2023年11月20日
T&Tラヴクラフト・ヴァリアントと「大いなる意味」
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T&Tラヴクラフト・ヴァリアントと「大いなる意味」
けいねむ
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こんにちは。トンネルズ&トロールズファンのけいねむです。
ここ最近XのTLで『シュブ=ニグラスは二度ベルを鳴らす』をはじめT&Tラヴクラフト・ヴァリアントのお話が盛り上がっているようで、私も それにまつわるお話を書いてみようかなと思いました。
■はじめに
先日オフラインセッションで『ドルイドの末裔』(著:岡和田晃/豊田奏太)をGMする機会がありました。
そのセッションの為にTtTマガジンVol4掲載の『ラヴクラフト・ヴァリアント』のハウスルールサマリーを作成し、参加者の皆様に配布しました。幸いセッションは非常に楽しく成功裏に終わったのですが、ルール中「大いなる意味」に関する部分がいまいち理解出来ず、Xでどなたか教えてください、とポストする始末でした。
その際、リプライを頂けたフォロワーの皆様はなぜか言い淀むばかりで…… 。唯一とととさんより分かりやすく解説頂いて、私なりに解釈したものをルールサマリーに記載し、後ほど岡和田晃さんにお見せした際に「この運用例は面白い」と仰って頂いたので、今回ご紹介してみたいと思います。
■情報の取り扱いと「大いなる意味」
本ルールでは同じ情報、事象を経験してもキャラクター能力によりその理解度が異なり、得られる知識点も異なります。
シナリオの本質に近い情報ほど知識点は大きく有用ですが、同時に危険です。
「知らなかった方が幸せだった」情報を「大いなる意味」と呼びます。
以下にシチュエーション例を挙げます。
「招待された貴族の屋敷で皮の装丁をしたフランス語の書物を発見した」場合
全員同じ知性度15で知性度SR1レベルに成功したものとします。
PC1【探索者】:言語:英語のみ
PC2【学者】:言語:英語、フランス語を所持
PC3【学者】:言語:英語、フランス語に加えて専門知識:医学を所持
■知性度SR成功結果
PC1:紙質から古い本という事が分かった。読めないので内容は解らない。知識点5点
PC2:恐らく中世に書かれたカニバリズムの解説書という事が解る。知識点10点
PC3:PC2の情報に加えて、この本の装丁はごく最近、人間の皮膚で行われている! この本の持ち主に見つかってはまずい! 知識点100点に加えて精神安定度(ES)で1レベルのSR。
上記の例のように、読むための言語知識、専門知識の有無によって得られる情報が異なり、 そして上記の例のうち
「この本の装丁はごく最近、人間の皮膚で行われている!この本の持ち主に見つかってはまずい!」
という事柄が「大いなる意味」に相当します、またPC3はPC1とPC2にその情報を教えるかどうか選択が可能です。ただし情報を共有した場合同じ知識点を得られる代わりにESでのSRもついてきます。ESのSRで失敗した場合、失神や発狂の可能性があります。
■解説
T&Tラヴクラフト・ヴァリアントでは【探索者】のキャラクタータイプのPC1は知性度が18に達するまで「大いなる意味」を理解することが出来ず、今回の例ではそもそもフランス語を読めない【探索者】のキャラクターなので得られる知識点はほとんどなく、情報を教わっても 「この本の持ち主は危ないらしい、カニバリズム……蟹の仲間かしら?」 程度の理解度で、情報共有しても知識点は10点、ESの判定は行われません。
またフランス語を読める【学者】のPC2だとしても恐怖に慄くほどの情報は得られません。
加えて医学の知識を持った【学者】のPC3は唯一、「何故PCたちは招待されてしまったか」を理解して戦慄する訳です。このルールによりPCの知識と技能により「実感度」の違いが顕著に表れているかと思います。
なお【学者】、【ディレッタント】のキャラクタータイプは「あえて情報共有しない」という選択肢もアリです。 また、メタな話ですがいわゆる「クトゥルフ神話」の情報をPCが得た場合ほとんど例外なく「大いなる意味」に該当しESでのSRが必要となります。
T&Tラヴクラフト・ヴァリアントのシナリオを作成する場合、このようにタイプや知識・技能により得られる情報の違いを組み込むことにより、よりリアルな恐怖の表現が出来ると思います。
ところで最近、私は原著の方の『The Lovecraft Variant』を入手し、件の「大いなる意味」の箇所もしっかりと読んで最初にフォロワーの皆様に教えて頂けなかった理由を理解しました。
そう、理解しました………。
(セービングロールに失敗しバッタリと倒れる)
■書誌情報
トンネル・ザ・トロールマガジン Vol.4
2017/9/14 FT書房刊
The Lovecraft Variant
Glen Rahman/Philip Rahman
2020/1/20 Bolt Thrower Press刊
初出「FT新聞」No.3949(2023年11月17日)
2023年09月20日
『モンセギュール1244』プレイガイド〜準備編〜
2023年8月24日配信の「FT新聞」No.3865で、「『モンセギュール1244』プレイガイド〜準備編〜」が掲載されました。中世カタリ派を扱うナラティブRPGにしてゲームポエムの、訳者である私が書いた入門記事です。今回は事前準備と序盤を扱います。ご参考にしていただければ幸いです。
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『モンセギュール1244』プレイガイド〜準備編〜
岡和田晃
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中世カタリ派をプレイするモダン・ナラティブRPG『モンセギュール1244』の発売から2ヶ月強が経過し、私や版元が予想していたよりも、売れ行きは上々。ご愛顧に感謝します。オリジナル・デザイナーのウェブログでも紹介されました(https://thoughtfuldane.com/2023/07/29/montsegur-in-japan/?amp=1)。
「『モンセギュール1244』って何?」と思われる方は、2023年6月29日配信の「FT新聞」No.3809掲載、「『モンセギュール1244』がやって来た、ヤァ! ヤァ! ヤァ!」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/500017405.html)をご一読ください。
●完結した製品でも、やっぱりサポートは必要
『モンセギュール1244』は、製品としては基本ルールに、後に追加された拡張セットや今年出た英語版第2版での変更点を盛り込んであり、ワンボックスで完結した仕様になっています。
そこで今後はシステムが共通し、別の時代背景やテーマを扱うフォロワー作品の翻訳も行っていきたいと考えていますが、その前に、新しいスタイルの作品ですので、「FT新聞」のご厚意で、プレイのためのサポートを配信していきたいと思います。
なお、この記事はあくまでも、翻訳者・岡和田個人の試行錯誤を参考として示すもので、ユーザーの方のスタイルを束縛するものではない、ということをお断りしておきます。
●歴史背景についての知識はどれくらい必要か?
