはむろんのこと、クラシックD&D、『ファイティング・ファンタジー』、ワーグナーの歌劇などの要素を取り入れ、オリジナルの「ラルフ大陸」を描き、歴史も自分で作り直してみたのでした。
 実際にプレイしたのは2002年5月12日。当時、私は大学3年生。「ウォーロック」Vol.26(1989年2月)掲載のラルフ大陸(ドラゴン大陸)の地図は見たことがあり、そのほかは『ハイパーT&Tワールドガイド ドラゴン大陸』(角川スニーカーG文庫、1995年)も愛読していましたが、それらをそのまま流用したわけではありません。
 T&T完全版が発売されてから、ドラゴン大陸の歴史的背景が、従来とは比較にならないほど、はっきりとわかるようになりました。そうしたものを知ってから見直すと、まるでパラレルワールドのような読み味になっており、これはこれで面白いかもしれません。後に私が発表する「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」シリーズ(『傭兵剣士』所収、グループSNE/書苑新社、2019年)の原型のように見えるところもあります。
 掲載にあたっては、最低限の誤字脱字を修正しました。用語はT&T第5版に合わせつつ、カッコでT&T完全版対応も行いました。

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●ラルフ大陸を覆う影

 偉大なる大魔術師や賢者ですら、この大陸の歴史を正確に知る者はいない。知識という名の麗しき女神は、その体を覆うヴェールを剥がれることを極度に忌み嫌っているからだ。歴史と時間は唸るように変転と流転を繰り返し、「事実」を憶測と伝説に塗り替えている。もつれた糸は、修復不能なまでに複雑に絡み合って、何が虚飾で何が真実なのは誰にもわからなくなってしまっている。
 しかしながら、「恐怖」という名の原初の体験だけは、鋭利なアフリカ投げナイフ(刃)が突き刺さってしまったくらいに深く、人びとの心に刻み込まれている。
 そう、この辺りを見舞った二つの大戦の惨禍は、いまだ悪夢となって彼らの心の奥底に根付き、その平穏を脅かし続けているのだ……。

●大魔術師戦争

 ラルフ大陸南部に、四人の強大な力をもった魔法使いが住んでいた。大陸南西部を手中におさめた「カザン帝国」の支配者である「偉大なる」カザン、時間と空間の理を知り尽くした「時の大帝」ダークスモーク、邪悪な死人占い師として名高い「黒の」モンゴー、それに、謎に包まれた魔術師「尽きることなき欲望の」グリッスルグリムであった。彼らはお互いに干渉し合わないという無言の協定を守ることで、どうにか力の均衡を保ってきた。だが、張り詰めた緊張の糸は、いつかは裂けてしまうものだ。

 口火を切ったのはモンゴーであった。彼は、自分が研究していた死人の軍団を操るためのアーティファクト「シャムタンティの指輪」の製造法が、ダークスモークに盗まれたのではないかという疑念に憑かれたのである。一方、時を同じくしてダークスモークの方も、自らの時を操るためのアーティファクト「ウェルサンティの無敵の砂時計」が、モンゴーに狙われているではないかという懸念を抱いた。
かくして、二人の魔法使いはそれまで研究に向けていた情熱を、自らの敵を打ち倒すために傾けるようになったのである。
 モンゴーは、外宇宙から大いなる悪魔「スグセルバ」を召還し、ダークスモークの住む城を襲わせた。一方、ダークスモークの方は、ドラゴンボーン山脈に巣食うドラゴンやバルログたちを従え、それを迎撃した。これが、大魔術師戦争の始まりである。
 偉大な大魔術師に疑惑の念を抱かせた張本人は、現在では皮肉と虚飾を司る神、フル・フールであったと言われている。しかし、未曾有の混乱の中でだれが真実を知りえようか。
 モンゴーとダークスモークの勢力は見事に拮抗していた。いつ果てることもない争いに、国土はひたすらに荒廃の一歩をたどっていった。だが幸いにして両者の力は拮抗していたために、来るべき破滅は先延ばしにされていた。その調和の天秤を大きく揺らした張本人が、「偉大なる」カザンである。
 カザンは、自分が「時」の秘密を知ることを切望していた。永劫なる時の前には、たとえ偉大なる魔術師といえども全くの無力である。自らの帝国に「時」の力が加われば、もはや恐いものはない。カザンはモンゴーに味方し、その見返りとして「ウェルサンティの無敵の砂時計」を手に入れようと考えた。そして、契約が結ばれた。
 カザンのトロール軍団が加わると、戦況は一変した。スグセルバは滅ぼされ、ダークスモーク自身は次元の外へかき消えた。こうして、大魔術師戦争は終わりを告げたのである。
 だが、勝ちを得たモンゴーも傷ついていた。彼は自らが神々の手によって、もしくは自らが製造したアーティファクトによって踊らされていた空虚な存在に過ぎないことを悟った。ダークスモークの城(現在は、「レミシン」という廃墟になっている)の最深部に隠されていた「ウェルサンティの無敵の砂時計」をカザンに渡して約束を果たすと、彼は自らの塔に結界を張りそこに蟄居してしまった。
 四人の大魔術師のうち、最後の一人であるグリッスルグリムは醜い争いには加わらず、終始中立を保ち続けていた。というのも、彼は争いに加わらないと約束することで、他の三人より莫大な量の黄金を受け取っていたからである。黄金の輝きこそが彼の求めるものであり、魔術師同士の勢力争いに加わり、平穏が乱されることなどは彼の望みではなかったのである。

●カザン・レンジャー戦争

 カザンは狂喜した。「時」の秘密を握ったからには、自らが「時」を支配し、「時」を超越することができる存在になったと確信したのである。しかし、カザンの野望はあえなく潰えた。愛妾レロトラーの叛乱によってである。
 エルフとオーク(ウルク)の混血である「ユーワーキー」(外見はエルフよりも美しく、内面はオークよりも醜い堕天使のような種族)のレロトラーは、カザンが得た時の秘密を知りたいと切望していた。そのため、カザンの配下にあった将軍カーラ・カーンを抱き込み、クーデターを起こしたのだ。
 愛妾に気を許し、「無限の砂時計」を発動させる魔法の言葉を教えてしまった愚帝カザンは、ろくな抵抗もできずに帰らぬ人となった。かくして、カザンの「帝国」は、その後レロトラーとカーラ・カーンのものとなった。レロトラーは女帝として即位し、カーラ・カーンを片腕に据えて、「今後は恐怖こそが、この地を覆う因果律となるであろう」と宣言した。
 レロトラーの恐怖政治はあまりにも過酷に過ぎるものだった。カザンが帝国の君主であった時代は自治を許されていた都市国家、「コースト」・「デルヘイヴン」・「カーマッド」・「ノーア」の諸侯たちは彼女の暴虐非道に耐えかね、連合して帝国に宣戦を布告した。これが、「カザン・レンジャー戦争」の起こりである。連合軍がゲリラ戦を多用したことにより、「レンジャー」の名が冠せられたのであった。
 けれども、レロトラーの部隊は強力に過ぎた。善戦を尽くしたものの、コースト連合は長い戦乱の間に疲弊し、帝国に休戦を申し出たのだった。連合軍の予想を超えた抵抗ぶりにさんざん煮え湯を飲まされていたレロトラーは、やや厳しめの条件を提示したものの、結局その提案を受領することにした。

