2022年04月21日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!  Vol.21

 2022年4月21日配信の「FT新聞」No.3375に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.21が掲載されています。新作『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の巻頭シナリオ「“三枚羽根”亭の眠れない夜」や、本日発売「墓穴掘るならご勝手に」が採用している複数プロットのシナリオについて。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.21

 岡和田晃
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 いざ方向を決めると、魔狩人の目の色が変わった。
 シグマーの加護というよりは、動物的な直感としかいえない気がする。
 近くに、混沌がいる。
 私には「魔力の風」が変化するのが見えた。どす黒い「風」だけではない。
 無実の罪で殺された霊魂のようなものが、彼の回りを取り巻いているのだ。
 けれども、魔狩人は悪びれる様子もなく、そのような「尊い犠牲」はやむをえないとでも言うかのように、髪をかきあげ、舌なめずりをした。
 こいつは、自らの正義を確信している。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●「複数の思惑のぶつかり合い?」

 2022年3月末に発売された『ウォーハンマーRPG』のシナリオ集、3冊。
 そのうち『ライクランド綺譚』の概要は、本連載の前回で解説しました。
 引き続いて『眠れぬ夜と息つけぬ昼』を紹介していきたいと思います。
 前回もお話しましたが、このシナリオ集に収録されている作品は、すべてが複数プロットの作品となっています。
 『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の序文では、ベテラン・デザイナーのグレアム(グリーム)・デイビス曰く、
「舞台においては古代ローマ時代から喜劇に必要不可欠であった複数の思惑のぶつかり合い、それによって生まれる狂騒をロールプレイで表現したいと思った」とあります。
 古代ローマの喜劇というとセネカやプラントゥス、テレンティウスの名前を思い浮かべる人もいらっしゃるかもしれませんが……日本の落語なんかでもしばしば見受けられる、「複数の思惑のぶつかり合い」や「すれ違い」から生まれるおかしみが大きなテーマになっていると言えるでしょう。
 単なる群像劇というわけではありません。小説における群像劇が、しばしば作者の考えをたくさんのキャラクターへ断片的に分散させているのに比べ、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』は、一つのシナリオに7本のプロットが存在したとして、それらのなかには交差する内容のものも一部含まれますが、基本的には個々のプロットは独立しており、相互に関わりはありません。
 ゆえに、こう言い換えてもかまわないでしょう。そもそも7本のプロットがあるのであれば、シナリオに登場するNPCたちの思惑は、少なくとも7通りが考えられるということです。そして、それらのシナリオは結局のところ、互いに交わらないことがしばしばです。
 そうした複数の思惑のぶつかり合いは、必然的に狂騒状態を招きます。
 このドタバタが、スラップスティックな面白さを生むというのはもとより、先読みが利いてしまう類型的なシナリオとはまったく異なったストーリー体験をもたらします。
 そう、複数プロットのシナリオは、どうしようもなく"リアル"なのです。
 4月には、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』にも通じる複数プロット・アドベンチャー「墓穴掘るならご勝手に」もコノスから発売になったばかりです。

●個別の小冒険が拡散されていく構造

 そうは言っても、複数プロットのシナリオにおける基本的な考え方に慣れていないプレイヤーは、ある事件の手がかりが、別の事件にどのように関わってくるのか。ともすれば、それが見えずに苦しむことになります。
 そのため、基本的な考え方を押さえておくのは重要です。
 例えば、シティ・アドベンチャーでは、しばしば陰謀劇が扱われます。
 相互にまったく関係のないかに見える事件が、背後の黒幕によって操作されていた……などという話も、まるで珍しいものではないのです。
 ところがマルチプロットのシナリオでも陰謀劇は扱われますが、事件Aと事件Bが、そのまま単線的に結びつく、ということはほとんどありません。
 「事件Aの解決に乗り込んでいるさなか、事件Bが起きた。相互に舞台は同じだけれども、最後まで何の繋がりもなかった」ということもままあります。
 このことがかえって、世界はPCたちだけで動いているとわけではないと、広がりやリアリズムをもたらしているかのように思うのです。
 個々のプロットは、それぞれ別個に説明されたうえで、どのタイミングで関わってくるのかが時系列で整理されていますが、あるプロットの解決に関わるなか、別のプロットが発動するので、必然的に各々のプロットは個別の小冒険として処理せざるをえなくなります。
 こうした個別の小冒険が有機的な繋がりを持つものの、それが単一のストーリーに収斂されるのではなく、逆に拡散される構造になっているのが複数プロット方式の面白いところです。

●『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の基本設定

 あまりに抽象的すぎるとイメージが沸かないかもしれません。
 そのためか、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の基本設定は、巻頭に収められている古典的なシナリオ「"三枚羽根"亭での眠れない夜」をベースにしています。
 裏表紙の解説の現物は、こんな具合になっています。

 アンボスシュタイン家のマリア=ウルリケ・フォン・リーベヴィッツ女伯と、オットー・フォン・ダメンブラッツ男爵との酷烈な面罵合戦についてお話しよう。古今東西のいかなる物語にも似ていない、驚天動地の壮大きわまる劇(ドラマ)で、邪悪な魔女、冒涜的なディーモン、信用ならない暗殺者、悪辣極まりない殺人と、みどころ満載。むろん極めつけに耳目を集めるのは、ナルンの女候と一緒に過ごす、オペラの夕べ。エンパイアが誇る名優中の名優、デトレフ・ジールックが、舞台で我々を愉しませてくれる! 天井桟敷を唸らせる会心の作だ。さあさ寄ってらっしゃい、開幕だ……。
 『眠れぬ夜と息つけぬ昼:ウォーハンマーRPG シナリオ集』には、『ウォーハンマーRPG』のベテラン・ゲームデザイナーであるグレアム・デイビスの手になる5本の卓越したシナリオが収められている。これらの血湧き肉躍るアドベンチャーは個別にプレイすることも、組み合わせて5部構成の叙事詩的なキャンペーンとすることも可能である。そこでは、2つの貴族家門の諍いがライクランドをまたにかけた衝突にまで発展し、我らが大胆不敵な英雄たちが巻き込まれる。さらにこの『眠れぬ夜と息つけぬ昼』では、プレイヤーが選べるまったく新しい種族であるノームと、海千山千の冒険者さえも夢中にさせるバラエティに富んだ酒場でのゲーム(パブ・ゲーム)各種も紹介されている。

 「"三枚羽根"亭の眠れない夜」は、『ウォーハンマーRPG』初版(『さまよえる魂』所収、柘植恵訳)、第2版(『略奪品の貯蔵庫』所収、鶴田慶之訳)でも、それぞれ邦訳されましたので、ご存知の方も多いかもしれません。
 これは一度プレイしたら忘れられない作品で、実はファンタジーRPGならば他のシナリオにコンバートさせることも可能。
 実際、私が最初に「"三枚羽根"亭の眠れない夜」を初めて遊んだのは、『ウォーハンマーRPG』ではありませんでした。
 ヒストリカルRPG『混沌の渦』のシナリオにコンバートしたものを、レフリー(=ゲームマスター)としてプレイしたのです。
 運命点のルールはなかったので若干シビアで、プレイヤーからは「三十分ごとに人が死んでいく」(注:やや誇張気味ですが)、「複雑に絡み合ったと思われるプロットが、実は互いにさっぱり関係なかった」なとどいう感想をいただいたものでした(注:実際には関係あります)。

●中心キャラクター、マリア=ウルリケ女伯

 「"三枚羽根"亭の眠れない夜」のプロットのもっとも基礎となるものは、アンボスシュタイン家のマリア=ウルリケ・フォン・リーベヴィッツ女伯です。
 彼女はオールド・ワールドの有名人、ナルンの女侯エマニュエル・フォン・リーベヴィッツの姪。
 彼女らはオットー・フォン・ダメンブラッツ男爵に深く恨まれています。男爵は自分の父親が、彼女らに殺されたと信じており、裁判沙汰になっているのです。
 しかも、この裁判といっても、昔ながらの決闘裁判。戦いで勝った方に正当性があるというもの。
 わざわざ代理戦士を連れて歩いており、その代理戦士が複数プロットの序盤から出ずっぱりで、否が応でもPCたちは関わらざるをえなくなります。
 初版のシナリオにおいては、このマリア=ウルリケ女伯は、所持品に「多すぎて、書ききれない」と書かれていることからもわかるとおり、わかりやすい典型的な貴族として表象されていました。
 実際、私がGMしたときも、貴族ならではの鼻持ちならない感じや、逆に世間知らずで細かいことを気にしない様子を強調してプレイしていました。
 第4版では、マリア=ウルリケ女伯や、エマニュエル女侯には、それぞれ美麗なイラストが添えられ、一気に親しみが湧く仕掛けがもたらされているとともに、若干マイルドになった印象があります。
 そのぶん、時系列で起こるイベントは4版がもっとも情報量が強化されており、追加ルール「パブ・ゲーム」をさっそく活かすことのできるようなイベントが強化されています。
 単にキャラクターをコテコテなものとして扱うよりは、より外堀を埋める形で、存在感を増すような仕掛けになっていると申しましょうか。

●パブ・ゲームが充実

 「パブ・ゲーム」とは、実際に中世や近世で遊ばれていたようなゲームが、オールド・ワールドではどう遊ばれていたのかをまとめて紹介するもの。
 中世フランスに実際に存在したダイス遊び「アザール」をモデルとした「アル・ザフル」から、おなじみアーム・レスリングやダーツ、さらにはドミノといった馴染み深いもの、スキットル(蒸留酒を入れる携帯用容器)を倒す「仕立て屋に突っ込む獣(ビースト・アマング・ザ・テイラーズ)」から、「セレヴィス」や「緋色の皇后(スカーレット・エンプレス)」と呼ばれるカード・ゲームまで、15種類のゲームが紹介されているのです。
 感心したのは、オールド・ワールドにおけるカード・デッキがきちんと別立てで紹介されていること。
 実は、とりわけ英語圏において、トランプやタロット・カードの歴史は一代潮流をなしており、充実した先行研究があります。ここをリアルにするというのは、架空世界に説得力を与えるうえで、たいへん有効なのですね。
 こうした「パブ・ゲーム」のほか、舞台となる宿屋の設定や登場人物、さらには続くシナリオにおける裁判所やオペラ座の様子が大変生き生きと描かれているのが、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の特徴ですが……そちらは次回、じっくり確認してみるといたしましょう。
 

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『ウォーハンマーRPG 眠れぬ夜と息つけぬ昼』
 発売日:2022年3月
 価格:4,800円(+税) 書籍発売中/PDFデータ版発売予定

『墓穴掘るならご勝手に』(ウォーハンマーRPG 複数プロット・アドベンチャー)
 発売日:2022年4月
 価格:700円(+税) *PDFデータ版のみ
 https://conos.jp/product/wh-its-your-funeral/

『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/

2022年04月12日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.4

 2022年4月7日配信の「FT新聞」No.3361に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.4 が掲載されました。アザー・プレーンの冒険から、「三つの太陽」城があるペンハリゴンの街へ。ちなみに「ザ・ウゥープス・マン」はT&T関係より出張しております。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.4

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料の各種を参照しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/486114465.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第5話「ヴォーテックス」の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/詩人ドワーフ、3レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、4レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、3レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、2レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、4レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、死亡中。

フェドーネ/ヴァリア・エルフ。
「ルルンの」ヨランダ/絶世の美女にして評判の踊り子。ブラック・イーグル男爵領からの避難民にして、ヨブへの依頼主。
バリムーア/謎に満ちた、邪悪な存在。
ザ・ウゥープス・マン/正体不明の道化。
ジョン・セルター/元・グリフォン聖騎士団員。
アルフリック/カラメイコス大教会の高司祭。
ヘルムート/若きグリフォン聖騎士団員。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
カラノス/ケルヴィンの街を拠点とする船頭。
ミーシャ/船着場の主。
ピョートル/サキスキンの農場主。
アルファナ/ピョートルの義理の妹。
クズマ/ピョートルの母。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。
       
●メダリオン発動

 新たな冒険に打ち震えたのはいいものの、さて、どうするべきか。
 ヨブの死体を目の前にして、またもや途方に暮れるパーティ。
 ゴブリンは多少の財宝を所持しており、「魔法の10フィート棒」という特殊なアイテムをも隠し持っていた。
 が、依然として死人は死んだままである。
 ……そうしていると、ヨブの首にかけていたメダリオンが徐々に光り始めた。
 輝きは瞬く間に大きくなり、彼らをまるごと包み込んだ。
 
●ワーム・ホール

 パーティは、灰色の霧の中にいるのに気がついた。
 霧は、まるでダンジョンの通路のように縦に伸びている。
 ヨブを含む(!)パーティは、まるで海の中を泳ぐように、上へ上へと進んでいった。
 時間と空間が一体になったような、奇妙な感覚。
 ところどころに渦が巻いており、その中から4色のエレメンタルが出入りしているような不思議な光景が広がる。
 目の前が明るくなってきた。
 吸い寄せられるように、一行はその出口らしきものへと向かっていく。
 一瞬だった。目の前が真っ暗だ。
 星ぼしが瞬いている……。
 
●フェドーネの島で

 美しい女性が微笑んでいる。
 伝説のエルフの女王を髣髴させる容貌。
 彼女はフェドーネと名乗った。
 そのときパーティは、まるで「フライ」の魔法をかけたときのように、自分たちが宙に浮かんでいることに気づいた。
 フェドーネはパーティを星ぼしのうち、特定の一つへと導いた。
 次の瞬間、目指す場所に到着していた。
 そこは、小さな島だった。
 全体が、ほのかな輝きを帯びている。
 怪訝な顔をしているパーティに、フェドーネは説明する。
 −−ここは、ヴァリア・エルフの島なのです−−
 ヴァリア・エルフ! 
 現在、カラメイコスの地に住むエルフは、そのすべてがカラーリー・エルフという種である。
 ヴァリア・エルフは伝説の中にしか登場しない存在なのだ。
 フェドーネは、ヨブがかけていたメダリオン(Vol.3で「ルルンの」ヨランダからもらったもの)が、彼らをここへと導いたのだと説明した。
 そして、口をはさむような間も与えず、奥に去ってしまった。

●生命の樹

 慌てて後を追ったパーティが目にしたものは、天までとどかんばかりに聳え立つ巨大な樹木だった。
 その周りには、数人のヴァリア・エルフが集まり、敬虔に、祈りを捧げていた。
 −−これは、生命の樹(トゥリー・オブ・ライフ)です。そしてこの樹こそが、我々の魂なのです。同時に、あなたがたの魂の一部でもあります−−
 フェドーネが、透き通るような声でそう告げる。
 彼女によれば、この樹は、このプレーン(次元界)を支えているもの。
 同時に、樹は他のプレーンにも存在し、それぞれが、各々の属する次元界を支えているのである。
 ようやく一行にも、彼女の話が飲み込めてきた。
 彼らが今いるのは、プライム・プレーン(物質界)とはかけ離れた別の次元界(アザー・プレーン)なのである。
 ヨブのかけていたメダリオンの魔力が、着用者の死とともに解き放たれ、周囲をも巻き込み、フェドーネやヴァリア・エルフの住む領域まで導いたのだ。
 それを聞いて、魔術師のグレイが叫んだ。
「わかったぞ、僕らは、ワーム・ホールを通ってきたんだ! でも、奇跡だ! ヴォーテックスに飲み込まれずに、アザー・プレーンに行くことができるなんて!」 
 グレイの説明によれば、別のプレーンに渡ることはとても難しいらしい。
 たとえ高位の魔法使いであったとしても、ワーム・ホールと呼ばれる、プレーン同士を結びつける通路を永久に彷徨ったり、ヴォーテックスと呼ばれる渦の中に巻き込まれてしまうのが関の山なのだという。
 おまけにワーム・ホールには、ブラック・ボールやプレーナー・スパイダーといった奇妙なモンスターはおろか、下位のイモータル(不死者、神)までもが跳梁跋扈しているのである!

●躊躇

 グレイの言葉を肯うと、フェドーネは続ける。
 −−プライム・プレーンにも、いくつかの生命の樹は存在し、文字通り世界の大黒柱となっています−−
 そこでフェドーネは話を区切り、そばにいた別のエルフに声をかける。
 エルフはうなずくと、すぐに透明な容器を持ってきた。
 中には、ほのかに青く色づいた液体が入っている。
 −−これは生命の樹の樹液です。ヨブ、あなたの肉体は現在、徐々にプライム・プレーンを離れつつあります。
 他の皆さんはイセリアル体(幽体)となっても、戻るべき肉体がありますが、あなたは違います。
 さあ、これをお飲みなさい。そうすれば、一度だけあなたの肉体は甦り、元通り生命を取り戻すことができるでしょう−−
 ヨブは差し出された容器を受け取った。
 エルフ流の、見事な細工がしてある。
「エルフたちにもこのような芸当ができるとはな」
 ドワーフのタモトが毒づいた。
 けれども、ヨブは躊躇している。
「なあ、俺がこれを飲むと、なんか面倒ごとに巻き込まれちまうんじゃないか? せっかく生き返っても、それじゃ、ちょっとなあ」
 グレイが口をはさむ。
「あんた、ここまで来ていったい何を言ってるんだ」ほとほと呆れているようだ。
あらゆるものごとを損得勘定に換算する彼の性根に憤っていると言ってもいい。
「みんな、あんたが死んでどれだけ悲しんでいたと思うんだ」
 リアが、グレイの頬を叩いた。
「何するんだ!」
 激高するグレイに、リアが言い聞かせる。
「そうじゃないの。ヨブは、私たちのことを考えて言っているのよ。
 生き返りたくない人なんていると思うの? 
 ヨブは自分が生き返ったおかげで、私たちがこれ以上面倒に巻き込まれたりするのを避けようとしているのよ」
 ヨブは何も答えない。
 フェドーネが静かに口を開く。
 −−お答えしましょう。これを飲めば、あなたは、生命の樹の一部となるのです。
 いや、この表現では正確でないかもしれませんね。つまり、あなたは、生命の樹の力を分け与えてもらうのです。
 そしてそのために、あなたは樹に仕えるという義務を負うことになるのです。
 義務と言っても、そこのエルフたちのように、樹の世話をするわけではありません。
 あなたがたがすることは、樹が外敵によって汚されていくのを防ぐことなのです。
 私が「クリスタル・ボール」を用いて得た情報によれば、あなたがたが住んでいるプレーンの生命の樹が、大いなる悪によって穢されようとしています。
 あなたがたのプレーンでは、樹は、アルフハイムと呼ばれる森の中にあります。
 他にもいくつかあるようですが、はっきりと見えるのはそこだけです。
 『バリムーア』という名を除いては、詳しい情報すら得られません。
 魔力に満ちた、邪悪な存在だということはわかるのですが−−
 ここでヨブは振り返った。
 皆は彼の意図を悟り、静かに首肯した。
「わかった。条件を呑もう。
 しかしだ、俺が樹を守ろうとすれば、あいつらも危険に巻き込まれることになるのではないか?」
 再び、間。フェドーネが、厳かに告げた。
 −−わかりました。では、あなた方全員に、樹液を飲んでいただきましょう。
 生命の樹の力は偉大です。生者には、新たなる活力を与えるのです−−
 フェドーネは、厳かに告げた。
 かくして一行は、生命の樹の恩恵をあずかることとなった。
 ヨブは無事甦り、残りのメンバーは、ヒットポイントの上限が2ポイント上がるという、思わぬ成果を得る(クラシックD&Dでは、これはとても大きい)。
 生命の樹の恩恵は、実に偉大であった。

●恐怖

 しかし、行きはよくとも帰りは怖い。
 忌まわしいとは、このような出来事を記す際に用いられる言葉だろう。
 フェドーネが作ってくれた、特殊な「コンティニュアルライト(持続光)」の明かりに従って、パーティは、再びワーム・ホールの中をたゆたっていた。
 すると突然、彼方のヴォーテックスから七色の煙が吹き出たかと思うと、こちらに近づいてきて、ゆっくりと人型を取った。
 緑の仮面のようなものを身につけた、奇怪な格好の男だ。耳障りな声を響かせて、彼は言った。
 「ハロー! いや、おはようというべきだったかな? それでは、おはよう、こんにちは、明日の分のおはよう!」
 あっけにとられる一行。
 「あれー? 聞こえないのかなあ? ま、とりあえず自己紹介しよう。
 私の名前は、ザ・ウゥープス・マン。
 ん? ウォォープス・マンだったかな? 
 ともかく、そういう名前だ。思い出した。
 『悪魔も恐れぬ男』。もしくは『神にも道を譲らぬ者』とも呼ばれておるな。
 イカす男は、いくつもの名前を巧みに使いわけるのだよ」
 あまりにおかしな男の様子に、恐ろしい怪物との遭遇を予期していたパーティは拍子抜けしてしまった。
 ひょっとしたら、こいつが「バリムーア」か? などと邪推する。
 そんな一行の思惑を顧みることもせず、男は勝手に、つじつまの合わない言葉を喋り続ける。
 男はとにかく、「同じ立方体でも、見る角度によって、全く別の図形に変わる」がごとく、ただひたすらに、奇怪な発言を続ける。
 そして、彼がターゲットに選んだのはリアだった。
 ……。
 永遠とも思われる時間が過ぎ去った。
 男は、現れたときと全く同じような調子で、ヴォーテックスの向うに消えていった。
 リアは憔悴して、発狂寸前だったものの、実質的な損害は全くない。
 パーティは、男が何を意図していたのかが最後まで全くわからなかった。

●生還

 ともかく、パーティは無事、プライム・プレーンに戻ってきた。
 ピョートル一家が、一行の様子を心配そうに見守っている。
「よかった!」
 パーティが意識を取り戻したのを見て、アルファナが叫んだ。
 ピョートルや、クズマも同様に喜んでいる。
 クズマなどは、ゴブリンどもを裏で操っていた邪悪な魔法使いどもが復讐を仕掛けたのではないかといぶかしんだりしていたほどだ。
 が、サキスキン農場の面々も、パーティが次々と語る奇妙な体験を聞かされて、半信半疑ながらも事の真相を理解し始めた。
 何より、死んだはずのヨブが実際に甦ったことが印象強かったようだ。

●シャーヴィリー、グリフォン聖騎士団に入団す

 一方、シャーヴィリーは、「レイズ・デッド」の後遺症を引きずることもなく、ようやく部屋の中を歩き回ることが出来るほどにまで回復を遂げていた。
 アルフリックから、パーティの面々が旅立つときに置いていった手紙を渡され、ことの成り行きも理解した。
 そんな彼女の心を読んだかのように、アルフリックが問い掛けてくる。
「君は、これからどうするつもりだ?」 
 シャーヴィリーは答える。
「とりあえずウルフホルド丘陵に向かい、仲間と合流するつもりです」
「それならば、いい案がある」
 アルフリックが提案する。
「グリフォン聖騎士団に入隊してはどうだ」
 突然の一言に、シャーヴィリーは目を白黒させる。
 それもそのはず、聖騎士団は、経験を積み、厚い信仰心を有した者でなければ入隊はかなわないのだ。
「大丈夫だ」アルフリックはウィンクをする。
「なにもおまえに、騎士になれ、と言っているわけではない。
 どうせ他のメンバーと合流するならば、一人で出かけるのは心細いから、聖騎士団の連中と一緒に行ってはどうか? と言っているのだよ。
 隊長のアリーナ・ハラランには私から事情を話しておこう。とりあえずは従者という身分での入隊となるのだけれども、それでよいかな?」
 断る理由など、あるはずがなかった。
 かくして、シャーヴィリーは、聖騎士団の従者として、ウルフホルド丘陵を越え、一路ペンハリゴンの街へと向かうことになったのである。

●船着き場の戦い

 結局、ピョートル一家は、この地で暮らしていくことをあきらめ、一時ケルヴィンに住む親戚の方に身を寄せるという。
 パーティも、とりあえず彼らに同行し、ミーシャの船着場まで戻ることにする。
 特に迷うこともなく、すんなりと進むことができた。
 船着場に近づいていくと、何やら騒がしい。
 どうやら、戦いが起こっているらしい。慌てて近づいていくと、叫び声が上がった。
「助けてくれぇ!」カラノスの声である。
 バグベアー(巨大で毛むくじゃらのゴブリンのような生き物)が4体、カラノス、それに船員2人と戦いを繰り広げていた。
 周りには、切り刻まれたモンスターや人間の死体が散乱している。
 カラノス側がどう見ても劣勢である。慌てて、パーティは救助に向かう。
 クズマの「ブレス(祝福)」の魔法で勢いづいた一行は、カラノスを下がらせ、バグベアーどもに切りかかる。
 グレイの「ライト」は抵抗されてしまったものの、戦士たちの活躍やリアの「バック・スタッブ(背後からの一撃)」の成功もあって、辛くも一行は勝利を収めることができた。
 船員のうち、一人はバグベアーの手にかかって息絶えてしまったが……。
 ジーンやクズマがカラノスを回復させ、事情を聞くと、この船着場も、農場と同様にモンスターの襲撃にあったらしい。
 そして、今や生き残っているのは2人だけになってしまったのだ。
 ジーンがミーシャの死を告げると、カラノスはいっそう意気消沈したようだった。
 やむをえず、カラノスもとりあえず生き残りの船員とともに、ケルヴィンに引き上げることとなった。
 皆には、そのための路銀として、モンスターどもが持っていた財宝と、ミーシャが溜めこんでいた金を山分けすることにした。カラノスが呟いた。
「ミーシャは天涯孤独の身の上だったからな。わしらが使わせてもらっても罰はあたらんはずじゃ。
 特に、ミーシャの死を知らせてくれたおまえさんがたにはな」

●緑竜ヴァーディリス

 カラノスがケルヴィンに戻ってしまい、河をさかのぼっていく手段がなくなってしまった。再びケルヴィンでこぎ手を捜してもいいのだけれども、盗賊ギルドの「アイアン・リング」が心配だ。
 パーティは色々話し合った末、今度は、沼地を避けて、セレニカ(隣国、ダロキン共和国の都市)へと続く街道を使って、ペンハリゴンに向かうことにした。
 けれども、途中でデュークス・ロードを離れ、ウルフホルド丘陵を越えていかなければならないことには変わりがない。
 丘陵に差し掛かったとき、一行はとんでもないものを目にした。
 遥か遠くに、ヘラジカの群れが草を食んでいたのだが、突然、巨大な緑色の生き物が飛来して、シカどもに攻撃を仕掛けたのである。
 パーティにはピンと来た。カラメイコス大公国に住むものならば、誰しもが耳にしたことのある、緑竜ヴァーディリスの姿であった。
 幸いにして、ドラゴンはこちらには気づいてないらしい。
 シカを屠り、その肉を喰らうことに満足しているようである。
 パーティは慌てて身を隠し、先を急ぐのであった。

●シャーヴィリーの道程

 シャーヴィリーが仕えることになった騎士は、ヘルムートという名の、快活な若い男であった。
 叙任を受けてからまだ間もなく、意気盛んな様子である。
 騎士団の理想に燃え、輝かしい未来を作るために全力を投じる覚悟でいる。
 ウルフホルドへと向かう道程で、二人はさまざまなことを話すようになった。
 なかでも、ヘルムートのジョン・セルターへの傾倒ぶりは顕著であった。
「彼が神から与えられた武器、『オルトニットの槍』を持つにふさわしい人物でなかったとは、到底信じられない話だよ。
 彼がヴァーディリスを前にして怖気づいたという話くらい、荒唐無稽だ。
 私は幼い頃、よくセルターにお世話になったものだが、彼ほど偉大な騎士はこの世にいないよ」
 また彼は、教義を純粋に信じていながらも、教会のありかたには一抹の不安を感じていた。
「最高司祭のオリバー・ジョズエット師はもう高齢だ。彼がもし亡くなるようなことがあれば、教会が二分してしまうことにもつながりかねない。
 特にアルフリックは問題だ。確かに善人ではあるが、頭が固すぎる。
 もし、彼が最高司祭になるようなことがあれば、別の教団と争うようなことにもなりかねない」
 シャーヴィリーには思い当たる節があった。
 一度、カラメイコス教会に向けて、何者かによって操られた羽虫の大群が放たれたことがあったのだ。
 アルフリックによれば、それは、ステファン公爵をハラフ王の生まれ変わりだと信ずる狂信者の集団、「ハラフ教会」の仕業という。
 しかし真相はわからず終いだった。
 そして彼女は、そのとき、宗教の根深さに触れたように思った。

●パーティ再会

 聖騎士団の快進撃は止まらなかった。
 すさまじい機動力や魔力を生かして、次々と丘陵に巣食うルースター族のオークどもや、オーガー、ヒル・ジャイアントなどを駆逐していく。
 ようやく騎士団の暮らしにも慣れてきた頃、シャーヴィリーは、丘陵の一帯で騎士団が休息しているときに、戦いの物音を聴きつけた。
 その敏捷性を生かして、最近では、シャーヴィリーは騎士団の斥候という役割も与えられていたのだ。
 近づいていくと、両手に光の球のようなものを携えた、ボロボロのローブを着たようなモンスターと、冒険者たちとが戦っていたのが目に入った。
 知らず、声が出た。
 そう、モンスターと戦っていたのは、シャーヴィリーの仲間たちだった
 敵が単体ということもあって、すぐさま戦闘は終了したが、彼らがこちらに気づいた様子はない。
 大声を出してシャーヴィリーが近づいていくと、エルフの姿に気づいた向こうも、にこやかに手を振った。

●謎のドワーフ

 ようやく合流を果たした一行。
 しきりに再会を祝う。
 話しているうちに、シャーヴィリーとパーティとが出会えたのは、全くの偶然だということがわかってきた。
 野外生活に詳しいジーンが道案内を買って出たものの、気がついたらコースから大きく外れてしまったためである。
 シャーヴィリーの方は、タモトの隣にいるドワーフは誰かが気になった。
 シャイなタモトが躊躇しているうちに、相手が快活な調子で話し掛けてきた。
 彼はドワーフの国ロックホームの使節バーリンで、道に迷い、モンスターに襲われていたところをパーティに助けられたということだ。
 バーリンを仲間に加えた一行は、グリフォン聖騎士団と合流し、大所帯ながらも移動を始めた。
 ヨブがモンスターの手から、謎の指輪(正体は「トゥルース・リング」)を奪うなど、騒動は尽きなかったが……。
 無論シャーヴィリーは、ヘルムートやアリーナに、「仲間と再会したため、これからは騎士団とではなく、仲間たちと行動をともにしていきたい」と話しておくのを忘れなかった。
 二人は、快く彼女の退団を認め、今までの功績をねぎらった。

●「三つの太陽」城

 とうとう、ペンハリゴンが見えてきた。
 眼下に広がる広大な城下町。
 要塞を思わせるほど堅固な城の外観。
 ヘルムートが説明してくれる。
「城の向こう側に聳えているのが、腰抜け姉妹と名づけられている峰です。日の出の際には、山向こうからのぼってくる太陽が、城によって三つに分けられる様が見えることでしょう」
 雄大な光景を前にして、パーティは自分たちの使命の大きさを痛感した。

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2022年03月30日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!  Vol.20

 2022年3月24日配信の「FT新聞」No.3347に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.20が掲載されました。話題の公式シナリオ集3冊刊行、中でも『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』の概要、ユーザーの方々から私に寄せられた声を紹介しています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.20

 岡和田晃
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 −−ここはチーズ店に潜入するのが良さそうだ。
 そう決めたのは、魔狩人の嗅覚に由来する。
「味がよいことで評判のチーズ店だそうだが、混沌の臭いがするんだ」
 と、フレイザーは鼻をひくつかせる。
 まさに動物的な勘というほかなく、わたしは呆れた。
 けれども、すぐに考え直した。魔狩人の経験に信頼を置くのも悪くなさそうだ。
 彼らははた迷惑だけれども、常に前線で混沌と戦っているのは事実だから……。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●えっ、3冊もシナリオが出版!?

 2022年3月、『ウォーハンマーRPG』第4版のシナリオ集が、3冊発売になります!
 −−ええと、にわかには信じられないかもしれませんね。
 大事なことなので、もう一度言います。
 2022年3月、『ウォーハンマーRPG』第4版のシナリオ集が、3冊発売になります!
 かつて本連載で、RPGのシナリオというものは、ゲームマスターしか買わないものとみなされがちで、それゆえに商品としては苦戦しがちだということを書きました。
 けれども、シナリオが充実しなければ、そのRPGの普及は難しいものがあります。
 卵が先か、ニワトリが先か。
 こうしたダブル・バインドに、送り手側であるプロのクリエイターはもとより、受け手側であるユーザーも、しばしば泣かされてきたのが現状です。
 RPGの王道はDIY精神でシナリオを自作していくことなのですが、さりとて無から有を生み出すことはできません。
 そこには素材やお手本が必要です。
 優れたシナリオは、ユーザーがその世界設定で思いつく数歩先の風景を見せてくれ、「このシナリオを実際に回して(運用して)、どのような展開が起きるかを体験してみたい」という希望を惹起するものです。
 読むだけでも愉しいのですが、実際に回してみたくなる。それがRPGシナリオの1つの理想なのではないでしょうか。
 そして、今回発売される3冊は、いずれも「読んで面白く、回して2度愉しい」条件を満たした作品になっていると、太鼓判を押しておきます。

●各シナリオ集の概要

 3月に発売されるのは、以下の3冊となります

・『眠れぬ夜と息つけぬ昼 ウォーハンマーRPG キャンペーン・シナリオ』(待兼音二郎・見田航介・阿利浜秀明・岡和田晃・田井陽平訳)
・『ユーベルスライク冒険集 ウォーハンマーRPG』(白石瑞穂・傭兵ペンギン・吉川悠訳、岡和田晃・待兼音二郎翻訳協力)
・『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』(岡和田晃・田井陽平・見田航介・阿利浜秀明・待兼音二郎訳)

 このうち、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』は、本連載の前回でも言及した、初版時代から『ウォーハンマーRPG』に関わる名匠グレアム・デイビスの手になる作品集(シナリオ5本)で、タイムテーブルやマルチプロットが駆使された複雑で、オペラ座などスケールの大きな冒険を楽しめます。
 新しい種族であるノームに、酒場でのゲームについての追加ルールもあり。著名な『ウォーハンマー・ノベル』でおなじみのあの人も、出てくるかもしれません。全96ページ。
 『ユーベルスライク冒険集』は『ウォーハンマーRPG スターターセット』で紹介されていた街ユーベルスライクとその近郊を舞台にしたシナリオ6本を集成したもの。
 うち5本は英語では独立にPDF販売されていたもので、好評のため、新しいシナリオ1本を加え、単行本として印刷されたもの。キャンペーンや既存の設定に、どううまく噛ませるかという調整案もついています。全128ページ。
 これらは両方とも、印刷版と電子書籍版の双方の刊行が予定されています。
 印刷版は3月28日頃に刊行される手筈で、ホビージャパンの公式サイトやAmazon.co.jpなどの通販サイト、アナログゲーム専門店での予約も、すでに開始されています。
 形態としては書籍ですが、流通は玩具流通なので、書店ではなくゲームショップにアクセスすることを忘れないでくださいね。