『モンセギュール1244』に興味を持った人が、一度は直面するだろう悩ましい問題です。西洋史に関心がある人であれば、カタリ派は必ず耳にしたことがあるはずで、高校世界史のレベルでもアルビジョワ十字軍にからめて言及があります。
その意味で、カタリ派に言及した文献は多数存在するものの、フィクションの題材としてはマイナー扱いされがちです。ゆえに、どの程度知っておけばよいかという問いに対して、万人を納得させられるような正解はありません。
気心の知れたプレイグループ内であれば、おそらく中世風ファンタジーRPGの延長線上でプレイしても、さほど問題ないものと思います。『モンセギュール1244』は字義的に厳密な「史実」だけではなく、聖杯伝承や魔女の術のような、カタリ派にまつわる伝承をも作中に取り込んでいる作品であるからです。
もちろん、ファイアボールやマジック・ミサイルが飛び交うわけではありませんし、死者は通常、よみがえることはありません。そのことはしっかり念頭に置いておきましょう。
ただ、未知の人を巻き込んだセッションともなると、参加者のうち、場を仕切る人(おそらくは製品を買った人でしょうが)については、ある程度の背景知識を持っておいたほうがよいかもしれません。そうでなければプレイできない……というわけではなく、現代の倫理観において、何がセンシティブで何がそうでないかを見分けるためには、現代との共通点と差異を、自分のなかで整理できるようにしておいたほうがよいからです。
最良のテキストは、ルールブックに付属し、公式サイトでも公開されているエジオ・メレガの「『モンセギュール1244』の歴史的背景に関する補足」でしょう。単に時代背景の解説だけではなく、キャラクターカードやストーリーカード、シナリオ進行とリンクした内容になっているからです。
けれども結構な分量があるのも事実です。幸い、カタリ派やモンセギュール城塞そのものの設定は、背景シートに明記されており、それが担当プレイヤーにあらかじめ渡されます。他の参加者にも徐々に開示されていく仕組みになっているので、自分なりの結論を出さないままにプレイするのでも問題はありません。むしろ「カタリ派の信仰とは何だったのか?」というのは、まさしくゲーム・セッションを通じて考究すべきテーマですから、あらかじめ結論を出さないほうがよいくらいです。
むしろ、参考にすべきは、中世における生活感覚でしょう。「『モンセギュール1244』の歴史的背景に関する補足」において、【物語】として区分されたセクションを熟読しておきましょう。ただ、分量が多いので、どこから読めばよいか当惑する方もいらっしゃるかもしれません。そこで、特に重要と思われる戦争(=非日常)と、日常について記した箇所を、抜粋・要約という形でご紹介しておきます。抜き刷りをサマリーとし、参加者とあらかじめ共有しておくのもよいかもしれません。
【物語】中世の戦争:包囲、襲撃、強奪
・戦争と包囲は、『モンセギュール1244』の出来事の背景を形作るもの。男性キャラクターのほとんどは戦士で、戦があるからこそ仕事になります。戦争は儲かるものだったので、伝統的には暴力と結びついていなかったような人々も、ここに参入しようとしていました。
・中世の初期から後期に至るまで、戦争とは仕事で金銭を稼ぐ手段でした。戦争は本職の戦士が闘うもので、一般市民が武器を取ることは稀でした。最も高貴な騎士ですら、戦場での略奪行為を軽蔑などせず、敵をすぐ殺すのではなく捕虜にして後で身代金を要求していました。
・中世の戦争を、相対する2つの巨大な軍勢の激突のようなものと考えてはなりません。軍隊は小規模で、ばらばらな数千人の男性からなり、規律はなく組織化もされてはいませんでした。
【物語】『モンセギュール1244』での日常
・中世の経済で回る生活物資は最低限のもので、資源と労働力は生活に必要なものを生産するのにギリギリ足りている程度でしかなく、余剰はほとんど、あるいはまったくありませんでした。
・実質的にプライバシーはなく、とりわけモンセギュールのような(防衛を目的とした城という)場所ではそうでした。
・カタリ派信徒の家々は、100平方メートルほどの床面積があり、3階建てか4階建てで、丘の斜面に寄りかかる形で建てられました。部屋は非常に小さく、窓はほとんどなかったので(ガラスは贅沢品でした)暗く、冬の間は脂でなめした獣皮で覆われ、人々や動物はそのなかで暮らし、補給物資も収められていました。
・武器や食料といった価値のあるものは、城塞に保管されていたものと思われます。貯水タンク、腐敗しやすい食料、財宝は地下に、貯蔵庫(酒や食料等の保管場所)は1階に、出入口は2階といった具合に(格納式のハシゴからしか出入りできないようになっていました)。そしてみなが食べ眠り働く共同部屋がありました。動物は人々とともに生活していました。
・銀貨はいくらか流通していたかもしれませんが(トゥールーズ伯かアラゴン王が鋳造させたものです)、稀でした。貨幣は、このコミュニティの外部で暮らす人間のために取って置かれました。
・日用品や戦士の武器についても、同じく余分なものはまるでありませんでした。衣服は実用を旨とし、亜麻や羊毛や麻で作られました。
・毎日の生活は、日の出と日の入りによって区切られました。1日は12時間ずつに分けられ、昼夜の長さは季節によって変わりました。城塞には鐘があり、これを使って節目となる時間、例えば昼食や宗教的な奉仕の時間を共同体へ知らせました。
・貴族と他の要人は別のテーブル(ハイテーブルで、文字通り他よりも一段分高くなっていました)で食事をとりました。犬はどこにでもおり、餌を求めて吠え、人々が床に投げ棄てた残飯を巡って相争いました。貴族の食事と平民のそれと一線を画すものにしていたのは、メニューの種類でした。ハイテーブルには、確保できればワインが連日のように供され、肉が出てくるのも普通でした。これに加えて全員が、熱い石炭で調理され地元のハーブで味付けされたデンプン質の食料と魚を食べていました。山羊や羊のチーズは特によく配膳されましたが、誰もがパンを主食としていました。ただし、カタリ派の完徳者(出家信者)は、当然ながら肉食を禁じられていました。
●女性や子どもの扱いについて
中世の女性や子どもについての位置づけは難しく、おそらく日本語環境においては、信仰についての是非よりも、センシティブな表現となりやすいのは、むしろこの箇所ではないかと思われます。
この点、『モンセギュール1244』はかなり“リベラル”な立場を採っているのは間違いありません。そうでなければ、英語やイタリア語など、多言語での翻訳紹介などされませんから。しかし、いたずらに“リベラル”という表現を前にすると、眉に唾をつけたくなる方もいらっしゃるでしょう。拡張ルールでは「同性愛者」と思われるキャラクターも普通に登場します。
しかし、これは政治的なイデオロギー傾向を示すというよりも、性・人種/民族その他での差別を所与のものとしないことで、1人でも多くのプレイヤーに参加してもらえるような仕組みづくりをしよう、というものだとご理解ください。大文字の「政治」ではなく、生活感覚やマナーとまったく同じものなのです。
中世において概ね女性の地位が不当なまでに低かったとして、それを批評性抜きに再現するのでは、歴史考証の名のもとに性差別を正当化しているとみなされても仕方がありません。サンプルキャラクターのなかには娼婦アルセンドのような、社会的に蔑視されていると思われる設定のキャラクターさえいるのですから、なおさらです。
しかし近年の史学研究では、フェミニズムの観点で中世史を読み替えるのは、傍流でも何でもなく、特にアプローチの注釈なく普通に採られる方法です。
子どもについても同様です。中世史研究について、子どもは「小さな大人」だから大事にされなかったとする言説や、そのような言説への反論があり、一つの論争史を形成しています。さりとて、子どもを無意味に虐待するような場面をさしたる意味もなく入れてしまえば、不快になるプレイヤーも出てくることでしょう。加虐的な場面には批評性が必要です。この点、テストプレイでも言及されたのですが、アゴタ・クリストフの小説『悪童日記』が参考になると思います。
いずれにせよ、とりわけ初回プレイにおいては、女性や子ども、民族や人種に触れる場合、「偏見」抜きに扱ってしまって問題なく、むしろそうすることを推奨したいと思います。
●参考文献は何を読めば?
意欲的な参加者の方のなかには、参考文献についても具体的に触れてみたいという方がいらっしゃるでしょう。エジオ・レメガが用いた資料はイタリア語の資料ばかりですので、訳出の際に参考にした日本語文献をあげておきました。
有名なのは、ミシェル・ロクベール『異端カタリ派の歴史』(武藤剛史訳、講談社選書メチエ2016)でしょうか。この版元(講談社選書メチエ)はSNSの公式アカウントにおいても、『モンセギュール1244』を紹介してくれました(https://twitter.com/kodansha_g/status/1672879483941195778?s=20)。
ただ、この本は大著なので、「最初の1冊」とするには重いかもしれません。他に推奨したいのは、アンヌ・ブルノン『カタリ派』(池上俊一監修、山田美明訳、創元社2013)。こちらはとにかく図版が豊富で、視覚的に理解がしやすいのです。
もう1冊挙げるなら、佐藤賢一『オクシタニア』(上下巻、集英社文庫2006)。これは小説ですが、まさしく『モンセギュール1244』の時代背景そのものを正面から扱っています。佐藤氏は最近ではフランス革命やナポレオンを扱った小説の執筆で著名ですが、イチオシはやはり、これ。カタリ派伝説を取り入れたフィクションは少なくないのですが、真っ向から小説化したものとしては、本作のほかは知りません。
巻末の参考文献一覧をご覧いただければわかりますが、フランス語での新しめの研究を博捜しており、にもかかわらず、カタリ派の完徳者(出家信者)となった妻と、ドミニコ会士(異端審問をする側)となる夫との、奇妙なロマンスを扱う筋立ては、「ここまでやっていいのか」というひとつの指針になってくれるでしょう。
●参加者は何名がいいか?
『モンセギュール1244』は3〜6名のプレイヤーに向けてデザインされたシステムですが、私の感覚からすると、最良の参加者数は6名です。
なぜなら、『モンセギュール1244』の基本ゲームでは、キャラクターは12人が用意されており、プレイヤーはそれを分担して受け持ち、1人を主要キャラクターにし残りは支援キャラクターとして振り分けるのですが……参加者6人であれば、プレイヤー1名につき主要キャラクター1名・支援キャラクター1名を振り分ける形にすればよいので、とにかくわかりやすいのです。
6名のプレイヤーを集めるのは大変と思われるかもしれませんが、TRPGにおいて、GM1人・プレイヤー5人というのと同じです。そう考えると、そこまで高いハードルではなく、標準的な仕様といえるのではないでしょうか。
では、誰がどのキャラクターをプレイすべきかということですが、シナリオへの関与の度合いが高いのは以下の5人です。これらの担当プレイヤーは、ばらけさせたほうがよいかもしれません。
・レーモン(モンセギュール城主)
・ピエール・ロジェ(モンセギュール防衛のための指揮官)
・ベルナール(騎士。ピエール・ロジェの部下)
・ベルトラン(男性のカタリ派完徳者)
・セシル(女性のカタリ派完徳者)
また、レーモンとベルナールは、さっそく「プロローグ:アヴィニョネの暗殺」への登場が必須になっているので、比較的ナラティヴ系のゲームに慣れたプレイヤーが担当するのがよいでしょう。あらゆるゲームがそうですが、序盤はプレイヤーの動きがぎこちないものですから。
どのキャラクターが主要キャラクターで、どれを支援キャラクターにするのかということは、プロローグ終了後に決めることになりますから、この5人以外は、人間関係を示したキャラクター一覧のシートを眺めながら、「このキャラクターを演じてみたい」という直観で決めてしまってよいでしょう。支援キャラクターは他人の担当するものでも演じることはルール的に可能なので、気軽にお願いします。
●リプレイを計画中
版元の許可をいただき、現在、『モンセギュール1244』のリプレイを計画中です。ただ、動画や音声記録をそのまま放出するのではなく、読むに堪えるリプレイを作成するには、相応の手間暇がかかります。皆さんからの反響が、大きなモチベーションとなりますので、おたよりやSNSで、ご意見や要望をいただけましたら幸いです。
『モンセギュール1244』そのものを未入手の方もいらっしゃると思います。廉価(1100円)の電子書籍(PDF+ユドナリウム用データ)単体での販売も開始されました。オンラインのみのプレイなら、こちらでも充分です。ご利用いたけましたら嬉しいです。
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
Montsegur 1244(モンセギュール1244)
Frederik J. Jensen (フレデリック・J・イェンセン) 著 / 岡和田 晃 訳
モダン・ナラティブRPG
3〜6人用〔ゲームマスター不要〕/ ゲーム時間3〜5時間 / 15歳以上向
2023年6月20日発売
・ボックス版 税込3300円(本体3000円)※電子書籍版同梱
https://booth.pm/ja/items/4828050
・電子書籍版 税込1100円(本来1000円)
https://newgamesorder.booth.pm/items/4902669
2023年07月27日
『アゲインスト・ジェノサイド』へのささやかな自注
2023年7月27日配信の「FT新聞」No.3837に、「『アゲインスト・ジェノサイド』へのささやかな自注」が掲載されました。私の初の単著をめぐる裏話です。当該書、未読の方はぜひお手にとっていただければと存じます。
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『アゲインスト・ジェノサイド』へのささやかな自注
岡和田晃
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2009年に『アゲインスト・ジェノサイド』という本を出しました(新紀元社)。27歳のときのこと。
単著としては、私の初めての本になります。
思い切って告白すると、これを書いていたときは、無謀にも「これ一冊で革命を起こそう」と企てていました。
その密かな気概が伝わったのか、ありがたくも今でも読者の方から感想をいただくことがあります。
取り立ててゲーマーでもない方が読んでくれることも多く、自信と勇気をもらっています。
ご存知ない方に向けて、この本の性質を説明しますと……。
『アゲインスト・ジェノサイド』は、現代の民間軍事会社の傭兵を(基本的には)プレイするガンアクションRPG『ガンドッグゼロ』を、実際に仲間(当時の私のプレイグループであったTeam Expeditious Retreatsというゲーム集団)でプレイしたもの。
その様子を録音して、小説のようにまとめ直したものです。
幕間に相当する箇所は、実際に小説として書いています。
いわゆる戯曲形式のリプレイ。英語ではreplay-novelと言われるものですね。
もととなるシナリオを、ゲームマスター(作家・司会進行役)たる私が製作するわけですが、いざゲーム・セッションの現場では、プレイグループの動きによって展開は大きく変わります。
その双方向的なプロセスとダイナミズムを、できるだけ明示的に伝えることを心がけました。
RPGとは何かというレベルから解説しつつ、どこまで表現の高みに到達できるのか。
そのことを本気で追究したつもりで、「革命を起こそう」とした、というのは、そういう意味です。
私は2004年に大学を出てから数年間、就職せずに日雇いの肉体労働等をしながら、食うや食わずで物書きとしての修行をしていました。
2007年にようやく月刊ゲーム専門書籍「Role&Roll」のライター募集に合格、本名でのプロ・ライター活動を始めたのです。その経験が、すべての根幹です。
いまでも同媒体に、「戦鎚傭兵団の中世"非"幻想事典」、『エクリプス・フェイズ』のサポート連載といった複数の連載をもっています。
『アゲインスト・ジェノサイド』の頃、私は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(第3.5、第4版)や『ウォーハンマーRPG』(第2版)など、英語圏のRPGを日本に翻訳紹介しつつ、その世界観を下敷きにしたリプレイ小説を商業媒体で書いてきました。
大事にしたのは、できるだけオリジナルの雰囲気をつかみ、創作へとフィードバックすること。
自分が感動したことを、少しでも伝えたいという思いによります。
しかし、英語圏のRPGについて書くと、版権の都合も手伝って、なかなか単行本にできないもの。
そうした兼ね合いもあり、日本産のRPG『ガンドッグゼロ』に関して書いたこの本が、私の最初の単著になりました。
ジョン・ル・カレの冒険小説『寒い国から帰ってきたスパイ』のような雰囲気を作るべく、腐心しました。
『d20モダン』、『Afghanistan:d20』、『Twilight 2000』、『Mercenaries, Spies, Private Eyes』など、この分野の名作RPGもすでに存在していて、それらを裏切りたくないという気持ちもがあったのは言うまでもありません。
その甲斐あってか、刊行当初は、良い意味で"ハリウッド映画のよう"という反響が多く、我が意を得たりという思いでおりました。
『アゲインスト・ジェノサイド』は全3部からなり、冒頭は「Lead&Read」Vol.4(新紀元社、2009)に掲載され、残りは書き下ろし。
目次は以下となります。
【CONTENTS】
Queen-Bee's Boot Camp…003
(クインビー教官の特別講義)
※「Lead&Read」Vol.4に掲載されたものに加筆修正
Character Introduction1…013
MISSION:Eugenie Onegin…035
(エフゲニー・オネーギン)
※「Lead&Read」Vol.4に掲載されたものに加筆修正
Charcter Introduction2…140
MISSION:The Vally of Fear…147
(恐怖の谷)
Character Introduction3…186
MISSION:The Knight in Panther's Skin…193
(豹皮の騎士)
APPENDIX:Black Borrosus…241
(付録:ブラック・ボロサス)※執筆:狩岡源/アークライト
あとがき…252
※特記したもの以外は、すべて書き下ろし
表紙に採られたのは、ロシア・ヴォルゴグラードにある「母なる祖国の像」で、作中でも言及されます。
『ガンドッグゼロ』は前身の『ガンドッグ』や、現行版の『ガンドッグ・リヴァイズド』とルールじたいは大きく変わらないので、前の版や最新の版をご存知の方にも、楽しんでいただけると思います。
私自身、各種の公式イベントで、『ガンドッグゼロ』や『ガンドッグ・リヴァイズド』の公式ゲームマスターを担当してきました。
手前味噌ではありますが、「小説にしかできないことがあるように、ゲームにしかできないことは何か?」と本気で考え、編集方法を工夫し、提示したつもりです。
これほど創作者の手の内を赤裸々に示した実作も、そうはないだろうと、自分では勝手に思っています。
もとが複雑なメカニズムを難なく操る海千山千のプレイヤーが集まったゲーム・セッションなので、二重スパイのプレイヤー・キャラクターや、途中での脱落(と、それを利用した意外な新キャラクター登場)といった、アクロバティックで現場的な技術も駆使しています。
それを、セッションそのままに書き込まなければ表現できない"何が"があった、といえばわかる方にはわかるでしょう。
プレイヤーのなかには、後に大ヒット・カードゲーム『ラブレター』で世界的なデザイナーとなったカナイセイジ氏や、JAXAで宇宙工学を研究していたKH氏、日本語教師になったTW氏などもいます。
リプレイとしても、ただプレイログをそのまま放出したのではなく、1話につき10時間ほどの時間をかけて収録し、それらを吟味し、エッセンスを蒸留させて再構成しています。
私たちは決してゲームが上手いわけではありませんが、将棋の名人戦のような緊張感があったことは確かで、それを伝えたかったのです。
他方、プーシキン原作・チャイコフスキー作曲のオペラ『エフゲニー・オネーギン』、ストルガツキー兄弟やコナン・ドイルの小説、あるいは中世グルジア叙事詩に関係したメタテクスト的な仕掛けも入れ込んでいるのですが、気づいた方も大勢いらっしゃいました。
本作はチェチェン・グルジア戦争(紛争)をモチーフとしています。
シナリオ製作当時は日本語の資料がほとんどなく、大きな図書館で新聞を総ざらいして状況を確認しました。
できるだけ裏を取るように心がけたものの、フィクションとしての異化効果を狙っているので、現実そのままではありません。むしろ、ネーミングほか細部の情報は、意図的に現実のものと変えています。
『エフゲニー・オネーギン』からの場面の引用も、原作そのままの構成ではないのです。
監視社会化へのメッセージもあって、その問題意識は市民講座でもお話したことがあります。詳しくは参加者の東條慎生さんのレポート(https://closetothewall.hatenablog.com/entry/20090706/p1)をご覧ください、
現在、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が泥沼化していますが、私ははっきりと虐殺に反対しています。
その意味で、『アゲインスト・ジェノサイド』で提示したスタンスは変わりません。
加えて言えば、あらゆる戦争はそれ以前の状況と連続して起こるもの。この状況とは政治情勢のみならず、人々の精神史をも含むものです。
本書は友人でもあった作家の故・伊藤計劃氏による『虐殺器官』から決定的な影響を受けており、初出書籍は病床にあった氏にも届けたほどなのですが、計劃氏からいただいた世界の痛みを掴み取る感覚が、『アゲインスト・ジェノサイド』の背後には横たわっています。
世界の複雑さを複雑のまま、双方向的なもののうちに捉えようとする姿勢こそが大事だと考えるわけです。
この仕事をしていた間に、私は軍事史関係のノンフィクションを大量に読みました。
そのなかで1冊お薦めをあげるとしたら、ヴォルフガング・ロッツ『スパイのためのハンドブック』でしょうか。
イスラエルの情報機関モサドに所属していた凄腕のスパイ、ヴォルフガング・ロッツが、「来るべき世代の秘密諜報部員」志望の人たちに向けて記した手引書。
冒頭に記された「スパイとしての適性検査」が、インパクト大で、あなたがスパイになれるかどうかが、すぐにわかってしまいます。
その他、尾行や変装のトレーニング方法、活動資金の使い方、果ては逮捕された時の身の振り方などが、ほろ苦いユーモアをもって語られます。
ありがちなビジネス書より、よくできた処世訓とて通用します。
「秘密情報に頼らずとも、公開情報の98%を整理することで真相には近づける」。
これはインテリジェンス(諜報)の基本なのですが、それを念頭においてこの本を読んでみれば得られるものもあるでしょう。
スパイ独特の思考法や状況判断、仁義の切り方なども、本音で読者に明かしているところが好ましく、それ以上にスパイとは、何も特殊な役割ではないとわかるわけです。
要するに、スパイも現地の新聞や公文書といった「公開情報」をベースに調査を行い、その意味で、外交官などは典型的な「スパイ」。
状況を読むというのは、ありがちなネット上の陰謀論や差別言説への耽溺とはまるで別物なのです。
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
アゲインスト・ジェノサイド ガンドッグゼロ リプレイ
著者:岡和田晃
監修:狩岡源/アークライト
定価:本体1,200円(税別)
新書 256ページ
ISBN 978-4-7753-0714-4
発売:新紀元社
発行年月日:2009年6月1日
※版元では在庫切れですが、かなりの部数が刷られたため、古書での入手は容易。
2023年07月13日
『モンセギュール1244』がやって来た、ヤァ! ヤァ! ヤァ!
2023年6月29日配信の「FT新聞」No.3809に、「『モンセギュール1244』がやって来た、ヤァ! ヤァ! ヤァ!」が掲載されています。「暮しとボードゲーム」の「TRPGの現在(いま)」で話した内容を含め、『モンセギュール1244』の新しさ、歴史にifはないことについて詳述。講談社選書メチエのTwitterでもご紹介いただいた『モンセギュール1244』をご堪能ください。
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『モンセギュール1244』がやって来た、ヤァ! ヤァ! ヤァ!
岡和田晃
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●『モンセギュール1244』発売!
今月(2023年6月)20日、中世の異端カタリ派を扱うモダン・ナラティヴ(ナラティブ)RPG『モンセギュール1244』がめでたく発売となりました(ニューゲームズオーダー)。これは「TRPGの現在(いま)」のみならず、歴史と物語の関係のみならず、マーダーミステリーや推理ボードゲームをも含んだストーリーテリングゲームの流れからしても画期的な作品です。
すでに4Gamer.netにプレスリリースを含めた紹介記事が載りましたし、公式サイトには識者による推薦コメントや、ボックスセットよりカタリ派の歴史的背景を扱うコラムが抜粋掲載されているので、ご覧になった読者の方もおられることと存じますが、本稿ではその特徴を改めて論じていきたいと思います。
●ナラティヴ・スタイルRPGの古典
『モンセギュール1244』は原著が2009年に発売された作品で、これまで英語・イタリア語等に翻訳されています。実際に身体を使って物語に「没入」する北欧のライブアクション・ロールプレイング(LARP)の流れに連なるインディーズ作品となっており、同年発表の『フィアスコ』(ハロウ・ヒル、邦訳2012年)に並ぶ、ナラティヴ・スタイルのRPGの古典となっています。
しばしばユーザーの過度な負担を強いるように思われがちですが、ボードゲーム的なGMレスのメカニクスを採用しており、ユーザー間のインタラクションによって話を転がすことと、適度に収拾をつけることの両立に成功しているのです。
『フィアスコ』では、あるシーンを演出する人と、そのシーンに決着をつける人がそれぞれ別。従来型のRPGでは1人のGMが一手に背負い込む役割を、プレイヤー間に分担させているのです。厳密にはGMレスというよりは、「全員がプレイヤーであり、全員がGMでもある」ということになりますでしょうか。
『モンセギュール1244』の場合、各プレイヤーは順番に、シーンを設定して状況を語るGM的な役割を交替させていきます。描写に際しては、ランダムで引かれるシーン・カードがヒントになります。このシーン・カードを使って、ここぞというときにはナレーション権を奪取してしまうことも可能なのです。ただし、他のキャラクターを殺害することは、殺害される側の同意がなければ行えないというユニークなルールもあります。
●ディアナ・ジョーンズ賞と2009年頃の状況
『モンセギュール1244』は、ディアナ・ジョーンズ賞という、ゲームの革新性を評価する賞にノミネートされています。
他の候補作は『ウォーハンマー』の世界で邪悪な混沌の神々を演じる、豪華コンポーネントのボードゲーム『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』(邦訳はホビージャパン、2010年)に、コミュニティ型データベースサイト「BoardGameGeek」等。当時の混沌とした空気が、伝わってくるような並びですね。
ちなみに前年の2008年には『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第4版(ホビージャパン、邦訳2008年)が発売され、『ウォーハンマーRPG』の第3版(未訳)が出ています。前者は、グリッドマップを用いたタクティカル・コンバットの精緻化が特徴的で、後者は豪華なコンポーネントでカードを駆使する、ボードゲーム的なデザインが特徴でした。
つまり歴史と伝統あるゲームが、戦略性とプレイアビリティを増すことでユーザーを拡大させる反面――ゲームズ・ワークショップの『タリスマン』を代表作とする――従来のRPGボードゲームとの境界線が解体され、むしろゲームマスターの演出に依存していた部分がメカニクスやコンポーネントに落とし込まれるようにもなってきたというわけです。
反面、最新版ではなく旧版のデザイン思想をより手軽にプレイしたいという声も根強く、ビッグゲームの旧版のシステムをそのまま流用したり、あるいはナラティヴ(語り)の介入する要素をより拡大させようとしたりするオールドスクール・リヴァイヴァルの流れが生まれ、やがてそれはオールドスクール・ルネッサンス(OSR)という一大潮流へと発展を遂げます。
●三派鼎立
「昭和」初期、批評家の平野謙は、当時の文学状況を従来型の私小説とプロレタリア文学、新感覚派等のモダニズム文学の「三派鼎立」として整理しました。
これに倣えば、2023年、英語圏では、「ビッグゲーム・OSR・ナラティヴ」の三派が鼎立している現状になっています。それがわかりやすく可視化された最初の契機が2009年前後にあったのではないかと思うのです。
もちろん、三派鼎立は互いに排斥し合っているわけではありません。相互に影響を与え合っているというのが正確でしょう。
2009年はポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』(新紀元社、増刷改訂版2022年)の原書が出た年でもあります。『エクリプス・フェイズ』は未来の太陽系を舞台に、精神がデジタル化され、義体を交換可能になった未来を描く斬新なデザインのRPGで、『パラノイア』や『シャドウラン』の系譜に連なるSF-RPGの重厚さを備えながらも、随所にインディーズ的な実験精神を随所に取り入れた作品となっています。
それでいてルール・メカニクスは『クトゥルフ神話TRPG』流のシンプルなパーセンテージ・ロールですからオールドスクール的でもあります。
●遊びやすいRPG
『モンセギュール1244』は遊びやすいRPGです。作成済みのキャラクターから担当者を選ぶだけで準備はOKですし、特に序盤はメロドラマのノリで好き勝手プレイしても大丈夫です。
ビッグゲームのようにキャンペーン・スタイルが前提ではなく、さりとてマーダーミステリーのように1回遊んで終わりでもありませんが、基本ルールに慣れたら、キャラクターを増やしイベントを多様化できる拡張ルールを導入することで、だいたい3〜5回ほどのプレイ回数が想定されているように見受けられます。長すぎず短すぎず、ほどよい回数で、ゲームをしゃぶり尽くすことができるのです。
必要な情報はすべてカード化されており、ルールブックの記述も噛んで含めるように、丁寧な書き方がされています。
●ヒストリカルRPGは敷居が高い?
ただ、『モンセギュール1244』は、これまであまり日本語で紹介されてこなかったタイプの作品であることから、若干ハードルの高さを感じる方もいるようです。大きな要因としては、ヒストリカルな題材を扱うRPGが「歴史的背景を扱うためか前提となる勉強が沢山必要になる」と、日本ではしばしば敬遠されてきた事情が挙げられるでしょうか。『混沌の渦』(社会思想社、邦訳1988年)や『クトゥルフ・ダークエイジ』(新紀元社、邦訳2005年)といった傑作が、もっとプレイされてよいと思います(『クトゥルフ・ダークエイジ』は増刷しましたが)。
他方で、現在のユーロゲームにしても、歴史的背景に取材したボードゲームは多数あるものの、味付けの域を越えてテーマの根幹に絡んでくるものとなると、意外と限られてくるのが現状です。
ただ、昨今では西洋史を扱った各種コミックが人気を集め、なかには非常に綿密な考証が行われているものも少なくありません。歴史を題材にしたナラティヴ・スタイルのRPGにしても、第二次世界大戦の『青灰のスカウト』(ハロウ・ヒル、2019年)のような傑作も、すでに翻訳されているのです。
『モンセギュール1244』に話を戻すと、この作品はリアリティとプレイアビリティの間でのバランスを取るべく、キャラクターは12人があらかじめ用意され、歴史的背景はすべて読み上げ文として準備されています。
キャラクター同士には大枠としての関係性が決められていますが、それはガイドラインにすぎません。それは実際のプレイでいくらでも上書きをしていってかまわないのです。ヒントとなるのが、各キャラクターに投げかけられた「3つの質問」です。各プレイヤーは、少なくとも主要キャラクター1人・支援キャラクター1人を演じ、「質問」をヒントに、キャラクターの詳細を少しずつ肉付けしていくことになります。
●「間違い探し」に留まらないこと
一般論となって恐縮ですが、歴史への関心は、あったほうがいいに決まっています。専門家による調査・研究の成果を、より広範な形で社会に還元することの必要性が増している現状、研究者としても歴史を扱うフィクションに対して単に「間違い探し」を行って事足りるのではなく、既存の学知へ適切なアプローチをするための導線、さらには自律した表現としての評価軸を再整理していくことが求められるようになっています。
他方でクリエイター側としては、既存の歴史を恣意的な類型に落とし込むだけでは不十分で、それこそ「ファンタジーでやった方がいい」という話になってしまいかねません。中世人の常識は現代人のそれとは大きくかけ離れているのは現実ですが、ある部分において、中世人は私たちがそう思い込んでいるよりも現代的であることも珍しいことではないのですから……。
幸い、『モンセギュール1244』では背景情報はすべてカードにまとめられており、それを読み上げるだけで、特に専門知識がなくてもプレイできてしまいます。
逆に、登場するモチーフを専門知で掘り下げていくことも可能になります。西洋中世史・中世文学の研究者を集めたテストプレイでは、「カタリ派の葬礼がどうだったか」が話題で盛り上がりました。
●歴史にifはない
歴史にifはない――これが『モンセギュール1244』の基本的なスタンスです。
モンセギュール砦は何があろうと陥落し、人々は信仰に殉じて火刑に処されるか、生き延びるために棄教するか、さもなければ夜闇に乗じて逃げ延びるかのいずれかを選ばねばなりません。最低1人は火刑に処され、逃げ延びられるキャラクターにも制限があります。この大枠は動かせないのです。
どうしてこういう発想になるのでしょうか? ある歴史的な事項を掘り下げれば掘り下げるほど、当時のリアルな状況に関する理解は深まり、「ありえたもう一つの歴史」をでっち上げることは難しくなっていくのが通例だからです。
しかし、『モンセギュール1244』は同時に、歴史の細部を想像で補っていくゲームでもあります。この際に重要なのは、ただ野放図に振る舞うのではなく、「調査ではっきりしていること」と、「そうでないこと」を受け手の側がある程度明確に切り分けていくことでしょう。
1244年に異端カタリ派がアルビジョワ十字軍に投降し、200人を超える信者が改宗を拒んで火刑に処せられたのかは、記録に残っているのでわかっています。『モンセギュール1244』の主要人物のうち、モンセギュール領主レーモン、砦の防衛指揮官ピエール・ロジェ、レーモンの娘エスクラルモンドらは既存の史料にも登場する実在の人物でもあります。
とはいえ、書き残されたものだけが、歴史ではありません。どうしてかくも多くの信者が進んで死を選んだのか、そこに至るドラマに正解はなく、推し量っていくしかないのです。まとめると、大枠としての出来事は揺るがないが、そこに対峙した人々の生き様や内面は自由に辿り直せる。『モンセギュール1244』は、そのような「感性の歴史学のゲーム化」にほかなりません。
●カタリ派とは何か?
現在、カタリ派の信仰は滅ぼされ、歴史の荒波に呑まれて消え去ったことになっています。その教義を正確に辿り直すことは困難です。
もともとカタリ派とは自称ではなく、外から貼られたレッテルでした。アリウス派等の他の「異端」と混同されることも珍しいものではありませんでした。カタリ派の核にあるのは、この世は穢れているという強烈な現世の否定で、この観点から新プラトン主義等、グノーシス主義の流れを汲んだ思想的系譜に位置づけられます。
強烈な情念は原始キリスト教、厳しい不殺の近いはジャイナ教、輪廻転生の思想は仏教をも彷彿させるものとなっています。さりとて複雑な神学体系が組み立てられているわけではなく――トマス・アクィナスが『神学大全』を書き始めるのは、『モンセギュール1244』の時代の少し後からです――どちらかといえば民衆信仰に近い。
にもかかわらず、明るく温かく、ともすれば享楽的とも言われる南仏の風土で普及を見せたのが面白いところです。
厳格な戒律に縛られるのは完徳者と呼ばれる出家信者だけで、一般の信者は、死ぬ直前で救慰礼と呼ばれる儀式を受ければ、死後の安寧が約束されるのです。「この世はすべて悪だから」と、犯罪者だろうが「売春婦」だろうが受け入れる土壌がカタリ派にはありました。
逆を言えば、当時のローマ・カトリックが、いかに民衆の現状とかけ離れていたか、という話にもなりましょう――もちろん、13世紀のカトリックと、16世紀の宗教改革以降のカトリックや、多様性についても認めるようになってきた21世紀のカトリックは異なるものだ、という前提ですが、プレイにあたってはどこまでの表現がOKか、事前に卓の合意を獲ることを推奨しておきます。
●日本語版の特徴
『モンセギュール1244』をボックス版で出す、と決定したのは版元のニューゲームズオーダー、とりわけ編集の沢田大樹さんの英断によります。
豪華BOX入りのコンポーネントは驚くばかりですが、ボックスを買えばPDF版の電子書籍ルールブックに、ユドナリウム(オンラインセッションツール)用のルームデータも付いてきます。
ルールブックは長らく親しまれてきた初版をベースに訳しておりますが、2023年に出たばかりの第2版との差分も紹介し、どちらの環境でもプレイできるような配慮がなされています。
どうぞ、お楽しみください!
日本語版に一定の評価が与えられれば、『モンセギュール1244』の影響を公言しているフォロワー作品の紹介も夢ではなくなりますから……。
※なお、本記事は内容の一部に、2023年6月16日「暮しとボードゲーム」が主宰する配信番組「TRPGの現在(いま)」(川上拓さん、沢田大樹さんと一緒に出演)でお話したことを盛り込んであります。
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
Montsegur 1244(モンセギュール1244)
Frederik J. Jensen (フレデリック・J・イェンセン) 著 / 岡和田 晃 訳
モダン・ナラティブRPG
3〜6人用〔ゲームマスター不要〕/ ゲーム時間3〜5時間 / 15歳以上向
2023年6月20日発売
・ボックス版 税込3300円(本体3000円)※電子書籍版同梱
https://booth.pm/ja/items/4828050
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『モンセギュール1244』がやって来た、ヤァ! ヤァ! ヤァ!
岡和田晃
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●『モンセギュール1244』発売!
今月(2023年6月)20日、中世の異端カタリ派を扱うモダン・ナラティヴ(ナラティブ)RPG『モンセギュール1244』がめでたく発売となりました(ニューゲームズオーダー)。これは「TRPGの現在(いま)」のみならず、歴史と物語の関係のみならず、マーダーミステリーや推理ボードゲームをも含んだストーリーテリングゲームの流れからしても画期的な作品です。
すでに4Gamer.netにプレスリリースを含めた紹介記事が載りましたし、公式サイトには識者による推薦コメントや、ボックスセットよりカタリ派の歴史的背景を扱うコラムが抜粋掲載されているので、ご覧になった読者の方もおられることと存じますが、本稿ではその特徴を改めて論じていきたいと思います。
●ナラティヴ・スタイルRPGの古典
『モンセギュール1244』は原著が2009年に発売された作品で、これまで英語・イタリア語等に翻訳されています。実際に身体を使って物語に「没入」する北欧のライブアクション・ロールプレイング(LARP)の流れに連なるインディーズ作品となっており、同年発表の『フィアスコ』(ハロウ・ヒル、邦訳2012年)に並ぶ、ナラティヴ・スタイルのRPGの古典となっています。
しばしばユーザーの過度な負担を強いるように思われがちですが、ボードゲーム的なGMレスのメカニクスを採用しており、ユーザー間のインタラクションによって話を転がすことと、適度に収拾をつけることの両立に成功しているのです。
『フィアスコ』では、あるシーンを演出する人と、そのシーンに決着をつける人がそれぞれ別。従来型のRPGでは1人のGMが一手に背負い込む役割を、プレイヤー間に分担させているのです。厳密にはGMレスというよりは、「全員がプレイヤーであり、全員がGMでもある」ということになりますでしょうか。
『モンセギュール1244』の場合、各プレイヤーは順番に、シーンを設定して状況を語るGM的な役割を交替させていきます。描写に際しては、ランダムで引かれるシーン・カードがヒントになります。このシーン・カードを使って、ここぞというときにはナレーション権を奪取してしまうことも可能なのです。ただし、他のキャラクターを殺害することは、殺害される側の同意がなければ行えないというユニークなルールもあります。
●ディアナ・ジョーンズ賞と2009年頃の状況
『モンセギュール1244』は、ディアナ・ジョーンズ賞という、ゲームの革新性を評価する賞にノミネートされています。
他の候補作は『ウォーハンマー』の世界で邪悪な混沌の神々を演じる、豪華コンポーネントのボードゲーム『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』(邦訳はホビージャパン、2010年)に、コミュニティ型データベースサイト「BoardGameGeek」等。当時の混沌とした空気が、伝わってくるような並びですね。
ちなみに前年の2008年には『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第4版(ホビージャパン、邦訳2008年)が発売され、『ウォーハンマーRPG』の第3版(未訳)が出ています。前者は、グリッドマップを用いたタクティカル・コンバットの精緻化が特徴的で、後者は豪華なコンポーネントでカードを駆使する、ボードゲーム的なデザインが特徴でした。
つまり歴史と伝統あるゲームが、戦略性とプレイアビリティを増すことでユーザーを拡大させる反面――ゲームズ・ワークショップの『タリスマン』を代表作とする――従来のRPGボードゲームとの境界線が解体され、むしろゲームマスターの演出に依存していた部分がメカニクスやコンポーネントに落とし込まれるようにもなってきたというわけです。
反面、最新版ではなく旧版のデザイン思想をより手軽にプレイしたいという声も根強く、ビッグゲームの旧版のシステムをそのまま流用したり、あるいはナラティヴ(語り)の介入する要素をより拡大させようとしたりするオールドスクール・リヴァイヴァルの流れが生まれ、やがてそれはオールドスクール・ルネッサンス(OSR)という一大潮流へと発展を遂げます。
●三派鼎立
「昭和」初期、批評家の平野謙は、当時の文学状況を従来型の私小説とプロレタリア文学、新感覚派等のモダニズム文学の「三派鼎立」として整理しました。
これに倣えば、2023年、英語圏では、「ビッグゲーム・OSR・ナラティヴ」の三派が鼎立している現状になっています。それがわかりやすく可視化された最初の契機が2009年前後にあったのではないかと思うのです。
もちろん、三派鼎立は互いに排斥し合っているわけではありません。相互に影響を与え合っているというのが正確でしょう。
2009年はポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』(新紀元社、増刷改訂版2022年)の原書が出た年でもあります。『エクリプス・フェイズ』は未来の太陽系を舞台に、精神がデジタル化され、義体を交換可能になった未来を描く斬新なデザインのRPGで、『パラノイア』や『シャドウラン』の系譜に連なるSF-RPGの重厚さを備えながらも、随所にインディーズ的な実験精神を随所に取り入れた作品となっています。
それでいてルール・メカニクスは『クトゥルフ神話TRPG』流のシンプルなパーセンテージ・ロールですからオールドスクール的でもあります。
●遊びやすいRPG
『モンセギュール1244』は遊びやすいRPGです。作成済みのキャラクターから担当者を選ぶだけで準備はOKですし、特に序盤はメロドラマのノリで好き勝手プレイしても大丈夫です。
ビッグゲームのようにキャンペーン・スタイルが前提ではなく、さりとてマーダーミステリーのように1回遊んで終わりでもありませんが、基本ルールに慣れたら、キャラクターを増やしイベントを多様化できる拡張ルールを導入することで、だいたい3〜5回ほどのプレイ回数が想定されているように見受けられます。長すぎず短すぎず、ほどよい回数で、ゲームをしゃぶり尽くすことができるのです。
必要な情報はすべてカード化されており、ルールブックの記述も噛んで含めるように、丁寧な書き方がされています。
●ヒストリカルRPGは敷居が高い?
ただ、『モンセギュール1244』は、これまであまり日本語で紹介されてこなかったタイプの作品であることから、若干ハードルの高さを感じる方もいるようです。大きな要因としては、ヒストリカルな題材を扱うRPGが「歴史的背景を扱うためか前提となる勉強が沢山必要になる」と、日本ではしばしば敬遠されてきた事情が挙げられるでしょうか。『混沌の渦』(社会思想社、邦訳1988年)や『クトゥルフ・ダークエイジ』(新紀元社、邦訳2005年)といった傑作が、もっとプレイされてよいと思います(『クトゥルフ・ダークエイジ』は増刷しましたが)。
他方で、現在のユーロゲームにしても、歴史的背景に取材したボードゲームは多数あるものの、味付けの域を越えてテーマの根幹に絡んでくるものとなると、意外と限られてくるのが現状です。
ただ、昨今では西洋史を扱った各種コミックが人気を集め、なかには非常に綿密な考証が行われているものも少なくありません。歴史を題材にしたナラティヴ・スタイルのRPGにしても、第二次世界大戦の『青灰のスカウト』(ハロウ・ヒル、2019年)のような傑作も、すでに翻訳されているのです。
『モンセギュール1244』に話を戻すと、この作品はリアリティとプレイアビリティの間でのバランスを取るべく、キャラクターは12人があらかじめ用意され、歴史的背景はすべて読み上げ文として準備されています。
キャラクター同士には大枠としての関係性が決められていますが、それはガイドラインにすぎません。それは実際のプレイでいくらでも上書きをしていってかまわないのです。ヒントとなるのが、各キャラクターに投げかけられた「3つの質問」です。各プレイヤーは、少なくとも主要キャラクター1人・支援キャラクター1人を演じ、「質問」をヒントに、キャラクターの詳細を少しずつ肉付けしていくことになります。
●「間違い探し」に留まらないこと
一般論となって恐縮ですが、歴史への関心は、あったほうがいいに決まっています。専門家による調査・研究の成果を、より広範な形で社会に還元することの必要性が増している現状、研究者としても歴史を扱うフィクションに対して単に「間違い探し」を行って事足りるのではなく、既存の学知へ適切なアプローチをするための導線、さらには自律した表現としての評価軸を再整理していくことが求められるようになっています。
他方でクリエイター側としては、既存の歴史を恣意的な類型に落とし込むだけでは不十分で、それこそ「ファンタジーでやった方がいい」という話になってしまいかねません。中世人の常識は現代人のそれとは大きくかけ離れているのは現実ですが、ある部分において、中世人は私たちがそう思い込んでいるよりも現代的であることも珍しいことではないのですから……。
幸い、『モンセギュール1244』では背景情報はすべてカードにまとめられており、それを読み上げるだけで、特に専門知識がなくてもプレイできてしまいます。
逆に、登場するモチーフを専門知で掘り下げていくことも可能になります。西洋中世史・中世文学の研究者を集めたテストプレイでは、「カタリ派の葬礼がどうだったか」が話題で盛り上がりました。
●歴史にifはない
歴史にifはない――これが『モンセギュール1244』の基本的なスタンスです。
モンセギュール砦は何があろうと陥落し、人々は信仰に殉じて火刑に処されるか、生き延びるために棄教するか、さもなければ夜闇に乗じて逃げ延びるかのいずれかを選ばねばなりません。最低1人は火刑に処され、逃げ延びられるキャラクターにも制限があります。この大枠は動かせないのです。
どうしてこういう発想になるのでしょうか? ある歴史的な事項を掘り下げれば掘り下げるほど、当時のリアルな状況に関する理解は深まり、「ありえたもう一つの歴史」をでっち上げることは難しくなっていくのが通例だからです。
しかし、『モンセギュール1244』は同時に、歴史の細部を想像で補っていくゲームでもあります。この際に重要なのは、ただ野放図に振る舞うのではなく、「調査ではっきりしていること」と、「そうでないこと」を受け手の側がある程度明確に切り分けていくことでしょう。
1244年に異端カタリ派がアルビジョワ十字軍に投降し、200人を超える信者が改宗を拒んで火刑に処せられたのかは、記録に残っているのでわかっています。『モンセギュール1244』の主要人物のうち、モンセギュール領主レーモン、砦の防衛指揮官ピエール・ロジェ、レーモンの娘エスクラルモンドらは既存の史料にも登場する実在の人物でもあります。
とはいえ、書き残されたものだけが、歴史ではありません。どうしてかくも多くの信者が進んで死を選んだのか、そこに至るドラマに正解はなく、推し量っていくしかないのです。まとめると、大枠としての出来事は揺るがないが、そこに対峙した人々の生き様や内面は自由に辿り直せる。『モンセギュール1244』は、そのような「感性の歴史学のゲーム化」にほかなりません。
●カタリ派とは何か?
現在、カタリ派の信仰は滅ぼされ、歴史の荒波に呑まれて消え去ったことになっています。その教義を正確に辿り直すことは困難です。
もともとカタリ派とは自称ではなく、外から貼られたレッテルでした。アリウス派等の他の「異端」と混同されることも珍しいものではありませんでした。カタリ派の核にあるのは、この世は穢れているという強烈な現世の否定で、この観点から新プラトン主義等、グノーシス主義の流れを汲んだ思想的系譜に位置づけられます。
強烈な情念は原始キリスト教、厳しい不殺の近いはジャイナ教、輪廻転生の思想は仏教をも彷彿させるものとなっています。さりとて複雑な神学体系が組み立てられているわけではなく――トマス・アクィナスが『神学大全』を書き始めるのは、『モンセギュール1244』の時代の少し後からです――どちらかといえば民衆信仰に近い。
にもかかわらず、明るく温かく、ともすれば享楽的とも言われる南仏の風土で普及を見せたのが面白いところです。
厳格な戒律に縛られるのは完徳者と呼ばれる出家信者だけで、一般の信者は、死ぬ直前で救慰礼と呼ばれる儀式を受ければ、死後の安寧が約束されるのです。「この世はすべて悪だから」と、犯罪者だろうが「売春婦」だろうが受け入れる土壌がカタリ派にはありました。
逆を言えば、当時のローマ・カトリックが、いかに民衆の現状とかけ離れていたか、という話にもなりましょう――もちろん、13世紀のカトリックと、16世紀の宗教改革以降のカトリックや、多様性についても認めるようになってきた21世紀のカトリックは異なるものだ、という前提ですが、プレイにあたってはどこまでの表現がOKか、事前に卓の合意を獲ることを推奨しておきます。
●日本語版の特徴
『モンセギュール1244』をボックス版で出す、と決定したのは版元のニューゲームズオーダー、とりわけ編集の沢田大樹さんの英断によります。
豪華BOX入りのコンポーネントは驚くばかりですが、ボックスを買えばPDF版の電子書籍ルールブックに、ユドナリウム(オンラインセッションツール)用のルームデータも付いてきます。
ルールブックは長らく親しまれてきた初版をベースに訳しておりますが、2023年に出たばかりの第2版との差分も紹介し、どちらの環境でもプレイできるような配慮がなされています。
どうぞ、お楽しみください!
日本語版に一定の評価が与えられれば、『モンセギュール1244』の影響を公言しているフォロワー作品の紹介も夢ではなくなりますから……。
※なお、本記事は内容の一部に、2023年6月16日「暮しとボードゲーム」が主宰する配信番組「TRPGの現在(いま)」(川上拓さん、沢田大樹さんと一緒に出演)でお話したことを盛り込んであります。
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
Montsegur 1244(モンセギュール1244)
Frederik J. Jensen (フレデリック・J・イェンセン) 著 / 岡和田 晃 訳
モダン・ナラティブRPG
3〜6人用〔ゲームマスター不要〕/ ゲーム時間3〜5時間 / 15歳以上向
2023年6月20日発売
・ボックス版 税込3300円(本体3000円)※電子書籍版同梱
https://booth.pm/ja/items/4828050
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2022年09月29日
SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)
2022年9月22日の「FT新聞」No.3529に、「SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)」が掲載されています。小池鷹生さんデザイン、単体プレイ可能な宇宙版「ソリティア・ダイス」! ぜひ遊んでみてください。
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SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)
作:小池鷹生
監修:岡和田晃
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◯はじめに(岡和田晃)
本稿は「FT新聞」No.3515にて配信された「シド・サクソン「ソリティア・ダイス」の構造分析」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/491671714.html)に記した発展案をもとに、小池鷹生氏が完成させたオリジナル・バリアントゲームで、単体でのプレイが可能です。
発送元となった「ソリティア・ダイス」を収めた『シド・サクソンのゲーム大全』(1969年、竹田原裕介訳、ニューゲームズオーダー、邦訳2017年)の版元の許諾をいただき、「FT新聞」にて公開します。同書の編集を手掛けられた沢田大樹氏に記して謝意を捧げます。
「ソリティア・ダイス」をプレイしたことのある方は、ぜひ試してみてください。未プレイの方は、本家の方も遊んでいただければ幸いです。
◯ルール(小池鷹生)
本ゲームのゲームメカニクスは『シド・サクソンのゲーム大全』に収録されている「ソリティア・ダイス」(シド・サクソン作)を強く参考にしています。
21XX年、人類は宇宙への進出を果たしつつある。しかし資源は足りていない。
あなたは成長しつつある惑星間事業へと投資を行っていく宇宙資源マネージャーだ。採掘船はまだ少なく、得られる資源はばらつきが多い。あなたの持っている資源コンテナはたった1つ。そして投資対象を適切に見極めなければ、不採算部門となってしまったり供給過多による値崩れが発生したりする。20年であなたの宇宙開発はどこまで成長することができるだろうか?
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↓続きはこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/SISD.pdf
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SISD(スペース・インベストメント・ソリティア・ダイス)
作:小池鷹生
監修:岡和田晃
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◯はじめに(岡和田晃)
本稿は「FT新聞」No.3515にて配信された「シド・サクソン「ソリティア・ダイス」の構造分析」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/491671714.html)に記した発展案をもとに、小池鷹生氏が完成させたオリジナル・バリアントゲームで、単体でのプレイが可能です。
発送元となった「ソリティア・ダイス」を収めた『シド・サクソンのゲーム大全』(1969年、竹田原裕介訳、ニューゲームズオーダー、邦訳2017年)の版元の許諾をいただき、「FT新聞」にて公開します。同書の編集を手掛けられた沢田大樹氏に記して謝意を捧げます。
「ソリティア・ダイス」をプレイしたことのある方は、ぜひ試してみてください。未プレイの方は、本家の方も遊んでいただければ幸いです。
◯ルール(小池鷹生)
本ゲームのゲームメカニクスは『シド・サクソンのゲーム大全』に収録されている「ソリティア・ダイス」(シド・サクソン作)を強く参考にしています。
21XX年、人類は宇宙への進出を果たしつつある。しかし資源は足りていない。
あなたは成長しつつある惑星間事業へと投資を行っていく宇宙資源マネージャーだ。採掘船はまだ少なく、得られる資源はばらつきが多い。あなたの持っている資源コンテナはたった1つ。そして投資対象を適切に見極めなければ、不採算部門となってしまったり供給過多による値崩れが発生したりする。20年であなたの宇宙開発はどこまで成長することができるだろうか?
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↓続きはこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/SISD.pdf