●絶え間なく続く裏切り

 後に「死の女神」と畏敬をこめた二つ名で呼ばれるほど冷酷かつ残忍な女レロトラーが、なぜそう簡単に和睦を受け入れたのか? それには理由があった。彼女の二人の妹、ロレーヌとシルヴィアが、隙をついて彼女を裏切り、国を乗っ取ろうとしたからである。レロトラーが用いている軍事力の中核をなしていたのは、強力なトロール軍団だった。トロール軍団は、小トロール、グレート・トロール、岩トロールの三種からなり、その無類の攻撃力は、たちまち連合軍を絶望の底に叩き込んだ。
 レロトラーが粗暴なトロールたちを軍隊として統率できたのは、彼女が持つアーティファクト「トロールストーン」の魔力によるものが大きかった。彼女はトロールストーンを13の破片に分割し、それぞれ腹心の13人の部下に分け与えたのである。かくして、凶悪さ、残忍さにおいて無類の力を誇る、「カザン帝国のトロール軍団」が形成された。
 ロレーヌとシルヴィアは、カザン帝国の主力である「トロール軍団」を乗っ取れば、レロトラーに太刀打ちできると考えた。そのため、二人は八方手を尽くして、「レロトラーの13人の部下」に接近することにした。二人は密かに「黒の」モンゴーと接触を持った。近年のカザン帝国の暴虐ぶりに鼻持ちならないものを感じていたモンゴーは、さんざん迷った末に、ロレーヌとシルヴィアに力を貸すことにした。彼が与えたアーティファクト「モレーノの象牙羽根飾り」の魔力によって、「13人の腹心の部下」たちの魔法は解かれた。こうして、「カザン・レンジャー戦争」のさなかにも、着々と叛乱の準備は整えられていったのである。
 しかし、叛乱は未然に鎮圧された。内通者が出たためである。レロトラーはこの事実を知るやいなや、ただちに連合軍と講和を結んだ。そして、「ウェルサンティの無敵の砂時計」の力を解放し、「腹心の部下」とロレーヌ・シルヴィアの陰謀を撃退した。13人の部下が持っていた「トロールストーン」の力は「砂時計」の力によってあえなく逆流した。「象牙羽根飾り」も「砂時計」には効果がなかった。
その結果、「トロールストーン」の魔力が体内に蓄積されてしまったために、「腹心の部下」はそれぞれその身をトロールへと変えられ、カザンとコーストの間の丘陵地帯の洞窟に、「トロールストーン」と共に封印されてしまった。そして、洞窟の入り口には「強くもなければ、弱くもない者」たちによってのみ、「力か金貨の二通りの方法」で開けることの出来る魔法の扉が置かれたのだった。
 レロトラーは身内にも容赦なかった。ロレーヌは、「砂時計」による拷問を受け、永遠に死ぬことのかなわない幽鬼として洞窟の一つに封印されたのである。
 一方、シルヴィアはかろうじて難を逃れた。彼女は姉への復讐を胸に、カザンを後にした。彼女らの計画をレロトラーに知らせたのがモンゴー本人であったことは、知る術もなかった。

●蛇と蛇

 シルヴィアはレロトラーへの復讐を遂げるために、常に中立を保ち続けている「尽きることなき欲望の」グリッスルグリムに接触することにした。グリッスルグリムは、シルヴィアに会ってたいそう喜んだ。それは、彼女が覚えていた《黄金蛇作り》の魔法のためだった。この魔法によってのみ呼び出される「黄金蛇」は、噛み付いた者を何でも黄金に変えてしまうという不思議な魔力を持つ。「黄金蛇」の力に魅せられたグリッスルグリムは、シルヴィアの要望に従い、「無敵の砂時計」を破ることのできる武器「黒檀のブランデストック」を鋳造した。しかし、長年の安楽な生活のせいで警戒心が薄れていたグリッスルグリムは、シルヴィアが「ブランデストック」を手に入れるやいなや用済みとなり、あえなく殺されてしまった。シルヴィアの操る無数の「蛇」の力によって、彼自身がその塔を彩る黄金の一つに変えられてしまったのだ。カザンといい、グリッスルグリムといい、たとえ大魔術師といえども、不意を突かれれば実に無力である。
 「ブランデストック」とは、長い柄を持った武器で、片方の先端に小さい斧、もう片方に短いスパイクがついている。また、柄の中に長い剣が隠されていて、簡単に伸ばすことができる。グリッスルグリムは、この伸ばした状態のブランデストックに、「時」の呪縛を破ることの出来る魔法をかけたのであった。
 しかし、シルヴィアは実に用心深かった。たとえ武器を手に入れても、彼女は満足しなかった。直接干戈を交えるのはまだ早い。とりあえず、彼女はコーストの支配者であるヘルベルト・フォン・ブラバントに接近した。愛妾の一人になりすまし、ヘルベルトを操って、対カザン帝国への戦力を蓄えようとしたのであった。しかし、相次ぐ戦争で国土は疲弊しきっている。やはり、人間だけの軍隊では心もとない。彼女は側近の魔術師ダイヤモンドを使って、「13人の腹心の部下」が封じられている洞窟の封印を解かせ、トロールストーンの欠片を回収していくことにした。
 一方、モンゴーはモンゴーで新たな策を練っていた。彼は仲間の魔術師「マリオナルシス」をそそのかし、カザンの真東に、巨大な「オーバーキル城」を建てさせた。一方、自身は着々と力を蓄えた。転んでもただでは起きないシルヴィアの性格を知っていたモンゴーは、姉妹が同士討ちしている間に、漁夫の利を狙おうとしていたのである。マリオナルシスを利用することで、レロトラーの注意を引き付けようと企んだのだ。
 だが、そんなモンゴーの動きに気づかないほどレロトラーも愚かではなかった。彼女は破壊と死を崇める「赤いローブの僧侶団(通称、『赤い蛇』)」と協定を結び、モンゴーの塔の西に彼らの寺院を建てさせた。レロトラーは邪教として忌み嫌われている彼らの教義を認めるかわりに、モンゴーの動向を観察させることにしたのだった。

●迷宮探検家たち

 だが、巧妙に張り巡らされた魔法使いたちの陰謀にも、一つの穴があった。彼らは、迷宮探検家の存在を考慮に入れていなかったのである。ダイヤモンドが解放したトロールたちの洞窟は、いつのまにか迷宮探検家たちの知るところとなったのである。
 迷宮探検家。冒険によって生業を得るごろつきどもの総称である。彼らはあるときはその名の通り迷宮にもぐり、またあるときは隊商を護衛したり傭兵として戦争に参加したりもする。
 彼らにとって、「トロールの住む」洞窟についての噂は、まさしく格好のものだった。彼らはトロールの洞窟に潜っては出、潜っては出して、中の宝を掻きだしてゆくのである。ついには「トロールストーン」そのものを手に入れる者まで現れる始末。さらには、手に入れただけでなく「トロールストーン」を暴走させる者まで出てきてしまった。
 こうなると、さすがに手には負えなくなってくる。けれども、この事実をシルヴィアに知らせてしまっては、自らの不手際が責められてしまう。それでなくても陰謀を張り巡らすのに忙しいシルヴィアを煩わせるわけにはいかない。
 開き直ったダイヤモンドは、「とりあえず迷宮探検家たちの自由にさせておいて、トロールストーンを取り出させよう、そしてその後、彼らを抱きこんでコースト軍に編成させよう」という無謀な計画を考えるに至ったのだった。
 ダイヤモンド自身は強力すぎて、洞窟そのものは解放できても中の扉は開けられない。その問題も、彼らに任せればすべてが解決するのである。

