2024年02月19日

『ブルーフォレスト物語』用シナリオ「ラクタス」

 2024年2月15日配信の「FT新聞」No.4040に、いよいよ真打登場ということで、オリジナル・デザイナーの伏見健二さん自身の手になる『ブルーフォレスト物語』用シナリオ「ラクタス」が掲載! コンベンション用に書き下ろされた貴重なシナリオが初めてpublishされました。伏見さん曰く、「「ラクタス」はまさにブルフォレのファイナルシナリオ、最終回みたいなもので、サービスでゴブリナ、ギアアンティーク、ドラゴンシェルのモチーフも出てきます」とのことでした。

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『ブルーフォレスト物語』用シナリオ「ラクタス」

 作:伏見健二
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●はじめに(岡和田晃)
 本シナリオは、2007年にグランペール版『ブルーフォレスト物語』(リバイバル・エディション)が出た際に開催された発売記念オンリーコンベンションのために書き下ろされたものです(ゆえに、コンベンションでの使用時を想定した但し書きもあります)。物語性豊かな傑作だと思います。
 「FT新聞」での『ブルーフォレスト物語』小特集のため、作者の伏見健二氏に特別提供いただきました。
 御宗銀砂氏、たまねぎ須永氏のご尽力にも、この場を借りて御礼申し上げます。

【『ブルーフォレスト物語』について】
 「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……

・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html

 背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html

 現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRをご紹介します。このシナリオはデータはユーザー側で用意するスタイルであるため、2DRほか、T&TやFF、あるいはローグライクハーフ等へのコンバートは用意でしょう。

・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
 2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。

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【概要】
 ここはサグハ国の南方の田舎、大麦村。
 もうすぐ収穫の祭なのだが、実は去年にゴブリンの一団によって祭が襲撃され、本尊である森の女神「ラクタス」の像が持ち去られてしまったのだ。

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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Lactus.pdf


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posted by AGS at 21:16| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月26日

『ブルーフォレスト物語』シナリオ「人食い虎に愛を 発展版」


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『ブルーフォレスト物語』シナリオ「人食い虎に愛を 発展版」

 作:高階遊依
 監修:岡和田晃、水波流
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【はじめに】
 本作は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2021年春学期に開講したゲームデザイン講義内で行った『ブルーフォレスト物語』シナリオ創作コンテストの優秀作です。プレイにあたっては、『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー1990)または『ブルーフォレスト物語 リバイバル・エディション』(グランペール2008)が必要です。
 また本作は、『ブルーフォレスト物語』の「ブック3 シナリオブック」所収「シナリオアイディア7 人食い虎に愛を」を独自に肉付けしたものだということを、あらかじめおことわりしておきます。

【謝辞】
 講義内での使用、および「FT新聞」でのシナリオ公開を許諾してくださった『ブルーフォレスト物語』のデザイナー・伏見健二先生に感謝します。加えて、講義に関する資料提供をくださった、たまねぎ須永・御宗銀砂の各先生にもあわせて謝意を表します。

【『ブルーフォレスト物語』について(岡和田晃)】
 「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……

・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html

 本シナリオの舞台たるラグ神王国ほか、背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html

 現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRのルールを仕様したコンバート案も併載します。

・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
 2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。

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【概要】
 本シナリオはGMと2~4人のPCでのプレイを推奨します。ショート・シナリオで、プレイ時間は2時間程度を想定しています。
舞台は1996年の闇の月、半島南部のサグハ王国です。サグハ王国は基本的に戦争をせず、代わりに舞踏芸術が有名な平和な国です。芸術的な娯楽施設が多く、年に1度開催される舞踏大会には、多くの国民がこぞって参加します。また、真面目に信仰しているわけではありませんが、芸術の守護者として幻王シグニカへの国民の人気が高いようです。新年を祝う祭りでは、幻王シグニカの恰好を模した少女たちが、国民の前で舞踊を披露し、大変盛り上がります。

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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Love_for_the_tiger.pdf

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初出:「FT新聞」No.4019(2024年1月25日)
posted by AGS at 12:38| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ブルーフォレスト物語』シナリオ「奴隷連続誘拐事件 発展版」

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『ブルーフォレスト物語』シナリオ「奴隷連続誘拐事件 発展版」

 作:りんごあめ
 監修:岡和田晃、水波流
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【はじめに】
 本作は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で2021年春学期に開講したゲームデザイン講義内で行った『ブルーフォレスト物語』シナリオ創作コンテストの優秀作です。プレイにあたっては、『ブルーフォレスト物語』(ツクダホビー1990)または『ブルーフォレスト物語 リバイバル・エディション』(グランペール2008)が必要です。
 ゲームマスター(GM)とプレイヤー(PL)、1 on 1でのプレイもしくは少人数プレイヤーでのセッションを想定しています。
 また本作は、『ブルーフォレスト物語』の「ブック3 シナリオブック」所収「シナリオアイディア6 奴隷連続誘拐事件」を独自に肉付けしたものだということを、あらかじめおことわりしておきます。 
 ダイスの運ではなく、PCの立ち回りが重要視されるシナリオで、GMはPCの動きに合わせて、柔軟に対応を行ってください。

【謝辞】
 講義内での使用、および「FT新聞」でのシナリオ公開を許諾してくださった『ブルーフォレスト物語』のデザイナー・伏見健二先生に感謝します。加えて、講義に関する資料提供をくださった、たまねぎ須永・御宗銀砂の各先生にもあわせて謝意を表します。

【『ブルーフォレスト物語』について(岡和田晃)】
 「FT新聞」では、過去、『ブルーフォレスト物語』について紹介する記事が配信されてきました。「『ブルーフォレスト物語』って何?」という方は……

・「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」(「FT新聞」No.3739)をどうぞ。
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969227.html

 本シナリオの舞台たるラグ神王国ほか、背景世界の解説については、以下の2記事をご参照ください。
・「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」(「FT新聞」No.3781)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969237.html
・「ファンタジーRPGと時間論」(「FT新聞」No.3789)
https://analoggamestudies.seesaa.net/article/499969264.html

 現在、『ブルーフォレスト物語』はツクダホビー版・グランペール版ともに入手が難しくなっていますが、お持ちでない方のために、フリーの汎用システム2DRのルールを仕様したコンバート案も併載します。

・2DR(エテルシアワークショップ)
https://w.atwiki.jp/etersia/pages/24.html
 2DRのルールで1 on 1セッションの場合、種族は人間、ジョブポイントは1でキャラクターを作成してください。また、「エフェクトポイント」は「悟りポイント」と読み替えてください。EXPが100に達すると、そのキャラクターは亜神になります。

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【概要】
1995年、ラグ神帝国・イステア候領で奴隷の子どもたちが次々と誘拐される事件が発生。奴隷のため深く捜査は行われず、事件は放置。この現状に奴隷たちは直訴することを決意。イステアの姫に向かって懇願する奴隷たち。プレイヤー・キャラクター(PC)はその争いに巻き込まれることになってしまう。

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↓【シナリオ本編】はこちら
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/Serial_kidnapping_of_slaves.pdf


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初出:「FT新聞」No.4005(2024年1月11日配信)
posted by AGS at 12:37| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月08日

ファンタジーRPGと時間論


 2023年6月9日配信の「FT新聞」No.3789に、「ファンタジーRPGと時間論」が掲載されました。これは「FT新聞」No.3781の「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」の補足記事も兼ねています。

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ファンタジーRPGと時間論

 岡和田晃
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 『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー(Ken St Andre’s Monsterary Zimrala)』の印刷版が私のもとにも届きました。これは『モンスター! モンスター!』の第2版をベースにした汎用ワールドガイド&モンスター集です。
 改めて印刷版で読んでいくと、ズィムララには月が7つあると書かれていました。
 おお、月が7つ! 真っ先に思い出されるのは『ルナル・サーガ』です。こちらは汎用システム(『ガープス』)用の背景世界なのですが、別に『モンスター! モンスター!』でプレイできないわけではありません。ただ、『ルナル・サーガ』での七つの月が、どことなく繊細で寓意的な陰影をたたえる設定なのに対し、ズィムララの月はもっと突拍子もない感じ――としか形容しようのないもの――になっています。
 『ズィムララ』はそもそも地球とは全く別の星のようですし、『ルナル・サーガ』にしても、別に宇宙物理学的な観点から7つの月を考察したりはしません。太陽系の惑星をベースにRPGをプレイしたいなら、『エクリプス・フェイズ』をお勧めしたいのですが、実は『ウォーハンマーRPG』にしても月は2つあります。こうした月が2つ以上あるRPGを見ると、私はどうしても名著『T&Tがよくわかる本』に書かれた教訓が脳裏をよぎってしまいます。

「月の数とか、カレンダーとかあまり妙にいじくらないほうがいい。月は一つで十分だし、一年三六五日のカレンダーでかまわない」

 だだーん! これはオリジナル・ワールドを作ろうとするゲームマスターへの指針を解説する章に出てくる文言です。耳が痛い人も多いのではないでしょうか――もちろん、これは初心者用のアドバイスなので、腕に覚えがあるGMは月や暦をいじっていただいていいと思いますし、これまで言及した作品はいずれも、月の数を増やすことによって世界観に奥行きが与えられているのは確かです。「妙にいじくらないほうがいい」というのは、思わぬところに落とし穴がありがちだから、ということなのです。
 何にせよファンタジーなのですから、必ずしも科学的に月の位置付けを決める必要はない、とイメージ優先で割り切った解決策を取るのも一つの方法ですし、付言すればそもそも、我々は地動説をベースに教育を受けますが、天動説のような考え方が無くなったわけではありません。占星術のなかには天動説をベースにした考え方を採用したものもありますし、デューラーの版画『メランコリア』に見受けられるような、“土星は憂鬱質”というアレゴリーは、天動説に基づいており、エンブレムという形でアレゴリー化され、あちこちでお約束として残存しています。このあたり、より詳しく知りたい方はエンブレムを哲学的に考察したベンヤミン『ドイツ悲哀劇の根源』をお読みください。

 それでは暦はどうなのでしょうか? 「FT新聞」No.3781の「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」で、私は『ブルーフォレスト物語』の背景世界シュリーウェバにおける時間について、次のように書きました。

「この世界は1日が180日で、6ヶ月で1年が終わります。1日の長さは我々の知る時間と同じ長さなのですが、およそ2倍の速度で時間が流れるというイメージでしょう。(……)
 平均寿命は男性50歳ほど、女性60歳ほどとなります。ちなみに岡和田は41歳なので、シュリーウェバの冒険者ならば大ベテランで、かつ孫がいてもおかしくないということになります。」

 できるだけ短い言葉で要約しようとしたあまり、見方によっては混乱を招きかねないものになってしまっていたようです。いまいちど整理しましょう。シュリーウェバでは、我々の世界における半年が1年。つまり時間が2倍流れる。そして現実世界を生きる岡和田が41歳ならば、シュリーウェバでは約2倍、82〜83歳に相当するのではないか、という話にもなりかねません。
 実はルールブックには、シュリーウェバの冒険者は30歳くらいでよく死ぬという話もあります。そこで計算をわかりやすくするため、現代日本人の平均寿命を仮に82歳とし、シュリーウェバの冒険者・非冒険者を交えた平均寿命を41歳だと仮定すると、なんとシュリーウェバでは現代社会の4倍の速度で時間が流れる、ということになってしまいます!

 ――ただ、実のところ、私は先の記事を書いた際、岡和田が41歳と書いたのは、あくまでも“シュリーウェバ時間のなか”で41歳と意味したつもりで、シュリーウェバ人の立場に成り代わって考え、現実社会のことを想定してはいませんでした。
 というのも、時間というのは客観的に遍在するかに見えて、実のところ主観的なくびきであるからです。生物学者ユクスキュルは『動物から見た世界』で「環世界」という概念を提示しました。世界に生きる動物たちは、各々の主観的な世界をそれぞれ生きているのだという考え方のことを意味します。
 ウスバカゲロウは数時間から数日で死にます。では、ウスバカゲロウはそれほど儚い存在なのでしょうか。当のウスバカゲロウがそう認識しているとはあまり思えません。彼らにとっての1日は、私たちが体感する一生涯の時間よりも、ともすれば長いのかもしれないのです。つまり、世界には各々の主観に基づいて構成される時間軸がそれぞれ存在するだけで、超越的な観測者は存在しないというわけです。

 こうした「主観」としての時間という考え方は、実のところベルクソンやフッサールの現象学、あるいはハイデガーの存在論とも密接に関わってくる現代思想の屋台骨ですが――そちらに深入りする前にシュリーウェバに話を戻せば、浦島太郎やリップ・ヴァン・ウィンクルのように現代人がシュリーウェバに行くと4倍の速度で老化する、という話にはなりません(ただ、参加者の同意が得られれば、そうしたシナリオを遊ぶのも面白いだろうとは思いますが)。
 シュリーウェバ人として生きることは、シュリーウェバにおける因果律を受け入れる、という話であり、それは1年が180日の世界を私たちが365日を生きるのと同じように過ごす、ということになるでしょう。体感的には、現実よりも“長い”ことすらありえます。
 時間線が主観的に紐づくという考え方を採用したSFに、アルフレッド・ベスターの「モハメッドを殺した男たち」となる傑作があります。あるいは浜辺の砂の城をすみかとし、満潮で城が崩されるまでのほんの数時間の生命しかない妖精の生涯を扱うジェフリー・フォード「イーリン・オク一代記」も読み応えがあり、ファンタジーRPGにおける時間論を考えるにあたって、大いに参考になるでしょう。

posted by AGS at 21:31| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ブルーフォレスト物語』の背景世界


 2023年6月1日の「FT新聞」No.3781に、「『ブルーフォレスト物語』の背景世界」が掲載されています。これで世界観の概要を理解・復習し、来るべき作品に備えましょう。

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『ブルーフォレスト物語』の背景世界

 岡和田晃
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 「FT新聞」No.3739の「『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって」に関しては、Twitterを中心に予想以上の大きな反響をいただきました。実際に遊んでいた方にはもちろん歓迎いただきましたが、他方で、一世を風靡した作品としてリスペクトは抱いているものの、自分では実際にプレイしたことがない、という意見も目につきました。
 そこで、まずは世界観をイメージしていただけるような情報共有が必要と考えました。
 本文のイラストレーションを担当している佐々野悟氏曰く、「ブルーフォレスト物語が出た頃は、インドの武具や鎧の資料が少なくて、東南アジア系のものと西洋、日本がごっちゃになってます。服装は遊牧民とかモンゴル系のデザインかな」との由。逆を言えば、これらのイメージを折衷させていけば、『ブルーフォレスト物語』らしさから、そう離れることはないようです。
 『ブルーフォレスト物語』は第2版にあたるデザイナーズ・エディションが「ゲーマーズ・フィールド」誌で長くサポートされました。かなり踏み込んだ設定も解説されていたのですが、まずは、基本的な世界観を理解しなければどうにもなりません。
 そこで今回は、『ブルーフォレスト物語』の背景世界につき、リバイバル・エディションのルールブックを参考に、世界観の要点をお伝えしたいと思います。

●シュリーウェバと降魔
 『ブルーフォレスト物語』の舞台シュリーウェバは、「エルスフィア」と呼ばれる世界の一地方です。伏見健二さんのもう一つの代表作であるスチームパンクRPG『ギア・アンティーク』(ツクダホビー、1991年)や、南米風の世界観を軸に空戦が楽しめる『ドラゴンシェルRPG』(グランペール、2006年)もまた、「エルスフィア」の別の地方を扱うもので、世界観は共通しているのです。システム毎に、ある世界の別の地方を扱うというのは面白い発想ですね。
 エルスフィアには2つの月があります。「神の月」と「悪魔の月」です。「悪魔の月」は「降魔(こうま)」の顕現だと言われており、この「降魔」はあらゆる破壊的なものの母体にほかなりません。『ギア・アンティーク』でも「降魔」は世界観のキーワードになっています。

●時間
 この世界は1日が180日で、6ヶ月で1年が終わります。1日の長さは我々の知る時間と同じ長さなのですが、およそ2倍の速度で時間が流れるというイメージでしょう。シュリーウェバ地方は熱帯に属し、1年を通じて暖かな気候ですが、地域によって微妙な落差はありますし、4月には激しい嵐がよく起きます。
 主な冒険の舞台となる半島部は森林が多く、稲作の技術も進んでいます。
 平均寿命は男性50歳ほど、女性60歳ほどとなります。ちなみに岡和田は41歳なので、シュリーウェバの冒険者ならば大ベテランで、かつ孫がいてもおかしくないということになります。

●文明レベル
 エンジンのような内燃機関はありません。エネルギーについての知識も無きに等しいですが、テコや歯車、バネ、基礎的な冶金の技術は備わっています。医療はいわゆる漢方医学に近い発想のものであるようです。
 しかし、亜神(後述)がもたらした失われた技術も随所に残っています。

●亜神
 シュリーウェバを統治する亜神は森王ナウマニカ。植物や農業を庇護する母性的な女神です。つまり「王」とありますが、厳密には女王です。ナウマニカのほかにも亜神の王はいて、「12神王」と呼ばれます。亜神といってもピンキリですし、プレイヤー・キャラクターでも成長を経れば、亜神となるのも夢ではありません。
 亜神は、八百万の神というよりは指導者に近く、民間信仰の対象となる存在はより曖昧でアニミズム的な神性。このあたり、神仏習合めいたイメージでもそう遠くはないでしょう。

●種族
 シュリーウェバには人間族のほか、ゴブリン族や龍族もよく住んでいます。比較的珍しい存在としては妖精族もいますし、輪をかけて稀少な存在に魔族や神族も設定されています。
 ゴブリン族は犬ゴブリン、ゴブリン、角ゴブリンの3つの階級に分かれます。粗野な種族とみなされることも多いのですが、どこか憎めないところもあります。
 龍族は哲学的なナーガ族と、戦闘民族のトカゲ族に分かれます。
 妖精族は180年ほどの寿命がある長命で知性的な種族。小妖精、翼人族、楽人といった種族の総称です。
 魔族は妖精族でありながら、体内に降魔を宿した存在のことです。
 神族は亜神と人間との間に生まれた子どものことを主に指します。
 ちなみにサプリメント『ブルーフォレスト戦乱』ではさらなる種族が追加されます。降魔の影響を受けていない女性のみよりなるゴブリン種の亜種ゴブリナも、『ブルーフォレスト戦乱』で追加された種族です。原文でのフラットな記述に対し、なぜかロリコン的な受容をされることがありますが、性的指向とジェンダー・アイデンティティを混同する言説が横行する2023年現在の状況に鑑み、そのような演出を強調する際には、不快に覚える人がないよう卓の合意を取るようにすることを私は推奨します。


●歴史
 かつて「降魔戦争」と呼ばれる大規模な戦争が起きました。これによって12神王は深刻な分裂を余儀なくされます。このとき、かつての秩序を取り戻そうと尽力したのが森王ナウマニカなのです。
 しかし、人間たちに期待をかけたナウマニカも、彼らが「継承戦争」と呼ばれる戦乱を起こしたことで人間に絶望して支配を放棄してしまい、その隙をついて、魔族が押し寄せてきました。「百年戦争」の始まりです。どうにか魔族を退けても、亜神が戻ることはなく、それゆえ人間たちの私利私欲は止むことがありませんでした。
 かような混乱に秩序をもたらしたのが、ラグ神帝国。帝国は他の国々へ侵攻を行い、「十王戦争」と呼ばれる大規模な戦争を起こしてしまいます。これが10万人以上の兵士たちがぶつかりあったという「十王戦争」。その傷痕はいまだに癒えず、ラグ神帝国も野望を捨てたわけではないようです。

●伏見健二さんの現在は?
 以上の設定を押さえつつ、各シナリオで解説される、個別の小設定あるいはマップに即した地方ごとの情報を呑み込んでおけば、プレイ自体はそう難しくはないでしょう。
 ところで、伏見健二さんの近況が気になる方もいらっしゃるようです。現在、伏見さんは福祉関係の仕事をされていますが、これはゲームデザイナーや小説家と同じく、伏見さんがもともと抱いていたお仕事でもあったとか。そちらはコロナ禍で大変だったようですが、新年度に入ってミニチュアゲームを楽しめるほどには落ち着かれた様子。
 ゲームや文学関係の最近のお仕事では、ポストヒューマンSF-RPG『エクリプス・フェイズ』のシェアード・ワールド小説「プロティノス=ラヴ」が『再着装(リスリーヴ)の記憶』(アトリエサード、2021年)に収録。「図書新聞」2021年4月17日号(コンビニで有償ダウンロードできます)に、T&Tアドベンチャー・シリーズ9『怪奇の国のアリス+怪奇の国!』の書評が掲載。また「ナイトランド・クォータリー」Vol.28にコラム「『ストームブリンガー』が斬り拓いたもの」を寄稿(2022年)。
 エテルシアワークショップでは新感覚の剣戟RPG『N-Injury』を開発中。こちらは「ファスト・トライアル」版がイベントで配布されたばかりです。エテルシアワークショップの新作「三枚のお札RPG」(あわじひめじ)について、4Gamer.netに書いた拙稿の一番下で、ちらりと言及しております(https:/
posted by AGS at 21:29| ブルーフォレスト物語小特集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする