2021年03月17日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.4


 2021年3月16日の「FT新聞」No.2974で、連載「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」第4回が配信されています。キャンペーンシナリオ「内なる敵」の第1巻『ベーゲンハーフェンを蔽う影』の初版・第4版について。「パワープレイ」と「ストーリープレイ」をめぐる考察も。


EwknPEEVoAYOPez.jpg

 記事で触れた「内なる敵」シリーズ(初版)を写真でお見せすると、このような具合です。以降も連載で触れていくかも……。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.4

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

 「大人」たちはとかく、子どもと女を軽んじる。
 子どもならば「大人」の難しい話は理解できないだろうと、路地裏で、酒場の片隅で、あるいは橋の上で、おおっぴらにすべきではない話題を聞かせてくれる。
 すでに働くような年齢だとしても、12〜3歳の少女など、無教養な石ころと同じというわけだ。
 フレイザーから聞かされた話は、わたしが小耳に挟んだことのある噂話と矛盾しない。
 このところ、ユーベルスライクを統治するユングフロイト家は、カール・フランツ皇帝率いるアルトドルフとうまく行っていない。
 言うまでもなく、シグマー神の狂信者であるフレイザーもまた、ユングフロイト家を背後では、混沌の信者が糸を引いていると信じ込んでいる者の一人だった。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 『ウォーハンマーRPG』は単発セッションでも楽しい作品で、第4版も原著では『ライクランドが舞台の単発シナリオ集(One Shot in Reikland)』というサプリメントも発売されていますが、プレイヤー・キャラクターのキャリア成長による醍醐味を堪能できるのは、やはりキャンペーン(連続)シナリオでしょう。今回は初版と第4版で展開されている「内なる敵」キャンペーンの第1巻について解説し、RPGにおける「パワープレイ」と「ストーリープレイ」の意義についても語っていきます。

●「内なる敵」キャンペーン

 「内なる敵」としての人間こそが、『ウォーハンマーRPG』でもっとも頻繁に出くわす敵である……そんなことを、前回には書きました。
 この「内なる敵」について、もっとも正面から向き合ったキャンペーンが、初版の「内なる敵(Enemy Within)」キャンペーンではないでしょうか。第1部『ベーゲンハーフェンを蔽う影(Shadows Over Bogenhafen *最後のoはウムラウト付き)』(1991年)は、すでに第4版にコンバートされています。第2部『ライクの死(Death On the Reik)』も発売の予告が出ています。
 『ベーゲンハーフェンを蔽う影』については、社会思想社現代教養文庫にて、『エンパイアの興亡』と『死の街ベーゲンハーフェン』と二分冊される形で邦訳がなされており(1992〜93年)、お読みになった方も多くおられるものと存じます。

●初版の『エンパイアの興亡』と『死の街ベーゲンハーフェン』

 キャンペーン・シナリオ『ベーゲンハーフェンを蔽う影』で特筆すべきは、設定の細かさ。中近世のヨーロッパ社会史や、それを背景にした創作に関心のある方は、絶対に押さえておくべき逸品ではないかと思います。
 前半部にあたる『エンパイアの興亡』では、エンパイアの歴史・政治・宗教・地勢・軍備が緻密に解説されています。同じイギリス発のRPG『混沌の渦』を思わせる薬草ガイドなんてものもありました。
 首都アルトドルフに行く交通手段を見つけようとするシナリオ「人ちがい」から始まり、行く先々で陰謀や騒動に巻き込まれながら、アルトドルフ南西にあるベーゲンハーフェンへ赴きます。
 旅が中心となるウィルダネス・アドベンチャー(荒野の冒険)ですが、アルトドルフ、ヴァイスブルック、ベーゲンハーフェンと街から街へ移動する際の地図は、ちゃんとヘックス(六角)マップになっており、望むならばいくらでもリアルな旅が演出できる仕掛けになっていました。もちろん、後半の『死の街ベーゲンハーフェン』の主な舞台となるベーゲンハーフェンの街は、地上だけではなく、下水道のマップが用意されている凝りようです。
 『ウォーハンマーRPG』は、とかく地味でプレイヤーの達成感が薄いと、意地の悪い人たちから嫌味を言われることがありますけれども、それは誤解です。『死の街ベーゲンハーフェン』は壮大なシナリオで、冒険者たちが打つ手を間違えれば、街全体が滅びてしまいかねません。
 十二分にやりがいのある作品だと、太鼓判を押しておきましょう。ベーゲンハーフェンは人気があり、2版の『シグマーの継承者』でも、「ベーゲンハーフェンの災難」という、続編(後日譚?)めいたシナリオが発表されているくらいです。

●第4版の『影の内なる敵(Enemy in Shadows)』

 第4版では、このキャンペーン・シナリオは『影の内なる敵(Enemy in Shadows)』、『影の内なる敵コンパニオン(Enemy in Shadows Companion)』に二分冊されており、前者はシナリオ、後者はデータの追補が主な内容となっていますが、単なるベタ復刻ではありません。まったく新しい作品だとみなしてもかまわない、とすら言いたくなります。
 「内なる敵」は『ウォーハンマーRPG』で最も広く遊ばれたキャンペーン・シナリオの一つですから、新規プレイヤーが触れやすいようヴィジュアル・イメージを完全に刷新しながらも、ベテラン・プレイヤーのみにユーザーを絞った懐古趣味の産物に終わらない仕掛けが随所に見受けられます。つまり、ビギナーとベテランの出逢う場として設計されているわけです。
 前半の舞台となる〈馬車と馬〉亭など、お馴染みの場所はそのままに、アルトドルフの地図は手描きの絵画のような仕上がりとなっており、ウィルダネスの地図も雰囲気を活かしながらグリッド(四角)マップに整理されています。
 細かいルールは選択ルールとしてゲームマスターの裁量で選べるようになっているのですが、そのルールに目を通すだけで、シナリオの背景や世界観の理解が深まります。選択ルールは、「なぜそのような選択肢があるのか」を解説することで、一種のプレイ・ガイドになっているからですね。

●「パワープレイ」という求道

 『ウォーハンマーRPG』第2版は、「追加ルールを導入すればするほど、キャラクターが弱くなる」と、いう笑い話がプレイヤー間では囁かれました。
 これは、とりわけ『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』初版・2版から『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版系列までの(A)D&Dに代表されるRPGが、「サプリメント(追加設定資料集)を購入することで、キャラクターのとりうる選択肢が広がり、それだけ強力なキャラクターを作ることができる」というのが一つのウリであることをふまえた、一種の諧謔ですね。
 もちろん、D&Dの公式ルールが、ひたすらキャラクターを強化させる行為を推奨していたわけではありません。むしろ、「パワーだけを追い求める」行為を暗にたしなめ、キャラクターの多様な個性を広げるためのヒントにしてほしい」という意味のコメントを、盛んに発信していました。
 けれども、もっとも熱心にサプリメントを購入する層は、まずもって「パワー」を求める層だったというのも一つの現実ではありました。キャラクターのクラスや種族、技能や特技・信仰の組み合わせによって、もっとも最適解となる「強い」キャラクターを構築することを目指すわけです。
 もちろん、卓において他のプレイヤーをさしおいて自分のキャラクターのみを活躍させようとするような行為は問題外だと断ったうえで……スタイルとしての「パワープレイ」は、卓の合意がとれていれば一概に間違っているわけではありません。
 「パワー」を求める層は、すべての関連製品を買い、ルールを隅々まで読み込む層であり、またゲームマスター(D&Dではダンジョンマスター)の恣意的な裁定よりも、できるだけ客観的に公正な裁定が望めるというメリットもあったからです。
 何より、ルールの運用をきわめた高レベル帯のセッションでしか見えない風景があるのも事実です。強力なコンボをさらに上回るコンボの応酬によって、予想を超えた複雑なゲーム展開を見せることは珍しくなく、それは他の経験では替えが利かない、RPGの一つの醍醐味と言うべきものでしょう。「パワープレイヤー」と名乗ることは、自分がある種の求道者である、ということを、他人に示す意味合いもありました。
 それに実際のところ、パワープレイのコンボは、トレーディングカードゲーム(TCG)やオンラインRPG(MMORPG)へと輸入され、それがまた逆輸入……という往還関係により、相互に影響を与えあってきたという側面もあります。

