2023年07月08日

『ブルーフォレスト物語』の背景世界


 2023年6月1日の「FT新聞」No.3781に、「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」が掲載されています。これで世界観の概要を理解・復習し、来るべき作品に備えましょう。

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『ブルーフォレスト物語』の背景世界

 岡和田晃
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 「FT新聞」No.3739の「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」に関しては、Twitterを中心に予想以上の大きな反響をいただきました。実際に遊んでいた方にはもちろん歓迎いただきましたが、他方で、一世を風靡した作品としてリスペクトは抱いているものの、自分では実際にプレイしたことがない、という意見も目につきました。
 そこで、まずは世界観をイメージしていただけるような情報共有が必要と考えました。
 本文のイラストレーションを担当している佐々野悟氏曰く、「ブルーフォレスト物語が出た頃は、インドの武具や鎧の資料が少なくて、東南アジア系のものと西洋、日本がごっちゃになってます。服装は遊牧民とかモンゴル系のデザインかな」との由。逆を言えば、これらのイメージを折衷させていけば、『ブルーフォレスト物語』らしさから、そう離れることはないようです。
 『ブルーフォレスト物語』は第2版にあたるデザイナーズ・エディションが「ゲーマーズ・フィールド」誌で長くサポートされました。かなり踏み込んだ設定も解説されていたのですが、まずは、基本的な世界観を理解しなければどうにもなりません。
 そこで今回は、『ブルーフォレスト物語』の背景世界につき、リバイバル・エディションのルールブックを参考に、世界観の要点をお伝えしたいと思います。

●シュリーウェバと降魔
 『ブルーフォレスト物語』の舞台シュリーウェバは、「エルスフィア」と呼ばれる世界の一地方です。伏見健二さんのもう一つの代表作であるスチームパンクRPG『ギア・アンティーク』(ツクダホビー、1991年)や、南米風の世界観を軸に空戦が楽しめる『ドラゴンシェルRPG』(グランペール、2006年)もまた、「エルスフィア」の別の地方を扱うもので、世界観は共通しているのです。システム毎に、ある世界の別の地方を扱うというのは面白い発想ですね。
 エルスフィアには2つの月があります。「神の月」と「悪魔の月」です。「悪魔の月」は「降魔(こうま)」の顕現だと言われており、この「降魔」はあらゆる破壊的なものの母体にほかなりません。『ギア・アンティーク』でも「降魔」は世界観のキーワードになっています。

●時間
 この世界は1日が180日で、6ヶ月で1年が終わります。1日の長さは我々の知る時間と同じ長さなのですが、およそ2倍の速度で時間が流れるというイメージでしょう。シュリーウェバ地方は熱帯に属し、1年を通じて暖かな気候ですが、地域によって微妙な落差はありますし、4月には激しい嵐がよく起きます。
 主な冒険の舞台となる半島部は森林が多く、稲作の技術も進んでいます。
 平均寿命は男性50歳ほど、女性60歳ほどとなります。ちなみに岡和田は41歳なので、シュリーウェバの冒険者ならば大ベテランで、かつ孫がいてもおかしくないということになります。

●文明レベル
 エンジンのような内燃機関はありません。エネルギーについての知識も無きに等しいですが、テコや歯車、バネ、基礎的な冶金の技術は備わっています。医療はいわゆる漢方医学に近い発想のものであるようです。
 しかし、亜神(後述)がもたらした失われた技術も随所に残っています。

●亜神
 シュリーウェバを統治する亜神は森王ナウマニカ。植物や農業を庇護する母性的な女神です。つまり「王」とありますが、厳密には女王です。ナウマニカのほかにも亜神の王はいて、「12神王」と呼ばれます。亜神といってもピンキリですし、プレイヤー・キャラクターでも成長を経れば、亜神となるのも夢ではありません。
 亜神は、八百万の神というよりは指導者に近く、民間信仰の対象となる存在はより曖昧でアニミズム的な神性。このあたり、神仏習合めいたイメージでもそう遠くはないでしょう。

●種族
 シュリーウェバには人間族のほか、ゴブリン族や龍族もよく住んでいます。比較的珍しい存在としては妖精族もいますし、輪をかけて稀少な存在に魔族や神族も設定されています。
 ゴブリン族は犬ゴブリン、ゴブリン、角ゴブリンの3つの階級に分かれます。粗野な種族とみなされることも多いのですが、どこか憎めないところもあります。
 龍族は哲学的なナーガ族と、戦闘民族のトカゲ族に分かれます。
 妖精族は180年ほどの寿命がある長命で知性的な種族。小妖精、翼人族、楽人といった種族の総称です。
 魔族は妖精族でありながら、体内に降魔を宿した存在のことです。
 神族は亜神と人間との間に生まれた子どものことを主に指します。
 ちなみにサプリメント『ブルーフォレスト戦乱』ではさらなる種族が追加されます。降魔の影響を受けていない女性のみよりなるゴブリン種の亜種ゴブリナも、『ブルーフォレスト戦乱』で追加された種族です。原文でのフラットな記述に対し、なぜかロリコン的な受容をされることがありますが、性的指向とジェンダー・アイデンティティを混同する言説が横行する2023年現在の状況に鑑み、そのような演出を強調する際には、不快に覚える人がないよう卓の合意を取るようにすることを私は推奨します。


●歴史
 かつて「降魔戦争」と呼ばれる大規模な戦争が起きました。これによって12神王は深刻な分裂を余儀なくされます。このとき、かつての秩序を取り戻そうと尽力したのが森王ナウマニカなのです。
 しかし、人間たちに期待をかけたナウマニカも、彼らが「継承戦争」と呼ばれる戦乱を起こしたことで人間に絶望して支配を放棄してしまい、その隙をついて、魔族が押し寄せてきました。「百年戦争」の始まりです。どうにか魔族を退けても、亜神が戻ることはなく、それゆえ人間たちの私利私欲は止むことがありませんでした。
 かような混乱に秩序をもたらしたのが、ラグ神帝国。帝国は他の国々へ侵攻を行い、「十王戦争」と呼ばれる大規模な戦争を起こしてしまいます。これが10万人以上の兵士たちがぶつかりあったという「十王戦争」。その傷痕はいまだに癒えず、ラグ神帝国も野望を捨てたわけではないようです。

●伏見健二さんの現在は?
 以上の設定を押さえつつ、各シナリオで解説される、個別の小設定あるいはマップに即した地方ごとの情報を呑み込んでおけば、プレイ自体はそう難しくはないでしょう。
 ところで、伏見健二さんの近況が気になる方もいらっしゃるようです。現在、伏見さんは福祉関係の仕事をされていますが、これはゲームデザイナーや小説家と同じく、伏見さんがもともと抱いていたお仕事でもあったとか。そちらはコロナ禍で大変だったようですが、新年度に入ってミニチュアゲームを楽しめるほどには落ち着かれた様子。
 ゲームや文学関係の最近のお仕事では、ポストヒューマンSF-RPG『エクリプス・フェイズ』のシェアード・ワールド小説「プロティノス=ラヴ」が『再着装(リスリーヴ)の記憶』(アトリエサード、2021年)に収録。「図書新聞」2021年4月17日号(コンビニで有償ダウンロードできます)に、T&Tアドベンチャー・シリーズ9『怪奇の国のアリス+怪奇の国!』の書評が掲載。また「ナイトランド・クォータリー」Vol.28にコラム「『ストームブリンガー』が斬り拓いたもの」を寄稿(2022年)。
 エテルシアワークショップでは新感覚の剣戟RPG『N-Injury』を開発中。こちらは「ファスト・トライアル」版がイベントで配布されたばかりです。エテルシアワークショップの新作「三枚のお札RPG」(あわじひめじ)について、4Gamer.netに書いた拙稿の一番下で、ちらりと言及しております(https:/
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『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって

 2023年4月20日の「FT新聞」No.3739に、「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」が掲載されています。配信後、さっそく特集に絡めたスペシャルな作品追加が決まりましたが、今後の展開は皆さんの反響が占います。お便り、Tweet、よろしくお願いいたします。

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『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって

 岡和田晃
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 2023年4月からの「FT新聞」リニューアルに伴う新企画!
 不定期ではありますが、伏見健二『ブルーフォレスト物語』の小特集を進めたいと思っております。
 オールドファンにとっては懐かしく、若いファンにとっては新鮮――というのがこの手の企画の常套句で、それは特に間違いでもないと思うのですが、『ブルーフォレスト物語』は、むしろ“誰にとっても新鮮”な作品であるのが、大きな特徴と思います。
 時代の方が追いついてきた。
 そう思わせるほど斬新なコンセプトの作品で、リアルタイムで圧倒的な衝撃を与えながら、実際、今に至るまで海外を含め類似作のない、独特の存在感を放っています。
 ――その心は?
 舞台となる「シュリーウェバ」世界、が1つの答えです。
 D&DやT&Tのような中世西洋風のファンタジーがメインであった時代、そこで培われた大枠を遊びやすさとして遺しながら、東南アジアやインドの雰囲気が、しっかり入り混ぜられています。
 よく言われたのが、「異世界ファンタジーでありながら、おにぎりを食べて違和感のない世界」。
 あるいは、デザイナーの言葉を借りれば、以下のようになるでしょうか。

「ヒンドゥー文学、仏教文学、中国や東南アジアの山岳・草原民族に関する資料、そして小さい頃から馴染んでいた聖書の古代中央アジアに関する描写など、そして一度だけ訪れたタイの、悲しげなアユタヤ王朝の記憶が、この世界のイメージとなっています」

 『ブルーフォレスト物語』の初版は、1990年にツクダホビーから発売されました。当時、伏見さんは美大生。学生でありながら、ルールブック本文のみならずボックス・セットの隅々までをデザインする、トータル・デザインの先駆けでもあったのです。
 イラストレイターには、各種TCG等のイラストでも知られる相沢美良さんと佐々野悟さんが参加しておいでで、世界観を雄弁に伝えていました。

 もともと伏見健二さんは、マイクル・ムアコックの〈エルリック・サーガ〉を原作としたRPG『ストームブリンガー』のサポート記事を「タクテクス」に寄稿するところから、ゲームデザイナーとしてのプロ活動を始めた方です。

 ※「FT新聞」では、No.2904「ヴェルヴェット・サークルの夢の果てに」で『ストームブリンガー』について解説してあるので、どうぞご参照ください(https://akiraokawada.hatenablog.com/entry/2021/01/07/071630)。

 ゆえに『ブルーフォレスト物語』は、『ストームブリンガー』が採用していた――現在は『クトゥルフ神話TRPG』ですっかりお馴染みとなった――ベーシック・ロールプレイング・システムという汎用ルールでも採用されたd100パーセンテージ・ロールを軸にしつつ、多彩なクラスや戦術、魔法、さらには「寿命」や「悟り」のルールを導入しています。
 亜神という存在が重要な役割を果たしており、この点、ケン・セント・アンドレらT&Tや『ストームブリンガー』のデザイナーも愛読していたロジャー・ゼラズニイのSF小説『光の王』に近いでしょうか。

 『ブルーフォレスト物語』は、“ユーザーのクリエイティヴィティを重視すること”が大事なコンセプトとなっています。基本セットさえあれば、どこまでも世界観を広げていけるような、ちょっとしたアイデアや配慮が、随所に込められているというわけです。
 今回、「FT新聞」でお目にかけたいのは、ちょうど伏見さんが『ブルーフォレスト物語』をデザインした年齢くらいの若者が、RPGに込められたメッセージを受け止め、実際にシナリオにまで昇華させた作品群です。もちろん、私や水波編集長がしっかり監修し、品質は担保しておりますし、伏見さんご当人の許諾も得ています。
(編集部註:5月以降の日曜ゲームブック枠で順次配信予定です)

 『ブルーフォレスト物語』のユニークさを受け入れたのは、世界観にこだわる自作派、とりわけ女性ユーザーでした。1990年頃、ゲーム・コミュニティが圧倒的に男性優位だった時代において、きめ細やかな世界観や人間関係の襞を自然に描くことのできるシステム設計は、新たなユーザー層を開拓したわけですが……現在、私が大学で開講しているゲームデザイン講座の受講生からしても、女性の方が多いくらいです。
 こうした状況において、『ブルーフォレスト物語』は何ら異色作でも回顧作ではなく、まったくもって“スタンダード”な思想で設計された作品になっているのです。

 とはいえ『ブルーフォレスト物語』は絶版になって久しく、残念ながら、彼女たちは『ブルーフォレスト物語』を知らないままに来てしまいましたが、それゆえに新鮮な出会いともなり、このシステムが彼女たちの創造性を引き出していくのを、私は教室で間近で観察してきました。
 おそらく、「FT新聞」の読者の方々にも、これまで『ブルーフォレスト物語』に触れる機会がなかった方もいらっしゃるのではないかと思います。
 そこで簡単に、既存のシリーズ展開を紹介いたしましょう。

 ツクダホビー版の『ブルーフォレスト物語』はシリーズ化され、キャンペーンシナリオやソロアドベンチャーを含んだ続編が発売されました。1996年にはゲーム・フィールドから第2版に相当する『デザイナーズ・エディション』が発売。例えるならば、ツクダホビー版がD&Dなら、『デザイナーズ・エディション』はAD&D。必殺技の種類が増強するなど、多くの変更点があります。
 2008年には、グランペール――実験作を少部数、しかしながら商業ベースで刊行する――グランペール・プロジェクトからツクダホビー版が「リバイバル・エディション」として復刻。こちらにはPDFファイル形式のルールブックの内容をまるごと収めたCD-ROMが付属するなど、電子書籍としてのRPG出版の先駆けにもなっていました。
 2010年頃からグランペールで刊行されていたムック本「ブルーフォレスト通信」では、亜神のキャラクターを1 on 1でプレイする第3版の開発が模索され、「ブルーフォレスト通信3」では、プレイアブル版が発表されおり、単体でも遊べます。

 現在、『ブルーフォレスト物語』については、角川書店や中央公論社から出ていた伏見さん自身によるノベライズ(「南北朝争乱編」、「蒼き森・失楽園」)、あるいは3DO後期の看板タイトルでプレステーションにも移植されたデジタルゲーム版(『風の封印』)の方がアクセスしやすいかもしれません。それらはTRPG版なしでも楽しめ、世界観を知るにもたいへん有効です。細江ひろみさんが書いた富士見ドラゴンブックの『ブルーフォレスト物語がよくわかる本』も、入門にはピッタリで、学生にも紹介しました。
 『ブルーフォレスト物語』は1993年の時点でルールセットが5万セット、小説においては8万部が売れたと記録されています。とりわけ90年代の国産RPGは『ブルーフォレスト物語』抜きに語ることはできない、それくらいのインパクトがあるヒット作で、メインのシステムとして活用していたプレイグループも珍しいものではありませんでした。
 今でもSNS等で声をかければ、きっと手を挙げてくださるGMがいらっしゃることでしょう。
 しかし、それでも、ルールブックの入手が難しいからなあと、記事を読むのに躊躇してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
 ご安心ください。今後、「FT新聞」での『ブルーフォレスト物語』紹介の際には、ルールブックがない方でも記事を楽しめるよう、相応の配慮や工夫を行うつもりです。

 ――シュリーウェバの風が呼んでいます。青い森へようこそ!

posted by AGS at 21:28| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年05月25日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.16


 2023年4月6日の「FT新聞」No.3725で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」のVol.16が配信となりました。最終回です。皆さまご愛読ありがとうございました。


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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.16

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は以前、独立した記事として紹介したCM3モジュール「悪魔の住む河」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/481129030.html)の設定を導入しています。バーリンが「ポリマス」だったというのは、『竜剣物語』からの影響もありますね。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498492899.html)。キャンペーン最終回「終結」の後半です。旧版のシステムで行われた20年以上前の冒険を再現するという「FT新聞」でしかなしえない企画でしたが、長きにわたるご愛読ありがとうございました。都度いただく感想に励まされました。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、9レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、10レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、9レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、8レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、10レベル。

「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のマスター。
シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
ステファン・カラメイコス/カラメイコス大公国の公爵。
ルートヴィヒ・「ブラックイーグル」・フォン・ヘンドリックス/公爵の邪悪な甥で、国を二分する戦争を仕掛けた張本人。
「ルルンの」ヨランダ/ブラック・イーグル男爵領の避難民にして、レジスタンス。
ヨブ/かつてパーティの一員だったファイター。故人。
プロスペル/かつてパーティの一員だったファイター。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。とかく信用ならない。
バーリン/ドワーフの国ロックホームの使者。実は、「ポリマス」と呼ばれる転生者。
ティアマット/5つ首のクロマティック・ドラゴン。キャンペーンの最終ボス。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。
ハラフ/トララダラ人の英雄で、イモータル(神)となった存在。
ペトラ、ジルチェフ/ハラフの仲間で、同じくイモータルとなった。
プファール/ヒュターカーンのイモータル。

●目覚め

 気がつくと一行は、コテージのような場所に寝かされていた。
 こっそりパーティの後を追ってきた「盗賊王」フレームフリッカーらが、麓で倒れている一行を発見し、介抱してくれたのである。
 フレームフリッカーはパーティに、情勢を簡単に説明する。
 ──ブラック・イーグル軍の猛攻により、すでにケルヴィンの防衛ラインは突破されてしまったのだ。
 今や、スレッショールドの手前で、最後の決戦のための大布陣が敷かれようとしているらしい。
 シャーレーン大司教は最終手段として「聖戦」の呪文を発令し、一般市民をも兵士として駆り出さざるをえなくなっているという。
 「生命の樹」の腐食が止まったとのことで、周辺の森に住むエルフたちも参戦してくれたが、それでも敵の猛攻の前には心許ない、とのことである。
 フレームフリッカーは続いて、タモトの手に握られている簡素な斧が何であるかを尋ねた。
 善良なドワーフは山の中で起こった出来事をつぶさに説明し、この斧こそが、バーリンの言う「予見」の力が結晶して生まれたものである、とのことを悟ったのであった。
 ジルチェフの姿はもうどこにも見えないけれども、この斧に込められている「予見」の力こそが、『エントロピー』を打破するために最も必要とされているものであることを、タモトは実感していたのである。
 一方、リアは8人の強面の男たちに囲まれていた。彼らは、フレームフリッカーとともにやってきた「盗賊の王国」の構成員たちであるが、この度フレームフリッカーの部下として働くよう、ギルドマスターに命令されたのである。 
 予想だにしなかった、「盗賊王」の粋な計らいに目を回したリアであったが、「親分」と呼んで慕ってくる男たちを前に、威厳を保とうと必死で努力するのだった。

●スレッショールドへの帰還

 インセンディアロスの炎によって、来るときに使ったフライングカーペットは焼けてしまっていたが、フレームフリッカーが連れてきたペガサスに乗り、一行はスレッショールドへの帰路についたのだった。
 途中、巨大なロック鳥とすれ違った。その羽根の所々が焼けただれていたのが、妙に気になるところだった。
 スレッショールドに到着すると、ステファン・カラメイコス三世、アリーナ・ハララン、インジフ、そしてエルンスト・ブロッホ(グレイのネクロマンシーの師匠)らが、次々とパーティを出迎えてくれた。
 彼らはパーティの労をねぎらい、暖かい言葉をかけてくれたのだった。
 アリーナは、グリフォン聖騎士団の精鋭たちの中にも、戦死した者が相次いだという事実を悲しげに語り、いよいよ今晩最後の戦いの火蓋が切って落とされるだろう、と一行に告げた。
 そしてステファン公は、アリーナの言葉を補完するかのように、「決戦のためにぜひ皆の力を貸してほしい」と頼んだ。
 一方、エルンストは愛弟子グレイに、「何があっても生き延び、究極のネクロマンシーの力を手に入れよ」、と告げた。
 そしてインジフは孫娘であるリアに、「もしこの争いが終わってスレッショールドが無事に存続したならば、お前がわしの後を継いで、「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスターとなるのだ」と、悲壮な面持ちで語ったのだった。
 インジフはリアを引き離し、「ギルドマスターの心得」を得々と語り続ける。
 その様子に、どことなく彼女は不審なものを感じた。と、人気がない場所に入り込むやいなや、相手はただちに正体を現した。
 そう、邪悪な魔術師バーグル・ジ・インファマスが、リアの祖父に「ポリモーフ」の呪文を使って化けていたのである。
 不意を付かれたリアは、「ディスインテグレイト」(粉砕)の呪文をまともに受けてしまった。
 しかし、リアは辛うじて呪文に抵抗し、続けざまに矢を放った。「ミラー・イメージ」で作っておいた残像をかき消されたバーグルは、形勢不利と悟り、再び「テレポート」で逃げ出した。

●戦場にて

 カラメイコス軍とブラック・イーグル軍が、正面からぶつかり合った。いよいよ、双方の総力を結集した最終決戦が始まったのだ。
 一行は、以前テレスサール野の戦いにおいて行ったように、本隊から離れ、遊撃隊として直接敵の指揮部隊を叩く役回りとなった。
 トロールやオーガー、オークどもからなる部隊と、決死のカラメイコスの兵士たちが激突する。
 一行は側面から忍び寄り、軍隊を指揮している、ブラック・イーグル男爵ならびにその親衛隊と思われる面々に向かって、突撃をかけた。
 大規模戦闘に役立つ「ヴィクトリィ・ロッド」(勝利のロッド)を振りかざして、戦意を鼓舞するルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクスの行く手を、前回の冒険で入手した「ヴィクトリィ・ロッド」を構えて立ちふさがるタモト。
 二つのロッドは共鳴し合ったかと思うと、次の瞬間激しい音をたてて爆発した。
 しかし、爆風に圧倒されることもなく、親衛隊はランスを構えてこちらに向かってくる。
 どうやら、防御が薄そうなスペルキャスター陣に狙いをつけているようだ。
 けれども、間一髪で詠唱が間に合った「アース・クエイク」(大地鳴動)の呪文をまともに受けて、親衛隊のほとんどは地面に空いたクレバスの中に呑み込まれていったのだった。
 そして、残りの面々は、リア、シャーヴィリー、グレイの力によって、次々と打ち倒されていった。

●狂乱のバーリン

 一方、ブラック・イーグル男爵とタモトとの戦いは、白熱さの度合いを増していた。
 と、脇腹に激しい一撃を受けてよろめいたタモトをカバーするべく、後方に控えていたバーリンも戦いに加わった。
 「予見」の斧を手にしたタモトと、「ポリマス」であるところのバーリンを相手にしては、さすがのブラック・イーグルも形勢不利である。
 タモトの打撃で吹き飛ばされた次の瞬間、バーリンのバトルアックス+4が唸り、次の瞬間、男爵の首は宙を舞っていた。
 しかし、ブラック・イーグルの身体から、奇妙な煙のようなものが立ちのぼると、すぐさまバーリンを取り巻いた。
 そう、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵にとどめをさしたバーリンは、「リーンカーネーション」の呪文をかけられ、ブラック・イーグルの身体に乗り移っていた怒り狂える「ヒュターカーン」のイモータルこと「プファール」に、肉体と精神を乗っ取られてしまったのである。
 狂乱したバーリンは、そのままタモトに襲いかかった。
 しかし、渾身の一撃がかわされると、そのまま溢れ立つ破壊衝動を抑えることができず、バーリンは向きを変えて、戦場の混乱の渦中に自ら飛び込んでいったのだった。

●ティアマット

 その時だった。戦場を暗い影が覆った。
 破壊と流血に誘われたのか、はたまたバーグル・ジ・インファマスらの悪しき力に惹かれたのか、いよいよクロマティック・ドラゴンの女王ティアマットが、ブラック・ピーク山脈の住処を離れ、この場所へとやってきたのである。
 5つの首からそれぞれ違ったブレスを吐き、戦場を阿鼻叫喚の渦へと変えている……。
 いや、5つではない、6つだ。シャーヴィリーは、ドラゴンの首が1つ増えていることに気がついた。
 そう、かの緑竜ヴァーディリスもティアマットの身体に取り込まれ、クロマティックドラゴンの身体を形成する一部分となり下がってしまったのである!
 加えて驚くべき事が起こった。
 ドラゴンの姿を見て、狂乱したバーリンは格好の獲物を見つけたとの様子で飛びかかり、その脚に組み付いたのである。
 腹にドワーフの斧をたたき込まれて、ますますいきり立つティアマット。
 パーティは顔を見合わせて頷くと、クロマティックドラゴンの侵攻を阻むべく、立ちふさがった。
 グレイが「エアリアルアンカー」(風の精霊の鈎)を投げつけてドラゴンの動きを止め、ドラゴンのブレスを「予見」の斧の力で時間を止めることでかわし、シャーヴィリーの「ヘイスト」の呪文によって強化されたタモトが、ドラゴンの急所に「予見」の斧を二度叩き込んだ。
 「予見」の力によって、『エントロピー』の象徴であるクロマティックドラゴンは浄化され、霧のように消えていった。
 だが、その隙を狙って、忽然と姿を現したバーグル・ジ・インファマスが、お得意の「ディスインテグレイト」を、新たな「武器」の力に恐れをなしているタモトに向かって唱えたのだった。
 けれども、パーティの気迫の前には、バーグルの魔法など、もはや脅威たりえなかった。
 「ディスインテグレイト」は、タモトの生命力をいささかも傷つけることなくかき消え、失意のバーグルは十八番の「テレポート」でまたもや逃げ去ったのだった。

●解放されたイモータル

 ティアマットの死体が消えて行くのと同時に、そこから発したまばゆい光が、戦場全体を包み込んだ。
 光は上空の一点へと収束していった。そして、巨大な人間の形を取った。
 最前列で敵の部隊と闘っていたステファン公は、突然現れた光の正体を悟った。
 イモータルにして、トララダラ人の救世主である、ハラフ王が再びこの地に甦ったのである。
 イモータルの威光を前にしてたじろいだブラック・イーグル軍は、次々と戦意を失い、敗走していった。
 カラメイコス軍は、辛くも勝利をおさめたのである。
 続いて、バーリンの身体、カラーリー・エルフが持参してきた「生命の樹」の実、そしてタモトの「予見の斧」からも、同じように光が発し、上空で人の形をとった。
 ハラフ、ジルチェフ、プファールらのイモータルが、再びこの地に甦ったのである。
 彼らは、その場にいた皆に向かって、
 「戦乱は終わりを告げた、ここカラメイコスの地において、古来から不和と軋轢の原因となっていた『エントロピー(死)』の力は、封ぜられた」と厳かに告げた。
 イモータルらは、「ポリマス」であるバーリン、そして一行の活躍によって、ロキが、この地に『エントロピー』の力を持ち込み、陰謀を仕組んでいたのだということを知ったのである。
 ステファン・カラメイコス三世とアリーナ・ハラランは、その場の人々を代表してイモータルらに、自らの意志を伝えた。
 その言葉を傾聴したイモータルらは、カラメイコスの地の復興に手を貸すことを約束した。
 ハラフとプファールらは土地の復興を手助けし、ペトラは人々に安寧をもたらし、そしてジルチェフは外敵から国を守ることを約束したのである。
 「ポリマス」のバーリンは亡き者となっていたが、プファールの力でまたどこかで転生し、新たな生を得ることになるだろう、とも。

●その後

 もはや語るべきことは多くない。
 ブラック・イーグルの軍勢は破れ、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵は死んだ。
 王都スペキュラルムを初め、男爵領に支配されていた地域は次々と解放され、もとのように平和な暮らしを送ることができるようになった。
 スレッショールドにおいても、「聖戦」発令によって精力を使い果たしたシャーレーン大司教の痛ましい死、影の部分から街を統率していた盗賊ギルドの崩壊によって、いささかの混乱をきたしたものの──再び、大公国の要所としての、復興の兆しを見せ始めている。
 そして、『エントロピー』の力を阻止するという、当面の目的を果たしたタモト、リア、ジーン、グレイ、シャーヴィリー、「ルルンの」ヨランダの6人は、よく話し合った結果、今度は各自、自分たちの道を歩んでいくことに決めたのだった。
 「予見の斧」をはじめ様々なアーティファクトに翻弄され、疲れてしまったタモトは、公爵から渡されたなけなしの金を手に、故郷の村へと帰っていった。
 リアは、亡き父親や祖父の後を継ぎ、「盗賊の王国」のスレッショールド支部長となった。今では、「盗賊王」フレームフリッカーのよき片腕となっている。
 ジーンとシャーヴィリーは平和な暮らしに飽きたらず──神殿やエルフたちの懇願を振り切って──ステファン・カラメイコス公のジアティス時代の義兄弟であるエリコール王が治める、ノルウォルドの地に出向くことに決めた。エリコール王の側近として、フロスト・ジャイアントの軍勢と闘いながら未開の地を切り開くという、刺激的な人生を送ろうと決意したのだ。
 共に魔法帝国グラントリでネクロマンシーの道を究めようという師エルンストの誘いを振り切ったグレイも──独自の道で力を追求するため──戦いを生き残った父オーガン将軍とともに、ノルウォルドの地へと向かった。
 パーティと分かれ、戦いに身を投じていたプロスペルは、ケルヴィン陥落の際に、トロールの棍棒からオーガン将軍をかばい、命を落としていた。
 「ルルンの」ヨランダはヨブの墓を見舞った後、しばし、故郷ルルンの復興活動に携わった。
 後に、海を越えて、南のミンロサッド・ギルドへと渡っていった。一説では海賊になったとも言われているが、事の次第は定かではない。
 ──ひょっとすると、恋人ヨブが命を落すこととなったその元凶である、シャドウ・エルフらの行方を探しているのかもしれないが、それはまた別の話である。

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2023年03月09日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.15

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.15

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は以前、独立した記事として紹介したCM3モジュール「悪魔の住む河」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/481129030.html)の設定を導入しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498492467.html)。キャンペーン第14話「ナイトシェイド」の後半と、キャンペーン最終回「終結」の前半となり、過去の伏線が次々と回収されていきます。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、8レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、9レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、8レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、8レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、9レベル。

シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。とかく信用ならない。
バーリン/ドワーフの国ロックホームの使者。実は……。
ゴネリル、リーガン、コーディリア/邪悪な魔女三姉妹。
インセンディアロス/ヒュージ・レッドドラゴン。
「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマン/イラルアム首長国連邦のデルヴィーシュ。
バリムーア/36レベルのマジックユーザー。自らを高位のアンデッド、リッチと化した。
オパール・ドラゴン/中立のドラゴン。

●大公国軍の敗走

 スレッショールドへ戻った一行は、大司教に事情を説明した。シャーレーンは神妙な面持ちで頷き、ブラック・ピーク山脈を指差した。
 そう、「ヴォイド」は、すさまじい勢いで広がり、その大きさは遠くからでも容易にうかがえた。
 しかも、たたみかけるように悪い知らせが続く。
 大公国軍が劣勢で、ケルヴィンが陥落するのも時間の問題だという。
 進退窮まったパーティは、オーガン将軍の「ギアス」を解いてもらって、少しでも戦争を好転させようと考えた。
 だが、バーグルの魔力はさすがに強かった。シャーレーン大司教の唱えた渾身の「ディスペル・マジック」でも、完全には魔法を解くことがかなわなかった。
 かくなるうえは、自分たちが戦争に赴き、カラメイコス軍に協力するしかないのだろうか?

●ポリマス

 そのとき、大司教の傍らに座っていたドワーフが立ち上がった。
 なんとそこには、あの、ロックホームからの使者ことバーリンがいたのである。
 彼はおもむろに、「おまえたちはおまえたちでしかできないことを為すべきだ」と一行に告げた。
 アルタンテーペ山脈に眠る「ジルチェフの溶鉱炉」へ行き、『エントロピー(死)』の領域によって毒された四つの「武器」――すなわち「オルトニットの滅びの槍」、「ペトラの嘆きのメイス」、「オーケンシールドの欺きの斧」、「ヒュターカーンの虚無の剣」――を鍛造し直し、新たな「予見」の力を作り出さねばならないのだ。
 なぜ、このドワーフはそのような事情を知っているのだろう?
 怪しむ一行に、バーリンは自分の正体を話した。
 そう、彼は「ポリマス」なのだ。
 
 ――あらゆる冒険者はイモータル(不死者、神)になることを夢見る。そして、それには信じられないほど莫大な労力がかかる。
 「ポリマス」は、別名「転生者」と呼ばれ、「物質の領域」を通って、イモータルに近づく道のことである。
 ポリマスは、一つの「アーティファクト(イモータルが作った宝)」を求めて、3回のさらなる人生で成功をおさめなければならない。
 ひとたびアーティファクトを手に入れるや否や、その記憶や経験は剥奪され、新たな人格に転生する。
 そして、ふたたびアーティファクトを求める旅に出るのだ――

 バーリンは、失われたアーティファクトを探し求めるうちに、アルタンテーペ山脈の地下に、ハラフの仲間であったイモータル、ジルチェフが封じられているのを知った。彼は「エントロピーが広がるのをことさら嘆いた。
 そして、エントロピーを打破する手段は、「予見」の可能性に見出すしかないということを、バーリンに語ったのだった。
 
●スレッショールド出発

 ブラック・イーグル男爵の軍勢が、ここスレッショールドまで攻め上ってくる日も近い。
 パーティは、バーリンを仲間に加え、急いでアルタンテーペ山脈へと向かうことにした。
 しかし、肝心の移動手段が確保できない。
 スレッショールドに残っていた軍馬のほとんどが、すでに戦いのために出払ってしまっていたということもあるが、それよりも必要なのは、馬よりも早く移動できる交通手段だった。
 シャーレーン大司教は意を決し、教会の奥、秘蔵の宝物庫を開放し、来るべき困難の時に備え、一行に分け与えた。
 その量なんと、サプリメント『マーベラスマジック』より12個分という大盤振る舞いである!
 思いもかけない後続支援に勇気づけられた一行は、宝物庫から手に入れた「フライングカーペット」を使い、バーリンとともに「ペトラの溶鉱炉」へと向かった。
 しかし、不安もあいまってか、その光景は必ずしも美しいものではなかった……。
 ジーンがアーマークラス(防御力)を改善させるために身に付けた「ヘアネスハット」(髪が異常なほど伸びる代わりに、アーマークラスと寒さ、電光などへの耐性がつく)が、観るものに畏怖の念をもたらしたからである。
 
●イラルアム兵との遭遇

 途中、遭遇したフライングヒドラ二体をやすやすと撃退した一行。
 だが、その後、パーティは恐るべき光景を目にしたのであった。
 それは、セレニカから、デュークス・ロード砦を経由する街道を抜けて押し寄せる、イラルアム首長国連邦の傭兵軍の姿であった。
 パーティは、「砂漠のウズラ」アラディンの言葉を思い出した。
 おそらく、この軍隊は、ブラック・イーグル男爵の軍勢と共謀して、カラメイコス大公国軍を挟撃するつもりなのだろう。
 しかし、シャーヴィリーが奏でる「チャーミングハープ」(集団に「チャーム」の魔法をかけられる魔法の楽器)の強力な効果により、なんとか、彼らがカラメイコス大公国に侵入するのを阻止することに成功した。
 
●三人の老婆

 アルタンテーペ山脈の麓にたどり着いたパーティだったが、目指す「ジルチェフの溶鉱炉」へは、どのようにしたら入り込めるのか。
 バーリンが言うには、「溶鉱炉」に近づくためには、二つの道のりがあるという。
 それは、外の目から隠されている正面の入り口から入る方法と、山頂に空いたカルデラの中から侵入する方法だ。
 しかし、正面の出入口は危険だという。
 というのも、以前バーリンが山の内部の洞窟へと入り、ジルチェフの居場所を調べて脱出したした際、こちらの出入口を使って逃げ出したからだ。
 おそらく、侵入者が舞い戻ってくるのに備えて、邪悪な存在によって飼い慣らされているジャイアントの大群が、その場所を守護していることであろう、と……。
 一行はしばし迷うが、山頂へと向かうことに決めた。
 パーティが険しい山道で歩を進めていくと、眼前に三人の醜い老婆が姿を現した。
 彼女らはそれぞれ、ゴネリル・リーガン・コーディリアと名乗り、侵入者たちに死が訪れると不吉な予言を残し、消え去った。
 
●インセンディアロス

 老婆どもを観て、バーリンの表情がこわばった。
 というのも、以前侵入した際に、彼はジルチェフを閉じ込めている張本人が、この老婆三姉妹であることを知ったからである。
 敵にこちらの居場所が知られてしまった!?
 躊躇する暇もなく、猛スピードで巨大なレッドドラゴンが飛来してきたではないか。
 三姉妹が呼び出したレッドドラゴン、インセンディアロスである!
 彼女のブレスにより、たちまちパーティの半分が戦闘不能となってしまった。しかしながら、決死の一行は全勢力を振り絞って、この凶悪な大長蛇を退治した。
 しばし休息した後、一行はふたたび山を登り始めた。
 そして、上空を飛び回っていた、インセンディアロスの子ども(スモール・レッドドラゴン)を確保撃破し、巣のなかに眠っていた莫大な量の宝を手に入れることができたのだった。
 
●カルデラの底は

 ドラゴンの巣に眠っていた宝の中に、「クライミングロープ」(自在に上り下りが可能になるロープ)を発見した一行は、渡りに船と、さっそく山の中へ降りていった。
 そして、はじめに見えた張り出し口を東に進んでいった。
 その先に待ち受けていたポルターガイスト三体を退治し、そのねぐらでまたもや大量の宝を手に入れると、据え付けられていた魔法のポールで下の階へと降りていった。
 部屋中に撒き散らされた死体に紛れ込んでいたリベンナントの不意打ちを受け、「フィンガー・オブ・デス」の呪文を食らい、危うくグレイが死にかける。
 だが、以前、「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマンから渡された「プロテクションスカラベ」が身代わりとなって砕け散り、辛うじて一命を取り留めることができたのであった。
 
●ヘリオンたちの話

 その後、キャリオン・クローラーが密集している通路をからくも回避したパーティは、二番目のポールを降りた。
 バーリンによれば、その先にはマグマだまりが広がっており、そこに「ジルチェフの溶鉱炉」があるとのことだった。
 しかし、見たところ、「溶鉱炉」の周りには、何体ものヘリオン、エフリーテ、フレイムサラマンダーが渦巻いて、何やら儀式らしきものを繰り広げており、一筋縄ではいきそうにない。
 一計を案じたパーティは、タモトとバーリンに「ポーション・オブ・エレメンタルフォーム」(エレメンタル変化のポーション)を飲ませ、ファイアー・エレメンタルに変身させて、ヘリオンと交渉させようと考えた。
 マジックアイテムを使い、万一の時は、すぐさま一行のもとに戻れるよう、安全のための処置も予断なく行った。
 だが、誤算があった。近づいてみるとわかったのだが、ヘリオンたちを指揮していたのは、三人の老婆と、髑髏姿の魔術師だったのである。
 そう、黒幕であるゴネリル・リーガン・コーディリアと、「生命の樹」を狙う邪悪なリッチ、「バリムーア」が待ち受けていたのである。
 タモトとバーリンは、敵に見つからないように注意しながら、ヘリオンに話しかけた。
 そして、ヘリオンの一人から、悪しきものたちによってジルチェフが溶鉱炉から追放され、別の場所に幽閉されたこと、その結果、溶鉱炉の源泉となっていたドラゴン・ルーラー「オパール・ドラゴン」がもうじき目覚めそうだ、という情報を得られた。
 溶鉱炉やマグマの正体は、封印されていたこのドラゴンの力を利用したものだったのである。
 つまり悪しき者たちはオパール・ドラゴンの力を自らのものにするべく、守護者であったヘリオンたちを操って、地下深くから、その主人を呼び寄せようとしていたのであった。
 
●逃走

 だが、幸運はいつまでも続くものではない。長々と話していたため、バリムーアに不審がられてしまったのである。
 二人はとりあえず、ここは一旦退却し、閉じこめられているジルチェフのもとへと向かうことにした。
 バリムーアが放った「メテオ・スウォーム」(魔流星)の呪文をかわしつつ、来た道を戻るパーティ。
 最初の張り出しを反対方向に進み、今にもファイアーエレメンタル・プレーンからプライム・プレーン(物質界)へ実体化して現れようとしている巨大なファイアー・エレメンタルを避けた。
 また、次の部屋で「インビジビリティー」の呪文をパーマネンス(永久化)されているゴルゴンたちの不意打ちを受けて、あえなくジーンが石化しかかり、ひとときも休むヒマがない。
 ゴルゴンの部屋から続く長い階段をかけ登っていくと、ようやく巨大な部屋に到着した。と、部屋に入ると、途端に外に透明なハンマーの渦が現れ、パーティの退路を遮断した。
 
●ジルチェフ解放

 部屋の中には、等間隔に並んだ石像が10体安置されていた。
 奥には、幅の広い、台座らしきものが見える。
 石像にはそれぞれ、古代トラルダー語で、碑名のようなものが刻まれていた。
 順番に、「無限なるもの」、「無限なるものの意識」、「実在性」、「神性」、「思考」、「自然」、「予見」、「反省」、「思弁」、「知」の十個。
 どうやら、この中から三つの石像を選んで順番に並べ、台座の上へと押し上げなければならないようだ。
 一行は熟考した末、これまで入手した四つの武器を連想させる語(「無限なるものの意識」=時間、「実在性」=物質、「自然」=エネルギー、「思考」)を候補から除き、続いて、<イモータル>や悪しき力を連想させる語(「無限なるもの」、「神性」、「知」)を候補から除外した。
 そして、残った「予見」、「反省」、「思弁」の三つの語句を正解の候補とし……。
 「過去」→「未来」←「現在」
 ――と見合うように、
 石像を「反省」、「予見」、「思弁」の順番に並べて、台座の上に押し上げたのだった。
 すると、まばゆい光が煌めいた。
 あまりの神々しさに一行は発狂せんばかりの恐怖を味わったが、ただちにそれが邪悪な存在によるものではないことに気がついた。
 ジルチェフの封印が解かれたのである。ジルチェフはただちに一行の考えを読みとると、そのまま、ヘリオンたちのいた場所まで一行をテレポートした。
 溶岩の中から、目をみはるほど巨大なドラゴンが現れた。パーティの目の前で、大きく口を開けている。
 チャンスは今しかない、とのバーリンの叫びを受けて、一行は事の次第を理解した。このオパール・ドラゴンこそが、ジルチェフの溶鉱炉なのだ!
 ニュートラル(中立)のドラゴンは、それを操る者によって、ローフル(秩序)にも、ケイオティック(混沌)にも変わりうるのだ。
 一行は、手持ちの武器を次々とドラゴンの口中に放り込んだ。
 危うく失敗しかけたものの、タモトの手にあった「ドラッグ・ネット」(引き寄せの網)や、リアの矢を使って、無事全てを投入することに成功したのだった。
 辺りが激しく揺れた。マグマが吹き上がる。
 侵入者を撃退しようと、バリムーアらがドラゴンを暴走させてしまったのだ。
 オパール・ドラゴンのブレスがパーティを焼き尽くさんとする、まさにその瞬間、解放されたジルチェフが、一行をテレポートさせた!
posted by AGS at 05:47| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.14

 2023年2月9日配信の「FT新聞」No.3669で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.14が掲載されました。今回のサブタイトルは「ナイトシェイド」。クラシックD&Dを黒箱までお読みの方ならばご納得いただけると思います。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.14

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』第2版から一部ルールを導入しています。
 さあ、マスタールールセット(黒箱)の目玉クリーチャーを交えた大決戦です。アーティファクトの特殊効果も含め、高レベル呪文が乱れ飛びます。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498095660.html)。キャンペーン第13話「大伽藍」の後半〜第14話「ナイトシェイド」の前半となります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、7レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、8レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、7レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、7レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、8レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、8レベル。

バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。一応、パーティとは呉越同舟。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。留守だったはずが……。
ゴルサー/獣人族ヒュターカーンを操っている存在。正体はヴァンパイア。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。
プファール/ヒュターカーンが崇めるイモータル。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
ストッドス/バーグルの部下である邪悪なクレリック。
?????/遂に姿を見せたキャンペーンの最終ボス。

●トラルダーの歌

 トラルダーたちは古来より伝わる詩を吟じはじめた。
 それは古い伽藍にたてこもる戦士たちの孤独を詠ったものだった。
 捕らえたヒュターカーンたちに聞き出したところ、一行が向かっていた伽藍は確かにトラルダーたちのものらしい。
 しかも、ゴルサーは今や、プファール神を呼び出す前の第一段階として、強力なアンデッドであるところのナイトシェイドを呼び出してしまっていた。
 これは予定外! 彼らは、急遽、「伝達の太矢」を使って、バーグルの力を借りることにした。
 約束を違えることなく、魔術師は現れた。強力な仲間を連れて。
 そう、そこに立っていたのは、「常勝将軍」ことグレイの父、オーガン将軍だったのだ……。

●突撃

 ナイトシェイドを呼び出そうと怪しい儀式を執り行っているゴルサーの野望を食い止めるため、一行は神殿内に突入する。
 バーグル、オーガン将軍、そして邪悪な僧侶ストッドスが加勢してくれる。
 巨大な扉を開けると、巨大な魔獣が二体たたずんでいた。スフィンクスとネクロゾーンだ。その奥、神殿の中央では、巨大な漆黒の人影が実体化しようとしている。
 周囲には、ゴルサーをはじめヒュターカーンの術者たち三人が、魔力を送っている。
 そして、ナイトシェイドの手には、「ヒュターカーンの剣」が握られていた……。

●激戦

 まっすぐナイトシェイドに向かって突撃するオーガン将軍。
 タモト、ヨランダは術者に斬りかかる。
 リアはエルブン・ボウで、グレイは魔法で援護射撃。
 シャーヴィリーも「トリック・アニマル・パック」で大蛇を召喚し、微力ながら戦闘に貢献する。
 だが、敵もさしたるもの。スフィンクスは咆吼をあげ、ジーンを恐慌状態に陥れる。
 ネクロゾーンは、なんと、こともあろうにストッドスを睨み殺してしまった。
 そのうえ、ナイトシェイド(ナイトクロウラー)の攻撃力は圧倒的で、瞬時にオーガン将軍を半殺しの目に遭わせてしまった。
 術者のコントロールを逃れて暴走を始めたナイトシェイドは、「武器」を持つ、タモトとジーンに狙いを定める。
 他方、当事者のバーグルは保身に走り、自分に「アンチマジック・シェル」、「ミラー・イメージ」、「プロテクション・フロム・ノーマルミサイルズ」をかけ、一行に協力しようとするそぶりすら見せない。
 そのうえ、ナイトシェイドが暴れ始めると、たちまち<ディメンジョンドア>の呪文をかけ、その場から消えてしまった。

●ギアス

 怪物が暴走を始めたのを目にし、ゴルサーは直ちにその場を離れた。そして、「プリズマティック・ウォール」のスクロールを用い、自らの周りに七色の壁を作って、緑竜ヴァーディリスに思念を送り始めた。
 ドラゴンを帰還させ、侵入者どもを打ち倒させようというのである。
 ナイトシェイドの猛攻はますます激しさを増してくる。
 だが、瀕死の状態にもかかわらず、オーガン将軍は攻撃をやめようとしない。
 グレイは父親の目に狂気めいた魔法の光を見た。
 そう、彼はバーグルによって、「ギアス」の呪文をかけられていたのである。たとえ死すとも、退くことを許されてはいないのだ。
 だが、憐憫に耽っている暇はなかった。
 ナイトシェイドが呼び出した、ホーントという上位アンデッドに「マジックジャー」の呪文をかけられ、肉体を乗っ取られそうになったのだ。
 しかし、彼の意志は強かった。魔法に抵抗したうえで、ナイトシェイドに新たな攻撃目標を提示すべく、「ファンタズマルフォース」の呪文で、モンスターの姿を作り出したのだ。

●ヴァーディリス襲来

 一方、タモトとジーンは闇の巨人の攻撃をかいくぐりながら、ヨランダと協力し、魔獣と術者たちをあらかた倒すことができた。
 シャーヴィリーは単身攻め入り、なんとか「プリズマティック・ウォール」を破ろうとするが、こちらはなかなかうまくいかない。
 そのとき、背後に轟音が鳴り響いた。
 ――そう、ヴァーディリスが戻ってきたのである。だが、緑竜はその巨体ゆえに、狭い入り口からは首だけしか中に入ることができない。
 一瞬の隙をついて、グレイは「ウォール・オブ・アイス」を打ち出し、その侵入を阻んだのだった。
 ほっとしたのも束の間、なんとヨランダが、ナイトシェイドの痛烈な一撃を受けて倒れてしまった。

●破砕

 それを見て、これまで回復役に回っていたジーンも、『ペトラの嘆きのメイス』を持って戦いに加わることにした。
 ――けれども、遅かった。巨人の一撃を受けて、タモトまでが倒れてしまったのである。
 持ち主の危機を感じて、『ジルチェフの欺きの斧』から「フォースフィールド」が発せられてドワーフを包んだが、ナイトシェイドの手にした「剣」は、その力場をすら破ってしまった。
 タモトは力尽きて倒れ、「斧」は折れてはじけ飛んだ。まさしく絶望的状況である。
 そのうえ、生き残っていた敵の術者が、「メルフズ・アシッド・アロー」などの呪文で、パーティの後方メンバーをちまちまと傷つけ始めた。

●漁夫からの漁夫の利

 しかし、いくらナイトシェイドといえども、その体力は無限ではない。
 ジーンの「メイス」と、リアの実直な射撃によって、巨人はその体を地面に横たえることとなった。
 当然ジーンにも危機は訪れたのだが、なんとか「メイス」の効果である「タイムストップ」(9レベル呪文相当!)を駆使して難を逃れたのだった。
 そして、巨人の手にしていた「剣」は、その傍らに投げ出された。
 ――次の瞬間、バーグルがその前に現れ、「武器」を奪おうとした。
 だが、ゴルサーも黙ってはいない。「プリズマティック・ウォール」を解除し、「テレキネシス」で「剣」を取り寄せようとする。
 二人の魔術師は睨み合い、ここぞとばかりに互いを罵り合う。
 だが、運命のいたずらか、最も早く「剣」を手にしたのは、こともあろうに、かけつけてきたリアだった。
 そして、仲間に合図をすると、自らは「シャドウ・ケープ」の魔力を使ってゴルサーの元へジャンプし、魔術師の背後から襲撃を仕掛けた。「バックスタッブ」である。
 こうして、邪悪なヴァンパイアは塵と化した。
 もう一人の魔術師、バーグル・ザ・インファマスも危機的状況にあった。
 というのも、ジーンの手当を受けて回復したタモトやヨランダ、グレイ、シャーヴィリーらに「ミラー・イメージ」を消され、身を守るものがなくなってしまったからである。
 この「アイアン・リング」の首領は舌打ちし、間一髪で「テレポート」した。

●ヴォイドから現れたもの

 ナイトシェイドの死体が消えていくと同時に、そこからは暗黒の空間が広がってきた。『ヴォイド』(虚無)が、解き放たれてしまったのである。
 「武器」の力を濫用しすぎたせいだろうか。詳しい原因はわからないが、とにかく最悪の事態になってしまった。
 辺りには、ロキの笑い声がこだましていた。
 そして、「ヴォイド」の中から、巨大なドラゴンが姿を現した。
 赤銅色の筋骨隆々とした身体に、赤・青・緑・白・黒といった5本の頭が生えている。邪悪のなかの邪悪、クロマティックドラゴンの王ティアマットが姿を現したのだった。
 今の状態ではとても勝てない。
 観念したパーティは、「アイス・ウォール」を解除し、「ドラゴン・コントロール・ポーション」の魔力でヴァーディリスに迎え撃つよう命じ、「テレポート」のスクロールでその場を離れたのだった。
posted by AGS at 04:14| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする