当日このシナリオを使用するかどうかはまだ秘密ですが、SFをはじめ無類の読書家でありながらゲームについては初心者という渡邊さまの視点から、『エクリプス・フェイズ』のさらなる可能性が垣間見えるように思います。(岡和田晃)
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ある初心者の『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase)体験記
渡邊利道

※当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』(または『イクリプス・フェイズ』)公式サイト(Homepage | Eclipse Phase)で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。※
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というわけで、岡和田晃さんに誘われて、海外RPGゲームの『エクリプス・フェイズ』(Eclipse Phase、以下EP)の、体験会に先駆けたテストプレイに参加した。メンバーは、岡和田さんと私と、Analog Game Studies(アナログ・ゲーム・スタディーズ)でEPの紹介に携わっている蔵原大さん、ゲーマーの畠山さんと中野さんの五人。私以外はみなさんRPG連戦の猛者で、初心者なのでけっこうビビっていたのだがとても親切にいろいろと教えてくれたので、少々調子に乗っちゃったかなあ、というくらい楽しめた。
EPというゲームについては、
「さぁ黄昏の未来世界にようこそ!」
http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html
という紹介記事に詳しいのだが、大雑把には人間が精神と身体に分割され、精神はデータとして複製再生可能、身体は人工改造その他データの容れ物としていくらでも改変可能、というテクノロジーが発達したポストサイバーパンク的な未来社会、いわゆるマザーコンピュータの反乱的な人工知性による大戦争を経由して、中央政府を失い複数の権力と企業体のせめぎあいによる多重化した世界が、物理的に太陽系外宇宙への入口まで発展しているが、どうやらそこには謎の異星人が存在しているらしく(彼らは地球人類に関心がない模様)、また、分散した権力をめぐる闘争が激化している現在はいまだ人々の関心は「外」へは向っていない、という背景設定のもと、さまざまな設定のキャラクターを参加人数分用意し、ゲームマスターの誘導に応じてミッションを実行する、というもの。べつにどういうミッションにしなければならない、という決まりはないらしいのだが、まあ基本的にはエスピオナージュのスタイルがもっとも似つかわしいのではないか、ということだった。
これはテストプレイだったせいなのか、ともかく最初のEPの世界設定の説明や、それに関する参加者のディスカッションが多岐にわたって流動的で非常に面白かった。設定が設定なので、現代社会の政治状況や経済、技術などの話題に触れることも多く、物語的にもたとえばイスラームが大きく要素としてとりこまれているので、自然そういう話にもなり、なかなかきわきわな話題でもあるので、そこらへんの常識のラインのとりかたのかけひきなども、ゲームの前哨戦のようでちょっと面白かった。
本来はキャラクターも参加者自身で作るものらしいのだが、まあ、初心者用にサンプルキャラクターというのが用意されていて、蔵原さんはお手製のキャラがすでにいらっしゃるということでロシアのスナイパーというけっこう頭が悪そうな素敵なキャラ(編注:『Eclipse Phase Introduction Book for 2011 Japanese』に登場したアルアラミル)に、私はマッドサイエンティスト、中野さんは性転換自由自在のジゴロ、畠山さんは探検家というキャラをそれぞれ選んで、ゲーム開始。
金星を舞台に、行方不明になった貴婦人チャタレイを探す、というゲームで、ゲームマスターの提示する状況に合わせて口頭で可能なこと不可能なことを探り、では私はこういう行動を起こします、とメンバーに宣言して骰子を振る、ときにはメンバー間で「こちらはこういう方向で、そちらはそういう方向で」というように協力体制を作ってミッションを進行させていく、といった塩梅で、成程、これは発想力とそれを言語化する能力、そして人間関係をうまく物語にはめ込んでいく微妙な気配を察知する能力が問われるゲームなのだなあと感心した。とくにそれらの行動をまとめて新たな状況を作り出し全体の展望を与えるゲームマスターの仕事はなかなか凄いものがある。物語は最終的にはギャンブル場で、まあ、私がちょっと調子に乗って続けてギャンブルし続けて負けてロシアのスナイパーがいかさまだ!なんだとてめえらやっちまえ!手榴弾でぼーん!というありえないハチャメチャな展開となり、しかも悪の親玉と手打ちで終り、というダークな結末に、私はけっこう満足だった。あれだ、ちょっとアダルト/サイバーパンクなダーティペア的世界。
その後、EPをめぐる期待の大きさがもいろいろ熱く語られて、それを聞いているだけでワクワクさせられるものがあった。もっとも、こういうゲームにハマる人がいるのはよくわかるし、たぶんものすごくうまくいくセッションなどもあって、それは素晴らしい体験になるんだろうなあ、という気もしたが、その分、参加者の気心とか、場の空気とか、そういうことを考えるとやはり初心者にはちょっと敷居が高いのはいかんともしがたいかもしれない。私は、これからも機会があったらちょっと参加してみたいとも思った。あとEPのシェアワールドで創作してみたいという気もする。
ともかく、今回の体験でもっとも驚いたのは、RPGゲームというのは、ともかく「言葉」がすべてだ、という点で、しかもその言葉というのは、あらゆる意味においてすべて「表現」なのである。岡和田さんがゲームに対して抱いている情熱の所以というのが少しだけ理解できるような気がした。
大変面白い体験でした。誘っていただいた岡和田さん、一緒に遊んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。
2012/01/04追記(岡和田晃):渡邊利道さまはその後、「独身者たちの宴 上田早夕里『華竜の宮』論」にて、第7回日本SF評論賞優秀賞を受賞されました。おめでとうございます!
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渡邊利道(わたなべ・としみち)
1969年愛知県生まれ。Eclipse PhaseがRPG初体験のゲーム完全初心者。
1999年頃から本を読む専業主夫としてwebで読書感想文ほかモロモロ公開中。恥をかくのが人生です。
「なんて退屈。」(http://d.hatena.ne.jp/wtnbt/)