2022年12月5日配信の「FT新聞」No.3613に、『ダンジョンズ& ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.12が掲載されています。今回はアラインメント論争(?)が展開されますね。
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.12
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/494816801.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第11話「腐爛」の後半となります。今回からは、クラシックD&Dの隠れた重要概念である「エントロピー」も言及されます。訳語を充てるならば「衰退」ですが、音訳だとSF的なマルチプレーンの概念ともリンクするものとわかりますね。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
ヨブ/死亡していたはずが、アベンジャーとなっていた戦士。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
ジョン・セルター/グリフォン聖騎士団員だが、行方不明。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
イリアナ・ペンハリゴン/ペンハリゴン家の領土と爵位を要求した女性。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。やられてなお罠を仕掛け……。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。
●泥沼の戦況
かつての恋人を目の前にして、ヨランダが剣を振るう手は鈍る。
その隙を突くかのように、イリアナが、メイスの魔力で彼女の前へとワープし、ヨブと二人で挟み撃ちにしてくる。
が、頬を涙で濡らしながらも、さすがはヨランダ。
抜群の観察力で、ヨブの顔色が、ゾンビのように生気が失せているのに気がついた。
目の前にいるのはヨブではない、と自らに言い聞かせ、果敢に反撃を挑む。
残る面々も、ただひたすらに反撃を仕掛け、戦局はまさしく泥沼と相成った。
イリアナはリアの起死回生の射撃をまともに喉に受け、そのまま息絶えた。
ヨブも、ヨランダとジーン、そしてシャーヴィリーの三人を相手にして、長くはもたなかった。
ヨランダの剣の一閃が、ヨブに三度目の死を与えた。残るは、首領格のアベンジャー、ただ一人である。
●対決
アベンジャーは、最後に自分だけが残されたことに気づくと、乾いた笑い声を上げ、兜を外した。
その下から現れた素顔は、なんと、あの聖騎士ジョン・セルターの姿だった。
かつては緑竜ヴァーディリスと単身相まみえたほどの男が、なぜやすやすと悪(イーヴィル)の軍門に下ったのか……。
ヨブの時にも増して、一行は疑問と絶望感が入り交じる、やりきれない感情に包まれた。
すると、彼は今まで使っていた剣を投げ捨て、代わりに『槍』を手に取り、高らかに吼えた。
タモトの斧やイリアナのメイスと並ぶ、『オルトニットの滅びの槍』である。
――緊張が走る。
『斧』を手にしたタモトが『槍』を持つ騎士に挑戦すべく、ゆっくりと進み出た。
●哀れな仔山羊
一方、バーグルが残した空飛ぶ宝石は、ゆらゆらとパーティのもとにまで近づいてきた。
不吉なものを感じた一行は、グレイの「ウェブ」で宝石を絡めとった。
そのうえで、シャーヴィリーが持つ「トリック・アニマル・パック」から呼び出した山羊に、宝石を調べに行かせた。
おっかなびっくり山羊が近づいていったその瞬間、轟音とともに宝石が爆発した。
――マジックユーザーの7レベル呪文、「ディレイド・ブラスト・ファイアーボール」(遅発する火の球)である。
戦場に、哀れな骸がまた一つ増えたのだった……。
●『オルトニットの滅びの槍』の秘密
騎士とドワーフ。真っ向から対峙しているのは奇妙な取り合わせだ。
二人が構える槍と斧が、戦場に降りしきる雨を受け、鈍色に輝いている。
そして、血の臭い。
勝負は一瞬で決まる。誰もがそう思った。
両者は、間を取りながら、お互いを懐かしむように語り合っている。
ジョン・セルターは、グリフォン聖騎士団員からアベンジャーに身を落とした経緯を語った。
返す刀で、タモトは彼の過ちを、自らの力に溺れ滅んでいった過去の騎士たちになぞらえて諭そうとした。
ジョン・セルターがグリフォン聖騎士団を追われたのは、緑竜ヴァーディリスに一騎打ちを挑んだものの、形勢不利だと悟るや、命惜しさに逃げ出したからだ……という話がお定まりだった。
しかし、セルター自身の弁によれば、それは「槍自身が戦うことを拒否した」からにほかならない。
それを聞いてタモトは、ロスト・ドリームの湖の底に記されていた、槍の性質を思い出した。
――『槍』に属する、第一の「力」とは、「物質」である。それは破壊に耐え、不変と安定を象徴する。ローフルの性格とファイターのクラスに属し、「時間」 と敵対し、「思考」に秩序を与える。また、それは「大地」から力を得る――
では、なぜ『槍』が戦うことを拒否したのだろうか?
それは、『槍』の力が、「エントロピー(死)」によって、歪められてしまっていたからである。
結果、『槍』が属している「物質」の概念が変容し、その力がケイオティック(混沌)なものとなってしまっていた。
パラディン(聖騎士)であるセルターが、『槍』の真の力を引き出せなかった理由は、まさしくここにこそあった。
『槍』は緑竜にはまるで役に立たず、ドラゴンのブレスから身を守るどころか、その威力を何倍にも増幅し、彼に跳ね返した。
絶望したセルターは『槍』、ひいては全てが信じられなくなった。
彼は、はじめて自らの力を疑った。
そうして、幾重も懐疑を重ねたあげく、『槍』の真の力を引き出すためには、パラディンであってはいけないという認識に至った。
『槍』の潜在力を生かし切るには、混沌に身を委ね、アベンジャーの道を究めねばならないと悟ったのである。
ローフルの道もケイオティックの道も、方向性こそ違えども、大局的に見れば同じ――セルターは、そう認識しつつ、さらにその先をも見据えていた。
自分がアベンジャーの道を究め、イモータル(神)にも匹敵する力を得れば、そのとき初めて、「エントロピー(死)」を作り出したイモータルである「ロキ」の力を打ち破ることができる。
『槍』の力をねじ曲げた「エントロピー(死)」さえ破壊すれば、歪んだものの全てが正しき道へと回帰する。
そして、自分ももとのパラディンに戻ることができる。
――セルターは、そこまで考えていたのだ。
●疑問
けれども、タモトはセルターの話を聞いても釈然としなかった。
何かが足りないのだ。
我々は皆イモータル(神)の操り人形にすぎない、という主張も、ローフルもケイオティックも根は同じという考え方も、アベンジャーとして起こした罪は、後になってゆっくりと償えばいいという楽観主義も、まあ理解できなくはない。
しかし、タモトにはセルターが、どうも楽な道に逃げてしまったようにしか見えなかった。
なぜかはわからない。だが、彼の主張には賛同できないのだ。
戦う理由としては、それだけで十分だろう。
●破砕
アベンジャーが『槍』を構えて、すさまじいスピードで突撃をかけてきた。
タモトは、真っ正面からそれを受け止め、力を逆用しつつアベンジャーを馬から叩き落とそうとした。
が、槍の一撃は思いのほか強く、ドワーフの小さな身体では耐えられそうになかった。
衝撃のあまり、タモトは反撃する機会を待たずに気絶してしまった。
そのとき、『斧』から、まばゆいばかりの光がほとばしり、巨大な透明の楯となって、タモトを包み込んだ。「フォースフィールド」である。
「エネルギー」の領域に属する、『ジルチェフの欺きの斧』の秘められた力が発動したのだ。
『槍』は、「フォースフィールド」を破りきれず、真っ二つに折れてはじけ飛んだ。
●結末
『槍』が破壊された時点で、勝負は決まったようなものだった。アベンジャーは、自らの選んだ道が間違っていたことを、心の底から思い知らされた。
彼は天に向かって高らかと慟哭した。
そして、よろよろと放り投げた大剣の側にまで歩み寄った。
彼が何をしようとしているのかを察したシャーヴィリーが止めに入ろうとするが……ヨランダが無言で制止した。
かくして、ジョン・セルターは自刎し、その苦悩に満ちた生涯の幕を下ろしたのだった。
●その後
指揮官がいなければ、所詮モンスターどもは烏合の衆。
たちまち、「グリフォン聖騎士団」の猛攻を受け、散り散りになって敗走していった。
アリーナ・ハラランが一行のもとを訪れ、ねぎらいの言葉をかけた。
彼女は、ことの顛末を聴いてさめざめと涙し、哀れな騎士の魂が救われることを切に祈った。
一方、ジーンは戦場にめぼしいものがないか探し回っていた。「スピーク・ウィズ・ザ・デッド」の呪文でイリアナ・ペンハリゴンの霊を呼び出し、有用な情報を得ようとすらしていた。
失敗して、さんざん罵詈雑言を浴びせられたりもしたが、そんなことでジーンはめげない。
そう、今や彼の左手には、『ペトラの嘆きのメイス』が握られているのだから……。
2022年12月30日
2022年12月14日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.11
2022年11月17日配信の「FT新聞」No.3585に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.11が掲載されています。セービング・スローに強いはずのドワーフが石になり……そして現れたアベンジャーの正体は!?
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.11
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/492760331.html?1668560922)をどうぞ。今回はキャンペーン第11話「腐爛」の前半となります。このあたりからコンパニオンルールセットを本格導入していますね。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
ヨブ/ロスト・ドリームの島で死亡していた戦士。しかし……。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。故人。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
イリアナ・ペンハリゴン/ペンハリゴン家の領土と爵位を要求している。
バーグル・ジ・インファマス/邪悪なブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。
※2022年10月20日配信の「FT新聞」No.3557のVol.10でのヨブのプロフィールは間違いで、今回のプロフィールに同じです。お詫びして訂正します。アーカイブでは修正済みです。
●敗走
ブラック・ピーク山脈へノールどもを掃討に出かけた一行だったが、そこで突然出現したビホルダーによって、パーティ半壊の憂き目にあってしまった。
おまけに、頼みの綱のタモトは、ビホルダーの眼突起から発せられた「フレッシュ・トゥ・ストーン」の光線をまともに浴びて、全身が石と化してしまっていた。
さすがというべきか、『欺きの斧』には埃一つついていないのだが、使い手がいなければどうにもならない。
不利を悟った一行は、とりあえず「エフリーテ・ボトル」から呼び出したエフリーテを楯にして、戦場から撤退することにした。
●再準備
スレッショールドの街に戻ったパーティは、とりあえずシャーレーン大司教の住む、ターンズ砦へと向かった。
そこで彼らは、高額の喜捨を行って、大司教の側近のマジックユーザーにタモトの石化を解いてもらった。
ついでに、彼らは大司教にことの次第を告げ、見事報酬を釣り上げることに成功した。
その前金で、彼らは回復のスクロールやちょっとしたマジックアイテムを買い集め、再度ブラック・ピーク山脈に向かった。
途中聞いた話では、スレッショールドはインジフの起こした抗争で荒れているとのことだったが、一行が到着したときには沈静化していた。きっと、フレームフリッカーが迅速に事後処理を行っているのだろう。
●洞窟にて
パーティは、前回の轍を避けるべく、慎重に山道を行軍していった。
ノールの領域にさしかかると、警戒を強め、見張りのトログロダイトどもを打ち倒すと、敵の本拠地と思われる洞窟の中に潜入した。
洞窟を奥へ奥へと進んでいく。即死罠をいくつも乗り越え、無事、奪われた「スタッフ・オブ・パワー」を回収した。
いよいよ親玉と対決が待っている。
●計略
かび臭い洞窟の奥深くでビホルダーは傷を癒すのに専念していた。
しかし、予想外に修復には時間がかかった。本来ならば10本あるはずの眼突起が、7本しか戻っていなかったのだ。
ビホルダーは来るべき敵襲に備え、ちょっとした計略を練った……。
――ビホルダーのいる場所に足を踏み入れたパーティは驚愕した。
なんと、ビホルダーが2体いるのだ!
そのうち、前にいるほうがニヤニヤ笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる。
思わずあとずさりする。だが、ひるんではいられない。
攻撃を仕掛けると、突然、目の前のビホルダーが爆発した!
ビホルダーによく似た爆発生物、「ブラストポア」である!!
そしてその隙をついて、もう一体のビホルダー、そして配下のマンスコーピオン、ジャイアント・スコーピオン4体、ノール25体が襲いかかってきた。
●背後の陰謀
決着はあっけなく着いた。
グレイが手にした「スタッフ・オブ・パワー」を用いて使った「アイス・ストーム」が思いのほか強力だったせいもあるが、再戦にかける一行の意気込みが、敵のそれとは比較にならなかったことが決定的な要因であろう。
ビホルダーが援軍として呼びつけたモンスターたちも、ものの数ではなかった。
リーダー格のマンスコーピオンなぞは、「チャーム」に抵抗しきれずに、パーティのためにせっせと回復呪文を使わされる始末。
その様子を見て、生き残ったノールどもはあっけなく降伏してしまった。
ノールの族長クラスガットが言うには、彼らはいやいやビホルダーのために働かされていたのだという。
ビホルダーを呼び出したのは、山頂近くに居を構えている、「ゴルサー」という男の仕業らしい。
ゴルサー! その名を聴いて一行は慄然とした。
最初の冒険にて、タモトの斧が眠っていた洞窟を支配していた魔術師の名である。フレームフリッカーらが教えてくれた、ブラック・ピーク山脈に眠る『伝説の剣』と、ゴルサーとが無関係だということは考えにくい。
だが、深追いは禁物である。
パーティはここで手に入れた宝をもとに体制を立て直すべく、再度、スレッショールドに戻ることにした。道中、激しい地震に何度となく見舞われた。間違いない。何かが起こりつつあるのだ。
●テネスサール野へ
スレッショールドに戻った一行を、青ざめた顔をしたシャーレーン大司教が出迎えた。彼は、事態をかいつまんで説明する。
それによると、リアの兄、マレクを殺害したのは「アイアン・リング」の一派であり、スレッショールド内に拠点を作って、モンスターどもを招き入れるための手引きをしていた、とのこと。
しかも、そのモンスターどもはイリアナ・ペンハリゴンという女戦士に率いられているらしい。
イリアナ! 『ペトラの嘆きのメイス』を持つ女である。因縁浅からぬ相手だ。
しかも、彼女がスレッショールドに攻撃を仕掛けてきたというのだ。
次々と明らかになる陰謀の数々に、もつれ合った糸をふりほどくための場所が、垣間見えたような錯覚すら覚える。
大司教の説明によると、「グリフォン聖騎士団」の活躍によって、街中のモンスターは撃破された。
しかし、イリアナはスレッショールド近くの、テネスサール野という場所に砦を構えており、今度は正面から突撃してくる気配である。
「グリフォン聖騎士団」が迎撃に向かっているが、応じきれるかどうかは定かではない。
パーティはシャーレーン大司教の要請を受けて、息着く間もなく、テネスサール野へ向かった。
●作戦
「グリフォン聖騎士団」の団長、アリーナ・ハラランは、憔悴した様子で一行を歓迎した。
彼女が戦況を説明する。
現在のところ、双方ともに小康状態に入っているのだが、いつ戦闘が再開してもおかしくない緊迫した状態となっている。
敵軍は主に、オーク、オーガー、ヒル・ジャイアントから成っている。
本来ならば、これらのモンスターは乱暴な気質ゆえに、あまり統制がとれていないものなのだが、敵の指揮官であるアベンジャー(復讐者)の力で、その弱点を克服し、実に組織だった攻撃をかけてくるのである。
アリーナはそこで提案する。
もうすぐ、再び両軍が激突することになるだろう。その際、一行は遊撃隊として、指揮官であるアベンジャーらを直接攻撃してほしい、というのだ。
危険な任務だが、もし成功すれば、戦況を一気に覆すほどの、多大な効果が得られるだろう。彼らは命を受け、一路戦場へと向かった。
●再会
戦闘は再開された。至る所で怒号が巻き起こり、血しぶきが舞っている。パーティはそれを後目に、指揮官を探す。
と、それらしき、四人組を発見した。
全員が、バーディング(馬用の鎧)をつけたウォー・ホースにまたがっている。
そのうち一人は紛れもない、イリアナ・ペンハリゴンである。
傍らには、黒いローブに身を包んだ男が寄り添っている。以前とはだいぶ容貌が異なっているが、バーグル・ザ・インファマスだ。
一度ヨブに肉体を破壊されたものの、「マジック・ジャー」の呪文で魂を別の場所に移しておいて、別の身体に乗り移ったようだ。
そしてその背後には、全身を鎧(フル・プレート)で包んだ二人の男がじっと戦場を眺めている。あれがアベンジャーか。
一行はさまざまな手を駆使して、無事、軍隊が交戦している場所より、彼らを引き離すことに成功した。
だが、それとて彼らがパーティを脅威だと認識してのこと。ただちにバーグルは「ファイアーボール」の詠唱に入り、アベンジャー二人は巨大な剣を抜いて距離を詰めてくる。
が、対するパーティも黙ってはいない。すぐさま、グレイが「ヘイスト」をかけ、次に「アイス・ストーム」を4人に向けて放つ。
リアやジーンも負けてはいない。エルブン・ボウやスリングで、もっとも「危険」なバーグルを射倒しようとする。集中攻撃を喰らったバーグルは、たちまち瀕死の重体を負ってしまった。
慌ててイリアナが「キュア・オール」での治療を行うが、すっかり怖じ気づいたバーグルは、仲間を見捨て、「テレポート」の呪文で逃れ去ってしまった。
だが、彼がいた場所に、突如、宙に浮かぶ奇妙な宝石のような物体が現れ、一行に向かってゆっくりと進んできた。
一方、アベンジャー二人を迎撃したタモトとヨランダは、相手の力量があまりにも強大なことに驚きを隠せなかった。
加勢に入ったシャーヴィリーの「マジック・ミサイル」が、アベンジャーの顔面に命中し、その衝撃で兜の目庇が吹き飛んだ。
そこから現れたアベンジャーの素顔は、なんとヨブのものだった。
パーティは目を疑ったが、間違いない。
ロスト・ドリームの湖で散っていったはずの、ヨブその人だ。
2022年10月22日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.10
2022年10月20日配信の「FT新聞」No.3557に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.10が掲載されています。今回はいよいよ、GAZ2『イラルアム首長国連邦』の設定が入り、凶悪無比な「あの」D&Dオリジナルモンスターと対峙します!
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.10
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回はGAZ2『イラルアム首長国連邦』の設定も導入しています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/491279639.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第10話「ビホルダー」)の内容となります。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。故人。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵/邪悪きわまりない貴族。通称「ブラック・イーグル」。
占い師アルヤ/謎めいた美貌の占い師。正体は「盗賊王」フレームフリッカー。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
ゴルサー/謎の魔法使い。
「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマン/イラルアム首長国連邦のデルヴィーシュ。
●殺人事件
スレッショールドで起こった殺人事件に戸惑うパーティ。
しかも被害者はリアの兄、マレクである。
慌てて現場に駆けつけた一行が目撃したものは、見るも無惨に引き裂かれた肉片の山だった。
それを見たインジフは、好々爺の仮面を脱ぎ捨てた。
かつてスレッショールドの裏社会を取り仕切っていた頃に戻ったかのような猛々しい様子で、真相の徹底的な究明にかかることを宣言したのだ。
あまりの剣幕に、取りつくしまもない。
●アラディンとの出会い
一方、「鉤と十字亭」に残っていたメンバーは、奇妙な人物との出会いを果たした。
ターバンを巻き、ぼろぼろになったローブを着込んだ初老の男が話しかけてきたのだ。
彼は、自分が「砂漠のウズラ」、アラディン・アル・スレイマンと名乗った。
砂漠の国イラルアム首長国連邦から、占い師アルヤを尋ねるためはるばる旅してきたらしい。
●イラルアム首長国連邦とは
イラルアムでは、アル・カリムという伝説的英雄が興した一神教、「エターナル・トゥルース」が奉じられている。
信者は「ナーメー」という教典に記された厳格な教えに従って生きる。
彼らは、イラルアムの地を再び牧草が生い茂り、水が空気のように豊かに湧き出る地とするために、まさしく全力を傾注しているのだ。
そしてアラディンは、「ナーメー」の生き方のみを自らの範とし、砂漠で孤独な修行の日々を送ることを旨とする「デルヴィーシュ」と呼ばれる特別な職についているのである。
だが、自ら「砂漠のウズラ」(ウズラは歌が上手な人の意)と称するだけあって、アラディンはなかなかに弁舌巧みである。
詩人ドワーフであるタモトも負けていられない。
二人は「歌合わせ」で詩人としての力を競うことにする。
結果は……。見事、タモトが勝利した。
朗詠があまりにも見事だったので、立ち聞きしていたスペキュラルムの文学サークルの面々からお誘いがかかるほどだった。
その後、彼らはアラディンをアルヤ(フレームフリッカー)に引き合わせようとしたけれども、彼女の姿はいずこかへ消えてしまっていた。
そこで、イラルアム人はこの宿で一夜を明かすこととなった。
●次の日
晩になっても、インジフは「鉤と十字」亭に戻ってこなかった。
代わりに現れたのは、スペキュラルムで密偵をやっているはずの、リアの長兄ダニエルだった。
本人は語らないが、どうやら祖父の呼び出しを受けたらしい。
不穏な雰囲気が立ちこめる。
翌日。起きて食事に向かった一行を待ち受けていたのは、楽しげに話を交わしているアラディンとフレームフリッカーだった。
いつの間に戻ってきたのか。
彼女は、自分たちのテーブルに一行を招いた。
話の内容が、パーティが関わってきた冒険に関係あるらしい。
●アラディンの来訪目的
アラディンは静かに語り始めた。
それによると、彼が国を離れ、フレームフリッカーを尋ねた理由は2つあるという。
1つは、彼の氏族が守護していた「生命の樹」が原因のわからないまま枯れ始めるという事件の、打開策を探さねばならなくなったため。
もう1つは、「フォート・ドゥーム」のブラック・イーグル男爵と名乗る男が、ひそかにイラルアムの首長連に、カラメイコス大公国に攻め込むための手引きを行っていることを、報告するためである。
彼の口から発せられた「生命の樹」という言葉に、パーティは動揺を隠せない。
そこで、パーティはこれまでの冒険を包み隠さず話したうえで、ロスト・ドリームの森に住むカラーリー・エルフを訪れるべきだとアラディンに勧めることにした。
イラルアム人は頷き、「ナーメー」を引用して礼を言った。
「自分はこれからそのエルフに会いにいかねばならない」、と。
「君たちの行く手は死のごとき暗闇に包まれている」と付け加え、多少の手助けにでもなればと、首から下げていた「プロテクションスカラベ」(一定回数の呪いや「フィンガーオブデス」を吸収するアイテム。ただし、「デススペル」には効果がない)を手渡した。
●シャーレーン大司教との会合
宿を後にするアラディンの後ろ姿を眺めつつ、一行はどう行動すべきかを相談し合った。
決定事項はこうである。
ヨランダの提案を受け入れ、まずはシャーレーン大司教と面会して、ステファン・カラメイコス公から預かった書面を渡し、スレッショールドへの難民受け入れを要請しなければならない。
それが終われば、ブラック・ピーク山脈に眠っているという伝説の武器を魔術師ゴルサーが入手してしまう事態を阻止することが急務となっている。
パーティはシャーレーン・ハララン大司教の住む、ターンズ砦へと向かった。
今日はターンズ砦の警備を任されていたアーソル軍曹に挨拶し、大司教に取り次いでもらう。
パーティは、シャーレーン大司教の厳格そうな様子にたじろぎながら難民受け入れの話を持ち出したのだが、相手は拍子抜けするくらいあっさりと了解してくれた。
娘であるアリーナ・ハラランから一行の活躍を聴いていたからだろう。
が、大司教は駆け引きというものを心得てもいる。
交換条件として、パーティブラック・ピーク山脈にあるフォームファイア峡谷に救うノールどもを掃討するという使命を負わされることとなってしまった。
ただ、彼らはもともとブラック・ピーク山脈へと向かう途中だったから、このクエストは渡りに船だった。
●フォームファイア峡谷へ
砦を離れ、「鉤と十字」亭に向かったパーティ。
その途中、なぜか町中で暴れている熊に出くわしたり、スリに間違えられたりとひと騒動あったのだが、無事、一行は再会を果たした。
その足で、フォームファイア峡谷へと通じる道を歩いていく。
殺人事件も心配だが、そちらの方は、海千山千のインジフとフレームフリッカーに任せることにしておいた。
峡谷はなかなか険しく、旅慣れた彼らにとっても決して楽な道程ではなかった。
ノールに襲撃された冒険者の遺骸を片づけ、先へ先へと進んでいくと、急に辺りが濃い霧に包まれてきた。
ほとんど前が見渡せない。
そのうえ、怪しげな旋律が響き渡ってきた。ノールどもが現れたのだ。
だが、経験を積んだ彼らにはノールごときは敵ではない。
順調に掃討していく。
しかし、その背後には、もっと恐ろしいものが控えていた。
●目玉の暴君
空中に浮遊する巨大な球状のモンスター。
頂部には先端に目の付いた10本の突起が映えており、体の正面には大きな主眼がある。
開かれた口は、体全体のおよそ半分を占めており、鋭い牙が間断なく生えている。
「多眼の球魔」と畏れられる伝説のモンスター、「ビホルダー」が、その姿を現したのだ!!
ビホルダーは非常に高い知性を有している。
魔力によるゆっくりとした飛行で移動するうえ、正面の主眼は常に「アンチマジック・レイ」を放っており、敵の魔力を無効化する。
さらに、眼突起はそれぞれ、「チャーム・パーソン」、「チャーム・モンスター」、「スリープ」、「テレキネシス」(念動力)、「フレッシュ・トゥ・ストーン」(石化)、「コーズ・フィアー」(恐怖付与)、「スロー」(減速)、「キュア・シリアス・ウーンズ」(重症治癒)、「デススペル」(死の呪文)の呪文を同時に放つことができる。
まさしく悪夢の到来だ。
あまりの事態に愕然とする一行。
必死で応戦するも、「テレキネシス」の呪文で、頼りにしていたグレイの「スタッフ・オブ・パワー」は奪われてしまうし、リアやヨランダは「チャーム」されてしまう。
それでも必死でエフリーテを呼び出して援軍とし、眼突起のほとんどを切り取ることに成功した。
しかし、ビホルダーも負けてはいない。
眼突起から放たれた「フレッシュ・トゥ・ストーン」の光線が、ドワーフの鋼の抵抗力を貫き、タモトを石に変えてしまったのだ!
2022年09月06日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.9
2022年8月25日の「FT新聞」No.3501に、『ダンジョンズ& ドラゴンズ 』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.9が掲載されました。ファイナルストライクのぶつけ合い、ブラック・ドラゴンやナグパとの死闘から始まります!
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.9
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。例えばテレリィ・フィンゴルフィンとは『シルマリルの物語』より。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/490980912.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第9話「薄明」(後編)の内容となります。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、6レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、5レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、6レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。戦士、6レベル。
ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
テレリィ・フィンゴルフィン/ロスト・ドリームの島のエルフ。
ハービンガー/ロスト・ドリームの島のエルフ。
シャドウ・エルフたち/エルフの国アルフハイムの地下「星の都(シティ・オブ・スターズ)」に住まう存在。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。ヨブとは古い仲。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵/邪悪きわまりない貴族。通称「ブラック・イーグル」。
カルディア/リフリアンに住むエルフ。魔法の絨毯を使って人を運搬してくれる。
アンデラ/リアの姉。
占い師アルヤ/謎めいた美貌の占い師。正体は……。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。
ステファン・カラメイコス3世/カラメイコス大公国の統治者。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アントン・ラデュ/ギルド「ヴェールド・ソサイエティー」のギルドマスター。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
ゴルサー/謎の魔法使い。
ミコラス/リアの父。
●決戦
シャドウ・エルフたちの言うことがどうしても信用しきれなかったパーティは、結局、その申し出を断ることにした。
怒り狂ったシャドウ・エルフたちは、手にしていた「ウィザードリィワンド」を二つに折った。
ワンドに込められていた信じられないほど強大な力がほとばしり、閃光とともに辺りを包み込む。
恐るべき、「ファイナルストライク」(最後の一撃)の魔力である!
――間一髪、テレリィがパーティの間に割り込む。
テレリィもまた、手に持っていたワンドの封印を解いた。
二つの強大な「ファイナルストライク」はぶつかり合い、辺りにはすさまじい振動が響き渡った。
気がつくと、テレリィとハービンガーの姿はかき消え、疲弊した二人のシャドウ・エルフだけが残っていた。
彼らは捨て台詞とともに、「ディメンジョン・ドアー」(次元の扉)を通って去っていった。
だが、入れ替わりに、巨大な、腐敗したブラック・ドラゴンと、魔術師風のローブを着たハゲタカ頭の老人めいた邪悪なクリーチャー「ナグパ」が現れたのだ。
●絶望
すぐさま激戦が始まった。
しかし、ここでパーティはシャドウ・エルフに気を取られていたためか、重大な過ちを犯してしまった。
ドラゴンの体力を削ることを怠ったのである。
そのため、最前線のヨブは、ドラゴンの酸のブレスをまともに受け、一瞬のうちに溶け去り、奈落(アビス)への帰らぬ旅路に就くことになってしまった。
絶望が一行を包み込む。
さらには、タモトまでがドラゴンのブレスを受け、倒れてしまう。
おまけに、ナグパはグレイに狙いを定め、「コラプション」の魔法で、彼の持っているポーションや呪文書のほぼ全てを腐らせてしまった。
これは全滅か!?
死の淵を彷徨いながらも、必死の連係で、辛うじてドラゴンを葬ったはいいものの、ナグパにとどめを刺そうとした瞬間、そいつは死に際に呪文を放ち、もう一体、巨大なブラック・ドラゴンを呼びだしたのだ!
●顛末
第二のドラゴンは、ナグパが「ファンタズマル・フォース」の呪文によって作った幻覚であった。
パーティはただちに見破って、幻覚をかき消してゆく。
そして、崩れゆく神殿から、指輪の「ワード・オブ・リコール」の魔力を使って逃げ出したのだった。
ジーンの懸命な看護の甲斐あってか、タモトは戦闘後に無事息を吹き返したものの、ヨブを運ぶのはもはや不可能だった。
一行は悲嘆に暮れながら彼の遺品を集め、帰路についた。
エルフの村に戻ったパーティは、顛末を報告した。
ゴリーデルは食い入るように聞き入り、話が終わると心からパーティを歓待した。
しかし、ヨブは戻ってこない……。
あれだけ死体の損傷がひどければ、「生命の樹」の力も及ばないだろう。
そもそも、「生命の樹」の力を使えば、またもやバリムーアのような存在を呼び出してしまうことにも繋がりかねない。
そのような危険は冒せない。
●「ルルンの」ヨランダからの知らせ
一行がこれからの行く先についてあれこれ考えていると、近くの樹の幹に一本の太矢が刺さった。
伝達の太矢(クォーレル)である。
伝言は、「ルルンの」ヨランダからのものであった。
大事が起こったので、すぐにスレッショールドまで来てほしい、というのだ。
スレッショールドには、リアの故郷がある。
ちょうど、リアも一度実家に戻ろうかと考えていた矢先だったということもあり、行くあてのなかったパーティは、とりあえずスレッショールドへと向かうことにした。
そうして湿原(ムーア)を越え、河を渡って、エルフの街リフリアンにたどり着いた。
ここを越えれば、スレッショールドはもう目と鼻の先だ。
●リフリアンでの噂
だが、彼らはここで、とんでもない噂を耳にした。
そう、ブラック・イーグル男爵がカラメイコス大公国の首都スペキュラルムに攻め込んだというのである。
スペキュラルムの防衛軍や、グリフォン聖騎士団の活躍もあって、何とか持ちこたえているらしいが、王都陥落も時間の問題だろう。
また、スペキュラルムやその近くの街からは多数の難民が発生して、ケルヴィン周辺の街や村々になだれこんでいるということである。
驚いた一行は、すぐさま、リフリアンに住むエルフ、カルディアに法外な金を払って魔法の空飛ぶ絨毯をチャーターし、スレッショールドへと急行した。
●スレッショールド
スレッショールドはブラック・ピーク山脈のふもとにある街だ。
山の向こうには、遠くダロキン共和国やイラルアム首長国連邦が見える。
見下ろすと、一列に連なった難民たちの姿がうかがえた。
ヨランダとの待ち合わせ場所は、リアの家族が経営している宿屋ということになっていた。
スリの猛攻や窓からぶちまけられる尿瓶の中身をなんとかかわしつつ、ようやく目的の場所、すなわち「鉤と十字亭」に到着した。
迎えに現れたのは、リアの姉、アンデラだった。
彼女が宿に戻って呼びに行くと、しばらく経って、ヨランダが現れた。
続いて精悍な老人、そしてローブ姿の小柄な女性が降りてきた。
二人はリアの祖父インジフと、「占い師」アルヤだと自己紹介した。
一行とインジフとは初対面だが、アルヤの方はそうではなかった。
というのも、彼らは以前王都にて、アルヤに将来を予言されたことがあったからである。
とりあえず、三人にことの経過を報告する。
彼らはうなずき、パーティの労をねぎらうと、ふたたび何ごとかを相談するため、宿の2階へと引き上げていった。
ヨブの形見として、一行からトゥルース・リングとノーマルソード+2を受け取ったヨランダの瞳は、心なしか涙でうるんでいたが……。
●宿の騒動
その晩、パーティが宿の1階にある酒場で久々に羽を伸ばしていると、青白く太った男が因縁をつけてきた。
男はリアの兄、マレクだった。
彼らはなんとか面倒を避けようとしたがうまくいかない。
結局、プロスペルとマレクがレスリング勝負を行い、勝った方に事の理があるということにされてしまった。
結果、なんとかプロスペルが勝利した。
騒いでいると、宿の二階からインジフが降りてきた。パーティを呼びに来たのである。
マレクは泣きじゃくりながら、インジフに告げ口をしたが、女々しいことを抜かすなと一喝されるに終わった。
マレクは、紋切り型の捨てぜりふを残し、その場を去っていった。
●占い師アルヤの正体
インジフに連れられて宿の奥の相談室に入った一行は、そこで驚くべき事実を知った。
待っていたのは、二人の美女だった。
片方はヨランダだが、もう片方は?
背格好から見るに、先ほどの占い師アルヤらしいが。
彼女は微笑み、自分はフレームフリッカーだと名乗った。
――「盗賊王」フレームフリッカー!
十代半ばで盗賊稼業を始め、十年足らずで瞬く間に、ギルドの「盗賊の王国」をまとめあげた伝説の人物である。
それが、どうしてまたここに?
●巡らされた糸
ヨランダが代わって説明する。
スペキュラルムにいたころ、彼女は突然、ステファン・カラメイコス公爵の招聘を受けた。
王都内で、対「ブラック・イーグル」男爵領のレジスタンスを組織していたおかげで、白羽の矢が立ったのだ。
そこで公とともに姿を見せたのが、「盗賊の王国」のギルドマスターである「盗賊王」フレームフリッカーだった。
背後には、「盗賊の王国」とは反目し合っている盗賊ギルド「ヴェールド・ソサイエティー」のギルドマスター、アントン・ラデュがいた。
ステファン公は話し始めた。
スペキュラルムの街は危機に瀕している。
ブラック・イーグルこと、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵が反乱を起こそうとしているのだ。
まさしく緊急事態である。
そのため、彼らは日頃の利害関係は当分棚上げして一致団結し、ブラック・イーグルに立ち向かう体勢を取ったのだった。
公爵によれば、ブラック・イーグルがクーデターを起こそうとしたきっかけの一つに、手下であるゴルサーという魔法使いがブラック・ピーク山脈にて発見した禁断の武器があるとのことだ。
そこでステファン公は、自分とアントン・ラデュが首都を守っている間に、フレームフリッカーとヨランダをスレッショールドへ向かわせることにしたのだった。
シャーレーン公爵と話して難民の受け入れ許可を得なければならず、一方でゴルサーの陰謀を打ち砕くための協力が必要になってきたからだ。
そのようなわけで、スレッショールドに到着したヨランダとフレームフリッカーは、かつて「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスターだったインジフに会い、協力を要請していたというわけだ。
そのとき、突然扉が勢い良く開き、リアの父、ミコラスが駆け込んできた。
会議中だ、とインジフが一喝する。
が、ミコラスは耳を貸さずに、絶叫した。
「大変だ! マレクが殺された!!」
2022年07月18日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.7
2022年6月30日配信の「FT新聞」No.3345に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.7が掲載されています。いよいよパーティはロストドリームの島へわたり、カラーリー・エルフたちと対峙します。そこにライカンスロープ勢が襲いかかり……。
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.7
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照しています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/489220627.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第8話「泡沫」の内容となります。いよいよパーティは、ロスト・ドリームの島へと赴きます。
●登場人物紹介
タモト/詩人ドワーフ、5レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、5レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、5レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、4レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、6レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、5レベル。
プロスペル/ペンハリゴンに派遣中の騎士、5レベル。
イリアナ・ペンハリゴン/アルテリスの異母姉。ペンハリゴン家の領土と爵位を要求していた。
ヴァーディリス/ヒュージ・グリーン・ドラゴン。
アルテリス・ペンハリゴン/ペンハリゴンの女男爵。
バーリン/以前一行に同行していたドワーフ。
ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
ジターカ/ハラフ王の第一の部下。
シングル・アイ/隻眼のカラーリー・エルフ。
バーグル・ジ・インファマス/ブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師。
●プロスペルの決断
イリアナ・ペンハリゴン、そしてオーガン将軍による「死の収穫」の野望は打ち砕かれた。
だが、緑竜ヴァーディリスの襲撃によってペンハリゴンが被った被害は、まことに甚大なものであった。
荒廃した街の復興という激務の合間をぬって、女領主アルテリスは、プロスペルを呼び寄せ、今後の身の振り方を尋ねた。
彼の名誉は回復されたものの、事件の背後にブラック・イーグル男爵や「アイアン・リング」、それに緑竜ヴァーディリスまでが関わっていたとわかった今では、彼がこれまで以上の危険にさらされるのは間違いないからだ。
プロスペルは多少煩悶したものの、ケルヴィンには帰らない、と答えた。故郷に波乱の種を持ち込むわけにはいかない。
それよりも、彼は現在の仲間と行動を共にし、自らの手で運命を切り開いていくことを選んだのだ。
●疫病神
仲間の待つ「真鍮製の王女様」亭へと戻ったプロスペル。
だが、彼の口から、「同行したい」という申し出を聞いたヨブは、激しく怒る。プロスペルを足手まといとしか思ってないのだ。
返事代わりに、頭からエールを浴びせかける。
周囲に、険悪な雰囲気が漂った。
が、シャーヴィリーのとりなしなどもあって、とりあえず彼を一行に加える、ということで話はまとまった。
しかし、ヨブはいまだに不服なようで、
「何日でこいつが旅に音を上げるか、賭けをしようぜ」
と、グレイに誘いかける始末である。
旅支度もまとまり、いざ一行は当初の目的を果たすために、ロスト・ドリームの島へと出発した。
ペンハリゴンの門を出ようとしたときに、ぼろをまとった浮浪者らしき一団が、彼らの前に立ちふさがった。
ドラゴンの被害を受けて、住居や職や家族を失った住民たちらしい。
彼らはパーティを「疫病神」と罵り、腐った野菜や果物、犬の死体などを投げつけてきた。
しかし、ヨブが一喝すると、彼らは恐れをなして、すごすごと道を譲ったのだった。
●ハイリーチ川の渡し守
さて、ここからどの道をたどるべきか。
ペンハリゴン沿いを流れるハイリーチ川まで赴くと、漁師の小屋らしきものが見えた。
一行は、なかに住んでいた老人に船を出してくれと交渉するが、なかなか話がまとまらない。
漁の時期でもないのに、船を出すのを渋っているようだ。
相場の何倍もの金を積んで、ようやく船を出すことを承諾させる。
だが、老人と話しているうちに、彼がかれこれ一週間ほど前に、船で一人のドワーフを運んだことが明らかになった。
老人はその件に関しては何か嫌な思い出があるらしいが、あえて口に出すことはしなかった。
無事に川を渡りきると、老人は、湿原には十分気をつけるようにと忠告し、帰っていった。
パーティは地図を確認し、ロスト・ドリームの島の近くにあるヘイヴンという遺跡を目指して歩を進めた。
●湿原での戦い
この辺り一帯に広がる湿原(ムーア)は大変歩きづらい。
馬を連れているパーティではなおさらである。
ぬかるみに足を取られながらも、懸命に一行は先を急いだ。その時である。グレイの使い魔である黒猫ルーが叫んだ。
何かが近づいてくるというのだ。
やってきたのは、4体の狼であった。
遠距離攻撃を使い、接敵するまでに何体かは退治したが、それでも2体がこちらに向かってくる。
1匹は、黒牛かとみまがうほどの体躯を有する漆黒のヘル・ハウンド。
それとは対照的に、もう1匹は純白の毛皮に身を包んだアイス・ウルフであった。
かつてアイス・ウルフのブレスで命を落としたことのあるヨブにとっては嫌な相手である。
が、多少苦戦したものの、なんとか2体とも撃破することに成功した。
しかし、こんな開けた場所でなぜヘル・ハウンドが。疑問に思わずにはいられない。
そのうえ、その後もジャイアント・ビーの一群に襲撃されるなど、騒動の種は尽きそうにない。
●ジターカの塚
翌日。再び一行は湿原をさまよう。
と、そのなかの丘のような部分で、奇妙な塚のようなものが見つかった。
塚には、おそらくハラフ王の時代にまでさかのぼるほど昔に使われていた言葉で、「とこしえに思惟を続けし者ここに」と書かれている。
リアとグレイが塚を深く調べると、かすかに人名らしきものが彫られていた。
それによれば、ここには、ジターカという人物が葬られているらしい。
ジーンの知識によれば、ジターカとは、伝説に謳われるハラフ王の部下であった傭兵隊長の名前だという。
ちょうど、タモトの『斧」の前の持ち主であった「ソールジェイニー」が、ハラフ王の仲間、「狩人ジルチェフ」の部下だったように、英雄には忠実な手下が必要不可欠なのだ。
彼らが古代の伝承に思いを馳せていると、塚がスライドし、その下に石の階段らしきものが現れた。好奇心に負けて、パーティは隊列を整え、中を探検してみることにした。
●廃墟の奥へ
階段を下りると、そこはこじんまりとした石室だった。
行き止まりかと思われたが、タモトが近づくと、突然うなるような音を立てて、壁が横に動き始めた。
これは何かあるに違いない。
パーティは気を引き締めて、奥へと足を踏み入れる。
と、突如先頭のリアが麻痺してしまった。
罠に引っかかってしまったのだ。
そして、戦闘体勢を整える間もなく、部屋の奥から、らんらんと目を光らせた亡霊どもが襲いかかってきた。レイスである。
リアをかばいながら、必死で一行は戦いを続ける。その甲斐あって、なんとか死霊は黄泉へと帰った。
しかしながら、自慢の『斧』でレイスをぶったぎっていたはずのタモトが、レイスによって精気を抜かれ(=レベルドレインされ)てしまった。
気を取り直して、奥へと進む一行。
そこは前の部屋より広めの石室で、その中央には、薄汚れたローブを纏った男が腰掛けていた。
男はうつむき、何か深い問題について考えて込んでいるようだ。
その周りには、悪意に満ちた表情をした、人魂のようなものが4体ほど飛び回っている。
パーティが近づいていくと、人魂は彼らを格好の獲物だと見定め、攻撃を仕掛けてきた。
だが、彼らとて、もはや駆け出しではない。なんなく人魂を葬ることができた。
すると、思いの淵に沈んでいたローブの男が、かすかに顔を上げた。
人魂(マリス)と化していた邪悪な想念が断ち切られたがゆえに、男の精神がある程度解放されたようなのだった。
●ジターカの話
タモトが持つ斧を通して、男は語り始めた。それによると、男はやはりジターカ、ハラフ王の第一の部下であった。
ハラフ王が獣人の王と最後の決戦に望んで相打ちになったときに、彼はハラフの持っていた武器を受け継いだのである。
その後ハラフは、伝承の通り天へと昇った。
地上に残ったジターカは、ハラフ王によってもたらされた均衡(平和)のバランスが崩れないように、王が戻ってくるまで見守り続けるという役目を負った。
しかし、いつしか、その「力の均衡」は破れようとしていた。
「力」そのものが膨張を続け、お互いを浸食しようとしているのである。
そして、それを食い止めようにも、彼が受け継いだ武器は何者かよって奪い去られていた。
このことが決定打となった。
取り返そうにも、ジターカは長い間観察者であることに甘んじ、行動する力を失ってしまっていたのだ。
かくして彼はこの世界を形成する要素の膨張、そしてその先に位置する破滅について、絶えず考え続け、思考そのもののなかに沈潜するようになってしまったのだった。
また、彼は、タモトの持つ斧が、「エネルギー」を象徴していると示唆した。「エネルギー」が膨張を続けると同時に、斧そのものも成長していく。
そして、「エネルギー」が果てしなく膨張を続けていけば、「力の均衡」が崩れ、大いなる波乱が訪れ、世界に破滅がもたらされてしまう。
タモトは今ひとつ腑に落ちない様子で、どうして、それぞれの力の均衡が崩れてしまったのかをジターカに問いただした。
ジターカはしばらく黙っていたが、やがて答えた。
それは、「エントロピー」の力によるものだと。
「エントロピー」とは、すなわちすべてを無に帰す、「死」の力を意味する。
これが、すべての原因なのだ。
そう告げると、ジターカは長年の懊悩から解き放されたことを喜ぶかのようにうっすらと笑みを浮かべ、いずこかへ消え去った。
ジターカの部屋の奥には、量は少ないものの高価な装飾品が残されていた。その中には、魔法のアイテムも含まれていた。
特にグレイは、「ライトニング・ボルト」の書かれたスクロールを手に入れ、躍り上がらんばかりに喜んだ。
●馬がない!
さて、塚から無事地上に戻ると、タモトの斧が一回り大きくなっていた。ジターカと会ったことで、「エネルギー」の力が解き放たれてしまったのか。
とにかく、時間がない。一行はロスト・ドリームの島へと急ぐことにした。
しかし、肝心の馬がいない。怪物に襲われたのか、それとも逃げ出したのか。
原因はわからないが、いなくなったことだけは確かである。
としても、他に移動の手段があるわけもなく、パーティは湿原を歩いていくことにした。
●バーリンとの再会
その途中で、彼らは戦いが行われているのを目にした。1人のドワーフと2体のヒル・ジャイアントが争っているようだ。
しかも、ドワーフはどうやらバーリンらしい。
一行はさすがに知り合いを見殺しにはできないと、ヒル・ジャイアントに攻撃を仕掛けた。
戦闘が終わると、ドワーフは、また助けられたな、と苦笑いした。
パーティは、どうして単身こんな危険な地に来たのかを問いただしたが、彼はのらりくらりと質問を受け流すばかりである。
その言によれば、ここから東に進んだブラック・ピーク山脈のふもとにはドワーフの住む鉱山があって、そこに住む親族を訪ねていく途中らしい。
しかし、一行が聞いたところによれば、その辺りにそんな集落は存在しない。
もっとも、大昔にはあったらしいが……。
彼らがその点を問いただすと、ドワーフは平然と答えた。
ドワーフの慣用句では、「親族を訪ねる」ということは、すなわち「墓参りに行く」ことである、と。
つまり彼は、わざわざロックホームからやってきたついでに、かつて祖先が暮らしていた鉱山を拝みに行くと言いたいのだ。
パーティはどこか釈然としないものを感じたが、深くは詮索せずに、バーリンに別れを告げた。
●カラーリー・エルフの森で
それから何日も、一行は湿地を旅した。
そしてようやく、湿地の端が見えてきた。先には鬱蒼とした森が広がっている。
地図によれば、どうやらヘイヴン、そしてロスト・ドリームの島は、この森の中にあるようだ。
足を踏み入れると、どこからか、敵意に満ちた視線が注がれるのを感じられた。そして、野営中に、弓をつがえたエルフの一団に囲まれてしまった。
エルフの長らしき男は「ゴリーデル」と名乗り、許可なくこの森に立ち入る者はすべからく死すべきである、と告げた。
一行は、ただ目的地であるロスト・ドリームの島へと向かおうとしただけだと弁解するが、エルフたちは全く聞く耳を持たない。
しかも、ゴリーデルによれば、この先にあるのは湖だけで、どこにも島などないらしい。
●デビル・スワインとの戦い
しばらく緊張状態が続いたが、一人のエルフがあげた悲鳴で、緊張の糸が断ち切られた。
ライカンスロープが襲撃をかけてきたのだ!
エルフにとって、ライカンスロープはまさしく天敵である。
なにしろ、ライカンスロープの攻撃を受けてその毒が体に回ると死んでしまうのだ。
ジーンはこの隙に逃げ出そうとする。
が、それよりもこの場でエルフたちに恩を売っておいたほうが得策だろうと思い返し、応援に向かうことにした。
襲ってきたのは、デビル・スワイン(悪魔豚)。
ライカンスロープの中でも最強の部類に属するモンスターである。
一行は二体のデビル・スワイン相手に苦戦を強いられる。
おまけに、悪魔豚は「チャーム」の能力を有している。
そんななか、タモトは急に、斧の力が押さえがたく膨張してくるのをを感じた。
そして、斧はまるで意志を持ったかのように、手近にいたヨブに斬りかかったのだ。
だが、タモトの懸命の努力で、なんとか斧の暴走は止んだ。
一方、パーティが総力を結集したおかげで、なんとかデビル・スワインは葬られた。
●謎の小男
ゴリーデルは一行に謝意を伝えるとともに、どうしてこのようなモンスターが現れたのかを説明した。
そもそもの原因は、黒いローブを着た謎の小男のためらしい。
小男はエルフたちに、自分はロスト・ドリームの島の情報を求めてここに来たのだ、と釈明した。
だが、男の瞳に邪悪な色を感じ取ったゴリーデルは、情報の提供を拒否した。
男は苦々しげに、
「ならば、この森のエルフを根絶やしにしてからじっくりと湖を探検しよう」
と言い放ち、去っていった。
それからである。この森にライカンスロープどもが放たれたのは……。
●ロスト・ドリームの島にまつわる伝説
ここまで激しくライカンスロープが襲撃をかけてくるようになった以上、ゴリーデルは決心を固めた。
男が何を狙っているのか、それを知るためにも一行に力を貸すことにしたのである。
そして、彼はパーティをエルフの集落へと案内した。
道中で、ゴリーデルはロスト・ドリームの湖にまつわる伝説を話し始めた。
――かつて、湖の中心部には島があり、そこは神殿が建てられていた。
神殿は、この世界の均衡を保つという役割を果たしており、カラーリー・エルフたちはその番をしていたのである。
しかし、あるときその均衡が破れ、暴走した力によって島は水中に沈んでしまった。
かくして彼らは故郷を追われ、その周囲の森に住み着くことになったというのである。
●エルフたちの会合
あらかた話し終わると、ゴリーデルはパーティを木の上にある自らの住居に呼び寄せた。
エルフの会合に出席させるためである。
彼は一行の人数ぶんの指輪を取り出し、周りに集ったエルフたちに語りかけた。
「呪いによってかつての楽園に足を踏み入れることがかなわなくなった我々に代わり、これらの方々に、悪しき者たちからロスト・ドリームを守ってもらおう。
そのためには、太古の昔より伝わる指輪を貸与することが必要不可欠である」と。
指輪には「ウォーター・ブリージング」(水中呼吸)と「ワード・オブ・リコール」(帰還)の魔力が込められており、安全な探索には欠かせないからだ。
エルフたちの意見はまっ二つに割れた。なかでも反対派を代表するシングル・アイという名のエルフは、ゴリーデルを「誇りを忘れた背徳の輩」だと罵り、氏族に伝わる宝が一行の手に渡るのを断固として阻止しようとした。
しかし、ゴリーデルは族長としての権限を行使し、指輪をパーティに手渡すことを強引に決定してしまった。
シングル・アイは怒髪天を衝くばかりに怒り狂った。
そして、突如、彼は、黒いローブを着た小男へと姿を変えた。
なんと、彼の正体は悪名高い魔術師にして「アイアン・リング」の首領、バーグル・ザ・インファマスだったのである!
バーグルは彼らの不意をつくと、パーティとエルフたちの中心めがけ、「クラウドキル」(死の雲)の魔法を投げかけた。
猛毒が辺りを包み、エルフたちが苦痛に悶え、倒れてゆく。
一行はかろうじて雲をかわした。だが、グレイが逃げ遅れ、雲の中に飲まれてしまった。「アイアン・リング」の首領は高らかに笑い、続いて「テレポート」の呪文の詠唱を始めた。
その瞬間、黒い雲をかき分け、リアの矢と、ヨブの渾身の一撃がバーグルに到達した。
邪悪な魔術師は攻撃をかわしきれず、断末魔の悲鳴を上げると、そのまま倒れ、息絶えた。