2022年09月06日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.9


 2022年8月25日の「FT新聞」No.3501に、『ダンジョンズ& ドラゴンズ 』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.9が掲載されました。ファイナルストライクのぶつけ合い、ブラック・ドラゴンやナグパとの死闘から始まります!

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.9

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。例えばテレリィ・フィンゴルフィンとは『シルマリルの物語』より。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/490980912.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第9話「薄明」(後編)の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、6レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、5レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、6レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。戦士、6レベル。

ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
テレリィ・フィンゴルフィン/ロスト・ドリームの島のエルフ。
ハービンガー/ロスト・ドリームの島のエルフ。
シャドウ・エルフたち/エルフの国アルフハイムの地下「星の都(シティ・オブ・スターズ)」に住まう存在。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。ヨブとは古い仲。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵/邪悪きわまりない貴族。通称「ブラック・イーグル」。
カルディア/リフリアンに住むエルフ。魔法の絨毯を使って人を運搬してくれる。
アンデラ/リアの姉。
占い師アルヤ/謎めいた美貌の占い師。正体は……。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。
ステファン・カラメイコス3世/カラメイコス大公国の統治者。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アントン・ラデュ/ギルド「ヴェールド・ソサイエティー」のギルドマスター。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
ゴルサー/謎の魔法使い。
ミコラス/リアの父。

●決戦

 シャドウ・エルフたちの言うことがどうしても信用しきれなかったパーティは、結局、その申し出を断ることにした。
 怒り狂ったシャドウ・エルフたちは、手にしていた「ウィザードリィワンド」を二つに折った。
 ワンドに込められていた信じられないほど強大な力がほとばしり、閃光とともに辺りを包み込む。
 恐るべき、「ファイナルストライク」(最後の一撃)の魔力である!
 ――間一髪、テレリィがパーティの間に割り込む。
 テレリィもまた、手に持っていたワンドの封印を解いた。
 二つの強大な「ファイナルストライク」はぶつかり合い、辺りにはすさまじい振動が響き渡った。
 気がつくと、テレリィとハービンガーの姿はかき消え、疲弊した二人のシャドウ・エルフだけが残っていた。
 彼らは捨て台詞とともに、「ディメンジョン・ドアー」(次元の扉)を通って去っていった。
 だが、入れ替わりに、巨大な、腐敗したブラック・ドラゴンと、魔術師風のローブを着たハゲタカ頭の老人めいた邪悪なクリーチャー「ナグパ」が現れたのだ。

●絶望

 すぐさま激戦が始まった。
 しかし、ここでパーティはシャドウ・エルフに気を取られていたためか、重大な過ちを犯してしまった。
 ドラゴンの体力を削ることを怠ったのである。
 そのため、最前線のヨブは、ドラゴンの酸のブレスをまともに受け、一瞬のうちに溶け去り、奈落(アビス)への帰らぬ旅路に就くことになってしまった。
 絶望が一行を包み込む。
 さらには、タモトまでがドラゴンのブレスを受け、倒れてしまう。
 おまけに、ナグパはグレイに狙いを定め、「コラプション」の魔法で、彼の持っているポーションや呪文書のほぼ全てを腐らせてしまった。
 これは全滅か!?
 死の淵を彷徨いながらも、必死の連係で、辛うじてドラゴンを葬ったはいいものの、ナグパにとどめを刺そうとした瞬間、そいつは死に際に呪文を放ち、もう一体、巨大なブラック・ドラゴンを呼びだしたのだ!

●顛末

 第二のドラゴンは、ナグパが「ファンタズマル・フォース」の呪文によって作った幻覚であった。
 パーティはただちに見破って、幻覚をかき消してゆく。
 そして、崩れゆく神殿から、指輪の「ワード・オブ・リコール」の魔力を使って逃げ出したのだった。
 ジーンの懸命な看護の甲斐あってか、タモトは戦闘後に無事息を吹き返したものの、ヨブを運ぶのはもはや不可能だった。
 一行は悲嘆に暮れながら彼の遺品を集め、帰路についた。
 エルフの村に戻ったパーティは、顛末を報告した。
 ゴリーデルは食い入るように聞き入り、話が終わると心からパーティを歓待した。
 しかし、ヨブは戻ってこない……。
 あれだけ死体の損傷がひどければ、「生命の樹」の力も及ばないだろう。
 そもそも、「生命の樹」の力を使えば、またもやバリムーアのような存在を呼び出してしまうことにも繋がりかねない。
 そのような危険は冒せない。

●「ルルンの」ヨランダからの知らせ
 一行がこれからの行く先についてあれこれ考えていると、近くの樹の幹に一本の太矢が刺さった。
 伝達の太矢(クォーレル)である。
 伝言は、「ルルンの」ヨランダからのものであった。
 大事が起こったので、すぐにスレッショールドまで来てほしい、というのだ。
 スレッショールドには、リアの故郷がある。
 ちょうど、リアも一度実家に戻ろうかと考えていた矢先だったということもあり、行くあてのなかったパーティは、とりあえずスレッショールドへと向かうことにした。
 そうして湿原(ムーア)を越え、河を渡って、エルフの街リフリアンにたどり着いた。
 ここを越えれば、スレッショールドはもう目と鼻の先だ。

●リフリアンでの噂

 だが、彼らはここで、とんでもない噂を耳にした。
 そう、ブラック・イーグル男爵がカラメイコス大公国の首都スペキュラルムに攻め込んだというのである。
 スペキュラルムの防衛軍や、グリフォン聖騎士団の活躍もあって、何とか持ちこたえているらしいが、王都陥落も時間の問題だろう。
 また、スペキュラルムやその近くの街からは多数の難民が発生して、ケルヴィン周辺の街や村々になだれこんでいるということである。
 驚いた一行は、すぐさま、リフリアンに住むエルフ、カルディアに法外な金を払って魔法の空飛ぶ絨毯をチャーターし、スレッショールドへと急行した。

●スレッショールド

 スレッショールドはブラック・ピーク山脈のふもとにある街だ。
 山の向こうには、遠くダロキン共和国やイラルアム首長国連邦が見える。
 見下ろすと、一列に連なった難民たちの姿がうかがえた。
 ヨランダとの待ち合わせ場所は、リアの家族が経営している宿屋ということになっていた。
 スリの猛攻や窓からぶちまけられる尿瓶の中身をなんとかかわしつつ、ようやく目的の場所、すなわち「鉤と十字亭」に到着した。
 迎えに現れたのは、リアの姉、アンデラだった。
 彼女が宿に戻って呼びに行くと、しばらく経って、ヨランダが現れた。
 続いて精悍な老人、そしてローブ姿の小柄な女性が降りてきた。
 二人はリアの祖父インジフと、「占い師」アルヤだと自己紹介した。
 一行とインジフとは初対面だが、アルヤの方はそうではなかった。
 というのも、彼らは以前王都にて、アルヤに将来を予言されたことがあったからである。
 とりあえず、三人にことの経過を報告する。
 彼らはうなずき、パーティの労をねぎらうと、ふたたび何ごとかを相談するため、宿の2階へと引き上げていった。
 ヨブの形見として、一行からトゥルース・リングとノーマルソード+2を受け取ったヨランダの瞳は、心なしか涙でうるんでいたが……。

●宿の騒動

 その晩、パーティが宿の1階にある酒場で久々に羽を伸ばしていると、青白く太った男が因縁をつけてきた。
 男はリアの兄、マレクだった。
 彼らはなんとか面倒を避けようとしたがうまくいかない。
 結局、プロスペルとマレクがレスリング勝負を行い、勝った方に事の理があるということにされてしまった。
 結果、なんとかプロスペルが勝利した。
 騒いでいると、宿の二階からインジフが降りてきた。パーティを呼びに来たのである。
 マレクは泣きじゃくりながら、インジフに告げ口をしたが、女々しいことを抜かすなと一喝されるに終わった。
 マレクは、紋切り型の捨てぜりふを残し、その場を去っていった。

●占い師アルヤの正体

 インジフに連れられて宿の奥の相談室に入った一行は、そこで驚くべき事実を知った。
 待っていたのは、二人の美女だった。
 片方はヨランダだが、もう片方は?
 背格好から見るに、先ほどの占い師アルヤらしいが。
 彼女は微笑み、自分はフレームフリッカーだと名乗った。
 ――「盗賊王」フレームフリッカー!
 十代半ばで盗賊稼業を始め、十年足らずで瞬く間に、ギルドの「盗賊の王国」をまとめあげた伝説の人物である。
 それが、どうしてまたここに?

●巡らされた糸

 ヨランダが代わって説明する。
 スペキュラルムにいたころ、彼女は突然、ステファン・カラメイコス公爵の招聘を受けた。
 王都内で、対「ブラック・イーグル」男爵領のレジスタンスを組織していたおかげで、白羽の矢が立ったのだ。
 そこで公とともに姿を見せたのが、「盗賊の王国」のギルドマスターである「盗賊王」フレームフリッカーだった。
 背後には、「盗賊の王国」とは反目し合っている盗賊ギルド「ヴェールド・ソサイエティー」のギルドマスター、アントン・ラデュがいた。
 ステファン公は話し始めた。
 スペキュラルムの街は危機に瀕している。
 ブラック・イーグルこと、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵が反乱を起こそうとしているのだ。
 まさしく緊急事態である。
 そのため、彼らは日頃の利害関係は当分棚上げして一致団結し、ブラック・イーグルに立ち向かう体勢を取ったのだった。
 公爵によれば、ブラック・イーグルがクーデターを起こそうとしたきっかけの一つに、手下であるゴルサーという魔法使いがブラック・ピーク山脈にて発見した禁断の武器があるとのことだ。
 そこでステファン公は、自分とアントン・ラデュが首都を守っている間に、フレームフリッカーとヨランダをスレッショールドへ向かわせることにしたのだった。
 シャーレーン公爵と話して難民の受け入れ許可を得なければならず、一方でゴルサーの陰謀を打ち砕くための協力が必要になってきたからだ。
 そのようなわけで、スレッショールドに到着したヨランダとフレームフリッカーは、かつて「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスターだったインジフに会い、協力を要請していたというわけだ。
 そのとき、突然扉が勢い良く開き、リアの父、ミコラスが駆け込んできた。
 会議中だ、とインジフが一喝する。
 が、ミコラスは耳を貸さずに、絶叫した。
「大変だ! マレクが殺された!!」

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2022年08月24日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.8

 2022年8月11日配信の「FT新聞 No.3487」に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.8が掲載されています。見どころは、詩を使って世界の成り立ちを説明するところでしょうか。マスタールールセットの設定を踏襲しています。戦闘も激しい!

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.8

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/489882767.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第9話「薄明」(前編)の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、6レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、5レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、6レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。戦士、6レベル。

バーグル・ジ・インファマス/悪の魔術師。
ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
バリムーア/リッチ。
ステスシル/バンシー。もとカラーリー・エルフ。
ハラフ、ペトラ、ジルチェフ/カラメイコスの建国神話にちなんだ伝説の人物。
テレリィ・フィンゴルフィン/ロスト・ドリームの島のエルフ。
ハービンガー/ロスト・ドリームの島のエルフ。
ロキ/「エントロピー」を司るイモータル。

●グレイの死

 「悪名高き」魔術師、バーグル・ジ・インファマスを撃破することに成功した一行。しかし、「クラウドキル」(死の雲)が晴れていくと――エルフたちの死体に混じり――グレイまでもが倒れていた。
 すでに事切れている。
 その顔は赤黒く、表情には苦悶の跡が生々しい。
 そして隣には、彼の使い魔だった黒猫も倒れている。また一人犠牲者が……。皆、途方に暮れる。
 ただ一つの慰めは、バーグルが持っていた、多量のポーションとマジックアイテム、それに数々の魔法が記されたスペル・ブック(呪文書)だけだった。
 なかでもやっかいだったのは、バーグルが身につけていた「セキュリティー・ポーチ」(警報機能付き財布)だった。自我を持っており、パーティの神経を逆撫でするようなことばかり告げるのである。

●エルフの提案

 ゴリーデルが申し出た。「生命の樹」の力を使えば、彼を生き返らせることができるかもしれない、と。
 エルフたちにも多数の犠牲者が出たという事実を考え、戸惑うパーティ。
 しかし、ゴリーデルは恩人に対する当然の報いだ、と言い張って主張を曲げなかった。
 ようやく、バーグルがかくも執拗に狙い続けるロスト・ドリームの湖の秘密に関心が向くようになったというのだ。
 ロスト・ドリームの島が湖に沈んだときに受けた呪いのために、カラーリー・エルフでは、島に近づくと気が狂ってしまう。
 だが、バーグルがあれほどまでに執着していたからには、きっと何かがあるはずだ。
 その謎に触れることのできる機会は、今しかない。
 グレイを蘇らさなければ……。
 パーティは、エルフの申し出を受けることにした。

●「生命の樹」の奇蹟

 ゴリーデルの案内によって、一行は「生命の樹」のある広場に到着した。
 天まで届くかと思われるその威厳たるや、とても言葉で言い尽くせないほど。
 けれども彼らは、むしろ不思議な親しみを感じた。
 皮肉屋のヨブでさえ、ただ黙って樹を見上げている。
 多少の陰りを見せてはいたが、樹は日の光を浴びて燦然と輝いていた。
 エルフの族長は説明する――「生命の樹」は、死者への「想い」を媒介するにすぎない、と。
 すなわち、死者を甦らせる根本的な力は、それを願う人々の内部に根付いている。
 「樹」は、その力を増幅するのだ。
 エルフの導きに従い、一行はグレイへの思慕を高めていった。
 すると、「生命の樹」からまばゆいばかりの光が発せられ、グレイのもとへと集まってきた。
 光は一度途絶えかけたが、なんとか拡散を免れた。
 そして――グレイは息を吹き返した。

●バリムーアの襲撃

 狂喜する冒険者たち。
 しかし、それも束の間、辺りに暗雲が立ちこめてきた。何やら強大で邪悪な力が近づいてきているのである。
 とっさに戦闘態勢を整える一行。
 ――ローブ姿の男がそこにいた。
 フードから垣間見える相貌は、生ける者のそれではない。
 蛆のわいた骸骨そのものである。
 そう、冒険を志す者ならば必ずどこかで耳にする、「死王」リッチの姿があったのだ。
 彼らは直感的に彼こそが、「生命の樹」を狙う邪悪な存在、バリムーアだと気づいたのである。
 リッチはすさまじく強力だった。
 パーティは初めて、全滅への恐怖というものを痛感した。
 とりわけヨブは、バリムーアの放つライトニング・ボルトの直撃(注:ダメージ20d6、セービングスロー成功でダメージ半減)をまともに受け、半死半生の重体である。
 だが、一行も伊達に経験を積んできたわけではなかった。
 恐るべき猛攻を見せ、バリムーアをたじろがせたのである。
 なかでも、彼はタモトの斧に並々ならぬ畏れを感じていたようだった。
 予定していたはずのヴァンパイアの援軍もなかなか現れず、100ポイントを超えるダメージを被ったバリムーアは、かろうじて「マジック・ドアー」の呪文で退散したのであった。

●哀しみのあとで

 次から次へと現れる、思わぬ敵の数々との戦いですっかり疲弊したパーティ。
 生命の樹への危険は回避されたが、ぐずぐずしてはいられない。
 カギは、ロスト・ドリームの島にこそある。
 その日はとりあえず、バーグルとバリムーアによって殺されたエルフたちを荼毘に付すこととなった。
 悲しみに暮れるエルフたち。
 葬式のあとの集会で、ゴリーデルは今度こそ、正式に彼らに島の探索を依頼することにした。
 今度は、誰も反対する者はいない。
 詩人ドワーフのタモトと「語り部」技能を持つプロスペルは、共に手をとり、哀しみの歌を歌う。
 シャーヴィリーはそれに合わせて得意の踊りを披露するが、転んでしまい、大失敗。
 しかし、そんなことも気にならないほど、彼らの悲哀は深かった。
 一行は「エルフの友」と認められ、永遠の友情の絆が誓われた。
 なかでも弓使いのリアには、特製のエルブン・ボウ+3が贈呈された。
 一方、甦ったばかりのグレイはその隙を見計らって、なんとエルフたちの倉庫に忍び込もうとする!
 いたずら好きの性根は、奈落(アビス)より帰還しても直っていないようだ。
 が、さすがにそうは問屋が降ろさない。
 エルフたちに乞われて、タモトがその場を見張っていたのである。

●湖への旅路

 翌日となった。
 エルフたちに見送られ、湖を目指す一行。
 途中、シャルガグと名乗る奇妙な森の小人や、ジェリアンという騒々しい鳥人間をやりすごし、歩を進めていった。
 時はすでに、フラーモント(4月)の下旬になっていた。
 いつしか、周囲には霧が立ちこめている。
 しかし、そのなかから、かすかに、湖らしきものが見えてくる。
 指輪をはめ、一呼吸置くと、パーティはおそるおそる近づいていった。
 湖との距離が狭まるにつれ、霧は濃さを増していく。けれども、湖の縁にまでたどり着くと、不思議なことに、その周りだけ霧が晴れていた。
 そして、一行は、自身に奇妙な変化が起きているのに気がついた。
 なんと、ヨブとグレイ、そしてタモトとプロスペルの性格(アラインメント)が変わってしまったのだ。
 「ケイオティック」(混沌)のヨブとグレイは「ローフル」(秩序)に、反対に「ローフル」のタモトとプロスペルは「ケイオティック」になってしまった。
 ニュートラル(中立)のリアとシャーヴィリーはいつも通り、変わった様子はない。
 不思議なことに、ケイオティックの権化のような破戒僧ジーンにも、変化の兆しは見られない。
 いつもと正反対なまでに様子が異なってしまった一行は、さすがに戸惑いを隠せない。
 特にタモトとプロスペルは、日頃胸に溜めていたやりきれない思いが一気に解き放たれてしまい、まったく手がつけられないほどだった。
 だが、タモトはアラインメントが変わると、手にしている斧が、いつもよりしっくりくるように思えてならなかった。
 ともあれ、目的は果たさねばならない。
 一行は湖に足を踏み入れた。

●ロスト・ドリームの湖

 彼らは湖を底に向けて歩いていった。
 水はとても澄んでいて気持ちいいが、生息している生き物も多くてうんざりさせられる。
 電気ウナギやサメの猛攻をくぐり抜け、マン・オー・ウォー(80本の触手を持つ大クラゲ)をやりすごし、さんざんあたりをさまよった。
 数時間経って、ようやく、神殿らしきものが見えてきた。
 朽ちた門に手をかけ、ゆっくりと中に足を踏み入れる一行。
 神殿そのものは、かなり古い作りになっている。
 あちこちを探索し、スペクターを退治したり、ちょっとしたマジックアイテムを発見したりする一行。
 そして、いよいよ神殿の中央部の柱が林立する部分に足を踏み入れると、突如、魔法の罠が発動し、パーティの半数が麻痺してしまった。
 呼応するかのように、前面に据えられていたオリハルコンと青銅の像が動き始めた。
 青銅の像はグレイの呪文「ウェブ」によってすぐさま無力化されたが、問題なのはオリハルコンの方である。
 なんと、像は2ラウンドに1回、「ライトニング・ボルト」を放つことができるのだ。
 しかも、麻痺したキャラクターたちに対しては、背後からシャドウが4体襲いかかってきた。
 またもや危機であるが、彼らは大ダメージを受けつつも、辛くも勝利をおさめることができた。
 忌々しげに、ばらばらになったオリハルコンの像を眺める一行だったが、軍資金とするため、回収するのを忘れない。
 リアには像の形が、以前ヴォーテックスにて出会った、「ザ・ウゥープス・マン」と名乗った謎の男とどこか似ているように思えてならなかった。

●第一のタペストリ

 ジーンの持つ「ヒーリング・スタッフ」でなんとか傷を治し、さらに奥へと進んでいくパーティ。
 そこにはタペストリが掛けてあった。何やら詩文のようなものと、それに則した絵が描かれている。

 新王は深い思いに沈んでいた。
 清らの花の話をはじめて耳にし、その予言に
 心をひそかに打たれ、激しい愛を覚えた夜の夢と
 聞きおよんだ物語がこよなく偲ばれてきた。
 胸にしみる声は今なお耳にやきつき、
 旅の人が宴を辞したのはつい今しがたのよう。
 ときおりさす月光が風にがたつく窓辺を照らし、
 青年の胸を灼熱の炎が燃えさかるようだった。

 不思議な時代が過ぎ去り、まるで淡く消えゆく夢のようだった。

 「ペトラよ」と王が言った。
 「愛する者の心の切なる願いとは何であろうか。
 教えておくれ、その者に手を貸そうではないか。
 力はわれらのもの。そなたが天上にまた幸福をもたらすとき、
 すばらしき時代がやってこよう」

 「時がたがいに睦み合うならば、
 未来が現在と、また過去と結ばれ、
 春が秋に近づき、夏が冬と交わり、
 青春が戯れる真面目さで老年に肩を寄せれば、
 わがいとしの殿方、そのときこそ苦痛の泉は枯れ、
 すべての感覚を満たす望みは叶えられましょう」

 王妃はそう答えると、麗しい王に抱擁された。

 「よくぞ話しておくれた。
 ついに至上の言葉がまことそなたの口から発せられた。
 それは、心ある人の口元に浮かんではいたが、
 そなたの口をついてはじめて、清らに力強く響きわたった。
 急ぎ馬車を曳け、われ自らおもむいて、
 まずは一年の四季を、それから人間の四季を迎えるとしよう」

 「王」がハラフを指し、「ペトラ」が伝説にあるハラフの妻、女王ペトラであることはわかったものの、謎を解くカギにはなりそうにない。
 やむをえず歩を進め、二つ目の神殿に入る。

●ステスシルの悲劇

 二番目の神殿も、基本的な構造は最初と同じだった。
 またもやタペストリがある。
 そしてその前には、エルフの形をとった幽体が立って、すすり泣きをあげていた。
 不死の魂、ハウント(ホーント)である。なかでも、これは「バンシー」という種類のハウントらしい。
 「ローフル」なグレイが近づくと、バンシーの周りのエクトプラズムに阻まれ、結果、彼は10歳老化してしまった!
 だが、リスクは大きかったものの、なんとか話を聞くことができた。
 このバンシー(名前はステスシル)は、かつてはこの神殿に住んでいたカラーリー・エルフだった。
 神殿は、この地を統べる「力」を統御するための施設で、ステスシルはその守護者だったのである。
 しかしある時、「力」が暴走し、調和は破れた。
 こうして島は湖の底に沈み、エルフたちはアンデッドとなってこの地に縛り付けられたのだった。
 ここまで語るとバンシーは、これ以上生きていることほど苦しいことはない、自分を哀れに思うのならば殺してくれ、と嘆願した。
 「ローフルの」ヨブはそれを聞き入れ、ひと思いにステスシルを斬った。
 残されたタペストリにはこう書かれていた。

 ●第二のタペストリ

 疲れ果てた時の、疲れた心よ。
 善・悪の網をきっぱり切って、来い、
 おまえの魂は、いつまでも若い、
 霧はいつも輝いていて、薄明は灰色だ、
 中傷の火に焼かれながら、
 希望はなく、愛も失われていくけれど。
 来い、心よ、丘が丘に連なるところへ、
 そこには、虚ろな森と、丘をなす森の、
 神秘的な兄弟たちがいる、
 そこでは変わっていく月がその意志を遂げ、
 神は佇んで寂しい口笛を吹き、
「時」と「この世」はいつも飛び去り、
 愛よりも灰色の薄明が優しく、
 希望よりも朝の露が親しいところなのだ。

●最後の神殿

 3つ目の神殿は、他の二つよりもずいぶんと規模が大きかったが、基本的な構造は同じであった。
 巣喰っていたベルヤー(水中に住むヴァンパイア)を退治して奥に進むと、左右対称の四つの部屋があった。中央には台座が据えてある。
 いったん離れ、神殿の中央を進んで行くと、男女二人のエルフが立っていた。
 男はテレリィ・フィンゴルフィン、女の方はハービンガーと名乗った。
 男は手にワンドを、女の方はロッドを持っている。
 背後には、虹色の空間が口を開けていた。
 彼らこそが、この場所で一行を待ち受けていたカラーリー・エルフだった。
 二人はうなずくと、タモトの持つ斧の秘密と、この神殿のいわれを語りはじめた。

●『武器』の秘密

 ハラフ王が最後の戦いを終え、天上に召されたとき、彼が手にしていた『剣』は、この神殿に納められることとなった。
 『剣』のほかにも、彼の仲間たちが持っていた武器はそれぞれ、その最も信頼できる部下の手によって、ここに運ばれた。
 武器はそれぞれ、このカラメイコスの地を統べる、ある種の「力」を象徴していた。
 ハラフは、その「力」が拡散し、悪しきものの手に渡ることを恐れて、武器をこの地に集め、安定を保つことにしたのである。
 武器は全部で4つ。『槍』と『斧』と『メイス』、そして『剣』である。
 『槍』に属する第一の「力」とは「物質」である。それは破壊に耐え、不変と安定を象徴する。ローフルの性格とファイターのクラスに属し、「時間」と敵対し、「思考」に秩序を与える。また、それは「大地」から力を得る。
 『斧』に属する第二の「力」とは「エネルギー」である。それは数多くの力と活動の源である。ケイオティックの性格とデミヒューマンに属し、「時間」による荒廃に対抗して、「物質」を最も高い領域に押し上げようとする。それはまた、「炎」から力を得る。
 『メイス』に属する第三の「力」とは「時間」である。それは万物に変化をもたらし、大局的な安定を保つ。あらゆるところに存在し、過去の流れを再循環させる。ニュートラルの性格とクレリックに属し、変化に対応した「物質」と敵対する。そして、「エネルギー」の減少をもたらし、「思考」に歴史の教えを授ける。「時間」は「水」から力を得る。
 『剣』に属する第四の「力」とは「思考」である。すべての存在を分類し、他のあらゆる領域をその道具とする「思考」こそが、神(イモータル)の本質である。「思考」は具現にして哲学、そして理解を象徴する。あらゆるアラインメントとシーフのクラスに属し、「エネルギー」の混沌とした過剰さに敵対し、「時間」の効果を操作して、「物質」に、力と秩序と形を与えようとする。
 そう、タモトの持つ「ジルチェフの欺きの斧」こそが、この「エネルギー」に属する伝説のアーティファクトだったのである。
 しかし、他の武器はどこにあるのだろう?

●「エントロピー」

 一行の疑問に、テレリィは力無く首を振った。「エントロピー」の力によって、すべては失われてしまったのだ。
 「エントロピー」は、別名「死」と呼ばれ、その目的はあらゆるエレメントとは無関係に、この多元宇宙そのものを完全に破壊することにある。
 「エントロピー」は多元宇宙という名の織物のほころびであり、腐敗・風化・消失を象徴する。これは万物に停止をもたらし、忘却を引き起こす。
 そのうえ、「エントロピー」そのものは他の力がなくては存在できず、忘却をもたらす前に、まず征服の対象を求める。
 「エントロピー」は「物質」を破壊し、「エネルギー」を停止させ、「時間」を停滞させ、新たな「思考」を止めようとする。
 「エントロピー」を司っているのは、「ロキ」という名のイモータル(神)であった。「ロキ」は、神殿を守っていたエルフたちを、巧みな言葉でたぶらかして、神殿内に「エントロピー」の力を持ち込んだ。
 征服のための媒体を得た「エントロピー」はすぐさま膨張を重ね、「武器」の力は信じられないほど大きなものとなった。エルフたちは有頂天となり、本来の職務を忘れて、「力」を用いて気ままに振る舞った。
 そのため、彼らは神の罰を受けたのである。神殿は沈み、武器はいずこかへ拡散した。
 後に残ったのは、ロキの高らかな笑い声だけだった……。
 ――そこまで語り終えると、テレリィは一息ついた。大きく息を吸って、続ける。
 武器はしばらくの間はそのなりを潜めていた。しかし、最近になってその力の暴走が顕著になってきた。
 もはや一刻の猶予もない。武器を集め、しかるべきところにて「安定」させる必要があるのだ。
 彼らの説明によれば、一つ目のタペストリの詩句は「安定」を歌っており、二つ目のそれは「エントロピー(薄明)」の浸食を象徴しているとのことだった。

●シャドウ・エルフ

 そのときだった。
 彼らの背後の虹色の空間から、髪や肌の色が異なるほか、まったく瓜二つのエルフが現れ、絶叫した。
「騙されてはならない、こいつらの言うことはすべてまやかしだ!」
 エルフの亜種、シャドウ・エルフである。
 彼らは、エルフの国アルフハイムの地下に「星の都(シティ・オブ・スターズ)」という国を建設して住まい、地上での覇権を虎視眈々と狙っているらしい。
 アルフハイムのエルフたちの側は彼らのことを快く思ってはおらず、双方はことあるごとに敵対しているのである。
 男は告げた。
「奴らに武器を渡せば、それこそ世界の破滅が訪れる。我らと一緒に来て「星の都」を地上に建設するための力を貸すのだ。それこそが、最善の道である!」
 戸惑う一行。シャドウ・エルフたちは言葉巧みに語りかける。
 女のほうは、「星の都」がシャドウ・エルフのみならず、あらゆる生き物にとってどれだけすばらしい楽園であるのかを嬉々として歌い始める。

※途中引用された詩は、ノヴァーリス『青い花』(青山隆夫訳、岩波文庫)と、イェイツ『ケルトの薄明』(井村君江訳、ちくま文庫)の掲載作を下敷きに、シナリオに合わせて変更・改訳を加えたものです。


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2022年08月10日

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『魔術師の島が呼んでいる』リプレイ

 2022年7月31日の「FT新聞」で、新刊『揺籃の都 平家物語推理抄』(東京創元社)が好調の齊藤(羽生)飛鳥さんによる、『トンネルズ&トロールズ』完全版小説リプレイ「屈強なる翠蓮とシックスパックの魔術師の島が呼んでいる」が掲載されています。書き下ろし!

T&T小説リプレイvol.13『魔術師の島が呼んでいる』 FT新聞 No.3476
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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.13
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お久しぶりです。
このたび、6月30日に新刊『揺籃の都 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行しました。
初めて書いた大人向けの長編で、なおかつ続編と言った具合に初めて尽くしで、いまだに緊張感が抜けきれておりません^^;
さて、わたくし事はここまでにして、『魔術師の島が呼んでいる』は、久しぶりのシックス・パックとの冒険でしたので、楽しくてたまりませんでした。
非常に今さらながらのことに気づいたのですが、シックス・パックがいると、自作キャラクターとのやりとりがどんどん想像(妄想?)できて、プレイがはかどります^^
創造的インスピレーションを与えてくれる女神はミューズですが、男神はシックス・パックなのかもしれません^^


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『魔術師の島が呼んでいる』リプレイ
『〈屈強なる〉翠蓮とシックス・パックの魔術師の島が呼んでいる』

著:齊藤飛鳥
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0:屈強なる導入

あたしの名前は、〈屈強なる〉翠蓮。
黒髪色白がチャームポイントの、18歳の人間の女戦士ネ。
「おい、翠蓮。"恐怖の街"名物の酒が売っているぜ! 飲みに行こう!」
あたしの隣で汚い声でやかましく騒ぐアル中岩悪魔は、シックス・パック。
別名、あたしのかけがえのない心の友で、旅の相棒とも言うヨ。
「シックス・パック。その前に新しい冒険の情報を探すのが大事ネ。酒はその後ヨ」
あたしらは今、"恐怖の街"ことフォロン島のガル市内の探索をあらかた終えて、どっしりと腰を据えて、これからどこへ行って何の目的で冒険するか、相談し合うところだったネ。
ところが、このアルコール漬け岩悪魔は、酒を優先し始めたヨ。
「だったら、"恐怖の街"で有名な〈黒竜亭〉で冒険の情報を探そうぜ! そうすりゃ、酒も飲めるし、一石二鳥だ!」
「おまけに、酒を飲みたいとうるさいてめえの口を黙らせられるから、一石三鳥ネ」
「つまり、賛成ってことだな? よし、さっそく〈黒竜亭〉に入ろう!」
こうして、あたしらは仲良く〈黒竜亭〉に入ったヨ。


1:屈強なる酒場

悪党どもの巣窟として知られるガルの中でも、〈黒竜亭〉はとびきりガラが悪いってことで有名ネ。ぶっちゃけ「悪名高い」と言った方が正解かもしれないヨ。
でも、あたしらもおせじにもガラがいい冒険者ではないから、いっこうに問題ないネ。
酒と冒険者どもの汗の匂いという、入り混じってはいけないものが入り混じった異臭が漂うこの酒場に入ると、市内散策中に知り合った盗賊長マイクと相棒の青年レイスがいたヨ。
二人は、精悍なエルフと同じテーブルについていたけど、あたしとシックス・パックに気がつくと、目配せをしてきたネ。
「ちょうどよかった、お二人さん。このエルフの兄ちゃんの相談に乗ってやってくれねえか。名前は、ラザンと言うんだ」
相談とは、すなわち冒険をしてほしいという依頼。
すかさず、シックス・パックが食いついたヨ。
「いいぜ。では、ラザン。お近づきのしるしに冷たいのを注文してもらうぜ」
「わかった。ウェイター、とりあえずエール酒を2、3本。枝豆かチーズを添えて頼む」
ラザンは、相当思いつめているらしい。
さもなければ、ただ酒が飲みたいだけの岩悪魔の口車に乗せられないネ。
シックス・パックが、あたしの分として注文されたエール酒を飲み干し、なおかつおかわりを注文している横で、あたしはラザンの話をきいた。
それによると、ラザンは恋人を"漆黒の鷲"子爵にさらわれ、身代金として彼女の体重分の純金と、"ダークスモークの喜び"と呼ばれる珍しい麻薬を要求されているとのことだった。
「子爵の奴、ご丁寧に、純金は〈恐怖島〉と呼ばれるバリートの火山島に、"ダークスモークの喜び"はガルから船で東に行ったダークスモークの島に、それぞれあると教えてきたんだ」
「子爵、採取場所を知っているなら、てめえで行けよと言いたくなるくらい、詳しく知っているネ」
「まったくだ。そのために僕の愛しい人をさらうなんて最低最悪だ」
「しかし、わからねえのは、どうして子爵はおまえの恋人に目をつけたかってことだ。おめえ、何か過去に子爵の逆鱗に触れることでもしたのか?」
シックス・パックは、酒が入れば入るほど好人物になるらしく、いかにも親身と言った感じでラザンに尋ねるネ。
「逆鱗に触れる……そうだな。僕のような平凡な男に対し、恋人は豊満な美女ということが、嫉妬という名の逆鱗に触れたのかもしれない……」
すると、小声でレイスがそっとあたしに耳打ちしてきた。
「ラザンの恋人は美女と言えば美女だが、体重はこの島の女性で一番あるんだ」
「あー……すごく察したヨ」
子爵が人質の体重分の純金を要求してきた時点で、気づいておくべきだったネ。
「問題は、2つの島が遠く隔てられていることなんだ。君達が引き受けてくれるなら、僕とマイクさんとレイスさんは〈恐怖島〉へ、君達にはダークスモークの島へ手分けして赴くことになる」
ラザンが話を進めたのを受け、レイスは気を取り直して、あたしとシックス・パックに言った。
「もし、引き受けてもらえるなら、信頼の証としてこの〈ジティアの目〉を託そう。これは《幻覚破り》の呪文をかけたように幻を見破る効果のある魔法のアイテムだ。きっと嬢ちゃん達の役に立つ」
「どうする、シックス・パック? この冒険、引き受けるカ?」
「ここまで相談に乗っちまったんだ。引き受けるしかねえだろう」
「そうこなくちゃネ!」
というわけで、あたしらの今回の冒険は人助けのために、人を破滅させるヤバい草探しに決まったのだったヨ。


2:屈強なる船出

ダークスモークの島へは、ガルの港から出向しているメインランド(ユニコーン大陸)行きの船で行くことができる。
それと言うのも、さまざまな島を経由していて、そのうちの一つにダークスモークの島があるからヨ。
「正規の船でたどり着けるのは、ありがてえ。問題は乗船料だ。翠蓮、おめえの手持ちはいくらある? ちなみに俺は何もねえ。オケラちゃんて奴だ」
「誓いどおり、報酬は山分けにしておいたのに、あたしが里帰りやジークリットちゃんに紹介されて単独の冒険をしていた間に素寒貧って、どんだけ浪費したヨ!」
「宵越しの金を持たねえのが岩悪魔の美意識なんだ。細かいことは気にするな」
「堅実に酒場経営して蓄財もしっかりしているおまえの兄ちゃんから、ニードロップを食らっちまえヨ!」
「兄貴は兄貴、俺は俺だ。で、乗船料はどうするんだ? 払えるのか? 払えねえのか?」
「飲んだくれに払う乗船料なんざ、ビタ一文ないサ」
と、友好的な話し合いの結果、あたしらは仲良く船員としてガル発いろいろな島経由メインランド行きの商船の船員として乗り込んだネ。
あたしはかわいくてお行儀がいいので、船内のレストランのウェイトレス。
シックス・パックは酒に汚いことを警戒されて、厨房や食料貯蔵庫からほど遠い甲板掃除担当になったヨ。適材適所とは、このことサ。
〈竜の息〉と呼ばれる風を受け、数日の間、船旅は順風満帆だけど、船酔いにやられて、耐久度が2下がったヨ。
それでも、あたしらが乗っている商船・3本マストのキャラック船〈シルヴァー・プリンセス〉号は、遠距離航海と積み荷や人員の運送に特化した作りとなっていて、まだまだ船酔いは軽い方らしいネ。
船長と航海士長ほか船員12人プラス臨時の船員のあたしとシックス・パック。それに13名のお客様が乗っているヨ。食糧の積載は2ヶ月分。超大型弩等の武装も備わり、長旅でも安心できそうな安全設計ネ。
ダークスモークの島までは、当分つきそうにないから、あたしは休憩時間を利用して船内の散策をすることにしたヨ。
まずは、船員たちと交流して情報入手ネ。
船員たちの間では、タロットが流行していたヨ。
「おう、翠蓮たん。よかったらただで占ってやるよ」
「ありがたいネ」
さっそくタロットカードを引く。
そこには、逆さ吊りにされた男が描かれていたヨ。
「変なカードの絵を引いてしまったネ。このカード、どういう意味ヨ?」
ざわつく船員たちにきくと、一等航海士のホジスンが意を決したようにあたしの肩に手を置いた。
「そのカードは吊るされた男。意味は逆境、忍従、試練……。縁起でもないな」
「そうなのカ? シックス・パックと一緒にいれば、どれも日常茶飯事ネ」
「どこぞの魔術師に聞いた話だが、なんでもどこぞの次元界には、吊るされた男という名の力を持つ美少女キラー(物理)の男がいたんだとか。ちょうど翠蓮たんみたいな美少女は、餌食にされそうだ。だから、縁起が悪いと言ったんだ」
「考えすぎじゃないのカ、それ?」
「とんでもない。それと、もう一つ。これまたどこぞの魔術師に聞いた話だが、なんでもエフティラという次元界では、門を守る巨人による定命ものを試す試練として、タロットや抽象ゲームが使われるらしいぞ」
船員たちは、そう言いながら腹を抱えて笑ったヨ。
大海原では、現れるはずもない突飛な怪物の話をすることが、何よりの気休めになるとの話だけど、娯楽がどんだけないネ、こいつら。


3:屈強なる船上

それから、7日が経過したヨ。
船は〈竜の爪〉の海域を進むが前方、北西の方角に、ガイヤニールの島が見えてきたネ。
すると、その周辺に停泊してきた衝角船が突っこんで来た!
なんてことヨ、海賊サ!
突進を回避しきれず、〈シルヴァー・プリンセス〉号が激しく揺れるネ!
「うわあ!」
いつも隙あらばあたしの尻を触ろうとしてきたウェイター長が、真っ逆さまに海へ落下していったヨ! よくやった、海賊!
「ぎゃあ!」
「ひええ!」
でも、船員2人を落下させたのは許せないネ!
「翠蓮、海賊たちが乗りこんできやがった! 戦闘だ!」
「心得たヨ!」
シックス・パックと一緒に、あたしは船に乗りこんできた海賊たちと戦闘を開始した。
海賊たちは半人半漁のトリトンだったネ。
その数、4体!
「トリトンは《炎の嵐》の呪文を使えば、あっという間に半数を吹き飛ばして戦闘不能にできるぞ!」
ホジスンが、操舵室に避難しながらアドバイスをくれる。ありがたいけど、おまえも戦えヨ。
「アドバイスありがたいけど、あたしらはそんな上等な魔法は使えないサ!」
「そのとおり! こうなったら、力押しあるのみだぜ!」
「承知ネ!」
あたしらが気炎を吐いたところで、海賊どもが笑い始めたヨ。
「笑止! 酒臭い岩悪魔と小娘ごときにやられる我らではないわ!」
「2人まとめて仲良くカザンの闘技場へ売り飛ばしてくれる!」
いちおう、話し終えるまで待ってやるのが礼儀なので、あたしはトリトンが今生最期となる言葉をきき終えてから、持っていた懐中時計のボタンを三度押してヴォーパル・ブレードに変え、トリトンその1を袈裟懸けに斬ってやったネ。
一撃では倒せなかったけれど、それでもMRを半分以上削ることができたので、そそくさと逃げて行ったヨ。
「いい武器を手に入れたじゃねえか、翠蓮! 俺も負けてられねえな!」
シックス・パックも、トリトンその2をヘビーグラディウスで真っ向唐竹割りしにかかる。
あいにく致命傷にはならなかったけれど、逃げて行ったからよしネ……て、あの野郎! 逃げて行くついでに、船員を1人海に引きずり込んでいきやがったヨ!
「こいつはやべえ! 早いところ倒しちまおう!」
「おうともサ!」
しかし、あたしらの奮戦むなしく、戦いが終わる頃には船員2人と乗組員2人が犠牲になってしまったヨ……。


4:屈強なる話し合い

戦いが終わり、船は静けさに包まれていたヨ。
そりゃそうサ。合計7人もの船員と乗組員が海賊どもによって海へ引きずりこまれたのだから……。
生きていても奴隷にされるだけとは言え、もしもまた会えたら助けたいヨ、ウェイター長以外。
「おかしい。充分な額の通行料を払っていたのに」
船長の独り言をよそに、船は目的地目指して進み続ける。
平穏無事な5日間が経過したところで、島が見えてきたネ。
島の名前は、ヴェラランド。「ブログル(オーガー)の女王」ヴェラが治める領域ヨ。
船長と一等航海士が何やら話し合っているところへ、船客の魔術師アシュヴィラが混じったネ。
なーんか、気になる雰囲気ヨ。
それはシックス・パックも同じだったネ。
「ゴチャゴチャ話さず、俺様も混ぜやがれッ!」
三人の話の輪にいきり立って飛びかかったヨ、この飲んだくれ岩悪魔!
「飛び入り参加はともかく、飛びかかり参加は相手に迷惑ネ!」
あたしがシックス・パックを羽交い絞めにして、そのままチョークスリーパーをかけてやろうか検討していると、アシュヴィラがほっとため息をついたヨ。
「船長に頼まれて《魔力感知》の呪文を広範囲にかけてみたのですが、このあたりの海域に未知の転移門が口を開けているようです。おそらくヴェラ女王の仕業でしょう」
「グェッ、そこから化け物がやって来やがるのか」
シックス・パックはそう言ってから、
「とんでもないサディストだから近づいたら駄目だ」
と首を振る。
いっちょまえに意見できるとは、さてはこいつ、隠れて一杯飲んできた後ネ。
「わかっています。だけど、転移門はどれも落とし穴程度の規模しかないから、門から発せられる魔力を押し留めればいい。運よくわたしはその力を押しとどめるのに役立つ豪華な魔法の杖を持っているから、机上の空論なんかじゃありません。でも……」
「『でも……』何か問題があるカ?」
アシュヴィラが顔を曇らせたので、あたしは心配になって尋ねる。
「杖の力を十全に引き出すには、乗員みんなの力を合わせる必要があるのです。杖が門の位置を指示し、そこから放出される魔力と出現する怪物の力を、一時的に抑制させ、その隙に船を通過させるには……」
「そんなことか。よし来た。何もやらねえよりはマシだ。いっちょやってみようじゃねえか!」
船長でもないのに、シックス・パックが決断を下す。
でも、他に方法がないので、船長もアシュヴィラの作戦に賛成したヨ。
「では、まいります。よろしいですか?」
「いいとも!」
「どんと来いネ!」
あたしとシックス・パックのみならず、船員も船客たちも、みんな必死になってアシュヴィラに協力したヨ。
おかげで、普段めったに使わないあたしとシックス・パックの魔力度と、アシュヴィラの杖が犠牲になったけど、どうにか転移門を突破できたネ。


5:屈強なる停泊

「くたびれたぜ……」
「あたしもサ……」
何とか転移門を突破できたけれど、船内は疲れ切った乗員乗客が死屍累々すれすれの有様で転がっていたヨ。
このまま航路を東にとって順調に進み続ければ、あたしらの目的地であるダークスモークの島に到着するはず。
でも……。
「ダークスモークの島の周りは珊瑚礁に囲まれているので、ぐるっと回っていかねばならない。だから、人間の都市ルブラで1日停泊して、船の簡単な補修と補給をしてからでいいかね?」
「マジかよ! あんなに頑張ったのに、すぐにダークスモークの島へ行けねえのかよ!」
船長の説明に、シックス・パックが抗議の声を上げたので、あたしはすかさず貯蔵庫から持って来た酒瓶をシックス・パックの口へ突っこんでやったネ。
「船長さんの判断に賛成ヨ。補修と補給は大切サ」
「ありがとう」
船長の感謝が、賛成したことに対してなのか、シックス・パックを黙らせたことなのかはわからなかったけど、細かいことは気にしない気にしない。
こうして、船はルブラに停泊することになった。
久しぶりに揺れない場所に立ちたいあたしと、ルブラの地酒を飲みたいシックス・パックは、ルブラに降りて時間をつぶすことにしたネ。
ルブラは、人口12000人の都市で、ここではこれまで倒したワンダリング・モンスターの死体を換金できるそうだけど、4人の海賊トリトンたちは半殺しにしたところを逃げられたから、換金できるモンスターがいなくて残念ヨ。
「おい、そこのおまえ! そう黒髪ツインテのおまえだよ!」
いきなりルブラの港の役人が、あたしに荒っぽい口調でつめ寄って来たネ。
「この街の法律では、金髪か無毛でなければならんと義務づけられている! この街を歩きたいなら、髪を金色に染めるか、丸刈りにして来い!」
「何だヨ、その謎ルール! 乙女の黒髪に対する冒涜ネ!」
あたしが役人につめ寄ると、シックス・パックがすかさず止めに入る。
「よさねえか、翠蓮。髪の色を変えるか髪を失くすかすれば、街を歩きたい放題なんだから、楽勝じゃねえか」
「どこがネ! 冒険から帰ったあたしが金髪や丸刈りになったせいで、恋人のジーナから『ごめんなさい。わたし、黒髪の子が好きなの』と捨てられたらどうしてくれるヨ!」
「大丈夫、ジーナはそんな小さい女じゃねえ!」
シックス・パックになだめられ、確かにそのとおりだとあたしは思い直したネ。
「わかった。では、船内に戻って髪染めを探して来るヨ」
あたしは船内に戻り、髪染めはないかホジスンにきいてみたところ、あるとのことだったので、無事に金髪の翠蓮になって再び街へ出たヨ。
シックス・パックはルブラの地酒を飲んで上機嫌だったけど、あたしはなれない金髪がゆううつで、それどころではなかったネ。
船に戻ると、舳先の女神像へと目が行く。
生命の女神ゴローともゴレーとも呼ばれる女神様の像ヨ。
「妙だな。舳先の女神像が三体に増えているぜ」
「増えてねえヨ。シックス・パックが酔っているだけネ」
そんなやりとりをしてから、あたしらは船内に戻った。


6:屈強なる海難

船はルブラを出港し、サンゴ礁を迂回してダークスモークの島の周囲を回っていく。
すると、嫌な感じに雲行きが怪しくなってきたヨ。
案の定、空が赤く染まって雨が降って来たネ! 
船員たちは阿吽の呼吸で帆を畳むけど、雨の勢いは強くなる一方サ。
そこでバケツを渡され、水を書き出すリレーにシックス・パックと一緒に参加することになったけど、シックス・パックの目がキラリと光ったネ。
「フッフッフッフ……。今こそ俺の〔船大工〕のタレントを発揮する機会が来たぜ!」
「マジか! いつになくおまえが頼もしく見えるネ!」
ここからシックス・パックは別人のように獅子奮迅の大活躍だったヨ。
おかげで、船員たちからもプトレクシア神もお褒めになると賞賛の言葉を浴びせてくれたネ。
「そのプト……何とか神って、どんな教義の神さまネ?」
「『自分のことは自分でやれ』って教義の神さまだ」
「つまり、自分の面倒を自分で見られる岩悪魔や人間が好きな神さまってことか。いいね。そういう神さまの方が信頼できるぜ」
バケツで水をかき出しながら、シックス・パックはかっこつけて言うヨ。
まだ嵐に見舞われているのに、余裕ネ。
でも、「もうだめだ!」と騒がれるよりはいいカ。
そんなことを思ったそばから、船が大きく揺れる。
あたしとシックス・パックは吹っ飛ばされて帆桁に叩きつけられたネ!
「いてえ!」
あたしらが仲良く痛みで甲板の上を転げまわっていると、アシュヴィラが嵐の海を指差したヨ。
嵐のせいでよく見えないけど、微かに軍艦のような輪郭が見えるネ。
「あれは、女海賊クリスタルの船! でもなぜ? クラッシング海を暴れまわった挙句、ダークスモークの島に攻め入って滅ぼされたはずなのに……」
「そうなると、答えは一つ。幽霊船ってことだな! おい、この船にバリスタが積んであったよな? あれを打ちこんで撃退しようぜ!」
「シックス・パック。名案だけど、射手さんが恐ろしさに震えて生まれたての子鹿のようにプルプル震えているから、打ちこむのは難しいネ!」
「だらしねえな! 俺様はバケツで水をかき出さねえとならねえから、翠蓮。おまえがやれ!」
「わかったネ! 昔のあたしなら、器用度が9しかなかったけれど、シックス・パックと単独で冒険していた間に2倍の18にまで増えているヨ。だから、余裕ネ!」
「おい! どうしてそうやってはずす前振りみたいな発言をするんだよ! 不吉だろうが!」
シックス・パックの声を聞き流し、あたしは幽霊船めがけてバリスタを打ちこんでやったヨ。きれいなクリティカルヒットだったサ。
幽霊船は、すぐにあたしらの乗っている船から離れていったネ。
「あれは夢だったのか?」
船長が、額から流れ出る汗を手の甲で拭いながら、幽霊船のあった方を見つめるヨ。
「夢なんかじゃありません。クリスタル船長はまたクラッシング海へ戻っていったんです」
アシュヴィラも、まだ青ざめた顔のまま答えてから、あたしの手にしっかりと両手剣が握られているのに気づいたネ。
「翠蓮、それ『夢歩きの両手剣』じゃありませんか」
「何、ソレ?」
「伝説のデンダイス・ソードです。敵が不死なるものの化身だった場合、攻撃力が3倍になる優れ物なのですよ。きっと自分たちと対等に戦ったと思ったクリスタル船長が、あなたへの敬意としてプレゼントしてくれたのでしょう」
いきなり握らされたので、呪いの武器かと思ったけど、すごくいい武器だったヨ!
「いいなぁ、翠蓮……」
シックス・パックが物欲しそうに剣を見ているネ。
しまいには、柄にもなく目をウルウルとして上目遣いをしてきて気味が悪かったので、あたしはこう言うしかなくなった。
「……あたしが装備するには重量点がありすぎるから、よかったらシックス・パックが装備するカ?」
「いいのか! ありがとうよ!」
シックス・パックが、さっそく「夢歩きの両手剣」を試しに素振りをしていると、荒れ狂う雨風をものともせず、船を丸ごと呑みこめるサイズの巨大な〈白海蛇〉が接近してきたヨ!
「何じゃ、あの巨大なモンスター!」
「こ、ここは話し合いを試みるに限るネ!」
到底勝てる見込みがないので、あたしらは〈白海蛇〉と話し合いを試みたヨ。
「あー、あー。テストテスト。本日は晴天なり」
「落ち着け、シックス・パック。今は土砂降りネ! ここは喉を叩きながら『我々ハ友好的ナ冒険者』と挨拶するヨ!」
あたしらが話しかけようとするよりも先に、アシュヴィラが〈白海蛇〉へ弁舌さわやかに語り出したかと思うと、まばゆい光が発せられ、次の瞬間にはアシュヴィラも〈白海蛇〉もどこにもいなくなっていたネ!
「あれは何だったんだ……?」
「わからないヨ……」
あたしとシックス・パックは、〈白海蛇〉の脅威から助かったことを喜ぶよりなにより、茫然とするしかなかったネ。


7:屈強なる島

いくつもの難局を切り抜けたのち、嵐は徐々に収まって少しずつ雲に切れ目が見え、陽の光が差しこんできたヨ。
北東にようやくあたしらの目的地であるダークスモークの島が見えてきたネ。
東にぐるりと回りこめば、島の唯一の集落、名もなき村へと行き着けるはず。
でも、眼前に、巨大な楕円が幾重にも連なり、渦巻きのように見える亜空感への入り口が開いているヨ!
「おい、翠蓮。あれ、俺様たちの暮らす〈トロールワールド〉と別世界のジンドを取り結ぶ、巨大な転移門じゃねえか?」
「うん。もう危ない予感しかしないネ……」
あたしが言い終えるか言い終えないうちに、雷のとどろくような音がしてきたヨ。
そして、門から青銅色の瞳をした身長6メートルのタイタンが姿を現したネ!
「我はマニュマー、エフティラ次元界のタイタンなり。よくぞ来た! ここから先へ行きたければ、汝らは試練を乗り越えねばならぬ」
うわ、こいつがタロットをしてもらった時の雑談に出てきた、次元界の門を守る巨人ネ!
面倒くさい奴が出てきちゃったヨ!
内心うんざりしていると、物怖じしないシックス・パックは、
「試練だかなんだか知らないが、そのエルフ次元界とやらに、美味い酒はあるのか?」
と、大真面目に質問する。
「汝らが我がニムトの試練に同意すれば、何も言うことはないぞ」
こんな酔っ払いの質問に答えちゃうのかヨ、タイタン!
「やっぱ隠してやがるんだな」
「おい、シックス・パック。何を得心しているネ。タイタンは一言も酒の話なんかしてないサ。会話のキャッチボール、ちゃんとしようナ?」
試練を受ければ美味い酒をもらえると超解釈をしやがったシックス・パックのおかげで、あたしらはタイタンの試練を受ける羽目になった。
タイタンが手を上げると、門から巨大なこん棒が表れ、それらは宙を飛び交い、1列め5本。2列め7本。3列め9本と上から順に3列を形成したネ。
「君たちと私で勝負をする。手番は交互に回ってくる。自分の番が来たら、同じ列の棍棒を好きなだけ取ってよいが、別の列のものは取れない。最後の1本を取ったら勝ち、というわけだ。先手は君たちだ。どの列から何本取る?」
よりにもよって、知性度低いあたしには不向きな試練だったヨ!
でも、ここは知恵を絞りまくるネ!
「5、7、9……どれも奇数だから……こっちも奇数を取ってみるカ。よし、決めたヨ。1列めの5本からは3本取る。2列めの7本からも3本。3列めの9本からは5本取るネ!」
「おいぃー! もっとよく考えてから答えろよ、翠蓮!」
シックス・パックが悲鳴を上げる。
「相棒の岩悪魔の言うとおりだ、人間よ。ルールも内容もろくに理解できていないではないか!」
シックス・パックのツッコミよりも、タイタンの逆鱗の方がヤバかったネ。
タイタンのツッコミハンドによって発生した暴風によって船は流され、あたしらは意識を失ったヨ。
気がつくと船は残骸と化していて、そのまま何週間もの漂流を余儀なくされたネ。
そして、はるか南、ゾル(イーグル大陸)に漂着したヨ。
「みんなツイているネ! ここ、前にあたし来たことがあるから知り合いがいるし、小銭も稼げるから、帰れるヨ!」
タイタンの試練を間違えて、みんなに多大な迷惑をかけた自覚が十二分にあったあたしは、責任をもってみんなをカーラ・カーンのおっさんのお宅、別名「ゾルのモンスター迷宮」へご案内したネ。
そこで、大活躍した船長やホジスン達がカーラ・カーンにスカウトされたのは、また別の話。
「結局、今回は冒険をミスっちまったな」
「こーゆー冒険もあるサ」
そういや、前にタロットカードで占ってもらった時、今回の冒険は「逆境」「忍従」「試練」だと占われたけど、ドンピシャの大当たりだったヨ。
今度から、少しは占いを信用するネ。
そんな教訓を得たあたしは、まだ金髪のままの髪を気にしつつ、シックス・パックと一緒にまたぶらぶらと新たな冒険を目指して旅を始めたのだったヨ。

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2022年6月に『蝶として死す 平家物語抄』の続編で初長編『揺籃の都 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が遷都した福原の平清盛邸で続発した怪事件の謎解きに挑む。雪の山荘を舞台にした館ミステリ。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.5 収録
 ソロアドベンチャー『無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中〜魔術師の島が呼んでいる〜』
 作:岡和田晃
 協力:吉里川べお
 発行 : グループSNE/書苑新社
 2022/4/15 - 2,420円
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2022年07月31日

『モンスター! モンスター!』と私

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『モンスター! モンスター!』と私

 岡和田晃
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●ファジーなシステム、T&T

 このところ、『トンネルズ&トロールズ』(T&T)におけるルール裁定がどうあるべきかが一部で話題になっています。発端は、熱心なT&Tファンである、けいねむさんの問題提起のようでした。ルールの適用やシナリオの運用については、GMはどこまで恣意的であるべきか、という話です。
 現在、RPGはシステム面でもユーザー面でも多様化し、あらゆるセッションに共通して当てはまる事例というのは成立しづらくなっています。ただ、T&Tは数あるRPGのなかでも最大級にバランスブレイキングなシステムであると同時に、GMサイドでもPLサイドでも、それをファジーにコントロールしやすいシステムであります。暴れ馬のようであり、優れたカスタムキットでもある。小さくまとまっているようでも、見方をかえればポテンシャルが非常に大きい。このあたりのセンスが絶妙なので、だから私は東海大学文芸創作学科で開講しているゲームデザイン論の教材として、よくT&Tを使っているわけです。
 文芸創作の学生といっても資質はまちまちではありますが、講座内で時間をかけてシナリオ素案から書いてもらってブラッシュアップを繰り返していけば、それまでのゲーム経験とあまり関係なく、多くの受講者は作品を完成まで持っていくことができます。ただ、私としては、あくまでも教育の一環としてゲームデザインに取り組んでもらっている以上、今ある自分を表現するだけではなく、自分の殻を破り、もう半歩先を目指してほしいと考えています。そうした題材として、T&Tはなかなかどうして、使い勝手がよいのです。
 実例を出せば、T&Tラヴクラフト・バリアントのシナリオ「ドルイドの末裔」(岡和田晃/豊田奏太、「ウォーロック・マガジン」Vol.5掲載)は、講義内で『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(中野善夫訳、国書刊行会、邦訳2018)に収めたスコティッシュ・ケルトの作家フィオナ・マクラウドの短編を読んでもらったうえで、「現代日本を舞台にしない」、という縛りで提出されたシナリオ群の優秀作なのです。
 まず、インナー・ヘブリディーズ諸島が舞台というのにはシビれました。謎めいた屋敷を探検する話なのですが、もとの原稿は序盤がサバイバル・ホラーやFPSのムービー・シーンのようだったので、そこをもっと導入らしくなるように私の方で書き換え、H・P・ラヴクラフト「レッド・フックの恐怖」、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、チャールズ・ディケンズ『荒涼館』、W・H・ホジスン『異次元を覗く家』といった古典的な小説の要素を加味して仕上げました。
 つまり、全体的に文章面と設定では私の方で徹底的にブラッシュアップを施し、データを練り直したものの、屋敷の構造は原型をできるだけ活かした形にしています。その後、ベテラン・ゲーマーの仲知喜さんにチェックしてもらい、さらなる推敲を施して完成に至りました。完成後は、「学生作品がベースなんて……」と色眼鏡で見ていた方にも、どうやら一目置いていただけたようです。
 ホラーをデザインするときには、予定調和と意外性のバランスが大事です。ホラーだとわかっているのに、何も怪異が起きないのではつまらない。出てくる怪異はいくらでもスケールが大きくてかまわないのですが、まるで手も足も出ない、どうにも対処できずにやられて終わるだけではゲームとしての双方向性をとる意味があまりない、というわけなのです。

●ほどよい距離感での〈共同ゲームデザイン〉

 T&Tはその設計上、「あらかじめ決められた筋書きの通りにならない」ということを、システムが保証しているとも言うことができます。だからこそRPGらしく予想外な展開が訪れ、ときには忘れられないほどに個性的かつ充実したセッションにもなりえます。
 にもかかわらず、T&Tが、最初にGMレスのソロアドベンチャーを発表したRPGであり、今もなおソロアドベンチャーが英語圏でも日本語でも精力的に書かれ続けている代表作というのは面白いことかと思います。
 これに対して、「FT新聞」読者にはおなじみの杉本=ヨハネさんが言うには、「「こうすればいい」がないからこそ、「私はこうルールを扱っているよ」の例示であるソロアドベンチャーが必要だったのかもしれませんね。各自が参考にできるが、従う必要があるわけではないという距離感で」ということで、我が意を得たりという思いです。
 プレイヤーとGMの間の齟齬はしばしば、「PLは結局のところGMに逆らえないのに、GMの不公平な裁定によってPLが必要以上の労力や負担を強いられたり、PLの創造性を結果としてGMに否定されたりする」という点に帰結します。GMは十人十色なのですが、ソロアドベンチャーでは、その多様なあり方を、読者がまずプレイヤーとして体感することになります。一見、理不尽のようでもそれを上回る何かがあれば納得できるわけですし、ときにはルールを改変したり強いキャラクターを持ち込んだりして、不条理を乗り越える方法を読者は自然に「学習」するわけです。
 多人数用シナリオでも、実は同じ。『ベア・ダンジョン』はその大胆不敵な変身ギミックや飛び抜けた数値設定で、『ベア・カルトの地下墓地』は〈熊神の教団〉をめぐるユニークな背景処理で、『アンクル・アグリーの地下迷宮』では大掛かりな罠の設定で、『魔術師の島』では同じ罠でもきめ細やかな仕掛けをもって、シナリオ・デザイナーとそれを運用するGM、そしてPLの間における「ファジーなコミュニケーション」を促進させる仕様なのではないかと言うことができます。
 いずれにせよ、T&Tはアナログゲームミュージアム理事の高橋志行さんが言う〈共同ゲームデザイン〉としてのRPGのあり方を、もっとも強く打ち出している作品のひとつなのかもしれません。

●『モンスター! モンスター!』キャンペーン

 7月22日に発売されたばかりの「GMウォーロック」Vol.6で私が担当した「T&T情報コーナー」では、T&Tのバリアント(単体プレイ可能な追加ルール)である『モンスター! モンスター!』がらみの状況について、多くの紙幅を割いて紹介しています。
 この『モンスター!モンスター!』は、プレイヤーが普段は悪役のモンスターを担当するというコンセプトのRPGなのですが、勧善懲悪をひっくり返した設定もさることながら、担当モンスターをトランプで決めるというユニークな設定が魅力です。
 繰り返します。プレイヤーがキャラクターとして成り代わるモンスターの種族は、まったくのランダムで決められるのです! そう、キャラクターメイキングの時に引かされるトランプの種類によって、キャラクターは、ゴブリンにもなればドラゴンにもなり、ヒドラになれば人間の屑にもなれてしまうのでした。
 なかなか残酷なルールです。トランプを引いた結果、オークやツァトゥヴァをプレイせざるをえなくなったプレイヤーに号泣されてしまったため(中学生のときの話ですが)、あえなくオークをケンタウロスに、ツァトゥヴァをグリフォンに差し替えを許可したのも、今となってはいい思い出です。
 キャラクターメイキングのほかにも、『モンスター! モンスター!』にはさまざまな魅力がありました。システム名の由来を語るケンのユニークな序文をはじめルールブックのあちこちに散りばめられたユーモアもさることながら、迷宮探検家ではないモンスターが、どうすれば冒険点を獲得できるのか、その基準が面白かったのです。
 モンスターは普通のキャラクターと同じように、戦闘で勝ったり、使命を達成させたりすることで冒険点を得ることができます。しかしながら、それだけではありません。モンスターとして村人を殺すよりも城からお姫さまをさらってきたほうが多くの冒険点がもらえます。あるいは、単に魔法を使うよりも、腹一杯に食べ物を喰らったほうが、はるかに高い冒険点を得ることができるのです!
 深く感動し、『モンスター! モンスター!』にすっかり入れあげた中学時代の私、なんと受験直前(中学三年の二月)までキャンペーンを続け、それまでキャンペーンを完遂することができずにいたのに、なんとか一段落させることに成功しました。
 それと引き換えか、絶対合格すると担任に太鼓判を押されていた第一志望の高校に、見事落っこちてしまったのでした。これがカタギの道を踏み外す、修羅の道の始まりだったのは言を俟たないでしょう。
 私がそこまでして『モンスター! モンスター!』に入れあげたのは、エキセントリックなシステムのためだけではありませんでした。『モンスター! モンスター!』で呈示された枠組みを使って、自分が抱え込んでいたファンタジーの理想をキャンペーンにぶち込もうと考えていたのでした。
 各種資料ルールブックとにらめっこし、フレーバーとして記されていた「カザン帝国」、「商業都市コースト」などの文句を頼りに創造を膨らませ、方眼紙に大陸全土の地図を描いたり、オリジナルの設定をつぎつぎと思いのままに書き連ねたりしていって――T&Tのルールブックには多数のモンスター名が列挙されているのだけれども、それらの生体と分布をデータ化するなどして――当時の自分としては最高レベルのキャンペーン・ワールドを組み上げたのでした。
 幸い、モンスター・キャラクターは成長時に上がる能力が格段に大きい。この利点と、先に述べた独自の冒険点獲得システムを生かすべく、私は冒険中に随時、すばらしい行動をとったキャラクターにボーナス冒険点を与えることにしました。そうするとどんどん冒険点が入り、モンスター・キャラクターはめざましい速度で成長していきます。
 そんなわけで、私が主催する『モンスター! モンスター!』は、単に怪獣大決戦的なシナリオではなく、『ホビットの冒険』なり、『ゲド戦記』なり『ファイティング・ファンタジー』なり、『ウィザードリィVI』なり、『幻想世界の住人たち』なり、図書館の奥から発掘してきた海外の絵本なりで味付けされた、極彩色で摩訶不思議なキャンペーンと相成ったのです。
 そのうえ、あえて悪玉をやらせることで、通常のRPGキャンペーンでは描くことのできない視点から、善悪二元論の問い直し、ゲームでは再現困難な〈時〉のあり方など、観念的なテーマをも自分なりに追求しようとしていました。このときの記録は、私家版のファンジンにまとめたことがあるのですが、その内容をかいつまんで紹介したいと思います。

【キャンペーン概説】

・第一回 「ウッズエッジ村襲撃」(ボス:魔女)
 ルールブック付属のシナリオをそのままプレイしたもの。

・第二回「クヌーキー村の惨劇」(ボス:竜殺しの勇者)
 前回のシナリオを参考に別の村をデザインしたもの。やっていることはたいして変わりません。

・第三回「グレートフォレストの血祭り」(ボス:エント)
 エントに代表される「善の」モンスターどもとの戦いを狙ったもの。

・第四回「海賊都市ガル」(ボス:大怪鳥)
 シティー・アドベンチャー。ヴァンパイアのPCの策謀と魔術によって、キメラのPCが荒くれ海賊どもの頭領となるなど、意外な展開が多々ありました。

・第五回「幽霊修道院の秘密」(ボス:シスター・マリア)
 モンスター・パーティでのダンジョン探検。

・第六回「カザンの闘技場ふたたび」(ボス:カーラ・カーン)
 同名ソロアドベンチャーを改良したシナリオ。非道なPCたちは、闘技場で飼われていたショゴスを計略で自滅させたうえ魔法で甦らせて操り、闘技場もろとも呑み込ませたのでした。

・第七回「精鋭 デルヘイヴン魔法騎士団」(ボス:デルヘイヴン魔法騎士団)
 ハンニバルばりの山越えと、攻城戦。

・第八回「グレートフォレスト」(ボス:大蜘蛛)
 『ホビットの冒険』での蜘蛛のとの戦いを参考したウィルダネス・アドベンチャー。

・第九回「王女とゴブリンの陰謀」(ボス:ゴブリンキング)
 ジョージ・マクドナルドの小説『お姫さまとゴブリンの物語』を参考に、ゴブリンの地下王国をデザインしてそこを征服せんとする冒険。

・第十回「妖精王国」
 トマス・カイトリー『フェアリーのおくりもの』(教養文庫)のエピソードを使った、ボス戦のないメルヘン風味の内容。

・第十一回「紺蒼海に眠る宝」(ボス:邪竜ナース)
・第十二回「紺蒼海の伝説」(ボス:バルログ)
 別のセッションで使った海洋冒険シナリオのアレンジで連作。ボスは『ロードス島戦記』と『指輪物語』から引っ張ってきていました。

・第十三回「聖なる王国 聖杯は何処へ」(ボス:ラルス)
 アーサー王伝説をシナリオに応用。このあたりになるともはやPCは大陸屈指の強さを誇るようになっており、あっというまに王国のヘゲモニーを握ってしまいます。ボスの「ラルス」は、以前に私がやっていた『ハイパーT&T』キャンペーンで参加していたPCを勝手にアンデッド(リッチ)化して再登場させたもの。ひどい!

・第十四回「英雄戦争」
『ハイパー・トンネルズ&トロールズ』(教養文庫)の大規模戦闘ルールを簡略化して、大陸規模の大戦争を(戦力比などをつくって)デザインしました。『ロマンシング・サガ3』を参考にしたので、通称「ロマンシングT&T」。

・第十五回「オーバーキル城ふたたび」
 ふたたび城攻め。『指輪物語』の第二部(『二つの塔』)に出てくる馬鍬砦のシーンを意識しました。

・第十六回「明かされた秘密」(ボス:混沌)
 涙、涙の最終回。黒幕だと思われていた魔女レロトラーと結託し、彼女が〈時〉を操ろうとして失敗したため呼び出されてしまった、「混沌」(モンスターレートは150万!)を、軍勢を率いて倒すシナリオ。このときの「混沌」の戦いは、2016年に出た『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』でも密かに言及されています。

・外伝一「ウッズエッジ村ふたたび」
 人数が揃わなかったときに、ルールブックの付属シナリオを、キャラクターを変えてもう一度やってみたもの。まったくと言っていいほど、展開が変わりました。

・外伝二「打倒 赤いローブの僧侶団」
 ソロアドベンチャー『傭兵剣士』を多人数シナリオにコンバートしてプレイしたもの。

・外伝三「トロールストーンの洞窟ふたたび」
 T&T第5版ルールブックの付属シナリオをモンスターでプレイしたもの。

 以上が私の昔のキャンペーンの概要です。こんな具合でよいとなれば、プレイのハードルを少なからず下げられたのではないかと思います(笑)。
 回を重ねるごとに、善悪反転というより、当たり前のようにモンスター・パーティで冒険をする形になってきましたが、最近、英語で発表されている『モンスター! モンスター!』用のソロアドベンチャーやシナリオにも、そういった内容のものが少なくないので、安心させられた心持です。何でしたら、「GMウォーロック」Vol.2に掲載されている「ゾルのモンスター迷宮」(ケン・セント・アンドレ、拙訳)をモンスター・キャラクターで挑んでみてください。
 T&T完全版では『モンスター! モンスター!』が2019年に出版されましたが(グループSNE/書苑新社)、皆さんも、『モンスター! モンスター!』を改めてプレイされてはいかがでしょうか? 「Role&Roll」Vol.175には清松みゆきさんによる『モンスター! モンスター!』用ソロアドベンチャー「リバーボートの恐怖」が掲載されており、「ウォーロック・マガジン」8号には、たまねぎ須永さんの多人数シナリオ「野営地を血祭り」が掲載されてますよ。


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初出:「FT新聞」 No.3473(2022年7月28日号)
posted by AGS at 19:41| コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月18日

『魔術師の島』と私

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『魔術師の島』と私

 岡和田晃
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 『トンネルズ&トロールズ完全版』、1年数ヶ月ぶりの新作『T&Tビギナーズバンドル 魔術師の島』が発売になりました(グループSNE/新紀元社)。2021年2月に『怪奇の国のアリス+怪奇の国!』が出て以来となります。
 とはいえ、『ウィルダネス・エンカウンターズ』(2021年12月)や『マップブックI シティ編』(2022年4月)といった、実質的にはT&T関連作といえるフライング・バッファロー社謹製の汎用サプリメントの日本語版も出ていますし、「GMウォーロック」2号には「ゾルのモンスター迷宮」(ケン・セント・アンドレ)が掲載されたほか、雑誌でのサポートもなされているので、あまり間があいたという感じはしませんね。
 T&T5版日本語版のサポート期間が約4年、ハイパーT&T2版のサポート期間が(『ドラゴンズ'ヘヴン』の単行本が出てからカウントして)約3年半だったことに鑑みると、T&T完全版はすでに6年近くサポートが続いているので、相当なことだと思います。
 ご存知ない方のために紹介しますと、これは『ビギナーズバンドル』と『魔術師の島』の2冊を、シュリンクして合本形式で出版したもの(安田均監修)。分冊1は原書『ビギナーズバンドル』全訳にシナリオ補作(柘植めぐみ訳・著)、リプレイコミック(中山将平)。分冊2は社会思想社現代教養文庫から出ていた『魔術師の島』をT&T完全版対応にして復刻したもの(高山浩訳・著)、それに小説「ドラゴンの巣を越えて」(安田均訳)、小説「畏怖すべきタイタンのタロット」にコラム「魔術師ダークスモークかく語りき」(拙訳)、『魔術師の島』にちなんだ日本オリジナルのソロアドベンチャー〈無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中〉シリーズの最新二作を収めたものとなります(拙作、ちなみに『傭兵剣士』と接続して一大キャンペーン化可能)。
 この『T&Tビギナーズバンドル 魔術師の島』に関しては、すでに「Role&Roll」Vol.213に書き下ろしの関連ソロアドベンチャー「カリスの仮図」(たまねぎ須永・著)が発表されていますが、近刊「GMウォーロック」6号以降でもサポートされていくようですので、楽しみは尽きませんね。
 先述の通り、今回私は『魔術師の島』新版に関わるという僥倖を得たのですが、個人的にも『魔術師の島』は思い入れが深い作品でした。それについて「読みたいですか?」とSNSで訊いたところ、思いのほか多くの方からリクエストをいただいたので、ここにまとめてみたいと思います。すでにSNSで発表したものをまとめ直したもので、サポート要素はありません。あらかじめご諒解をいただけましたら幸いです。

 『魔術師の島』は何度読んだかわからないほど読み込んだシナリオ集で、私は1レベル・2レベルともにGMいたしましたし、オリジナルのシナリオの参考にしたことも多々あります。旧「ウォーロック」誌41号に掲載された「ドラゴンの巣を越えて」は、インターネット黎明期にウェブで読めた「ウォーロック」総目次で存在を知り、上京して国会図書館カードが作れる年になると、すぐに読みにいったものです。
 何がそんなによかったのでしょう? 『魔術師の島』は、私が初めて買った、海外製のRPGシナリオをイラスト含めて完訳している作品でした。それまで、雑誌や文庫で短編のシナリオを読んだことがありましたが、海外作品をまるまる収めたものは初めて読んだのです。つまり「世界標準のRPGシナリオとは何か」という形を教えてくれた師匠みたいな作品だったのです。
 私は1981年生れで、第5版のルールブックが刊行されたときは6歳。第5版直撃世代からは、だいぶ年が下になります。実際、社会思想社現代教養文庫の『魔術師の島』(1990年邦訳初版)を最初に見つけたのは中学2年のとき(1995年)で、今から27年ほど前になります。
 私は北海道の中央部に位置する上富良野というところの出身でしたが、中学生の時には夏休みに旭川の夏期・冬季の講習へ通っていました(列車で片道1時間強)。だらけずペーシング(勉強のペース配分)をするためで、この習慣は今でもライター仕事に役立っています。この講習のクラスで、上富良野から来ているのは私ひとりでした。
 講習の内容は勉強になりましたが、クラスの生徒たちはすでにグループが形成されており、他の生徒とは話さなかった。打ち解けない閉鎖的な雰囲気で、教師たちのほうがオープンでした。しかも彼らは妙に感じが悪く、私が講習で課題の答えを間違えるとクスクス笑います。いじめというほどではなかったものの、負けるものかと敵愾心を燃やしていました。
 そんな折、もっともリラックスできたのが、帰宅前の旭川の書店めぐりをし、見つけた本を読むことでした。めぐりというほど数があるわけではないのですが、3条通り商店街にあった冨貴堂書店本店(現在は閉店)には感動させられました。ボックスのRPGが売っていましたし、地下には文庫シリーズがあり、そこで〈指輪物語〉や〈ラヴクラフト全集〉を買っていたというわけです。当時の冨貴堂書店は「電撃アドベンチャーズ」Vol.11で取材されており、「女性でも入りやすい店」と評されています。
 ところが小遣いがさほどあるわけもなく、文庫を買うのも吟味に吟味を重ねた末。おまけに当時(1995年頃)は、80年代からの翻訳ゲームブック・ブームが終焉しており、社会思想社現代教養文庫の店頭在庫もわずか。前年の来旭時に『傭兵剣士』(邦訳1988年)を買っていて、いよいよT&T5版のルールブックも入手。案の定、これに魅了されたわけです。
 先にハイパーT&Tは改訂版(スニーカーG文庫、1994年)のものを読んでいて、5版はそれよりシステム的には単純だったのですが、ルール的にどうこうというより、とにかく雰囲気が最高でした。ファンタジーとは幻想世界の雰囲気をどう演出するかであり、いかに土俗性を出すか、どのように残余を残すかが大事だと思うのですが、それが非常に上手かったと感動したわけです。独自のT&Tノートに自作データを書き綴ったのはむろんのこと、ひとえに自分で使うため、オリジナルのT&T下敷きやTシャツも作っていました。
 あと教養文庫で冨貴堂の店舗にあったのは、〈ファイティング・ファンタジー〉の『王子の対決』(1987年)や、『ウォーハンマーRPG』初版の友野詳さんによるリプレイ『破壊の剣』(1993年)など。『王子の対決』については、漫画家の中山哲学さんとオンライン・プレイを−−インターバルをはさみつつ−−約一年かけて行い、クライマックスで私が演じる戦士クローヴィスが敗死したのをご覧の方もいらっしゃると思います。『破壊の剣』は軽妙な掛け合いとシリアスなストーリーのギャップが面白い作品で、そのままシナリオとしてGMしたこともあります。まさか自分が「GAME JAPAN」誌で『ウォーハンマーRPG』2版のリプレイを書くことになるとは思いませんでした。
 それからというもの、他のT&Tシリーズもプレイしたかったので、あちこち古本屋を覗くようになります(社会思想社が在庫を断裁せず、注文すれば届くと知るのは、もう少し後のことです)。これが私の古本道(あるいは古本極道?)の始まりでした。
 まずは偶然、ボロボロの『恐怖の街』(邦訳1988年)を50円で入手。これにはコペルニクス的転回ともいうべきショックを受けました。ゲームブックといえばダンジョンが主。なのに本作はオープンフィールドの冒険なのです!
 『恐怖の街』はフォロン島にあるガルの街から始まり、街をうろついても、いきなり船に乗って旅に出てもいい。何をやっても構わない自由度の高さ、摩訶不思議なイベントの数々があります。出入り自由の世界に、これまで自分がゲームブックやコンピュータゲームに感じていた息苦しさが解消されました。「ああ、これだよ、これ」と思ったのです。『魔術師の島』所収の拙作ソロアドベチャー「魔術師の島が呼んでいる」がガルから始まるのは、こうした初期衝動を引き継いでいる面があるのかもしれません。
 『魔術師の島』を見つけたのは、旭川マルカツ(こちらもビルごと解体されるとのこと)で不定期に展開されていた古書市で、なんと二百円! マイクル・ウィーランによるカヴァーアートの神秘的な美しさが頭抜けていました。その他、1970年台後半から80年代のSF・ファンタジー文庫がかなりあり、言うならばここを「学校」として、私はSF・幻想文学の基礎知識を得たのです。
 マルカツで不定期に開催されていた古書市では、他にもマイクル・ウィーラン関係の絵を見た記憶があります。C・J・チェリイ〈色褪せた太陽〉です。チェリイはT&Tとも縁があり、サポート誌「ソーサラー・アプレンティス」初出の小説「最後の塔」を、私は「ナイトランド・クォータリー」Vol.27で訳しておりますが、これも奇縁ですね。
 帰りの電車で繙いた『魔術師の島』は衝撃でした。インナーアートが蠱惑的。そして、見たこともないようなジンド世界やハイラックス大陸が舞台だと説明が出てくる。短い説明が、かえって想像を駆り立てました。魔術師ダークスモークというダンジョンの主も、なんだか得体が知れなくて不気味。ちょうど魔術師ワードナが出てくる『ウィザードリィ』初代と同時期の作品なんですよ。
 当時、私は自前のRPGキャンペーンを開催していました。そのプレイグループの面々が別の人たちを抱き込み、グループは膨れ上がって同好会を学内で作ったほど。とはいえ、ちゃんとGMができる者は少なく、集まったはいいがコンピュータゲーム会やカラオケみたいになることもままあり、それが悩みの種でした。
 私としては、「ちゃんとしたファンタジーを作りたい」からRPGをやっていたからです。しかし、力不足で、なかなかうまくいかない。その時の一つの回答が『魔術師の島』にはハッキリ書かれていたのです。
 『魔術師の島』が優れているのは、ずばり「制約」の美学。曖昧模糊としたファンタジー世界を、それらしく演出するためには、どこをどう「制約」すればいいか。そのセンスが見事なのです。こうした「制約」のコツは、今回の新版に入ったコラム「魔術師ダークスモークかく語りき」で明確に説明されています。このコラムは魔法のアイテムを創造するためのガイドですが、他にも広く応用が利くアプローチになっています。
 広大なジンド世界があると示しつつ、舞台はなかでのダークスモーク島と「制約」を加え、立ち寄れる街は、さらにその中の「名もなき村」だと「制約」を加える。村では自由に動けるものの、金目当てで暴れる行動には「制約」がかかり、街のなかある場所でかけられる不条理な呪いも、世界の危険さを伝えるためと考えれば納得がいきます。
 ダンジョンの罠や呪いそのものは、初見においてはあまりにも凶悪すぎるように思え、笑って読んで終わり実際に使わないものだと思ってましたが、さりとて罠や呪いほどパターン化しやすいものもありません。レパートリーを増やすため、自作のシナリオに少しずつ混ぜて使ってみると、さほど違和感がなく、むしろ知恵を駆使すれば攻略できるレベルだと判明しました。ちなみにディティリオが毒についてのコラムを書いていると知ったのは後のことでしたが(「タクテクス」で訳出されています)、それも腑に落ちます。
 NPCには殺意の高い者が少なからずいますが、それも私のNPCの運用スタイルにもよく見合いました。個性豊かなNPCを演じ分けるのはGMの醍醐味のひとつですが、あまりやすやすと打ち解けられる相手ばかりでも、ありがたみがないからです。個々のキャラクターに説明文がないにも関わらず印象に深く残るワンダリング・ローグ。使い勝手のよさもありますが、中級レベル帯のNPCを出すためのデータ集としても重宝しました。
 原著で第1層しかなく、日本オリジナル第2層を作ったというのにも驚かされました。それだけ聞くと駄作かと早合点しそうになりますが、いざ読んでみるとしっかりしている。しかも、第2層、3層と作りたくなる何かがある。クリエイティヴィティを掻き立てるものとは何なのかを、デザイナーははっきりとわかっているのです(このため、このたび書き下ろしたソロアドベンチャー「名もなき村を越えて」でも、第3層へ行くことができるようにしました)。
 こうして私の中で『魔術師の島』は特権的な作品となったのでした。その後、『RPGシティブックI』(邦訳1994年、新版2021年)や『ストームブリンガー』や『クトゥルフの呼び声(クトゥルフ神話TRPG)』絡みのラリー・ディティリオ作品を入手し、作者が同じだと気づいた時のエウレカ感たるや! 私が『魔術師の島』で感じた楽しさを、少しでも伝えられていれば幸いです。

(初出:「FT新聞」No.3459、2022年7月14日)
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