●コーストにやってきたのは

 今まさに、コーストの街にやってきた一行がいた。田舎での冒険に飽き飽きして、そろそろ都会で一旗揚げようと考えてのことである。幸い、彼らには田舎で厩肥を掘り返していただけではなく、カザン・レンジャー戦争の古兵たちから武器の使い方を習ったり、それを活用したりする時間が十分にあった。そのため、彼らの身なりは卑しくとも、ヴェテランの迷宮探検家に劣らないだけの技量と経験は備えられていたのである。
 「必要以上に口を利かない」のがモットーの盗賊にして「名もなき森」のエルフの、フィル。常にトレーニングを欠かさず、坑道掘りに卓越した技術を示す「青の丘陵」出身のドワーフの戦士、ハーラキ。そして、暗殺を生業とし、常にチャクラムとスパイダー・ベノムを欠かさない魔術師であり、なおかつ「まどわしの森」出身のエルフであるマルケス。そして、小村出身の精悍な人間の戦士、ベック。
 これまでと同じように、彼らは行く先々で騒動の種となっていた。このコーストでも、公爵お付きの大商人ドリンをはめて零落させたり、盗賊町と呼ばれる通りで追い剥ぎを返り討ちにしたりとやりたい放題。そして彼らが行き着く先は、やはり例の、トロールの宝窟の探索であった。


●トロールストーンの洞窟へ

 下町の酒場で、洞窟に入ったことのある探検家、「西部の男」ハイグレイから辛抱強く情報を聞き出した迷宮探検家たちは、宝窟の奥に眠る謎の石を長く持っていると自らがトロールと化してしまうということを知る。そのうえ、洞窟はあらかた探索されてしまっているようだ。魔術師の塔の迷宮探索とか、カザンへの隊商の護衛とか、今まで聞きかじったさまざまな誘惑に心が動くが、伝え聞く宝の大きさに、彼らは宝窟行きを決心する。
 盗賊町でいまだ探索されていない宝窟の在りかを教えてもらい、一行は馬を駆って一路洞窟へと向かう。
「ストラック・グリー・グリム・ドゥリム・ウルー・ウルクスマグク・ニクス・ウトアー」
 切り立った崖にぽっかりと口を開けている洞窟の入り口をふさいである扉には、ジャイアント語でこう記されていた。フィルとマルケスが訳してみると、その大意は、「この扉は、力か金貨に従う。ほかはだめだ!」だった。
 力か金貨? そうだ、よく見てみれば、扉には目があり、口があり、手が生えている。もしや、「力に従う」とはこの腕とアームレスリングをしろ、ということか? 喜びいさんだハーラキが勝負する。結果は明白だった。ハーラキの圧倒的な膂力(体力度でのセービングロール7レベル成功)によって、扉はあっという間にねじふせられてしまった。余裕綽々で奥へと進む一行。すると突然、洞窟の奥から巨大な岩が転がってきた! 軽い傷を負いながらも、なんとかかんとか岩をかわしたパーティは、さらに奥に進むことにする。
 来た道のほかに、フォークのような三叉路が広がっている。奥に進んだ一探検家たちは、すぐさま袋小路に突き当たった。見上げると、天井には穴があいて、羽目板らしきものがおいてある。どうやらさきほどの大岩はここから落ちてきたもののようだ。
 引き返そうとした一行だったが、その時、天井の穴から何かが襲い掛かってきた! 巨大な吸血コウモリである! しかも四匹もいる!
 だが、さすがは手だれ、瞬く間にコウモリどもを退治した。彼らは再び三叉路に戻り、西の方へと進んでみる。そこは巨大なクレバス(割れ目)が広がっていた。危険なものを感じた一行はとりあえず戻って、今度は西に進んでみる。するとその先は大きな広間で、中にはどんよりと濁った水溜りがあった。またもや危険なものを感じた一行は、ハーラキがピックアックス(つるはし)で壁を崩して足場をつくり、その上を通ることで水溜りに触れるのを避けた。さらに奥へ進むと、その先は幾重にも折れ曲がった挙句にY字路になっていた。何の気なしに左に進むとまたもやY字路。その先を左に進むと、そこは広間で、多くの骨が散乱していた。ベックはその骨を大魔術師戦争時代のものだと見当づけたものの、危険なのでそれに触れるのは極力避けた。
 一行は二番目のY字路に戻って、そこを右に行ってみる。すると、そこには巨大なスフィンクスがいた。彼女の謎かけを難なく解き、さらに奥へ進むと今度は謎のプレートが。白い石か黒い石をはめればいいらしい。彼らは考えるが答えが出ない。とりあえず黒石をはめるがこれが大間違い。洞窟の天井が崩れ始める。しょうがないので彼らはその場を後にした。落石でちょっと怪我してしまったけれども。
 今度は一つ目のY字路を右に行ってみることにした。奥へ進むと、なにやら不気味な、コブラが喉を鳴らすような音が聞こえてきた。恐れをなした一行は、戻って反対の道を進んだ。するとどうだろう、そこには噂のトロールがいるではないか! そして、その周りには莫大な黄金の数々が!
 トロールが気づかないうちに、すかさず《これでもくらえ!》の魔法をかけよう、との意見もあったが、とりあえず、例の「トロールストーンによってトロールに変身」事件が気になっていた一行は、マルケスが偶然覚えていた魔法語(テレパシー。どんな生き物とも会話ができる)を使って、トロールに話しかけてみることにした。
 トロールは悲しげな顔をして事情を語った。すなわち、このリプレイ小説の「絶え間なく続く裏切り」の節に記されているようなことを話したのである。このトロールこそ、レロトラーの「13人の腹心の部下」の一人なのだ。そしてそのそばには、ロレーヌの霊も漂っているという。
 トロールは語る。「このくびきから解き放ってくれれば、この広間にある宝をすべて差し上げよう、むろんこの『トロールストーン』も」と。しかし、その呪いを解き放つためには高レベルの魔法使いによる《厄払い》をかけねばならないようだ。
 とりあえず彼らはコーストに戻り、噂に聞いた大魔術師「ダイヤモンド」のもとへ行き、事情を説明して魔法をかけてもらうことに決めた。
 話を聞いて、ダイヤモンドは驚いた。一行が発見した『トロールストーン』は、13ある石のうちでもっとも強力なものだったのだ。慌てふためいて彼は一行と共に洞窟へと向かった。

●巡らされた糸を揺らすのは誰か?

 しかしどうだろう、そこには案の定、赤いローブの僧侶たちが待ち伏せていた。そういえば、彼らもこの宝窟の魔力に惹き付けられていると聴いたことがあった。パーティがトンネルを後にしているすきに、トロールストーンを奪おうとしていたのである。
 探検家たちは慌てて僧侶たちを食い止めようとする。するとその時、僧侶たちの指揮官らしき姿が見えた。それはなんと、レロトラーの片腕である「カーラ・カーン」の姿だった。ダイヤモンドがカーラ・カーンを食い止めている間に、一行は赤いローブの僧侶たちに挑みかかる。
 怪しげな光が僧侶の杖に集まってくる。「死」のルーンが輝きを増してくる。
「危ない、《変身強制》の呪文が飛んでくるぞ! カエルになっちまう!」マルケスが叫ぶ。
 だが、時すでに遅し。マルケス自身は、すでに自分が唱える魔法の準備に追われて、阻止するだけのゆとりはない。その時だった。
 それまで黙っていたフィルがいきなり腰のマン=ゴーシュを抜き放ち、僧侶の杖を折りにかかったのだ! 不意を突かれた僧侶は対処しきれず、魔法は失敗してしまった。その隙を突いて、ハーラキとベックがバーサーク化し、僧侶たちに踊りかかる。さらに、ハーラキの持つピロムには、マルケスの《魔剣》(《凶刃》)の魔法がかけられ、通常の3倍の破壊力を有するに至った!
 狂乱化した戦士2人の猛攻をまともに受け、赤ローブの僧侶たちは10人全員が40メートルほども吹っ飛んで(40ダメージのオーバーキル)、あわれ息絶えた。
 しかし飛ばされながらも、僧侶の杖の1つから魔法が放たれた! 《まぬけ》の呪文で、標的はマルケス。結果、マルケスは知性度が3(獣並み)にまで下がってしまった。
 僧侶たちがやられたのを見て、さすがのカーラ・カーンも劣勢を悟った。捨て台詞も残さずに去っていく。とりあえず、彼らは勝利を収めたのだ。
 ダイヤモンドがことのあらましを告げる。今や、探検家たちはすべてを知ってしまった。そのうえで、彼は一行に選択を迫る。来るカザン軍とコースト軍との全面戦争において、コースト軍の一員として働く気はないか、と。シルヴィアが指し示すブランデストックに従えば、必ずや勝利と栄光が保証される。彼は、そう、一行に告げた。
 しばらく考えた末、探検家たちは答えを出した。ハーラキとマルケスは、日々の糧を選び、コースト軍に入隊することを承諾する。一方、フィルとベックは、今までの気楽な暮らしを捨てきれず、そのまま冒険家業を続けることを決意したのだった。
 こうして彼らは袂を分かち、自らの道を進むこととなった。けれども、どの道を行こうとも、今後、彼らの陰謀に巻き込まれていかずに生きていくことはかなわない。しかし、彼らには「トロールストーン」が示すような大きな力が残っている。巡らされた糸をゆすぶり、陰謀家をそこから追い落とすのは、探検家のみに許された特権なのだ。

posted by AGS at 10:21| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月31日

『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ「ベア・カルト幽閉記〜レベル1、浅層〜」

12月30日配信の「FT新聞」No.3263で、『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ「ベア・カルト幽閉記〜レベル1、浅層〜」が配信されました。多人数用シナリオ「ベア・カルトの地下墓地 レベル1」(拙訳、『ベア・ダンジョン』所収)のロング・リプレイとなります。


『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ「ベア・カルト幽閉記〜レベル1、浅層〜」 FT新聞 No.3263
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『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ
「ベア・カルト幽閉記〜レベル1、浅層〜」

 岡和田晃
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●はじめに

 本作は『トンネルズ&トロールズ』(T&T)の多人数用シナリオ「ベア・カルトの地下墓地 レベル1」のリプレイ小説です。同シナリオの核心に触れておりますので、未読の方・プレイ予定の方はご注意ください。うっかり読んでしまった方は、ぜひGMにチャレンジしてみてください。
 T&Tのルールについては、T&Tアドベンチャー・シリーズやT&T完全版の基本ルールブックをご参照いただけましたら幸いです。
 同作は原書が1981年に出版、日本語版は2019年に発売されました(『ベア・ダンジョン+ベア・カルトの地下墓地+運命の審判』所収、書苑新社)。僭越ながら、翻訳は私が担当しております。同作を私はたびたびGMし、その模様は中山将平さんのリプレイ・コミック「はじめてのベア・カルト」(「TtTマガジン」Vol.5、2017年)でも読むことができるのですが、今回ご紹介するリプレイ小説は、私が初めて「ベア・カルトの地下墓地」をプレイした時の記録になります(2003年2月22日)。若書きのため文章が拙く恐縮ですが、ご笑覧いただければ幸いです。40年前のシナリオを、18年前に運用した計算になりますが、その思い入れ深いシナリオを翻訳できるとは感慨もひとしおでした。
 「ベア・カルトの地下墓地」の作者は、"熊の"J・ピーターズ。ブラック・ユーモアに満ちた悪名高きデス・ダンジョン「ベア・ダンジョン」のデザイナーで、「ベア・カルトの地下墓地」はそれに続く第2作(ただし、シナリオとしては独立しており、単体でプレイできます)。
 原書ではレベル1しか出版されませんでしたが、レベル2は杉本=ヨハネさんと私が日本語版オリジナルとしてデザインを手掛けています(前掲『ベア・ダンジョン+ベア・カルトの地下墓地+運命の審判』所収)。話し合いながら分担執筆を進めたものなので、誰がどのパートを担当したのか想像してもらっても楽しいと思いますが、共通するのはレベル1、そしてT&Tへのリスペクトがベースにあることです!
 リプレイ小説としての採録にあたって訳語を現行の「ベア・カルトの地下墓地」にあわせて修正を加え、ルールまわりの表記はT&T完全版対応としました。運用にあたって、シナリオの一部を独自にアレンジしていることをお断りします。
 地下墓地のどのあたりになるのか、地点名も加えましたので、本をお持ちの方はあわせて参照していただけると、いっそう楽しめるでしょう。

●登場キャラクター

ジルベール・カミングス:(戦士2レベル、男、人間、体力度20、知性度9、幸運度6、器用度13、耐久度14、魅力度18)貧民街で育ったジゴロ。暇さえあれば異性を口説いている。
スピピ:(戦士1レベル、男、フェアリー、体力度6、知性度12、幸運度18、器用度17、耐久度3、魅力度12)フェアリーのオヤジ。かつてはジャイアントを手下にしていた。
ティッカー・タクホーツ:(魔術師1レベル、男、エルフ、体力度17、知性度18、幸運度11、器用度10、耐久度18、魅力度16)通称チクタク。堅実な性格の魔術師だが、獲物はアフリカ投げ刃。
"熊殺しの"ウィリー:(戦士2レベル、男、ホブ、体力度10、知性度6、幸運度14、器用度28、耐久度14、魅力度8)口下手なホブ。熊殺しと自称するが、実はアナグマしか仕留めたことがない。
ユディット:(魔術師3レベル、女、エルフ、能力値不詳)エルフなのに魅力度が10しかないが、その反面、世知に長け計算高い。

"死の女神"レロトラー:カザン帝国の女帝。ウルク(オーク)とエルフの「混血」らしい。
ジェローム・ダズ:ゴブリンどものリーダー。
アレクサンドラ:美しい女エルフにして7レベル魔術師。だが、興奮すると……。
ラムファード:囚われの商人。
ガラドリエル:囚われのエルフの王女。アレクサンドラとは対立する氏族の出身らしい。
"大いなる熊(オソ・グランデ)"アリ:〈熊神の教団〉のNo.2。策略が趣味。
"熊の中の熊(オソ・メドヴェージェ)"ビヨルニ:〈熊神の教団〉のNo.1。法外な賞金がかけられている。
〈偉大なる熊神(ベア・ゴッド)〉:〈熊神の教団〉の生けるご本尊。まさしく怪獣。

●不意打ち!

 "死の女神"レロトラーが恐怖政治を敷いているカザン帝国。首都カザンと、商業都市コーストとを繋ぐ道、〈グレート・ロード〉。
 古来よりカザンとコーストの間に広がり、カザン街道とも言われるこの道は、長年、カザン帝国における交通の動脈として機能していた。
 我らが迷宮探検家一行は、商隊の護衛として、その通商路を旅していたのだった。
 突然、彼らは不意打ちを受けた。この辺りに最近出没すると言われている狂信的なカルト、〈熊神の教団〉の仕業だ! とっさのことに臨戦態勢もままならず、狂信者どもの手によって、交易品は持ち去られ、迷宮探検家たちは生け捕りにされてしまった。
 〈熊神の教団〉は、その正式名称を〈偉大なる熊神の教団(ザ・カルト・オブ・ザ・グレート・ベア)〉という。団員は皆、洞窟熊(ケイブ・ベア)の熱烈な信奉者なのだ。彼らは非常に攻撃的な性格をしており、コーストの北にある森に覆われた丘陵を掃討し、商隊(キャラバン)を根こそぎ壊滅させてしまったのである。救助の者が駆けつけたとき、眼にしたのは辺り一面に広がる血痕だけだったらしい。ちなみに、教団の首領は"熊の中の熊(オソ・メドヴェージェ)"ビヨルニという名の男である。
 "死の女神"レロトラーは、度重なる〈熊神の教団〉の所行に業を煮やし、ビヨルニをはじめ、団員たちに法外な賞金をかけた。
 規定の報奨に加え、ビヨルニの首を持ち帰った者には、有名な「カザンの闘技場」を丸一日貸し切って見物できるという、最高の栄誉が与えられる。さらに、彼はレロトラーその人と、共に過ごすことさえできるのだ! それだけではない。「死の女神」は、副賞として金貨5000枚と、〈竜の口(ドラゴンズ・マウス)〉海岸にある別荘を与えてくれる。加えて、そのキャラクターは三つの特別な贈り物の中から一つを受け取ることもできる。

・使用者に全能力値の合計に等しい値のモンスターレート(モンスターの強さを一つの値で表現したもの、通称MR)を持つ熊に変身できる特殊能力を付与する指輪。
・あらゆる呪文が記された呪文書。
・14点までのダメージを吸収し、着用者に蓄えられたダメージを(まるで戦闘によって与えられたかのように)無生物(ドアや、壁、彫像など)へと転化させる魔法がかけられたプレート・アーマー。

 かような並はずれた報酬からも、〈熊神の教団〉がいかに危険な存在であるかが知れるだろう。

●恐怖の谷

 捕虜となった迷宮探検家たちは、目隠しをされ、見知らぬ谷へと連行された。そして、戦士は武器を奪われ、魔術師は呪文を使えないよう猿轡をされた。彼らはそのまま檻の中に放り込まれ、〈熊神の教団〉の団員たちは手近にあった機械らしきものを操作した。すると、何たることだろう! 檻そのものが突然動きだし、滑車と巻き上げ機の作用で、崖の下へ下へと降りていくではないか。
 檻が谷底に到着すると、檻の蓋が音もなく開いた。ほっと嘆息する一行。だが、そこはまさしく「恐怖の谷」だった。目の前に、全長10メートルを超える金色の熊が立っていたのだ。
 そう、この熊こそ、〈熊神の教団〉のご本尊〈偉大なる熊神(ベア・ゴッド)だったのである! 
 ベア・ゴッドのモンスターレートは、なんと5000だ!!!(蛇足を承知でいえば、モンスターレート5000のモンスターの攻撃力は、サイコロ501個+2500)
 神の熊の威光にたじろいだ一行は、お約束のごとく逃げ回る。〈熊神〉がまずターゲットにしたのは、女魔術師ユディットだった。《炎の嵐》の呪文で攻撃し、相手を刺激させてしまったためである。ウィリーが泣きながら石をぶつけて気をそらそうとするも、焼け石に水である。必死で逃げまどうユディット。だが、徐々に追い詰められてくる。絶体絶命の危機に、意を決した彼女は思いっきり息を吸い、次の瞬間、谷底を流れる雪解け水の小川に飛び込んだ。そうとは知らないウィリーは、ユディットが死んだものと勘違いしてパーティに呼びかけ、とにかく身を隠せそうなところに入り込むことを提案した。

●洞窟へ

 パーティは熊から逃れ、南の崖にぽっかり空いた洞窟へと身を潜めたのであるが、案の定、その先の道は三本に分かれていた。向かって西側の道を進んだ一行は、奥にエレメンタル(モンスターレート125)がうごめいているのを見て【部屋C】、すぐさま引き返した。
 今度は東を行くが、その先にはなんと狼が待ちかまえている【部屋B】。意を決した一行は、無駄な戦いを避けるために、南へ直進することに決めたのだった。
 そこにもやはり敵が! どこもかしこも敵だらけということか【部屋D】。相手は、迷宮探検家たちの好敵手、ゴブリンである。そのうちの一匹は、手に鎖のようなものを持っている。そして、その鎖は地面から飛び出た鉄の輪に結びつけられているようだ。そう、ゴブリンどもは迷宮探検家たちを挑発しておびき寄せ、鎖を引っ張ることで、洞窟の床に仕掛けられた罠を発動させようとしていたのだ。だが、所詮は浅知恵。程度はたかが知れている。たくらみを見抜いたパーティによって飛び道具の総攻撃を喰らい、瞬く間にゴブリンたちは蹂躙されてしまったのだった。
 だが、ゴブリンたちのリーダー、ジェローム・ダズはひと味違った。仲間たちが次々と射倒されているのを見て、形勢不利を悟り逃げ出したのである。向かう先は、ねぐらと反対方向、洞窟の北側の通路である。しかし、彼はあと一歩のところで詰めを誤った。慌てて逃げ出したために、仕掛けられていた罠を見落としてしまったのである。そのため、彼は哀れにも天井から落ちてきた巨大な石の下敷きとなってしまった。
 辺りに響き渡った落石の轟音を聴いて、探検家たちはいぶかしんだ。そして、ゴブリンどもをぶち倒し、ねぐらから武器をいくつか(マドゥ、ショートソード、チャクラム、手裏剣、アフリカ投げ刃)頂戴してくると、ただちに音をした方向へ向かった。目の前を塞いだ巨大な岩に不審なものを感じた彼らは、賢明に行動し、あちこちに仕掛けられていた罠を次々と解除していったのだった。

●美しき女エルフ

 落石の洞窟を抜けて奥へと進んでいくと、彼らは洞窟の中に一人の美しき女エルフが佇んでいるのを発見した【部屋F】。非常に美しく、雪のように白い髪と、真夏の陽光のような若々しさとを兼ね備えている。その瞳は明るく輝き、話す言葉は聴く者をとても楽しい気分にさせる。
 殺風景なダンジョンの奥深くに、こんな女性がいることに探検家たちは驚くが、歴戦のジゴロであるジルベールはひるまず、彼女をなんとか口説こうと試み、彼女(名前はアレクサンドラ)もまた〈熊神〉の生け贄にされそうになったところを辛うじて逃げ出したことを聴き出す。しかし、このような危険な洞窟で単身生き延びているとは、ただものではあるまい。案の定、彼女の口から漏れた、「身を守るために洞窟のあちこちに落石の罠をしかけた」との言葉に打ちのめされたジルベールに、さらなる追い打ちがかけられた。なんと、彼女は「興奮すると熊に変わってしまう」という特異体質だというのである! しかも、熊に変わらずとも、生身の彼女は、なんと7レベルの魔術師らしい! さすがのジルベールもたじろぐが、結局は愛が勝った。パーティはアレクサンドラを仲間に加え、さらに洞窟の奥を調べていくことにしたのだった。

●その頃ユディットは……。

 一方で、〈熊神〉から逃れて川に飛び込んだユディットは激流に呑まれた末、気付くと、洞窟らしき場所の一室に放り出されていた。ひどく腰が痛む。どうやら、川を流れていく途中で、水の中から放り出されてしまったようだ。ユディットが辺りを見回すと、なんということだろう……ここは檻の中で、隣に洞窟熊(ケイブ・ベア)が眠っているではないか!【檻Q】 しかし、彼女は怯えることもなく、《開け》の呪文で檻の扉を開き、外に脱出することができた。
 檻を抜け出したユディットは、ゴブリンの衛兵をうまくやりすごし、あれこれ通路を歩いていった。そこは、〈熊神の教団〉の団員たちの宿舎だった【部屋T】。ユディットは、眠っている団員たちの目を盗んで、ベッドの下に隠れ、うまく英気を養うことができた。そして、目覚めた団員たちが出勤していくと、その隙をぬって戸棚から〈熊神の教団〉の制服を取り出して着替え、まんまとカルトの一員になりすましたのだった。
 変装を終えたユディットは、次に、先ほど自分を脅かした洞窟熊に復讐を遂げようと、檻のところまで戻っていき、外から《これでもくらえ!》を連発して洞窟熊を半死半生の身にしたあげく、「仲間になるなら命だけはとらん」と言いくるめ、《操り人形》の魔法をかけて、自らの手下に仕立て上げた。
 洞窟熊の檻の隣には、囚人たちが入れられている牢屋があった【部屋P】。教団によって捕らえられ、身代金をせしめるために、辛うじて生かされている哀れな囚人たちである。熊には厳しいユディットだが、さすがに同胞に対する同情の面はぬぐえず、再び《開け》の魔法で牢の鍵を開け、無事、囚人たちを解放したのだった。
 囚人のうち、男の名はラムファードといった。女の名はガラドリエル。2人はひどく痩せており、今にも死んでしまいそうなほど衰弱している。ユディットは2人を〈熊神の教団〉の兵舎へと連れていき、備え付けられていたキッチンに置いてあった食べ物を分け与えたのだった。

●死の矢、酸の池

 ユディットはラムファードとガラドリエルから何か情報を聞き出そうかと粘ったが、彼らも街道で捕まって洞窟に連れてこられたとしか憶えておらず、話にならない。だが、熊一匹連れて歩くのでは何かと心細いので、囚人たちを連れてパーティを結成し、出口を探すことにする。
 兵舎とは反対の方向へと向かう通路を歩いていく。途中の十字路を直進すると、巨大なホールに出た【部屋K】。ホールの南側には、巨大な扉が据え付けられていたが、開きそうにない。仕方がないので北側に向かうと、通路が繋がっていた【部屋L】。奥へ進むと階段があり、先には真っ赤な色の池が見える【部屋M】。あまりの怪しさにたじろいだユディットは、先に進むのをためらい、ホールに戻った。
 ……と、先ほどは気が付かなかったが、ホールからちょっとした小道が延びている! 意を決して、ユディットらはその道を行くことにした。
 しかし、その道は文字通り「死の通路」だった。進んでいくうちに、壁の銃眼から矢が発射された【罠d】。ユディットらはなんとか回避したものの、それをまともに受けた洞窟熊は、叫び声を上げる間もなく即死してしまった。

●壁が迫ってくる!

 ユディット以外の面々はアレクサンドラを仲間に加え、洞窟を急いだ。話しているうちに、アレクサンドラが熊に変身してしまう原因が、彼女が手にしている奇妙な宝石の力によるものだということもわかってきた。
 しばらく進むと、探検家たちの目の前には地下水脈が広がり、通行を阻んだ。一人ずつ、意を決して川を飛び越えて行くが、器用度の低いチクタクが、途中で落ちてしまった! 必死で手を伸ばして拾い上げようとするものの、間に合わない。ジルベールは川に飛び込み、チクタクの救助に向かった。その様子を見て、残りの面々も覚悟し、2人の後を追った。アレクサンドラは《翼》の魔法で難を逃れ、危険を冒さずに一行の後に続くことができたのだったが……。
 探検家たちは川を下る途中、激流から放り出された。そして気が付くと、とある牢のような場所にいたのだった。そう、つい先ほどまで、ユディットが熊を嬲りものにしていた場所である。濁流のなかで武器を無くした者も何人かいたが、パーティの面々はとりあえず皆、無事だった。とりあえず鍵が開いていた檻を抜けて歩いていくと、一行は無事、ユディットたちと合流することができたのだった。
 大所帯となったパーティは、とりあえず先ほどの広いホールの辺りを探ってみることにした。罠が仕掛けられていた通路は使わず、別な通りに入って先を進んでいく。すると、奇妙な階段があった。周りには同じく、不思議な祭壇のようなものが見える。警戒した探検家たちは手をつけず、辺りを入念に探ってみた。するとどうだろう、隠し扉が見つかったのだ! パーティは意を決し、その中に足を踏み入れた。
 中には、再び長い階段があった。恐る恐るのぼっていくと、部屋が見えた。全員が入り終わると、低い声が響き渡ると同時に、壁が迫ってきた【部屋O】。
「そなたらは我が墓を冒涜した。さあ、死ぬがよい!」
 迷宮探検家たちは慌てて逃げ出した。
 数名が危うくトマトピューレになりかけたものの、辛うじて全員が、死の罠から逃れることができた。もうこんな危険な場所はこりごりだと、パーティは後戻りすることに決めた。ホールの前の十字路まで戻り、南の通路を進んでいく。
 その細い道の先には、部屋があった。「いっち、にの、さん!」で蹴破ると、そこはなんと〈熊神の教団〉のナンバー2、アリ・オソ・グランデの私室だった【部屋S】。豪華な調度品が部屋を彩っている。
アリの護衛二人はグレートソードをかまえ、とっさに防衛体制を取った。それを見たパーティは、もはや戦う他はないと判断し、一気に躍りかかった。
 アリは突撃を防ごうと、背後の壁にかけてあった巨大な熊の毛皮を放り投げた。するとどうだろう、毛皮はみるみるうちに、ポーラー・ベア(MR400)へと変化したではないか!

 以下、戦闘の模様を解説するが、T&Tのシステムでは、「戦闘時の行動は、敵味方とも同時」だとして処理されることをご注意されたい。

・第1戦闘ターン目
【パーティ側の行動】
ジルベールがバーサーク。ウィリーもバーサーク。
ラムファードとガラドリエルは乱戦に参加。
スピピはチャクラムを護衛の片方に投げつける。命中。
チクタクはジルベールの武器に《凶眼》をかける。
ユディットは、《これでもくらえ!》の3倍掛けでポーラー・ベアを狙う。
アレクサンドラは《これでもくらえ!》を3倍掛けでアリにぶつける。105ダメージを受け、アリは死亡。
【〈熊神の教団〉側の行動】
護衛2人はワーベアで、熊に変身し、猛攻を仕掛けてくる。探検家側に押し勝つ。

・第2戦闘ターン目
(パーティ側の行動)
ジルベールとウィリーはバーサーク中。
ラムファードとガラドリエルが攻撃に参加。
スピピはチャクラムをワーベアの1人に投げつける。外れ。
チクタクは《いだてん》をジルベールにかける。
アレクサンドラは《凶眼》をウィリーにかける。
ユディットは再び《これでもくらえ!》を3倍でポーラー・ベアに唱え、魔力不足で気絶。
【〈熊神の教団〉側の行動】
教団側の畳み掛けるように熾烈な攻撃。
ジルベール、ウィリー、ガラドリエルはそれぞれ28、28、29ダメージを受ける。
結果、ジルベール、ガラドリエルが死亡。

・第3戦闘ターン目
状況の不利を悟ったアレクサンドラは、熊(MR189)に変身。
熊は、依然バーサーク状態のウィリーとともに苦闘。
ラムファードとチクタクがサポートで攻撃に入るが、ラムファードが死亡。

・第4戦闘ターン目
教団側が、パーティに少し(2、3点)ダメージを与える。
だが、スピピの手裏剣が当たり、ワーベアの1人が死亡する。

・第5戦闘ターン目
パーティの苦闘により、ワーベアのもう1人が死亡。
残るは傷ついたポーラー・ベアだけ。
悪意ダメージは油断できないが、ひとまずパーティの勝利が確定。

●勝利の余韻

 8人パーティのうち3人までもが死亡してしまうほど、激しい戦闘だった。しかし、悲劇はそこで終わらなかった。なんと、バーサーク状態で暴れているウィリーを慰撫しようとして逆に斬りかかられ、避けきれなかったチクタクは真っ二つにされてしまったのだ。
 しかし、悲しいことばかりではない。部屋を探ると、なんと、1レベルから11レベルまでのすべての呪文が記された巻物と、〈熊神の教団〉の所行ならびに、メンバーの素性が記された本とが見つかったのだ。巻物は非常に貴重なものだし、本のほうはカザンに持ち帰ってレロトラーに渡せば、最低でも金貨10000枚を越える価値を持つことだろう。
 迷宮探検家たちはその後、血にまみれた部屋をさらに入念に探索し、"大いなる熊(オソ・グランデ)"アリがこっそり作っていた抜け穴を発見し、無事地上に戻ることができたのだった。
 前途に見えるのは苦難だらけだ。けれども、彼らの旅はまだまだ続く。
 生きていかねばならないからだ。

●ちょっとした裏話

 実は、今回パーティが探索したのは、洞窟全体のおよそ3分の2ほどでしかない。未踏破の部分には、謎のメカニカル・ベアなど、色々と面白いイベントが用意されていた。
 また、アリは必ずしも倒すべき敵ではなく、「熊の教団」のトップであるビヨルニをやっかんで、彼を暗殺するようパーティに依頼してくることもあるのだが、今回は戦う流れとなった。
 正直、アリと戦うことになったときパーティは全滅するかもしれないと思ったが、そうはならなかっただけでも、探検家は敢闘したと言ってよいだろう。NPC、特にアレクサンドラの使い方がうまかったからと思われる。
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2021年12月19日

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『ゾルのモンスター迷宮』リプレイ


 2021年11月28日の「FT新聞」No.3231で、 細谷正光賞受賞・「ミステリマガジン」「ミステリが読みたい!」で高順位、破竹の勢いの羽生(齊藤)飛鳥さんによる拙訳『ゾルのモンスター迷宮』(「GMウォーロック」2号)リプレイが配信されています!


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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.12
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『ゾルのモンスター迷宮』をプレイした時期は、ちょうど短編を書いている時期と一緒でした。
短編を書く&資料収集と書き写しもする→頭がデッドヒート! だめだ……脳みそが焼き切れて力が出ない……→そうだ、『ゾルのモンスター迷宮』でリフレッシュだ!→面白かった! 精神エネルギー充電120%! よし、今なら書けるぞ!→最初に戻る
……と、繰り返すうちに、けっこうな人数のキャラが生まれては消えていきました。
『ヴァンパイアの地下道』で死なせたキャラクター7人に次ぐ死亡者数でした。
執筆中支えてくれた彼らの存在を語らず、生還者の翠蓮のみをリプレイの主役として語ることに、さすがに罪悪感にかられたのと、今回はカーラ・カーンという冒険を俯瞰する存在がいたことから、今回は群像劇っぽい仕上がりにしてみました。
それから、短い話なのに、『ゾルのモンスター迷宮』には自由すぎて面白い展開が用意されていたので、それをリプレイに書かないのはもったいないと思ったのも理由です。
なお、登場するモンスターで、外見で一番好みなのは虎人間で、個性で一番好みなのは沼トロールです^^

※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『カーラ・カーンの秘密の手記』
〜リプレイ『ゾルのモンスター迷宮』〜

著:齊藤飛鳥
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×月×日
我が偉大なる死の女神レロトラー様の親衛隊となる逸材を手に入れるべく、この〈虹色迷宮〉を建設してどれくらいの月日が流れたことか。
我が女神を守る屈強なる戦士、あるいは盗賊が欲しいので、彼ら向けに設定して造ったのだが、踏破した者の数は十指に満たず。
いつからこんなに貧弱な冒険者が増えたんだ。



×月〇日
今日は、久しぶりに見込みのあるドワーフの男戦士を見かけ、声をかける。
名は、〈鈍重なる〉ドーニゲット。
耐久度、体力度、ともに高いが、知性度、速度が低いため、この二つ名をつけられたとか。
しかし、「モンスターぶっ殺して宝をゲットできるとか楽な仕事じゃねえか」と、何の疑いもなく私の申し出を引き受けてくれる単純さ……ゲフンゲフン……素朴な人柄は、親衛隊にふさわしい。
彼の旅立ちを見送った後、私は水晶を使って〈虹色迷宮〉内部を映し出し、ドーニゲットの動向を見守った。
#の扉、^の扉、*の扉と、三連続でクリーチャーと出会わないルートを進むとは、かなりの強運の持ち主。
冒険に必要なのは、夢と勇気と、そしてかなりの幸運だ。
これがなければ、親衛隊に入ってから危険な任務をまっとうすることができない。
ドーニゲットの運の強さに感心していると、彼は!!の扉を開けた。
いよいよ、彼の戦士としての力量を図る好機が来た。
!!の扉の向こうにいるのは、宝石呑みという名のクリーチャー。
ドワーフの男戦士の実力を見せるがいい!
「おらの両刃の斧を食らいな!」
ドーニゲットの斧の攻撃はしかし、宝石呑みのダイヤモンドに似た肌の表皮を傷つけることすらできなかった。
両刃ブロード・アックスを使っておきながら、8点のダメージしか攻撃できない戦士を、私は初めて見た。
「チャオ、戦士野郎」
宝石呑みは、陽気に笑いながら、ドーニゲットへ攻撃する。
両手持ちの武器を装備していて、盾を持っていないため、ドーニゲットの防御はキルテッド・ファブリック(完全鎧)に頼るのみ。
そのため、攻撃力9d6+44の宝石呑みの軽い平手打ちで、即死だった。

〜本日の教訓〜
声をかける戦士の装備もよく気をつけて見ておこう。



△月◇日
ライト・レザーとターゲット・シールドを装備した人間の男戦士を見かけたので、声をかける。
名は、〈強欲なる〉イーライ。
「金と宝が手に入るなら、親でも殺すのオーライだぜ!」
金に目がくらんでいる奴は、制御がたやすい。我が親衛隊の特攻隊長として必ずや逸材となってくれるだろう。
私は、期待を込めてイーライの旅立ちを見送り、いつものように水晶に迷宮内を映し出し、彼の動向を監視した。
イーライは、@の扉をくぐり、さっそくクリーチャーとの戦闘に入った。
しかし、戦っている間中「金、金、金!」「宝、宝、宝!」と言い続ける余裕を見せ、完勝。
これは、頼もしい。
イーライは、オリーブグリーンの壁のある非常に長い通廊に進んだ。
ここは分厚い石壁が飛び出してきて押しつぶす罠が仕掛けてある。
この罠を乗り越えられてこそ、親衛隊にふさわしい逸材。
さあ、イーライ。おまえの真価を今こそ発揮するがいい!
私は興奮のあまり、水晶をつかむ手の震えが止まらなかった。
水晶の向こうの光景から目をそらすことなど、よほどのことがない限り、不可能だった。
「ペグッ!」
飛び出してきた石壁に押しつぶされたイーライから、奇声が漏れ聞こえる。
石壁が元の場所に戻った後、イーライは膝から崩れ落ちた。
それきり、動かなくなった。
「Oh……」
私は、水晶の向こうの惨状に、両目を手で覆って天を仰ぐしかなかった。

〜本日の教訓〜
装備がよくても、幸運度が低ければそれまで。



△月〇日
ここ数日、冒険者の質の低下を考えずにはいられない。
ドーニゲットとイーライ以降三人の男戦士に〈虹色迷宮〉を冒険してもらったのだが、全員踏破できなかった。
イーライと同じように石壁につぶされるも、かろうじて助かった男戦士は、その後蛇にかまれて死亡。クリーチャーとの戦いでのダメージもあったのだろうが、こんなしょぼいタイミングで死なれるとは思わなかった。
二人目の男戦士は、沼トロールのメインディッシュになった。
そして、どうやら食べた人間の知性を取りこんだらしい。
沼トロールはこの〈虹色迷宮〉から脱走。
今までこんなことはなかっただけに、意外な展開だった。
こいつを親衛隊に勧誘しておけばよかったと、悔やまれてならない。
三人目の男戦士は、死の蛙を倒したところまではよかったが、虎人間に一撃で倒された。
いつからこんなに冒険者は弱くなったのか。
いいや。それより、あの沼トロールを勧誘しておけばよかった(大事なことなのであえて二回記す)。
まさか、あんな逸材が自分の迷宮にいたとは、完全なる盲点だった。食べた戦士の名前をもらって〈自由なる〉フランクスと名乗るあの沼トロールを「生け捕り厳守」で、この辺り一帯に指名手配しておこう。

〜本日の教訓〜
過去を振り返っても何も得られない時は前を見よう。



☆月★日
今日は、珍しく親衛隊の勧誘ではなく、人助けをした。
魅力度48で、全裸の褐色肌銀髪のエルフの美女がいたら、男なら誰だって救いの手を差しのべるものだ。
かのエルフの美女は戦士で、長らく〈怪奇の国〉にて遭難していたが、先日ついに脱出に成功。対価として、これまでの装備を失ってしまった上、唯一の戦利品である宝石も魔術師マックスに半分支払い、250gpしか持っていないまま、この地へ飛ばされてきたそうだ。
不憫に思い、〈虹色迷宮〉の冒険は勧めず、着る物と彼女の知り合いのいる〈青蛙亭〉までの路銀を恵んでやった。
すると、アダルティなお姉さま的外見の美女とは思えないほど、手放しで私へ感謝してくれた。
最近、親衛隊の勧誘のため男戦士とばかり会話していたので、心が潤った。
よく考えたら、女神レロトラー様にお仕えする親衛隊が、男だけである必然性はなし。
いざという時には、レロトラー様の御寝所や浴室にも入ってお守りできる女戦士も必要ではないか。
そういうわけで、我が女神レロトラー様。これ、浮気ではありませんからね。
ちゃんと貴女をお守りする親衛隊に繋がる人助けですからね。

〜本日の教訓〜
女戦士も勧誘の対象に加えること。


☆月◇日
先日我が迷宮から脱走した沼トロールを発見。
この沼トロール、食べた人間の戦士の知性を自らに取りこみ、並みのトロールよりも賢くなっていたので、ぜひとも親衛隊に勧誘したかったのだ。
ところが、逃げられてしまった。
どうも、また〈虹色迷宮〉で働かされると勘違いしたらしい。
来る日も来る日も迷宮内の一室で戦士を待つだけの日々と、薄給に嫌気がさしたのだろう。
そりゃあそうだ。外の世界で冒険者をしている方が、ずっと楽しい。
心躍る冒険。たのもしい旅の仲間達。ロマンティックな出逢い。これを一度知ってしまったら、迷宮内勤務は灰色の日々にしか見えまい。
しかし、あの沼トロールは惜しいことをした。

〜本日の教訓〜
迷宮のホワイト経営を心がけるべし。


☆月〇日
夜、何者かに迷宮の扉をたたかれ、応対する。
夜の来訪者の正体は、先日助けたエルフの美女の手紙を持った、黒髪色白ツインテの幼女だった。
手紙によると、あのエルフの美女は、たどり着いた〈青蛙亭〉にて『怪奇の国のアリス』という本を読んだら、夢の中で大冒険。
〈怪奇の国〉での不運を挽回したかのように、現在は金レースのあるドレスのポケットに子猫のスノー・ドロップを入れ、右手にはヘル・ブレード、左手には治癒の錫杖を持ち、しかも大粒のソナン・イエの翡翠まで手に入れたという。
このような幸運に巡り合えたのは私が恩を施してくれたおかげだと、彼女は手紙に綴っていた。
ところで、手紙にはこんな追伸が書き添えられていた。
「カーン様がお造りになった迷宮を冒険する戦士として、わたしの友人であり、かつては旅の相棒だった〈屈強なる〉翠蓮をご紹介します」
翠蓮は、18歳には見えない幼女な外見に似合わず、これまで数々の冒険を成し遂げてきた歴戦の戦士だという。
かの呪われし魔の都・コッロールへ冒険して、幽霊に取り憑かれただけで生還できたとは、まさに逸材。
情けは人のためならずとは、まさにこのことだ!
しかし、今日はもう遅いので、次の日から迷宮の冒険を始めてもらうことにした。

〜本日の教訓〜
情けは人の為ならず。巡り巡って己がため。



☆月△日
夕べ我が〈虹色迷宮〉を挑戦しに来た女戦士の翠蓮に、〈虹色迷宮〉の説明をして送り出し、定番の水晶玉による監視をする。
さっそくクリーチャーの扉を選ぶとは、大丈夫か。
武器と言ったら、銀の懐中時計くらいしか持っていなかったぞ、あの幼女。
早くも冒険終了かと思ったが、銀の懐中時計はヴォーパル・ブレードに変化した!
そして、一刀の下、クリーチャーを斬り捨てていった。
これは、幸先がいい。
続いて、罠が仕掛けてある長い通廊。
罠にかからず、無事に突き当たりの##の扉へ進む。
この部屋にいるクリーチャーは、巨大な緑の蠍だ。
こいつを相手にかなり苦戦しているようでは、正直不安だと思ったが、辛勝した。
蠍の死体から得たポーションを、何の迷いもためらいもなく使って回復に努める姿勢は、感傷的でなくていい。
彼女はしばらくさ迷ううちに、今度は}の印の扉を開ける。
恐ろしい金切り声を上げてくる鷹人間に、幼女の顔がこわばる。
さすがに怖かったか……と思ったら、
「てめえ、鷹人間のくせに『ワッシッシッシッ!』と笑っているんじゃねえヨ!」
と、冷静に指摘してきた。
顔がこわばって見えたのは、ツッコミを入れる前の「何こいつ」的な表情をこちらが読み取り間違えただけらしい。
鷹人間は、だいぶショックを受けたようだが、すぐに気を取り直して戦闘を開始した。
しかし、なかなか決着がつかず。
途中、トイレ休憩を入れて戻ってきたら、翠蓮が勝ち、スカイブレードと盾をゲットしてほくそ笑んでいるのが見えた。たくましい。
またしばらく、彼女の彷徨が続く。
やがて、天井がなくて空が見える通廊にたどり着いた。
ここの茂みには蛇を放ってある。
この前も、ここの蛇に噛まれて命を落とした戦士がいるから、思わず手に汗を握る。
「痛っ!」
手に汗握ったそばから、蛇に噛まれて3ダメージを食らっている。
だが、耐久度はまだあるので、廊下の反対の端の&*の扉に到達し、先に進んだ。
よかった。
それから、再び扉のある部屋に来た時は、印が「ヒヨコが並んでいるみたいでかわいいネ」と、女子特有の基準で&&&の扉を選択。
それから……おおっ!
ついに、〈虹色迷宮〉を踏破しそうだ!
こうしてはおれな(以下文章中絶)


☆月◎日
憤懣やるかたなしとは、まさにこのことだ。
一夜明けても、まだ怒りが収まらない。
昨日、〈虹色迷宮〉を実に数年ぶりに踏破した戦士が現れた。
親衛隊にふさわしい逸材をついに確保できる。
その喜びから、私は事前に約束していない報酬すら特別に与えた。
冒険点も、奮発して与えてやった。
なのに、親衛隊に加わらないかという私の誘いに対する返事は、「NO」だった。
腹が立ったので、調子のいいことを言って〈虹色迷宮〉に再挑戦させて新任の沼トロールの餌食にしてやろうかと思ったが、こちらに対する返事も「NO」
再挑戦しない理由が、恋人と冒険の相棒のもとへ早く帰りたいからとは、初めてのお使いをした子どもか!
嫌味をこめて、我が迷宮を冒険した感想を訊いてみたら、その答えが
「ここのクリーチャーどもがあんまりにもファニーフェイスばかりだったから、あたしの相棒の飲んだくれ岩悪魔がイケメンに思えてきたネ」
だった。
まったく、腹立たしい。
仕方ない。また新たなる戦士を勧誘するか……。

〜本日の教訓〜
教訓は何の役にもたたないので、以後ここに教訓の欄を設けるのをやめる。

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.2 収録
 ソロアドベンチャー『ゾルのモンスター迷宮』
  作:ケン・セント・アンドレ
  編・イラスト:デイヴィッド・A・ウラリー
  訳:岡和田晃
  校閲・協力:吉里川べお
 発行 : グループSNE/新紀元社
 2021/7/17 - 2,420円
posted by AGS at 20:18| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする