※キャッシュは、
https://web.archive.org/web/20180816215945/http://analoggamestudies.com/?m=201404
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「視覚不要! RPG 〜この町を救え〜」レポート
草場純 (協力:岡和田晃、齋藤路恵、田島淳)
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2013年の10月5日土曜日13時〜16時、高田馬場の日本点字図書館3階会議室にて、おそらく日本初、世界でもあまり例のないと思われる、視覚障碍者対象の会話型RPG(テーブルトークロールプレイングゲーム、TRPG)が行われました。参加予定の視覚障碍者は、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの5人でしたが、AさんとCさんが仕事の都合で、Eさんが体調不良で不参加になったのが少々残念でした。特にAさんとCさんは、事前のテストプレーに参加してくださり(そういう意味では今回は「日本で2回目」だったとも言えますが)、本日の本番を楽しみにされていただけに残念でした。
晴眼者(支援者)の参加者は6人、ゲームマスターを務めてくださった齋藤路恵さん、視覚障碍者用のゲームをいろいろ開発されているGさん、奥様が視覚障碍で私とはゲームを通じた30年来の付き合いのある私の二番弟子(笑)のHさん、それから点字図書館の職員の奥様と娘さんの、Iさんと、Jちゃん(9歳)、そして私こと、ここで30年間ゲーム会のお世話をしています、草場です。
初めにごく簡単に自己紹介をし、それから齋藤さんから、RPGとは何ぞやという説明が、要領よくありました。ここで繰り返すこともないと思いますが、要するに「みんなでお話を創っていくゲーム」ということでした。言い換えれば「即興演劇遊び」で、「みんなはそれぞれ役割を考え、自分でその役割を演じていく」ということでした。
ここで、Bさんから意見があり、「説明だけではイメージがつかみにくいので、やっているところを録音した資料があるといい」ということでた。なるほど。今後視覚障碍者向けRPGの普及を考えるならば、これは課題ですね。残念ながらこのセッション自体の録音も、手が回りませんでした。
次に齋藤さんから舞台の提示がありました。
「ここは、1990年代の日本です。」
しかし、予想外だったのですが、たまたま9歳の女の子がいたので、これはあまりよくなかったかもしれませんね。何せ生まれる15年も前のことは、私もなかなかイメージがつかめません。
ともあれそうした背景を元に、各自自分の役割づくりをしました。普通はシートなどを使い、イラストを入れたりして仕上げるのですが、ここは全て言葉だけです。
齋藤さんは、
「例えば、『私は料理の得意な売れない作家の伊藤です。』というように、役割(職業)を明確にして、名前はだれだか分からなくならないように本名をちょっとひねるとわかりやすいです。」
という意味のことを言いました。これは今回特有の工夫だと思います。本来のRPGだと、思い切り本人から離れた方が良いのでしょうが、今回は耳だけで状況を捉えなければなりません。つかず離れずが大事なのだなあと思いました。
さて、その結果は以下の様になりました。座り順です。
草場→自称発明家の関場
Bさん→政治評論家の坂東
Hさん→はやらない医者の林
Gさん→数学者の群馬
Iさん→看護師の相澤(途中参加)
Jちゃん→女子高生のじゅん(途中参加)
Dさん→町の小母さん堂本
そこで齋藤さんから課題が出ます。
「今はみんなバラバラなところに居ますが、一人4発言、つまり4周発言が回って、合計20発言で全員どこかへ集まりましょう。」
(開始時点でIさんとJちゃん親子は居なかったので、5人プレー。)
すったもんだの末 (妙な噂で株価が上がったり、はやらない林医院に突然患者が溢れたり)に、数学者一人を除いて何とか放送局に集まりました。
たったこれだけのことですが、進め方や話し方がなんとか了解できました。易しいような難しいような…手でもこんな風に、何の条件もなく、チームがそれとなく作れるというのは面白いですね。
偶然ですが、9歳の子も最初から参加より、先に見てからの参加はむしろ良かったかも。
そこで、いよいよ本番の課題です。これは今の物語の後をうまく受けたものです。
次に齋藤さんから3つの課題が出されます。基本は21発言(3周)でどこかに集まります。
ミッションは、
1.謎の病気の原因を探る
2.病人を助ける
3.町の悪評を消す
です。なかなかの難題ですね。
何せ前の話の最後で、町は謎の病気の蔓延で封鎖されそうという大事になっています。
初めは、右往左往ですが、やがて看護師と医者の活躍で患者の血(清?)中に微生物のようなものが発見され、女子高生の修学旅行で行ったタイ旅行に原因がありそうという話になり、数学者が祖父から貰ったお茶が病気に効きそうだと話になり、政治評論家の伝手でみんなでタイまで探査旅行に出かけることになったのでした。
タイでもなかなか手がかりが見つからないのですが、やがてパパイヤマンゴーを食べて起こる風土病らしいということになり、またそれに効くお茶も同地でみつかり、日本に帰ることになりました。このお茶の成分の薬効で、謎の病気は一掃され、却ってそのことでこの町は国中の評判になったのでした。めでたしめでたし。
こうして無事、町は救われました。要所、要所でダイスを振っての判定も適確で、でたらめのようででたらめでなく、予定調和のようで予定調和でないスリリングな展開になりました。小さい子も混じっての難しいセッションだったと思うのですが、みなんでゆっくり9歳の子の発言を待ちました。また、隣のお母さんの支えもあって、いろいろな活躍ができました。Jちゃんにとっては得難い体験になったことでしょう。看護師だけでなく、噂を集める町の小母さんも、病原菌を見つける一助となる発明家も、結果としてみんな所を得た活躍ができ、無事町に平和が戻ってよかったと思います。
話し言葉以外に、ほとんど何も使えないような条件でゲームマスターを務めてくださった齋藤さん、ありがとうございました。この日はほぼ全員が初めての体験であったのに加えて、年齢層もまちまちであり、IさんJちゃん親子は少しあとから入られましたし、Hさんは所用で途中で帰られなくてはならなかったりと、いろいろ悪条件であったにもかかわらず、私を含めて全員が楽しい体験をすることができました。この方面の発展の、可能性を感じた3時間でした。
参加された皆さんにも、厚く感謝をしたいと思います。
(※)個人情報保護の観点から、個人名をそれぞれ仮名処理させていただいております。ご理解いただけましたら幸いです。
2021年01月19日
【2014年3月22日記事復元】市立小樽文学館企画展「テレビゲームと文学展」レポート
※キャッシュは、https://web.archive.org/web/20190203125317/http://analoggamestudies.com/?p=595
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市立小樽文学館企画展「テレビゲームと文学展」レポート
岡和田晃 (協力:玉川薫(市立小樽文学館)、八重樫尚史、高橋志行)
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2012年8月11日から9月23日まで、北海道の小樽市にある市立小樽文学館において、「テレビゲームと文学展」という企画展が開催されました。
日本各地には様々な文学館が存在していますが、なかでも「テレビゲーム」と「文学」の関わりをテーマとして大々的に打ち出すというのは、きわめて珍しい試みです。
文学館というと古臭くて堅苦しいというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。けれども、そうしたイメージを払拭すべく、文学館の側も革新的な試みを打ち出すようになってきています。
同じく北海道にある札幌の北海道立文学館では2014年2月8日か〜3月23日まで、日本におけるスペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説としてのSF)の第一人者であり、北海道におけるSFファンダムの始祖的な存在である作家・荒巻義雄をテーマに据えた「「荒巻義雄の世界」展」が開催されました。同展では、スペースオペラや伝奇ロマン、あるいは脳科学や精神医学、コンピュータ・サイエンスへの関心を全面に押し出され、著名なSF作家やSF評論家を交えたシンポジウムなども執り行われました。
小樽市は小林多喜二や伊藤整を輩出した古き良き文学の街でもありますが、加えて、荒巻義雄や川又千秋といった、スペキュレイティヴ・フィクションの代表的な作家と縁が深い街でもあります。
その市立小樽文学館での「テレビゲームと文学展」は、会期中に1335人の来場者を集め、盛況だった模様です。2014年4月4日〜6月8日の期間には、「ゲームと文学」シリーズ第二弾としまして、「ボードゲームと文学展」も開催される予定となっています。そこで第一弾にあたる「テレビゲームと文学展」の模様を、簡単にご紹介してみたいと思います。
展示は、大きく第一部「テレビゲーム史」、第二部「ゲームを生んだ文学、文学を生んだゲーム」、第三部「テレビゲームと文学の身体性・双方向性」に分けられます。
第一部の冒頭に掲げられたコンセプトは、下記のようなものです。このコンセプトに加えて、黎明期から家庭のエンターテインメントとして定着するまでの「テレビゲーム史」が、1952年のコンピュータと対戦する三目並べ『OXO』の登場にまで遡る形で解説されます。
テレビゲームは、1950年代に生まれ、80年代の家庭用ゲーム機の爆発的普及で、日本、さらに国際的にも世代を超えた遊びになりました。
テレビゲームは、それよりはるかに長い歴史をもつ「書物による文学」と密接な関係があります。
またテレビゲームの双方向性(遊び手によって物語自体が変化していく)と体感性は、従来の読書における作者と読者の関係にも変化をもたらしています。
そしてテレビゲームで定着した複数の遊び手の同時参加により物語が変化するおもしろさは、ネット小説を生み出す原動力になり、文学の未来をも予感させます。
この企画展は、テレビゲームと、その下地となったパーソナルコンピュータ技術、そして伝統的な文学の歴史を紹介し、相互の影響を考察しながら、テレビゲームを「文学的視点」で見直すものです。
本展にあたり、多大なご協力をいただいた方々に、心より御礼申し上げます。
第二部では、まず「世界の神話・民話・伝承・古典」と題して、『ギルガメッシュ叙事詩』、『ラーマーヤナ』、『聖書』、『古事記』、『イーリアス』、『アーサー王伝説』、北欧神話や御伽草紙が、「そのほとんどが作者不明で口承(こうしょう)で伝えられました。あらゆる物語の母胎(ぼたい)であり、ファンタジー文学の原郷(げんきょう)であり、おおくのテレビゲームの主人公が活躍(かつやく)する世界でもあります。」と紹介されました(年若い参加者でも理解できるように、適宜ルビがふられています)。
続いて、「文学とテレビゲームをつなぐカギ、それが「テーブルトークRPG」」と題して、アナログゲームそれも会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)の役割が、次のように強調されました。
「テレビゲームと文学展」で、もっともたいせつなカギになるこの「TRPG(テーブルトークアールピージー)」について、うんとかんたんに説明しましょう。
テレビゲームがすきな人はもちろん、やったことのない人、きょうみのない人でも「ドラクエ」は知っているでしょう。
そのゲームは「勇者(ゆうしゃ)」が主人公であり、それはゲームをするあなたです。「勇者」はひと
りで旅をはじめますが、とちゅうで出あった戦士(せんし) 、魔法(まほう)つかい、商人(しょうにん)、あそび人(にん)が仲間になります。たたかった敵がともだちになり仲間(なかま)にくわわることさえあります。
旅にはいろいろな困難(こんなん)がまちうけています。大嵐(おおあらし)や火山(かざん)、まよいこんだら出るのがむずかしい洞窟(どうくつ)。そしておそいかかってくる敵。
とくいな力、欠点もある仲間とたすけあいながら困難をのりこえ、そのたびに「勇者」も仲間たちも成長していき、智恵(ちえ)も力もおおきくなっていきます。
またその力にふさわしい「聖(せい)なる剣(けん)」なども手にすることができるようになります。
そして最後にまちかまえている最大最強(さいきょう)のとりでと敵。それをのりこえ、たおさなけれ
ば「勇者」は「ほんとうの勇者」になることはできません。
このようなゲームは、何かににていると思いませんか? 映画「ロード・オブ・ザ・リング」、その原作「指輪物語(ゆびわものがたり)」。そして「ナルニア国ものがたり」「ゲド戦記(せんき)」。「ネバー・エンディング・ストーリー(はてしない物語)」「モモ」。映画の「スターウォーズ」さえ、そのながい物語はまるで「ドラクエ」のようです。
これらの物語は、世界じゅうに古(ふる)くからつたわる神話や伝説におおくのヒントをえています。だから国や年にかんけいなく、たくさんの人たちの心をとらえ、感動させます。
これらの物語をどだいにして、それをみんなであそぶゲームにしたのが「テーブルトークRPG」です。ゲームに参加する人たちが、それぞれ「戦士」になり、「魔法つかい」や「妖精」になり「商人」や「あそび人」になったりする。みんなはこの国におおきな災難があることをしって、それを解決するために、つれだって旅にでます。そしていろいろな困難にであい、そのつど力をあわせてのりこえていきます。
この「テーブルトークRPG」こそ、「ドラクエ」「ゼルダ」「ファイナルファンタジー」など、みんながだいすきなテレビゲームのもとになった遊びであり、「文学とテレビゲーム」をつなぐもっともたいせつなカギなのです。
それにあわせて、何も知らない人でも理解できるように「TRPGとは?」といった解説、「ミニチュアを使用した戦争(ウォー)ゲーム」の古典であるH・G・ウェルズがデザインした“Little Wars”に、同作をルーツに持つ(『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の前身)でもある戦争ゲーム“Chainmail”の解説を含んだ「TRPGの誕生と発展」、さらにはゲームブックやリプレイの説明なども盛り込んだ「日本のTRPG」といった解説パネルが掲示され、実際に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版の「赤箱」、『ルーンクエスト』といったRPGのボックスが展示されました。
とりわけ面白いのはプレイバイメール(郵便を使って遊ぶRPG)風の企画「ヲタブンQuest 往きて還りし物語」が実際にプレイされたことでしょう。「往きて還りし物語」とは物語の基本的な構造で、現在映画化されて大変な好評を博しているJ・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』でも採用されています。この企画は北海道大学RPG研究会が協力し、20人もの参加者を集め、好評を博したということです(北海道大学RPG研究会のほかにも、今回の「テレビゲームと文学展」には、藤井昌樹さま・宮崎佳奈さまが、パネルの文章執筆やゲームデザイン等、さまざまな協力を行っておられます)。
第三部では、「身体性」および「双方向性」という、ゲームを考えるにおいて欠かせない視点から、アクションゲーム、格闘ゲーム、体感推理ゲーム、ノベルゲーム、といった試みと「文学」の関係が模索されました。
「身体性」が主軸となるアクションゲームを分析するにあたっては、「距離」や「間合い」といった視点が不可欠だとの指摘がなされ、ハードウェアやインターフェースの性能向上とともに、3D-CGのような三次元の感覚、あるいは体感型コントローラーの導入などが行なわれてきたと説明されます。面白いのは、直木三十五の剣豪小説『討入』と対比することで、そこにも「文学」とリンクする可能性が存在していることが、きちんと明示されていることでしょう。
それは、「体感型推理ゲーム」の紹介にあたっても同様で、証拠品が袋にとじこんであり、ゲームブックの嚆矢として語られることもある『マイアミ沖殺人事件』(デニス・ホイートリー)との対比で、名詞と動詞の入力で行われる初期のアドベンチャーゲームから、コマンド選択式のアドベンチャーゲームなど、ゲームシステムの違いをわかりやすくヴィジュアルで紹介しています。
3-2-a3-2-b3-2-c
【ゲームシステムの変化が一目瞭然】
その他、太宰治の『走れメロス』を横スクロール型のアクションゲームにしたらどうなるのかがシミュレーションされたり(『ベストセラー本ゲーム化会議』を彷彿させます)、あるいは小樽文学館の「色内広場」を舞台のオンラインゲームが構想されたりと、既成の枠組みにとらわれず、遊び心いっぱいに文学館という「場」を活かしながら、改めて「文学」のあり方が再考されているのが興味深く感じました。
むろんここで紹介したのは、「テレビゲームと文学展」の一部にすぎません。ほかにも、展示に合わせてさまざまな参加型の企画が行われました。
地域の文化を守り育てるために文学館が果たしている役割は、予想外に大きなものです。
文学館に所蔵された資料のなかには、そこでしかアクセスできない貴重なものがありますし、学芸員の方々による工夫をこらした展示によって、文学を「そこにある、生のもの」として感じ取ることが可能です。
それは、一人で本を読む経験とは、また学校で習う国語学習とは異なる展望を、私たちにもたらしてくれると確信します。
「身体性」と「双方向性」に着目した「テレビゲームと文学展」は、知識の修得と実際の参加をうまく両立させた、意欲的な試みであることは間違いないでしょう。
展示にあたっては著作権侵害などの恐れが生じないように工夫を凝らしつつ、企画展開催中は、会場の撮影やインターネット上での公開を積極的に推奨することで、広く浸透をはかったのことですが、そのような”開かれた”アプローチも興味深いところです。
今年4月から開催される「ボードゲームと文学」展が、ますます楽しみになりました。
快く資料の提供と公開許可をいただきました、市立小樽文学館の玉川薫副館長に改めて御礼申し上げます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
企画展「ボードゲームと文学」
企画展「テレビゲームと文学」に続く、「ゲームと文学」シリーズ第2弾。
世界各地で根強い人気があるボードゲーム。その内部に組み込まれた「物語」に着目し、文学との接点を探ります。また、ゲームの盤面デザインやパッケージイラストなどアート的側面も紹介します。親子で楽しめる展覧会です。
1.魔法ゲーム「魔法のラビリンス」他
2.冒険ゲーム「小さなドラゴンナイト」他
3.おばけゲーム「3匹のおばけ」他
4.推理ゲーム「アロザ殺人事件」他
5.海賊ゲーム「海賊ブラック」他
6.動物ゲーム「やぎのベッポ」他
その他にも楽しい企画が盛りだくさんです。
会期:2014年4月4日(金)〜6月8日(日)
休館日:月曜日(5月5日を除く)、4月30日(水)、5月7日(水)〜9日(金)、13日(火)
入館料:一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料
※市立小樽文学館公式サイトより引用。
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市立小樽文学館企画展「テレビゲームと文学展」レポート
岡和田晃 (協力:玉川薫(市立小樽文学館)、八重樫尚史、高橋志行)
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2012年8月11日から9月23日まで、北海道の小樽市にある市立小樽文学館において、「テレビゲームと文学展」という企画展が開催されました。
日本各地には様々な文学館が存在していますが、なかでも「テレビゲーム」と「文学」の関わりをテーマとして大々的に打ち出すというのは、きわめて珍しい試みです。
文学館というと古臭くて堅苦しいというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。けれども、そうしたイメージを払拭すべく、文学館の側も革新的な試みを打ち出すようになってきています。
同じく北海道にある札幌の北海道立文学館では2014年2月8日か〜3月23日まで、日本におけるスペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説としてのSF)の第一人者であり、北海道におけるSFファンダムの始祖的な存在である作家・荒巻義雄をテーマに据えた「「荒巻義雄の世界」展」が開催されました。同展では、スペースオペラや伝奇ロマン、あるいは脳科学や精神医学、コンピュータ・サイエンスへの関心を全面に押し出され、著名なSF作家やSF評論家を交えたシンポジウムなども執り行われました。
小樽市は小林多喜二や伊藤整を輩出した古き良き文学の街でもありますが、加えて、荒巻義雄や川又千秋といった、スペキュレイティヴ・フィクションの代表的な作家と縁が深い街でもあります。
その市立小樽文学館での「テレビゲームと文学展」は、会期中に1335人の来場者を集め、盛況だった模様です。2014年4月4日〜6月8日の期間には、「ゲームと文学」シリーズ第二弾としまして、「ボードゲームと文学展」も開催される予定となっています。そこで第一弾にあたる「テレビゲームと文学展」の模様を、簡単にご紹介してみたいと思います。
展示は、大きく第一部「テレビゲーム史」、第二部「ゲームを生んだ文学、文学を生んだゲーム」、第三部「テレビゲームと文学の身体性・双方向性」に分けられます。
第一部の冒頭に掲げられたコンセプトは、下記のようなものです。このコンセプトに加えて、黎明期から家庭のエンターテインメントとして定着するまでの「テレビゲーム史」が、1952年のコンピュータと対戦する三目並べ『OXO』の登場にまで遡る形で解説されます。
テレビゲームは、1950年代に生まれ、80年代の家庭用ゲーム機の爆発的普及で、日本、さらに国際的にも世代を超えた遊びになりました。
テレビゲームは、それよりはるかに長い歴史をもつ「書物による文学」と密接な関係があります。
またテレビゲームの双方向性(遊び手によって物語自体が変化していく)と体感性は、従来の読書における作者と読者の関係にも変化をもたらしています。
そしてテレビゲームで定着した複数の遊び手の同時参加により物語が変化するおもしろさは、ネット小説を生み出す原動力になり、文学の未来をも予感させます。
この企画展は、テレビゲームと、その下地となったパーソナルコンピュータ技術、そして伝統的な文学の歴史を紹介し、相互の影響を考察しながら、テレビゲームを「文学的視点」で見直すものです。
本展にあたり、多大なご協力をいただいた方々に、心より御礼申し上げます。
第二部では、まず「世界の神話・民話・伝承・古典」と題して、『ギルガメッシュ叙事詩』、『ラーマーヤナ』、『聖書』、『古事記』、『イーリアス』、『アーサー王伝説』、北欧神話や御伽草紙が、「そのほとんどが作者不明で口承(こうしょう)で伝えられました。あらゆる物語の母胎(ぼたい)であり、ファンタジー文学の原郷(げんきょう)であり、おおくのテレビゲームの主人公が活躍(かつやく)する世界でもあります。」と紹介されました(年若い参加者でも理解できるように、適宜ルビがふられています)。
続いて、「文学とテレビゲームをつなぐカギ、それが「テーブルトークRPG」」と題して、アナログゲームそれも会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)の役割が、次のように強調されました。
「テレビゲームと文学展」で、もっともたいせつなカギになるこの「TRPG(テーブルトークアールピージー)」について、うんとかんたんに説明しましょう。
テレビゲームがすきな人はもちろん、やったことのない人、きょうみのない人でも「ドラクエ」は知っているでしょう。
そのゲームは「勇者(ゆうしゃ)」が主人公であり、それはゲームをするあなたです。「勇者」はひと
りで旅をはじめますが、とちゅうで出あった戦士(せんし) 、魔法(まほう)つかい、商人(しょうにん)、あそび人(にん)が仲間になります。たたかった敵がともだちになり仲間(なかま)にくわわることさえあります。
旅にはいろいろな困難(こんなん)がまちうけています。大嵐(おおあらし)や火山(かざん)、まよいこんだら出るのがむずかしい洞窟(どうくつ)。そしておそいかかってくる敵。
とくいな力、欠点もある仲間とたすけあいながら困難をのりこえ、そのたびに「勇者」も仲間たちも成長していき、智恵(ちえ)も力もおおきくなっていきます。
またその力にふさわしい「聖(せい)なる剣(けん)」なども手にすることができるようになります。
そして最後にまちかまえている最大最強(さいきょう)のとりでと敵。それをのりこえ、たおさなけれ
ば「勇者」は「ほんとうの勇者」になることはできません。
このようなゲームは、何かににていると思いませんか? 映画「ロード・オブ・ザ・リング」、その原作「指輪物語(ゆびわものがたり)」。そして「ナルニア国ものがたり」「ゲド戦記(せんき)」。「ネバー・エンディング・ストーリー(はてしない物語)」「モモ」。映画の「スターウォーズ」さえ、そのながい物語はまるで「ドラクエ」のようです。
これらの物語は、世界じゅうに古(ふる)くからつたわる神話や伝説におおくのヒントをえています。だから国や年にかんけいなく、たくさんの人たちの心をとらえ、感動させます。
これらの物語をどだいにして、それをみんなであそぶゲームにしたのが「テーブルトークRPG」です。ゲームに参加する人たちが、それぞれ「戦士」になり、「魔法つかい」や「妖精」になり「商人」や「あそび人」になったりする。みんなはこの国におおきな災難があることをしって、それを解決するために、つれだって旅にでます。そしていろいろな困難にであい、そのつど力をあわせてのりこえていきます。
この「テーブルトークRPG」こそ、「ドラクエ」「ゼルダ」「ファイナルファンタジー」など、みんながだいすきなテレビゲームのもとになった遊びであり、「文学とテレビゲーム」をつなぐもっともたいせつなカギなのです。
それにあわせて、何も知らない人でも理解できるように「TRPGとは?」といった解説、「ミニチュアを使用した戦争(ウォー)ゲーム」の古典であるH・G・ウェルズがデザインした“Little Wars”に、同作をルーツに持つ(『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の前身)でもある戦争ゲーム“Chainmail”の解説を含んだ「TRPGの誕生と発展」、さらにはゲームブックやリプレイの説明なども盛り込んだ「日本のTRPG」といった解説パネルが掲示され、実際に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版の「赤箱」、『ルーンクエスト』といったRPGのボックスが展示されました。
とりわけ面白いのはプレイバイメール(郵便を使って遊ぶRPG)風の企画「ヲタブンQuest 往きて還りし物語」が実際にプレイされたことでしょう。「往きて還りし物語」とは物語の基本的な構造で、現在映画化されて大変な好評を博しているJ・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』でも採用されています。この企画は北海道大学RPG研究会が協力し、20人もの参加者を集め、好評を博したということです(北海道大学RPG研究会のほかにも、今回の「テレビゲームと文学展」には、藤井昌樹さま・宮崎佳奈さまが、パネルの文章執筆やゲームデザイン等、さまざまな協力を行っておられます)。
第三部では、「身体性」および「双方向性」という、ゲームを考えるにおいて欠かせない視点から、アクションゲーム、格闘ゲーム、体感推理ゲーム、ノベルゲーム、といった試みと「文学」の関係が模索されました。
「身体性」が主軸となるアクションゲームを分析するにあたっては、「距離」や「間合い」といった視点が不可欠だとの指摘がなされ、ハードウェアやインターフェースの性能向上とともに、3D-CGのような三次元の感覚、あるいは体感型コントローラーの導入などが行なわれてきたと説明されます。面白いのは、直木三十五の剣豪小説『討入』と対比することで、そこにも「文学」とリンクする可能性が存在していることが、きちんと明示されていることでしょう。
それは、「体感型推理ゲーム」の紹介にあたっても同様で、証拠品が袋にとじこんであり、ゲームブックの嚆矢として語られることもある『マイアミ沖殺人事件』(デニス・ホイートリー)との対比で、名詞と動詞の入力で行われる初期のアドベンチャーゲームから、コマンド選択式のアドベンチャーゲームなど、ゲームシステムの違いをわかりやすくヴィジュアルで紹介しています。
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【ゲームシステムの変化が一目瞭然】
その他、太宰治の『走れメロス』を横スクロール型のアクションゲームにしたらどうなるのかがシミュレーションされたり(『ベストセラー本ゲーム化会議』を彷彿させます)、あるいは小樽文学館の「色内広場」を舞台のオンラインゲームが構想されたりと、既成の枠組みにとらわれず、遊び心いっぱいに文学館という「場」を活かしながら、改めて「文学」のあり方が再考されているのが興味深く感じました。
むろんここで紹介したのは、「テレビゲームと文学展」の一部にすぎません。ほかにも、展示に合わせてさまざまな参加型の企画が行われました。
地域の文化を守り育てるために文学館が果たしている役割は、予想外に大きなものです。
文学館に所蔵された資料のなかには、そこでしかアクセスできない貴重なものがありますし、学芸員の方々による工夫をこらした展示によって、文学を「そこにある、生のもの」として感じ取ることが可能です。
それは、一人で本を読む経験とは、また学校で習う国語学習とは異なる展望を、私たちにもたらしてくれると確信します。
「身体性」と「双方向性」に着目した「テレビゲームと文学展」は、知識の修得と実際の参加をうまく両立させた、意欲的な試みであることは間違いないでしょう。
展示にあたっては著作権侵害などの恐れが生じないように工夫を凝らしつつ、企画展開催中は、会場の撮影やインターネット上での公開を積極的に推奨することで、広く浸透をはかったのことですが、そのような”開かれた”アプローチも興味深いところです。
今年4月から開催される「ボードゲームと文学」展が、ますます楽しみになりました。
快く資料の提供と公開許可をいただきました、市立小樽文学館の玉川薫副館長に改めて御礼申し上げます。
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企画展「ボードゲームと文学」
企画展「テレビゲームと文学」に続く、「ゲームと文学」シリーズ第2弾。
世界各地で根強い人気があるボードゲーム。その内部に組み込まれた「物語」に着目し、文学との接点を探ります。また、ゲームの盤面デザインやパッケージイラストなどアート的側面も紹介します。親子で楽しめる展覧会です。
1.魔法ゲーム「魔法のラビリンス」他
2.冒険ゲーム「小さなドラゴンナイト」他
3.おばけゲーム「3匹のおばけ」他
4.推理ゲーム「アロザ殺人事件」他
5.海賊ゲーム「海賊ブラック」他
6.動物ゲーム「やぎのベッポ」他
その他にも楽しい企画が盛りだくさんです。
会期:2014年4月4日(金)〜6月8日(日)
休館日:月曜日(5月5日を除く)、4月30日(水)、5月7日(水)〜9日(金)、13日(火)
入館料:一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料
※市立小樽文学館公式サイトより引用。
【2014年2月11日記事復元】東京都成人発達障害当事者会イイトコサガシ・明神下ゲーム研究会合同企画 TRPGコンベンション「Mission Impossible 04――発達障害と想像力の世界」に参加して
※キャッシュは、https://web.archive.org/web/20180816205000/http://analoggamestudies.com/?m=201402
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東京都成人発達障害当事者会イイトコサガシ・明神下ゲーム研究会合同企画 TRPGコンベンション「Mission Impossible 04――発達障害と想像力の世界」に参加して
佐々木江利子(協力:岡和田晃、伏見健二、冠地情、明神下ゲーム研究会)
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2013年12月8日(日曜日)、東京大学本郷キャンパスにて、午前10時から午後4時まで、発達障害の特性を持つ当事者、支援者、会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)の専門家が一同に集い、共に楽しむコラボレーションイベント「Mission Impossible 04――発達障害と想像力の世界」が開催された。
東大の赤門をくぐると、まずは東大のシンボルにもなっている鮮やかな黄色に色づく銀杏並木に圧倒される。休日の午前中で地域住民か老若男女様々な人がそぞろ歩きを楽しんでいる中、赤門入口すぐに体格の良いスタッフが会の開催の表示を掲げてわかりやすく立っていてくれ、安心感。当会への参加は、私は二回目、実は前回、会場棟の入口や場所がわからず時間内にたどり着くことができなかったが、随所に誘導の表示があり、今回は探検感覚で会場にスムーズに到着。
参加者はスタッフを含め約30名。20代から40代前後の年齢層。半数が女性で、会話型RPGは初めての参加者が約半数。これは通常のTRPGコンベンションでは異例だそうだ。
米田衆介先生の開会挨拶と、主催側のイイトコサガシ代表冠地情氏の説明を経て各テーブル部屋に移動。
この日行われたシステムは『ゴーストハンター13』、『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』、『ダンジョンズ&ドラゴンズ エッセンシャルズ』、『ゆうやけこやけ』、『ラビットホール・ドロップスi』、『ダンジョンズ&ドラゴンズ 第4版』の六つ。ほぼどの卓にも当事者、支援者が複数名含まれる構成。
今回、特筆すべきは齋藤路恵氏による『ラビットホール・ドロップスi』。これは、これまで発達障がいをもつ当事者によって開催されてきたイイトコサガシのワークショップを一冊にした『ラビットホール・ドロップスi』を、さらに、視覚不要バージョンとしたもの。ゲームマスターも参加者も同時にアイマスクを装着し、イラストやサイコロ、また、プレイヤーの表情等、視覚的な情報によらず、音声のみによって物語作りが共同で行われた。人の目を見て話すことの苦手な当事者にも好評で、物語の進行面でも混乱することがなかったという。
また、現在開発中の『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』では、人魚姫のキャラクターが人間の姿になった場合、声が出せないという設定が試された。この場合、声が出せないプレイヤーの表情や身振りに自然と目をやる運びとなった。これらは昔話のように口承文芸と親しい距離にもある会話型RPGの新しい側面を拓くと同時に、視覚障がいと発達障がい、聴覚障がいと発達障がい等、複合したハンディキャップをもつ人々にも会話型RPGやコミュニケーションの機会が開く可能性を示す前向きな試みになった。
昼食は各テーブルで。別なボードゲームを行うテーブルも。初対面の人と食事を共にするが、同じメニューのお弁当だったため、会話の糸口にもなったように思う。
筆者が参加したのは伏見健二氏の『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』のテーブル。自分が作成したシナリオのたたき台が、どうアレンジされ参加者によってどう変容するかを直接体験できる初めての機会となった。みにくいアヒルのこ役の男性参加者(当事者)が人魚姫シナリオの途中で眠ってしまうということがあったが、同じシナリオで中学生男子を含めたメンバーで行ったとき、全く同じ個所で同様の反応だったことを思い出した。恋愛というモチーフに関して感情移入、あるいは共感させる物語の運びは、年齢層や対象を含め今後の課題となった。ただし、「眠る」という反応は緊張の緩和があることで起きるものであり、安心感をグループ内で得られたのは、その後のプレイングに生きていたのではないか。見た目の容姿ではなく、真摯に生きるアヒルのこの役を、その方が他のシナリオの中で深くとつとつと語る姿が印象的だった。アンデルセン童話の中に内在する演劇や人の無意識に働きかけ、内面にゆさぶりをかけていく要素が、会話型RPGにどのように生きていくか、次作『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』の完成が楽しみな時となった。
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佐々木江利子(ささき・えりこ)
宮城県仙台市生まれ。宮城教育大学教育学部特殊教育教員養成課程出身。
白百合女子大学児童文化研究センター構成員。日本児童文学者協会会員。
著作『超カワイイ!こいぬのココロをチェック!!』(汐文社)
共編者『魔法のファンタジー』(ファンタジー研究会、てらいんく)、日能研「知の翼」他。
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※RPG『ラビットホール・ドロップスi』は、「Role&Roll Station」等、都内のゲーム専門店、およびAmazon.co.jpで好評発売中です。
この作品はAnalog Game Studies(AGS)の齋藤路恵氏がメイン・デザイナーをつとめ、成人発達障害当事者団体イイトコサガシと、ゲーム創作者集団エテルシア・ワークショップ(グランペール・ブランド)、およびAGSのコラボレート作業で完成に至った完全新作です。
★ご注意ください!
この冊子は成人発達障害当事者会「イイトコサガシ」のワークショップにおいて用いられる会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)のルールと、そのガイダンスです。一般的なゲーム商品とはその性質が異なりますので、ご理解の上、お読みください。ラビホアイ”で、お話づくりを通してコミュニケーションを楽しく試そう!
やさしいRPG「ラビットホール・ドロップス」から生まれた、完全に未経験者向きのRPGワークショップ「ラビットホール・ドロップスi」のすべてを解説。7つのステップと「リドラー」システムで、みんなが即興のお話作りを体験する2時間半のプログラム。
ハプニングに笑い、みんなのいいところを見つけて、とても心が解放されるような、素敵なひとときを過ごしませんか?(裏表紙より)
また、2014年2月15日(土)に「発達障害ラビットホール・ドロップス・アイRPG IN 川崎市」が開催されます。リンク先の詳しい情報をお読みのうえで、ぜひ参加をご検討ください。
『ラビットホール・ドロップスi』のメイン・デザイナーで、Analog Game Studiesメンバーの齋藤路恵もファシリテーターとして参加します。申し込み方法はリンク先をご参照ください。
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東京都成人発達障害当事者会イイトコサガシ・明神下ゲーム研究会合同企画 TRPGコンベンション「Mission Impossible 04――発達障害と想像力の世界」に参加して
佐々木江利子(協力:岡和田晃、伏見健二、冠地情、明神下ゲーム研究会)
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2013年12月8日(日曜日)、東京大学本郷キャンパスにて、午前10時から午後4時まで、発達障害の特性を持つ当事者、支援者、会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)の専門家が一同に集い、共に楽しむコラボレーションイベント「Mission Impossible 04――発達障害と想像力の世界」が開催された。
東大の赤門をくぐると、まずは東大のシンボルにもなっている鮮やかな黄色に色づく銀杏並木に圧倒される。休日の午前中で地域住民か老若男女様々な人がそぞろ歩きを楽しんでいる中、赤門入口すぐに体格の良いスタッフが会の開催の表示を掲げてわかりやすく立っていてくれ、安心感。当会への参加は、私は二回目、実は前回、会場棟の入口や場所がわからず時間内にたどり着くことができなかったが、随所に誘導の表示があり、今回は探検感覚で会場にスムーズに到着。
参加者はスタッフを含め約30名。20代から40代前後の年齢層。半数が女性で、会話型RPGは初めての参加者が約半数。これは通常のTRPGコンベンションでは異例だそうだ。
米田衆介先生の開会挨拶と、主催側のイイトコサガシ代表冠地情氏の説明を経て各テーブル部屋に移動。
この日行われたシステムは『ゴーストハンター13』、『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』、『ダンジョンズ&ドラゴンズ エッセンシャルズ』、『ゆうやけこやけ』、『ラビットホール・ドロップスi』、『ダンジョンズ&ドラゴンズ 第4版』の六つ。ほぼどの卓にも当事者、支援者が複数名含まれる構成。
今回、特筆すべきは齋藤路恵氏による『ラビットホール・ドロップスi』。これは、これまで発達障がいをもつ当事者によって開催されてきたイイトコサガシのワークショップを一冊にした『ラビットホール・ドロップスi』を、さらに、視覚不要バージョンとしたもの。ゲームマスターも参加者も同時にアイマスクを装着し、イラストやサイコロ、また、プレイヤーの表情等、視覚的な情報によらず、音声のみによって物語作りが共同で行われた。人の目を見て話すことの苦手な当事者にも好評で、物語の進行面でも混乱することがなかったという。
また、現在開発中の『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』では、人魚姫のキャラクターが人間の姿になった場合、声が出せないという設定が試された。この場合、声が出せないプレイヤーの表情や身振りに自然と目をやる運びとなった。これらは昔話のように口承文芸と親しい距離にもある会話型RPGの新しい側面を拓くと同時に、視覚障がいと発達障がい、聴覚障がいと発達障がい等、複合したハンディキャップをもつ人々にも会話型RPGやコミュニケーションの機会が開く可能性を示す前向きな試みになった。
昼食は各テーブルで。別なボードゲームを行うテーブルも。初対面の人と食事を共にするが、同じメニューのお弁当だったため、会話の糸口にもなったように思う。
筆者が参加したのは伏見健二氏の『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』のテーブル。自分が作成したシナリオのたたき台が、どうアレンジされ参加者によってどう変容するかを直接体験できる初めての機会となった。みにくいアヒルのこ役の男性参加者(当事者)が人魚姫シナリオの途中で眠ってしまうということがあったが、同じシナリオで中学生男子を含めたメンバーで行ったとき、全く同じ個所で同様の反応だったことを思い出した。恋愛というモチーフに関して感情移入、あるいは共感させる物語の運びは、年齢層や対象を含め今後の課題となった。ただし、「眠る」という反応は緊張の緩和があることで起きるものであり、安心感をグループ内で得られたのは、その後のプレイングに生きていたのではないか。見た目の容姿ではなく、真摯に生きるアヒルのこの役を、その方が他のシナリオの中で深くとつとつと語る姿が印象的だった。アンデルセン童話の中に内在する演劇や人の無意識に働きかけ、内面にゆさぶりをかけていく要素が、会話型RPGにどのように生きていくか、次作『ラビットホール・ドロップスA(アンデルセン)』の完成が楽しみな時となった。
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佐々木江利子(ささき・えりこ)
宮城県仙台市生まれ。宮城教育大学教育学部特殊教育教員養成課程出身。
白百合女子大学児童文化研究センター構成員。日本児童文学者協会会員。
著作『超カワイイ!こいぬのココロをチェック!!』(汐文社)
共編者『魔法のファンタジー』(ファンタジー研究会、てらいんく)、日能研「知の翼」他。
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※RPG『ラビットホール・ドロップスi』は、「Role&Roll Station」等、都内のゲーム専門店、およびAmazon.co.jpで好評発売中です。
この作品はAnalog Game Studies(AGS)の齋藤路恵氏がメイン・デザイナーをつとめ、成人発達障害当事者団体イイトコサガシと、ゲーム創作者集団エテルシア・ワークショップ(グランペール・ブランド)、およびAGSのコラボレート作業で完成に至った完全新作です。
★ご注意ください!
この冊子は成人発達障害当事者会「イイトコサガシ」のワークショップにおいて用いられる会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)のルールと、そのガイダンスです。一般的なゲーム商品とはその性質が異なりますので、ご理解の上、お読みください。ラビホアイ”で、お話づくりを通してコミュニケーションを楽しく試そう!
やさしいRPG「ラビットホール・ドロップス」から生まれた、完全に未経験者向きのRPGワークショップ「ラビットホール・ドロップスi」のすべてを解説。7つのステップと「リドラー」システムで、みんなが即興のお話作りを体験する2時間半のプログラム。
ハプニングに笑い、みんなのいいところを見つけて、とても心が解放されるような、素敵なひとときを過ごしませんか?(裏表紙より)
また、2014年2月15日(土)に「発達障害ラビットホール・ドロップス・アイRPG IN 川崎市」が開催されます。リンク先の詳しい情報をお読みのうえで、ぜひ参加をご検討ください。
『ラビットホール・ドロップスi』のメイン・デザイナーで、Analog Game Studiesメンバーの齋藤路恵もファシリテーターとして参加します。申し込み方法はリンク先をご参照ください。
【2013年11月7日記事復元】「伏見健二講演会―RPGで開かれる世界―」レポート
※画像のキャッシュは、https://web.archive.org/web/20190203203440/http://analoggamestudies.com/?p=324
2013年7月21日に開催された「伏見健二講演会―RPGで開かれる世界―」というイベントの模様を、ゲストとして編集者の中森しろさまにレポートしていただきました。中森さまはカードゲーム『コレクタブルモンスター』のデザイナーでもあります。(岡和田晃)
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「伏見健二講演会―RPGで開かれる世界―」レポート
中森しろ (協力:伏見健二、成人発達障害者当事者会イイトコサガシ、齋藤路恵、岡和田晃)
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2013年7月21日(日)豊島区心身障害者福祉センターで「伏見健二講演会−RPGで開かれる世界−」が行われました。主催は、東京都成人発達障害当事者会イイトコサガシ。イイトコサガシは、コミュニケーション・ワークショップに特化した成人発達障害当事者会です。講演会は、伏見健二氏が開発したRPG『ラビットホール・ドロップス』をイイトコサガシで運用できる形にした『ラビットホール・ドロップスi(アイ)』の体験会と合わせて開催されました。当日は、午前中に伏見健二講演会、午後からは『ラビットホール・ドロップスi』の体験ワークショップが行われました。ここでは、伏見健二講演会のみをレポートします。
講演会は、前半が伏見健二氏の講演、後半がイイトコサガシ代表の冠地情氏との対談というプログラム。この日の聴衆は約30名。その後のアンケートを見ると、RPG経験者は少数で、多くはRPGを経験したことのない方々でした。
講演は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に始まるRPGの歴史から始まりました。最初は淡々と聴いていた観客も「世界で最も売れたコンピュータRPGはなんでしょう?」という質問で「ドラクエ」「ウルティマ」「ファイナルファンタジー」「ポケモン」と様々な答えが出て、一気に場が和みました(正解は「ポケモン」)。
その後、日本でのRPGの展開が語られ、RPGが構造的に持っている一つの欠点として“ゲームの場から浮いてしまいがちなプレイヤー”の話へと進みました。
講演中、もっとも来場者の方々の関心が強かったのがこの箇所でした。というのも、その問題のある“浮いてしまいがちなプレイヤー”の特徴というのは、発達障害の特性とも重なる部分があったからです。
発達障害の現れ方はさまざまであり、こうした特徴を持たない発達障害の人もいます。しかしながら、たとえば“シングルフォーカス”(特定の事柄へ過剰に集中してしまうこと)の特性を有した発達障害者は、しばしば“空気が読めない”あるいは“協調性がない”とみなされ、コミュニケーションの場から排除されてしまうこともありました。
そういったプレイヤーも自然に溶け込めるユニバーサルなRPGをデザインしようというコンセプトで開発されたのが、『ラビットホール・ドロップス』、そして『ラビットホール・ドロップスi』であるということで、それらについてのより踏み込んだ話は、後半の冠地氏との対談の中で語られることになりました。
後半の対談の中では、RPGと発達障害との出会いについて語られました。これはまさに伏見氏と冠地氏の出会いによって『ラビットホール・ドロップス』が生まれてきたという歴史が披露されたのです。
そういうこともあって、当日の午後に行われた『ラビットホール・ドロップスi』の体験ワークショップには、事前の申し込みの無かった方も含めて観客のほぼ全員が参加していただけるといった盛況ぶりでした。
―――――――――――――――――――――――――
中森しろ(なかもり・しろ)
1964年兵庫県生まれ。法政大学卒業。在学中に『Advanced Dungeons & Dragons』にハマる。その後、出版社勤務を経て、1992年遊演体に入社。PBM『夜桜忍法帖』、『蓬莱学園の休日!』、『鋼鉄の虹 -Die Eisenglorie-』で会誌の編集を務める傍ら、『ファー・ローズ・トゥ・ロード』、『鋼鉄の虹 パンツァーメルヒェンRPG』、『蓬莱学園の冒険!!-復刻版-』などの編集にも携わる。その後、アニメ製作会社を経て、2003年エルスウェア入社。『ライトノベル完全読本』、『超解! フルメタル・パニック! 2007』などのムックや単行本の編集を手がける。現在は、フリーの編集者として、活動中。
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※RPG『ラビットホール・ドロップスi』の、「Role&Roll Station」等、都内のゲーム専門店、およびAmazon.co.jpでの取り扱いが始まりました。
この作品はAnalog Game Studies(AGS)の齋藤路恵氏がメイン・デザイナーをつとめ、成人発達障害当事者団体イイトコサガシと、ゲーム創作者集団エテルシア・ワークショップ(グランペール・ブランド)、およびAGSのコラボレート作業で完成に至った完全新作です。
★ご注意ください!
この冊子は成人発達障害当事者会「イイトコサガシ」のワークショップにおいて用いられる会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)のルールと、そのガイダンスです。一般的なゲーム商品とはその性質が異なりますので、ご理解の上、お読みください。ラビホアイ”で、お話づくりを通してコミュニケーションを楽しく試そう!
やさしいRPG「ラビットホール・ドロップス」から生まれた、完全に未経験者向きのRPGワークショップ「ラビットホール・ドロップスi」のすべてを解説。7つのステップと「リドラー」システムで、みんなが即興のお話作りを体験する2時間半のプログラム。
ハプニングに笑い、みんなのいいところを見つけて、とても心が解放されるような、素敵なひとときを過ごしませんか?(裏表紙より)
また、2013年11月10日に「発達障害ラビットホール・ドロップス・アイRPG IN 神奈川県川崎市」が開催されます。リンク先の詳しい情報をお読みのうえで、ぜひ参加をご検討ください。
12月14日にも、「発達障害ラビットホール・ドロップス・アイRPG IN 神奈川県川崎市」(同形式のイベント)の開催が告知されています。
12月8日には、「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)が好き、もしくはTRPGに興味のある、発達障害のある成人当事者や発達障害支援にかかわる支援者・専門家と、TRPGの専門家とが一堂に集い、TRPGを楽しむコラボレーションイベント」である「Mission Impossible04〜発達障害と想像力の世界〜」が東京大学本郷キャンパスで開催されます。『ラビットホール・ドロップスi』にクレジットされている、明神下ゲーム研究会とイイトコサガシが主催するイベントで、Analog Game Studiesメンバーもゲームマスターとして参加します。申し込み方法はリンク先をご参照ください。
2013年7月21日に開催された「伏見健二講演会―RPGで開かれる世界―」というイベントの模様を、ゲストとして編集者の中森しろさまにレポートしていただきました。中森さまはカードゲーム『コレクタブルモンスター』のデザイナーでもあります。(岡和田晃)
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「伏見健二講演会―RPGで開かれる世界―」レポート
中森しろ (協力:伏見健二、成人発達障害者当事者会イイトコサガシ、齋藤路恵、岡和田晃)
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2013年7月21日(日)豊島区心身障害者福祉センターで「伏見健二講演会−RPGで開かれる世界−」が行われました。主催は、東京都成人発達障害当事者会イイトコサガシ。イイトコサガシは、コミュニケーション・ワークショップに特化した成人発達障害当事者会です。講演会は、伏見健二氏が開発したRPG『ラビットホール・ドロップス』をイイトコサガシで運用できる形にした『ラビットホール・ドロップスi(アイ)』の体験会と合わせて開催されました。当日は、午前中に伏見健二講演会、午後からは『ラビットホール・ドロップスi』の体験ワークショップが行われました。ここでは、伏見健二講演会のみをレポートします。
講演会は、前半が伏見健二氏の講演、後半がイイトコサガシ代表の冠地情氏との対談というプログラム。この日の聴衆は約30名。その後のアンケートを見ると、RPG経験者は少数で、多くはRPGを経験したことのない方々でした。
講演は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に始まるRPGの歴史から始まりました。最初は淡々と聴いていた観客も「世界で最も売れたコンピュータRPGはなんでしょう?」という質問で「ドラクエ」「ウルティマ」「ファイナルファンタジー」「ポケモン」と様々な答えが出て、一気に場が和みました(正解は「ポケモン」)。
その後、日本でのRPGの展開が語られ、RPGが構造的に持っている一つの欠点として“ゲームの場から浮いてしまいがちなプレイヤー”の話へと進みました。
講演中、もっとも来場者の方々の関心が強かったのがこの箇所でした。というのも、その問題のある“浮いてしまいがちなプレイヤー”の特徴というのは、発達障害の特性とも重なる部分があったからです。
発達障害の現れ方はさまざまであり、こうした特徴を持たない発達障害の人もいます。しかしながら、たとえば“シングルフォーカス”(特定の事柄へ過剰に集中してしまうこと)の特性を有した発達障害者は、しばしば“空気が読めない”あるいは“協調性がない”とみなされ、コミュニケーションの場から排除されてしまうこともありました。
そういったプレイヤーも自然に溶け込めるユニバーサルなRPGをデザインしようというコンセプトで開発されたのが、『ラビットホール・ドロップス』、そして『ラビットホール・ドロップスi』であるということで、それらについてのより踏み込んだ話は、後半の冠地氏との対談の中で語られることになりました。
後半の対談の中では、RPGと発達障害との出会いについて語られました。これはまさに伏見氏と冠地氏の出会いによって『ラビットホール・ドロップス』が生まれてきたという歴史が披露されたのです。
そういうこともあって、当日の午後に行われた『ラビットホール・ドロップスi』の体験ワークショップには、事前の申し込みの無かった方も含めて観客のほぼ全員が参加していただけるといった盛況ぶりでした。
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中森しろ(なかもり・しろ)
1964年兵庫県生まれ。法政大学卒業。在学中に『Advanced Dungeons & Dragons』にハマる。その後、出版社勤務を経て、1992年遊演体に入社。PBM『夜桜忍法帖』、『蓬莱学園の休日!』、『鋼鉄の虹 -Die Eisenglorie-』で会誌の編集を務める傍ら、『ファー・ローズ・トゥ・ロード』、『鋼鉄の虹 パンツァーメルヒェンRPG』、『蓬莱学園の冒険!!-復刻版-』などの編集にも携わる。その後、アニメ製作会社を経て、2003年エルスウェア入社。『ライトノベル完全読本』、『超解! フルメタル・パニック! 2007』などのムックや単行本の編集を手がける。現在は、フリーの編集者として、活動中。
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※RPG『ラビットホール・ドロップスi』の、「Role&Roll Station」等、都内のゲーム専門店、およびAmazon.co.jpでの取り扱いが始まりました。
この作品はAnalog Game Studies(AGS)の齋藤路恵氏がメイン・デザイナーをつとめ、成人発達障害当事者団体イイトコサガシと、ゲーム創作者集団エテルシア・ワークショップ(グランペール・ブランド)、およびAGSのコラボレート作業で完成に至った完全新作です。
★ご注意ください!
この冊子は成人発達障害当事者会「イイトコサガシ」のワークショップにおいて用いられる会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)のルールと、そのガイダンスです。一般的なゲーム商品とはその性質が異なりますので、ご理解の上、お読みください。ラビホアイ”で、お話づくりを通してコミュニケーションを楽しく試そう!
やさしいRPG「ラビットホール・ドロップス」から生まれた、完全に未経験者向きのRPGワークショップ「ラビットホール・ドロップスi」のすべてを解説。7つのステップと「リドラー」システムで、みんなが即興のお話作りを体験する2時間半のプログラム。
ハプニングに笑い、みんなのいいところを見つけて、とても心が解放されるような、素敵なひとときを過ごしませんか?(裏表紙より)
また、2013年11月10日に「発達障害ラビットホール・ドロップス・アイRPG IN 神奈川県川崎市」が開催されます。リンク先の詳しい情報をお読みのうえで、ぜひ参加をご検討ください。
12月14日にも、「発達障害ラビットホール・ドロップス・アイRPG IN 神奈川県川崎市」(同形式のイベント)の開催が告知されています。
12月8日には、「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)が好き、もしくはTRPGに興味のある、発達障害のある成人当事者や発達障害支援にかかわる支援者・専門家と、TRPGの専門家とが一堂に集い、TRPGを楽しむコラボレーションイベント」である「Mission Impossible04〜発達障害と想像力の世界〜」が東京大学本郷キャンパスで開催されます。『ラビットホール・ドロップスi』にクレジットされている、明神下ゲーム研究会とイイトコサガシが主催するイベントで、Analog Game Studiesメンバーもゲームマスターとして参加します。申し込み方法はリンク先をご参照ください。
2013年06月15日
SF乱学講座 沢田大樹「(批評のための)捏造ドイツボードゲーム現代史」聴講記
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SF乱学講座 沢田大樹「(批評のための)捏造ドイツボードゲーム現代史」聴講記
草場純 (協力:沢田大樹、井上彰人、岡和田晃)
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去る2013年6月2日(日)、東京・杉並の高井戸区民センターのSF乱学講座にて、沢田大樹氏の講演「批評のためのドイツゲーム現代史」が行なわれた。少々大げさかも知れないが、私は歴史に残る講演と評価したい。
SF乱学講座とは、毎月第一日曜の午後6時15分から同所で、SFにかこつけて何でも講演してしまおうという会である。前身の「SFファン科学勉強会」が、柴野拓美氏、大宮信光氏、石原藤夫氏、大田原治男氏らによって始められたのが45年も前という、こうした会としては老舗中の老舗である。
Analog Game Studiesでも、蔵原大氏のウォーゲームの歴史についての講演の聴講記や、門倉直人・小泉雅也氏のポストヒューマンについての講演の聴講記が掲載されているので、興味のある向きは参照されたい。
この講義はドイツのボードゲームを語る言葉がない、という問題意識のもとに準備されている。この問題意識に私は大いに共鳴するし、Analog Game Studiesの問題意識とも強くリンクするものだ。
沢田氏は冒頭「歴史を捏造する」と語った。これはもちろん韜晦ではあるが、今まで「歴史」のなかった(意識されなかった)ボードゲームの世界を、歴史の眼差しで読み解く営為は、確かに捏造としか言い得ない作業であるかも知れない。ただ、それは沢田氏が言うように、個々人の「A History」を、「The History」へと変えていくために必要な作業でもあろう。こうした実験的な論考を展開するには、ある意味でSF乱学講座はふさわしい舞台であったとも言えよう。
SF乱学講座はいつも大体10数名の参加であるが、この時はどこで評判を聞きつけたのか30名を越す聴講者で席が埋まり、急遽会場を二倍に広げる事態になった。主催者側としては嬉しい悲鳴であったろうが、そのため最終的に時間が不足気味だったのは、仕方がないとは言え、少々もったいなかった。
講演者の沢田大樹氏、および講演の撮影を行なっていた井上彰人氏から許諾を得たので、講演の動画を紹介させていただく。まずはこちらをご覧いただきたい。
さて内容については、とても簡単には語りきれない。そもそも今述べたように、ボードゲームに歴史の眼差しを当てるという営為そのものが、前例のないことであり、その評価は簡単ではない。沢田氏は二冊の洋書を参考文献として挙げられたが、海外でもその程度の先行する試みがある程度だと察せられる。逆に言えば、今回の公演が日本発の論考の嚆矢と言ってよいかも知れない。
そこで、私も不定期に何回かの論評を加える心づもりであり、以下に展開するのは、試論や序論以前の覚書の一つである。
私が、この講演で印象深かったことは多くあるが、その一つが「伝統ゲーム由来の近現代ゲーム」というカテゴリーである。
沢田氏によれば、ドイツゲーム・ユーロゲームの成立前夜、「伝統ゲーム由来の近現代ゲーム」が数多くつくられているというのである。時期としては19世紀から20世紀の前半に当たる。例としては、インドの伝統ゲームパチシ由来のルードやコピットゲームのほか、ハルマ由来のダイヤモンドゲーム(チャイニーズチェッカー)、などが挙げられた。
これに私が実例を補足するなら、アフリカのマンカラ由来のワリやオワール、インドネシアのスラカルタ由来のラウンドアバウト、マダガスカルのファノロナ由来のワルツなどと、大きくは広まらなかったものを含めて、多数見出せるのである。
さらにオセロの名で日本では広く知られているリバーシも、1888年にロンドンで特許が取られている。これも、典拠は不明だが田中潤司氏によれば、ハンガリーの民族ゲームが更にその元であるという。
私は、その昔アヴァロンヒルがオワリを作っているのを知って意外な感に打たれたが、こうした文脈で考えるなら、すんなりと理解できる。
確かに、著しい魅力を放つドイツゲーム・ユーロゲームであっても、それが全くの虚空から生み出されたものでないのは当然と言えば、当然であろう。とは言え、チェスやチェッカー(ドラフツ)、ドミノやトランプと、モノポリー、アクワイア間の溝は小さくない。そのような溝を埋める役割の一端(特に前半の)を担ったものが、こうした「伝統ゲーム由来の近現代ゲーム」ととらえるならば、時間的にも論理的にも納得しやすい。
そこには歴史の必然とまでは言わないまでも、明確な時代の流れがあったと認めることができるのである。
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【関連資料】
■講座の音声ファイル(mp3ファイル、音声のみの形で講義をお聞きしたい方のために)
こちらからダウンロードできます。
■講座に使用されているスライド(PDFファイル)
https://docs.google.com/file/d/0B2fXntLkQD05TFZ4bEVmX1BpcVU/edit
■沢田大樹氏のウェブログ「実録:食卓遊戯密着大本営発表廿四時」より、今回の講義の原型になった記事。
・重要タイトルで振り返る捏造ドイツボードゲーム20年史(part1)
http://toccobushi.exblog.jp/13792804/
・重要タイトルで振り返る捏造ドイツボードゲーム20年史(part2)
http://toccobushi.exblog.jp/13804985/
・重要タイトルで振り返る捏造ドイツボードゲーム20年史(part3)
http://toccobushi.exblog.jp/13868416/
・重要タイトルで振り返る捏造ドイツボードゲーム20年史(part4)
http://toccobushi.exblog.jp/13994149/
・重要タイトルで振り返る捏造ドイツボードゲーム20年史(part5)
http://toccobushi.exblog.jp/14041350/
■今回の講義のモデルとなった岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』(中公新書)
![西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書) [新書] / 岡田 暁生 (著); 中央公論新社 (刊) 西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書) [新書] / 岡田 暁生 (著); 中央公論新社 (刊)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/411RSWQ53KL._SL160_.jpg)