2024年02月09日
『モンスター!モンスター!』のあゆみ
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『モンスター!モンスター!』のあゆみ
岡和田晃
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FT書房から『モンスター!モンスター!TRPG』の日本語版展開権を取得したという発表がありました。「FT新聞」No.4030での告知とほぼ同時にSNSでも発表がなされ、読者の方々の期待と興奮が手に取るように伝わってきました。
M!M!が多様性を軸にしたTRPGだという杉本=ヨハネ氏の総括には、私も深く同意するところであります。さまざまな異文化が混交する状況に、現実を生きる私たちも投げ込まれてしまっているわけであって、そのなかで、他の文化を尊重し、ときには必要な距離を取りつつ、生きていく姿勢が求められています。
「多様性」を単にキャッチフレーズ的に消費するのではなく、実際にどうなのか、自然体でリアルに掘り下げようとしたのがM!M!ではないでしょうか。
もちろん、モンスター種族をプレイできるTRPGは、他にも少なからず存在します。ただ、M!M!の大きな強みは、それをTRPG黎明期から続けてきたことによるでしょう。
日本においても、M!M!は何度も紹介されてきました。独自のヴァリアントとしてスタンドアローンでプレイできるタイトルで、『トンネルズ&トロールズ』の派生作品であるにしても、版権的には別の流れに属しています。読者の理解に資するため、本稿ではヴァージョンの違いを改めて整理したいと思います。
すでにSNSで発表したものを、杉本=ヨハネ氏の賛同を得てリファインし、3倍に情報量を増やして「FT新聞」で紹介するものです。
『モンスター!モンスター!』は初版が1976年と、とても古く、一説では自覚的に「RPG」という名を冠して売り出された最初の作品とも言われます(この経緯は「TtTマガジン」Vol.2の拙稿を参照)。なお、『Bunnies&Barrows』とともに、「GM」という言葉を最初に使った作品とも呼ばれているとか(吉里川べお氏情報)。
このことがあまり取り沙汰されないのは……人間やエルフ・ドワーフら「善の種族」の迷宮探検家と、「悪の種族」であるモンスターらの立場を入れ替えた「逆転の発想」によるのが目立つためでしょう。
よく比較されるのが『ウィザードリィ』で、初代の「狂王の試練場」(1981年)のボスであった悪の魔術師ワードナが、1987年の「ワードナの逆襲」では主人公になったというものです。こちらも、多彩な寓意やパロディに彩られ、「善」、「中立」、「悪」といった属性(アラインメント、性格とも)あり方を問い直すストーリーになっていましたね。
これまで日本語で紹介されたM!M!は、以下の3種類があります。
1:『モンスター!モンスター!』初版は、現在でもPDFで普通に購入することができますが、こちらの日本語訳に、日本オリジナルのクリーチャー・カタログを添え、T&Tサポート誌「ソーサラーズ・アプレンティス」掲載の僧侶と侍祭に関した追加ルールを訳載してまとめ直したのが、社会思想社現代教養文庫の『モンスター!モンスター!』(1989)です。
2:日本オリジナルの『ハイパーT&T』は、T&Tの歴史のなかでは第6版に相当するものですが、社会思想社版『モンスター!モンスター!』所収のモンスター・カタログを、ハイパーT&T向けに大きく作り直し、さらには杖魔法・薬草調合・魔法のアイテム等の追加ルールを添えたのが、角川スニーカー・G文庫の『モンスター!モンスター!!』(1995)。翻訳パートを含まない、完全日本オリジナルの作品です。
3:教養文庫版から判型やイラストを刷新し、T&T完全版に対応、僧侶魔法のかわりにソロアドベンチャー「世界で最もタフなダンジョン」、多人数用シナリオ「トロールを捕まえろ」、翻訳「トロール神の恐るべき20体」や各種族の独自の呪文を加えた呪文書を加えて三分冊で発表したのが、書苑新社の『モンスター!モンスター!』(2019)。
これらはいずれも、安田均氏を中心とするグループSNEが翻訳や執筆をしているもの。安田氏の監修のもと、1が清松みゆき、2が北沢慶、3が笠井道子・柘植めぐみ・こあらだまり・笠竜海ら各氏が主に関わった仕事です。
3に関連した作品としては、清松みゆき「リバーボートの恐怖」(ソロアドベンチャー、「Role&Roll」Vol.175、2019年)、たまねぎ須永「野営地を血祭り」(多人数用シナリオ、「ウォーロック・マガジン」8号、2020年)、水波流「ウッズエッジのひなげし」(ソロアドベンチャー、「ウォーロック・マガジン」9号付録、2021年)等があります。
今回FT書房から出ると告知された『モンスター!モンスター!TRPG』は、原書では2.7版に相当するものです。M!M!の初版はメタゲーミング社で出ていました。このときディベロップメントをしたのが、『ガープス』で有名な(アメリカの)スティーブ・ジャクソン。1979年にはフライング・バッファロー社から再販されています。
現在はデザイナーのケン・セント・アンドレと、近年のT&T系列の編集を担うスティーブ・クロンプトンが権利を保有しています。第2版が出たのは、なんと2020年なのです。経緯としては、フライング・バッファロー社の創業者リック・ルーミスが亡くなった2019年から、同社の売却を考えてきたようで、『トンネルズ&トロールズ』の権利も移行し、その過程でケンのもとにあったM!M!の版権があらためて意識された模様。第2.5版を経て、2023年には第2.7版が発表、英語圏では3.0版を目指してリファインが続けられているといいます。
ちなみにT&Tそのものの版権は、2021年にはアメリカのウェッブド・スフィア社、2023年には英国のリベリオン・アンプラグド社に移っており、T&Tの新展開にも期待が高まっている状態です。そちらの日本語版版権はグループSNEが引き続き保有しています。
T&TとM!M!はきわめて互換性の高い作品ですが、《これでもくらえ!》にあたる呪文が変わっていたり、新ルールのChaos Factorが追加されていたり、モンスター・レートならぬマンカインド・レートとしてのMRが設定されていたり、細かな違いは少なからずあります。ですが、いちばん大きな差異は、タイトルそのもの。看板をT&Tブランドで進めるか、M!M!ブランドでやっていくか、そこにもっとも大きな違いがあるでしょう。
背景設定に関しては、M!M!の最新第2.7版においては、ケンやクロンプトンが読者のアイデアを広範に取り入れ、古代エジプトの神話やクトゥルフ神話をも呑み込んだ新ワールドZimralaの展開と連動し、設定が徐々にすり合わされつつあります。なぜに古代エジプトか? というと、それは汎用本『神々の都』(未訳、2018年)の設定がひとつのコアになっているようです。
Zimralaは、かつて私は自分の原稿において「ツィムララ」とドイツ語風に表記していましたが、現在では動画サイトにアップされれていたケンの発音を確認し、「ズィムララ」と書くことにしています。人によっては「ジムララ」と表記することもあるようです。
これは2022年に刊行された『ケン・セント・アンドレのズィムララのモンスターラリー』から始まった新ワールド。ケンやクロンプトンをはじめ、T&T関係のライターも総力を結集していますし、それまでの読者もライターとして、多数参画しています(日本からは、たまねぎ須永氏や私が寄稿)。
ちなみに、ケンらのレーベルには、トロールファーザー・プレス、トロールゴッドファーザー・プレス、ズィムララ・プレスほか、色々な名前があります。気分で変えているのか、はたまた深い意図があるのかはわかりません。
また、この流れとは別、姉妹編に『ラヴクラフト・ヴァリアント』(バリアントとも)があります。こちらは、『クトゥルフ神話TRPG』(初版1981)より早い1980年に「ソーサラーズ・アプレンティス」に載ったものです。翻訳は安田均/こあらだまり訳で、「TtTマガジン」Vol.4に掲載されました(2017)。日本オリジナルのシナリオには、「魔女の復讐」(川人忠明作、同号)、「怪人の島」(安田均/柘植めぐみ作、「ウォーロック・マガジン」創刊号、2018年)等があります。
『ラヴクラフト・ヴァリアント』の版権はもともと著者のグレン・ラーマンが持っていましたが、トム・プーがそちらを購入し、M!M!のサードパーティのひとつとして2023年に新装復刊しています。こちらでプーは、ゼニス・シティというノワール・セッティングを展開中。『シュブ=ニグラスは二度ベルを鳴らす』(未訳、2023年)は大傑作で、近年のM!M!関連作における、最良の成果のひとつと言えるでしょう。
一方、ケンやクロンプトンもまた、M!M!をベースに『ラヴクラフト・ヴァリアント』の世界をも展開しています。私と豊田奏太氏のシナリオ「ドルイドの末裔」(「ウォーロック・マガジン」Vol.5の英訳、2019/2023年)がトロールゴッドファーザー・プレスから出ていますが、それはこの流れですね。クトゥルフ系への関心は、心なしかズィムララに還流している気もします。プーとケンは互いの立場から協力して、M!M!や『ラヴクラフト・ヴァリアント』を盛り上げているイメージですね。
まったくの余談ですが、FT書房が計画している「モンスター!モンスター!マガジン」というのは、私がM!M!のキャンペーンをやっていたとき(「FT新聞」No.3473を参照、 https://analoggamestudies.seesaa.net/article/490232386.html )、発行していたファンジンと、奇しくも同名で、不思議なご縁を感じました。
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初出:「FT新聞」No.4033(2024年2月8日号)
2024年01月26日
『ブルーフォレスト物語』シナリオ「人食い虎に愛を 発展版」
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『ブルーフォレスト物語』シナリオ「人食い虎に愛を 発展版」
作:高階遊依
監修:岡和田晃、水波流
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【はじめに】
本作は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2021年春学期に開講したゲームデザイン講義内で行った『ブルーフォレスト物語』シナリオ創作コンテストの優秀作です。プレイにあたっては、『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー1990)または『ブルーフォレスト物語 リバイバル・エディション』(グランペール2008)が必要です。
また本作は、『ブルーフォレスト物語』の「ブック3 シナリオブック」所収「シナリオアイディア7 人食い虎に愛を」を独自に肉付けしたものだということを、あらかじめおことわりしておきます。
【謝辞】
講義内での使用、および「FT新聞」でのシナリオ公開を許諾してくださった『ブルーフォレスト物語』のデザイナー・伏見健二先生に感謝します。加えて、講義に関する資料提供をくださった、たまねぎ須永・御宗銀砂の各先生にもあわせて謝意を表します。
【『ブルーフォレスト物語』について(岡和田晃)】
「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……
・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html
本シナリオの舞台たるラグ神王国ほか、背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html
現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRのルールを仕様したコンバート案も併載します。
・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。
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【概要】
本シナリオはGMと2~4人のPCでのプレイを推奨します。ショート・シナリオで、プレイ時間は2時間程度を想定しています。
舞台は1996年の闇の月、半島南部のサグハ王国です。サグハ王国は基本的に戦争をせず、代わりに舞踏芸術が有名な平和な国です。芸術的な娯楽施設が多く、年に1度開催される舞踏大会には、多くの国民がこぞって参加します。また、真面目に信仰しているわけではありませんが、芸術の守護者として幻王シグニカへの国民の人気が高いようです。新年を祝う祭りでは、幻王シグニカの恰好を模した少女たちが、国民の前で舞踊を披露し、大変盛り上がります。
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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Love_for_the_tiger.pdf
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初出:「FT新聞」No.4019(2024年1月25日)
『ブルーフォレスト物語』シナリオ「奴隷連続誘拐事件 発展版」
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『ブルーフォレスト物語』シナリオ「奴隷連続誘拐事件 発展版」
作:りんごあめ
監修:岡和田晃、水波流
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【はじめに】
本作は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2021年春学期に開講したゲームデザイン講義内で行った『ブルーフォレスト物語』シナリオ創作コンテストの優秀作です。プレイにあたっては、『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー1990)または『ブルーフォレスト物語 リバイバル・エディション』(グランペール2008)が必要です。
ゲームマスター(GM)とプレイヤー(PL)、1 on 1でのプレイもしくは少人数プレイヤーでのセッションを想定しています。
また本作は、『ブルーフォレスト物語』の「ブック3 シナリオブック」所収「シナリオアイディア6 奴隷連続誘拐事件」を独自に肉付けしたものだということを、あらかじめおことわりしておきます。
ダイスの運ではなく、PCの立ち回りが重要視されるシナリオで、GMはPCの動きに合わせて、柔軟に対応を行ってください。
【謝辞】
講義内での使用、および「FT新聞」でのシナリオ公開を許諾してくださった『ブルーフォレスト物語』のデザイナー・伏見健二先生に感謝します。加えて、講義に関する資料提供をくださった、たまねぎ須永・御宗銀砂の各先生にもあわせて謝意を表します。
【『ブルーフォレスト物語』について(岡和田晃)】
「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……
・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html
本シナリオの舞台たるラグ神王国ほか、背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html
現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRのルールを仕様したコンバート案も併載します。
・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。
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【概要】
1995年、ラグ神帝国・イステア候領で奴隷の子どもたちが次々と誘拐される事件が発生。奴隷のため深く捜査は行われず、事件は放置。この現状に奴隷たちは直訴することを決意。イステアの姫に向かって懇願する奴隷たち。プレイヤー・キャラクター(PC)はその争いに巻き込まれることになってしまう。
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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Serial_kidnapping_of_slaves.pdf
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初出:「FT新聞」No.4005(2024年1月11日配信)
『ブルーフォレスト物語』シナリオ「奴隷連続誘拐事件 発展版」
作:りんごあめ
監修:岡和田晃、水波流
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【はじめに】
本作は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2021年春学期に開講したゲームデザイン講義内で行った『ブルーフォレスト物語』シナリオ創作コンテストの優秀作です。プレイにあたっては、『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー1990)または『ブルーフォレスト物語 リバイバル・エディション』(グランペール2008)が必要です。
ゲームマスター(GM)とプレイヤー(PL)、1 on 1でのプレイもしくは少人数プレイヤーでのセッションを想定しています。
また本作は、『ブルーフォレスト物語』の「ブック3 シナリオブック」所収「シナリオアイディア6 奴隷連続誘拐事件」を独自に肉付けしたものだということを、あらかじめおことわりしておきます。
ダイスの運ではなく、PCの立ち回りが重要視されるシナリオで、GMはPCの動きに合わせて、柔軟に対応を行ってください。
【謝辞】
講義内での使用、および「FT新聞」でのシナリオ公開を許諾してくださった『ブルーフォレスト物語』のデザイナー・伏見健二先生に感謝します。加えて、講義に関する資料提供をくださった、たまねぎ須永・御宗銀砂の各先生にもあわせて謝意を表します。
【『ブルーフォレスト物語』について(岡和田晃)】
「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……
・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html
本シナリオの舞台たるラグ神王国ほか、背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html
現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRのルールを仕様したコンバート案も併載します。
・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【概要】
1995年、ラグ神帝国・イステア候領で奴隷の子どもたちが次々と誘拐される事件が発生。奴隷のため深く捜査は行われず、事件は放置。この現状に奴隷たちは直訴することを決意。イステアの姫に向かって懇願する奴隷たち。プレイヤー・キャラクター(PC)はその争いに巻き込まれることになってしまう。
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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Serial_kidnapping_of_slaves.pdf
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初出:「FT新聞」No.4005(2024年1月11日配信)
2023年12月27日
ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック vol.2
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―― ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック ――
vol.2
(これくら!)
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――ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.2――
こんにちは。ウォーハンマーRPGファンサイト「鋼の旅団」を運営している「これくら!」です。
前回「ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.1」で、ウォーハンマーRPG(以下WFRP)で作ったキャラクターがその世界の住人として知っているはずの常識を初心者PL向けにまとめてみました。
この記事は、セッション中に起こるプレイヤー(PL)の知識とキャラクター(PC)の知識のギャップを少しでも軽減したいとの思いで書きました。
例えば、初心者PLのPCが酒場でケンカに巻き込まれた時、「戦闘だ!」と剣を抜くとGMは「あー、ごめんごめん、この世界では酒場のケンカで武器を抜くのはご法度で、みんなそれを分かった上で揉め事を楽しんでいる側面もあるから、それをやってしまうと場をしらけさせてしまうよ」とプレイを止めて説明するのですが、初心者PLに対して後出しジャンケンみたいな気がして申し訳なく思っていました。
かと言ってセッション前に世界観を長々と説明するのも時間が足りませんので、サマリーみたいな感覚で使える物が欲しいと常々、思っていた矢先にFT新聞の記事執筆のチャンスが来たので、ここぞとばかりに乗っかった次第です。
前回のvol.1がWFRP世界のPCなら誰もが知り得る知識・常識で、今回のvol.2はPCのクラス(大まかな職業分類)なら知り得る知識・常識をまとめてみました。
ここからは、サプリメント調でいきましょう。
◆WFRPのクラスとは
WFRP最大の特徴は、豊富なキャリアで、これはPCがヒーローではなく一般人であるためだ。
「剣闘士」「魔術師」「司祭」など、ファンタジーRPGでは一般的なものから、死に場所を求める「スレイヤー」、混沌を駆逐する「魔狩人」のようなWFRPを代表するような派手なキャリア、通常のシステムならモブ扱いの「村人」や「物乞い」まで、その数は全部で256種類もある。
そのキャリアは1Lv〜4Lvの段階に分かれている。上級職や熟練度によって名前も変わり、基本軸は64種類となる。
その64種類の基本キャリアを更に8種類に分類したものが”クラス”で「学士」「戦士」のように系統立てられる。
つまり、1つのクラスには8種類のキャリアが存在し、クラスは下記の8種類となっている。
・学士
・都市民
・廷臣
・農村民
・野外民
・河川民
・無頼
・戦士
◆クラスごとの常識・知識
【学士】―医者、弁護士、魔術師 など
大学やしかるべき機関で専門知識を学ぶ者は読み書きすらできない一般人よりもワンランク上の職業に就くことができ、都市や町での生活において食い詰めるようなことはあまり無い。
キャリアLv1の見習いたちはそんなエリート思考から、一般人を見下しがちだ。
彼らと一般人の大きな違いは、自分の専門知識はもちろんのこと、専門外のことでも教会や大学の図書館に行きそれなりの時間さえかければ、少なからず役立つ情報を得られることを知っているだろう。
また、手紙を書いて遠方の人物とやり取りができたり、メモを残すことで多くの情報を忘れずに保存できる。
つまり、読み書きこそが彼らにとって最大の武器であるともいえる。
「読み書き」は、現実世界の我々にとって当たり前だが、WFRPの世界においては特殊能力のようなもので、ルールの中で《異能》と呼ばれ、《読み書き》のように表現される。
【都市民】―商人、都市住民、警備兵 など
都市部で生活している中産階級で野暮ったい田舎暮らしとは違う洗練された都市での生活をステータスとしている。
物乞いやネズミ捕りのような見下されがちな職業でも都市だからこそ仕事があり、本人たちにそのつもりは無くても街のライフバランス的な役割から、彼らの生活は成り立つ。
人口の多い都市を形成するには、一般人としての「都市住民」から「物乞い」「扇動家」など多彩なキャリア群が必要不可欠で、エンパイアらしさに華を添えている。
都市民に共通する特徴といえば、前回の「ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.1」で紹介したような常識・知識をどのクラスよりも実践していることだろう。
例えば、「物乞い」ならそれは表向きの仕事で、裏社会では情報屋として盗賊ギルドに所属しているが、そんなことは公にできないだろう。
また、「扇動家」なら特定の利権を有する大貴族へのデマや風刺を人々に吹聴しているが、その活動資金の出所は、昔この大貴族に負けた没落貴族の隠し資金であったり……。
【廷臣】―貴族、顧問、召使い など
支配階級もしくはそれに近い場所で働くことで、たとえ出自の卑しい召使いでも、農村の村人より暮らしは豊かで社会的地位も高い。
たとえ貴族といえども、より身分の高い者へ逆らうことは社会的な死を意味しており、上下関係には細心の注意を払いながら生活する必要がある。
また、自分より身分の高い貴族が手を差し出したなら、その指輪にキッスして逆らう意志がないことを示さなければならない。
生活の中で家柄、家系、紋章などに触れる機会が多いため、他人の身分を瞬時に識別し、自分の立ち居振る舞いを決めることは呼吸をすることより容易い。
【農村民】―村人、狩人、似非魔術師 など
村や荘園に住み、そこの農場で働く農村民の大半は学も無く身分の低い者ばかりだ。
しかしそれは、都市を中心とした社会から見た視線であり、孤立した田舎のコミュニティ内でそのような中央での身分の高低はまったく意味をなさない。
代々続く村の権力者や働き者が尊敬を集め、狭い人間関係で失敗した者は村八分となり、人の嫌がる仕事や痩せた土地しか当てがわれない。
それでもよそ者よりは”まし”で、よそ者の代名詞「領地代官」は、その地域を支配する領主(貴族)の一声で村の権力者として赴任してきて、働き者でも村の役に立つ訳でもないくせに村長よりも声高に村のやり方に口を挟み、あげく村人からの徴収をちょろまかして私腹を肥やすからだ。
狭い集落の濃密な人間関係の中で村人同士が支え合って集団生活をしている中において”よそ者”は自分のことしか眼中にない。
そのような忌諱すべきよそ者は信用ならないため、村人たちは旅行者や冒険者たちのような者には冷ややかな態度をとるのだ。
農村民は自然豊かな村の周辺で生活するため、草木の名前、虫や動物の生態などに詳しいだろう。
また、年寄りとの関わりが多いため昔から伝わる伝承などを耳にする機会も多いはずだ。
【野外民】―魔狩人、街道巡視員、鞭打苦行者 など
WFRP世界の住人の大半は、自分の生まれた町や村から遠く離れることはないが、野外民は街道を中心に旅をすることで生活している。
そういう意味で変わり者が多いのも否めない。
途中、立ち寄る町や村で一儲けしようとする者たちは愛想が良く社交的だ。
一方、自身の信念に基づいて野外民となっている者は無愛想で無口な者が多い。
生活の大部分を旅に費やしているので、方向感覚や野宿には慣れているし、いざという時のために自身の身を守る術も会得している。
また、農村民のように草木の名前、虫や動物の生態などにも詳しいだろう。
【河川民】―船乗り、港湾労働者、密輸商人 など
エンパイアの大都市はライク河という巨大な河川で繋がれており、この河川が大陸内部の交易の大動脈となっている。
このライク河の本流、支流、または運河に沿って河川民は生活しており、川船を運行する者から岸で荷の積み下ろしをする者、漁師など河川を生活の要とする者たちが河川民である。
エンパイアの歴史の中で河川民に関わりが深い物として「ストリガニー」という民族がいて、彼らは太古の昔に存在した死霊術師の国の末裔であり、国を追われた流浪の民である。
ヴァンパイアの噂も絶えないので近づかない方が無難であるため、忌み嫌われており、住む場所がないので、舟の上で水上生活をしている者もいる。
河川民の仕事は肉体労働であるため、頑丈な身体を資本としている者が多い。
魚の名前や特性に詳しく、風や湿気で天候を予測できる者もいるだろう。
【無頼】―盗賊、墓荒らし、魔女 など
エンパイアは法治国家だが、法に縛られず己の信念のみを是として生きる者もいる。
こう言えば聞こえはいいが、大多数の善良な市民にとって無頼たちはヤクザ者以外の何者でもない。
持ち前の腕力を背景に言い掛かりに近い”己の常識”を振りかざし自身の要求を満たす輩や、良く回る口先で善良な市民を騙す輩、持ち前の容姿で異性を手籠めにとる輩など、健全に働く市民から金を巻き上げる方法には様々なパターンがある。
ごく稀に反体制派として正義の名の下に革命の狼煙を上げ、人民を従える無頼もいるが、大抵は何者かに利用され、拙い思想に傾倒した儚き存在である。
概ね活躍の場は裏社会で、入り組んだスラムの路地で警備兵を撒くことは朝飯前で、どの物乞いが情報屋かを知っているだろう。
怪しげな物品を手に入れたい際にも、どこに行けば手に入るのかは、無頼なら知っている可能性は高い。
【戦士】―兵士、スレイヤー、戦闘司祭 など
持ち前の屈強さと腕力を仕事にしている。
戦いのプロであり、戦場や闘技場、酒場のケンカ、商人の揉め事などおよそ物理的な争いのある場面には必ずその姿がある。
ゴロツキと区別のつかない者から、ちゃんと剣術や武術を体得して法の下で一定の規律を以て、腕力を暴走させない者まで様々である。
彼らの強さに信頼はおけるが、仕事から離れた酒場での彼らの態度はゴロツキと大差ない。
生まれつき体躯に恵まれた者もいれば、訓練によって強さを身に付けたものまで様々だが、こと接近戦闘における抜け目なさはどのクラスも戦士には敵わないだろう。
◆最後に
最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.1・vol.2共に、これくら! の思うエンパイアの常識を、PCやそのクラス目線で書き綴ったもので、大前提としてこれを使う場合はGMの許可の下で「ハウスルール」となります。
初心者PLがこれを読んでインプットしたPL知識を「自分のPCならこれは知ってるよな」と取捨選択しながら活かしていただければと思っています。
例えば、PCの生まれや育った環境によっては一部の常識が欠けていることも考えられますし、その逆も然りです。
また、この内容が全てではありませんし、足りない部分も多いかと思います。
GMの数だけWFRP世界は存在します! 付け足してもいいし、柔軟な思考で自身が良いと思うところだけ切り取って使ってもらってもかまいません。
それでは皆さん、良きTRPGライフを!!
初出:「FT新聞」No.3978(2023年12月15日)
―― ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック ――
vol.2
(これくら!)
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――ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.2――
こんにちは。ウォーハンマーRPGファンサイト「鋼の旅団」を運営している「これくら!」です。
前回「ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.1」で、ウォーハンマーRPG(以下WFRP)で作ったキャラクターがその世界の住人として知っているはずの常識を初心者PL向けにまとめてみました。
この記事は、セッション中に起こるプレイヤー(PL)の知識とキャラクター(PC)の知識のギャップを少しでも軽減したいとの思いで書きました。
例えば、初心者PLのPCが酒場でケンカに巻き込まれた時、「戦闘だ!」と剣を抜くとGMは「あー、ごめんごめん、この世界では酒場のケンカで武器を抜くのはご法度で、みんなそれを分かった上で揉め事を楽しんでいる側面もあるから、それをやってしまうと場をしらけさせてしまうよ」とプレイを止めて説明するのですが、初心者PLに対して後出しジャンケンみたいな気がして申し訳なく思っていました。
かと言ってセッション前に世界観を長々と説明するのも時間が足りませんので、サマリーみたいな感覚で使える物が欲しいと常々、思っていた矢先にFT新聞の記事執筆のチャンスが来たので、ここぞとばかりに乗っかった次第です。
前回のvol.1がWFRP世界のPCなら誰もが知り得る知識・常識で、今回のvol.2はPCのクラス(大まかな職業分類)なら知り得る知識・常識をまとめてみました。
ここからは、サプリメント調でいきましょう。
◆WFRPのクラスとは
WFRP最大の特徴は、豊富なキャリアで、これはPCがヒーローではなく一般人であるためだ。
「剣闘士」「魔術師」「司祭」など、ファンタジーRPGでは一般的なものから、死に場所を求める「スレイヤー」、混沌を駆逐する「魔狩人」のようなWFRPを代表するような派手なキャリア、通常のシステムならモブ扱いの「村人」や「物乞い」まで、その数は全部で256種類もある。
そのキャリアは1Lv〜4Lvの段階に分かれている。上級職や熟練度によって名前も変わり、基本軸は64種類となる。
その64種類の基本キャリアを更に8種類に分類したものが”クラス”で「学士」「戦士」のように系統立てられる。
つまり、1つのクラスには8種類のキャリアが存在し、クラスは下記の8種類となっている。
・学士
・都市民
・廷臣
・農村民
・野外民
・河川民
・無頼
・戦士
◆クラスごとの常識・知識
【学士】―医者、弁護士、魔術師 など
大学やしかるべき機関で専門知識を学ぶ者は読み書きすらできない一般人よりもワンランク上の職業に就くことができ、都市や町での生活において食い詰めるようなことはあまり無い。
キャリアLv1の見習いたちはそんなエリート思考から、一般人を見下しがちだ。
彼らと一般人の大きな違いは、自分の専門知識はもちろんのこと、専門外のことでも教会や大学の図書館に行きそれなりの時間さえかければ、少なからず役立つ情報を得られることを知っているだろう。
また、手紙を書いて遠方の人物とやり取りができたり、メモを残すことで多くの情報を忘れずに保存できる。
つまり、読み書きこそが彼らにとって最大の武器であるともいえる。
「読み書き」は、現実世界の我々にとって当たり前だが、WFRPの世界においては特殊能力のようなもので、ルールの中で《異能》と呼ばれ、《読み書き》のように表現される。
【都市民】―商人、都市住民、警備兵 など
都市部で生活している中産階級で野暮ったい田舎暮らしとは違う洗練された都市での生活をステータスとしている。
物乞いやネズミ捕りのような見下されがちな職業でも都市だからこそ仕事があり、本人たちにそのつもりは無くても街のライフバランス的な役割から、彼らの生活は成り立つ。
人口の多い都市を形成するには、一般人としての「都市住民」から「物乞い」「扇動家」など多彩なキャリア群が必要不可欠で、エンパイアらしさに華を添えている。
都市民に共通する特徴といえば、前回の「ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.1」で紹介したような常識・知識をどのクラスよりも実践していることだろう。
例えば、「物乞い」ならそれは表向きの仕事で、裏社会では情報屋として盗賊ギルドに所属しているが、そんなことは公にできないだろう。
また、「扇動家」なら特定の利権を有する大貴族へのデマや風刺を人々に吹聴しているが、その活動資金の出所は、昔この大貴族に負けた没落貴族の隠し資金であったり……。
【廷臣】―貴族、顧問、召使い など
支配階級もしくはそれに近い場所で働くことで、たとえ出自の卑しい召使いでも、農村の村人より暮らしは豊かで社会的地位も高い。
たとえ貴族といえども、より身分の高い者へ逆らうことは社会的な死を意味しており、上下関係には細心の注意を払いながら生活する必要がある。
また、自分より身分の高い貴族が手を差し出したなら、その指輪にキッスして逆らう意志がないことを示さなければならない。
生活の中で家柄、家系、紋章などに触れる機会が多いため、他人の身分を瞬時に識別し、自分の立ち居振る舞いを決めることは呼吸をすることより容易い。
【農村民】―村人、狩人、似非魔術師 など
村や荘園に住み、そこの農場で働く農村民の大半は学も無く身分の低い者ばかりだ。
しかしそれは、都市を中心とした社会から見た視線であり、孤立した田舎のコミュニティ内でそのような中央での身分の高低はまったく意味をなさない。
代々続く村の権力者や働き者が尊敬を集め、狭い人間関係で失敗した者は村八分となり、人の嫌がる仕事や痩せた土地しか当てがわれない。
それでもよそ者よりは”まし”で、よそ者の代名詞「領地代官」は、その地域を支配する領主(貴族)の一声で村の権力者として赴任してきて、働き者でも村の役に立つ訳でもないくせに村長よりも声高に村のやり方に口を挟み、あげく村人からの徴収をちょろまかして私腹を肥やすからだ。
狭い集落の濃密な人間関係の中で村人同士が支え合って集団生活をしている中において”よそ者”は自分のことしか眼中にない。
そのような忌諱すべきよそ者は信用ならないため、村人たちは旅行者や冒険者たちのような者には冷ややかな態度をとるのだ。
農村民は自然豊かな村の周辺で生活するため、草木の名前、虫や動物の生態などに詳しいだろう。
また、年寄りとの関わりが多いため昔から伝わる伝承などを耳にする機会も多いはずだ。
【野外民】―魔狩人、街道巡視員、鞭打苦行者 など
WFRP世界の住人の大半は、自分の生まれた町や村から遠く離れることはないが、野外民は街道を中心に旅をすることで生活している。
そういう意味で変わり者が多いのも否めない。
途中、立ち寄る町や村で一儲けしようとする者たちは愛想が良く社交的だ。
一方、自身の信念に基づいて野外民となっている者は無愛想で無口な者が多い。
生活の大部分を旅に費やしているので、方向感覚や野宿には慣れているし、いざという時のために自身の身を守る術も会得している。
また、農村民のように草木の名前、虫や動物の生態などにも詳しいだろう。
【河川民】―船乗り、港湾労働者、密輸商人 など
エンパイアの大都市はライク河という巨大な河川で繋がれており、この河川が大陸内部の交易の大動脈となっている。
このライク河の本流、支流、または運河に沿って河川民は生活しており、川船を運行する者から岸で荷の積み下ろしをする者、漁師など河川を生活の要とする者たちが河川民である。
エンパイアの歴史の中で河川民に関わりが深い物として「ストリガニー」という民族がいて、彼らは太古の昔に存在した死霊術師の国の末裔であり、国を追われた流浪の民である。
ヴァンパイアの噂も絶えないので近づかない方が無難であるため、忌み嫌われており、住む場所がないので、舟の上で水上生活をしている者もいる。
河川民の仕事は肉体労働であるため、頑丈な身体を資本としている者が多い。
魚の名前や特性に詳しく、風や湿気で天候を予測できる者もいるだろう。
【無頼】―盗賊、墓荒らし、魔女 など
エンパイアは法治国家だが、法に縛られず己の信念のみを是として生きる者もいる。
こう言えば聞こえはいいが、大多数の善良な市民にとって無頼たちはヤクザ者以外の何者でもない。
持ち前の腕力を背景に言い掛かりに近い”己の常識”を振りかざし自身の要求を満たす輩や、良く回る口先で善良な市民を騙す輩、持ち前の容姿で異性を手籠めにとる輩など、健全に働く市民から金を巻き上げる方法には様々なパターンがある。
ごく稀に反体制派として正義の名の下に革命の狼煙を上げ、人民を従える無頼もいるが、大抵は何者かに利用され、拙い思想に傾倒した儚き存在である。
概ね活躍の場は裏社会で、入り組んだスラムの路地で警備兵を撒くことは朝飯前で、どの物乞いが情報屋かを知っているだろう。
怪しげな物品を手に入れたい際にも、どこに行けば手に入るのかは、無頼なら知っている可能性は高い。
【戦士】―兵士、スレイヤー、戦闘司祭 など
持ち前の屈強さと腕力を仕事にしている。
戦いのプロであり、戦場や闘技場、酒場のケンカ、商人の揉め事などおよそ物理的な争いのある場面には必ずその姿がある。
ゴロツキと区別のつかない者から、ちゃんと剣術や武術を体得して法の下で一定の規律を以て、腕力を暴走させない者まで様々である。
彼らの強さに信頼はおけるが、仕事から離れた酒場での彼らの態度はゴロツキと大差ない。
生まれつき体躯に恵まれた者もいれば、訓練によって強さを身に付けたものまで様々だが、こと接近戦闘における抜け目なさはどのクラスも戦士には敵わないだろう。
◆最後に
最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブックvol.1・vol.2共に、これくら! の思うエンパイアの常識を、PCやそのクラス目線で書き綴ったもので、大前提としてこれを使う場合はGMの許可の下で「ハウスルール」となります。
初心者PLがこれを読んでインプットしたPL知識を「自分のPCならこれは知ってるよな」と取捨選択しながら活かしていただければと思っています。
例えば、PCの生まれや育った環境によっては一部の常識が欠けていることも考えられますし、その逆も然りです。
また、この内容が全てではありませんし、足りない部分も多いかと思います。
GMの数だけWFRP世界は存在します! 付け足してもいいし、柔軟な思考で自身が良いと思うところだけ切り取って使ってもらってもかまいません。
それでは皆さん、良きTRPGライフを!!
初出:「FT新聞」No.3978(2023年12月15日)
ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック vol.1
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―― ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック ――
vol.1
(これくら!)
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はじめまして。これくら!と申します。
サラリーマンの傍ら、十数年前からウォーハンマーRPGファンサイト「鋼の旅団」を運営しつつ、ウォーハンマーRPGセッションや遊び程度で動画作成などを行っております。
最近では、オリジナルのアナログゲーム作成にも手を出して、生涯チャレンジャーな趣味人をエンジョイしています。
◆ウォーハンマーRPGの魅力をざっくりと紹介
十年程前からクトゥルフ神話TRPGが流行り、未だ根強い人気でファンを獲得し続けTRPGというゲームの認知が広まりました。
そんな下地の上で最近、D&Dの映画がヒットしてヒロイックなファンタジーへの関心も増えてきているように感じます。
そう来れば次はダークファンタジーに関心が集まるに決まっています(個人的な決めつけです)。
もうお分かりですね。TRPGでダークファンタジーといえば「ウォーハンマーRPG(以下WFRP)」一択です!(笑)
WFRPをざっくり説明すると、魔女狩りや黒死病の流行で有名な中世の暗黒時代的な世界背景で、PC(君のキャラクター)はその世界に生きる一般人です。
ここが重要でヒーローではなく"一般人"なのです。
それは「村人」や「猟師」かもしれないし、「兵士」や「決闘者」なのかもしれません。
または「魔法使い」かもしれないし、ひょっとしたら「貴族」なんてこともあるかもしれないのです。
WFRPの最大の特徴は豊富なキャリアで、全256種類のキャリアが用意されています。
そんなか弱き一般人であるPCにWFRPの世界は冷ややかで、暗黒時代さながらの灰色の空に"混沌"という存在がさらに黒雲を重ねます。
混沌とは、大まかに「殺し」「疫病」「誘惑」「変化」を象徴し、人の弱さや悪事、病気などを司る邪神たちの総称で、混沌に堕ちた者がこれらを引き起こすのだと信じられています。
現実の世界でもこれらの良くないことは迷信的に悪魔の仕業などと言われますが、WFRP世界の面白いところは、混沌に堕ちた人間がミュータント化することで、可視化されていることです。
目の窪みからカニの目のように眼柄が突き出て、先端に眼球がついているミュータントとか、足が牛とか鹿の足のようになり蹄がついているとか、頭に小人状のコブができて煩く喋り続けているなど。
これら個性豊かなミュータントたちがPCに戦いを挑んでくるのです。
そして、この混沌を撲滅すべく活動しているのが、噂の立つところに顔を出してはシグマーの教えの下、秩序のためなら村をも焼き払うと悪名高い"魔狩人"です。
もちろん、一般的なファンタジーRPGのモンスターであるゴブリンやオーク、グリフォンやドラゴンも出てきます。
こんな油断ならない多難な世界をどうやって生き抜くのか……知性? 腕力? 口先? 財力? それは君の判断とダイスが示す運命次第なのです。
◆ウォーハンマーRPGやろうぜ!
ここまで読んで少しでも興味を持った人はルールブックを買っても読み物として損はしないでしょう。
ただ、ルールブックを買ったからには遊ぶことが本懐、いざルールブックに目を通すと……キャラクター作成、技能、異能、戦闘ルール、魔法 etc…「覚えることが多い」と思っていないでしょうか? そんな心配はいりません。
複雑そうなルールも根っこの部分は単純で、基本的に"テスト"と呼ばれる判定によってゲームは進行していきます。
あくまでも"一度ルールブックを軽く読んだ上で"ですが、初心者が実際にPL(プレイヤー)としてセッションに参加するにあたっては、
・D100の読み方
・簡易テスト
・詳細テスト
・対抗テスト
上記の4つさえ覚えておけば、初心者対応OKのGMならどうにかしてくれるはずです。
後はキャラクター作成時に技能や異能のことが分かったり、セッション中の最初の戦闘で手順を把握できたりしますので心配はいりません。
あの重厚なルールブックの質量は、WFRPの奥深さの証なので、セッションをしながらより深くルールを理解していけばいいのです。
◆ビギナーズハンドブックを作ってみた
最低限セッションに参加できる準備を整え、初心者対応OKのGMを捕まえてキャラクター作成をすれば、いよいよ冒険へと繰り出すことになるのですが、君のPC(プレイヤー・キャラクター)はこの世界の住人として成人もしくはそれに近い年齢だと思います。
そんなPCは君の分身として作成されるまでは、この世界で生まれ成長する過程でいろいろな日常の知識や常識を身に付けているはずです。
大抵のことはPL(君自身)の知識を元に想像力でこのフィクションの世界に合わせればいいのですが、舞台が現代日本ではないため様々な文化の違いや想像力の及ばない事柄なども出てきます。
そこで、初心者向けに「ビギナーズハンドブック」と題して、頭に入れておくとキャラクター設定やロールプレイに役立つような「常識」をルールブックやサプリメントから抜き出してみました。
キャラクターのクラスに関わらず知っているであろう知識を「PC全般編」、キャラクターのクラスなら知っておくべき知識を「クラス編」として分けます。
◆ビギナーズハンドブック―PC全般編―
※下記の内容は私"これくら!"がGMの時のオールド・ワールドであり、GMの数だけ別のオールド・ワールドが存在しているので、解釈等の違いもあるかと思います。
【一般的なNPCと冒険者としてのPCの違い】
君のいる国はエンパイアという名前の帝国で、皇帝”カール・フランツ”が統治する国家だ。 現在は帝国歴2512年。
国教はシグマー教で、エンパイアの初代皇帝”シグマー・ヘルデン・ハンマー”を神格化したもので、街には大聖堂が、村には社が必ず存在し、 帝国民の大半は敬虔かどうかの程度はあれ、シグマーを信奉している。
その他にも様々な宗教はあるが、帝国民に身近なものはモール教だろう。
モール教は死を司る神”モール”を崇めているため、人々の葬式や墓場の管理など帝国民の生活の近くに必ずある。
また、人々に降りかかる厄災や疫病、誘惑、好まざる変化などは”混沌”の仕業とされ、日々、シグマー神はこれらと戦い、平穏を維持してくれている。
多くの町や村があるが、現代の都市や村の規模をイメージすると人口の感覚に狂いが生じる。
エンパイアの最も大きな都市”アルトドルフ”でも人口は約10万人で、人口1万人もいれば都市を名乗れるし、人口が5千人もいればかなり立派な町である。
村に至っては3〜4世帯で人口20人くらいの小規模なコミュニティ(貴族の荘園)から、数百名規模の集落まで様々な形がある。
一般的に都市の住人は特別な用事が無い限り都市を出る必要性はないし、町の住人もごく近くの周辺の村や農場に出向くことがあるくらいだ。
村の住民でもせいぜい1つか2つ先の村や町に出稼ぎや行商に出向くことが精一杯で、まさか自分が国境を超えて外国に行ったり、七つの海を股にかけて冒険するなどということを思いもつかないし、行動に移すことはない。
つまり、冒険者という選択をしたPCは夢や想像を行動に移すことができるエネルギーに満ちた野心家で、常識外れで無謀な人間であることをPLは認識しておく必要がある。
【冒険の舞台エンパイア】
エンパイアは国土の大半を森に覆われており、森の隙間を縫うように街道が町や村を繋いでいる。
街道と旅人の安全を守るために帝国は街道巡視員をパトロールさせているが、街道巡視員の個々のモラルまでは統制できてはいない。
街道途中の町や村には馬車宿があり、大都市を起点として駅馬車の発着地点となっている。
馬車宿は、宿泊施設、酒場、風呂、鍛冶場、街道巡視員詰所、厩が一体となっており、町や村の囲いに守られているが、街道の途中に単独で存在する馬車宿は独自に壁や柵で防護され櫓などもあり、小さな要塞の様な佇まいである。
森にはビーストマンという半獣人のモンスターや混沌のミュータント、ゴブリンなどのグリーンスキン族、熊や狼など自然動物、ジャイアントスパイダー等の有害な昆虫群がひしめいている。
そんな油断ならない森を住処とする賊(ハイウェイマン)は街道を行き交う旅人や駅馬車を襲うし、魔女たちはひっそりと森を住処としている。
そんな森に踏み入った人間が最も恐れるのは”ウッドエルフ”である。
その数は少なく、遭遇する確率こそ稀であるが、小枝一本たりとも踏まずに背後に忍び寄る彼らの天性の狩人としての能力は、森を荒らす人間を気付かれることなく始末することなど、朝飯前なのだ。
エンパイアの大都市はもとより、町や村は全て何らかの貴族の支配下にある。
支配権を持つ貴族に逆らうことはその地域から出ていくことを意味し、つまりそれは暗黙の内に野垂れ死にを意味している。
支配貴族の直轄ではない大多数の小さな村や町などには”領地代官”がおり、機械的に一切の融通を利かせることなく主人へ上納する税と自身の私腹を徴収する役割を担っている。
大都市や町には警備兵がいて、支配貴族に仇なす不届き者を合法的に捕らえる為と町の治安を維持する為に警備隊長以下、都市や町の規模に応じた警備隊が組織されている。
これが村の規模になると自警団が精一杯で、村長を隊長とした村の男たちで構成される。
大都市の中には貴族の支配から自治を勝ち取った都市もあるが、他所の都会の話であり、どの都市や小さな村であろうと皇帝の支配下であることは何ら揺るぐことはない。
都市、町、村ではギルド(組合)の下で職人や労働者が仕事を安定的に供給してもらう見返りに幾何かの組合費を支払い、複雑なしがらみの中で仕事を成り立たせている。
都市、町、村の地勢的な違いで力加減の強弱はあるが、ギルドは「商人」「大工」「鍛治師」「金属細工」「御者」「鉱夫」「船大工」「川舟乗り」「港湾労働者」「石工」など、自治体の経済を担う団体が表向きには一般的であり、これら以外のありとあらゆる小規模なギルドも存在していて、中には混沌の隠れ蓑として機能しているものもある。
一方で、裏のギルドとして「盗賊」ギルドがあるが、口が割けても盗賊ギルドに加盟しているとは公言できるものではなく、日の当たる真っ当な商いの裏で秘密裏に盗賊ギルドの仕事をしている商人も少なくない。
ちなみにWFRPの世界に「冒険者ギルド」は存在しない。
強いていうなら、酒場やパブがその役割を担っており、常連の冒険者やゴロツキに町の人々の困り事を8割方、腕力で解決させて報酬を支払う仕組みである。
【冒険者として暗黙のルール】
冒険者であるPCと密接な関係のある酒場には重要な暗黙のルールがある。
暗黙のルールだが、これを知っているかどうかはPCの死活問題となりうる。
酒場でケンカは付きものなのだが、絶対に「武器を抜いてはいけない」というものだ。
酒場のケンカで許される武器は己のパンチとキック以外には、ジョッキや椅子、酒樽や皿など間に合わせ的な物ばかりだ。
もし、剣を抜いたり弓を番えたりしようものなら、白熱していたその場の空気は一瞬でシラケて、周囲の人々のブーイングと蔑みの視線に晒された上に警備兵に拘束されて、その酒場を永久に出入り禁止となり冒険者人生において大きな傷を残すことになる。
冒険者として情報の坩堝である酒場の出入り禁止は死活問題で、その村に酒場が一軒しかなければ、もう違う村に移るしかない。
また、抜き身の武器を持って町や村を歩くこともご法度だ。
いつその武器で暴れ出すのか周囲は警戒し、警備兵や自警団たちは抜き身の武器をちらつかせる狂ったよそ者を排除して安全を確保しようとする。
さらに、冒険者にとって大切な暗黙のルールは魔法の扱いである。
WFRPの世界において魔法は8色に分けられる「風」を操ることで発動され、その魔法の源流となる風は混沌の影響を強く受けているため、広義で「魔法は混沌の産物である」といっても過言ではない。
そのため、長い歴史の中で8色の魔法の風を操ることができるのは選ばれたハイ・エルフのみで、人間のごとき短命種はせいぜい1色の風を操れるかどうかであるため、国が認定した魔法学府で1色の風に由来する魔法しか学べないことになっている。
それを破った者は「魔女」とみなされ、例外なく粛清の対象となる。
ちなみにウッドエルフはハイ・エルフ同様に8色全てを扱えるが、金属や占星術の魔法などにはおそらく興味はないだろう。
ドワーフは魔法の代わりに魔法の力を封印したルーンによって魔力を操り、ハーフリングは魔法が使えない代わりに混沌に対する耐性が強かったりする。
このような背景からPCが町で魔法を使うと、それを知った警備兵、賞金稼ぎ、シグマー司祭、魔狩人などに拘束され、然るべき学府で魔法を修得したことを証明するために面倒な手間と不必要な時間を取られることになる。
また、教養のない一般市民にとっては神の奇跡も手品も魔法も何ら変わりはない「不思議」なものであるに過ぎず、臆病な市民が当局に密告するというケースもある。
シグマー教の影響下にあるエンパイアにおいて、「魔法=魔女」であり、魔法を見つけたなら通報することが善良な市民なのである。
もうひとつ、冒険者の大切な暗黙のルールは混沌変異についてである。
WFRPにおける混沌は抽象的で掴みどころがない存在で魔法の風は素養の無い者には見えないし、殺戮の神を信奉する邪悪な心を持った者でも外見は普通の市民であったりする。
そんな中で混沌の特色のひとつにミュータント化があり、先天・後天に関わらず混沌に侵されると腕が触手状になるとか、脚が山羊や鹿のような関節で蹄が生えるなどの分かりやすい変化が起こる。
そのせいで教養のない臆病な一般市民たちには、それほどでもない変異――例えば指が一本多いとか、両性具有、アルビノなど、現代社会では遺伝子異常による病気と分かっていることでもWFRP4eの世界では混沌変異として排除の対象となっているのである。
デリケートな問題ではあるが、WFRPの小説内でも足の指が一本多い主要キャラクターがコンプレックスとして隠していたりする描写もある。
もし、PCメイキングでこのような個性を自身のPCに付与したのなら、PCの立ち居振る舞いには注意が必要だし、分かりやすい肉体的な物ばかりでなく、精神的な疾患や症状に対するPL間の配慮も必要となる場合があるかもしれない。
【エンパイアの種族構成】
●キャラクター作成の際に使用する種族のランダム表は下記の通りとなっている。
D100の出目
01〜90…………人間
91〜94…………ハーフリング
95〜98…………ドワーフ
99………………ハイ・エルフ
00………………ウッド・エルフ
上記の表を見れば分かる通り、エンパイアを構成する90%は人間だ。
その社会の中でハーフリングとドワーフは人間社会で自己の長所を活かしながら溶け込んでいる。
一方、船乗りのハイエルフは大都市の港湾地区で見ることはできるが、噂に聞く大魔法使いのようなハイエルフに出合う確率は低い。
また、ウッドエルフはその数が少ないことと、棲み処とする森でほとんど何でも完結してしまうため、限られた村の限られた人だけがウッドエルフと交流している程度だ。
【エンパイアの医療】
病気やケガをした場合、都市では医者や理容外科医を腕の良し悪しや価格で選ぶことができるが、村単位では医者か理容外科医のどちらか一人いればいい方で、大抵の場合は村外れに住む薬草師やまじない師頼みである。
この薬草師やまじない師は年配の女性であることが多く、村の産婆も兼任しており、女性たちの恋愛相談から生理不順、不妊など女性特有の身体の悩み事を聞き、調合した薬草を処方したりすることで尊敬を集めている場合が多い。
こういう村はずれのエルダーは、尊敬されている分だけ反感も買いやすく、そんな不運なエルダーは「魔女」としてシグマー当局の魔狩人に通報されたり、手柄を捏造する賞金稼ぎの標的になったりすることもあるので、必要以上に村人と関わりを持たないことが多い。
◆最後に
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は、各クラス毎に知っておくべき知識をまとめる予定です。
一人でも多くの初心者がいいGMに出会えることを祈って!
初出:「FT新聞」No.3971(2023年12月8日)
―― ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック ――
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はじめまして。これくら!と申します。
サラリーマンの傍ら、十数年前からウォーハンマーRPGファンサイト「鋼の旅団」を運営しつつ、ウォーハンマーRPGセッションや遊び程度で動画作成などを行っております。
最近では、オリジナルのアナログゲーム作成にも手を出して、生涯チャレンジャーな趣味人をエンジョイしています。
◆ウォーハンマーRPGの魅力をざっくりと紹介
十年程前からクトゥルフ神話TRPGが流行り、未だ根強い人気でファンを獲得し続けTRPGというゲームの認知が広まりました。
そんな下地の上で最近、D&Dの映画がヒットしてヒロイックなファンタジーへの関心も増えてきているように感じます。
そう来れば次はダークファンタジーに関心が集まるに決まっています(個人的な決めつけです)。
もうお分かりですね。TRPGでダークファンタジーといえば「ウォーハンマーRPG(以下WFRP)」一択です!(笑)
WFRPをざっくり説明すると、魔女狩りや黒死病の流行で有名な中世の暗黒時代的な世界背景で、PC(君のキャラクター)はその世界に生きる一般人です。
ここが重要でヒーローではなく"一般人"なのです。
それは「村人」や「猟師」かもしれないし、「兵士」や「決闘者」なのかもしれません。
または「魔法使い」かもしれないし、ひょっとしたら「貴族」なんてこともあるかもしれないのです。
WFRPの最大の特徴は豊富なキャリアで、全256種類のキャリアが用意されています。
そんなか弱き一般人であるPCにWFRPの世界は冷ややかで、暗黒時代さながらの灰色の空に"混沌"という存在がさらに黒雲を重ねます。
混沌とは、大まかに「殺し」「疫病」「誘惑」「変化」を象徴し、人の弱さや悪事、病気などを司る邪神たちの総称で、混沌に堕ちた者がこれらを引き起こすのだと信じられています。
現実の世界でもこれらの良くないことは迷信的に悪魔の仕業などと言われますが、WFRP世界の面白いところは、混沌に堕ちた人間がミュータント化することで、可視化されていることです。
目の窪みからカニの目のように眼柄が突き出て、先端に眼球がついているミュータントとか、足が牛とか鹿の足のようになり蹄がついているとか、頭に小人状のコブができて煩く喋り続けているなど。
これら個性豊かなミュータントたちがPCに戦いを挑んでくるのです。
そして、この混沌を撲滅すべく活動しているのが、噂の立つところに顔を出してはシグマーの教えの下、秩序のためなら村をも焼き払うと悪名高い"魔狩人"です。
もちろん、一般的なファンタジーRPGのモンスターであるゴブリンやオーク、グリフォンやドラゴンも出てきます。
こんな油断ならない多難な世界をどうやって生き抜くのか……知性? 腕力? 口先? 財力? それは君の判断とダイスが示す運命次第なのです。
◆ウォーハンマーRPGやろうぜ!
ここまで読んで少しでも興味を持った人はルールブックを買っても読み物として損はしないでしょう。
ただ、ルールブックを買ったからには遊ぶことが本懐、いざルールブックに目を通すと……キャラクター作成、技能、異能、戦闘ルール、魔法 etc…「覚えることが多い」と思っていないでしょうか? そんな心配はいりません。
複雑そうなルールも根っこの部分は単純で、基本的に"テスト"と呼ばれる判定によってゲームは進行していきます。
あくまでも"一度ルールブックを軽く読んだ上で"ですが、初心者が実際にPL(プレイヤー)としてセッションに参加するにあたっては、
・D100の読み方
・簡易テスト
・詳細テスト
・対抗テスト
上記の4つさえ覚えておけば、初心者対応OKのGMならどうにかしてくれるはずです。
後はキャラクター作成時に技能や異能のことが分かったり、セッション中の最初の戦闘で手順を把握できたりしますので心配はいりません。
あの重厚なルールブックの質量は、WFRPの奥深さの証なので、セッションをしながらより深くルールを理解していけばいいのです。
◆ビギナーズハンドブックを作ってみた
最低限セッションに参加できる準備を整え、初心者対応OKのGMを捕まえてキャラクター作成をすれば、いよいよ冒険へと繰り出すことになるのですが、君のPC(プレイヤー・キャラクター)はこの世界の住人として成人もしくはそれに近い年齢だと思います。
そんなPCは君の分身として作成されるまでは、この世界で生まれ成長する過程でいろいろな日常の知識や常識を身に付けているはずです。
大抵のことはPL(君自身)の知識を元に想像力でこのフィクションの世界に合わせればいいのですが、舞台が現代日本ではないため様々な文化の違いや想像力の及ばない事柄なども出てきます。
そこで、初心者向けに「ビギナーズハンドブック」と題して、頭に入れておくとキャラクター設定やロールプレイに役立つような「常識」をルールブックやサプリメントから抜き出してみました。
キャラクターのクラスに関わらず知っているであろう知識を「PC全般編」、キャラクターのクラスなら知っておくべき知識を「クラス編」として分けます。
◆ビギナーズハンドブック―PC全般編―
※下記の内容は私"これくら!"がGMの時のオールド・ワールドであり、GMの数だけ別のオールド・ワールドが存在しているので、解釈等の違いもあるかと思います。
【一般的なNPCと冒険者としてのPCの違い】
君のいる国はエンパイアという名前の帝国で、皇帝”カール・フランツ”が統治する国家だ。 現在は帝国歴2512年。
国教はシグマー教で、エンパイアの初代皇帝”シグマー・ヘルデン・ハンマー”を神格化したもので、街には大聖堂が、村には社が必ず存在し、 帝国民の大半は敬虔かどうかの程度はあれ、シグマーを信奉している。
その他にも様々な宗教はあるが、帝国民に身近なものはモール教だろう。
モール教は死を司る神”モール”を崇めているため、人々の葬式や墓場の管理など帝国民の生活の近くに必ずある。
また、人々に降りかかる厄災や疫病、誘惑、好まざる変化などは”混沌”の仕業とされ、日々、シグマー神はこれらと戦い、平穏を維持してくれている。
多くの町や村があるが、現代の都市や村の規模をイメージすると人口の感覚に狂いが生じる。
エンパイアの最も大きな都市”アルトドルフ”でも人口は約10万人で、人口1万人もいれば都市を名乗れるし、人口が5千人もいればかなり立派な町である。
村に至っては3〜4世帯で人口20人くらいの小規模なコミュニティ(貴族の荘園)から、数百名規模の集落まで様々な形がある。
一般的に都市の住人は特別な用事が無い限り都市を出る必要性はないし、町の住人もごく近くの周辺の村や農場に出向くことがあるくらいだ。
村の住民でもせいぜい1つか2つ先の村や町に出稼ぎや行商に出向くことが精一杯で、まさか自分が国境を超えて外国に行ったり、七つの海を股にかけて冒険するなどということを思いもつかないし、行動に移すことはない。
つまり、冒険者という選択をしたPCは夢や想像を行動に移すことができるエネルギーに満ちた野心家で、常識外れで無謀な人間であることをPLは認識しておく必要がある。
【冒険の舞台エンパイア】
エンパイアは国土の大半を森に覆われており、森の隙間を縫うように街道が町や村を繋いでいる。
街道と旅人の安全を守るために帝国は街道巡視員をパトロールさせているが、街道巡視員の個々のモラルまでは統制できてはいない。
街道途中の町や村には馬車宿があり、大都市を起点として駅馬車の発着地点となっている。
馬車宿は、宿泊施設、酒場、風呂、鍛冶場、街道巡視員詰所、厩が一体となっており、町や村の囲いに守られているが、街道の途中に単独で存在する馬車宿は独自に壁や柵で防護され櫓などもあり、小さな要塞の様な佇まいである。
森にはビーストマンという半獣人のモンスターや混沌のミュータント、ゴブリンなどのグリーンスキン族、熊や狼など自然動物、ジャイアントスパイダー等の有害な昆虫群がひしめいている。
そんな油断ならない森を住処とする賊(ハイウェイマン)は街道を行き交う旅人や駅馬車を襲うし、魔女たちはひっそりと森を住処としている。
そんな森に踏み入った人間が最も恐れるのは”ウッドエルフ”である。
その数は少なく、遭遇する確率こそ稀であるが、小枝一本たりとも踏まずに背後に忍び寄る彼らの天性の狩人としての能力は、森を荒らす人間を気付かれることなく始末することなど、朝飯前なのだ。
エンパイアの大都市はもとより、町や村は全て何らかの貴族の支配下にある。
支配権を持つ貴族に逆らうことはその地域から出ていくことを意味し、つまりそれは暗黙の内に野垂れ死にを意味している。
支配貴族の直轄ではない大多数の小さな村や町などには”領地代官”がおり、機械的に一切の融通を利かせることなく主人へ上納する税と自身の私腹を徴収する役割を担っている。
大都市や町には警備兵がいて、支配貴族に仇なす不届き者を合法的に捕らえる為と町の治安を維持する為に警備隊長以下、都市や町の規模に応じた警備隊が組織されている。
これが村の規模になると自警団が精一杯で、村長を隊長とした村の男たちで構成される。
大都市の中には貴族の支配から自治を勝ち取った都市もあるが、他所の都会の話であり、どの都市や小さな村であろうと皇帝の支配下であることは何ら揺るぐことはない。
都市、町、村ではギルド(組合)の下で職人や労働者が仕事を安定的に供給してもらう見返りに幾何かの組合費を支払い、複雑なしがらみの中で仕事を成り立たせている。
都市、町、村の地勢的な違いで力加減の強弱はあるが、ギルドは「商人」「大工」「鍛治師」「金属細工」「御者」「鉱夫」「船大工」「川舟乗り」「港湾労働者」「石工」など、自治体の経済を担う団体が表向きには一般的であり、これら以外のありとあらゆる小規模なギルドも存在していて、中には混沌の隠れ蓑として機能しているものもある。
一方で、裏のギルドとして「盗賊」ギルドがあるが、口が割けても盗賊ギルドに加盟しているとは公言できるものではなく、日の当たる真っ当な商いの裏で秘密裏に盗賊ギルドの仕事をしている商人も少なくない。
ちなみにWFRPの世界に「冒険者ギルド」は存在しない。
強いていうなら、酒場やパブがその役割を担っており、常連の冒険者やゴロツキに町の人々の困り事を8割方、腕力で解決させて報酬を支払う仕組みである。
【冒険者として暗黙のルール】
冒険者であるPCと密接な関係のある酒場には重要な暗黙のルールがある。
暗黙のルールだが、これを知っているかどうかはPCの死活問題となりうる。
酒場でケンカは付きものなのだが、絶対に「武器を抜いてはいけない」というものだ。
酒場のケンカで許される武器は己のパンチとキック以外には、ジョッキや椅子、酒樽や皿など間に合わせ的な物ばかりだ。
もし、剣を抜いたり弓を番えたりしようものなら、白熱していたその場の空気は一瞬でシラケて、周囲の人々のブーイングと蔑みの視線に晒された上に警備兵に拘束されて、その酒場を永久に出入り禁止となり冒険者人生において大きな傷を残すことになる。
冒険者として情報の坩堝である酒場の出入り禁止は死活問題で、その村に酒場が一軒しかなければ、もう違う村に移るしかない。
また、抜き身の武器を持って町や村を歩くこともご法度だ。
いつその武器で暴れ出すのか周囲は警戒し、警備兵や自警団たちは抜き身の武器をちらつかせる狂ったよそ者を排除して安全を確保しようとする。
さらに、冒険者にとって大切な暗黙のルールは魔法の扱いである。
WFRPの世界において魔法は8色に分けられる「風」を操ることで発動され、その魔法の源流となる風は混沌の影響を強く受けているため、広義で「魔法は混沌の産物である」といっても過言ではない。
そのため、長い歴史の中で8色の魔法の風を操ることができるのは選ばれたハイ・エルフのみで、人間のごとき短命種はせいぜい1色の風を操れるかどうかであるため、国が認定した魔法学府で1色の風に由来する魔法しか学べないことになっている。
それを破った者は「魔女」とみなされ、例外なく粛清の対象となる。
ちなみにウッドエルフはハイ・エルフ同様に8色全てを扱えるが、金属や占星術の魔法などにはおそらく興味はないだろう。
ドワーフは魔法の代わりに魔法の力を封印したルーンによって魔力を操り、ハーフリングは魔法が使えない代わりに混沌に対する耐性が強かったりする。
このような背景からPCが町で魔法を使うと、それを知った警備兵、賞金稼ぎ、シグマー司祭、魔狩人などに拘束され、然るべき学府で魔法を修得したことを証明するために面倒な手間と不必要な時間を取られることになる。
また、教養のない一般市民にとっては神の奇跡も手品も魔法も何ら変わりはない「不思議」なものであるに過ぎず、臆病な市民が当局に密告するというケースもある。
シグマー教の影響下にあるエンパイアにおいて、「魔法=魔女」であり、魔法を見つけたなら通報することが善良な市民なのである。
もうひとつ、冒険者の大切な暗黙のルールは混沌変異についてである。
WFRPにおける混沌は抽象的で掴みどころがない存在で魔法の風は素養の無い者には見えないし、殺戮の神を信奉する邪悪な心を持った者でも外見は普通の市民であったりする。
そんな中で混沌の特色のひとつにミュータント化があり、先天・後天に関わらず混沌に侵されると腕が触手状になるとか、脚が山羊や鹿のような関節で蹄が生えるなどの分かりやすい変化が起こる。
そのせいで教養のない臆病な一般市民たちには、それほどでもない変異――例えば指が一本多いとか、両性具有、アルビノなど、現代社会では遺伝子異常による病気と分かっていることでもWFRP4eの世界では混沌変異として排除の対象となっているのである。
デリケートな問題ではあるが、WFRPの小説内でも足の指が一本多い主要キャラクターがコンプレックスとして隠していたりする描写もある。
もし、PCメイキングでこのような個性を自身のPCに付与したのなら、PCの立ち居振る舞いには注意が必要だし、分かりやすい肉体的な物ばかりでなく、精神的な疾患や症状に対するPL間の配慮も必要となる場合があるかもしれない。
【エンパイアの種族構成】
●キャラクター作成の際に使用する種族のランダム表は下記の通りとなっている。
D100の出目
01〜90…………人間
91〜94…………ハーフリング
95〜98…………ドワーフ
99………………ハイ・エルフ
00………………ウッド・エルフ
上記の表を見れば分かる通り、エンパイアを構成する90%は人間だ。
その社会の中でハーフリングとドワーフは人間社会で自己の長所を活かしながら溶け込んでいる。
一方、船乗りのハイエルフは大都市の港湾地区で見ることはできるが、噂に聞く大魔法使いのようなハイエルフに出合う確率は低い。
また、ウッドエルフはその数が少ないことと、棲み処とする森でほとんど何でも完結してしまうため、限られた村の限られた人だけがウッドエルフと交流している程度だ。
【エンパイアの医療】
病気やケガをした場合、都市では医者や理容外科医を腕の良し悪しや価格で選ぶことができるが、村単位では医者か理容外科医のどちらか一人いればいい方で、大抵の場合は村外れに住む薬草師やまじない師頼みである。
この薬草師やまじない師は年配の女性であることが多く、村の産婆も兼任しており、女性たちの恋愛相談から生理不順、不妊など女性特有の身体の悩み事を聞き、調合した薬草を処方したりすることで尊敬を集めている場合が多い。
こういう村はずれのエルダーは、尊敬されている分だけ反感も買いやすく、そんな不運なエルダーは「魔女」としてシグマー当局の魔狩人に通報されたり、手柄を捏造する賞金稼ぎの標的になったりすることもあるので、必要以上に村人と関わりを持たないことが多い。
◆最後に
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は、各クラス毎に知っておくべき知識をまとめる予定です。
一人でも多くの初心者がいいGMに出会えることを祈って!
初出:「FT新聞」No.3971(2023年12月8日)