2023年05月25日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.16


 2023年4月6日の「FT新聞」No.3725で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」のVol.16が配信となりました。最終回です。皆さまご愛読ありがとうございました。


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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.16

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は以前、独立した記事として紹介したCM3モジュール「悪魔の住む河」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/481129030.html)の設定を導入しています。バーリンが「ポリマス」だったというのは、『竜剣物語』からの影響もありますね。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498492899.html)。キャンペーン最終回「終結」の後半です。旧版のシステムで行われた20年以上前の冒険を再現するという「FT新聞」でしかなしえない企画でしたが、長きにわたるご愛読ありがとうございました。都度いただく感想に励まされました。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、9レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、10レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、9レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、8レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、10レベル。

「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のマスター。
シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
ステファン・カラメイコス/カラメイコス大公国の公爵。
ルートヴィヒ・「ブラックイーグル」・フォン・ヘンドリックス/公爵の邪悪な甥で、国を二分する戦争を仕掛けた張本人。
「ルルンの」ヨランダ/ブラック・イーグル男爵領の避難民にして、レジスタンス。
ヨブ/かつてパーティの一員だったファイター。故人。
プロスペル/かつてパーティの一員だったファイター。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。とかく信用ならない。
バーリン/ドワーフの国ロックホームの使者。実は、「ポリマス」と呼ばれる転生者。
ティアマット/5つ首のクロマティック・ドラゴン。キャンペーンの最終ボス。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。
ハラフ/トララダラ人の英雄で、イモータル(神)となった存在。
ペトラ、ジルチェフ/ハラフの仲間で、同じくイモータルとなった。
プファール/ヒュターカーンのイモータル。

●目覚め

 気がつくと一行は、コテージのような場所に寝かされていた。
 こっそりパーティの後を追ってきた「盗賊王」フレームフリッカーらが、麓で倒れている一行を発見し、介抱してくれたのである。
 フレームフリッカーはパーティに、情勢を簡単に説明する。
 ──ブラック・イーグル軍の猛攻により、すでにケルヴィンの防衛ラインは突破されてしまったのだ。
 今や、スレッショールドの手前で、最後の決戦のための大布陣が敷かれようとしているらしい。
 シャーレーン大司教は最終手段として「聖戦」の呪文を発令し、一般市民をも兵士として駆り出さざるをえなくなっているという。
 「生命の樹」の腐食が止まったとのことで、周辺の森に住むエルフたちも参戦してくれたが、それでも敵の猛攻の前には心許ない、とのことである。
 フレームフリッカーは続いて、タモトの手に握られている簡素な斧が何であるかを尋ねた。
 善良なドワーフは山の中で起こった出来事をつぶさに説明し、この斧こそが、バーリンの言う「予見」の力が結晶して生まれたものである、とのことを悟ったのであった。
 ジルチェフの姿はもうどこにも見えないけれども、この斧に込められている「予見」の力こそが、『エントロピー』を打破するために最も必要とされているものであることを、タモトは実感していたのである。
 一方、リアは8人の強面の男たちに囲まれていた。彼らは、フレームフリッカーとともにやってきた「盗賊の王国」の構成員たちであるが、この度フレームフリッカーの部下として働くよう、ギルドマスターに命令されたのである。 
 予想だにしなかった、「盗賊王」の粋な計らいに目を回したリアであったが、「親分」と呼んで慕ってくる男たちを前に、威厳を保とうと必死で努力するのだった。

●スレッショールドへの帰還

 インセンディアロスの炎によって、来るときに使ったフライングカーペットは焼けてしまっていたが、フレームフリッカーが連れてきたペガサスに乗り、一行はスレッショールドへの帰路についたのだった。
 途中、巨大なロック鳥とすれ違った。その羽根の所々が焼けただれていたのが、妙に気になるところだった。
 スレッショールドに到着すると、ステファン・カラメイコス三世、アリーナ・ハララン、インジフ、そしてエルンスト・ブロッホ(グレイのネクロマンシーの師匠)らが、次々とパーティを出迎えてくれた。
 彼らはパーティの労をねぎらい、暖かい言葉をかけてくれたのだった。
 アリーナは、グリフォン聖騎士団の精鋭たちの中にも、戦死した者が相次いだという事実を悲しげに語り、いよいよ今晩最後の戦いの火蓋が切って落とされるだろう、と一行に告げた。
 そしてステファン公は、アリーナの言葉を補完するかのように、「決戦のためにぜひ皆の力を貸してほしい」と頼んだ。
 一方、エルンストは愛弟子グレイに、「何があっても生き延び、究極のネクロマンシーの力を手に入れよ」、と告げた。
 そしてインジフは孫娘であるリアに、「もしこの争いが終わってスレッショールドが無事に存続したならば、お前がわしの後を継いで、「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスターとなるのだ」と、悲壮な面持ちで語ったのだった。
 インジフはリアを引き離し、「ギルドマスターの心得」を得々と語り続ける。
 その様子に、どことなく彼女は不審なものを感じた。と、人気がない場所に入り込むやいなや、相手はただちに正体を現した。
 そう、邪悪な魔術師バーグル・ジ・インファマスが、リアの祖父に「ポリモーフ」の呪文を使って化けていたのである。
 不意を付かれたリアは、「ディスインテグレイト」(粉砕)の呪文をまともに受けてしまった。
 しかし、リアは辛うじて呪文に抵抗し、続けざまに矢を放った。「ミラー・イメージ」で作っておいた残像をかき消されたバーグルは、形勢不利と悟り、再び「テレポート」で逃げ出した。

●戦場にて

 カラメイコス軍とブラック・イーグル軍が、正面からぶつかり合った。いよいよ、双方の総力を結集した最終決戦が始まったのだ。
 一行は、以前テレスサール野の戦いにおいて行ったように、本隊から離れ、遊撃隊として直接敵の指揮部隊を叩く役回りとなった。
 トロールやオーガー、オークどもからなる部隊と、決死のカラメイコスの兵士たちが激突する。
 一行は側面から忍び寄り、軍隊を指揮している、ブラック・イーグル男爵ならびにその親衛隊と思われる面々に向かって、突撃をかけた。
 大規模戦闘に役立つ「ヴィクトリィ・ロッド」(勝利のロッド)を振りかざして、戦意を鼓舞するルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクスの行く手を、前回の冒険で入手した「ヴィクトリィ・ロッド」を構えて立ちふさがるタモト。
 二つのロッドは共鳴し合ったかと思うと、次の瞬間激しい音をたてて爆発した。
 しかし、爆風に圧倒されることもなく、親衛隊はランスを構えてこちらに向かってくる。
 どうやら、防御が薄そうなスペルキャスター陣に狙いをつけているようだ。
 けれども、間一髪で詠唱が間に合った「アース・クエイク」(大地鳴動)の呪文をまともに受けて、親衛隊のほとんどは地面に空いたクレバスの中に呑み込まれていったのだった。
 そして、残りの面々は、リア、シャーヴィリー、グレイの力によって、次々と打ち倒されていった。

●狂乱のバーリン

 一方、ブラック・イーグル男爵とタモトとの戦いは、白熱さの度合いを増していた。
 と、脇腹に激しい一撃を受けてよろめいたタモトをカバーするべく、後方に控えていたバーリンも戦いに加わった。
 「予見」の斧を手にしたタモトと、「ポリマス」であるところのバーリンを相手にしては、さすがのブラック・イーグルも形勢不利である。
 タモトの打撃で吹き飛ばされた次の瞬間、バーリンのバトルアックス+4が唸り、次の瞬間、男爵の首は宙を舞っていた。
 しかし、ブラック・イーグルの身体から、奇妙な煙のようなものが立ちのぼると、すぐさまバーリンを取り巻いた。
 そう、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵にとどめをさしたバーリンは、「リーンカーネーション」の呪文をかけられ、ブラック・イーグルの身体に乗り移っていた怒り狂える「ヒュターカーン」のイモータルこと「プファール」に、肉体と精神を乗っ取られてしまったのである。
 狂乱したバーリンは、そのままタモトに襲いかかった。
 しかし、渾身の一撃がかわされると、そのまま溢れ立つ破壊衝動を抑えることができず、バーリンは向きを変えて、戦場の混乱の渦中に自ら飛び込んでいったのだった。

●ティアマット

 その時だった。戦場を暗い影が覆った。
 破壊と流血に誘われたのか、はたまたバーグル・ジ・インファマスらの悪しき力に惹かれたのか、いよいよクロマティック・ドラゴンの女王ティアマットが、ブラック・ピーク山脈の住処を離れ、この場所へとやってきたのである。
 5つの首からそれぞれ違ったブレスを吐き、戦場を阿鼻叫喚の渦へと変えている……。
 いや、5つではない、6つだ。シャーヴィリーは、ドラゴンの首が1つ増えていることに気がついた。
 そう、かの緑竜ヴァーディリスもティアマットの身体に取り込まれ、クロマティックドラゴンの身体を形成する一部分となり下がってしまったのである!
 加えて驚くべき事が起こった。
 ドラゴンの姿を見て、狂乱したバーリンは格好の獲物を見つけたとの様子で飛びかかり、その脚に組み付いたのである。
 腹にドワーフの斧をたたき込まれて、ますますいきり立つティアマット。
 パーティは顔を見合わせて頷くと、クロマティックドラゴンの侵攻を阻むべく、立ちふさがった。
 グレイが「エアリアルアンカー」(風の精霊の鈎)を投げつけてドラゴンの動きを止め、ドラゴンのブレスを「予見」の斧の力で時間を止めることでかわし、シャーヴィリーの「ヘイスト」の呪文によって強化されたタモトが、ドラゴンの急所に「予見」の斧を二度叩き込んだ。
 「予見」の力によって、『エントロピー』の象徴であるクロマティックドラゴンは浄化され、霧のように消えていった。
 だが、その隙を狙って、忽然と姿を現したバーグル・ジ・インファマスが、お得意の「ディスインテグレイト」を、新たな「武器」の力に恐れをなしているタモトに向かって唱えたのだった。
 けれども、パーティの気迫の前には、バーグルの魔法など、もはや脅威たりえなかった。
 「ディスインテグレイト」は、タモトの生命力をいささかも傷つけることなくかき消え、失意のバーグルは十八番の「テレポート」でまたもや逃げ去ったのだった。

●解放されたイモータル

 ティアマットの死体が消えて行くのと同時に、そこから発したまばゆい光が、戦場全体を包み込んだ。
 光は上空の一点へと収束していった。そして、巨大な人間の形を取った。
 最前列で敵の部隊と闘っていたステファン公は、突然現れた光の正体を悟った。
 イモータルにして、トララダラ人の救世主である、ハラフ王が再びこの地に甦ったのである。
 イモータルの威光を前にしてたじろいだブラック・イーグル軍は、次々と戦意を失い、敗走していった。
 カラメイコス軍は、辛くも勝利をおさめたのである。
 続いて、バーリンの身体、カラーリー・エルフが持参してきた「生命の樹」の実、そしてタモトの「予見の斧」からも、同じように光が発し、上空で人の形をとった。
 ハラフ、ジルチェフ、プファールらのイモータルが、再びこの地に甦ったのである。
 彼らは、その場にいた皆に向かって、
 「戦乱は終わりを告げた、ここカラメイコスの地において、古来から不和と軋轢の原因となっていた『エントロピー(死)』の力は、封ぜられた」と厳かに告げた。
 イモータルらは、「ポリマス」であるバーリン、そして一行の活躍によって、ロキが、この地に『エントロピー』の力を持ち込み、陰謀を仕組んでいたのだということを知ったのである。
 ステファン・カラメイコス三世とアリーナ・ハラランは、その場の人々を代表してイモータルらに、自らの意志を伝えた。
 その言葉を傾聴したイモータルらは、カラメイコスの地の復興に手を貸すことを約束した。
 ハラフとプファールらは土地の復興を手助けし、ペトラは人々に安寧をもたらし、そしてジルチェフは外敵から国を守ることを約束したのである。
 「ポリマス」のバーリンは亡き者となっていたが、プファールの力でまたどこかで転生し、新たな生を得ることになるだろう、とも。

●その後

 もはや語るべきことは多くない。
 ブラック・イーグルの軍勢は破れ、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵は死んだ。
 王都スペキュラルムを初め、男爵領に支配されていた地域は次々と解放され、もとのように平和な暮らしを送ることができるようになった。
 スレッショールドにおいても、「聖戦」発令によって精力を使い果たしたシャーレーン大司教の痛ましい死、影の部分から街を統率していた盗賊ギルドの崩壊によって、いささかの混乱をきたしたものの──再び、大公国の要所としての、復興の兆しを見せ始めている。
 そして、『エントロピー』の力を阻止するという、当面の目的を果たしたタモト、リア、ジーン、グレイ、シャーヴィリー、「ルルンの」ヨランダの6人は、よく話し合った結果、今度は各自、自分たちの道を歩んでいくことに決めたのだった。
 「予見の斧」をはじめ様々なアーティファクトに翻弄され、疲れてしまったタモトは、公爵から渡されたなけなしの金を手に、故郷の村へと帰っていった。
 リアは、亡き父親や祖父の後を継ぎ、「盗賊の王国」のスレッショールド支部長となった。今では、「盗賊王」フレームフリッカーのよき片腕となっている。
 ジーンとシャーヴィリーは平和な暮らしに飽きたらず──神殿やエルフたちの懇願を振り切って──ステファン・カラメイコス公のジアティス時代の義兄弟であるエリコール王が治める、ノルウォルドの地に出向くことに決めた。エリコール王の側近として、フロスト・ジャイアントの軍勢と闘いながら未開の地を切り開くという、刺激的な人生を送ろうと決意したのだ。
 共に魔法帝国グラントリでネクロマンシーの道を究めようという師エルンストの誘いを振り切ったグレイも──独自の道で力を追求するため──戦いを生き残った父オーガン将軍とともに、ノルウォルドの地へと向かった。
 パーティと分かれ、戦いに身を投じていたプロスペルは、ケルヴィン陥落の際に、トロールの棍棒からオーガン将軍をかばい、命を落としていた。
 「ルルンの」ヨランダはヨブの墓を見舞った後、しばし、故郷ルルンの復興活動に携わった。
 後に、海を越えて、南のミンロサッド・ギルドへと渡っていった。一説では海賊になったとも言われているが、事の次第は定かではない。
 ──ひょっとすると、恋人ヨブが命を落すこととなったその元凶である、シャドウ・エルフらの行方を探しているのかもしれないが、それはまた別の話である。

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2023年03月09日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.15

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.15

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は以前、独立した記事として紹介したCM3モジュール「悪魔の住む河」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/481129030.html)の設定を導入しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498492467.html)。キャンペーン第14話「ナイトシェイド」の後半と、キャンペーン最終回「終結」の前半となり、過去の伏線が次々と回収されていきます。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、8レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、9レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、8レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、8レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、9レベル。

シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。とかく信用ならない。
バーリン/ドワーフの国ロックホームの使者。実は……。
ゴネリル、リーガン、コーディリア/邪悪な魔女三姉妹。
インセンディアロス/ヒュージ・レッドドラゴン。
「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマン/イラルアム首長国連邦のデルヴィーシュ。
バリムーア/36レベルのマジックユーザー。自らを高位のアンデッド、リッチと化した。
オパール・ドラゴン/中立のドラゴン。

●大公国軍の敗走

 スレッショールドへ戻った一行は、大司教に事情を説明した。シャーレーンは神妙な面持ちで頷き、ブラック・ピーク山脈を指差した。
 そう、「ヴォイド」は、すさまじい勢いで広がり、その大きさは遠くからでも容易にうかがえた。
 しかも、たたみかけるように悪い知らせが続く。
 大公国軍が劣勢で、ケルヴィンが陥落するのも時間の問題だという。
 進退窮まったパーティは、オーガン将軍の「ギアス」を解いてもらって、少しでも戦争を好転させようと考えた。
 だが、バーグルの魔力はさすがに強かった。シャーレーン大司教の唱えた渾身の「ディスペル・マジック」でも、完全には魔法を解くことがかなわなかった。
 かくなるうえは、自分たちが戦争に赴き、カラメイコス軍に協力するしかないのだろうか?

●ポリマス

 そのとき、大司教の傍らに座っていたドワーフが立ち上がった。
 なんとそこには、あの、ロックホームからの使者ことバーリンがいたのである。
 彼はおもむろに、「おまえたちはおまえたちでしかできないことを為すべきだ」と一行に告げた。
 アルタンテーペ山脈に眠る「ジルチェフの溶鉱炉」へ行き、『エントロピー(死)』の領域によって毒された四つの「武器」――すなわち「オルトニットの滅びの槍」、「ペトラの嘆きのメイス」、「オーケンシールドの欺きの斧」、「ヒュターカーンの虚無の剣」――を鍛造し直し、新たな「予見」の力を作り出さねばならないのだ。
 なぜ、このドワーフはそのような事情を知っているのだろう?
 怪しむ一行に、バーリンは自分の正体を話した。
 そう、彼は「ポリマス」なのだ。
 
 ――あらゆる冒険者はイモータル(不死者、神)になることを夢見る。そして、それには信じられないほど莫大な労力がかかる。
 「ポリマス」は、別名「転生者」と呼ばれ、「物質の領域」を通って、イモータルに近づく道のことである。
 ポリマスは、一つの「アーティファクト(イモータルが作った宝)」を求めて、3回のさらなる人生で成功をおさめなければならない。
 ひとたびアーティファクトを手に入れるや否や、その記憶や経験は剥奪され、新たな人格に転生する。
 そして、ふたたびアーティファクトを求める旅に出るのだ――

 バーリンは、失われたアーティファクトを探し求めるうちに、アルタンテーペ山脈の地下に、ハラフの仲間であったイモータル、ジルチェフが封じられているのを知った。彼は「エントロピーが広がるのをことさら嘆いた。
 そして、エントロピーを打破する手段は、「予見」の可能性に見出すしかないということを、バーリンに語ったのだった。
 
●スレッショールド出発

 ブラック・イーグル男爵の軍勢が、ここスレッショールドまで攻め上ってくる日も近い。
 パーティは、バーリンを仲間に加え、急いでアルタンテーペ山脈へと向かうことにした。
 しかし、肝心の移動手段が確保できない。
 スレッショールドに残っていた軍馬のほとんどが、すでに戦いのために出払ってしまっていたということもあるが、それよりも必要なのは、馬よりも早く移動できる交通手段だった。
 シャーレーン大司教は意を決し、教会の奥、秘蔵の宝物庫を開放し、来るべき困難の時に備え、一行に分け与えた。
 その量なんと、サプリメント『マーベラスマジック』より12個分という大盤振る舞いである!
 思いもかけない後続支援に勇気づけられた一行は、宝物庫から手に入れた「フライングカーペット」を使い、バーリンとともに「ペトラの溶鉱炉」へと向かった。
 しかし、不安もあいまってか、その光景は必ずしも美しいものではなかった……。
 ジーンがアーマークラス(防御力)を改善させるために身に付けた「ヘアネスハット」(髪が異常なほど伸びる代わりに、アーマークラスと寒さ、電光などへの耐性がつく)が、観るものに畏怖の念をもたらしたからである。
 
●イラルアム兵との遭遇

 途中、遭遇したフライングヒドラ二体をやすやすと撃退した一行。
 だが、その後、パーティは恐るべき光景を目にしたのであった。
 それは、セレニカから、デュークス・ロード砦を経由する街道を抜けて押し寄せる、イラルアム首長国連邦の傭兵軍の姿であった。
 パーティは、「砂漠のウズラ」アラディンの言葉を思い出した。
 おそらく、この軍隊は、ブラック・イーグル男爵の軍勢と共謀して、カラメイコス大公国軍を挟撃するつもりなのだろう。
 しかし、シャーヴィリーが奏でる「チャーミングハープ」(集団に「チャーム」の魔法をかけられる魔法の楽器)の強力な効果により、なんとか、彼らがカラメイコス大公国に侵入するのを阻止することに成功した。
 
●三人の老婆

 アルタンテーペ山脈の麓にたどり着いたパーティだったが、目指す「ジルチェフの溶鉱炉」へは、どのようにしたら入り込めるのか。
 バーリンが言うには、「溶鉱炉」に近づくためには、二つの道のりがあるという。
 それは、外の目から隠されている正面の入り口から入る方法と、山頂に空いたカルデラの中から侵入する方法だ。
 しかし、正面の出入口は危険だという。
 というのも、以前バーリンが山の内部の洞窟へと入り、ジルチェフの居場所を調べて脱出したした際、こちらの出入口を使って逃げ出したからだ。
 おそらく、侵入者が舞い戻ってくるのに備えて、邪悪な存在によって飼い慣らされているジャイアントの大群が、その場所を守護していることであろう、と……。
 一行はしばし迷うが、山頂へと向かうことに決めた。
 パーティが険しい山道で歩を進めていくと、眼前に三人の醜い老婆が姿を現した。
 彼女らはそれぞれ、ゴネリル・リーガン・コーディリアと名乗り、侵入者たちに死が訪れると不吉な予言を残し、消え去った。
 
●インセンディアロス

 老婆どもを観て、バーリンの表情がこわばった。
 というのも、以前侵入した際に、彼はジルチェフを閉じ込めている張本人が、この老婆三姉妹であることを知ったからである。
 敵にこちらの居場所が知られてしまった!?
 躊躇する暇もなく、猛スピードで巨大なレッドドラゴンが飛来してきたではないか。
 三姉妹が呼び出したレッドドラゴン、インセンディアロスである!
 彼女のブレスにより、たちまちパーティの半分が戦闘不能となってしまった。しかしながら、決死の一行は全勢力を振り絞って、この凶悪な大長蛇を退治した。
 しばし休息した後、一行はふたたび山を登り始めた。
 そして、上空を飛び回っていた、インセンディアロスの子ども(スモール・レッドドラゴン)を確保撃破し、巣のなかに眠っていた莫大な量の宝を手に入れることができたのだった。
 
●カルデラの底は

 ドラゴンの巣に眠っていた宝の中に、「クライミングロープ」(自在に上り下りが可能になるロープ)を発見した一行は、渡りに船と、さっそく山の中へ降りていった。
 そして、はじめに見えた張り出し口を東に進んでいった。
 その先に待ち受けていたポルターガイスト三体を退治し、そのねぐらでまたもや大量の宝を手に入れると、据え付けられていた魔法のポールで下の階へと降りていった。
 部屋中に撒き散らされた死体に紛れ込んでいたリベンナントの不意打ちを受け、「フィンガー・オブ・デス」の呪文を食らい、危うくグレイが死にかける。
 だが、以前、「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマンから渡された「プロテクションスカラベ」が身代わりとなって砕け散り、辛うじて一命を取り留めることができたのであった。
 
●ヘリオンたちの話

 その後、キャリオン・クローラーが密集している通路をからくも回避したパーティは、二番目のポールを降りた。
 バーリンによれば、その先にはマグマだまりが広がっており、そこに「ジルチェフの溶鉱炉」があるとのことだった。
 しかし、見たところ、「溶鉱炉」の周りには、何体ものヘリオン、エフリーテ、フレイムサラマンダーが渦巻いて、何やら儀式らしきものを繰り広げており、一筋縄ではいきそうにない。
 一計を案じたパーティは、タモトとバーリンに「ポーション・オブ・エレメンタルフォーム」(エレメンタル変化のポーション)を飲ませ、ファイアー・エレメンタルに変身させて、ヘリオンと交渉させようと考えた。
 マジックアイテムを使い、万一の時は、すぐさま一行のもとに戻れるよう、安全のための処置も予断なく行った。
 だが、誤算があった。近づいてみるとわかったのだが、ヘリオンたちを指揮していたのは、三人の老婆と、髑髏姿の魔術師だったのである。
 そう、黒幕であるゴネリル・リーガン・コーディリアと、「生命の樹」を狙う邪悪なリッチ、「バリムーア」が待ち受けていたのである。
 タモトとバーリンは、敵に見つからないように注意しながら、ヘリオンに話しかけた。
 そして、ヘリオンの一人から、悪しきものたちによってジルチェフが溶鉱炉から追放され、別の場所に幽閉されたこと、その結果、溶鉱炉の源泉となっていたドラゴン・ルーラー「オパール・ドラゴン」がもうじき目覚めそうだ、という情報を得られた。
 溶鉱炉やマグマの正体は、封印されていたこのドラゴンの力を利用したものだったのである。
 つまり悪しき者たちはオパール・ドラゴンの力を自らのものにするべく、守護者であったヘリオンたちを操って、地下深くから、その主人を呼び寄せようとしていたのであった。
 
●逃走

 だが、幸運はいつまでも続くものではない。長々と話していたため、バリムーアに不審がられてしまったのである。
 二人はとりあえず、ここは一旦退却し、閉じこめられているジルチェフのもとへと向かうことにした。
 バリムーアが放った「メテオ・スウォーム」(魔流星)の呪文をかわしつつ、来た道を戻るパーティ。
 最初の張り出しを反対方向に進み、今にもファイアーエレメンタル・プレーンからプライム・プレーン(物質界)へ実体化して現れようとしている巨大なファイアー・エレメンタルを避けた。
 また、次の部屋で「インビジビリティー」の呪文をパーマネンス(永久化)されているゴルゴンたちの不意打ちを受けて、あえなくジーンが石化しかかり、ひとときも休むヒマがない。
 ゴルゴンの部屋から続く長い階段をかけ登っていくと、ようやく巨大な部屋に到着した。と、部屋に入ると、途端に外に透明なハンマーの渦が現れ、パーティの退路を遮断した。
 
●ジルチェフ解放

 部屋の中には、等間隔に並んだ石像が10体安置されていた。
 奥には、幅の広い、台座らしきものが見える。
 石像にはそれぞれ、古代トラルダー語で、碑名のようなものが刻まれていた。
 順番に、「無限なるもの」、「無限なるものの意識」、「実在性」、「神性」、「思考」、「自然」、「予見」、「反省」、「思弁」、「知」の十個。
 どうやら、この中から三つの石像を選んで順番に並べ、台座の上へと押し上げなければならないようだ。
 一行は熟考した末、これまで入手した四つの武器を連想させる語(「無限なるものの意識」=時間、「実在性」=物質、「自然」=エネルギー、「思考」)を候補から除き、続いて、<イモータル>や悪しき力を連想させる語(「無限なるもの」、「神性」、「知」)を候補から除外した。
 そして、残った「予見」、「反省」、「思弁」の三つの語句を正解の候補とし……。
 「過去」→「未来」←「現在」
 ――と見合うように、
 石像を「反省」、「予見」、「思弁」の順番に並べて、台座の上に押し上げたのだった。
 すると、まばゆい光が煌めいた。
 あまりの神々しさに一行は発狂せんばかりの恐怖を味わったが、ただちにそれが邪悪な存在によるものではないことに気がついた。
 ジルチェフの封印が解かれたのである。ジルチェフはただちに一行の考えを読みとると、そのまま、ヘリオンたちのいた場所まで一行をテレポートした。
 溶岩の中から、目をみはるほど巨大なドラゴンが現れた。パーティの目の前で、大きく口を開けている。
 チャンスは今しかない、とのバーリンの叫びを受けて、一行は事の次第を理解した。このオパール・ドラゴンこそが、ジルチェフの溶鉱炉なのだ!
 ニュートラル(中立)のドラゴンは、それを操る者によって、ローフル(秩序)にも、ケイオティック(混沌)にも変わりうるのだ。
 一行は、手持ちの武器を次々とドラゴンの口中に放り込んだ。
 危うく失敗しかけたものの、タモトの手にあった「ドラッグ・ネット」(引き寄せの網)や、リアの矢を使って、無事全てを投入することに成功したのだった。
 辺りが激しく揺れた。マグマが吹き上がる。
 侵入者を撃退しようと、バリムーアらがドラゴンを暴走させてしまったのだ。
 オパール・ドラゴンのブレスがパーティを焼き尽くさんとする、まさにその瞬間、解放されたジルチェフが、一行をテレポートさせた!
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.14

 2023年2月9日配信の「FT新聞」No.3669で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.14が掲載されました。今回のサブタイトルは「ナイトシェイド」。クラシックD&Dを黒箱までお読みの方ならばご納得いただけると思います。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.14

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』第2版から一部ルールを導入しています。
 さあ、マスタールールセット(黒箱)の目玉クリーチャーを交えた大決戦です。アーティファクトの特殊効果も含め、高レベル呪文が乱れ飛びます。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498095660.html)。キャンペーン第13話「大伽藍」の後半〜第14話「ナイトシェイド」の前半となります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、7レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、8レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、7レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、7レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、8レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、8レベル。

バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。一応、パーティとは呉越同舟。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。留守だったはずが……。
ゴルサー/獣人族ヒュターカーンを操っている存在。正体はヴァンパイア。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。
プファール/ヒュターカーンが崇めるイモータル。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
ストッドス/バーグルの部下である邪悪なクレリック。
?????/遂に姿を見せたキャンペーンの最終ボス。

●トラルダーの歌

 トラルダーたちは古来より伝わる詩を吟じはじめた。
 それは古い伽藍にたてこもる戦士たちの孤独を詠ったものだった。
 捕らえたヒュターカーンたちに聞き出したところ、一行が向かっていた伽藍は確かにトラルダーたちのものらしい。
 しかも、ゴルサーは今や、プファール神を呼び出す前の第一段階として、強力なアンデッドであるところのナイトシェイドを呼び出してしまっていた。
 これは予定外! 彼らは、急遽、「伝達の太矢」を使って、バーグルの力を借りることにした。
 約束を違えることなく、魔術師は現れた。強力な仲間を連れて。
 そう、そこに立っていたのは、「常勝将軍」ことグレイの父、オーガン将軍だったのだ……。

●突撃

 ナイトシェイドを呼び出そうと怪しい儀式を執り行っているゴルサーの野望を食い止めるため、一行は神殿内に突入する。
 バーグル、オーガン将軍、そして邪悪な僧侶ストッドスが加勢してくれる。
 巨大な扉を開けると、巨大な魔獣が二体たたずんでいた。スフィンクスとネクロゾーンだ。その奥、神殿の中央では、巨大な漆黒の人影が実体化しようとしている。
 周囲には、ゴルサーをはじめヒュターカーンの術者たち三人が、魔力を送っている。
 そして、ナイトシェイドの手には、「ヒュターカーンの剣」が握られていた……。

●激戦

 まっすぐナイトシェイドに向かって突撃するオーガン将軍。
 タモト、ヨランダは術者に斬りかかる。
 リアはエルブン・ボウで、グレイは魔法で援護射撃。
 シャーヴィリーも「トリック・アニマル・パック」で大蛇を召喚し、微力ながら戦闘に貢献する。
 だが、敵もさしたるもの。スフィンクスは咆吼をあげ、ジーンを恐慌状態に陥れる。
 ネクロゾーンは、なんと、こともあろうにストッドスを睨み殺してしまった。
 そのうえ、ナイトシェイド(ナイトクロウラー)の攻撃力は圧倒的で、瞬時にオーガン将軍を半殺しの目に遭わせてしまった。
 術者のコントロールを逃れて暴走を始めたナイトシェイドは、「武器」を持つ、タモトとジーンに狙いを定める。
 他方、当事者のバーグルは保身に走り、自分に「アンチマジック・シェル」、「ミラー・イメージ」、「プロテクション・フロム・ノーマルミサイルズ」をかけ、一行に協力しようとするそぶりすら見せない。
 そのうえ、ナイトシェイドが暴れ始めると、たちまち<ディメンジョンドア>の呪文をかけ、その場から消えてしまった。

●ギアス

 怪物が暴走を始めたのを目にし、ゴルサーは直ちにその場を離れた。そして、「プリズマティック・ウォール」のスクロールを用い、自らの周りに七色の壁を作って、緑竜ヴァーディリスに思念を送り始めた。
 ドラゴンを帰還させ、侵入者どもを打ち倒させようというのである。
 ナイトシェイドの猛攻はますます激しさを増してくる。
 だが、瀕死の状態にもかかわらず、オーガン将軍は攻撃をやめようとしない。
 グレイは父親の目に狂気めいた魔法の光を見た。
 そう、彼はバーグルによって、「ギアス」の呪文をかけられていたのである。たとえ死すとも、退くことを許されてはいないのだ。
 だが、憐憫に耽っている暇はなかった。
 ナイトシェイドが呼び出した、ホーントという上位アンデッドに「マジックジャー」の呪文をかけられ、肉体を乗っ取られそうになったのだ。
 しかし、彼の意志は強かった。魔法に抵抗したうえで、ナイトシェイドに新たな攻撃目標を提示すべく、「ファンタズマルフォース」の呪文で、モンスターの姿を作り出したのだ。

●ヴァーディリス襲来

 一方、タモトとジーンは闇の巨人の攻撃をかいくぐりながら、ヨランダと協力し、魔獣と術者たちをあらかた倒すことができた。
 シャーヴィリーは単身攻め入り、なんとか「プリズマティック・ウォール」を破ろうとするが、こちらはなかなかうまくいかない。
 そのとき、背後に轟音が鳴り響いた。
 ――そう、ヴァーディリスが戻ってきたのである。だが、緑竜はその巨体ゆえに、狭い入り口からは首だけしか中に入ることができない。
 一瞬の隙をついて、グレイは「ウォール・オブ・アイス」を打ち出し、その侵入を阻んだのだった。
 ほっとしたのも束の間、なんとヨランダが、ナイトシェイドの痛烈な一撃を受けて倒れてしまった。

●破砕

 それを見て、これまで回復役に回っていたジーンも、『ペトラの嘆きのメイス』を持って戦いに加わることにした。
 ――けれども、遅かった。巨人の一撃を受けて、タモトまでが倒れてしまったのである。
 持ち主の危機を感じて、『ジルチェフの欺きの斧』から「フォースフィールド」が発せられてドワーフを包んだが、ナイトシェイドの手にした「剣」は、その力場をすら破ってしまった。
 タモトは力尽きて倒れ、「斧」は折れてはじけ飛んだ。まさしく絶望的状況である。
 そのうえ、生き残っていた敵の術者が、「メルフズ・アシッド・アロー」などの呪文で、パーティの後方メンバーをちまちまと傷つけ始めた。

●漁夫からの漁夫の利

 しかし、いくらナイトシェイドといえども、その体力は無限ではない。
 ジーンの「メイス」と、リアの実直な射撃によって、巨人はその体を地面に横たえることとなった。
 当然ジーンにも危機は訪れたのだが、なんとか「メイス」の効果である「タイムストップ」(9レベル呪文相当!)を駆使して難を逃れたのだった。
 そして、巨人の手にしていた「剣」は、その傍らに投げ出された。
 ――次の瞬間、バーグルがその前に現れ、「武器」を奪おうとした。
 だが、ゴルサーも黙ってはいない。「プリズマティック・ウォール」を解除し、「テレキネシス」で「剣」を取り寄せようとする。
 二人の魔術師は睨み合い、ここぞとばかりに互いを罵り合う。
 だが、運命のいたずらか、最も早く「剣」を手にしたのは、こともあろうに、かけつけてきたリアだった。
 そして、仲間に合図をすると、自らは「シャドウ・ケープ」の魔力を使ってゴルサーの元へジャンプし、魔術師の背後から襲撃を仕掛けた。「バックスタッブ」である。
 こうして、邪悪なヴァンパイアは塵と化した。
 もう一人の魔術師、バーグル・ザ・インファマスも危機的状況にあった。
 というのも、ジーンの手当を受けて回復したタモトやヨランダ、グレイ、シャーヴィリーらに「ミラー・イメージ」を消され、身を守るものがなくなってしまったからである。
 この「アイアン・リング」の首領は舌打ちし、間一髪で「テレポート」した。

●ヴォイドから現れたもの

 ナイトシェイドの死体が消えていくと同時に、そこからは暗黒の空間が広がってきた。『ヴォイド』(虚無)が、解き放たれてしまったのである。
 「武器」の力を濫用しすぎたせいだろうか。詳しい原因はわからないが、とにかく最悪の事態になってしまった。
 辺りには、ロキの笑い声がこだましていた。
 そして、「ヴォイド」の中から、巨大なドラゴンが姿を現した。
 赤銅色の筋骨隆々とした身体に、赤・青・緑・白・黒といった5本の頭が生えている。邪悪のなかの邪悪、クロマティックドラゴンの王ティアマットが姿を現したのだった。
 今の状態ではとても勝てない。
 観念したパーティは、「アイス・ウォール」を解除し、「ドラゴン・コントロール・ポーション」の魔力でヴァーディリスに迎え撃つよう命じ、「テレポート」のスクロールでその場を離れたのだった。
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2023年02月08日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.13

 2023年1月12日の「FT新聞」No..3641に、クラシックD&Dのリプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.13が掲載されています。首都スペキュラルムが陥落し、パーティは選択を迫られます。


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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.13

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回はカラメイコス大公国の秘めた歴史に迫りますが、名作モジュール『ナイツ・ダーク・テラー』やリプレイ『ミスタラ黙示録』の影響が色濃いですね。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/495480305.html)。キャンペーン第12話「大伽藍」の前半となります。PCの離脱も増え、DM側が複数のルートを示したうえで、パーティがどこを選んだのか、その軌跡がよくわかります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、7レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、8レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、7レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、7レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、8レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、8レベル。

インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。
シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵/別名「ブラック・イーグル」。ステファン・カラメイコス公爵のいとこで、内戦を画策している。
ステファン・カラメイコス3世/カラメイコス大公国の支配者、首都スペキュラルムの領主。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。今回は意外なことに……。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。
ゴルサー/獣人族ヒュターカーンを操っている存在。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。
プファール/ヒュターカーンが崇めるイモータル。
グリ・ベン・カール/ヒュターカーンの隠れ谷に住む古代人「トラルダー」のリーダー。

●スレッショールドへの帰還

 戦いに疲れたパーティはスレッショールドへと戻り、シャーレーン大司教に事の次第を報告することにした。
 というのも、今や彼らの手の内には4つの「武器」のうち――「槍」は折れたままだとしても――3つまでが揃ってしまったからである。
 「武器」は集まると危険だ。しかし、無造作に放置してしまえば、ただならぬ事態に繋がってしまうのは間違いない。
 アリーナたち「グリフォン聖騎士団」に事後処理を任せ、パーティは戦場を後にした。

●スペキュラルム陥落

 スレッショールドへの道中には、さしたる難事もなかった。
 大司教に面会し、事の次第を報告した一行は、その返答として、彼らがいない間に街で沸き上がっていた騒動――「アイアン・リング」の内通者によるもの――をインジフとフレームフリッカーがいかに解決したかを教えてもらった。
 にもかかわらず、依然として大司教の見通しは暗いようだ。
 それもそのはず、ルートヴィヒ「ブラック・イーグル」フォン・ヘンドリクス男爵の手によって、王都スペキュラルムが陥落したとの知らせが届いたのである!
 公爵ステファン・カラメイコス3世率いる大公国軍は、ケルヴィン以南に後退し、そこに戦線を敷くことに決めたのだという。
 パーティはどうするべきかを逡巡した。
 今から南下して、「ブラック・イーグル」を打倒すべきではないのか、との思いが頭を離れなかったのだ。

●プロスペルとの別れ

 そのとき、プロスペルが会議室に入ってきた。
 戦乱の報を受け、自分はケルヴィンに向かい、父の手助けをするつもりだと告げた。
 プロスペルの悲壮な決意を見て取った一行には、もはや留め立てするすべはなかった。
 大司教の了承を得た彼は、「短い間だったが楽しかったよ」とパーティに告げ、すぐさま旅支度を始めたのだった……。

●「武器」をどうするか?

 プロスペルの決断によって、パーティの進むべき道は自ずから決まった。
 だが、はからずも集まってしまった「武器」をどう処理すべきか。
 シャーレーンの記憶に残っていた伝承とパーティが集めた知識を総合して考えると、『剣』は、四つのうちで最も強力な存在である。
――『剣』に属する、第四の「力」とは、「思考」である。すべての存在を分類し、他のあらゆる領域をその道具とする「思考」こそが、神(イモータル)の本質である――
 その『剣』に対抗するだけの力を得るためには、たとえ危険を伴うものだとしても、残り三つの力が必要となるだろう。
 まして、相手は「エントロピー」に毒されてしまっているのだから、なおさらだ。
 というわけで、とりあえず「武器」はパーティ手元に保管されることとなった。

●ジーンの錯乱?

 そのとき、ジーンの心に、何かが呼びかけてきた。破壊衝動が全身を駆けめぐる。
 指令は、どうやら背負い袋の中にある「ペトラの嘆きのメイス」から発せられているらしい。
 いつもは飄々としたジーンも、さすがにこの事態には戸惑いを隠せない。
 だが、「今はまだその時ではない」と『メイス』に言い聞かせ、辛うじて自制心を保ったのだった。

●ブラック・ピーク山脈への再出発

 スレッショールドを後にした一行は、ノールの集落へ向かい、族長のクラスガットに案内させ、ゴルサーの住む場所へと連れていってもらうことにした。
 だが、世の中うまくはいかない。
 ノールたちはゴルサーと鉢合わせするのを非常に恐れていたので、フォームファイア峡谷の途中にある巨大な滝までパーティを導くと、尻尾を巻いて退散してしまった。
 ごうごうと激しい水しぶきを立てて流れる滝の傍らには、暗いトンネルの入り口が見える。
 そして、そこは滝の上に続く古代の道へと繋がっているようだ。
 なかに入り、侵入者の気配を嗅ぎつけて寄ってきたオーカー・ジェリー、ブラック・プディング、タランテラなどを撃退すると、彼らは一路、中の螺旋階段をかけ上った。

●待ち伏せ

 出口付近には、2体のアイアン・ゴーレムが待ち伏せていた。
 しかも、その背後からは、4体のオーガーが弓を撃ってくるではないか。
 さてはゴルサーが、一行がやってきたことを察知し、手下を使って攻撃を仕掛けてきたのか?
 パーティは多少苦戦したものの敵を撃破し、山道を奥深くへと分け入っていった……。

●バーグル・ジ・インファマス襲来!

 山の小道は崩れたところもあれば、ところどころ落石があったり狭くなったりしているところもあって、なかなか進んでいくのに時間がかかる。
 気がつけば、もう日も暮れかけていた。
 軽く休憩をとった一行がふと空を見上げると、ワイヴァーンがこちらへと近寄ってくるのに気がついた。そして、その背中には人影らしき者がうかがえる。
 飛竜はものすごい勢いでこちらに向かってくる。乗っているのは、バーグル・ジ・インファマスだった。迎撃の姿勢をとる一行。
 すぐさまグレイが、「ワンド・オブ・パワー」のチャージを使用し、「ファイアーボール」を投射する。
 だが、今回は相手も用意周到だった。こんなこともあろうかと、バーグルは「スペルターニング・リング」をはめたうえ、あらかじめ自分に「ミラー・イメージ」をかけておいたのである。
 当然ながら、「ファイアーボール」は使い手のもとへと跳ね返った。
 なんとか直撃は免れたものの、パーティは大打撃を被った。

●バーグルの提案

 だが、不思議とバーグルは何もしてこなかった。
 ワイヴァーンに乗って一行の頭上をぐるぐると旋回しているだけなのだ。
 その代わり、パーティのもとに、彼の声だけが届けられた。「べントリロキズム」(腹話術)の呪文である。
 それによれば、どうやら彼はパーティに攻撃をする意図はなく、話し合うための機会を持ちたがっているとのことだ。
 半信半疑の一行に対して、彼は自らの心中を語りはじめた。

●ゴルサーの陰謀

 バーグルが言うところによれば、今、一番危険なのはゴルサーだという。
 というのも、彼はイモータル(神)である「ロキ」の誘いにのって、ヒュターカーンたちの信仰する「プファール」を復活させようと企んでいるからである。
 ヒュターカーンというのは、「ハラフ王の詩」に登場する、獣人たちの末裔のこと。
 彼らは伝説上の存在ではなく、このブラック・ピーク山脈の隠れ谷に居を設け、ひっそりと暮らしていたのだった。
 だが、ゴルサーはヒュターカーンの渓谷に眠る『剣』に目をつけ、口車で獣人たちを騙し、自らの計画のための手先として使っているのだという。
 プファールは邪悪な神として悪名高い。
 もしそれが甦れば、現在大公国で起こっている戦乱とは比べようもないほど激しい、まさしく未曾有の危機が訪れることだろう。
 そして、ゴルサーの計画を打ち破るためには、一行の力が必要不可欠だというのだ。
 彼らが有している『武器』の力が。

●ストーン・ジャイアントとの奇妙な問答

 しかし、今までバーグルのおかげで惨憺たる目に遭ってきた一行は、簡単には信用しない。
 バーグルは一晩の猶予を与えると言い放ち、ワイヴァーンに乗り、去っていった。
 パーティはあれこれと考えるが、埒があかない。仕方がないので、目の前の谷を越えることにした。
 ここには、かつて橋がかかっていたような跡があったが、ずっと昔に崩れてしまっており、向こう側に渡るためには一度峡谷の底に降りて、そこからまた這い上がって行かねばならないようだ。
 とりあえず身軽なリアが呪文で透明化し、様子を探ることになった。
 すると、底には暗い洞穴があり、なかにはストーン・ジャイアントとケイブ・ベアーが住んでいるのがわかった。
 進退窮まるとはこのことだが、時間がない。
 一行はジャイアントに事情を説明し、通行許可をもらおうとした。
 頭の構造が人間と異なるジャイアントとの交渉はなかなか辛いものがあったものの、ゴルサーに対する利害が一致したため、無事通してもらうことができた。

●バーグルとの協定

 ようやくヒュターカーンの隠れ谷への入り口が見えてきた。
 道は険しい斜面の橋で急に途絶え、その向こうには、岩壁が先の道を塞いでしまっている。
 壁には二つの大きな門があるが、そこに続いていたはずの橋梁は、遙か昔に崩れてしまっていた。
 一行は内部にどう潜入するか頭を悩ませていると、案の定バーグルが戻ってきた。
 結局、彼らはこの魔術師と今回に限って手を結ぶことにした。
 というのもバーグルが、ゴルサーの背後には緑竜ヴァーディリスがついていることをほのめかしたからである。
 ヴァーディリス! 確かに危険な存在だ。
 パーティは、二人の魔術師の間に何があったのかを心中邪推しつつも、彼の申し出を受けたのである。
 一行はバーグルからドラゴンコントロール・ポーションの強化版を受け取った。
 そして、いつでも彼とコンタクトがとれるよう「伝達の太矢」を手渡すと、自らはスペキュラルム軍との決着をつけるべく、ワイヴァーンで去っていった。

●鬼の居ぬ間に

 バーグルが去って間もなく、隠れ谷の方から巨大なドラゴンが飛び立つのが見えた。
 緑竜ヴァーディリスだ!
 どこへいくのかはわからないが、入るのは今のうちだ。
 彼らは急いで崖をのぼり、石の門をゆっくりと押し開けた。
 その向こうには、四方を険しい山に囲まれた広い谷が靄のなかに広がっていた。
 ここまで辿ってきた道と同様に、これら古代の遺物の栄光は、とうの昔に消え去ってしまっていた。
 底に沿って続いている小道の石は草に覆われ、脇には朽ちた建物が建ち並んでいる。
 ――死のような静寂が支配している。

●死の谷

 あてもなく進んでいくパーティの前に、3体のマンティコアが現れた。
 難なく退治したのはいいものの、他にも危険が潜んでいるかもしれない。
 彼らはとりあえず廃屋の一つの中で休息をとった。
 夜中に侵入してきたディスプレイサー・ビーストを撃退し、翌朝。
 谷全体は思いのほか広い。そこに、小規模の集落の廃墟が点々としているのだ。いくつか、森のようなものも見受けられる。
 彼方には、うっすらと神殿の伽藍のようなものが見えた――あの中にゴルサーがいるに違いない!
 一行はいきりたち、すぐさまそちらに向かうことにした。

●トラルダー救出

 途中、彼らは太鼓の音を耳にした。
 この谷にも、廃れていない集落があるのか!
 警戒しながら音のした方へ赴くと、ジャッカルの頭をした獣人、ヒュターカーンが祭りのようなものを繰り広げていた。
 皓々と燃える篝火の前には、生け贄の人間たちが数人くくりつけられている。
 これは見過ごせない。パーティは、彼らを救出することにした。
 戦闘自体は、あっけなく済んだ。
 人間たちのリーダーであるグリ・ベン・カールの言うところによると、彼らは「トラルダー」であって、ヒュターカーンとの戦いに敗れたことから、捕虜にされてしまっていたらしい。
 ちなみに「トラルダー」とは、今カラメイコス大公国に住んでいるトララダラ人たちの祖先である。
 彼らのうち文明化による「堕落」を拒んだ者たちが、こうして山の中で静かに暮らしていたのだ。
 絶えず、獣人たちと戦いを繰り広げながらも……。

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2022年12月30日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.12

 2022年12月5日配信の「FT新聞」No.3613に、『ダンジョンズ& ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.12が掲載されています。今回はアラインメント論争(?)が展開されますね。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.12

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/494816801.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第11話「腐爛」の後半となります。今回からは、クラシックD&Dの隠れた重要概念である「エントロピー」も言及されます。訳語を充てるならば「衰退」ですが、音訳だとSF的なマルチプレーンの概念ともリンクするものとわかりますね。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。

ヨブ/死亡していたはずが、アベンジャーとなっていた戦士。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
ジョン・セルター/グリフォン聖騎士団員だが、行方不明。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
イリアナ・ペンハリゴン/ペンハリゴン家の領土と爵位を要求した女性。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。やられてなお罠を仕掛け……。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。

●泥沼の戦況

 かつての恋人を目の前にして、ヨランダが剣を振るう手は鈍る。
 その隙を突くかのように、イリアナが、メイスの魔力で彼女の前へとワープし、ヨブと二人で挟み撃ちにしてくる。
 が、頬を涙で濡らしながらも、さすがはヨランダ。
 抜群の観察力で、ヨブの顔色が、ゾンビのように生気が失せているのに気がついた。
 目の前にいるのはヨブではない、と自らに言い聞かせ、果敢に反撃を挑む。
 残る面々も、ただひたすらに反撃を仕掛け、戦局はまさしく泥沼と相成った。
 イリアナはリアの起死回生の射撃をまともに喉に受け、そのまま息絶えた。
 ヨブも、ヨランダとジーン、そしてシャーヴィリーの三人を相手にして、長くはもたなかった。
 ヨランダの剣の一閃が、ヨブに三度目の死を与えた。残るは、首領格のアベンジャー、ただ一人である。

●対決

 アベンジャーは、最後に自分だけが残されたことに気づくと、乾いた笑い声を上げ、兜を外した。
 その下から現れた素顔は、なんと、あの聖騎士ジョン・セルターの姿だった。
 かつては緑竜ヴァーディリスと単身相まみえたほどの男が、なぜやすやすと悪(イーヴィル)の軍門に下ったのか……。
 ヨブの時にも増して、一行は疑問と絶望感が入り交じる、やりきれない感情に包まれた。
 すると、彼は今まで使っていた剣を投げ捨て、代わりに『槍』を手に取り、高らかに吼えた。
 タモトの斧やイリアナのメイスと並ぶ、『オルトニットの滅びの槍』である。
 ――緊張が走る。
 『斧』を手にしたタモトが『槍』を持つ騎士に挑戦すべく、ゆっくりと進み出た。

●哀れな仔山羊

 一方、バーグルが残した空飛ぶ宝石は、ゆらゆらとパーティのもとにまで近づいてきた。
 不吉なものを感じた一行は、グレイの「ウェブ」で宝石を絡めとった。
 そのうえで、シャーヴィリーが持つ「トリック・アニマル・パック」から呼び出した山羊に、宝石を調べに行かせた。
 おっかなびっくり山羊が近づいていったその瞬間、轟音とともに宝石が爆発した。
 ――マジックユーザーの7レベル呪文、「ディレイド・ブラスト・ファイアーボール」(遅発する火の球)である。
 戦場に、哀れな骸がまた一つ増えたのだった……。

●『オルトニットの滅びの槍』の秘密

 騎士とドワーフ。真っ向から対峙しているのは奇妙な取り合わせだ。
 二人が構える槍と斧が、戦場に降りしきる雨を受け、鈍色に輝いている。
 そして、血の臭い。
 勝負は一瞬で決まる。誰もがそう思った。
 両者は、間を取りながら、お互いを懐かしむように語り合っている。
 ジョン・セルターは、グリフォン聖騎士団員からアベンジャーに身を落とした経緯を語った。
 返す刀で、タモトは彼の過ちを、自らの力に溺れ滅んでいった過去の騎士たちになぞらえて諭そうとした。
 ジョン・セルターがグリフォン聖騎士団を追われたのは、緑竜ヴァーディリスに一騎打ちを挑んだものの、形勢不利だと悟るや、命惜しさに逃げ出したからだ……という話がお定まりだった。
 しかし、セルター自身の弁によれば、それは「槍自身が戦うことを拒否した」からにほかならない。
 それを聞いてタモトは、ロスト・ドリームの湖の底に記されていた、槍の性質を思い出した。
――『槍』に属する、第一の「力」とは、「物質」である。それは破壊に耐え、不変と安定を象徴する。ローフルの性格とファイターのクラスに属し、「時間」 と敵対し、「思考」に秩序を与える。また、それは「大地」から力を得る――
 では、なぜ『槍』が戦うことを拒否したのだろうか? 
 それは、『槍』の力が、「エントロピー(死)」によって、歪められてしまっていたからである。
 結果、『槍』が属している「物質」の概念が変容し、その力がケイオティック(混沌)なものとなってしまっていた。
 パラディン(聖騎士)であるセルターが、『槍』の真の力を引き出せなかった理由は、まさしくここにこそあった。
 『槍』は緑竜にはまるで役に立たず、ドラゴンのブレスから身を守るどころか、その威力を何倍にも増幅し、彼に跳ね返した。
 絶望したセルターは『槍』、ひいては全てが信じられなくなった。
 彼は、はじめて自らの力を疑った。
 そうして、幾重も懐疑を重ねたあげく、『槍』の真の力を引き出すためには、パラディンであってはいけないという認識に至った。
 『槍』の潜在力を生かし切るには、混沌に身を委ね、アベンジャーの道を究めねばならないと悟ったのである。
 ローフルの道もケイオティックの道も、方向性こそ違えども、大局的に見れば同じ――セルターは、そう認識しつつ、さらにその先をも見据えていた。
 自分がアベンジャーの道を究め、イモータル(神)にも匹敵する力を得れば、そのとき初めて、「エントロピー(死)」を作り出したイモータルである「ロキ」の力を打ち破ることができる。
 『槍』の力をねじ曲げた「エントロピー(死)」さえ破壊すれば、歪んだものの全てが正しき道へと回帰する。
 そして、自分ももとのパラディンに戻ることができる。
 ――セルターは、そこまで考えていたのだ。

●疑問

 けれども、タモトはセルターの話を聞いても釈然としなかった。
 何かが足りないのだ。
 我々は皆イモータル(神)の操り人形にすぎない、という主張も、ローフルもケイオティックも根は同じという考え方も、アベンジャーとして起こした罪は、後になってゆっくりと償えばいいという楽観主義も、まあ理解できなくはない。
 しかし、タモトにはセルターが、どうも楽な道に逃げてしまったようにしか見えなかった。
 なぜかはわからない。だが、彼の主張には賛同できないのだ。
 戦う理由としては、それだけで十分だろう。

●破砕

 アベンジャーが『槍』を構えて、すさまじいスピードで突撃をかけてきた。
 タモトは、真っ正面からそれを受け止め、力を逆用しつつアベンジャーを馬から叩き落とそうとした。
 が、槍の一撃は思いのほか強く、ドワーフの小さな身体では耐えられそうになかった。
 衝撃のあまり、タモトは反撃する機会を待たずに気絶してしまった。
 そのとき、『斧』から、まばゆいばかりの光がほとばしり、巨大な透明の楯となって、タモトを包み込んだ。「フォースフィールド」である。
 「エネルギー」の領域に属する、『ジルチェフの欺きの斧』の秘められた力が発動したのだ。
 『槍』は、「フォースフィールド」を破りきれず、真っ二つに折れてはじけ飛んだ。

●結末

 『槍』が破壊された時点で、勝負は決まったようなものだった。アベンジャーは、自らの選んだ道が間違っていたことを、心の底から思い知らされた。
 彼は天に向かって高らかと慟哭した。
 そして、よろよろと放り投げた大剣の側にまで歩み寄った。
 彼が何をしようとしているのかを察したシャーヴィリーが止めに入ろうとするが……ヨランダが無言で制止した。
 かくして、ジョン・セルターは自刎し、その苦悩に満ちた生涯の幕を下ろしたのだった。

●その後

 指揮官がいなければ、所詮モンスターどもは烏合の衆。
 たちまち、「グリフォン聖騎士団」の猛攻を受け、散り散りになって敗走していった。
 アリーナ・ハラランが一行のもとを訪れ、ねぎらいの言葉をかけた。
 彼女は、ことの顛末を聴いてさめざめと涙し、哀れな騎士の魂が救われることを切に祈った。
 一方、ジーンは戦場にめぼしいものがないか探し回っていた。「スピーク・ウィズ・ザ・デッド」の呪文でイリアナ・ペンハリゴンの霊を呼び出し、有用な情報を得ようとすらしていた。
 失敗して、さんざん罵詈雑言を浴びせられたりもしたが、そんなことでジーンはめげない。
 そう、今や彼の左手には、『ペトラの嘆きのメイス』が握られているのだから……。

posted by AGS at 10:30| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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