2022年07月18日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.7


 2022年6月30日配信の「FT新聞」No.3345に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.7が掲載されています。いよいよパーティはロストドリームの島へわたり、カラーリー・エルフたちと対峙します。そこにライカンスロープ勢が襲いかかり……。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.7

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/489220627.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第8話「泡沫」の内容となります。いよいよパーティは、ロスト・ドリームの島へと赴きます。

●登場人物紹介

タモト/詩人ドワーフ、5レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、5レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、5レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、4レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、6レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、5レベル。
プロスペル/ペンハリゴンに派遣中の騎士、5レベル。

イリアナ・ペンハリゴン/アルテリスの異母姉。ペンハリゴン家の領土と爵位を要求していた。
ヴァーディリス/ヒュージ・グリーン・ドラゴン。
アルテリス・ペンハリゴン/ペンハリゴンの女男爵。
バーリン/以前一行に同行していたドワーフ。
ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
ジターカ/ハラフ王の第一の部下。
シングル・アイ/隻眼のカラーリー・エルフ。
バーグル・ジ・インファマス/ブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師。

●プロスペルの決断

 イリアナ・ペンハリゴン、そしてオーガン将軍による「死の収穫」の野望は打ち砕かれた。
 だが、緑竜ヴァーディリスの襲撃によってペンハリゴンが被った被害は、まことに甚大なものであった。
 荒廃した街の復興という激務の合間をぬって、女領主アルテリスは、プロスペルを呼び寄せ、今後の身の振り方を尋ねた。
 彼の名誉は回復されたものの、事件の背後にブラック・イーグル男爵や「アイアン・リング」、それに緑竜ヴァーディリスまでが関わっていたとわかった今では、彼がこれまで以上の危険にさらされるのは間違いないからだ。
 プロスペルは多少煩悶したものの、ケルヴィンには帰らない、と答えた。故郷に波乱の種を持ち込むわけにはいかない。
 それよりも、彼は現在の仲間と行動を共にし、自らの手で運命を切り開いていくことを選んだのだ。

●疫病神

 仲間の待つ「真鍮製の王女様」亭へと戻ったプロスペル。
 だが、彼の口から、「同行したい」という申し出を聞いたヨブは、激しく怒る。プロスペルを足手まといとしか思ってないのだ。
 返事代わりに、頭からエールを浴びせかける。
 周囲に、険悪な雰囲気が漂った。
 が、シャーヴィリーのとりなしなどもあって、とりあえず彼を一行に加える、ということで話はまとまった。
 しかし、ヨブはいまだに不服なようで、
「何日でこいつが旅に音を上げるか、賭けをしようぜ」
 と、グレイに誘いかける始末である。
 旅支度もまとまり、いざ一行は当初の目的を果たすために、ロスト・ドリームの島へと出発した。
 ペンハリゴンの門を出ようとしたときに、ぼろをまとった浮浪者らしき一団が、彼らの前に立ちふさがった。
 ドラゴンの被害を受けて、住居や職や家族を失った住民たちらしい。
 彼らはパーティを「疫病神」と罵り、腐った野菜や果物、犬の死体などを投げつけてきた。
 しかし、ヨブが一喝すると、彼らは恐れをなして、すごすごと道を譲ったのだった。

●ハイリーチ川の渡し守

 さて、ここからどの道をたどるべきか。
 ペンハリゴン沿いを流れるハイリーチ川まで赴くと、漁師の小屋らしきものが見えた。
 一行は、なかに住んでいた老人に船を出してくれと交渉するが、なかなか話がまとまらない。
 漁の時期でもないのに、船を出すのを渋っているようだ。
 相場の何倍もの金を積んで、ようやく船を出すことを承諾させる。
 だが、老人と話しているうちに、彼がかれこれ一週間ほど前に、船で一人のドワーフを運んだことが明らかになった。
 老人はその件に関しては何か嫌な思い出があるらしいが、あえて口に出すことはしなかった。
 無事に川を渡りきると、老人は、湿原には十分気をつけるようにと忠告し、帰っていった。
 パーティは地図を確認し、ロスト・ドリームの島の近くにあるヘイヴンという遺跡を目指して歩を進めた。

●湿原での戦い

 この辺り一帯に広がる湿原(ムーア)は大変歩きづらい。
 馬を連れているパーティではなおさらである。
 ぬかるみに足を取られながらも、懸命に一行は先を急いだ。その時である。グレイの使い魔である黒猫ルーが叫んだ。
 何かが近づいてくるというのだ。
 やってきたのは、4体の狼であった。
 遠距離攻撃を使い、接敵するまでに何体かは退治したが、それでも2体がこちらに向かってくる。
 1匹は、黒牛かとみまがうほどの体躯を有する漆黒のヘル・ハウンド。
 それとは対照的に、もう1匹は純白の毛皮に身を包んだアイス・ウルフであった。
 かつてアイス・ウルフのブレスで命を落としたことのあるヨブにとっては嫌な相手である。
 が、多少苦戦したものの、なんとか2体とも撃破することに成功した。
 しかし、こんな開けた場所でなぜヘル・ハウンドが。疑問に思わずにはいられない。
 そのうえ、その後もジャイアント・ビーの一群に襲撃されるなど、騒動の種は尽きそうにない。

●ジターカの塚

 翌日。再び一行は湿原をさまよう。
 と、そのなかの丘のような部分で、奇妙な塚のようなものが見つかった。
 塚には、おそらくハラフ王の時代にまでさかのぼるほど昔に使われていた言葉で、「とこしえに思惟を続けし者ここに」と書かれている。
 リアとグレイが塚を深く調べると、かすかに人名らしきものが彫られていた。
 それによれば、ここには、ジターカという人物が葬られているらしい。
 ジーンの知識によれば、ジターカとは、伝説に謳われるハラフ王の部下であった傭兵隊長の名前だという。
 ちょうど、タモトの『斧」の前の持ち主であった「ソールジェイニー」が、ハラフ王の仲間、「狩人ジルチェフ」の部下だったように、英雄には忠実な手下が必要不可欠なのだ。
 彼らが古代の伝承に思いを馳せていると、塚がスライドし、その下に石の階段らしきものが現れた。好奇心に負けて、パーティは隊列を整え、中を探検してみることにした。

●廃墟の奥へ

 階段を下りると、そこはこじんまりとした石室だった。
 行き止まりかと思われたが、タモトが近づくと、突然うなるような音を立てて、壁が横に動き始めた。
 これは何かあるに違いない。
 パーティは気を引き締めて、奥へと足を踏み入れる。
 と、突如先頭のリアが麻痺してしまった。
 罠に引っかかってしまったのだ。
 そして、戦闘体勢を整える間もなく、部屋の奥から、らんらんと目を光らせた亡霊どもが襲いかかってきた。レイスである。
 リアをかばいながら、必死で一行は戦いを続ける。その甲斐あって、なんとか死霊は黄泉へと帰った。
 しかしながら、自慢の『斧』でレイスをぶったぎっていたはずのタモトが、レイスによって精気を抜かれ(=レベルドレインされ)てしまった。
 気を取り直して、奥へと進む一行。
 そこは前の部屋より広めの石室で、その中央には、薄汚れたローブを纏った男が腰掛けていた。
 男はうつむき、何か深い問題について考えて込んでいるようだ。
 その周りには、悪意に満ちた表情をした、人魂のようなものが4体ほど飛び回っている。
 パーティが近づいていくと、人魂は彼らを格好の獲物だと見定め、攻撃を仕掛けてきた。
 だが、彼らとて、もはや駆け出しではない。なんなく人魂を葬ることができた。
 すると、思いの淵に沈んでいたローブの男が、かすかに顔を上げた。
 人魂(マリス)と化していた邪悪な想念が断ち切られたがゆえに、男の精神がある程度解放されたようなのだった。