●『ライクランド綺譚』詳細

 対して3冊目の『ライクランド綺譚』は電子書籍(PDF形式)のみが刊行され、すでにコノスからダウンロード購入することができます。
 基本、今回出る3冊に収められたシナリオは、内容面ではいずれも甲乙つけ難く、どの作品からプレイしていただいてもかまわないのですが……。
 −−いきなり3冊出て面食らったという人は、『ライクランド綺譚』から入っていただくのがいいかなと私は思います。
 まず、値段が廉価。シナリオ5本で1200円+税ですから、なんと1本264円ポッキリ。
 次に、分量も全36ページと、さほど負担になるほどではありません。シナリオの長さとしても、1回のセッションで終わる短めの話が収められています。
 本作は、同じPDFサプリメントとしてすでに刊行されている『ライクランドの建築』ともリンクする内容で、収録されたロケーションがシナリオとして肉付けが施されています。
 『ライクランド綺譚』単体でも十分にプレイは可能ですが、『ライクランドの建築』があれば、いっそう興趣が増すことでしょう。

●収録シナリオの舞台

 それでは、核心に触れない程度に、『ライクランド綺譚』の収録作を見ていきましょう。収録タイトルの次にあるのは、『ライクランドの建築』で言及された箇所のことを指しております。

・「溺れるなら共に」;ハーツクライン閘門と、閘門管理人住宅を使用;ヴァイスブルック運河を航行するパーティが奇怪な現象に遭遇し、その謎を解く羽目になる。
・「包囲されし宿」;〈飛びかかるペガサス〉亭の地図を使用;魔狩人とその弁舌に熱狂する者らが、混沌がいるのだとパーティの泊まっている宿屋を包囲する。
・「ヴァーレン神殿包囲戦」;ヴァーレン神殿の地図を使用;ビーストマンの襲撃を受けた村。ビーストマンのリーダーと村の要人には思わぬ関係があるらしい。
・「執着は身を滅ぼす」;ヘルベート・ハルツァートの"ひと味違う"チーズ店;謎のチーズを食べてしまった者らが、次々と奇怪な現象に見舞われる。背後には思わぬ輩が!
・「狼の皮を被った羊」;リンブルク農場;農場に長く留まり続け、もてなしを要求するお客をなんとかしてほしいと、冒険者たちが依頼されるが……。

 各シナリオは6〜7ページほどの分量で無駄なく書かれており、シナリオ自作にあたっても、書式の参考になるでしょう。
 必要なデータはNPCや敵のものを含め、すべて完備されていますので、コンパクトながらも、そのまま問題なくプレイできるようになっていますから安心です。

●どういうシチュエーション?

 テストプレイの際には、『ウォーハンマーRPG スターターセット』収録のサンプル・キャラクターでプレイしましたが、バランス面も含め、快適にプレイすることができました。
 『スターターセット』所収のシナリオ「巡回奇譚」は、あくまでもキャンペーンゲームなので、単発のシナリオをプレイしてみたい場合、そちらではなく、『ライクランド綺譚』収録のものを利用するのも一興でしょう。
 コンベンションにはちょうどよい分量ですし、PDFなので、オンライン対応もばっちりです。
 1本は2〜3時間ほどでプレイできるため、時間に余裕のある集まりならば、2本連続のゲーム・セッションというのも可能です。
 ただ、頭からプレイしていく必要はないので、シチュエーションが気に入ったものを運用してみるといいでしょう。

 河川民がプレイヤー側にいるならば、「溺れるなら共に」。
 コテコテの魔狩人を出したいのであれば、「包囲されし宿」。
 ビーストマンをめぐる葛藤を演出したいのなら、「ヴァーレン神殿包囲戦」。
 食べ物をめぐるドタバタ悲喜劇を体感してもらいたいなら、「執着は身を滅ぼす」。
 農場での居候と丁々発止のロールプレイをさせたいのなら、「狼の皮を被った羊」。

 シナリオの傾向としては、ただ単に力押しをしても駄目で、知恵を駆使して状況を切り抜けることが求められます。

●ユーザーの声

 前回でも触れましたが、このあたりのプレイ感覚は、『クトゥルフ神話TRPG』にも通じるところがあるでしょう。
 実際に購入されたユーザーからも、そのような声をいただいております。
 私のもとへ直に届いた感想を、いくつか紹介いたしましょう。

・丹澤悠一さん
『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』ざっと目を通す。これいいな。WFRPはキャンペーンやってるけど、コンベンションで回せるような単発シナリオは書いたことないので参考になる! 単発で遊んで盛り上がったらそのままキャンペーンにしちゃうのもアリよね。
『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』読んで改めて思うのは、WFRPってホラーやミステリー風のシナリオがめっちゃ遊びやすいシステムなんだなぁ。特に単発セッションでは、無理にバトルのバランス取るより、CoCライクなシナリオ作るほうが向いているのかもしれないと思った。

・鋼の旅団さん
シナリオ→スターター→キャンペーンシナリオ→他、多数のシナリオという完璧な順序!
当然、これから期待を寄せるサプリはたくさんあるけれど、まずユーザーが遊ばないと、そもそも始まらないですからね。
できるだけたくさんセッションをする中で少しでも初心者を巻き込むことが、狂信者の使命だな。

・唐島米津さん
「墓穴掘るならご勝手に」いい訳だなぁ(*´ω`*)
(私家訳で「これがお前の葬式よ!」ってしてた)
(なおレイクランド奇譚収録の「執着は身を滅ぼす」の私家訳タイトルは「激ヤバ☆チーズ」でした。センスないなぁ(><))

 岡和田的には「激ヤバ☆チーズ」は大ヒットです!(笑)
 ちなみに、ここで唐島さんが言われた『墓穴掘るならご勝手に』とは、『ウォーハンマーRPG』日本語版公式サイトでPDFオンリーの刊行が予告されたシナリオのことを指します。
 シナリオ構造としては、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』と同じグレアム・デイビスの手になるマルチプロット、タイムテーブルが導入された作品となります。
 『ライクランドの記念碑』は、設定+シナリオソース集で、いずれも着想がぶっ飛んでいて、読んで損はありません。これらは編集の伏見義行さんが訳し、私と待兼音二郎さんが、監修で入りました。詳しい内容は、刊行後にまた紹介していければと考えています。
 『ウォーハンマーRPG』には、勢いがあります!
 この春は、まずもって『ライクランド綺譚』で、オールド・ワールドの息吹に、ぜひ触れてみてください。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/

2022年03月22日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.3

 2022年3月10日配信の「FT新聞」、記念すべきNo.3333に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.3が掲載されました。ウィルダーネス・アドベンチャーに乗り出し、『ナイツ・ダーク・テラー』で語られたサキスキン攻囲戦に巻き込まれます。



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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.3

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料の各種を参照しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/485917607.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第4話「ウィルダーネス、ウィルダーネス!」の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/詩人ドワーフ、2レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、3レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、2レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、死亡中。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、4レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、3レベル。

ジョン・セルター/元・グリフォン聖騎士団員。
アルフリック/カラメイコス大教会の高司祭。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」の長。
「青い鷹」/スレッショールドの街から来たライバル・パーティ。
カラノス/ケルヴィンの街を拠点とする船頭。
ミーシャ/船着場の主。
ピョートル/サキスキンの農場主。
アルファナ/ピョートルの義理の妹。
マーシャ/サキスキン農場の召使い。
クズマ/ピョートルの母。
クロス/狼髑髏族ゴブリンの王。

●新たなるクエスト

 ヨブは事情をグレイにかいつまんで説明する。謎の追っ手から身を隠しつつ、ロスト・ドリームの島を目指さねばならないわけを。
 パーティに選択の余地はなかった。
 他方、カラメイコス教会に運ばれていったシャーヴィリーは、ジョン・セルターの言ったとおり、高司祭のアルフリックに「レイズ・デッド」の呪文をかけてもらうことができた。
 しかし、蘇生できたのはいいもののいまだ体力がもどらない彼女は、その後2週間ほどベッドで休養を余儀なくされた。
 すでにジョン・セルターは姿をくらましていたが、アルフリックとは因縁浅からぬ関係のようで、パーティにセルターの身上を教えてくれた。

●ジョン・セルターとは何者か

 現在スペキュラルムには、カラメイコス教会の宗教騎士団「グリフォン聖騎士団」が逗留している。
 指揮しているのは、アリーナ・ハララン。
 大公国の北に位置する街、スレッショールドの大司教の娘である。
 ウルフホルド丘陵に巣食うオークやオーガーたちを掃討する許可を得るため、ステファン・カラメイコス公爵に謁見に来たのだ。
 そしてジョン・セルターは、その「グリフォン聖騎士団」の名誉ある一員だった。そう、かつては……。
 −−アルフリックは言葉を詰まらせる。
 いまや彼の名声は地に落ち、栄えある騎士としての栄光を身に纏うことはかなわなくなってしまっている。
 その罪状は、とある探索を通して得た、「神より与えられし武器」を手放してしまったことにある。
彼はそのことで、武器に付随する大いなる試練をも拒否してしまったのだ。
 幼い頃よりセルターを知るアルフリックや最高司祭のオリバーらは、事情を聞く必要があると考え、行方を調査していたのであった……。
 そして今後、セルターの情報が手に入り次第教会へと届けることを、パーティは治癒の代償として約束させられた。

●スペキュラルムの街を離れて

 ロスト・ドリームの島へのクエストは、大至急というわけではない。
 それでもシャーヴィリーの回復を待つほどのゆとりはなかった。
 パーティは悩みぬいた末、彼女を教会に残したまま、スペキュラルムを後にした。戦力ダウンになるが、いたしかたがない。
 街道(デュークス・ロード)をさかのぼっていくパーティ。
 途中、クラカトス(古代からの遺跡のある小さな集落)で休息を取ることにした。
 これまで、敵らしき者には遭遇していない。
 けれども、彼らはそこで、遺跡に寝泊りする奇妙な一団と鉢合わせした。
 傍目にはごろつきと見まがうほどであるが、やはり仲間の冒険者であろう。
 彼らは「青い鷲」と名乗り、これからスペキュラルムへ向かう途中と告げた。
 それまではスレッショールドに滞在していたが、最近スペキュラルムに出没する「盗賊王」フレームフリッカーを捕まえるためにやってきたらしい……。
 −−それを聞くと、リアにはピンと来た。
 彼女の所属している盗賊ギルド「盗賊の王国」のギルドマスターこそが、フレームフリッカーその人なのだ。
 しかし、「盗賊王」が最近スペキュラルムで熱心に活動しているなどという噂は聞いたことがない。
 リアのような下っ端からすれば、「盗賊王」はまさしく雲の上の存在、たとえ活動していたとしても、それを知る術はないのである。
 満足のいく情報を与えられないまま、一行と「青い鷹」とは別ルートを辿ることとなった。

●ケルヴィンから

 クラカトスを後にし、引き続き街道を旅していくと、彼らがたどり着いたのはケルヴィンの街だった。
大公国における中継都市的な役割を果たしている大都市である。
 デスモント・ケルヴィン2世男爵の下、街は人口2万を数えるほどにまで繁栄を遂げている。
 シャッタルガ川・ウィンドラッシュ川・ハイリーチ川と、3つの川に囲まれているこの街は、大公国の交通の要にもなっている。
 街に入り、「黄金の船」亭に腰を落ちつけた一行は、相席したペンハリゴン(大公国の北東にある大都市)からやってきた商人たちから情報を得ようとするが……これまた警戒されてうまくいかない。
 仕方なくパーティは川を船で上り、ペンハリゴンその地へと直接向かうことに決めた。
 そこから南下し、目的地を目指そうというのである。
 けれども陸路では時間がかかるので、ハイリーチ川をさかのぼって行くルートをとることにした。

●ハイリーチ川紀行

 なけなしの金をはたいてリバーボートを借り、ケルヴィンで出会ったカラノスという船頭と幾名かの船員とともに、パーティは出航した。
 背後を見ると、街がどんどんと遠ざかっていく。
 向うの空に、何かが浮かんでいるのが見えた。
 どうやら「フライング・カーペット」(空飛ぶ絨毯)に乗っているらしい。
 親切にもカラノスが教えてくれる。あれは、ケルヴィンの西に位置するエルフの街リフリアンに住む、カルディアという名の女エルフが提供している交通サービスなのだ。
 しかるべき金さえ払えば、リフリアンからスレッショールドまで、悠悠自適の空の旅が楽しめるということらしい……。
 しまった、そちらを使えばよかったと後悔しつつ進んでいくと、船の両側にうねるように広がっていた川が、だんだんと狭くなり、流れも速くなってきた。
 南側の岸にある森が迫ってくる。
 ドスンという音がして、船が急に傾いて止まった。よくよく目をこらしてみると、川を横切って張られた鎖に衝突したようだ。
 間髪入れず、川の両岸から、無数の矢が飛んできたではないか!
 おまけに、水夫の一人が、手にダガーを持って、切りかかってくる。
 パーティは必死で矢をかわしつつ、水中の鎖を断ち切る。裏切り者も無事しとめることができ、伏兵たちの攻撃も切り抜けることができた。
 その死体を調べてみると、驚くべきことに、焼印と手枷のあとがありありとうかがえた。
 「アイアン・リング」の手先だ。間違いない。

●「アイアン・リング」のスパイ

 「アイアン・リング」とは、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵直属の、悪名高い狂信的な盗賊ギルドである。
 信頼していた部下が「アイアン・リング」の一員だったとは……。カラノスは喉を詰まらせる。
 午後遅くになって、船はハイリーチ川とヴォルガ川との境目にある船着場に着いた。
 もうトーモントの24日。スペキュラルムを出発してから8日が経過している。
 一行は先を急ごうとするが、まもなく日も暮れるというのに、川の先にまで歩を延ばすのは危険なため、ここで宿をとることにした。
 カラノスは船着場の主であるミーシャを呼ぶが、返事はない。
「大丈夫だ。ミーシャはよくノミだらけの年寄り熊と狩りに行くが、いつも夜までには戻ってくるから、余計な心配は無用」とはカラノスの弁。

●またもや襲撃

 −−ミーシャは戻ってこなかった。
 代わりに船着場に現れたのは、全身に傷を負った一頭の熊だった。
 熊はしばらく周りをうろついていたものの、やがて森の奥へと消えていった。
 パーティが後を追っていくと、かすかな叫び声が夜風に乗って響いてきた。
 木が燃える臭いもする。前方の木々の向うに、ひらめく炎が見えた。声はさらに大きくなってくる。
 叫び声に混じって、武器がぶつかりあう音も聞こえてくる。
 炎はますます激しくなり、紅の輝きが森を包んだ。
ただならぬ空気を感じた冒険者たちは、歩を速める。
 森は、木の橋がかかっている流れの速い川の土手のところにまで続いている。
 それを越えると、柵で囲った農場の門が見える。
建物そのものはほとんど被害を受けていないが、橋の左側にある納屋から、こうこうと炎が舞い上がっている。
 橋の向こうにある楼門から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「道をふさがれる前に急いで!」
 大きな狼の背に乗ったゴブリンの一団が、背後から岸に沿って荒々しく突進してくる。
 門に駆け込む冒険者たち。
 傍らに目をやると、先ほどの熊が倒れていた。

●サキスキンにて

 パーティの全員が門に入ったのを確認すると、女は素早く門を閉め、閂を下ろした。
 彼女は一行を農場の母屋に案内する。
 通された広間には、どうやら家族らしい一団がいた。
 熊を倒したのは、彼らのようだ。
 ひときわ屈強な男が自己紹介をする。
 彼はピョートルといい、このサキスキンという名の農場の主だという。
 先ほど一行を案内してくれたのは、ピョートルの弟であるタラスの妻、アルファナであった。
 ピョートルが状況を説明し、アルファナがそれを補足する。
 農場を襲撃しているのは、狼髑髏族と赤刃族、それに毒蛇族という名のゴブリンの一団であった。
 サキスキンの他にもこの辺りにはいくつかの農場が存在するが、それらも同様にゴブリンどもの襲撃を受けているのだという。
 ミーシャはどこにいるのかについて尋ねた一行に対して、彼は顔をしかめた。
「彼はケルヴィンに事態を告げに行こうとして、殺されてしまった」
 一行はまた、なぜゴブリンどもがここを襲撃しているのかを問いただすが、ピョートルは険しい顔をして首を振るだけだった。

●計略

 窓の外から、女の悲鳴が聞こえた。
 アルファナが叫ぶ。
「あれはきっと召使いのマーシャだわ! ゴブリンどもに捕まったのよ! あいつらはマーシャをなぶり殺しにするつもりに違いない!」
 慌ててヨブは窓を開け、外へと踊り出る。
 しかし、罠だった。
 それはなんと、扮装したゴブリンのメスだったのである。
 気づいた時には手遅れで、ヨブはゴブリンの一団に囲まれることになってしまった。
 あわてて残りのパーティのメンバーが救援に向かうものの、窓から母屋の中に侵入してきたジャイアント・ヴァンパイア・バットに阻まれ、思うように動けない。
 その間、狼髑髏族ゴブリンの王クロスに率いられた8匹のゴブリンが、ラム(破城槌)を抱え、母屋へと突撃してきた。
 必死で食い止める一行。グレイの放った「スリープ」でヴァンパイア・バットたちを無力化し、ようやく皆、母屋の外に出ることができた。
 思わぬ援軍に手下が倒される様子を見て、クロスは引き上げの指令を出した。

●「死の歌」

 満身創痍ながらも、とりあえず休息をとろうと、パーティも引き上げた。
 ピョートルの母クズマによる治療を受けて体制を立て直すが、今度は、反対側からゴブリンどもが攻め寄せてきた。
 農場の西側の橋はゴブリンどもの侵入を防ぐために焼き落としてしまったから、当分の間は安心だと一行はふんでいた。
 しかし、状況判断が甘かった。
 驚くべきことに、ゴブリンたちはベオフリー(攻城用移動塔)のようなものを運んできて、一気に攻め込もうとしているのである。
 パーティは非常な苦労をして、彼らを撃退した。
 −−夜明け前、最後の襲撃が行われようとしていた。
 ゴブリンたちが歌う「死の歌」が、夜風に乗って轟き渡る。
 ゴブリン王クロスと、ラムを構えたゴブリンたちが、今や総攻撃を仕掛けようとしているのだ。

●またもや犠牲者が

 サキスキンの住民たちと一行は協力して、ゴブリンたちに立ち向かった。
 血で血を洗う熾烈な戦い。
 結果、無事ゴブリンたちを敗走させることに成功した。
 が、気づくと、クロスが騎乗していたアイス・ウルフが吐いたブレスの直撃を二度に渡って受けたヨブが息をしていない。
 ヨブの遺体を母屋に運び入れ、悲しみに暮れる一行。
 絶望感。
 その体を包もうとして、アルファナが広間に飾ってあった二枚のタペストリのうち一枚を外した。
そのとき、朝の光を浴びたタペストリがきらきらとまばゆく輝きだした。
 刺繍の一部が金色に光り、地図のようなものを形作り始める。
 驚くべき魔法を目にして、彼らは、新たなる冒険の予感に打ち震えたのであった。
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2022年03月09日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.2

 2022年2月24日配信の「FT新聞」No.3319に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.2が掲載。鏡の都スペキュラルムの酒場ブラック・ハート・リリィを舞台とするシティアドベンチャーで、著名NPC「ルルンの」ヨランダも登場します。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.2

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が学生時代にプレイした、クラシックD&Dのキャンペーンゲームの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料の各種を参照しています。
 なにぶんデビュー前の(20年以上前!)の原稿を整理しているため、拙い部分が多々ありますが、ご承知のうえお読みください。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/485557276.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第3話「忍び寄る暗黒」の内容となります。前回はダンジョン探検でしたが、今回はシティーアドベンチャーです。パーティ分割が発生したため視点が次々に切り替わることを念頭に置いていただければ幸いです。

●登場人物紹介

タモト・ロックフリンガー/詩人ドワーフ、2レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、2レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、2レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、1レベル。
ティシェ・リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、3レベル。
エミーリオ/酒場「ブラック・ハート・リリイ」の亭主。
「ルルンの」ヨランダ/絶世の美女にして評判の踊り子。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、3レベル。

●大喧嘩

 恐怖のダンジョンからカラメイコス大公国の王都スペキュラルムへと帰還を果たした、我らが冒険者一行。
 はたして「ゴルサー」とは何者なのか。そして、占い師の予言の真偽はいかに……。
 だが悩んでいてもしかたがないとばかりに、報酬を得た一行は、久方ぶりに根城としている宿屋、「ブラック・ハート・リリィ」で冒険の間に溜まったストレスを発散すべく、狂騒の限りを尽くしていた。
 そんな彼らを冷ややかな目で見ている一人の男。
 酒場の隅のストゥールに腰かけ、静かに酒をあおっている。
 筋骨隆々とした姿、あちこちに見られる生々しい傷跡が、明らかに彼が歴戦のつわものであることを、何よりも雄弁に物語っている。
 久しぶりの冒険の成功に酔ったのか、一行はあまりにもはしゃぎすぎた。
 そして、男はその日、あまりにも機嫌が悪かった。
 ドスを利かせてパーティにすごみかかる男。負けずに言い返す熱血少年グレイ。
 周囲は険悪な雰囲気に包まれる。
 見るに見かねてジーンがとりなそうとするが、かえって逆効果。
 頭に血がのぼった男は、手にしていたビールをジーンの頭にぶっかけ、かくして両者の諍いは殴り合いにまで発展し、酒場は大混乱となった

●いざ祭りへ

 翌日、トーモントの14日。ノームの商隊が到着してから起こった、ちょっとしたお祭り騒ぎも、今や最高潮に達していた。
 外の賑わいに惹かれて出て行くタモトとシャーヴィリー、そしてジーン。
 いまだ体の節々から疲れが取れないうえに、昨日の喧嘩に巻き込まれて生傷が絶えないにもかかわらず、この元気はどこから来るのだろうか。
 しかしまた、リアの部屋をノックする者がいた。
 入ってきたのは、宿の主、エミーリオである。困りぬいた様子でリアに相談を持ちかける。同情したリアは、とりあえず話だけでも聞いてみることにする。
 曰く、ここ「ブラック・ハート・リリィ」では、通常の酒場や宿屋としての業務のほかに、ちょっとした舞台もとり行っている。
 中でも人気があるのが、最近舞台に立つようになった、エキゾチックな雰囲気を漂わせた妙齢の美女、「ルルンの」ヨランダだ。
 しかし、そのヨランダが、急病で舞台に立てなくなったというのである。
 困りぬいたエミーリオは、まずは質より量を確保するのが肝心と、つてを頼って代役を探し回ったのだったが、その一人として、こともあろうにリアに白羽の矢が立った。
 エミーリオの強引な説得に負けたリアは、いつもの盗賊稼業から一転し、「ブラック・ハート・リリィ」の踊り子として、酒場の舞台に立つこととなってしまった。

●競技大会

 祭りに向かったリア以外のパーティは、射的やレスリングなどの競技を、色々と回っていた。
 ノームの商隊が帰途に就くのはトーモントの15日目である。今日はその前日ということもあるのか、今までで一番の賑わいをみせているようだ。それもそのはず、今日は各地から猛者が集う一大イベントがとり行われるのだ。
 その名も、「比類なく奇妙な競技大会」。
 ノームの街ハイフォージは、町全体が奇抜な発明に狂っていることで悪名高い。
 彼らはまた、その独特のセンスで新たな競技(一応、彼らは「スポーツ」だと銘打っている)を開発し、もしくは探し出し、無辜の犠牲者にそれを行わせるのも大好きなのである。
 しかも困ったことに、その競技は、端から見ているぶんに限っては愉快なのだ。
 この大会では、彼らが一年かけて集めてきた粒よりの競技が披露される。
 成り行きに身を任せたシャーヴィリーは、「比類なく奇妙な競技大会」の種目「足指相撲」に、タモトは、目玉競技「タルベルトンジャク」に参加することとなってしまった……。
 結果、シャーヴィリーはいいところまで行ったのだけれども、相手の足のあまりの臭さに耐え切れず、準決勝で惜しくも敗退を喫してしまった。

●奇妙な競技

 タモトは、競技のルールのあまりの難しさに、そのもじゃもじゃ頭を痛めていた。
 ステージの上の年老いた賢者が、何度も、噛んで含むようにルールの説明を繰り返している。
 −−この競技は、遥か東方「Kozakura」の国から伝わったものであり、非常に厳密かつ明確な規則に沿って行われる。競技者は、まず自分が相手をどのような方法で打ち破るかをイメージする。
 そして、そのイメージを「ルーン」という形として示すことで具現化し、相手にぶつけるのである。
 「ルーン」の作り方、すなわちどのような形でイメージが具現化されるかには三つのパターンがあり、それは、各々の競技者が、どのように手を握るかによって決定される。
 手を開いた状態は、「防具」を意味し、人差し指と中指を突き出したまま残りを握ったままにした状態は「武器」を意味する。すべての指を握った状態は、「魔法」を指す。
 そして、「防具」は「魔法」には強いが「武器」には弱い。「武器」は「防具」には強いが「魔法」には弱い。「魔法」は、「武器」には強いが「防具」には弱い。
 相手に自分の力をぶつけるためには、この三すくみを理解しつつ、相手を打ち負かすことのできるような「ルーン」を示さねばならないのである。
 だがしかし、それだけでは不十分だ。
 「ルーン」の力を最大限に発揮するためには、三すくみを利用して相手を打ち負かした上で、そのルーンがどの方向を向いているのかを指を指して示し、その場所に相手の顔を導かねばならないのである。云々−−
 だが、この難しいルールをなんとかのみこんだタモトは、偶然か僥倖か、はたまたハラフの天啓か、輝かしい優勝という名の栄光を手にしてしまったのである!
 1000GPという大金と、副賞として魔法のアイテム「エルブン・ブーツ」と「フライング・ポーション」を手にしたタモトは、王者にふさわしい威厳を込めて、一大パフォーマンスを行った。
 観客を前にしたタモトは、おもむろにポーションを飲み干した。
 そして、何を思ったのか、「みなさんさようなら」と大声を上げて宙に浮かび、そのまま会場を後にしてしまったのだ!
 たちまち会場は大喝采に包まれる。
 観衆の中にはシャーヴィリーも含まれていた。
 あっけにとられて見送ったのも束の間、慌てて後を追いかけて走っていった。

●楽屋にて

 リアは舞台の楽屋に足を踏み入れた瞬間、自分がまるで別世界の住人になったような心持になった。
 妖艶と言うのかはたまた淫靡と言うべきか、とにかくはじめて見る世界である。
 ほとんど衣装の役目を果たさないほどわずかな薄絹を身に付けリハーサルに勤しむ一団を目にして、純情なリアは、ほとほと当惑したというほかはなかった。
 尻ごむリアに対して、誰かが後ろから声をかけてきた。
 振り返ると、「ルルンの」ヨランダその人が、微笑みながら立っているではないか!
 心なしか顔色は悪いけれども、その美貌は少しも衰えることを知らない。
 落ち着いたアルトの声で、彼女は口を開いた
「あなたが、私の代役を引き受けてくれた娘ね」
 ヨランダはくすくす笑っている。

●ヨブの場合

 気がつくと自分の部屋だった。
 二日酔いでがんがんする頭を押さえながら、ヨブは昨晩の出来事を思い起こそうとしていた。
 ……だめだ、あのくそ坊主にビールをぶっかけてから、何がどうなったのか。酒場に下り、遅い昼食をとることにした。
 その時、若い魔法使い風の男が、目の前を悠々と通り過ぎていった。
 たちまち記憶が甦る。昨日やり合った連中の一人だ。
 借りを返してやろうと、ヨブは男の後をつけることにした。
 ヨブは剣匠(ソードマスター)で、ブラック・イーグル男爵領の避難民である。
 いまや酒場の看板スターとなった、「ルルンの」ヨランダらといっしょにここスペキュラルムにやってきて、今日でちょうど三ヶ月目。
 常に極度の緊張を強いられてきた以前に比べ、確かにすべてが楽になった。
 だが、この巨大な都スペキュラルムは、あまりにも退屈なのも確かだ。
 魔法使いが入っていったのは、舞台の裏の楽屋であった。
 覗いてみると、いつもどおりに半裸の女たちが、夜の舞台のリハーサルをしている。
 傍らには、ヨランダが立っていた。
 ヨブの視線に気がつくと、ヨランダは表情を崩し、こちらに来るよう手招きする。

●暗殺者

 タモトが降り立ったのは、競技の場所からだいぶ離れた、さびれた路地裏で。
 息を切らせて追いつくシャーヴィリー。
 が、ほっとしたのも束の間だった。
 タモトを追いかけてきたのはシャーヴィリーだけではなかったのである。
 黒い覆面をした男が二人彼らのそばに立っていた。
 薄暗い裏通りで、ショート・ソードの刃が不気味に光っている。
 一方のタモトとシャーヴィリーは、武器防具の類はほとんど宿に置いてきてしまっていて、ほとんど丸腰に近い状態だ。
 なんとか応戦しようとするものの、覆面男の凶刃を胸に受け、あわれシャーヴィリーは倒れてしまった。
 それを見たタモトは戦意を失い、降伏を申し出ることに。「待ってくれ、お前たちは一体何が望みなんだ」
 くぐもった声で男は答える。
「斧を渡せ。知らないとは言わさん」
 タモトはすぐさま悟る。あの洞窟から取ってきた斧のことか。
 半ばやけになって、彼は事情を説明する。
「あれは宿に置いてきてしまったんだ。ここにはない。わしらを殺してもそれは手に入らんぞ」
 その時だった。
 物陰から、無精髭にレザーアーマーといういでたちの精悍な男が現れ、覆面男に切りかかった。
 予期せぬ襲撃者の到来に、覆面男たちはものも言わず倒される。
 すかさず男はシャーヴィリーのもとに駆け寄り、持っていた薬草を傷口にすりこむ。
 しかし、シャーヴィリーが再び目を開くことはなかった。
 顔からはどんどん生気が失われ、とうとうカラーリー・エルフは冷たい骸と化した。
 つまり、死んだのである。

●明かされる策謀

 ヨランダの指示に従って、ヨブは「孔雀の尻尾」亭のドアを開いた。
 一見、中産から上流階級向けの普通の宿屋だが、ここはあのラデュ家の当主、アントン・ラデュが経営する直属の店。
 アントン・ラデュが率いる盗賊ギルド〈ヴェールド・ソサイエティー〉とは因縁浅からぬに違いない。
 警戒しながら中に入ると、ヨランダの席へと案内された。
 低い声で、やにわに彼女が言う。
「ブラック・イーグル男爵が、配下の騎士団を連れてスペキュラルムにやってきているのよ」
 青天の霹靂である。
 逃亡が感づかれてしまったのだろうか。
 ヨランダは首を振る。
「何のために彼がやってきたのかはわからない。けれども、わたしたちの知らないところで、とてつもなく大きな陰謀が形を成しつつあるのは確かなの」
 彼女は舞台に立つ傍ら、いまだブラック・イーグル男爵領に残る同胞たちを救い出すために、ひそかにスペキュラルムにいる仲間を集め、レジスタンスを結成していたのだ。
 そして、彼女は後ろ盾を得るために、あえて、危険を承知でラデュ家に近寄った。
「昨日の晩あなたと一緒にやりあっていた連中、あの中にドワーフがいたでしょう。彼が持っていた斧、あれはハラフ王の仲間だった狩人ジルチェフの一番の部下、ソールジェイニー・オーケンシールドのものなのよ。エミーリオが教えてくれたわ。
 そこであなたに頼みがあるの。あの斧をロスト・ドリームの湖に住むカラーリー・エルフに届けてちょうだい。本来ならばわたしが行くべきだろうけど……。斧の力を引き出すにはそれしかないの。いや、少なくとも、ブラック・イーグルだけには渡さないで。わたしが彼らを牽制しておくから、その間に」
 ヨランダの必死の願いと、提示された15000GPにも及ぶ高額の報酬、そして事の重大さを認識したヨブは、彼女の依頼を引き受けることに決めた。
 そして、万一の場合に備えて、力づくでも依頼を成功させるために、いくつかの物品を受け取った。

●大不評

 そのころ、「ブラック・ハート・リリィ」ではいつもと違った騒ぎが起きていた。
 「ルルンの」ヨランダが参加しなかったために、観客は露骨に不満を示し、腐った野菜や卵をそこら中に投げつけて回ったのだ。
 おまけに公演の最中に、突然黒づくめの男たちが乱入し、「ヨランダに会わせろ」と言ってくる始末。
 しばらくの間エミーリオと男たちの間で押し問答が続いていたが、らちがあかないとみるや、いきり立った凶漢どもは剣を抜き、楽屋へなだれこんできた。
  −−その行く手に、グレイが立ちふさがった。

●逃げたはいいが

 グレイの「スリープ」の呪文で、男たちは次々と眠りについていった。
 エミーリオは男たちを柱に縛りつけると、遅れていた公演の第二部の幕を上げた。
 しかし、まずいことに、公演の途中で呪文の効果が切れてしまった。
 男たちは縛られたロープを力任せに断ち切ると、舞台へと乱入してきた。
 ダンスの進行はストップする。
 いいかげん酔いが回った観客たちは度重なる中断に烈火のごとく怒り、たちまち酒場は幾度目かの混乱の渦に巻き込まれた。
 黒服の男たちがしきりにヨランダを探していることから、斧の事情を知っていたエミーリオは、グレイたちがこの件に一枚噛んでいるとの察しをつけた。
 混乱に乗じてグレイとリアとジーンを裏口から逃がしてくれる。
 通りに出た彼らは、他のメンバーと合流しようと走り出した。
 その途端、グレイは誰かとぶつかった。顔を上げると、そこに立っていたのは、「孔雀の尻尾」亭から戻る途中のヨブであった……。

●わずかな可能性

 助けてくれたことに対して礼を言うと、精悍な男はだまって頷き、ジョン・セルターだと名乗った。
 彼は倒れたままのシャーヴィリーを背にかつぐと、黙って路地を歩き始める。あわてて後を追うドワーフ・タモト。
 路地を出ると、そこはカラメイコス教会だった。
 おもむろにセルターは告げた。
「……俺の名前を出して、高司祭のアルフリックに頼むんだ。蘇生の術をかけてくれるやもしれん……」
posted by AGS at 15:41| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする