2013年02月07日

【レビュー】雑誌『内外教育』記事「『ごっこ遊び』で養う社会性」を読んで

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【レビュー】雑誌『内外教育』記事「『ごっこ遊び』で養う社会性」を読んで

 小春香子 (協力:岡和田晃、齋藤路恵、高橋志行)

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 先日、職場の同僚と共同で購入している教育系の雑誌、『内外教育』(2012.11.6)を読んでいたら、アナログゲームの教育利用に関する実践報告で、大変興味深いものがありましたので紹介します。

・「内外教育」(時事通信社)2012年11月6日号の内容紹介
http://www.jiji.com/service/senmon/educate/backnumber_doc/e121106.html

 この「『ごっこ遊び』で養う社会性」(著:安藤ひかり氏)という記事は、第27回時事通信社「教育奨励賞」の努力賞を受賞した学校・教育機関の取り組みを紹介する記事で、ここでは熊本県荒尾第一幼稚園での教育実践が取り上げられています。
 この幼稚園ではよく一般の幼稚園や保育園で行われている「ステージの上で園児が踊ったり演劇をしたりする」というお遊戯会を見直し、その代わりに「ごっこ遊び」の延長として、まるでライブ・アクション・ロール・プレイング(以下、LARP)のようなプログラムを行っているということです。記事によると、このプログラムは園職員が解決すべき課題のあるシチュエーションを絵本の物語風に提供し、子ども達は自分達で課題解決の方策を考え、役割分担をし、保護者や園職員が扮する悪役と自分の体を動かしてちゃんばらごっこ風に戦ったりなどするプログラムのようです。
 このプログラムを導入し普段の生活の中でも「遊び」を重視していくことにより、園児たちが遊びの中から思考力や社会性を獲得し、自分たちで作ったルールをきちんと守っていく力が生まれてきていると報告にあります。

 LARPは実際の古城などをかりきって中世ヨーロッパ風の衣装に着替え、実際に身体を動かしながら会話型RPGと遜色ないようなシナリオを体験していく、演劇とオリエンテーリングを合わせたものです。日本では住宅事情などから、LARPの本場である欧米よりも大規模なLARP開催が難しいのではないかとされてきました。
 しかし、最近では日本でも「リアル脱出ゲーム」と呼ばれる、体験型エンタテイメントなどが各地で試みられるようになりました。これらは代替現実ゲーム(Alternative Reality Games)と呼ばれています(*)。
 LARPのように演劇的な要素を必ずしも伴うわけではないのですが、中には物語的な体験を強めるために、参加者にロールプレイ的なふるまいを求めるタイプのARGも少なくないようです。また、ゲームの持つ教育効果に着目した企業の新人研修などでLARP的な即興演劇に近い演習が取り入れられているという報告も目にするようになりました。

 この荒尾第一幼稚園の実践を見て、こうしたLARPの原点が幼児・小学校低学年児童に人気の「ごっこ遊び」にあるのだと、そして案外私たちはそのことを忘れてしまっているのではないかと思いました。企業の研修などはもちろん大学後期の学生や社会人が対象ですし、リアル脱出ゲームも大学生や社会人という年齢層をターゲットにしています。LARPとは少し違いますが、同じくごっこ遊びの延長に位置するだろう会話型RPGも、多くが中学生や高校生以上の年齢層をメインユーザーとして想定しているのだろうと感じられます。それ以前の年齢層、つまり小学生くらいの年齢で一度こうした「体を動かして物語を楽しむ」の遊びの経験が途切れてしまっているのではないでしょうか。
 小学校くらいの年齢の児童が外遊びをしなくなった理由として、遊べる公園などが少なくなったこと、塾や習い事、部活動などで仲間が集まりにくくなり、また長く遊ぶ時間が取りにくくなったこと、電源系ゲームなど手軽に1人で出来る遊びが増えたことなどがよく挙げられています。一方で、子どもの体力の低下を気にして体育(スポーツ)の「塾」や家庭教師などが登場し、子どもの外遊びを支援する社会教育系NPOも数多く存在します。ゲーム性は薄いですが、なりきりの一環としては小学校低学年を対象とした職業シミュレーションテーマパーク、キッザニアなども盛況です。また、この記事にあるようにこうしたLARPには他者とのコミュニケーション能力や主体性、想像力を育む効果が期待できますから、小学校から中学校くらいの年齢の子どもたちの遊びの選択肢としてLARPは需要があるだろうと考えられます。大学生や社会人に現在リアル脱出ゲームなどのLARPに人気が出ているのは、年齢が高くなるにつれて情報量が増えて世界が広がって仲間を得やすくなったり、彼らを満足させるような充分な物語性やルールなどのシステム作りが出来上がっているサービスが様々な形で提供されていたりするからではないかと考えます。だとするならば、もっと幼稚園くらいの年齢から小学校、中学校くらいの年齢層を対象にしたLARPが存在しても良いのではないかと思いました。
 ところで私は大学時代、社会教育や開発教育のゼミで「遊び」の教育効果を研究していました。その研究のための調査の中で、小学校低学年から中学年くらいの子どもを対象に大きな公園などで本格的に忍者ごっこをするぞ! という企画をしていたNPOに取材に行ったことがあります。
 一方でこうしたLARPは開催やシナリオ作成の難易度が高いのも特徴の1つだと思います。参加対象者の年齢が上がってくると特にそれははっきりとあらわれてきます。前述の忍者ごっこなどの実践も、小学校高学年の児童の参加者はかなり少なくなっていました。電源系ゲームなど高いゲーム性や物語性を持つ遊びに普段接していると、子ども達の遊びへの要求水準はかなり高くなっています。SCRAPの開催しているリアル脱出ゲームはその要となるパズル部分の高い難易度やクオリティが人気を誇る要素の1つですし、キッザニアはさまざまなジャンルの協賛企業が自社のPRも兼ねてかなり本格的な設備を提供し、参加者の満足度を高めています。そうしたことを考えると、LARPを行おうと思ったときに一番高いハードルとなるのは、LARPの中核となるゲーム性や物語性を作る部分になるのではないでしょうか。子ども達、もしくは彼らの保護者や社会教育関係者があまりLARPを遊んだり運用したりする経験が少ないならば、この部分を満足いくまでに作り上げていくのはとても難しいでしょう。LARPなどに慣れている人が雛型を作ったり運用してみせたりすることではじめて子ども達がLARPを自分たちで楽しんでいく力がつくのではないかと思います。
 このように大人だけではなく子どもを対象にしたLARPを提供していくことが出来れば、彼らが成長したときに現在の大学生や社会人向けのLARPの裾野がもっと広がっているのではないか。そんなことを考えさせられる記事でした。

(*)ARGの定義については『ARG情報局』内のこの記事が詳しい。http://arg.igda.jp/p/arg.html

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2012年12月13日

【レビュー】まさかのシュルレアリスムRPG『Itras By』英訳版の登場!

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【レビュー】まさかのシュルレアリスムRPG『Itras By』英訳版の登場!

 八重樫尚史 (協力:岡和田晃)

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 あなたは『Itras By』という会話形RPG(テーブルトークRPG、TRPG)をご存知でしょうか。
 もともとノルウェーで2010年に発売され、Vagrant Workshop社(ペンギンを遊ぶRPG『Valley of Eternity』の英訳もした最近僕のお気に入りのゲーム会社)が2012/12/07に英訳版を出したばかりの新しいRPGです。
 この記事では、『Itras By』の概要を、手短にご紹介いたします。
 英文を参考にまとめたものですので、早合点や読み間違いなどがあるかもしれませんが、ご容赦いただけましたら幸いです。
itras_by_220.jpg
itras_by_slide.jpg
※(画像は公式サイトより)

 コンセプトを見た段階で、僕のハートは鷲掴みにされました。
 「1920年代で、シュルレアリスムを遊ぶRPG!」
 エッジを利かせるにも程があるというものです!
 僕も最初は「アンドレ・ブルトン(シュルレアリスム運動の理論的指導者)という名前にひっからない人はお断り」なゲームかと思っていました。
シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫) [文庫] / アンドレ ブルトン (著); Andre Breton (原著); 巖谷 國士 (翻訳); 岩波書店 (刊)
シュルレアリスム宣言;溶ける魚
 実はそういった近代美術史ファンに限定されたゲームという訳ではなくて、1920年代の架空の都市でキャラクターを演じるという『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』などに通じるゲームです(結構、欧州ではそういったゲームのニーズがあるようです。同じくVagrant Workshopが英訳したドイツ産の『Vampire City』もそんな感じでしたし)。
 そう、『Itras By』というこのゲームの名は、英語で書くと「Itra's City」、日本語では「イトラの街」という意味です。基本的にはこのイトラという名の街の一人となって遊ぶRPGになります。

 ただし、この『Itras By』はより旧来の会話型RPGから離れたシステムを持っていて、簡単に言えばダイスレスで数字データもないゲームです。その代わりに、基本的に行為判定には「Chance Card」(チャンス・カード)というカードを使用します。
 「Chance Card」には8種あって、単純な成功失敗以外の効果が出る仕組みです(ゲーム的に説明すると、“部分的”成功のようなもの)。
 また、別に「Resolusion Card」(レゾリューション・カード)というものがあり、プレイヤー各人はこれを1セッションで1回使わなければならないというシステムです。
 こちらのカードは、危険な状況などで判定を行おうとする際に使用されます。ここがシュルレアリスムという所の肝で、カードによってはとんでもないロールプレイが要求されます。

 例えば「Cut Scene」(カット・シーン)というカードを引くと、強制的に3時間ぶんの時間が跳びます。しかしプレイヤーは、そのまま続けてロールプレイしなければなりません。また、その際に空白の3時間の描写は禁止です(!)。
 中でもRPG的にとんでもないのが「Masquerade!」(マスカレード!)というカードで、これを引くとそのシーンの残り、全てのプレイヤー(ゲームマスター含む)がキャラクターをスワップしてプレイします。
 「オートマティズム(自動筆記)」とか「コラージュ」といったシュルレアリスムの手法を導入したということなのでしょう。
  カード部分は、オフィシャルページでPDFファイルとして公開されています。英語になりますが、興味のある方はご覧ください。

・Itras by Chance Cards(公式サイトより)
http://www.vagrantworkshop.com/files/itras_by_chance_cards.pdf

 これまでの他のゲームと比較するとすれば、方向的にはやはり『ローズ・トゥ・ロード』(2010年版)に近いでしょうね。
 カード使用法でも、『TORG』のサイドストーリーカードや『深淵』の運命カードの流れの延長線上に位置づけることができそうです。また、カードゲームの『ワンス・アポン・ナ・タイム』も遊び方としては似ているかもしれません。

 まだ遊べていませんが、おそらく実際にプレイしてみると、ゲーム・セッションは、「スラップスティック」なナラティヴ・スタイルのゲームになると思います。カードの助けがあるので、意外と運用しやすいかもしれません。
 ノルウェー版公式サイトには『Itras By』、というよりもシュルレアリスムの空気を掴むことができるように、ルイス・ブニュエル監督でサルバドール・ダリも参加したシュルレアリスム映画の代表作「アンダルシアの犬」等をサンプリングしたティーザー動画が用意されています。
 1920年代のシュルレアリスムとはなにかを知るよすがになるかもしれません。
 ただし、結局なにがなんだかよくわからない(これぞシュルレアリスム)かもしれませんし、映画史上に残る名シーンである「眼球切断シーン」が入っていますので、そういったものに耐性のない方は、くれぐれも再生ボタンを押さないでください。


 ここ最近、海外では2046年の日本でサイバーパンク(「ニュー公明党」が政権第1党をやる)フランス産の『Kuro』(http://www.7emecercle.com/7cercle/jdr/kuro.php?page=Inf)のような尖ったゲームが出ています。
 そして『Itras By』みたいに、英語圏以外のゲームであっても英語に翻訳されるものも登場し、PDFファイルで、ほとんどタイムラグなく手に入るようになりました。いい時代になったものです。

・Vagrant Workshop『Itras By』特設ページ
http://www.vagrantworkshop.com/index.php?categoryid=8&p2_articleid=42

※2012/12/13 一部修正。
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2012年04月13日

【レビュー】エドワード・ミード・アール編『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』


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【レビュー】エドワード・ミード・アール編『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』

 岡和田晃

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 今回はエドワード・ミード・アール編『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』Edward Meard Earle(ed), Makers of modern strategy: millitary thought from Mahiavelli to Hitler (Prinston: Prinston University Press, 1943)という、戦略研究の分野における古典をご紹介いたします。

 ルドロジー(ゲーム学)の重要な立役者の一人であるゴンザロ・フラスカは、ゲームを定義づけるにあたり、ゲームとパズルを明確に区分しました。その基準を平たく言えば、双方向性(インラタクティヴィティ)を有するか否かというものでした。自分と相手の駆け引きということです。当然そこには何らかの戦略があるとしても言い過ぎではないでしょう。ゲームの達人たろうとすれば、まず戦略の実例を学ぶことが求められます。

 今回レビューを行なう『新戦略の創始者 マキアヴェリからヒトラーまで』は書名の通り、近代の戦略研究を築き上げてきた思想家たちについて論じた「国際的・学際的戦争研究の古典」として知られており、戦略の実例の宝庫といえるでしょう。

新戦略の創始者 〜マキアヴェリからヒトラーまで 上 [単行本] / エドワード・ミード・アール (著); 山田積昭 (翻訳); 原書房 (刊)新戦略の創始者―マキアヴェリからヒトラーまで〈下〉 [単行本] / エドワード・ミード アール (著); Edward Mead Earle (原著); 山田 積昭, 石塚 栄, 伊藤 博邦 (翻訳); 原書房 (刊)

 戦略という概念はその成立にあたり、とりわけ近代の戦争形態の変化と密接な関わりを持っていました。こうした広義に渡る戦略観を概説できるように、本書はルネッサンス期からナチス・ドイツの戦略に至るまで幅広い論考を集め、戦略概念の形成と拡張の過程を体系的に理解できるようになっています。
 そして本書の頁を繰るうち否応なしに伝わってくるのは、各々の書き手が戦略論の立役者たちの読み直し(リ・リーディング)を経ることで、戦略というものをよりアクチュアルに捉え直そうとしていることです。


■本書の構成

 それでは、具体的に本書の構成を見てみましょう。

 序言(抄訳)

 第I部 近代戦の原点――一六世紀から一八世紀まで
 第1章 戦術のルネサンス マキアヴェリ
 第2章 戦争に及ぼした科学の影響 ヴォーバン
 第3章 王朝戦争から国民戦争へ フリードリヒ大王 ギベール ビューロー

 第II部 一九世紀の古典――ナポレオンの解説者たち
 第4章 フランスの解説者 ジョミニ
 第5章 ドイツの解説者 クラウゼヴィッツ

 第III部 近代戦の開花――一九世紀から第一次世界大戦まで
 第6章 軍事力の経済的基盤 アダム・スミス アレクサンダー・ハミルトン フリードリヒ・リスト
 第7章 社会革命の軍事的概念 マルクス エンゲルス
 第8章 プロイセン流ドイツ兵学 モルトケ シュリーフェン
 第9章 フランス流兵学 ド・ピック フォッシュ
 第10章 フランス植民地戦争の戦略の発展 プジョー ガリエニ リヨテ
 第11章 軍事史家 デルブリュック

 第IV部 第一次世界大戦から第二次世界大戦まで
 第12章 文民による戦争の主宰 チャーチル ロイド=ジョージ クレマンソー
 第13章 ドイツの総力戦観 ルーデンドルフ
 第14章 ソ連の戦争観 レーニン トロツキー スターリン
 第15章 マジノ リデルハート
 第16章 地政学者 ハウスホーファー

 第V部 海戦と航空戦
 第17章 シーパワーの伝道者 マハン
 第18章 大陸におけるシーパワーの教義
 第19章 日本の海軍戦略
 第20章 航空戦理論 ドゥーエ ミッチェル セヴァースキー

 終章 ナチスの戦争観 ヒトラー

 解題 国際的・学際的戦争研究の古典としての『新戦略の創始者』 中島浩貴

 文献解題
 索引

 最後「ナチスの戦争観」で締めくくられるのは、本書がナチス・ドイツが引き起こした第二次世界大戦の真っ只中でまとめられたものだからです。

 本書に収められた論考はそれぞれ、1943年に行なわれたプリンストン大学高等研究所軍事ゼミナールでの議論がもととなっています。

 1943年、ナチス・ドイツが引き起こした第二次世界大戦は、独ソ戦におけるドイツ軍の大敗・イタリア戦線の開始など、泥沼の一途を辿っていました。日本では国家総動員法が施行され、総力戦体制が敷かれつつありました。そうした現在進行形の状況を理解し的確な判断を下すためのアクチュアルな研究として、本書がまとめられたことは疑いがありません。とりわけナチス・ドイツによる迫害を逃れたドイツ人研究者たちの仕事は、本書をより意義のあるものとしたと言われています。

 本書は1978年に原書房より刊行された後、長らく絶版となっていましたが、このたび中島浩貴氏による訳文見直し・訳語統一・文献解題の確認、および詳細な解説を添えたうえでの復刊と相成りました。

 中島氏によれば、本書に収録された論考の多くは1986年に発表された新版にも引き継がれているとのことです。これは、本書は第二次世界大戦中に刊行されたものですが、戦後の社会変化や研究の進展を経てもなお、収録された論考の多くに高評価が与えられているということを意味します。


■本書の特徴

 戦略論に関する著作はいくつも刊行されていますが、本書はその歴史的意義のほかにも、下記のような特徴を有しています。


 ●1:戦略論の古典的な思想が、的確に要約されている。

 本書を一望してわかるのは、マキャヴェリから始まる近代戦の原理を構築した思想家、そしてクラウゼヴィッツなど、ナポレオン時代に活躍した戦略論の古典的思想家が、簡潔に紹介されていることです。


 ●2:戦略論の受容史を知ることができる。

 戦略論の古典がいかに読まれてきたのか、そうした受容史を学ぶためにも、本書は活用することが可能です。クラウゼヴィッツ一人とっても、長い解釈の歴史があり、それを抜きにして戦略を語ることはできません。


 ●3:思想家の意外な側面を知ることができる。

 アダム・スミスやマルクス、ロイド=ジョージなど、主に経済学的な見地から語られることが多い思想家の仕事が、本書では戦略論の観点から紹介されています。思想家の多角的な顔を知り、あるいは戦略論という分野の応用性を知るためにも有用です。経済史や政治史に興味がある方が、軍事史へ射程を伸ばそうとした際、本書はまたとない見取り図を提供してくれます。


 ●4:日本では馴染みの薄い思想を学べる。

 ヴォーパン、ジョミニ、デルブリュックなど、戦略研究に馴染みがない読者にとっては触れる機会が少ないであろう思想家・軍事史家の思想が、本書は明確に要約されています。その意味で、本書は日本人の読者にとって貴重な資料ともなっています。


 ●5:各国の兵学や戦争観を概観できる。

 モルトケやシュリーフェンらのドイツ兵学やルーテンドルフらドイツの総力戦観、ド・ピックやフォッシュらのフランス兵学、あるいはレーニン、トロツキー、スターリンらソヴィエト連邦の戦争観を概観することができます。とりわけ総力戦についての記述は圧巻です。最終章のナチスの戦争観と併せ読めば、本書が二次大戦中、実践的な必要性で編まれたものであり、何よりも戦略論という分野がアクチュアルな必要性をもって求められていたことがよくわかります。


 ●6:戦略論の新たな潮流について知ることができる。
 
 本書の下巻では、地政学・シーパワー論や航空線理論など、今日の戦略研究の基盤を形成する重要な主題についても、充実した研究が寄せられています。こうした新しい潮流についての基礎を知るためにも本書は有用です。


■終わりに

 そもそも戦略を研究することは、再現しようとする戦争行為の内在的論理を探るということを意味します。ひとえに戦争といっても、時代や社会状況、あるいは参加する兵士たちや指揮官の質によって、その性質や展開は千変万化します。

 それゆえに、どのような戦略が功を奏し、いかなる戦略が愚策に終わったのかを精査し考察を重ねることは、特定の戦争における煩瑣な事実を集積するのみに終わるものではありません。いささか大仰な言い方が許されるのであれば、戦略の研究はそのまま、(予想しがたい)未来を切り拓くための術(すべ)を探りゆくことにも繋がるのではないでしょうか。『新戦略の創始者』は、私たちが未来を考えるための、またとない手がかりを提供してくれることでしょう。

新戦略の創始者 〜マキアヴェリからヒトラーまで 上 [単行本] / エドワード・ミード・アール (著); 山田積昭 (翻訳); 原書房 (刊)新戦略の創始者―マキアヴェリからヒトラーまで〈下〉 [単行本] / エドワード・ミード アール (著); Edward Mead Earle (原著); 山田 積昭, 石塚 栄, 伊藤 博邦 (翻訳); 原書房 (刊)
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2012年01月02日

【レビュー】『Warhammer 40,000 RolePlay Death Watch』プレイビュー


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【レビュー】『Warhammer 40,000 RolePlay Death Watch』プレイビュー

 田島淳

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 『Warhammer 40,000 RolePlay Death Watch』をプレイする機会に恵まれた。

 先頃発売されたプレイステーション3、XBOX360用ゲームソフト『ウォーハンマー40,000:スペースマリーン』【CEROレーティング「Z」】をご存知だろうか。

ウォーハンマー40,000:スペースマリーン 【CEROレーティング「Z」】 / サイバーフロントウォーハンマー40,000:スペースマリーン 【CEROレーティング「Z」】 / サイバーフロント

 知らない方はこちらをご覧いただきたい。

 http://www.cyberfront.co.jp/title/spacemarine/

 いかがだろうか?

 遠い未来を感じさせるSF世界。

 お馴染みのパワードアーマーらしきものに身を包んでいるのにも関わらず、何故か頭部むき出しの厳つい大男がチェーンソーの刀身を持つ剣で緑色の肌をした亜人間の胴体を真っ二つに切り裂いている。

 彼らこそがスペースマリーンだ。

 観る者に強烈な印象を残すこの最新アクションゲームはその由来をミニチュアバトルゲームに持っている。


 「暗黒の遠未来に唯一残ったもの、それは戦争」

 日本でも展開されているミニチュアバトルゲーム『ウォーハンマー40,000』は人類が滅亡の危機に瀕する第41千年紀という遠未来が舞台である。

 〈暗黒の千年紀(ダークミレニアム)〉と呼ばれるこの世界の様相は、およそ1万年経った今も人々の記憶に強く焼き付けらている忌わしき出来事に端を発してる。

 1万年前、神々の御意志によって人類の長たるべく選ばれた不死なる皇帝は、その強大無尽蔵ともいえる軍事力を率いて銀河全域を平定するべく〈大征戦〉を展開していた。スペースマリーンはその主力である。彼ら〈戦闘者〉は遺伝子操作を施された身の丈3mを超える巨人であり、肉体の頑健さ、および強靭さは常人に倍する文字通りの超人だ。また出身戦団によって様々な異能、超能力を有する。

 スペースマリーンの最前線における獅子奮迅の活躍によって聖なるテラ(地球)を中心とした人類の〈帝国(インペリウム)〉による銀河統一は時間の問題かと思われた。しかし総主教の中でも、ひときわ皇帝の信頼厚き大元帥ホルスが混沌の〈禍つ神々〉に魂を売り渡す事をためらわず、ましてや皇帝その人に反旗を翻そうとは誰が想像し得ただろうか。

 〈ホルスの大逆〉と呼ばれるこの卑劣な裏切り行為により〈帝国〉は真っ二つに引き裂かれ、また皇帝自身もホルスを討ち取る際に瀕死の重傷を負った。〈大征戦〉は頓挫し、人類は衰退を余儀なくされたのである。オルク、エルダー、ネクロン、ティラニッド、タウ・エンパイア、そしてケイオスの軍勢。人類に敵対する勢力はその力を取り戻し、また新たなる脅威も現れ、銀河は有史以来最も血生臭い時代に突入している。

 数々の外敵に〈帝国〉もただ手をこまねいている訳ではない。超人的な力を有するスペースマリーンを中心として敢然とこれらの勢力に立ち向かっている。だが皇帝の威光は翳りつつあり、肥大化し、手の行き届かない〈帝国〉の諸惑星は次々と敵の手に落ちている。人類の劣勢は否定し難く、永遠の闇はそこまで迫っているのだ。

 さてミニチュアバトルゲームではこの諸勢力の軍勢を構築しプレイをする。

 戦場を再現したディオラマに、同じ特色を持ったミニチュアが多数並べられアーミーを形成し、また違う特色を持つアーミーとぶつかり合う様は壮大で興奮する。正に多数のキャラクターを一度に扱うミニチュアゲームでしか味わえない楽しさがある。

 だが、このミニチュアのキャラクター1人1人に目を向けて見ることはできないのだろうか。

 この丁寧に塗り分けられた精緻なつくりのスペースマリーンは、どこで生まれ、どんな経歴を持ち、この過酷な世界で何を考えて生きているのだろう。そもそもなんていう名前なのだ?

 これらの疑問を解き明かし、今までに経験した事のない楽しさを提供してくれるゲームがある。

 それが『Warhammer 40,000 RolePlay』だ。

 『Warhammer 40,000 RolePlay』(以下『WH40KRPG』)はミニチュアバトルゲーム『ウォーハンマー40,000』と背景世界を同じくする会話型RPGである。

 現在、プレイスタイルと密接な関係にあるキャリアごとに4つのコアルールが発売されている。

 異端を葬る為なら惑星ごと焼き払う「究極浄化」も躊躇わない異端審問庁の異端審問官『Dark Heresy』
Dark Heresy Core Rulebook (Warhammer 40,000 Roleplay) [ハードカバー] / Owen Barnes, Kate Flack, Mike Mason (著); Fantasy Flight Pub Inc (刊)

 危険な銀河を所狭しと飛び回る宇宙商人『Rouge Trader』
Rogue Trader Core Rulebook (Warhammer 40,000 Roleplay) [ハードカバー] / Fantasy Flight Games (Corporate Author); Fantasy Flight Pub Inc (刊)

 大逆人ホルスの如く混沌に魂を売った「裏切り者」ケイオススペースマリーン『Black Crusade』
Black Crusade: Roleplaying in the Grim Darkness of the 41st Millenium (Warhammer 40,000 Roleplay) [ハードカバー] / Sam Stewart (著); Jay Little, Mack Martin, Ross Watson (寄稿); Fantasy Flight Pub Inc (刊)

 これらは背景世界と元になるゲームシステムを共通とするが、単体でプレイ可能で各々にサプリメントが発売されるなど、それぞれが独自の展開を見せており、別のゲームと言っても良いほどである。

 そして『Death Watch』はその第3弾に当たる。取り上げられているのはそう、スペースマリーンだ。
Deathwatch: Core Rulebook (Warhammer 40,000) [ハードカバー] / Owen Barnes, Alan Bligh, John French, Andrea Gausman (著); Ross Watson (イラスト); Fantasy Flight Pub Inc (刊)

 タイトルであるデスウォッチとはスペースマリーンの各戦団から選抜された数百万人に1人のエリートである。スペースマリーンの中でもひときわ能力の高い者だけがデスウォッチに選ばれる。

 彼らはダークエンジェルやスペースウルフなどのそれぞれの出身戦団によって守らなければならない流儀と有する異能が特徴づけられている。例えばダークエンジェルなら過去の汚点から部外者を信用せず、それが習性となるまで定期的に戦団への従順さを試される。その代わり戦闘では踏み止まって戦い続ける並外れた体力を手に入れる。全てが凍てつく惑星フェンリスで生き延びてきたスペースウルフなら獲物を逃さない知覚力は誰もが有するが、名誉を必要以上に重んじる態度はしばしば厄介事を引き起こす。

 それらの特別な力はただただ聖なるテラの〈黄金の玉座〉にましまし続ける皇帝とその聖領である〈帝国〉のためだけに費やされる。

 彼らは皆、皇帝への篤い信仰を胸に抱く信徒であり、お互いを同胞(ブラザー)と呼び合う。

 また驚くべきことにデスウォッチは他のキャリアと違い戦場を選べる。

 巨大な官僚機構の頂点に位置する至高卿による最高評議会が皇帝の御名において下した決定は絶対であり、各宙域の司令官、次に星域長、そして星区長、さらに惑星総督にまで伝達されて皇帝の御意志、各キャリアへの任務はようやく実行される。しかしデスウォッチはある程度の自由を持って人類の守護という聖務を果たす。

 人類と外敵との戦いは正に最終局面を迎えようとしており戦場には事欠かない。そして戦場は例外なく厳しく、人類は敗北寸前の局面だ。その絶望的な状況を覆すためにデスウォッチ数名から編成されるキルチームは投入される。

 危機に瀕した惑星へその能力を高める為に両目を潰した超能力者サイカーの案内だけを頼りに宇宙船で急行し、外を伺うことできない降下用ポッドでここぞと当たりをつけた地表の一箇所へ射出される。

 ポッドから何事もなく出てくるキルチームはまさしく一般人を凌駕した〈戦闘者〉であり、人類の命運を双肩に掛けた救世主である。

 〈皇帝〉から下賜されたパワーアーマーやチェインソードなどの聖具で身を固めたマリーンの姿を見て、帝国市民は頭を垂れ、膝を折り「我が君」と熱のこもった囁きを漏らすのだ。

 そしてデスウォッチは圧倒的多数のエイリアンの群れに信仰心を武器にして戦いを挑み、勝利を皇帝に捧げるのである。

 引き延ばされた数百年の寿命の中でデスウォッチはその強固な信仰のもとにこの様な戦いを繰り返している。


 ここでゲームシステムに目を向けてみよう。

 『WH40KRPG』は『ウォーハンマーRPG』(以下『WHFRP』)2版の正統な後継と言える。能力値や技能、異能などキャラクターを表す要素はほぼ変わらない。

 ここで軽く『WHFRP』について触れておこう。

 『WHFRP』は現在3版までが発表されており、日本でもかつて初版が社会思想社から発売され、2版もホビージャパンから展開されている三十年戦争時代のドイツをモチーフとしたファンタジーRPGである。

 数あるファンタジーRPGの中でも『ウォーハンマーRPG』はプレイヤーキャラクターが開始時点において一般人と何も変わりなく、むしろそれが特色の1つと言っていいゲームだが、そのスペックは当然ながら一般人のそれだ。そのため鎖帷子を着込み剣と盾を構えた兵士でも、農具を構えた死にもの狂いで襲いかかる3人の農夫に屈服させられてしまう事が起こりえる。

 『WH40KRPG』においてもシリーズ第1弾である『Dark Heresy』では事情はあまり変わらず、作りたてのプレイヤーキャラクターである異端審問官見習いの能力は『WHFRP』でせいぜい数回の冒険を経て成長させたキャラクターに等しい。


 だが『Death Watch』は違う。

 その違いは格闘技やスポーツにおける階級に近い。『WHFRP』や『Dark Heresy』などのプレイヤーキャラクターが軽量級なら『Death Watch』は超重量級だ。横たわる肉体の格差。経験では越えられない壁。それが『Death Watch』の特徴である。

 数値を『WHFRP』と比べてみると『Death Watch』のキャラクターは肉体の筋力と頑健さを表す能力値による効果がドーピングにより2倍強あり、また彼らにしか扱えない武器も同様に倍の威力がある。

 デスウォッチの右腕にはめた1mにも及ぶ巨大な拳、聖具パワーフィストが『WHFRP』のキャラクターに当たると、彼は2d10に10前後の筋力ボーナスを加えたダメージを被るのだ。

 デスウォッチの肉体の強靱さが倍なのは比喩でも何でもなく文字通りの意味なのである。

 もちろん敵もその分強力になり、今までのシリーズ作品からはお目にかかることができない数字が戦闘では飛び交う。

 先行作品のプレイ経験がある者はまず唖然とし、次にこの新しい光景がもたらす快楽に自然と笑みを漏らすだろう。


 さらにデスウォッチの超人性を際立たせるルールとして「群れ(Horde)」が設定されている。

 これは群衆などの大勢を1体のキャラクターとして見做すルールで、例えば100体のミュータントの群れを1つのデータで管理する。そうする事によりその100体のミュータントをデスウォッチ1人で相手どる事がゲームで描写できる。彼は重火器の連射でそいつらを蹴散らすのだ。一定のダメージを与える毎に群れは士気が保てるか試され、その判定に失敗すると敢えなく崩壊して敗走する。

 『WHFRP』では兵士が農夫に屈服させられてしまう事があると述べたが、『Death Watch』では圧政に耐え切れず悲壮な決意で蜂起した民衆の意志を1人の掃射で挫くことも容易だ。


 以上のことから『Death Watch』は他の『WH40KRPG』と元のシステムを同じにするにも関わらず、扱う数値を上方にシフトするというシンプルなアイデアに超人であり一般人からみたら半神にも等しいデスウォッチという設定を乗せて既存作品との差別化を図っている。それにより全く別のゲームをプレイしている印象を与えることに成功している。システムと設定の見事な融合と言えるだろう。


 ここまでゲームの面から『ウォーハンマー40,000』を眺めて来たが、重厚な背景世界を味わい尽くす為に忘れてはならないものがある。実力派作家のスピンオフ小説だ。

 残念ながら1冊も翻訳は出ていないが、『禅銃』のバリントン・J・ベイリーによる長編『Eye of Terror』、『黒き流れ』三部作や『エンベディング』のイアン・ワトスンによるその名も『Warhammer 40,000 Space Marine』、『WHFRP』2版の巻頭小説『人生は、死を越えてなお』を手掛けたダン・アブネットによる『Gaunt's Ghosts』シリーズなど数々の小説が発表されている。英語に堪能な方はこちらに触れてみるのもいいかもしれない。
Eye of Terror (A Warhammer 40, 000 novel) [ペーパーバック] / Barrington J. Bayley (著); The Black Library (刊)
 また、まずは手軽にゲームを初めてみたいという方には簡易ルールとシナリオがセットになった体験版がこちらからダウンロードできる。
http://www.fantasyflightgames.com/edge_minisite_sec.asp?eidm=108&esem=4


 『WH40KRPG』の世界は勢いを増して、留まることを知らない。思い切ってこの流れに飛び込んでみてはいかがだろうか。

 皇帝陛下の御慈悲。そは許しにあらず、忘却にあらず。ただ受け入れることにあり、だ。


posted by AGS at 18:41| レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月15日

【レビュー】華麗なる大空の騎士たち―空戦ゲーム「Wings of War」―

【レビュー】華麗なる大空の騎士たち―空戦ゲーム「Wings of War」―

 蔵原大

Wings of War

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【ゲーム紹介の本文】

 今回の記事は、「Wings of War」(以下WoW)という、第一次世界大戦の空中戦を再現したイタリア製のミニチュア・ウォーゲームのご紹介です(NEXUSという会社が販売しています)。2007年にイタリア人たちとプレイしたのですが、ルールは簡単(将棋よりずっと楽でしたので、ゲームのシステムにすぐなじむことができました。

 ゲームの詳しい内容は、NEXUS社の運営するサイト( http://www.wingsofwar.it )をご覧いただきたくお願いしますが、ここではほんのさわりだけを書きとめておきます。
Wings of War

 WoWでは、プレイヤーは(画像にある)ミニチュアの航空機を操縦して、敵機を撃墜すべく、大空(にみたてた平らな盤ならなんでも可)を駆け回ります(基本セットは最大4人までプレイ可能)。ゲームの手順は「移動の計画」「移動(戦闘)」「移動(戦闘)」「移動(戦闘)」という、4回の行動の繰り返しです。ルールは非常に単純で、基本ルールの説明には口頭で5分ほどを要する程度です。あとは実際に飛んで、ゲームの流れを習得してください。

 WoWの英語ルールは、"WINGSOFWAR.IT." WINGSOFWAR.IT: Wings of War. ( http://www.wingsofwar.it/read.asp?id=2658 ) から無料ダウンロードできます。日本でも店頭購入("Role&Roll"やイエローサブマリン)の場合は邦訳ルールがついている場合があります。お店の人に確認しておくとよろしいかと。こちらのサイト( http://a-gameshop.com/SHOP/WOW1.html )では5,550円で販売されています。

 アマゾンですとこんな感じです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00067ID0G/ref=pd_sim_t2
http://www.amazon.co.jp/dp/B00097DDD0/ref=pd_sim_t2
http://www.amazon.co.jp/dp/B000ALCC3C/ref=pd_sim_t1

 このゲームでは、移動の操作も戦闘の判定もすべて備え付けのカードを使い、サイコロはまったく使いません。移動は、移動用のカード(プレイヤーが手持ちの中から選んだもの)に描かれた矢印にそって、飛行機のミニチュアを動かすだけでいいのです。戦闘は、だれかの飛行機が他のプレイヤーの飛行機の機銃の射程内に入ったときに発生します。その場合は射撃用カードを引き、そこに書かれている数字やマークを頼りに、敵を撃墜できたかどうか判定します。
Wings of War

 WoWに登場する航空機は、現実には布やワイヤー、ベニヤ板などで継ぎはいだハリボテの複葉機でした(重さはせいぜい乗用車並みの1トン)。第二次世界大戦以後とはちがい、大型の機関銃とかミサイルなんて代物は備えておらず、敵機を撃墜するのはなかなか大変です。従って4人プレイの場合、撃ったり撃たれたりと、プレイ時間は1時間ほどになるでしょう。ゲームで使用する盤の大きさを狭めると、飛行機の機動の余地がなくなるため、プレイ時間を短縮できると思われます。とはいえこの場合、飛行機があっさりゲーム盤の外側に転げ落ちる危険性があります(蔵原はそれをやっちゃいましたが)。

 このゲームの興味深い所は、第一次世界大戦当時の空戦で実際に使われた戦法をお試しできる点です。以前にプレイした際、往時の空戦に詳しいプレイヤーが史実の戦術を解説しながらやってみせ、見事勝ち抜きました。クルクル回る複葉機の戦いを体験してしまうと、第二次世界大戦になっても旋回性能にこだわった日本軍やイタリア軍の気持ちがなんとなく理解できますね。WoWのように戦争の一幕をうまく切り取ったゲームは、歴史に思いを馳せる際のいい教材になります。
The evolution of the dogfight
(Quoted from "The Beginning of the Dogfight." http://www.warandgamemsw.com/blog/539229-the-beginnings-of-the-dogfight/ )

 好評だったこのWoW、その続編にあたる第二次世界大戦バージョンがあるそうです。その名も「Dawn of War」(戦争の夜明け)とか( http://a-gameshop.com/SHOP/WOW6.html )。

 アマゾンにもありました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B002PHLVYK/ref=pd_sim_t4

 こちらのクラブでもプレイされていますよ:West Tokyo Wargamers
 http://analoggamestudies.seesaa.net/article/203599618.html

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【ご参考までに:第一次世界大戦について】

 ご興味ある方向けに、第一次世界大戦についての参考書にも触れておきます。
 日本語で読める中で特に面白いのは以下のものです。

○ A.J.P.テイラー、倉田稔訳『第一次世界大戦―目で見る戦史』
第一次世界大戦―目で見る戦史
 http://www.amazon.co.jp/dp/4794823215

 高校の教科書ではあんまり取り上げられない第一次世界大戦、その始まりから終わりまで一連の流れをきっちり描いている本です。塹壕だらけの戦場がどうして生まれたのか、そもそもどうしてヨーロッパのど真ん中が戦場となったのか、空戦だけでなく戦略から人々の暮らしぶりまで解説されています。


○ バーバラ.W.タックマン、山室まりや訳『八月の砲声』
 http://www.amazon.co.jp/dp/4480853359

 テイラーの本とは打って変わって、こちら『八月の砲声』では第一次世界大戦勃発の数ヶ月しか扱われていません。しかし内容は濃密でして、開戦までの駆け引き、ドイツ軍の猛進撃、タンネンベルク、そしてパリをめぐる決戦などなど、ドラマチックな場面が生き生きと記されています。現代史は第一次世界大戦の落とし子である、と喝破する著者タックマンの語りは、一度読むとはまりますよ。


○ [映画]ブルーマックス
 http://www.tsutaya.co.jp/works/10025095.html

 この映画のタイトル「ブルーマックス」はドイツ軍の勲章の名前でして、身分卑しいパイロットが勲章欲しさに大活躍......というのが粗筋です。当然ながら空中戦のシーンも登場します。


○ [映画]ガンバス
 http://movie.goo.ne.jp/movies/p15799/

 資料的価値は完全にゼロのこの作品ですが、飛行機マニアなら一度は見て損ありません。やさぐれパイロット共がオンボロ複葉機(しかも妙な改造)を操って、ドイツ軍の巨大な飛行戦艦(全金属製飛行船のドでかいヤツ)と戦うという、チョーめちゃくちゃストーリー。派手な撃ち合いもさりながら「これ、実際には飛べないだろ〜」という改造機がゾロゾロ繰り出されるのは見もの。


○ [映画]紅の豚
紅の豚
 http://www.tsutaya.co.jp/works/10004154.html
 http://www.amazon.co.jp/dp/B00005R5J6

 ご存知、宮崎アニメ映画です。舞台は世界恐慌直後の地中海、ブタになった賞金稼ぎ(元空軍パイロット)が愛機に乗り込み奮戦します。第一次世界大戦が終わって10年以上たったという設定ですが、飛行機のテクノロジーは大戦当時とさほど変わっていません。主人公の回想シーンにイタリア軍複葉機(しかも水上機)が出てくるのもオツなものです。飛行機の機銃弾を一個一個チェックして「サビ弾まじってやがる」とブツブツ言いつつ整備する場面、ムッソリーニが台頭する時代背景に「いかがでしょう、愛国国債をお買いになっては」「そういうことは人間同士でやるんだな」等とさりげなく触れているあたり、実にオヤジくさく渋い逸品。
posted by AGS at 21:24| レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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