●ジターカの話

 タモトが持つ斧を通して、男は語り始めた。それによると、男はやはりジターカ、ハラフ王の第一の部下であった。
 ハラフ王が獣人の王と最後の決戦に望んで相打ちになったときに、彼はハラフの持っていた武器を受け継いだのである。
 その後ハラフは、伝承の通り天へと昇った。
 地上に残ったジターカは、ハラフ王によってもたらされた均衡(平和)のバランスが崩れないように、王が戻ってくるまで見守り続けるという役目を負った。
 しかし、いつしか、その「力の均衡」は破れようとしていた。
 「力」そのものが膨張を続け、お互いを浸食しようとしているのである。
 そして、それを食い止めようにも、彼が受け継いだ武器は何者かよって奪い去られていた。
 このことが決定打となった。
 取り返そうにも、ジターカは長い間観察者であることに甘んじ、行動する力を失ってしまっていたのだ。
 かくして彼はこの世界を形成する要素の膨張、そしてその先に位置する破滅について、絶えず考え続け、思考そのもののなかに沈潜するようになってしまったのだった。
 また、彼は、タモトの持つ斧が、「エネルギー」を象徴していると示唆した。「エネルギー」が膨張を続けると同時に、斧そのものも成長していく。
 そして、「エネルギー」が果てしなく膨張を続けていけば、「力の均衡」が崩れ、大いなる波乱が訪れ、世界に破滅がもたらされてしまう。
 タモトは今ひとつ腑に落ちない様子で、どうして、それぞれの力の均衡が崩れてしまったのかをジターカに問いただした。
 ジターカはしばらく黙っていたが、やがて答えた。
 それは、「エントロピー」の力によるものだと。
 「エントロピー」とは、すなわちすべてを無に帰す、「死」の力を意味する。
 これが、すべての原因なのだ。
 そう告げると、ジターカは長年の懊悩から解き放されたことを喜ぶかのようにうっすらと笑みを浮かべ、いずこかへ消え去った。
 ジターカの部屋の奥には、量は少ないものの高価な装飾品が残されていた。その中には、魔法のアイテムも含まれていた。
 特にグレイは、「ライトニング・ボルト」の書かれたスクロールを手に入れ、躍り上がらんばかりに喜んだ。

●馬がない!

 さて、塚から無事地上に戻ると、タモトの斧が一回り大きくなっていた。ジターカと会ったことで、「エネルギー」の力が解き放たれてしまったのか。
 とにかく、時間がない。一行はロスト・ドリームの島へと急ぐことにした。
 しかし、肝心の馬がいない。怪物に襲われたのか、それとも逃げ出したのか。
 原因はわからないが、いなくなったことだけは確かである。
 としても、他に移動の手段があるわけもなく、パーティは湿原を歩いていくことにした。

●バーリンとの再会

 その途中で、彼らは戦いが行われているのを目にした。1人のドワーフと2体のヒル・ジャイアントが争っているようだ。
 しかも、ドワーフはどうやらバーリンらしい。
 一行はさすがに知り合いを見殺しにはできないと、ヒル・ジャイアントに攻撃を仕掛けた。
 戦闘が終わると、ドワーフは、また助けられたな、と苦笑いした。
 パーティは、どうして単身こんな危険な地に来たのかを問いただしたが、彼はのらりくらりと質問を受け流すばかりである。
 その言によれば、ここから東に進んだブラック・ピーク山脈のふもとにはドワーフの住む鉱山があって、そこに住む親族を訪ねていく途中らしい。
 しかし、一行が聞いたところによれば、その辺りにそんな集落は存在しない。
 もっとも、大昔にはあったらしいが……。
 彼らがその点を問いただすと、ドワーフは平然と答えた。
 ドワーフの慣用句では、「親族を訪ねる」ということは、すなわち「墓参りに行く」ことである、と。
 つまり彼は、わざわざロックホームからやってきたついでに、かつて祖先が暮らしていた鉱山を拝みに行くと言いたいのだ。
 パーティはどこか釈然としないものを感じたが、深くは詮索せずに、バーリンに別れを告げた。

●カラーリー・エルフの森で

 それから何日も、一行は湿地を旅した。
 そしてようやく、湿地の端が見えてきた。先には鬱蒼とした森が広がっている。
 地図によれば、どうやらヘイヴン、そしてロスト・ドリームの島は、この森の中にあるようだ。
 足を踏み入れると、どこからか、敵意に満ちた視線が注がれるのを感じられた。そして、野営中に、弓をつがえたエルフの一団に囲まれてしまった。
 エルフの長らしき男は「ゴリーデル」と名乗り、許可なくこの森に立ち入る者はすべからく死すべきである、と告げた。
 一行は、ただ目的地であるロスト・ドリームの島へと向かおうとしただけだと弁解するが、エルフたちは全く聞く耳を持たない。
 しかも、ゴリーデルによれば、この先にあるのは湖だけで、どこにも島などないらしい。

●デビル・スワインとの戦い

 しばらく緊張状態が続いたが、一人のエルフがあげた悲鳴で、緊張の糸が断ち切られた。
 ライカンスロープが襲撃をかけてきたのだ!
 エルフにとって、ライカンスロープはまさしく天敵である。
 なにしろ、ライカンスロープの攻撃を受けてその毒が体に回ると死んでしまうのだ。
 ジーンはこの隙に逃げ出そうとする。
 が、それよりもこの場でエルフたちに恩を売っておいたほうが得策だろうと思い返し、応援に向かうことにした。
 襲ってきたのは、デビル・スワイン(悪魔豚)。
 ライカンスロープの中でも最強の部類に属するモンスターである。
 一行は二体のデビル・スワイン相手に苦戦を強いられる。
 おまけに、悪魔豚は「チャーム」の能力を有している。
 そんななか、タモトは急に、斧の力が押さえがたく膨張してくるのをを感じた。
 そして、斧はまるで意志を持ったかのように、手近にいたヨブに斬りかかったのだ。
 だが、タモトの懸命の努力で、なんとか斧の暴走は止んだ。
 一方、パーティが総力を結集したおかげで、なんとかデビル・スワインは葬られた。

●謎の小男

 ゴリーデルは一行に謝意を伝えるとともに、どうしてこのようなモンスターが現れたのかを説明した。
 そもそもの原因は、黒いローブを着た謎の小男のためらしい。
 小男はエルフたちに、自分はロスト・ドリームの島の情報を求めてここに来たのだ、と釈明した。
 だが、男の瞳に邪悪な色を感じ取ったゴリーデルは、情報の提供を拒否した。
男は苦々しげに、
「ならば、この森のエルフを根絶やしにしてからじっくりと湖を探検しよう」
 と言い放ち、去っていった。
 それからである。この森にライカンスロープどもが放たれたのは……。

●ロスト・ドリームの島にまつわる伝説

 ここまで激しくライカンスロープが襲撃をかけてくるようになった以上、ゴリーデルは決心を固めた。
 男が何を狙っているのか、それを知るためにも一行に力を貸すことにしたのである。
 そして、彼はパーティをエルフの集落へと案内した。
 道中で、ゴリーデルはロスト・ドリームの湖にまつわる伝説を話し始めた。
 ――かつて、湖の中心部には島があり、そこは神殿が建てられていた。
 神殿は、この世界の均衡を保つという役割を果たしており、カラーリー・エルフたちはその番をしていたのである。
 しかし、あるときその均衡が破れ、暴走した力によって島は水中に沈んでしまった。
 かくして彼らは故郷を追われ、その周囲の森に住み着くことになったというのである。

●エルフたちの会合

 あらかた話し終わると、ゴリーデルはパーティを木の上にある自らの住居に呼び寄せた。
 エルフの会合に出席させるためである。
 彼は一行の人数ぶんの指輪を取り出し、周りに集ったエルフたちに語りかけた。
「呪いによってかつての楽園に足を踏み入れることがかなわなくなった我々に代わり、これらの方々に、悪しき者たちからロスト・ドリームを守ってもらおう。
 そのためには、太古の昔より伝わる指輪を貸与することが必要不可欠である」と。
 指輪には「ウォーター・ブリージング」(水中呼吸)と「ワード・オブ・リコール」(帰還)の魔力が込められており、安全な探索には欠かせないからだ。
 エルフたちの意見はまっ二つに割れた。なかでも反対派を代表するシングル・アイという名のエルフは、ゴリーデルを「誇りを忘れた背徳の輩」だと罵り、氏族に伝わる宝が一行の手に渡るのを断固として阻止しようとした。
 しかし、ゴリーデルは族長としての権限を行使し、指輪をパーティに手渡すことを強引に決定してしまった。
 シングル・アイは怒髪天を衝くばかりに怒り狂った。
 そして、突如、彼は、黒いローブを着た小男へと姿を変えた。
 なんと、彼の正体は悪名高い魔術師にして「アイアン・リング」の首領、バーグル・ザ・インファマスだったのである!
 バーグルは彼らの不意をつくと、パーティとエルフたちの中心めがけ、「クラウドキル」(死の雲)の魔法を投げかけた。
 猛毒が辺りを包み、エルフたちが苦痛に悶え、倒れてゆく。
 一行はかろうじて雲をかわした。だが、グレイが逃げ遅れ、雲の中に飲まれてしまった。「アイアン・リング」の首領は高らかに笑い、続いて「テレポート」の呪文の詠唱を始めた。
 その瞬間、黒い雲をかき分け、リアの矢と、ヨブの渾身の一撃がバーグルに到達した。
 邪悪な魔術師は攻撃をかわしきれず、断末魔の悲鳴を上げると、そのまま倒れ、息絶えた。
posted by AGS at 16:15| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月29日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.23

 2022年6月16日配信の「FT新聞」No.3431に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.23が掲載されています。複数プロットの話題の続き。ケイパー・コメディとゲームブック、シナリオ「オペラ座の夜」にも触れております。バロック悲哀劇に関してはベンヤミンがソース。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.23

 岡和田晃
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 ぐるぐると渦を巻いてきた死者たちの感情は、懸命に何かを訴えかけている。
 無実の罪で焼き殺された人々の霊だ……。
 いや、こちらはチーズを食べただけで身体が爆発してしまった人も……。
 やり場のない感情に共鳴し、胃の調子がおかしくなってきた。
 呪いは、なぜ呪われるのかを問わない者にはほとんど効かない。そのように教えられたことを、思い出した。
 霊の感情を解きほぐすことはできない。ただ、チーズと爆発に因果関係があると思えなかった不条理さについては、感情ではなく論理で受け止めるべきものだ。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●RPGにおける二重の視点

 「複数プロット」をテーマに据えた本連載の前回は、思いのほか広い層の方々から反響を頂戴しました。
 普通に楽しく遊ぶうえではあまり意識されることはありませんが、RPGは明らかに、既存の物語構造を解体し、再構築するという側面があるからでしょう。
 だからこそ私も、文芸評論の仕事をしながら、不惑に至るまでRPGを続けてこられたのですが、RPGにおいては、ゲームへ「没入」し体験するという視点と、物語構造を超越的かつ俯瞰的に捉えるという視点が、自然に同居します。
 こうした経験を解きほぐして説明するのは意外に難しく、かつゲーム中はフォーマルな書き言葉ではなく話し言葉で進行するので(あるいは、書き言葉で記されたシナリオを話し言葉に「翻訳」しつつ進めるため)、既存の理論にまるごとすっぽり収めるような形での論述は難しいわけですが……。にもかかわらず実際にプレイすると、このことは身体レベルですんなりと飲み込めてくるはずです。
 ごく単純な、ダンジョンへ潜ってオークを退治するだけの仕事でも、いかなるプレイヤーが参加し、どのようなキャラクターがどう行動するかで、展開は千変万化します。とすると、「複数プロット」のシナリオについては、まさしく天文学的な進行パターンが予測されうるわけです。しかも、たいていのセッションは1 on 1形式ではなく、4〜6人のプレイヤー・キャラクターが参加するもの。
 となれば、余計に起こりうるセッションはカオスに近づいてきます−−「混沌」はレルム・オヴ・ケイオスから訪れるだけではなく、すぐそこに潜んでいるということなのかもしれません(笑)。

●ケイパー・コメディ

 『眠れぬ夜と息つけぬ昼』は、1960〜70年代のケイパー・コメディを一つのモデルと意識して組み立てられているのだと断られています。ケイパー・コメディとは、犯罪者視点で事件を描いたコメディで、名作とされる映画が多数あります。
 私が一点オススメするとしたら、サム・ペキンパー監督の『ゲッタウェイ』(1972年)でしょうか。ジム・トンプソンのノワールを原作とする、銀行強盗夫婦の逃避行を描いた作品で、アクションが見事なのはむろんのこと、一癖も二癖もある奴らしか出てこない残酷な世界の描き方が、実にオールド・ワールド的です。
 ちなみに1960〜70年代縛りを外せば、コーエン兄弟の映画なんかもケイパー・コメディに入れてかまわないと思うのですけど、これについてはナラティヴ・RPGの代表作の一つといってよいだろう『フィアスコ』(ハロウ・ヒル、2018年)が、そのドタバタぶりを遺憾なく表現しておりますね。

●例としての『ルパン三世』

 が、おそらく日本人ゲーマーにとって、いちばんわかりやすいケイパー・コメディの例は『ルパン三世』なのではないかと思われます。
 飄々としてすばしっこいルパン、ガンマニアのええかっこしいである次元、義理堅い斬鉄剣使いの五右衛門、憎めないファム・ファタルの峰不二子、そして、どこまでもルパンを追いかけてくる銭形警部。
 個性の塊のような悪人たちが織りなす珍道中の数々は、『ルパン三世』ゲームブックの第一巻『さらば愛しきハリウッド』(吉岡平著、塩田信之編、双葉社、2021年)が復刻されて話題を呼びました。この作品など、ルパンと次元が砂漠を放浪するところから始まり、途中で合流する五右衛門や不二子らにも独自の目的があります。
 ゲームブックなので当然、展開は分岐していきますが、同書の巻末で塩田さんが解説しているように、分岐先は無限に枝分かれして細分化されていくのではなく、合流パラグラフというものが設定されています。
 要するに、この合流パラグラフが、「複数プロット」のシナリオにおけるタイムラインに相当するものなのでしょう。

●『さらば愛しきハリウッド』と「バディもの」

 『さらば愛しきハリウッド』では、砂漠を超えると映画撮影の場面、それが終わるとさらに別の場所へと、展開は目まぐるしく変わっていきます。数値は最小限のものしか使わないため、読者が注意を集中するのは、やはり展開の分岐でしょう。
 ところがゲームブックにおいては、基本は『ファイティング・ファンタジー』のように、「君」の二人称をベースに進んでいくため、視点人物を多極化させることはかなり難しい。
 私の場合は、T&Tソロアドベンチャーとして、無敵の万太郎と岩悪魔シックス・パックの凸凹コンビが織りなすソロアドベンチャーを8作書いているのですが、基本は万太郎視点を取りながらも、冒頭はまるまる岩悪魔視点による「別の物語」を提示し、ある場面ではツッコミ役、別の場面はでボケ役、別のところでは解説役など、シックス・パックの視点を自然に書き込むことで、複数的な視座が生まれるように気を配っています。
 最近では「バディもの」とも言われる、ホームズ役とワトスン役のコンビで進める物語形式は、ゲームブックにはよく見合っており、まだそこまで多くの作例がない鉱脈だと思います。
 『さらば愛しきハリウッド』では、ルパンと次元の「バディもの」として進んでいく部分があり、シリーズ第1作とは思えないほど、うまく処理されています。ただ、合流パラグラフを頻繁に設けるなどして、うまく手綱を締めてやらないと、ゲームブックで複数プロットはやりづらい部分がないでもありません。

●「大人の事情」も意識せよ

 「ホワイト・ドワーフ」誌でサポートされていたRPGのうち、『ウォーハンマーRPG』は−−管見の限り−−まるでゲームブック形式の公式ソロアドベンチャーが書かれていないRPGなのです。
 英語版の発売元であるゲームズ・ワークショップ社としては、ゲームブックのラインは『ファイティング・ファンタジー』、ミニチュアゲームのラインは『ウォーハンマー』という「棲み分け」を意識していたのかもしれません。
 あるいは、特に日本においては、1980年代のゲームブック・ブームが一段落してから、"次の弾"として『ウォーハンマーRPG』の展開が始まった部分があります。
 「ウォーロック」の最終63号(1992年)の編集後記には、最近の号では紙幅のほとんどを費して『ウォーハンマーRPG』にサポートを集中させた旨が書かれていました。
 つまり、ブームの対象が変遷をしているのにすぎない、とも言えると思います。そうした視点を保持しておきながら、なおかつ「複数プロットのゲームブックは可能か?」「可能だとしたら、どのような形に新規性があるか?」ということを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

●ゲームブックから考える

 推理ゲームブック『シャーロック・ホームズ10の怪事件』(二見書房、1985年)は、いま「GMウォーロック」誌等でフィーチャーされているボードの謎解きゲームの先駆とみなすことができます。このゲームブックは複数でプレイしたほうがずっと面白いのですが、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』のように、各シナリオで7本ものプロットが同時進行ということはありません。
 模範プレイヤーとして提示されるホームズは数手で敵の真相を暴くという、ほとんどチート級の頭脳を誇りますが、多くのプレイヤーは真相について、「ああでもない、こうでもない」と起こっている状況を合理的に説明する(ものと思われる)プロットを複数パターン考えるものです。
 仮説はすべて当たっているとは限らず、あるいは全部が間違いなのかもしれません。ただ、事件の真相がマーダーミステリーのタイムラインに当たるものだとたら、謎解きを介してあれこれ真相とは別の物語を想定する行為は、本筋としての真相以外の複数プロットを生み出すことに近いのかもしれません。
 RPGのシナリオ・デザイン作法の記事や本は多々ありますが、複数プロットのシナリオに絞った指南書は−−当のシナリオ内での解説を除けば−−ありません。
 逆に言うと、このスタイルには可能性があります。『ウォーハンマーRPG』を介して、複数プロットの面白さを体感してみてください。

●「オペラ座の夜」

 前回予告した『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の第3話「オペラ座の夜」についても、簡単に紹介しましょう。ネタバレはしませんが、何一つ予備知識を入れたくないという方はご注意いただければと存じます。
 本作はまず、オペラの概観のヴィジュアルと、舞台の具体的な地図が壮観で、そこにナルンの女侯エマニュエル・フォン・リーベヴィッツや、ウォーハンマー小説でお馴染み天才劇作家のデトレフ・ジールックまで出てくる豪華な作りの作品です。
 批評家のフランセス・イエイツはシェイクスピアのグローブ座を「世界劇場」と呼びましたが、以降の時代にオペラが上演されてきた劇場もまた、さながら自律した別世界そのものでした。
 あるいは、ガストン・ルルーの怪奇小説『オペラ座の怪人』は、ジャック・ヨーヴィルのウォーハンマー小説にも取り入れられています。華やかな舞台とみすぼらしい怪人という「陽」と「陰」の対比が印象的だからでしょう。
 いずれにせよ、自然とドラマティックな展開やメタ構造への仕込みが行いやすいため、オペラや劇場は、しばしばシナリオの舞台とされてきました。
 実際、私自身、ガンアクションRPG『ガンドッグゼロ』のリプレイ『アゲインスト・ジェノサイド』(新紀元社、2009年)を書いたときには、プーシキン原作・チャイコフスキー作曲のオペラ『エフゲニー・オネーギン』を取り入れています。
 わかりやすさを重視し、幕ごとの切れ目を実際のオペラとは変えているのですが、とはいえシナリオ執筆にあたっては、2008年の二期会公演、コンヴィチュニー演出の『エフゲニー・オネーギン』を鑑賞し、その雰囲気を取り入れられるように工夫しました。
 ちなみに、私が編集長をしている「ナイトランド・クォータリー」Vol.29(6月29日頃発売予定、アトリエサード)では、二期会会員のバス・バリトン歌手、畠山茂さんによるコンヴィチュニー演出『サロメ』に出演した経験についてエッセイを書いていただきました。こちらも参考になると思います。

●「オペラ座の夜」をより愉しむために

 「オペラ座の夜」で上演されるのは、あくまでもオールド・ワールドでの劇であり、我々の世界のオペラ、それそのものではありません。オールド・ワールドは主に、三十年戦争期の神聖ローマ帝国(ドイツ)をモチーフとしていますが、文化芸術の一部は、ヴィクトリア朝イングランドあたりを模倣しているところがあります。
 ただ、近代文学の特徴たる単線的で明確な時間軸・筋の通った物語・内面を有した登場人物をしっかり揃えた作品は、17世紀フランスの古典劇ですでにありました。
 他方、17世紀のドイツ・バロック悲哀劇は、現代から見るとしばしば支離滅裂で残虐。それをそのまま提示すると、リアルなはずなのにかえってリアルでなくなってしまう、ということに繋がりかねません。
 逆に言うと、シナリオのタイムラインをしっかり押さえつつ、理解の枠組みを超えない範囲で支離滅裂で残虐にすれば、自然とそれらしくなるわけです。そのためには、回り道のようで、しっかり資料を読んでいただくのがよいでしょう。
 本シナリオをプレイするにあたっては、GMはぜひ、ウォーハンマー小説『ドラッケンフェルズ』(ジャック・ヨーヴィル、待兼音二郎他訳、ホビージャパンHJ文庫G、2007年)は読んでいただきたい(あるいは、再読いただきたい)。欲を言えば、プレイヤーの方にも、読んでいただきたいと思います。盛り上がり方が段違いだからです。
 『クトゥルフの呼び声』(『クトゥルフ神話TRPG』)の名作キャンペーン『黄昏の天使』(1988年)には、プレイにあたって事前に『遠野物語』を読むのが推奨されるシナリオが含まれますが、それと同じこと。いきなり言われると面食らうかもしれませんが、これが、プレイしてみると自明なのです。
 マストではありませんが、ぜひ『ドラッケンフェルズ』にチャレンジいただきたい。そうすれば、「オペラ座の夜」は何倍も面白くなるでしょう。そうそう、「オペラ座の夜」というタイトルは、著名な「ボヘミアン・ラプソディ」を収めたクイーンのアルバム『オペラ座の夜』(1975年)を意識していますね……。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.6


 2022年6月2日配信の「FT新聞」No.3417に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.6が掲載されました。冒険者たちは、山岳に待つ女王の城塞へと進軍し、死の収穫を食い止めることができるでしょうか?

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.6

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/488175480.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第7話「収穫」の内容となります。冒険者たちは山岳の城塞に攻め入ります。

●登場人物紹介

タモト/詩人ドワーフ、5レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、5レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、5レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、4レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、6レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、5レベル。
プロスペル/ペンハリゴンに派遣中の騎士、5レベル。

アルテリス・ペンハリゴン/ペンハリゴンの女男爵。
イリアナ・ペンハリゴン/アルテリスの異母姉。ペンハリゴン家の領土と爵位を要求している。
オーガン将軍/イリアナに協力している熟練の戦士。「常勝将軍」と言われる。
モルドレイク侯/ペンハリゴンの貴族。その正体は……!?
バーグル・ジ・インファマス/ブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師。
ヴァーディリス/ヒュージ・グリーン・ドラゴン。

●出発準備

 レディ・アルテリス・ペンハリゴンの依頼を受け、「危険な任務なので」と、いくつかの支援アイテムを受け取った一行。
 「ヒーリングスタッフ」(治癒の杖)、「キャンセレーションロッド」(魔法を打ち消すことのできるロッド)や、「ソロモンポーション」(動物と話ができるポーション)、3本のスクロール(巻物)などを手に入れたのだ。他にも、食糧を買い込んだり、旅のためのさまざまな準備を整えたりする。
 合間をぬって、グレイはひそかに真鍮の火鉢を用意し、怪しげな儀式を始めた。新しく覚えた魔法、「ファインド・ファミリアー」を使おうというのだ。1度は失敗したものの、2回目でようやくファミリアー(使い魔)が現れた。黒猫である。初めての使い魔の登場に喜びいさんだグレイは、「ルー」という名前をつけた。
 一方で、ヨブとプロスペルは険悪な空気に包まれていた。同じ戦士といっても、性格は対極であり、気が合うはずがないのである。残りの面々は必死で彼らをとりなし、ようやっと旅路につくことができた。

●ノールの襲撃

 時はフラーモント(4月)の5日。イリアナの城砦への行軍が始まった。
 ペンハリゴン出発1日目。ウルフホルド丘陵をさまよっていた彼らは、にわか雨にさらされたため、ゆっくりと休める場所を探すことにした。
 すると、北西の方に洞窟らしきものが見えてくる。
 近づいていくにつれ、様子がはっきりとしてきた。
 洞窟の前にはノールが2体、見張りらしき様子で構えている。
 ノールとは、ハイエナの頭をもった、人間のような生き物である。一説によれば、邪悪な魔法使いの力によって、ノームとトロールが合体させられたものだと言われている。
 ノール語を解するシャーヴィリーが話しかけるが、ただちに追いたてられる羽目になってしまった。
 しかも、ノールの射手は腕前に長けていた。そのうえ、見張りのノールが仲間を呼び、洞窟の奥からさらなるハイエナ頭が駆けつけてくる始末。
 ドラフトホース(駄馬)に乗っている一行は、なんとか追手をまくことに成功したものの、気がつくとプロスペルの姿がない。
 どうやら、慣れない荒野での乗馬のため、うまく手綱をさばくことができず、振り落とされてしまったらしい。
 すかさずタモトらが手助けに入り、プロスペルを連れ戻すことに成功した。が、プロスペルはノールどもの攻撃を受けて、瀕死の状態にあった。

●2日目

 翌日。荒野での劣悪な寝処のためか、何人かが風邪をひいてしまった。それでも先を目指さねばならない。
 厄介なことに、イリアナの城砦の詳しい場所は知られていない。あるのは、ペンハリゴンの遥か北にあるという噂のみだ。
 正確な場所を知ろうと、グレイは「ソロモンポーション」を飲んで渡り鳥に話しかけたが、失敗に終わってしまった。
 夕方頃、丘陵の一番高い地点にたどり着いた。辺りを見回してみる。
 北には山々が、はるか東には奇妙な塔のような建物が、そしてそのそばには、人方の生き物の集団が、それぞれ窺える。
 一方、南東の方角には、うっそうとした森が茂っている。パーティはリアを偵察に出した。どうやらオークどもらしい。その数、およそ30体ほど。
 危険を察知したパーティは、夜中にもかかわらずキャンプの場所を変え、北の山のふもとにある、手ごろな茂みを寝処にすることとした。
 ノールが何体か追跡してきたようだが、一行が隠れている場所には気づかなかった。

●3日目

 3日目。昨日見えた塔のようなものの方角に進んでみた。
 丘陵だと時間を食うので、なるべく道の良いところを選ぶことにする。
 途中、昨日のオークどもの野営地を通った。が、彼らはすでに、いずこかへ姿を消してしまっていた。
 塔が近づいてきた。どうやら、イリアナの要塞とは様子が異なるようだ。グレイが言うには、魔法使いはよくあのような感じの塔に住んでいるという。
 塔に出向いて要塞の位置を聞き出そうとするパーティ。しかし、長い河が横切っており、近づくのは困難である。
 その時だった。一行は、何者かに見られていることに気がついた。
 振り返った時には、もう遅い。巨大な目玉が薄れていく。魔術師が使った「ウィザード・アイ」の呪文のようである。
 危険な空気を感じ取ったパーティは、可能な限りの速度で、その場を後にした。

●4日目

 4日目。オークの野営地へ戻ってきた一行は、先日の塔とオークたち、それにイリアナとは何らかの関係がありそうだ、と推測して、オークたちの目指した方向へ行ってみることにした。
 幸い、彼らは足跡を多く残していたので、後をつけるのは実に簡単だった。
 山に分け入り、道はだんだんと険しくなってくる。
 休息のために足を止めた瞬間、物陰から、一頭のヒポグリフ(グリフォンと雌馬のあいの子)が飛び出してきた。傷を負っており、ずいぶんと気が立っているようだ。
 不意を突かれたグレイが瀕死の重傷を負ったものの、タモトのバトルアックスの一閃で、敵は昇天してしまう。
 聞いた話では、グリフォンは光り物を集める習性があるという。ヒポグリフはどうだろう。好奇心にかられたパーティは、彼女が現れた洞窟を調べてみることにした。
 無駄な時間だ、とタモトやヨブは苛立ちを隠さないが、いったん火がついたリアやグレイの好奇心は止められない。
 そこは、ヒポグリフの巣穴だった。そしてその中では、まだ生後1〜2週間ほどの、ヒポグリフの子供が眠っていた。
 リアやタモトは、ペットとしてヒポグリフの子どもを連れていくことにする。

●城塞潜入

 山頂付近に到達した。怪しげな城塞が建っている。まさに天然の要蓋だ。
 接近しつつ、一行は中にはいるための策を練った。
 協議した結果、リアが単身、「エルブン・ブーツ」(足音を消す靴)と「インビジビリティ・ポーション」(透明化のポーション)を用いて、内部に潜入することになった。
 目的は、イリアナがモルドレイクらと繋がっている証拠を突き止めることである。
 「クライムウォール」や「ムーブサイレントリー」のシーフ能力を駆使し、素早く内部に忍び込む。
 なかには、数人の衛兵がうろついている。
 ほとんどはオークで、一部にホブゴブリンが混じっているだけだ。
 砦自体は、外囲いと内囲いの二重構造になっている。
 見張り塔の一つに司令官がいることを察したリアは、騒動を起こした隙に、イリアナが悪の手先であるという証拠を奪取しようと企む。
 砦の内部にある厩やオークの寝床が密集している場所に火を放つことに決めたのだ。

●司令官登場

 火は瞬く間に燃え広がり、辺りは大騒ぎになった。
 ホブゴブリンたちはあわてふためき、ボスのもとへと走っていく。
 すぐさま現れたのが、全身をプレートメイルで包み、青白く輝くメイスを持った黒髪の女と、鋭い刀傷をいくつも顔にこしらえた男だった。
 どちらも、熟練の戦士のみがもつ威厳を全身にみなぎらせている。
「これはどういうことだ」と、女が冷たい口調で問いただした。
「バーグルのやつの仕業ではなかろうか。これだから、魔法使いは信用ならぬ」
 男が口を挟む。
「めったなことを口にされぬよう、オーガン将軍。バーグルは色々と私によくしてくれた。そんな彼が裏切るとは信じがたい。何者か外部の者のしわざやもしれぬ。おそらく、アルテリスめの……。ヴァーディ、いやモルドレイクの奴は、つつがなく仕事をしているというのに」
 オーガン将軍と呼ばれた男の胸にはブラック・イーグル男爵領の紋章が刻まれていた。
 会話の内容から察するに、彼らは明らかに悪しきものどもと繋がってもいるようだ。
 証拠をつかんだリアは、とりあえずパーティのもとへと戻ろうと走り出した。
 その瞬間、彼女の透明化が破れてしまった。
 二人の傍らにたたずんでいたローブの男が放った呪文のためらしい。
 絶体絶命の危機である。命からがら、全速力で逃げに逃げた。
 装備が軽いのと、足が速かったのが幸いして、どうにか追手を引き離すことができた。
 しかし、眼前には、オークが5体ほど立ちふさがっていた。彼女は絶望に包まれた。

●「反逆者」

 リアの帰りを待ちながら砦の様子を窺っていたパーティの残りの面々は、すぐさま騒ぎに気づいた。勢いよく燃え上がる炎が見えたのだ。
 城門の方へ駆けつけると、悲鳴が聞こえてきた。これはまずい。
 一行は武器をとって城門を破ると、中に突入し、気絶しかけていた仲間を拾い上げて馬に乗せ、一路逃亡を図った。
 馬に乗ってしまえばこっちのものである。
 ――と思ったのも束の間、一瞬周囲の空気がざわついたかと思うと、彼らの前に、先ほどの女、「反逆者」イリアナ・ペンハリゴンが立ちはだかった。
「よくも、『死の収穫』の邪魔をしおって、虫けらどもめが! 目にものみせてくれるわ!」
 そう叫ぶと、イリアナは手にしていた巨大なメイスで馬上のヨブを殴りつけた。
 ヨブは吹き飛ばされながらも、必死で気力を振り絞り、悪態をつき、体勢を立て直して斬りかかる。
 ジーンにタモトも加勢する。
 その間、グレイ、リア、シャーヴィリー、プロスペルらは先を急いだ。

●「強力な魔法使い」

 城門からも1ダースほどのオークが現れ、こちらに向かってきた。中心にいるのは、オーガン将軍で、巨大な馬に乗って疾駆してくる。
 ヨブやタモト、それにジーンは、イリアナの放つメイスによって、相当の痛手を被っている。
 再度、イリアナがメイスでタモトに殴りかかった。
 とっさにドワーフは斧で攻撃を受け流そうと試みる。
 二つの武器が打ち合わされた瞬間、火花が迸ったかと思うと、巨大なエネルギーの奔流が溢れ、立っていられないほど巨大な地響きが発生した。
 オークどもは総毛立ち、「敵の中には強力な魔法使いがいるらしい」と騒いでいる。

●「常勝将軍」

 グレイは一瞬の隙をついて、イリアナに「チャーム・パーソン」(魅了)の呪文を唱えた。
 イリアナは抵抗できず、放心状態になってしまった。
 うつろな目をした彼女を、ヨブは拾い上げて馬に乗せ、人質として連行する。
 なお、彼女が取り落としたメイスは、抜け目ないジーンがちゃんと回収していた。
 しかし、その隙を逃さず、黒馬を駆って近づいてきたのはオーガン将軍。
 ヨブと目が合うと、にやりと笑った。
 そう、ヨブはブラック・イーグル男爵領出身。しかも、オーガン将軍とはただならぬ因縁があったのである。
 オーガン将軍は楽しげに笑う。
「よもや、お前がこやつらに加勢していたとはな。驚いたぞ。ここでお前を殺すのは惜しい。イリアナをこちらに渡せ。そうすれば今日のところは見逃しておいてやる」
 ヨブは頷き、イリアナを馬から下ろす。そうして、グレイの方を見て、顎をしゃくる。
 グレイはことを理解した。
 魂の抜けた顔をしているイリアナを指して、帰るように命令する。
 その様子を見て、オーガンは瞠目した。大きな笑い声を上げる。
「まさか、偶然は続くものだな。こんなところで放蕩息子と出会うことになろうとは。まさしく、青天の霹靂だ」
 オーガンは笑い続ける。
「よかろう、今回はお前らの勝ちだ。アルテリスにはそのように報告しておくんだな。だが、次に相まみえたときには容赦はせぬ。たとえ、我が息子が相手だろうともだ。それから、こいつの持っていたメイスも返してくれ。『ペトラの嘆きのメイス』を持つ者と、『ジルチェフの欺きの斧』を持つ者とが一緒にいては危険だからな」
 ジーンがうやうやしく差し出したメイスを受け取ってイルミナを後ろに乗せると、オーガンはきびすを返して馬に乗り、たちまち姿を消した。

●ペンハリゴンの惨劇

 かくして事態は素直に収拾したかのように思えた。
 彼らは無事に使命を果たし、砦を後にし山を越えて、無事、ペンハリゴンの街に舞い戻った。
 しかし、どうも街の様子がおかしい。ひどく荒廃しているのだ。
 行きつけの店の店主に様子を聞いた一行は、そこで衝撃の事実を知った。
 パーティが街を出てしばらく立ったあたりで、突然ノールやオークどもの群れが、街に攻撃をしかけてきたというのだ。
 ペンハリゴンの騎士団や、アリーナ率いるグリフォン聖騎士団の活躍もあって、勝利は目前に思えた。
 何よりも、思ったほど敵の数が多くないのが救いだった。
 その時である。
 騎士の一隊を任されていたモルドレイク公が変身し、巨大な緑竜となったのだ。
 緑竜は空を飛んで騎士たちに酸のブレスを吐きかけた。
 それに呼応するかのように、押され気味だったオークやノールも、体勢を立て直した。
 けれども、騎士たちの奮闘が功を奏したのと、オークどもが頼りにしていた補給部隊がなかなか到着しなかったためもあって、間一髪で竜やモンスターどもを追い払うことができたのだという。
 事の次第に驚いた冒険者たちは「三つの太陽」城に出向き、アルテリスに面会を申し入れた。

●名誉回復

 女領主は幾分やつれた顔つきで一行を出迎えた。
 そして、街に流れている噂は真実であると請け合った。
 そのうえで敵の援護部隊が到着しなかったのは、パーティのおかげだったということを知って、アルテリスは深く感謝した。
 彼女は冒険者たちにねぎらいの言葉をかけると、いくばくかの報酬と、「コート・ロード(名誉貴族)」の称号を与えた。
 そして、プロスペルの手をとり、犯罪者の濡れ衣が晴らされ、無事に名誉が回復されたことを告げたのだった。

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2022年05月19日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.22

 2022年5月19日配信の「FT新聞」No.3403に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.22が掲載されました。今回はマーダーミステリーとの比較から、複数プロットのシナリオとタイムラインのあり方を考察しています。好評の新作『眠れぬ夜と息つけぬ昼』についても言及。


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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.22

 岡和田晃
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 チーズ店は不自然なほど奇妙に静まり返っている。
 そして、"風"が乱れている。
 −−あれは、黒のダハール。
 第二の目がはっきりと捉えた。霊魂が集まり、何かを訴えている。
 悔しさ、悲しさ、形にならない無名の感情……。
 それらが入り混じり、わたしたちに何かを伝えようとしているのだ。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●タイムラインの重要性

 複数プロットのシナリオの話の続きとなります。
 『眠れぬ夜と息つけぬ昼』に収められたシナリオ群は、すべてが複数プロットの形式をとっています。冒険の舞台となる街や建物に、それぞれ異なる事情や思惑を抱えた人たちが居心地悪く同居しているわけで、そうした関係性を軸に起きる事件を1つのプロットだと考えれば、7つほどのプロットが用意されているということになります。
 もちろん、実際にプレイするにあたって、すべてのプロットがどのようなものかをプレイヤーの立場から完璧に解き明かすのは困難……ほとんど不可能でありましょう。
 −−とはいえ、登場する連中がどのような思惑で動いているのかをある程度は推測できなければ、怒涛のごとく巻き起こる事件の数々に翻弄されるだけに終わってしまいます(それもまた一興ですが)。
 本連載の前回の反響として、「鋼の旅団」さんからは、「複数プロットのシナリオを回すには、GMの事前準備が不可欠」というご意見をいただきました。
 まったくもってその通りです。具体的な準備としましては、「建築関係の人が使うような工程表めいた表をエクセルで自作しています」ということですが、このやり方は、シナリオを一読してもなかなか頭に入らないという方にはうってつけでしょう。
 手を動かすことで、シナリオの構造が自然に把握できるとともに、「このNPC、いまどこにいたっけ」という事態に陥らずに済むというわけですから。
 加えてこのご意見は、複数プロットのシナリオにおけるタイムラインの重要性ということを、さりげなく指摘してくださっている点が重要です。

●複数プロットとマーダーミステリー

 タイムラインという言葉は、最近はアナログゲームにおいては、マーダーミステリーがらみでよく聞くようになりました。
 マーダーミステリーとは、いわば「参加する推理小説」。複数のプレイヤーが正体や真の目的を秘匿しつつ、実際に推理することで他人の行動の動機を当てることが目されるタイプのデザインになっています。
 が、すべての行動が単一のプロットに還元されることは稀であり、多くの場合は、ある大目的(殺人事件)に関連して様々な思惑が複合的に交錯していく形を取ります。
 こうしたデザイン形式により、推理小説がまま陥りがちな、「探偵役と犯人についての記述は厚いものの、それ以外の描写は薄っぺらい」という状態を回避することができます。
 それゆえ、どこかで聞いたような大枠であっても、驚くほど多角的な物語を生むことが可能になりうるのでしょう。

●マーダーミステリーの不得手とするもの

 ただ余談ですが、マーダーミステリーは推理小説の古典がしばしば微に入り細を穿つように描写してきた、物理トリックの扱いが弱いように思われます。
 最近、ある優れたマーダーミステリーをプレイする機会がありました。綾辻行人〈館シリーズ〉ばりの館の地図が提供され、期待は高まったのですが、重要キャラクターにまつわる設定の作り込みは充実していたものの、館そのもののトリックは小さくまとまってしまっており、そこが難点といえば難点でした。
 それこそ島田荘司の小説のような大掛かりなトリックに限らず、ミステリの王道である複雑な密室トリックも(ゲームとしての再現が難しいため)どちらかといえばマーダーミステリーは不得手のように思われます。
 これはマーダーミステリーと推理小説のどちらが優れている、という話ではなく、それぞれの表現形式の特性を把握したうえで、なおかつ、そちらを乗り越えるようなデザインを模索すべきということなのだろうと思います。

●RPGとマーダーミステリー

 タイムラインについての話に戻りましょう。『眠れぬ夜と息つけぬ昼』でも、起こる出来事にはきちんとタイムラインが明示されています。
 構造だけを取れば、複雑プロットのシナリオは『ウォーハンマーRPG』に限らず、それこそ『T&T』や『混沌の渦』など、他のシステムでも充分に再現可能で、『クトゥルフの呼び声』(クトゥルフ神話TRPG)でも、それに近い内容のものも見たことがあります。
 こうしたRPGにおけるタイムラインのあり方は、マーダーミステリーにおけるタイムラインと重なる部分もありますが、異なる要素も散見されます。
 マーダーミステリーのタイムラインは、物語の基盤となる事件(殺人事件など)が「すでに起こったもの」として示されていることが多く、そのタイムラインの隙間を−−調査と推理によって−−埋めていく作業がメインとなります。
 PCが関わるタイムラインも、与えられたキャラクターの設定書に書き込まれているのが基本です(設定が進行とともに開示されてゆくケースもありますが)。
 対してRPGの場合、設定は所与のものだけではなく、キャンペーンのなかで自ら獲得し、作り上げていくものの比重の方が大きいように設計されています。
 各々のキャラクターがてんでバラバラに別々のプロットに絡むよりは、相談をしながら、ある程度の方向性をもってプロットに関与していくことの方が多くなります。
 それはRPGにおいては協力型のシステム・デザインが大半だからでしょう。
 近年は正体隠匿型のデザインも目立つようになってきており、マーダーミステリーとの差異は少しずつ解消されていく部分もあろうかと思います。
 ただ、正体を隠匿しているPCが多いなかでキャンペーンを持続させるのは、GMにとってかなりの熟練を要することは疑いありません。

●オールド・ワールドが舞台ということ

 さて、『ウォーハンマーRPG』で複数プロットの冒険を行う場合、まずもって、オールド・ワールドでの冒険だということが重要になってきます。
 嶮難なるオールド・ワールドは、中世後期から近世ヨーロッパがモデルになっているため、現実っぽく、泥臭くてパンクな価値観が共有されています。
 闇雲に裏切ることが推奨されているという意味ではありません。
 RPGのシナリオにまま見受けられる、シナリオの最後にはボスとの戦いを設定して半ば強制的にドラマを演出する……といった構造を、必ずしもそのまま踏襲する必要はないというわけですね。
 キャラクターにとり納得がいくのであれば、別にボスを放置して逃げ帰り、それで物語を閉じてしまってもよいわけです。
 取ってつけたような「イイ話」へ無理やり落とし込むよりは、キャラクターの生き様そのものを、ルールが強制するのではなく後押しするような設計、『ウォーハンマーRPG』は、それがやりやすい設計になっているというわけなのです。

●タイムラインを整理する

 そこでタイムラインの問題です。
 GMはこれをある程度、しっかり把握していくことが重要です。
 「鋼の旅団」さんのように工程表を自作するのもよいでしょうし、そこまで手間をかけられないという場合は、マーカーペンを使って、どれがどのプロットに関係しているのかを、視覚的に見分けられるようにしておくのもよいかもしれません。
 複数プロットのなかには、本筋に近い重要なものもあれば、PCたちが絡むべくもないような間柄のNPCたちが織りなすプロットも散見されます。
 それを逆手に取り、プロット間の重要度にランク付けをしておくのも有用でしょう。要するに、把握しやすいのが一番だということですね。

●巻き戻しはNG

 また、実際のセッションにおいては、PCたちはとかく好き勝手に動きたがります。
 PCたちの行動に合わせてGMがシナリオを柔軟に変化させていた結果、場合によっては辻褄が合わなくなってしまったり、あるいは間違った運用をしていたことに後から気づいたりする……というケースもあるでしょう。
 ただ、その場合、よほど致命的なものではない限り、GMは闇雲にタイムラインを巻き戻して提示するべきではありません。
 どうにも収拾が付かなかったプロットは、そのまま放置するというのも一つの手です。
 というのも、PCはあくまでもPCたちの視点でしか状況を把握しておりません。
 そのようなPC側から見えている景色に一貫性を与えることはGMのつとめであります。GMしか知らない部分の処理に汲々するよりは、PCたちが主体となって行動することに、意味を与えることが大事なのです。
 複数プロットというオールド・ワールドと相性がよい方式を選んでいる時点で、セッションにおいてプレイヤーが感じる「その世界で生きている」という想いは充分に充たされます。
 そのうえで、PCたちを自由に泳がせながら、各プロットの枠から逸脱しすぎないよう、自然にコントロールすることが大事になってくるわけです。
 プレイヤーからするとそれは、自分たちのコミットメントに意味を与えてほしい、ということになるでしょう。
 −−もう一度言います。
 プレイヤーの行動に意味を与えよ。
 裏設定がこんがらがったら捨て置き、その労力で表面化した矛盾を削り取れ。
 そうすれば、自然とオールド・ワールドらしさは出てくる。
 −−以上を念頭に起きつつ、的確に「プレイヤーを楽しませること」を目指してください。

●決闘裁判

 それでは本連載の前回で予告した、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の解説をやっていきましょう。ここに書いたことくらいで崩壊するようなものでこそありませんが、気になる方はご注意ください。
 第2話は、「裁判の長い一日」。これはロープと滑車を駆使したユニークな移動方法で入ることになる街、ケンペルバートが舞台となっており、裁判所の詳細な地図も添えられています。
 『ウォーハンマーRPG』は、2版の『ウォーハンマー・コンパニオン』の頃から裁判のルールが追加されており、4版でも法廷闘争や冤罪に題材をとったシナリオも存在します。
 ただし、「裁判の長い一日」は、裁判は裁判でも、なんと決闘裁判を扱う内容になっています。原告や被告のやとった代理戦士に決闘をしてもらい、その勝敗にすべてを委ねるといったタイプの裁判です。
 ゆえに裁判所だけではなく、このシナリオ集には闘技場のマップも添えられているというわけです。
 初版の頃からPCが就けるキャリアに代理戦士が用意されていたことに鑑みると、いわば当然でありましょう。そこに、「"三枚羽根"亭での眠れない夜」から継続したプロットや、まるで新規のプロットが入り乱れるというわけです。
 決闘裁判についてより詳しく知りたい方は、「Role&Roll」で連載中の「戦鎚傭兵団の中世"非"幻想事典」もご覧ください。連載第35回(「Role&Roll」Vol.145所収)、第66回(「Role&Roll」Vol.207所収)で、この制度を多角的に捉えようとしています。
 次回は第3話「オペラ座の夜」や、それ以降のさらなるシナリオについて紹介していきます。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
『ウォーハンマーRPG 眠れぬ夜と息つけぬ昼』
 発売日:2022年3月
 価格:4,800円(+税) 書籍発売中/PDFデータ版発売予定

『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.5

 2022年5月5日配信の「FT新聞」No.3389で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.5が配信されました。ペンハリゴン市内で起きた殺人事件についての話ですが、思わぬ大物も絡んできます。D&Dらしく、死者との対話の呪文も登場!

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.5

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料等の各種を参照しています。前回T&Tからみの資料も使ったように、他のオールドスクール・ファンタジー作品への参照をしている場合もあります。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/486402222.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第6話「鉄鎖」の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/詩人ドワーフ、4レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、5レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、4レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、3レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、5レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、4レベル。

バーリン/一行に同行していたドワーフ。
プロスペル/ケルヴィン出身の騎士、4レベル。ペンハリゴンに派遣中。
アストラッド夫人/ペンハリゴン在住の貴族。プロスペルの親族。
「ルルンの」ヨランダ/絶世の美女にして評判の踊り子。ブラック・イーグル男爵領からの避難民にして、ヨブへの依頼主。
モルドレイク侯/ペンハリゴンの貴族。美男子だが、悪い噂が絶えない。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
アルテリス・ペンハリゴン/男爵。ペンハリゴンの女領主。「氷の心」と噂される。
バーグル・ザ・インファマス/盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領にして、ブラック・イーグル男爵の片腕。

●城塞都市ペンハリゴン

 ようやくペンハリゴンの街に到着した冒険者一行。
 単なる街というよりは、城砦都市だ。空気が、どこかピリピリしている。
 隣国ダロキン共和国やイラルアム首長国連邦との交易に沸くケルヴィンや、厳格なシャーレーン・ハララン大司教が治めるスレッショールドとは全く異なるのだ。
 おそらく、長年、丘陵を蹂躙するオークやオーガーどもと戦いを続けてきたためだろう。
 不安を抱きながらも、一行は長旅の疲れを癒そうと宿へと直行した。
 看板が目に入る。「真鍮製の王女様」亭。変わった屋号だ。
 「氷の心」と陰口を叩かれている、この地の女領主アルテリス・ペンハリゴン男爵を揶揄しているのだろうか。
 ここでパーティは、グリフォン聖騎士団の面々、そしてバーリンに別れを告げた。
 そして、この地で必要な補給を試みる。
 しかし、マジックアイテムはやはり高嶺の花。ポーション・オヴ・ヒーリングのような低レベルのアイテムしか手が出ない。

●騒動

 一行は観光がてら、様々な店を見物することにする。
 −−その時だった。
 玩具屋に向かうハーフリングのように目を輝かせて駆け出したグレイと、反対側から歩いてきた騎士装束の男がぶつかったのだ。
 男は丁寧に侘びた。高貴な身なりで、いかにも育ちがよさそうだ。
 グレイはにやりとする。カモ発見だ。
 仲間に目配せすると、彼はただちに「因縁」をつけにかかった。
 とは言っても、どこぞのチンピラのように脅しにかかるわけではない。
 童顔のグレイらしく、純真無垢な子供を装ってタカリにかかるのだ。魔法にはカネがかかると、身にしみたがゆえの処世術である。
 けれども、相手の男がその意図に気づかないはずはない。
 実直な騎士は烈火の如く怒った。
 案の定、辺りは大騒ぎとなり、衛兵まで駆けつけてくる始末。
 おまけにグレイは隣のリアを「お姉ちゃん」と呼び、あくまで責任を逃れようとする……。
 リアの取りなしで事態は収拾したものの、「プロスペル」と名乗る騎士は怒り収まらぬ様子であった。
 −−が、衛兵の顔を見るやいなや、なぜか彼は、慌てて去っていった。

●放蕩貴族の身の上

 プロスペルはケルヴィン伯デスモント・ケルヴィン卿の寵臣を父に持つ貴族である。
 いずれは、父の後を継がねばならない身の上だ。
 ゆえに後学のために、彼はペンハリゴンに派遣された。
 そして、父方の従姉妹であるアストラッド夫人に仕え、貴族に相応しいだけの教養を積み、礼儀作法を学ぶよう命じられたのである。
 けれども夫人は大変気難しく、プロスペルのちょっとしたミスも容赦しなかった。
 すっかり嫌気がさした彼は、そのまま街に飛び出したのだ。

●再会

 グレイとのいざこざを逃れ、プロスペルは宿で一息つくことにした。
 「真鍮製の王女様」亭。幸い、幾日か滞在できるくらいの金子はある。
 しかし、彼はそこで、再び先ほどの冒険者連中と出会ってしまった。
 もちろん、プロスペルとヨブは戦士としての見栄を張り合う。
 怪我の功名。雨降って地固まる。なんとかお互い打ち解けることができた。
 けれども、災難は続くもの。
 彼らは、隣の席で商人風の男たちが交わしていた噂話を小耳に挟んでしまった。
 なんと、ペンハリゴンの宮廷内で、アストラッド夫人という女性が殺害されたという。
 しかも、驚くべきことに、犯人と目されているのは、どうやらプロスペル自身らしい!
 だが、パーティにしてみれば、どうしてもプロスペルがそのようなことをするようには思えない。それはグレイもリアも同意するところだ。
 一行は事情を探ってみることに決めた。
 一刻も早く「ルルンの」ヨランダに頼まれたロスト・ドリームの湖を目指したいヨブだけは、一人反対したが……。

●調査開始

 情報が早いのは、なんといっても盗賊ギルドだ。
 そこで早速、リアは「盗賊の王国」ペンハリゴン支部へと向かった。
 彼女を待ち受けていたのは、彼女の父の友人というゲオルグという名の男だった。
 ひょうきんな男だが、くだんの殺人事件の話を持ち出すと表情が険しくなった。
 どうやら、この件には「アイアン・リング」が関わっているようだからである。
 噂では、アストラッド夫人は殺された後、城門付近に逆さ吊りにされていたと噂されている。
 それは、「アイアン・リング」が犠牲者を見せしめにする常套手段なのだ。

●モルドレイク

 残りの面々は、手分けして情報収集に向かった。
 判明したのは、どうやら公爵夫人はモルドレイク候という新興の貴族と深い関係にあったらしい、ということだった。
 モルドレイクはハンサムで有能だが、腹黒い噂が絶えない男である。
 進退に悩むが、ジーンが再びカラメイコス教会に話を聞きに行くことになった。
 だが、ジーンはその途中で衛兵に捕まってしまった。
 昼間、プロスペルと一緒に行動していたところを見られたからである。
 衛兵の詰所に連れて行かれた彼を尋問したのは、張本人のモルドレイク自身。
 モルドレイクは血相を変えて、ジーンからプロスペルの居場所を聞きだそうとする。
 当局は彼を犯人と断定したわけではないが、限りなくそれに近い存在であると考えているらしい。
 しかしジーンはモルドレイクの詰問をのらりくらりと受け流した。
 結果、プロスペルを見かけたらすぐさま連絡するようにと釘を刺されはしたが、無事に釈放されたのだった。

●アリーナに会うべきか?

 ようやく教会を訪ねたジーンは、新たな情報を得た。
 グリフォン聖騎士団の隊長アリーナ・ハラランが、当局に招聘されたというのである。
 どうやら、彼女に公爵夫人の死体に「スピーク・ウィズ・ザ・デッド」(死者との会話)の魔法をかけさせ、真相を探るためらしい。
 ペンハリゴンに高レベルのクレリックは少ないため、アリーナはまさしく格好の人材なのだ。
 冒険者たちは相談する。
 元グリフォン聖騎士団員であるシャーヴィリーのコネを使えば、アリーナに会うことはたやすい。
 −−だが、プロスペルが犯人扱いされているなら、その計画はあまりにも危険ではないか? と。
 結論が出ないまま、その日はもう遅いので、パーティは休むことにした。

●真夜中の襲撃

 真夜中。
 突然の物音にプロスペルは目を覚ました。
 目の前には、ボーイらしき少年が立っている。
 たしか、鍵はかけたはずだが。
 警戒したプロスペルは、少年にいくつか質問を投げかけた。
 案の定、帰ってくる答えはまったく支離滅裂である。
 プロスペルが剣を抜くと、観念したのか、相手は襲いかかってきた。
 小柄な体が盛り上がり、剛毛が生え、牙が伸びる。
 そう、敵はワーウルフだったのだ! 
 驚くプロスペル。しかも、今まで眠っていた彼は、鎧を着ていない(クラシックD&Dでは、しばしば致命的である)。
 かろうじて応戦するものの、狼はなかなかの手だれだった。
 事態に気づいたパーティの他の面々も戦いに加わるが、思うように攻撃が当たらない。
 ようやく敵が倒れた頃には、プロスペルはかなりの深手を負っていた。
 それを見たグレイは、ワーウルフなどの獣人(ライカンスロープ)に重傷を負わされたものはライカンスロピィという病気に感染してしまい、近くワーウルフになってしまうことを思い出した。
 高位のクレリックに治療してもらわねば、やがてプロスペルもワーウルフと化してしまうだろう。
 しかも、獣人の腕には、「アイアン・リング」の刺青があった。もはや手段を選んではいられない。
 やむをえず、彼らはアリーナのもとに向かった。

●女領主アルテリス・ペンハリゴン

 アリーナの部屋に通された一行は、彼女の隣にペンハリゴン領主アルテリスがいるのを見て驚いた。
 どうやら、何かを相談していたらしい。
 シャーヴィリーが殺人事件について尋ねると、アルテリスは顔を曇らせた。
「わらわはプロスペルが犯人だとは思っておりませぬ。
 確かに、アリーナの魔法の結果、公爵夫人が死に際に見た光景は、プロスペルが殺人者であることを示しておりました。
 けれども、何か腑に落ちないものが残りました。見えているもの全てが真実であるとは限らない、という直観が働いたのです」
 彼女は今までに何度か同じ事態に遭遇したことがあるという。
 この世の中にはドッペルゲンガーやドレイクなどといった、人の姿に化けることのできる怪物や、「ポリモーフ」などの変身の魔法を覚えた魔法使いも存在する。
 ゆえに犯人がプロスペルの姿をしていたからといって、必ずしも本人である保証はないというのだ。
 そこでアルテリスは独自の調査を行った。
 それによれば、アストラッド夫人は、かねてよりモルドレイク候と親しい中であったらしい。
 リアは「盗賊の王国」経由で得た情報と一致すると、強く頷く。
 そのうえ、モルドレイクには、イリアナ・ペンハリゴンという名の新興貴族を熱心に支援していた記録もある。
 イリアナ・ペンハリゴンは、アルテリスの「姉」と自称している。
 自分は前ペンハリゴン領主アルトゥラス・ペンハリゴンの隠し子であると主張し、ペンハリゴン家の領土と爵位の譲渡を要求しているのだ。
 はじめは単なる山師かと思われていたが、彼女は年々その勢力を増している。
 しかも、その背後には、かのルートヴィヒ「ブラックイーグル」フォン・ヘンドリックス男爵の片腕にして「アイアン・リング」の首領、バーグル・ザ・インファマスという邪悪な魔法使いがついているらしい。
 つまりアルテリスは、モルドレイクがイリアナと手を組んで、クーデターを起こそうとしているのではないかと疑っているのだ。

●提案

 アルテリス・ペンハリゴンは提案した。
 彼らを無事ペンハリゴンから脱出させるかわりに、イリアナの城に向かい、情勢を探ってくるように、と。
 冒険者たちが頷くと、アルテリスは微笑んだ。
 それは、噂に聞くような氷の微笑ではなかった……。
 そう、蜘蛛の巣のように複雑に絡み合う陰謀の鉄鎖を断ち切ろうとする力に僅かな光明を見た、一人の女性のものだった。
posted by AGS at 11:43| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする