2021年10月25日

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『もつれた国のアリス』リプレイ

 2021年10月24日配信の「FT新聞」No.3196に、齊藤(羽生)飛鳥さんによる、T&T小説リプレイvol.11『もつれた国のアリス』編が掲載されています。『怪奇の国!』とのリンクがニクい。『もつれた国のアリス』に出てくるイサルキア王国を知りたい方は、『T&Tがよくわかる本』を。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.11
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いまだに、『怪奇の国!』からジークリットは出られていません。
そこで、『もつれた国のアリス』形式なら、他の冒険ができると思い、彼女にプレイしてもらいました。
ルイス・キャロルの論理学と言葉遊び、T&Tのくせの強いキャラクター達が、短いながらもきれいに凝縮されているミニソロアドベンチャーも、ジークリットでプレイすると、彼女の幸運なんだか幸薄いんだかわからない冒険になるのだとわかりました。
ダイスのせいなのか、はたまたキャラクターに引っ張られるのか。謎です。
何はともあれ、ソロアドベンチャーは奥深くて面白いです^^


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『もつれた国のジークリット』
〜『もつれた国のアリス』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:幸運なる〈怪奇の国〉

私の名前は、〈幸運の〉ジークリット。
エルフの女性。303歳。銀髪金眼褐色肌の戦士。
軽い気持ちで冒険をし始めた〈怪奇の国〉をさ迷い続けて、幾星霜。
最近では、もともとの二つ名〈幸薄き〉に戻そうか、まじめに検討中。
今日もガンマンとの決闘に勝利したところで、いつもとは違う出来事が起きた。
「ああ、忙しい忙しい! このままだと遅刻しちゃいます! 」
何と、ガンマンが消えた後を、白ウサギが走っていくではないか!
もしかしたら、あの白ウサギを追いかけていけば、この怪奇の国から出られるかも! 
全速力で私が白ウサギを追いかけていくと、魔術師たちが論争しているところへ出くわしてしまった! 
片方は、「壮麗なる」マクシミリアン(通称マックス)だ。
この〈怪奇の国〉の創設者なんだから、出口を知っていてもおかしくない! 
私は、マクシミリアンたちの会話に口をはさんだ。


1:幸運なる会話

「ごきげんよう。どうなさいまして? 」
〈怪奇の国〉から出る方法を教えてもらうため、私はお行儀よく挨拶した。
と言っても、いくらお行儀よく挨拶しても面接官が採用してくれるかどうかは全然別の話なんだよね……と、どこからともなく私の脳内へ流れこんでくる異世界の知識を押しやって、私はマクシミリアンたちの話に耳を傾けた。
「ここな魔術師ウォーケンから、厄介な相談を持ち掛けられてな。互いにそっくりな『約定の神』と『解放の神』を、できるだけ短い質問で見分けたいという話じゃ。『約定の神』は常に本当のことを言い、『解放の神』は常に嘘をつく」
うわ、本当に厄介だ!
ここは、知性度と幸運度で1レベルのSRをやってみるとしますかね。
ヘイ、ダイス!
知性度成功!
幸運度失敗! 
なんてことでしょう! 
そういうわけで、私にひらめいたのは、こんな質問だった。


2:幸運なる質問

「簡単でしてよ。あなたは嘘つきかと、訊けばいいと思いまーす。そうすれば……て、だめだ。どちらも、“いいえ”としか答えないわね」
大見栄切ったけれど、だめなものはだめだった。
マクシミリアンが、あからさまにため息をついた。
ちょっとちょっと、そこまで露骨にがっかりしないでくれる?
せめて、助けになろうとした心意気くらい評価してよね! 
あーぁ、こうもうまくいかないとは、私はやっぱり〈幸薄き〉ジークリットなのかしら……。


3:幸運なる論争

私が落ちこんでいる間、マックスと魔術師ウォーケンの論争は、だんだんエスカレートしていった。
そう表現すれば聞こえはいいけれど、実際には呪文という名の肉体言語に走り出しちゃったわよ、こいつら!
「くらえ、《炎の》……」
「遅い! くらえ、《呪い》! 」
ウォーケンの呪いをくらったマックスは、その場でぐるぐる円を描いて回り始めた!
まずい!
マックスがいかれたら、私が〈怪奇の国〉から出られる方法がわからなくなるじゃないの! 
慌てふためく私をよそに、魔術師ウォーケンは自分の世界に浸りきっていた。
「神々の話はだいたいわかった、あとは愛しいリリア姫を迎えにイサルキア王国へ赴くのみ! 」
リリア姫、誰? 
いつ、『約定の神』と『解放の神』を見分ける話から、そんなラブな話になっていたの?
そんな疑問を声に出す暇もなく、魔術師ウォーケンは、マクシミリアンの傍らにある〈怪奇の国〉へと消えていった……て、あれ?
私、〈怪奇の国〉から出られているじゃない! 
……と、喜んだそばから、マクシミリアンがぶつぶつとすっごく不吉なことをつぶやき始めた。
これは、危険な予感!
速度で1レベルのSRだけど、速度2倍にしてくれる魔法のブーツを装備しているおかげで、何とか成功!
私は全速力で駆け出した!


4:幸運なる結末

地面を抉り、蹴飛ばすように走っているうちに、急に足が空を切った。
続いて、浮遊感。
いやいや、「感」どころか浮遊しているのそのものだわ!
どうやら、私は走っているうちに、カトラス・スフィンクスに掴まれ、大空へファラウェイしてしまったようだ。
カトラス・スフィンクスは、チェシャ猫のように笑うと、何やら私へ語りかけてきた。
言葉遊びを駆使したその語り口調に、私は次第にまぶたが重くなってきて……。
……。
……。
……。
目が覚めると、そこは科学実験装置の置かれた部屋だった。
私の片手には、空のビーカーが握られている。
ビーカーからは、酒の匂いがする。
どうやら、ビーカーの中身の液体は何か確かめるために飲んで、酔いつぶれてしまったらしい。
すると、今までのことはすべて夢?
冒険点300をゲットできたのはいいとして、私はいつになったら〈怪奇の国〉から出られるのォォーッ!?

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
 ミニソロアドベンチャー『もつれた国のアリス』
 著:岡和田晃
 発行 : グループSNE/新紀元社
 2021/4/16 - 2,420円


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ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m

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2021年10月09日

Peaks of Phantasyシナリオ『英雄の祭典』


 2021年10月3日配信の「FT新聞」No.3175の日曜ゲームブックに、作:倉野一、監修:岡和田晃/水波流「『Peaks of Phantasy』シナリオ 英雄の祭典」が全文掲載されました。

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Peaks of Phantasyシナリオ 『英雄の祭典』

作:倉野 一
監修:岡和田晃/水波流
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【本シナリオは岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2021年度春学期に開講したゲームデザイン講義で提出された課題レポート(創作)の優秀作を、ほぼそのままの形で「FT新聞」で配信するものです。講義内でプレイした『Peaks of Phantasy(ピークス・オブ・ファンタジー)』のシステムを使用しています。

○はじめに(岡和田晃)

 本作は2021年5月21日配信の「FT新聞」No.3035に掲載された「Peaks of Phantasy(ピークス・オブ・ファンタジー)のシナリオ「人形たちの意思」(作:角霧きのこ、監修:岡和田晃/水波流)のオマージュとなります。オマージュ元シナリオの都合上(とネタバレ防止のため)、「人形たちの意思」を先にプレイしておくことを推奨します。

・「人形たちの意思」(再録)
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/TheWillofTheDolls.pdf

 本作は1人用のゲームブック形式のソロアドベンチャーとしてプレイが可能ですが、その後はぜひ、1 on 1 形式のRPGとしてプレイしてみてください。
 『ピークス・オブ・ファンタジー』とは伏見健二氏がFuyuki名義でデザインしたRPGで、グランペールから2003年に発売されました。ルールをお持ちの方は、そちらを使用してプレイが可能ですが、お持ちでない方も、以下に公開されているオープンソースRPG『2DR』を使って遊ぶことが可能です。

 http://gg99.web.fc2.com/2drbasic001.txt
 https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html

プレイの際は、プレイヤーがロールした6の出目をEP(エフェクトポイント)として記録するほか、敵の攻撃のダイス目で6を振った数をDP(デスシャドウポイント)として記録しておいてください。『ピークス・オブ・ファンタジー』のルールに従い、それぞれ適宜使用することもできます(DPのルールは、『2DR』にはありませんので、そちらでプレイされている方は、シナリオの指示にしたがってください。
余談ですが、伏見健二氏の最新の仕事として、岡和田晃編『再着装の記憶 〈エクリプス・フェイズ〉アンソロジー』(アトリエサード、2021年)に収められた小説「プロティノス=ラヴ」があり、ご興味のある方はぜひ触れてみてください。


◯オープニング
人形師ジルベールの目論見が破れる、数か月前――。
1人のワンダラー(放浪者に身をやつした英雄、あるいは、はした金【ワン・ダラー】のために殺しに手を染める者とも呼ばれる)の来訪とともに、英雄の街・プロムセイオスに危機が訪れようとしていた。
所持金と武具以外のキャラクター作成が終わり次第、1へすすめ。

↓続きはこちら
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2021年10月08日

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』リプレイ


 T&T小説リプレイvol.10『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』が、2021年9月26日配信の「FT新聞 」No.3168に掲載。お楽しみください。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.10
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コッロールの冒険は、いつも過酷です。
コッロールを舞台にした『ヴァンパイアの地下道』をプレイした時に見送ったキャラクターの数が、いまだに最多です。
でも、ミニソロアドベンチャーだから、大丈夫☆
……と、ハッピーエンドを目指し、『ヴァンパイアの地下道』で唯一生還したキャラクターのディーバでプレイしたら、コッロールはコッロールだと思い知らされたのでした。
恐るべし、廃都コッロール!!


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『怜悧なるディーバの冒険』
〜『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:怜悧なる依頼

ボクの名前は、〈怜悧なる〉ディーバ。
職業は、魔術師。
『ボク』と言っているけど、18歳の金髪碧眼の乙女だよ。
さて、ボクは今、友人である癒し手ブリッタニーの依頼を受けているところだ。
「廃都コッロールへ冒険しに行ったきり帰って来ない、夫のスヴェンを探してほしいの。こんなことを頼めるのは、あなたしかいないわ」
かつてボクが、カザンの魔術師組合に所属していた時に引き受けたコッロールへの冒険は、それなりに人口に膾炙していたらしい。
まっ、コッロールへ冒険しに行って、帰ってきた者なんてほとんどいないから、それも当然か。
噂によると、ボク以外にコッロールから生きて帰ってきた者と言えば、人間の女戦士と男の岩悪魔の二人組くらいしか、いないらしいしね。
「わかった。引き受けよう。それで、君の夫は、具体的にはコッロールのどこへ冒険しに行くと、言っていたのかな?」
「コッロール南部にある廃城へ行くと言い残していったわ」
「なるほどね。わかった。では、今すぐ行ってくるよ」
ボクがドアを開けて外へ出ようとすると、ブリッタニーがひどく驚く。
「こんな夜中にコッロールへ行くなんて危険じゃない、ディーバ?」
「何を言っているのさ。大事な友達の夫を助けに行くんだ。一秒でも早く行動しなきゃね」
ボクは、心配そうなブリッタニーをなだめ、一路コッロールへと向かった。


1:怜悧なる廃城

廃都コッロール南部にある廃城。
そこに到着した時には、夜もすっかり更けていた。
でも、それがどうした? 
ボクは、廃城の中へ突入した。
城壁の中へ入ると、薄暗い。仕方なく《猫目》の呪文を使う。
すると、人影が見えた。
「スヴェン? ボクだよ。君の妻のブリッタニーの友人で、魔術師の〈怜悧なる〉ディーバだよ」
ところが、呼びかけた人影は、暗灰色の肌と長く突き出した耳、赤い瞳、長い白髪をした、身長3mはある長身痩躯の美丈夫だった。
筋骨隆々な小男で、ブリッタニーにとってだけは美男子に見えているスヴェンとは、似ても似つかない別人だ!
むしろ、どうやって人間違えできたんだ、さっきのボク!  
「余に声をかけるは、誰ぞ? 余が宇宙より飛来せしヴァンパイア・ロードのグローギス・カーン・マキシムスと知ってのことか」
……宇宙にも、ヴァンパイア・ロードっていたんだ? 
いやいや、そんなことにびっくりしている暇があるなら、確実にこいつを仕留めよう! 
「! エラクモデレコ」
ボクは、4レベルの《これでもくらえ!》をかけた。


2:怜悧なる決着

ボクがかけた《これでもくらえ!》は、まっすぐにマキシムスへと襲いかかる。
「ふん、児戯に等しいわ」
マキシムスが言うなり、彼の持っている杖が輝き出す。
「[異星のカンフー]第一の奥義、暗夜彷徨脚! 」
マキシムスは、杖を軸にして、体を宙に浮かせると、そのまま勢いよく回転し、両足でボクの呪文を蹴り飛ばしてしまった! 
「呪文を蹴り飛ばすなんて、そんなのあり!? 」
生まれて初めて見る反撃方法に、ボクは愕然とするしかなかった。
「辺境の星の民草よ。余に歯向かった勇気に敬意を表し、褒美をくれてやろう」
勝ち誇ったマキシムスは、そう言って、まだ愕然として棒立ちになっているボクへ近づくと、首筋に牙を立てた……。
「うぇえ、まずい! 何だ、貴様。とうにヴァンパイアではないか! 」
マキシムスは、思い切り顔をしかめる。
「名乗り遅れたね。ボクは、偉大なるソーサラー・ヴァンパイア・キングのヴァクシュミ様の下僕の一人、《怜悧なる》ディーバ。わけあって、友人の夫を探しに来たんだ」
マキシムスは、不機嫌そうにマントの裾で口元を拭く。
「その方の友人の夫? それと思しき輩なら、つい先日献上品として異次元へ転送したぞ。二度とこの星へ帰ることは叶わぬであろうよ」
「えぇっ!? まいったな。ブリッタニーへ、どう伝えればいいか……」
怜悧なるボクだけど、友人へつらい報告をするのはさすがに悩む。
「民草も、このコッロールの地に斃れたことにして、伝えねばよいのではないか? 人の一生は短い。数十年ほど棺で休めば、目覚めた時にはその友人はとうに息絶えているから、民草が気まずい思いはすまい」
ボクがヴァンパイアだとわかると、マキシムスは意外にも親身なアドバイスをくれた。
「いいね! そうするよ!」
そういうわけで、ボクはヴァクシュミ様から与えられた石室へと戻り、石棺の中でひと眠りすることにした。
夢の中で、ブリッタニーが夫も友人も喪ってしまったと嘆いていて、ちょっぴり胸が痛んだけど、目が覚めたらスッキリしていた。
つくづく、ボクもヴァンパイアらしくなったものだ。
さーて、太陽に注意しつつ、数十年ぶりの地上を楽しむとしよう!

(完)


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齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
 ミニソロアドベンチャー『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』
 著:岡和田晃
 発行 : グループSNE/新紀元社
 2021/4/16 - 2,420円

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2021年09月15日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「“ほうき拳”をめぐる冒険」小説リプレイ

 8月22日配信の「FT新聞」No.3133で、齊藤(羽生)飛鳥さんが、拙作「“ほうき拳”をめぐる冒険(アヴァンチュール)」(「GMウォーロック」創刊号所収)のリプレイ小説が掲載されました。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.9
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『“ほうき拳”をめぐる冒険』は、『傭兵剣士』と世界観を共有していますし、そのまま『傭兵剣士』に進めるようになっている優れものです。
これは、今まで書いたことのない、翠蓮とシックス・パックの馴れ初めリプレイができると、ノリノリでプレイしました^^
どんなシチュエーションであろうと、どんなキャラクターであろうと、相棒として打ち解ける姿しか思いつかないシックス・パックの個性は、やはり素晴らしいです。


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『屈強なる翠蓮の冒険エピソード0』
〜『“ほうき拳”をめぐる冒険』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:屈強なる思い出話

あたしの名前は、〈屈強なる〉翠蓮。
黒髪色白ロリ体形がポイント高い女戦士ヨ。
相棒は、飲んだくれ岩悪魔のシックス・パック。
今日は、こいつとどうやって知り合ったか語るネ。


1:屈強なる傭兵剣士

当時1レベルの戦士だったあたしは、青蛙亭史上最大の無銭飲食をやらかした後、〈黒のモンゴー〉なる魔術師に雇われたヨ。
モンゴーいわく、元の持ち主の〈赤の魔術師〉が、塔のどこかに、きわめて重要な魔法のアイテムを隠蔽しているから、回収してきてほしいとのことネ。
「回収するのはいいけど、地図はないのかヨ」
「ない。地図を作るよう雇った戦士が、行方不明でな」
地図はない。
でも、魔法のアイテムはほしい。
こいつ、とんでもないドケチの欲ばりじじいネ。
でも、一文無しのあたしには、こいつに雇われて金を稼ぐほか、選択肢はなし。
雇用関係だけだから、人柄は二の次、三の次にしてやるヨ。
「では、行ってくるサ」
あたしは下り階段を進むと、勢いよく扉を開けて冒険を開始したネ。


2:屈強なる新任傭われ剣士

勢いよく扉を開けると、「グフッ」とガマガエルを踏み潰したような音がしたヨ。
よく見たら、扉に前任の雇われ剣士が目を回して倒れているネ!
「こっちが襲う前に獲物が扉にはねられて気絶とか、前代未聞なんだけど……」
怪物が、形容しがたい表情で、床にのびているドワーフのおっさん戦士と、ロリロリしくかわいいあたしを見比べ始めたヨ。
「隙あり!」
あたしは、扉の先にいた、長い腕を持つ2メートル半はある怪物ほうき拳こと“ナックル・ダスター”に襲いかかったネ!
不意打ちのおかげで、“ほうき拳”へそれなりに攻撃を与えられたと思ったけど、なかなか倒れてくれないヨ、こいつ!
その時だったサ。
あいつが、あたしの前に姿を現したのは……。


3:屈強なる相棒

瘤のある頭。
小脇に抱えたビヤ樽。
“ほうき拳”の背後から、出てきたこいつこそ、のちにあたしの冒険の相棒になる岩悪魔のシックス・パックだったネ。
初対面だったけど、すでに酔っぱらっていやがったヨ。
その証拠に酒臭い息を吐き散らしながら、シックス・パックは“ほうき拳”を攻撃し始めたサ。
あたしとシックス・パックによる二人がかりの攻撃に、“ほうき拳”は耐えきれなくなっているネ。
それをいいことに、あたしは“ほうき拳”にとどめの一撃を繰り出したヨ。
「ふぅ、やっと倒せたぜ。そうだ、名乗り遅れたな。俺様の名前は、シックス・パック。よろしくな!」
「あたしは、翠蓮ヨ。よろしく」
「よろしくな。ところでよぉ、翠蓮。実は、前に契約を結んだ相棒はあの通りとんずらこいちまったし、その前の相棒は奴隷としてて売り飛ばされちまって、俺様、一人ぼっちなんだ。一緒に冒険をしねえか?」
あたしは、考えたネ。
酒臭い息を漂わせるアル中岩悪魔は、はっきり言って一緒に日常生活を送りたい相手ではない。
でも、1レベルのまだまだひよこな冒険者のあたしでは、この先、無事に冒険を達成できるか、かなり怪しい。
利用できるものは、何でも利用するに限るヨ。
あたしは、決心した。
「いいネ。では、今日からおまえはあたしの仲間サ」
「決まりだ! これは、契約を結んだ祝い酒だ。とっておきだぜ」
シックス・パックは、ポーションにビールを混ぜて、あたしにくれた。
「あたし、まだ18歳ヨ」
「細けえことは気にするな。さあ、飲め!」
シックス・パックは、強引にあたしに酒を飲ませてきた!
「何かクラクラするネ……」
酒が強すぎたせいで、あたしは自分と世界の境界があやふやになってきたヨ。
まるで、自分が世界に溶けこみ、無になっていくような感覚がしてきた。
「俺様の特製酒で、存在感が薄くなったようだな。次の戦闘の時には、敵の最初の攻撃目標からはずれるかもな!」
「『かもな!』じゃねえヨ、飲んだくれ岩悪魔。もし、特製酒で変な効果が出たら、どうしてくれる気サ!?」
腹を割ったトークで、早く打ち解けようと、あたしは赤裸々な心情をシックス・パックに明かしたネ。
「その時は、新しい相棒と契約したまでの話だ!」
「そうかそうか。あたしもてめえがくたばった暁には、新しい岩悪魔と契約するヨ」
こうしてお互い腹を割ったトークをしたおかげで、相手の本性がすっかりわかったあたしらは、二人で始める冒険の第一歩として、来た反対側の扉を抜けたネ。


4:屈強なる誘導

扉を抜けると、岩壁の部屋に出たヨ。
そこにも扉が四方に付いていて、次の部屋に行けるようになっていた。
「西へ行こうぜ、相棒」
「は、何でサ?」
「いいから、西の扉にしようぜ! さあ、西へ行こう! レッツ西だ! 西西西!」
「あーあー、わかったネ。西へ行ってやるヨ」
あたしは、シックス・パックの誘導に従って、西の扉を開けたネ。
「ここが、さっきの“ほうき拳”がいた部屋だ。あのガタイを見て、ビビった連れがとんずらしたってわけ。記念すべき12人目の相棒だったんだけどなぁ」
「おまえ、今までどんだけ相棒を見殺しにしてきたヨ?」
「うお、何だよ、あの北に置かれている木箱! エルフ臭くてたまらねえぜ!」
シックス・パックは、あたしの質問をはぐらかし、木箱から離れていく。
まったく、しょうもない奴ネ。
でも、ある意味、わかりやすいから、いいとするヨ。
あたしが、何気なく南側の壁に触れると、妙な感じがしたネ。
よく見たら、巧妙にアルコーヴが隠されていたヨ!
中には、“ほうき拳”を象っためのうの像が安置されているネ!
「けっ、なんだなんだ。不細工な野郎をモデルにするなんて、せっかくのめのうがかわいそうだぜ」
謎の嫉妬をするシックス・パックを放っておいて、あたしは“ほうき拳”の像に触ってみた。
途端に、重々しい音と共に像が動き出したヨ!
「なんてことをしてくれやがったんだよ、翠蓮! こうなったら、戦うしかねえな!」
「おまえが意外と割り切る性格でよかったネ!」
奴からの最初の攻撃は、存在感が薄くなっているおかげで食らわなくてすんでいるから、助かるヨ。
あたしらは、“ほうき拳”の像と戦闘を始めた。


5:屈強なる幕開け

結論から言うと、シックス・パックを仲間にしたあたしの判断は正しかったネ。
1レベルのあたし一人では到底かなわなかった敵も、こいつがいるおかげで、倒せたヨ!
“ほうき拳”の像は砕け、中から〈赤の魔術師〉の紋章の付いたナックル・ダスター(拳鍔)が飛び出してきたネ。
「これがモンゴーが探して求めていた魔法のアイテム? ずいぶん戦士向きの武器サ」
「おいおい、魔法のアイテムが一つだなんて、誰が決めたんだよ? もっと探せば、もっといい魔法のアイテムをゲットできるし、お宝だって見つけられるぜ。さあ、冒険を続けようぜ!」
「そうネ! じゃんじゃん魔法のアイテムもお宝もゲットしていくヨ!」
モンゴーのもとへ魔法のアイテムを届けるのはやめ、あたしはシックス・パックとさらに冒険を続けることにしたネ。
まさかその後、酒蔵に迷いこみ、酔いつぶれたせいで所持金たった1gpになる運命が待っているとも知れずに……。

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
 ミニソロアドベンチャー『“ほうき拳”をめぐる冒険』
 著:岡和田晃
 発行 : グループSNE/新紀元社
 2021/4/16 - 2,420円

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編集: 水波流、緒方直人
発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)
posted by AGS at 06:22| 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月15日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「ヴァンパイアの地下堂」小説リプレイ


 本日2021年7月11日配信の「FT新聞」No.3091に、齊藤(羽生)飛鳥さんによる、『トンネルズ&トロールズ』完全版の小説リプレイ、「ヴァンパイアの地下堂」(拙訳、『コッロールの恐怖』所収)編が掲載されています。高レベル用ホラー・アドベンチャーをご堪能あれ!

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児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.8
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『ヴァンパイアの地下堂』は、個人記録過去最高で、プレイヤーキャラが死んだソロアドベンチャーです。
何人ものプレイヤーキャラが、様々な最期を遂げていきました。
そんな中、唯一生き残ったのが、今回の主役のディーバです。
その喜びにより、テンションが上がったため、終盤から私の好きな漫画の引用ネタが増えます。
それでは、BGMに『VOODOO KINGDOM』をイメージしつつ、ご笑覧くださいませ^^

※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『怜悧なるディーバのヴァンパイアの地下堂』
〜『ヴァンパイアの地下堂』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:怜悧なる自己紹介

ボクの名前は、〈怜悧なる〉ディーバ。
『ボク』と言っているけど、本当は18歳の金髪碧眼の人間の乙女だからね。
身長158cm、体重はヒ・ミ・ツ!!
職業は、魔術師。レベルは12。
この年齢で、レベル12の魔術師になったのと、知性度68から、つけられた二つ名は〈怜悧なる〉だ。
魔術師組合の同期で、風の噂では奴隷になった落ちこぼれ……失礼、変わり種のエルフの魔術師の幸薄きジークリットが、いまだにレベル一桁代をさまよっているのとは、大違いだ。
さて、そんな優秀な魔術師のボクだから、カザンの魔術師組合からの危険極まりない依頼を受けたのも、当たり前と言えば当たり前なことだった。
「高貴なる者の務め」ならぬ「優秀なる者の務め」は果たさないと、ボクに才能をくれた神様から天罰を食らってしまうからね!


1:怜悧なる旅立ち

主任魔術師のメンスラー様から、これから行くコッロールのヴァクシュミの地下堂の説明と、案内人となる召使いの岩トロールを紹介された。
岩トロールは、岩悪魔みたいなものだろうとたかをくくっていたら、6メートルだって!?
想像していたよりも3倍大きくて、びっくりだよ!
名前は、トラン=トール=ホム。
石のクリーチャーだから、対ヴァンパイアやアンデッドの仲間として、最適だ。
ラバ呼ばわりも護衛呼ばわりも嫌うことを、メンスラー様はさも悪いことのように言ったが、トランは単に自分を正しく評価されたがっているだけじゃないのかな?
異種族差別発言を平然とするとは、メンスラー様は意地が悪いお人だ。
だから、怜悧なるディーバちゃんとしては、差別などせず、岩トロールは酒場でくだをまいている冒険者くずれのおっさんを相手にするように、おだてて利用するのが一番だと思うんだよね。
「君のようなたくましい戦士を旅の相棒にできるとは、ボクはついているよ! 魔法攻撃はボクにまかせて、君は思う存分実力を発揮するといいよ!」
と、挨拶の後に、軽くリップサービスしたら、トランはため口から敬語に早変わり!
ボクのことを「ディーバ様」と呼ぶまでになった!
おかげで、旅の打ち合わせはスムーズに進んだ。
さあ、いよいよ廃都コッロールの冒険が始まるぞ!
ボクとトランは、カザンの魔術師組合事務所を後にした。


2:怜悧なる市内探索

廃都コッロール。
そこは、カザン帝国の地下一帯に広がるヴァンパイアとアンデッド達の都。
その郊外に、ボクとトランがたどり着いたのは、カザン帝国魔術師組合事務所を後にして10日後のことだった。
生者の時が終わりに近づき、アンデッド達死者の時が始まりつつある午後の日差しが、やがて訪れる夜の闇の危険をボクらに告げていた。
「これからどうしますだ? 日のあるうちにヴァンパイアの地下堂へ入りますだか? それとも、日没になってから入りますだか?」
トランは、もっともな質問をする。
ボクの答えは、最初から決まっていた。
「無駄な戦闘を避けて目的を達成したいから、アンデッド達が出て来ない日のあるうちに地下堂の入り口を目指すよ」
トランは、ボクの決定に賛成したので、ボクらはコッロール市内を歩いた。
1000体ものスケルトン・マンが暮らしているので、いつ奴らに襲われるかもしれない。
しかし、今は日中だし、ボクの傍らには6メートルもあるトランがいるから、襲いかかって来る心配はない。
ボクは、姿隠しや幻覚の呪文を使わず、市内を歩いた。
怜悧なるボクの読みは当たり、スケルトン達はただの1人として、襲いかかって来なかった。
おかげで、ボクらは地下堂への秘密の入口にまで無事にやって来ることができた。


3:怜悧なる決断

地下堂の入口である廃墟の壁に近づくと、邪悪なオーラが強烈に放たれていた。
この中に入れば、さらにこのオーラが増すのは容易に見当がついた。
それはつまり、ボクの生命や存在の危機を意味している。
メンスラー様が、トランを紹介してくれて、本当によかった。
こんなに便利な召使いはめったにいない。
……と、感心をしたそばから、トランがとんでもない告白をしてきた。
なんと、彼には入口が小さすぎるため、地下堂には入れないと言うのだ!
魔法で小さくすれば入れると言うあたり、冒険を続ける意思があるのがわかって安心だが、さてどうしたものか。
ちょっと考えてから、ボクは《小さいことはいいことだ》の呪文を思い出した。
この呪文を習得した時、何の役に立つのか、首をかしげたものだが、こういう場合に役立つものなんだね。ちゃんと修行しておいてよかったよ。
「ダトコイイハトコイサイチ……」
呪文を唱え終えると、たちまちトランは元のサイズから4分の1サイズに小さくなる。
「これでよし! さあ、出発だよ、トラン!」
ボクは、先にトランを地下堂の中に行かせると、サンストーンを起動させてから、地下堂のダンジョンへと入った。


4:怜悧なる探索開始

幻の扉を通過した途端、ボクは胸に破壊的な魔力の一撃を食らった!
しまった、怜悧なるボクともあろうレベル12の魔術師が油断していた!
耐久度が10%減るのを感じたけど、魔力度の消費は極力避けたいから、我慢してこのまま探索は継続だ。
ボクは、気を取り直すと、曲がりくねった階段を下り始める。
曲がりくねって歪んだデザインのせいで、見通しがきかない。
こういう場所は、モンスターに遭遇しやすい。
ボクが予想したそばから、階段を上がってきたレッサー・ヴァンパイアと、ばったり鉢合わせしてしまった。
「ギャー……と思ったら、新鮮な血だ! やったー!」
驚いたそばから喜ぶとは、なかなか忙しい奴だ。
出現を予想していた怜悧なるボクは、勇ましく先陣を切るトランの邪魔にならないよう、落ち着いて場所を譲った。
たちまち、トランとレッサー・ヴァンパイアとの戦闘が始まる。
曲がりくねった階段は、身動きが取りにくい。
援護の呪文を放つ時は、トランに当てないように気をつけないとね。
トランは、レッサー・ヴァンパイアをいい具合に打ちのめしてくれた。
おかげで、ボクのしたことと言えば、とどめの魔法を食らわせたのと、動かなくなったこいつの体をあさったことだけ。
ボクの冒険の目的は、この地下堂で少しでも魔術師組合の研究に役立つアイテムを手に入れることだから、罪悪感はない。
レッサー・ヴァンパイアの体をあさると、アミュレットが出てきた。
正直、安物っぽいけど、メンスラー様なら、魔術的価値を見出すかもしれないから、念のため回収だ。
ボクは、レッサー・ヴァンパイアをあんなに打ちのめすとは素晴らしい戦士だと、トランをほめちぎりながら、階段を下り続けた。


5:怜悧なる分かれ道

階段を下りきると、堅い岩を削ってできた狭い回廊に出た。
その先にはトンネルがあり、道が左右に分かれていた。
危なっかしい足元の道で、呪文《そこにあり》で調べてみようかという考えが浮かんだけど、さっきの戦いで魔法を使ったばかりだから、魔力の消耗はできるだけ避けたい。
せっかくトランがいることだし、先に歩かせて危険かどうか様子見をすればいい。
「どちらの道へ行きますだ?」
「左へ進むよ。さあ、行った行った」
ボクは、トランを先頭に左の道を進む。
道は、ちょっと歩いてすぐに右に曲がり、また左右分かれ道になっていた。
迷った時には、左へ進むのがいいと、昔読んだ本に書いてあったことを覚えている怜悧なるボクは、また左の道を選んだ。
今度は6メートルほど歩いたところで、右に曲がる。
左の道を選ぶたびに、必ず道が右に曲がっている法則でもあるのかな?
そんなことを考えながら、曲がり角にさしかかった時だ。
ボクは左手に古い扉を、曲がり角の先に大きな部屋があるのを見つけた。
今まで左の法則で進んできたボクだけど、扉は鍵がかかっている可能性がある。
だけど、これまでの探索でボクらは鍵を入手してない。だから、扉に入ろうとしても開けられないかもしれない。
それよりも、扉がない大きな部屋を探索しに行った方が効率がいい。
怜悧なるディーバちゃんの辞書には『バカの一つ覚え』はないのだ!
ボクとトランは、扉の前を通りすぎて、大きな部屋へと向かった。


6:怜悧なる選択

大きな部屋は、一言で言うと、まがまがしい部屋だった。
天井は蜘蛛の巣で覆われているし、壁には背筋が凍りつくような、おぞましいデス・マスクがたくさんかけられている。
ボクの《魔力感知》と本能が、ここにある物も、この場所も、とてつもなく危険だと告げている。
はっきり言って、このデス・マスクはすべて呪われているよ!
部屋の中を見渡すと、ボクらが入って来たのとは違う扉が遠くの角にひっそりとあるのを見つけた。
扉には、【死せる者のみがこの扉を通るべし】と書いてあった。
扉を開ける前から、強烈なまでにまがまがしくも強大な魔力を感じた。
でも、それだけ、ここには魔術師組合の研究に役立つほど貴重な物があるとも言える。
ボクは、迷わず部屋に入った。
やっぱり、すさまじい魔力だ!
それに、思ったとおり、たくさんデス・マスクがある!
なんて、呪いに満ち満ちた部屋なんだろう。
トランに至っては、部屋に入ってすぐにダッシュで部屋の外に出たよ!
「ディーバ様。自分は、廊下に避難……でねえ、見張りをしていますだ。あの……頼むから、その部屋のマスクには何もしねえで……」
「お言葉だが、トラン。ボクの任務は、こういう物を持ち帰ることなんだよ」
ボクは、トランの助言を受け流し、部屋の壁にかけられたたくさんのデス・マスクの中から、金とトルコ石のルーンで彩られたマスクを見た。
これこそ、メンスラー様が持ち帰ってきてほしいと頼んだものだ。
魔力の弱いマスクと、強いマスクがあるけど、どちらにしようかな?
「そんなガラクタはうっちゃっておいて、外に出ておいでなせえ!」
考えるボクの背中に、トランの必死の叫びが聞こえてくる。
トランには悪いが、ボクにとって大事なのは、メンスラー様からの依頼であり、ボクの使命感だ。
二度とここへ来るつもりはないから、思いきって魔力の強いマスクを持ち帰ろう。
ボクは、魔力の強いマスクを手に取った。


7:怜悧なる衝動

魔力の強いマスクを、こうして手に取ってつくづくながめるに、気味の悪いマスクだ。
ヴァンパイア……仮面……うっ、頭痛が……!
なぜだろう?
人間をやめると、声高らかに宣言しながらマスクをかぶりたい衝動に猛烈に駆られる!
こんな見るからに呪いがかかっているマスクなんてかぶったら、命を落としかねないと、怜悧なるボクの頭は理解しているのに、猛烈にマスクをかぶりたい!
仮面なしじゃNO LIFEな気分だ!
部屋の外で、トランがおびえて早く出て来いと言っているのが聞こえるけど、今はそれどころではない。
「俺は人間をやめるぞー!」
気がつけば、ボクは声高らかにそう宣言して、マスクをかぶっていた。
でも、かぶったそばから、早く脱がなくてはという思いにかられた。
ボクは、必死になってマスクをかぶり続けたい衝動に打ち勝ち、やっとの思いでマスクを顔から引っぺがした。
危なかった……あともう少しマスクをはずすのが遅かったら、どうなっていたことやら。
ボクが額の冷や汗をぬぐったところへ、部屋の中のまがまがしくも邪悪なオーラがいっそう強まるのを感じた。
死そのものが、ボクの背後にたたずんだら、こんな気分かな……。
トランは、恐怖のあまり、全速力で逃げていく。
怜悧なるディーバちゃんよりも、怜悧なる判断だ。
名ばかりの怜悧なるディーバちゃんは、逃げられず、背後を振り向くほかない状況に陥っている。
ボクが振り向くと、そこには濃い霧が立ちこめていた。
霧はやがて濃度を増して、具象化していく。
具象化した先に待っていたのは、太古のヴァンパイアだった!
一目見ただけで、背筋が凍りつく恐ろしい姿をした彼こそ、この地下堂のあるじ、ソーサラー・ヴァンパイア・キングのヴァクシュミだった。
要約すると、ボクの血を吸いに来たと語るヴァクシュミに対して、ボクができることは、ただ一つ。
《わたしをどこかへ……》の呪文を唱えるだけなのだが、魔力がたりない!
終わった……。
Tamam Shudだよ……。
「言い残すことはないか、ちっぽけな魔術師よ?」
ヴァクシュミは、いたぶるように微笑を浮かべながら、弱者の最期のあがきを嬉々として待ちかまえる。
「血を吸われてヴァンパイアの下僕となるなら、男とは思えない妖しい色気と透き通るような白い肌と輝く金髪を持つ魅力度カリスマ級の吸血鬼の下僕がよかっ……」
「もうええわ」
世にも珍しいヴァクシュミのイラッとした声を最期に、ボクは血を吸われ、意識は闇の底へと沈んでいった……。


8:怜悧なる目覚め

目が覚めると、地下堂の一室の石棺の中にいた。
新入りの下僕風情のために、わざわざ部屋と石棺をお与えくださるとは、ヴァクシュミ様は、マジ王様。キングの中のキングだよ!
しかも、ヴァンパイアになったおかげで、魅力度も上がり、ボンキュッボンのナイスバディになった!
ヴァクシュミ様、最高!
ヴァクシュミ様、万歳!
さらには、召集をかける以外は好きなことをしてもいいとは、なんて寛大なんだろう!
カザンの魔術師組合よりも、ずっと労働条件がいいや!
ボクは、すがすがしい気分で、地下堂を出た。
夜空には、赤い三日月がのぼり、吸血コウモリ達が群れをなしてはばたく音が聞こえる。
こんな美しい夜は生まれて初めてだ。
おや、新鮮な血のつまった皮袋がパーティーを組んでやってきたぞ。
さっそく襲撃だ!
皮袋達は、ボクを見るなり、いっせいに攻撃をしかけてきた。
「無駄無駄無駄ァーッ!!」
ボクは、すかさず反撃する。
呪文は覚えているし、魔法の力は上がっているから、あっという間に皮袋どもを戦闘不能にできた。
「頼む……命だけはお助けを……」
何か言っているけど、関係なし!
いっただきま〜す!

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行予定のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト(新)
2020-04-16 児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「ヴァンパイアの地下堂」(『コッロールの恐怖』所収)リプレイ
https://akiraokawada.hatenablog.com/entry/2020/04/16/213228

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