●「パワープレイ」対「リアル・ストーリープレイ」の思い出

 私は「パワープレイヤー」を名乗ったことこそありませんが、それでも自前のD&Dのキャンペーンでは、ルールが提供する複雑さを「複雑だからこそ、面白い」ものとして紹介できるような運用を心がけていました。
 以前、「Lead&Read」(新紀元社)のVol.1、Vol.3、Vol.5(2008〜09年)に掲載されたD&D第3.5版の私の筆になるリプレイでは、そうした複雑さを世界観(エベロン世界というマジカルパンクな世界)に落とし込んで伝えるべく、あれこれ心を砕いた次第です。つまり、パワープレイ的な発想を「ストーリープレイ」に融合させる、という試みだったわけですね。
 ストーリープレイというのは、「オフィシャルD&Dマガジン」の常連ライターだった藤川俊一氏が提唱した「リアル・ストーリープレイ」の影響を受けています。氏はAD&Dを日本に普及させた功労者の一人ですが、土日のすべてを費やしてAD&Dのグレイホーク世界、あるいは自作のウォーレンメルド世界でのプレイを深めていました。
 しかし、藤川氏はある時から、いたずらに追加データを導入するのではなく――あくまでも私の理解では、能う限りメタ視点を廃し、キャラクター視点での「没入」を徹底するという――リアル・ストーリープレイというスタイルを提唱するようになりました。一九九〇年代後半のAD&Dファンコミュニティでは、パワープレイかリアル・ストーリープレイか、という議論が交わされたのをよく記憶しています。パワープレイヤーはAD&Dのオンリーイベントで、壇上に山のようにサプリメントを積み上げて「関連資料全解禁」のプレイをしており、圧倒されたものです。
 私が言うストーリープレイは、藤川氏のように徹底したものではありません。むしろ、私がこの議論を面白いと思ったのは、RPGにおいてパワープレイを論じると、理論的には対概念としてストーリープレイが浮上してくるという事例を確認できたことでした。
 藤川氏の言うリアル・ストーリープレイとイコールではありませんでしたが、AD&Dは十字軍、ケルト、ヴァイキング等ヒストリカルな背景のサプリメントが大量に出ていて、決してパワーだけではない世界観重視のスタイルがあったわけで、声は大きくないにしろストーリープレイヤーも少なからずいました。
 これがTCGの場合、ストーリープレイを前提としたプレイは、不可能ではないにしても、なかなか難しいと思われます(『指輪物語CCG』のように、ストーリーの表現を重視したTCGも少なからず存在してきましたが、その性質上、どうしても「勝ち負け」を重視せざるをえないからです。
 RPGの場合、目に見える「勝ち負け」は、そのままゲーム・セッションの出来不出来には結びつきません。極端な話、全滅しても、それで満足のいくストーリーが構築できたら、総合的には勝利した、とも言えるのですから。TCGはRPGほどに、重要なのは「プロセス」の堪能だと言い切ってはいないのです(もっとも、このことはRPGはTCGよりも優れている、もしくはその逆だということを意味しません)。

●D&D第4版の配慮

 多くのRPGではパワープレイに特化することは戒められています。ルールに習熟していない初心者がふるい落とされてしまいかねないからです。
 ところが、遊びこめば遊びこむほど、プレイヤーはひたすら「パワー」を求めがちとなる……このジレンマは、RPGを(とりわけ商業的かつ持続的に)展開していくうえでの悩みの種となっていました。
 D&Dも第4版からは、パワープレイな志向を取り入れつつも――D&D第4版は、それまでのRPGの中でも、飛び抜けてTCGやMMORPGと似たタイプのルールがあちこちに見受けられたシステムです――サプリメントの追加を「とりうるキャラクター・ビルドや戦術の広がり」であり、ただパワーを増やすわけではないという方向に舵をとってきました。
 もちろん、私も翻訳に参加したサプリメント『秘術の書』(ホビージャパン、2009年)で追加されたクラス「バード」(吟遊詩人)のように、d20(20面体サイコロ)を振り直させる特殊能力をたくさん有するような、相対的にバランスブレイキング(褒め言葉です、念の為)なオプションは存在しました。
 けれども、D&D第4版はアップデートでバランスが何度も見直され、その後も『エッセンシャルズ』という(既存のルールを整理した、互換性を持ちながら実質的な第4.5版ともいえる)仕切り直しが行われることで、初心者がふるい落とされないような配慮が常になされてきたのも事実です。
 こうした見直しには当然ながら、賛否両論が起きました。ただ、その是非は措くとして、D&D第4版は当初からチームプレイが前提とされており、「防御役」「撃破役」「指揮役」「制御役」と、さながらサッカーやアメフトの役割分担のように、キャラクターが配置されることを前提としたシステムでした。ゲームデザイナー層に、D&D第4版が高く評価されるという話も頷けます。それぞれに得手不得手があるため、必然的にバランスが保たれるというわけですからね。

●ストーリープレイへの再帰

 D&D第5版は、いったんクラシックD&Dに先祖返りしたと評されることが多い作品なのですが、それは思い切ってパワープレイとは別方向に舵を切ったからです。
 D&Dは第4版で抜本的なシステム変更を行なったため、新規プレイヤーを獲得した反面、第3.5 版までの(特に)パワープレイ志向なプレイヤーは、基幹ルールを同じくしD&D第3.75版とも言われる『パスファインダーRPG』へと流れていきました。
 『パスファインダーRPG』も、それ自体はパワープレイ的というよりは、背景世界ゴラリオンをじっくり堪能するようなスタイルが推奨されているのではありますが、それでも、多少の調整を加えれば、D&D第3版系列のサプリメントがそのまま活用できるため、パワープレイにも向いています。
 ゆえに、RPGのマーケットにおいては、『パスファインダーRPG』が、(シェアNo.1がデフォルトであった)D&D第4版を凌駕する光景さえ、珍しくありませんでした。
 そういった流れを承けて登場したD&D第5版においては、あまりルールを読み込んでいないプレイヤーがなんとなくキャラクターをデザインしても、それなりにベテラン・プレイヤーと肩を並べて活躍できるような設計思想が、意図して採られています。
 さらに、キャラクターの背景を演出するシステムや、「インスピレーション」というロールプレイ推奨ルールも加えられ、『魂を喰らう墓』、『バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス』ほか長大なキャンペーン・シナリオが、続々と出版されるようになりました。第4版までもキャンペーンはたくさん出ていましたが、「まずはキャンペーンで遊んでね」とでも言いたげな出版ラインナップになっているのです。
 D&Dは第3.5版の頃から、D&Dゲームデイという世界各地で共通したシナリオを遊ぶ、という試みがなされていました。加えて、D&D第4版からは、D&Dエンカウンターズという、各ゲームショップを拠点に、長大なキャンペーン・シナリオを毎週、少しずつ遊んでいくスタイルが採られるようになりました。
 私もD&Dエンカウンターズの模様を取材したことがありますが、キャラクターを強化するにしても、それはあくまでもパーティ全体の強化に溶け込ませる形でなされ、あくまでも抽象的な戦闘ゲームではなく、各遭遇がキャンペーン内に上手く落とし込まれる……そんな設計思想がよく伝わってきました。
 つまり、D&Dは第4版から第5版にかけて、パワープレイよりもストーリープレイ方面へ、少しずつスタイルを移行させてきたと言えるのかもしれません。もともとRPGはストーリーを遊ぶ表現スタイルとして広がったところがありますから、単なる回帰ではなく「再帰」と言うべきなのかもしれません。
 そして、こうした「再帰的なストーリー志向」は、ダークファンタジーを基軸にした雰囲気こそ異なれども、『ウォーハンマーRPG』第4版も有している特徴です。

●『ウォーハンマーRPG』第2版の曖昧さ

 以前も書きましたが、『ウォーハンマー第2版』をデザインしたグリーン・ローニン社は、もとはD&D第3版系列のサードパーティでした。そのため、『ウォーハンマーRPG』第2版のルールは、陰に陽にD&D第3版が意識されるようになっています。
 D&D第3版や第3.5版では、ゲーム世界で起こるすべての事象は、余すところなくゲームルールで説明できるようなデザイン思想が打ち出されていました。しかし、『ウォーハンマーRPG』はそうではありません。そのあたりが、『ウォーハンマーRPG』では、あえてゆるくデザインされていたというわけです。
 例えばグリッドマップで戦闘を行う際、D&D第3版では斜めに移動する場合、通常の移動力消費が1だとしたら、1.5を消費するものとして処理されていました。ですが、『ウォーハンマーRPG』第2版では、明確な記述がありません。そのため、GMは、斜め移動の際の移動力の消費を1とするか、1.5とするのかをあらかじめ選択する必要があります。
 要するにリアリティを重視するのであれば、D&D第3版のように1.5にすればよく、面倒だと思うのであれば、斜め移動も1として処理してしまえばいい、というわけなのです。ちなみに、D&Dも第4版からは、斜め移動の際の移動力の消費は1になりました。

●運命づけが示唆するもの

 サプリメントを導入するにしても、『ウォーハンマーRPG』第2版での宗教を解説する『救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション』を導入すると、確かに信仰系の呪文(「奇跡」)の選択肢も増えるのですが、教団独自の戒律などの「縛り」も増えます。きわめつけは、「運命づけ」の異能です。この異能を取得すると、「運命予言者」というモールの司祭に、キャラクターの死に様を予言されます。その予言通りに死亡すると、新たにキャラクターを作り直す際にボーナスが入る、というわけです。
 強くなるといえば強くなるのかもしれませんが、なんと迂遠なのでしょう(笑)。そして、この「運命付け」の異能は、『ウォーハンマーRPG』第4版では、基本ルールブックからデフォルトで収録されています。
 おそらく、「『ウォーハンマーRPG』は、サプリメントを導入すればするほど、キャラクターが弱くなる」というのは間違いです。無限に追加データを渉猟してキャラクターを強化しても、『ウォーハンマーRPG』は協力型ゲームであり、原則としてプレイヤー・キャラクター同士が始終やり合うわけではありません。
 ゲームマスターはゲーム内における絶対的な権力をもっており、いかに強力なキャラクターを用意しても、「きみは死んだ」の一言で、そのキャラクターを殺してしまうことができます。それならば、プレイヤーは何のためにサプリメントを購入するのでしょうか? 
 マゾヒスティックなゲーム経験のため?――そういう人もいるでしょうが、それだけならば、こんなに長い間、支持されるわけがありません。
 一つの答えとしては、参加する世界をより深く理解するため、世界の解像度を上げていくため。これに尽きるのではないかと思います。

2021年03月02日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3.5

本日2021年3月2日配信の「FT新聞」No.2960に、連載「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.3.5が掲載されています。なぜ端数かというと、読者の方からの応答によって、多様性についての議論を掘り下げる回となったからですね。Analog Game Studiesでもアーカイビングいたします。

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3.5 No.2960
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3.5

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

 魔狩人フレイザーは、ずっとわたしを付け狙っている。
 わたしが「混沌」そのものだと疑っているのだ。それも無理もない。当時、帝国暦2512年。わたしの実年齢は7歳だった。けれども、外観は12〜3歳にしか見えていないはずだ。わたしは、それが呪いの賜物だということを知っているが、それを告白するということは、魔女として火刑に処されることを意味する。
 しかし、今回、フレイザーの口から出たのは、それとは無関係のようだった。
 ユングフロイト家。ここユーベルスライクを治める名家だ……。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 本連載の前回では、『ウォーハンマーRPG』と多様性について取り上げましたが、読者の方々から、Twitter上で、とりわけ興味深い応答をいただきました。
 そこで今回はいささかイレギュラーですが、補足を兼ねて、「多様性」の問題をもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

●キャラクター・シートに「性別」欄がないということ

 まず、「鋼の旅団」さんからは、「『ウォーハンマーRPG』第4版はこれまであった「性別」の記入欄が無くなっています。髪の色や瞳の色の欄はあるのに肌の色を記載する欄もありません。つまり、どれだけウォーハンマーRPGがオールドなファンタジー作品であるにも関わらず、先進的で大人のゲームなのかをわかりやすく説明して下さっています。」とのコメントを頂戴しました。
 はい、そうなのです。もちろん、これはセクシズムやレイシズムにゲームを悪用させないための配慮の賜物でしょう。
 例えばキャラクター・シートから「性別」欄を撤廃するというのは、『ウォーハンマーRPG』のみならず、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第5版等、最近の海外RPGでは珍しいものではなくなっています。
 なぜそうなのか? キャラクター・シートに書かれている内容は、ゲーム世界においての客観的な事実だからです。

●主観的な真実ではなく、客観的な事実を書くものとしてのキャラクター・シート

 ゲーム・セッションでは状況によって、他のプレイヤー・キャラクターあるいはノン・プレイヤー・キャラクターに「嘘」をつかねばならない場合があります。シートに記載されている事実とは異なる内容を話して伝えることで、交渉を有利に進めようとする場面などですね。
 ただ、現在のデータについて、キャラクター・シートに虚偽を書き込んではなりません。本当は「耐久値」が10なのに、(単に死にたくないからと)ルールを無視して20と書き込んでしまっては、ゲームが成り立たなくなってしまうのは自明ですね。
 一方で、性別を書き込まないということは、事実としての「性」の多様性を固定化してしまわない、ということを意味しています。
 本人が公言していないマイノリティ性を暴露(アウティング)する行為は犯罪ですから、そうはならない雰囲気づくりという配慮もあるのでしょう。
 多様性(ダイヴァーシティ)をめぐる議論が進んでいるとはいえ、まだまだ差別や偏見は社会に根強い状態ですから、ゲーム・キャラクターをネタにかこつけた差別を認めない、というスタンスが大事になってくるわけです。
 そういった意味で、「本連載の前回、『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています」というのは、厳密に言えば正確ではありませんでした。
 説明の便宜のため、あえて単純化していたとご理解ください。要するに、イラストで表象された身体的な「外観」のバランスが取れていた、という話です。

●『エクリプス・フェイズ』とジェンダー・アイデンティティ

 もちろん、キャラクター・シートに性別欄を設けない、というのは、あくまでも一つの方法論にすぎません。
 別のやり方もあります。参考までに、『エクリプス・フェイズ』というSF-RPGの例を見てみましょう。
 この作品では、人間の精神がデジタル化され、肉体は義体(モーフ)として取替え可能になっているという未来の世界観が採用されています。
 演じるキャラクターはトランスヒューマンと呼ばれます。「超人(トランスヒューマン)思想=トランスヒューマニズム」とは、遡れば19世紀後半の神秘思想に由来します。
 大雑把に説明すれば、修行によって精神を上昇(アセンション)させることで、肉体を超えた存在になることができる、という人神思想です。
 しかし、コンピュータ・サイエンスをはじめ科学技術が極限まで発展した未来においては、AI(人工知能)が人間の予測もつかないレベルにまで到達し(技術的特異点【シンギュラリティ】の到来)、既存の人間観を抜本的に変容させてしまいました。つまり、技術がトランスヒューマニズムを常態化させたわけです。
 ゆえに、『エクリプス・フェイズ』のキャラクターは、外見では性別の見分けがつかない場合がままあります。
 義体も生体義体(バイオモーフ)と合成義体(シンセモーフ)に大別され、合成義体の場合、脳はサイバー・ブレイン、呼吸・睡眠・飲食不要となるのです。
 こうした世界観ですから、『エクリプス・フェイズ』では、キャラクター・シートに「ジェンダー・アイデンティティ」という記載欄があります。外観とは無関係に、どのようなジェンダー(社会的性)を自認しているのか、ということを記述するわけです。
 私がゲームマスターをする時には、『エクリプス・フェイズ』は、魂(エゴ)の性別、義体(モーフ)の性別、ジェンダー・アイデンティティ、性的指向のそれぞれにおいて、男性・女性・中性・両性・無性の5つから、選んで記述してもらう、という形にしています。
 ジェンダーをめぐる現実世界の複雑な状況を、SFの世界観としての思考実験という形で、応用しているわけです。実際、『エクリプス・フェイズ』のゲーム・セッションでは、ごく自然にアイデンティティをめぐる問いが発生する仕掛けになっています。
 「FT新聞」をお読みの皆さんはソロアドベンチャーがお好きだと思います。
 月刊アナログゲーム総合情報書籍「Role&Roll」(アークライト/新紀元社)のVol.193では、私が書いた『エクリプス・フェイズ』のソロアドベンチャー「流れよわが涙、と監視官は言った」が掲載されています。
 簡易ルール付きですので、ぜひプレイしてみてください。

●多様性(ダイヴァーシティ)をめぐる2つの位相

 『ウォーハンマーRPG』と多様性について、仲知喜さんからは、「今回、岡和田さんはWHRPGの多様性に注目して紹介しておられます。そうくると「仲間」ではない存在、ゲームに欠かせない存在である「敵」にも関心が向かいます。オールドワールドにおける「敵」はどう現れ、描かれ、何を持って敵だと解釈されるのでしょうか。今後の連載で解き明かされるのでしょうか」とのコメントをいただきました。
 これまた興味深いご指摘です。
 RPGにおいて多様性(ダイヴァーシティ)という言葉が使われる際、大きく分けて2つの位相が念頭に置かれるものと思います。
 第1の位相はゲーム内の世界。つまり『ウォーハンマーRPG』で表現されるオールド・ワールドのことですね。
 第2の位相は、ゲーム外の世界。現実世界においてテーブルを囲む、プレイヤー同士の人間関係です。
 ことRPGが特異なのは、こうした2つの領域が、必ずしも截然(せつぜん)と分かたれているわけではない、ということです。
 学術的なゲーム研究では、例えば「魔法円(マジック・サークル)」という概念をめぐる議論として、話し合われている問題です(ご興味のある方は、ケイティ・サレン&エリック・ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』【山本貴光訳、ニューゲームズオーダー】をお読み下さい)。

●卓を囲む人々の間においては「敵」を作ってはならない

 もちろん、プレイヤー・キャラクターとプレイヤーは別人格であり、極端な話、ゲーム内のキャラクターが死んでもプレイヤーまでが死んでしまうわけではありません。そういう意味では、ゲーム内とゲーム外は別で、両者を混同してしまうのは危険です。
 しかし一方で、『ウォーハンマーRPG』の世界は、参加するゲームマスターとプレイヤー同士の相互作用(インタラクション)によってはじめて成立する、という性格を持ちます。その相互作用の前提となるのは−−世界観やコミュニケーションの作法をも包含するという広い意味での−−ルールなのです。
 こと、ルールがあるからこそ、現実と架空の世界は区別されるわけですが、そのルールは参加するプレイヤーたちの自主的な管理によって成り立つという性格を持つもので、金科玉条というわけではありません。
 実際、ゲームマスターは、それによってゲームがより面白くなると判断したのであれば、ルールを曲げてしまうことすら許可されているのです。
 つまり、現実世界とゲーム世界の境界は常に曖昧であり、プレイヤー・キャラクターの性格は、必ずどこかの面でプレイヤーの性格の投影になっているものです。
 前提として、現実世界で卓を囲む相手に、差別やハラスメントを行うことは、あってはならないことです。
 気心の知れた友人に限るならばともかく、コンベンションやオンラインセッション等で、見知らぬ人と一緒にRPGをプレイする機会は少なくありません。
 本人がカミングアウトしていないだけで、同卓している人は何らかのマイノリティ性を孕むかもしれません。
 そして、そのマイノリティ性をカミングアウトしろと強要することは許されないため、多様性(ダイヴァーシティ)を確保できるような環境づくりが求められるわけです。
 平たく言えば、卓を囲む人々の間においては「敵」を作ってはならない、というわけです。

●ゲーム世界における明確な「敵」とは

 今回、仲さんがおっしゃっているのは、あくまでもオールド・ワールドのなかにおいての「多様性」であり、では、それを裏切る「敵」というのはどういうものかを問うておられます。
 RPGの中では、「多様性」からいったん棚上げされるような、明確な「敵」が設定されているシステムも少なくありません。残虐非道な、討伐されるべき絶対悪というわけです。
 『ウォーハンマーRPG』にも、ルールブックには明確な「敵」として使われるべき、凶悪なクリーチャーが多数、記述されています。
 知性がなくコミュニケーションが取れない、それこそ相手を食用としてしか思えないようなクリーチャーも、少なからず存在します。
 珍しいところでは−−ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に出てくるジャバーウォックを、さらに凶悪にさせたような−−ジャバースライスという、見るだけで相手を狂気に陥らせ、ほとばしる血液が敵を腐食させる力を有したクリーチャーさえいるのですから。

●初版にあった属性(アラインメント)というルール

 初版の『ウォーハンマーRPG』では、属性(アラインメント)という概念が存在しました。この属性(アラインメント)という概念は、興味深い論点を提供してくれています。
 すべてのキャラクターは、「混沌」−「邪悪」−「中立」−「善良」−「秩序」といった、直線上に並ぶ5つの属性のいずれかを有します。自分と同じ属性ではないキャラクターと交渉する場合、1段階離れるたびに−10%のペナルティがかかるというわけです。
 面白いのは、同じく属性(アラインメント)のルールがある『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(AD&D)では、「混沌」と「秩序」、「邪悪」と「善良」はそれぞれ別枠だったのに、『ウォーハンマーRPG』初版ではそうなっていなかったことです。
 属性のルールは、しばしば世界を善悪二元論(もしくは秩序と混沌の二元論)的に単純化していると批判されますが、実のところ、単なる単純化と受け止めることはできません。
 ゲーム内世界を一つの宇宙だと捉えると、その宇宙に、各属性の場所をしっかりと与えることで、単純化しつつ多様性を担保しているとも言えるのです。
 「混沌」と「秩序」は決して、真の意味で互いを理解することはできません。しかし、理解しえないながらも、世界においては共存しえているのです。
 他者を生半可にわかったふりをしない、けれども他者は確かにそこにいる……そうした思想を、属性(アラインメント)のルールからは読み取ることができます。
 そして『ウォーハンマーRPG』世界においては、「邪悪」も「善良」も、結局のところは、「混沌」と「秩序」のどちらかに至る一プロセスにすぎない、というわけです。

●「内なる敵」を適切に演出するために

 『ウォーハンマーRPG』の第2版からは、属性(アラインメント)のルールはなくなりました。初版回帰の色合いが強い第4版においても、このルールは復活していません。
 それでは、『ウォーハンマーRPG』における「敵」はどこにいるのでしょうか?
 ルール上では、「混沌」という存在が、究極の悪だとされています。ただ、究極の悪というのは、あくまでも到達不可能な理想の裏返しにすぎません。
 いくら混沌の神々の寵愛を受けても、ケイオス・チャンピオンという強力な存在にはなれるかもしれませんが、神々そのものと化すことはできないのです。
 さらに言えば、オールド・ワールドは中世から近世にかけてのヨーロッパをモチーフにしています。当然、近代以降に確立された人権概念、というのはありません。
 世界は不条理に満ちており、社会格差もすさまじい。
 こうしたなかで、いちばん恐ろしいのは、理解したかに思えていながら、その腹の底までは読みきれないという「内なる敵」という存在なのではないでしょうか。
 『ウォーハンマーRPG』では、混沌のミュータント、スケイブン(スケイヴンとも、ネズミ人間のこと)、グリーンスキン(ゴブリン類)等、多様な敵役が設定されています。
 ただ、実際のところ、いちばん頻繁に出逢う敵は、「人間」そのものです。
 オールド・ワールドでもっとも勢いがあるのは人間ですが、「混沌」よりも恐ろしいのは、マジョリティである人間である、というわけです。
 初版の有名なキャンペーン(連続)シナリオ群の−−4版対応で順次、英語版が刊行されていますが−−サブタイトルが「内なる敵」と題されているのは、謂れなきことではないのでしょう。
 つまり、人間と人間同士の、エゴのぶつかり合いや善意のすれ違い。そして、私利私欲のための日常化した裏切りと陰謀。
 絶対悪としての「混沌」は、そこに巧妙に入り込む存在という形でデザインされています。世界観の基本には「内なる敵」があるとすると、単に倒されるべき「悪」というだけでは、その特性を充分に描き出すことはできません。
 そして、こうした世界観を演出するためにも、それこそ成熟した大人のプレイヤーによる、充分な配慮が求められるというわけです。

2021年02月16日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2946に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

「なんてこと(シグマーズ・ブラッディ・ハンマー)……」
 一難去ってまた一難。トロールから逃げてボグ・オクトパスに遭うとは、よく言ったもの。
 薄暗い物陰に佇んでいたのは、忘れもしない、魔狩人フレイザーだ。
「よお、レジーナ。貴様の顔は忘れようにも忘れられねぇ。色々と愉快なことをやらかしてくれたからな。貴様の周りからは、混沌の臭いがするんだ、それはもう、プンプンとな。実際、貴様のおかげで、ミュータントを一人狩ることができたってなもんだ」
 フレイザーとは腐れ縁だ。シグマーへの狂信の割に異端摘発の「成績」がよくないこいつの前で、学府に認められていない魔法をかけ、魔女狩りの口実を与えなくて本当によかった。
 わたしはサッシュ(帯)に忍ばせている、身代わり人形のことを思った。いざとなれば、思い切って針を突き刺せばいい。こいつに激痛の呪いをかけられる。その隙に……。
「そんなに警戒するなって。実はな、貴様にちょっとした相談(はなし)があるんだ」
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 好評いただいている本連載、Vol.3の今回は、『ウォーハンマーRPG』第4版の実際のキャリアを総覧し、『ウォーハンマーRPG スターターセット』のサンプル・キャラクターを紹介、さらには多様性(ダイヴァーシティ)の問題にまで話を広げていきます。

●キャリア・クラスについて

 『ウォーハンマーRPG』の大きな特徴は、その職業(キャリア)の豊富さです。およそ中世から近世にかけて存在してきた、ありとあらゆるタイプの職業が、「キャリア」として網羅されていると言っても過言ではないでしょう(サプリメントで、さらに追加されていきますから)。
 生活感あふれるキャリアを出発点にして物語を紡いでいけば、その生活がそのまま「冒険」に直結する、というのが『ウォーハンマーRPG』の醍醐味です。
 プレイヤーが演じるキャラクターの就くキャリアは第4版では、学士、都市民、農村民、野外民、河川民、無頼、戦士の8通りのクラスに分類されています。
 初版をご存知の方は、キャリア・クラスがウォリアー(戦士系)、レンジャー(野人系)、ローグ(町人系)、アカデミック(学者系)の4つに大別されていたのをご記憶かもしれません。4版では、それがさらに細分化されている、ということになります。

●キャリア総覧

 学士に区分されるキャリアは、薬剤師、技師、弁護士、修道士、医者、司祭、学者、魔術師。
 都市民に区分されるキャリアは、扇動家、職人、物乞い、捜査官、商人、ネズミ捕り、都市住民、警備兵。
 廷臣に区分されるキャリアは、顧問、芸術家、決闘者、渉外使者、貴族、召使い、密偵、所領管理人。
 農村民に区分されるキャリアは、領地代官、似非魔術師、薬草師、狩人、鉱夫、占い師、偵察兵、村人。
 野外民に区分されるキャリアは、賞金稼ぎ、御者、芸人、鞭打苦行者、伝書、行商人、街道巡視員、魔狩人。
 河川民に区分されるキャリアは、川舟乗り、水先案内人、河川巡視員、河川の民、船乗り、密輸商人、港湾労働者、難破船荒らし。
 無頼に区分されるキャリアは、斡旋人、いかさま師、故買人、墓荒らし、無法者、ゆすり屋、盗賊、魔女。
 戦士に区分されるキャリアは、騎兵、衛兵、騎士、剣闘士、流れ者、兵士、スレイヤー、戦闘司祭。

●『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリア

 なかなか壮観ではないでしょうか。『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリアを解説していくと……。
 ネズミ捕りは、害獣駆除業者のこと。彼らなしでは都市の衛生は成り立ちません。
 決闘者は、裁判の被告や告発者の替わりに決闘に参加する代理戦士。
 似非魔術師は、魔法諸学府で公認されていない、似非魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。
 鞭打苦行者とは、己や他人の贖罪のために世界が終るまで自らを鞭打ちながら旅して回る者のこと。中世史によく登場しますよ。
 魔狩人とは、混沌の信者や非合法の魔術を使う者たちを追い求めて火刑にしようとする者。
 斡旋人は麻薬窟や売春宿など悪徳とされるサービスへの手引きを行う者。ポン引きですね。
 魔女とは、俗魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。男性キャラクターでも「魔女」です。
 スレイヤーとは、心に傷を負い、獣脂で髪をモヒカンに逆立て、死に場所を求めて彷徨うドワーフ戦士。
 戦闘司祭とは、シグマー神に仕える僧兵で、ハンマーを手に前線で戦う者。『ウォーハンマーFB』が好きな方はお馴染みかもしれません。

 これが、例えば鞭打ち苦行者ならば「狂信者」→「鞭打苦行者」→「悔悟者」→「終末預言者」と、キャリア・パスをステップ・アップしていき、獲得できる技能や異能も増えていくという塩梅です。
 鞭打苦行者は世捨て人なので収入は増えませんが、通常はキャリア・パスが上がると、収入や社会的な地位が増していきます。

●キャリアはどうやって選べばいい?

 これらのキャリアはダイスでランダムに選ぶこともできますし、任意のものをチョイスしてもかまいません。
 ただ、ランダムで選んだ場合、ボーナスで経験点が入ります(いいルールなので、何度でも紹介しておきます)。
 ちなみに、初版の時には、技能が1つ(乗馬)しかない、街道巡視員のようなキャリアもありました。それはそれで面白く、弱いキャリアをプレイして成り上がっていくのも『ウォーハンマーRPG』の醍醐味ですが、2版からはバランスが調整され、基本的に著しく不利な職業というのはなくなりました。
 ただ、キャリア毎の社会的な立場はさまざまです。
 例えば、魔女の使う俗魔術は非合法で、使うと死刑に処されます。それゆえ、常に魔狩人に追われる立場を余儀なくされます。
 それはシナリオの導入に使うこともできますが、魔女と魔狩人をパーティに同居される場合、何らかの理由付けが必要となります。
 『ウォーハンマーRPG』の冒険はシティアドベンチャーが基体になることが多いのですが、もちろんダンジョン探険等、ファンタジーRPGに期待される冒険は一通り、こなせるようになっています。
 あらかじめシナリオの舞台が決まっていれば、それに合わせて、ゲームマスターがクラスを指定しても面白いでしょう。

●サンプル・キャラクターには、こんな設定も

 このあたりが便利なのは、日本語版の発売が予定されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』です。
 『スターターセット』には人間の兵士サルンドラ、ドワーフのスレイヤーのグンナー、ハーフリングの盗賊モルレラ、人間の魔術師フェルディナント、ハイ・エルフの商人アムリス、人間の魔狩人エルゼ、といった6体の作成済みキャラクターが収められています。
 フルカラーですが、あらかじめ折りたたまれており、自分だけが知っておくべき情報を、周りに見せずに済むように配慮されています。
 数値的なデータだけではなく、各キャラクターには、瞳の色や髪の色、家族構成、出生地、決めゼリフ、行動の動機、パーティの他の面々との関係、さらには自分だけの秘密が設定されています。
 パーティの関係と自分だけの秘密は、1つないしそれ以上を、プレイヤーが任意に選択します。

●サンプル・キャラクターはこういう性格

 サルンドラは貴族の出身なので、自然とパーティのリーダー格になりますが、酒好きで、いつも周りを騒がせ、「放っておけない」と思わせます。
 グンナーは家族を亡くしてスレイヤーの誓いを立てたドワーフですが、戦闘マシーンに徹しきれない人間味(ドワーフ味?)のあるキャラクターです。
 モルレラは人懐っこいハーフリングですが(人間の子どもくらいの身長の種族で、料理が得意)、夫も子どももいる肝っ玉母さんです。
 フェルディナンドは、紫水晶(死の魔法体系の魔術を駆使する学府)の魔術師たるべく修行をしています。無口ですがこちらも貴族の出で育ちはよく、義理堅い一面もあります。
 アムリスは人間に興味しんしん、好奇心いっぱいのハイ・エルフです。能力的に強力なので、いざという時には頼りになります。
 エルゼは魔狩人の母から直に教えを受け、シグマー神を熱心に崇めています。静かに、強固な意志をもって任務を遂行する仕事人気質のキャラクターです。
 これらのキャラクターに、ユーベルスライクを舞台にした付属シナリオをプレイする際には、街周辺の情報が、あらかじめ「ハンドアウト」として手渡されます。
 このハンドアウトの情報を駆使すれば、ゲームセッションの導入がすんなり行き、なかには冒険をスムーズに進めるための手がかりにもなる、という塩梅なのです。


●多様性(ダイヴァーシティ)を前提とした雰囲気づくり

 『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』の導入シートでは、キャラクターだけではなくプレイヤーも、肌の色に関わらず、和気あいあいと卓を囲む様子がイラストで示されています。
 サンプルキャラクターも、男女比は半々。人間と異種族の比率も半々です。
 『ウォーハンマーRPG』は、中世から近世にかけての厳しい社会背景を舞台に、シニカルなブラックユーモアが多々、登場する世界を描いています。
 だからといって、ゲームセッションを通じて、既存の性・人種/民族(エスニシティ)等の差別を正当化するようなことが、あってはならないのは当然のことです。
 微妙かな? と思えるシチュエーションがあれば、しっかり卓の合意を取るのが安全ですし、ルールブックにはそのための指針も記されています。
 ルールやガイドラインのみではなく、多様性(ダイヴァーシティ)を許容するための雰囲気づくりも大事になるのですが、第4版はそのための配慮も行き届いています。

●卓を囲む仲間を「大人」として尊重するために

 多様性についての議論が進んでいる英語圏でも、残念なことにレイシズム的な言説が問題になることが、ままあります。
 昨年も、英語圏のあるオールドスクール・ファンタジーRPG関係の企業のトップが、あからさまな人種差別発言を行い、SNSでそれに便乗するゲーマーたちも現れる、という事件が起こってしまいました(ことを重く見た取引先の企業が、差別発言を看過せずに取引停止を宣告する自体にまで発展しました)。
 レイシズムやセクシズムの問題は、誰にとっても非常に身近なものとなっています。誰もが加害者になりえるというわけです。
 ほろ苦い大人のためのRPGだからこそ、『ウォーハンマーRPG』第4版はユーザーに対して、多様性(ダイヴァーシティ)のあり方を――声高な演説ではなく――ごく自然なあり方として表現しているのです。
 それはつまり、卓を囲む相手を平等な仲間、「大人」として尊重するためのスタイルなのでしょう。
 そこに甘んじることなく、自らの発言や振る舞いを常に省みて、RPGを通して、社会、そこに生きる人間、そして歴史の連なりを、より深く理解していくことができれば最高ですね。

2021年02月02日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2932に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。

●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

 わたしは魔力の風との交信を試みた。けれども、眼前にミュータントが迫っている状態では、どうにも気が散る。軽く舌を噛み、じりじりと後ずさりしていると、そいつがニヤリと笑ったかに見えた。間髪入れず、爪を振り上げて飛びかかってくる。
 何かが炸裂する音、そして悲鳴……恐る恐る目を開けると、飛び出した両眼のちょうど真ん中、化物の眉間のあたりに、ぽっかり穴が空いていた。
 どう、と倒れる。思わず振り返ると、黒い羽根付き帽を被った魔狩人が立っていた。胸の鎧は……ブレスト・プレートか。両手に構えたピストルからは、硝煙が立ちのぼっている。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より


 本連載のVol.1では、『ウォーハンマーRPG』の歴史と概要をお伝えしました。Vol.2の今回は、発売が予告されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』を紹介しつつ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(クラシック)』との比較から、その特徴を解説していきます。

★本気のRPG、それが『ウォーハンマーRPG』!

 現在、ホビージャパンから発売されている『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』(第4版)は、ハードカバー・フルカラーのA4判で350ページほどと、分厚い書籍の中に、ぎっしりと情報が詰まっています。
馴染みのない方は、騙されたと思ってページを繰ってみると、異世界を表現するための本気度に、きっと驚かれるのではないかと思います。
 もっとも、『ウォーハンマーRPG』が本格的な作りだったのは、初版の時からそうでした。社会思想社現代教養文庫から発売されていた『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』が出た時のインパクトを、ご記憶の方もおられるでしょう。なにせ、文庫版で3分冊。1巻と2巻は600ページ、3巻でも500ページを超えていましたから。俗に「(形状が)サイコロ(のような)本」とも言われました。

★気後れしてしまう方には『スターターセット』を!

 ただ、中にはあまりの分厚さに気後れしてしまう方もおられるかもしれません。そうした方は、ゲームマーケット2020秋のホビージャパン・ブースで日本語版の発売が予告された『ウォーハンマーRPG スターターセット』をお待ちいただくのがよいでしょう。
 これは、入門用のボックス・セットで、箱の中に、導入用のシート、ルールサマリー、作成済みキャラクター6人、それらのキャラクターに行動の動機を与えるハンドアウト、そして、導入用の冒険シナリオ(5幕の連作形式+シナリオソース10本)の収められた本と、舞台となる都市ユーベルスライクのガイドブック、地図が4枚、それに10面体サイコロ(ブランド品)が2つに、戦闘時の「優位」を記録するための大量のトークン、それにボックスの裏を利用する簡易ゲームマスター・スクリーンがワンセットになっている、というものです。導入用シート、キャラクターシートや同梱の本2冊に、地図はすべてフルカラー!
 海外RPGでも、はたまた国産のRPGでも、昔から入門用のパッケージをボードゲームのようにボックス・タイプで発売するという形式がありますが、その『ウォーハンマーRPG』版、とご理解下さい。
 箱を開ける時のワクワク感は格別ですし(これは「アンボックス」などと言われ、海外では動画配信されることもしばしばです)、なんといっても、最小の準備でセッションを始めることができるのが最高です。それでいて、ベテランにとっても資料的価値が高いものです。
 舞台になっているユーベルスライクの街は、『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・フィールドであるライクランドという領邦の南部にあるものです。ボックスに同梱されたガイドブックでは、ユーベルスライクの歴史と、ユーベルスライクを支配するユングフロイト家、近年の皇帝カール・フランツによる政治的な侵攻、さらには街の具体的なロケーションが70カ所以上扱われ、周辺諸領や暗黒のカルト教団までもが紹介されています。
 ユーベルスライクは旧版ではあまり目立ちませんでしたが、第2版の地域ガイド本『シグマーの継承者』でもきちんと出てきますし、未訳の第3版でも、ドワーフの設定などで言及されています。PCゲームの『Total War WARHAMMER』でも登場しますよ。
 なんといっても、ユーベルスライクはジャック・ヨーヴィルの〈ウォーハンマー〉小説『ドラッケンフェルズ』の舞台であるドラッケンフェルズ城にほど近いところが素晴らしい。初版では『ドラッケンフェルズ』を再現する冒険シナリオも出版されていましたが(未訳)、『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や『スターターセット』でも、ドラッケンフェルズ城については言及がありますので、探してみるのも一興でしょう。
 ちなみに、『ドラッケンフェルズ』には吸血鬼ジュヌヴィエーヴという有名なキャラクターが出てきますが、彼女はヨーヴィルがキム・ニューマン名義で書いた〈ドラキュラ紀元〉シリーズ(アトリエサードから新版が刊行中)にも出演しています。タイムリーにも、『《ドラキュラ紀元一九五九》ドラキュラのチャチャチャ』の発売が、この2月中になると予告されています。

★初版のデザイナーは、D&Dの仕事もしていた

 『ウォーハンマーRPG』は1986年に初版ルールブックが出ていますから、今年(2021年)で35周年です。『ウォーハンマーRPG』に2年先駆けて始まった『ドラゴン・ウォーリアーズ』もそうなのですが、初版の『ウォーハンマーRPG』は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(新和や電撃ゲーム文庫から邦訳もされた、いわゆるクラシックD&D[CD&D]、特に1983年からの第4版以降)との差別化が、陰に陽に意識されていたように思います。
 実際、『ウォーハンマーRPG』に参加していたクリエイターの多くは(フィル・ギャラハー、ジム・バンブラ、グレアム・デイヴィス、グレアム・モーリス等)、CD&Dを当時出していたTSR社のUK支社の仕事もしていました。
 CD&Dがお好きな方は、1989年に邦訳が出た『X8モジュール 炎の島』(新和)や、1996年に邦訳が出た『ナイツ・ダーク・テラー 黒い夜の恐怖』(電撃ゲーム文庫)をご確認いただければと思います。
「CD&Dも魅力的だが、より『ウォーハンマーRPG』らしさを追求するにはどうしたらいいか?」という問いが、行間から溢れているのがおわかりになることでしょう。

★クラシックD&Dと『ウォーハンマーRPG』の違い

 試しに、2つのシステムをおおまかに比較してみましょう。
 CD&Dは20面体ダイスの1回振りで、基本的な判定が行われますが、『ウォーハンマーRPG』では、技能システムをベースにした10面体サイコロ2個で%を作る(今では『クトゥルフ神話TRPG(クトゥルフの呼び声)』等でお馴染みの)やり方が基本になっています。
 職業(クラス)の数が最小限に抑えられたCD&Dとは違い、『ウォーハンマーRPG』では、100種類を超える職業(キャリア)を転職しながら渡り歩くシステムが採られています。
 低レベル帯ではダンジョン探険が中心のCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、初期段階から、街での冒険が活発に行われるようになっています。
 古代から中世の雰囲気を色濃く遺すCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、中世から近世への過渡期における都市での冒険が中心で、銃器すら出てきます。
 CD&Dでは(「スレッショールド」の街など)地名や文化は英語がベースのものが少なくありませんでしたが、『ウォーハンマーRPG』の舞台であるエンパイアでは(「アルトドルフ」の街など)ドイツ語ベースが基本。
 戦闘でも、アーマークラス制による処理のスピード感を重視したCD&Dに比べ、命中部位やクリティカル・ヒット表など、戦闘はリアル志向で危険性が強調されています。
 もちろん、「どちらが優れている」というわけではなく、自分の表現したい世界観に合わせて、システムを選択すればよい、という話ですね。きっと、クリエイターもそう考えていたことと思います。

★嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界 

 『ウォーハンマーRPG』第4版のコンセプトは、「嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界(A Grim World of Perilous Adventure)」です。
 残酷さをもたらす根幹にあるのは、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"と呼ばれる"混沌"の邪神たちや、その手下であるディーモン(『ウォーハンマーRPG』ではこう表記します)が、絶えず、オールド・ワールドを侵攻しようとしてくることです。
 かつて世界の安寧を守ってきた太古の魔術がすでに破られ、"混沌の時代"が到来してしまっているのですが、こうした"混沌"との戦いが、『ウォーハンマーRPG』の重要なテーマになっています。
 混沌の正体は不明です。一見、善きものに見える魔力も、煎じ詰めれば混沌の力に由来するということが少なくありません。
 混沌の神々を崇拝することは非合法であるため、通常は地下に潜伏していますが……敵は、彼らだけではありません。混沌に穢されたミュータントやビーストマンや、人間たちと別種の論理で動くグリーンスキン(ゴブリン類のこと)やネズミ人間スケイヴン、といった勢力が跳梁跋扈しているからです。
 仲間であるはずの人間たちですら、まるで信用はできません。その日を暮らすのもやっとのため、数枚の銅貨のために、平気で人殺しに手を染めるような連中だって珍しくないからです。
 案の定、ドワーフとエルフは互いを煙たく思っており、しばしば人間をも見下していることは言うまでもありません(第4版ではドワーフとエルフの不仲は「嫌悪」という特徴で表現されますが、パーティの仲間に関しては無視してもよい、という救済策が提示されています)。

★エントロピーに対峙せよ!

 こうした厳しい世界の中で、わずかに残る希望を失わずに悪戦苦闘を続ける、というのが『ウォーハンマーRPG』のプレイヤー・キャラクターの立ち位置です。
 混沌との戦いに終わりはなく、勝利の道筋は見えません。世界が滅びる"終焉の刻(エンド・タイムズ)"は、刻一刻と近づいていますが、避けようがない衰滅(エントロピー)を、少しでも遅らせようと悪あがきをするわけです。『ウォーハンマーRPG』には8種類のクラスが存在し、各クラスに8種類のキャリアがあり、それらは4段階のキャリア・レベルで成長を遂げていきます。つまり単純計算で、基本ルールブックだけで256種類(!)のキャリアが用意されているわけですが、成長するにつれて、社会的な地位は上がっていき、混沌をめぐる世界の真実に気づく……といった仕組みになっています。
 こうしたコンセプトも、実はCD&Dへのアンサーであると言えます。CD&Dは、キャラクターのレベルが上がるごとに、社会的な地位も上昇していき、15レベル以上を扱うコンパニオン・ルールセット(緑箱)からは、領主となって自領の経営に乗り出したり、あるいは今いる世界(物質界)を離れて次元界をまたにかけた冒険に出向いたりすることになるのですが、やがて直面するのは、宇宙のすべてに熱力学的な死をもたらす「エントロピー」との対峙にほかなりません。
 私自身、「エントロピーとの戦い」をテーマに、『ウォーハンマーRPG』やCD&DのキャンペーンをGMとして運営したことがあります。

★変化するシステム

 D&DにはCD&Dのほかに、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』という別ラインのシリーズがあり、それらは2000年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版で統合され、2003年の第3.5版、2008年の第4版、2014年の第5版と、システムを大きく様変わりさせています。
 『ウォーハンマーRPG』の第2版は、D&D第3版の系列のサードパーティであったGreen Ronin社が関わっていたため、緻密な状況の再現がウリであったD&D第3.X版を意識しつつも、随所でゲームマスターのファジーな判断を加えやすいデザインになっていたと、私は現場で何度となくプレイして、つくづく実感しました。イベントでは、「D&D第3.X版と、『クトゥルフ神話TRPG』をハイブリッドさせたようなシステム」と紹介したこともありました。
 『ウォーハンマーRPG』第4版は、世界観的には初版回帰の色彩が強いシステムで、実際、メイン・スタッフには名作ユーモア・シナリオ「エウレーカ!」で知られるアンディ・ローも名を連ねていますが、システムも独自の変化を遂げてきました。
 ただ、第4版の『ウォーハンマーRPG』を、純粋に数理的なルールシステムに限って言えば、単純に他のファンタジーRPGと比べることは、以前の版に比べて、難しくなってきているように思えます。第4版では「優位」等、独自のギミックが増えてきたからです。
 それでも、「キャラクター作成の時に、ダイスでランダムにキャラクターを選んだ場合、任意に選んだ場合よりも、ボーナスとして経験点をもらえる」といった具合に、オールドスクールRPGファンならば、「なぜ、ここに気づかなかったんだろう」という、痒いところに手が届くようなルールが増えています。
 既存のファンのみならず、ゲームデザインの最新形がどうなっているのかを知るためにも、ぜひ、第4版に触れていただければと思います。

2021年01月21日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1

FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」2021年1月19日発刊のNo.2918に寄稿した「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!Vol.1」を、Analog Game Studiesにも採録します。


『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1 No.2918
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1

岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

一人の人間の行為が、全世界に永遠の平和をもたらすような物語を聞きたいとおっしゃるなら、お話しすることもできます−−でも、そんな話がどんなにばかげて、嘘っぱちなのか、あなたにもよくおわかりのはずです。
 −−ブライアン・クレイグ『嵐の戦士』(岡聖子訳)

小便臭い脇道から飛び出してきたそいつは、わたしが初めて見るような姿だった。田舎の民兵のような服装(なり)をしているのに、眼柄(がんぺい)がカニのように突き出しているのだ。黄色い爪は長く伸び、渦を巻くようにねじくれている。開かれた口からはよだれが滴り、おぞましい腐臭が漂ってくる……。歯には何かの肉片が絡みついている。わたしは、吐き気をもよおさずにはいられなかった。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

★はじめに

 あなたは『ウォーハンマーRPG』を知っていますか?
 2020年9月1日に、発売が電撃的に発表され、月末には第4版の基本ルールブックがホビージャパンより発売されました。「あの『ウォーハンマーRPG』が復活!?」と、SNSではかなりの話題を集めたので、ご記憶の方も多いだろうと思います。
 ただ、「FT新聞」をお読みの方には、ゲームブックや他のRPG(会話型RPG、テーブルトークのRPG)には親しんでいても、『ウォーハンマーRPG』には馴染みがない、という方もいらっしゃるかもしれません。
 それもそのはず。もともと英語圏でも日本でも、『ウォーハンマーRPG』は1980年代のゲームブック・ブームが一段落した後の、"次の一手"として展開された作品でしたから。
 ただ、その奥深い背景世界やルールシステムは、知らないで済ませるには、あまりにももったいない。そこで、「FT新聞」編集長の水波流氏からの依頼を受けまして、『ウォーハンマーRPG』について、紹介する記事を連載していきたいと思います。

★おことわり

 筆者である私は『ウォーハンマーRPG』第2版、および第4版の翻訳に参加、「GAME JAPAN」誌2008年3月号〜9月号まで第2版リプレイ「魔力の風を追う者たち」「混沌狩り」を連載し、各種コンベンションでゲームマスターをしてきました。
 しかし、それ以前に、初版の頃から『ウォーハンマーRPG』に深く親しんできたつもりです。
 当時、私は18歳で上京したて。大学に入ったらRPGを辞めようかと悩んでいて、まだ遊んでいなかった『ウォーハンマーRPG』を"最後のゲーム"にするつもりだったのですが……蓋をあけたらご覧の通り。綿密な考証を軸に作り込まれた世界観にすっかり魅了されてしまったのでした。
 私は大学では創作学科にいたのですが、ユーロピアン・スタイルのダークファンタジーは当時、軽視されていて、そこに非常な不満がありました。そんな私に、『ウォーハンマーRPG』は、自分の志向性が間違っていなかったと教えてくれた作品でもあります。
 ゆえに、私は『ウォーハンマーRPG』に恩義を感じているのです。あくまでも本記事は、いち『ウォーハンマーRPG』ユーザー(個人)としての批評・紹介であり、日本語版の「公式見解」および「公式サポート」ではない、とあらかじめお断りしておきます。

★公式情報は……。

 公式情報については、ぜひ『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や、ホビージャパンから発売予定の『ウォーハンマーRPG スターターセット』をご参照下さい。日本語版公式サイトからは、キャラクターシートやシナリオ「流血の夜」等が無料ダウンロードできます(https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/)。

★タイトルについて

 第2版および第4版の日本語版では、わかりやすさを重視し『ウォーハンマーRPG』という表記になっていますが、オリジナルは『Warhammer Fantasy Roleplay』というタイトルになっており、英語版から遊んでいる古強者(ヴェテラン)の中には、『ウォーハンマーFRP』という呼び方をする人も少なくありません。
このFRPという呼び方は、日本では1987年にホビージャパンから発売された『指輪物語ロールプレイング』等で提唱されていたものですが……。こと〈ウォーハンマー〉においては、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』(以下、『ウォーハンマーFB』と略)等のミニチュアゲームと区別するために使われることが多い印象です。

★『ウォーハンマーRPG』と『ウォーハンマーFB』

 『ウォーハンマーRPG』は、イギリスのゲームズ・ワークショップ社が1986年に発売した作品です。その前段階として、1984年には、『ウォーハンマーFB』というミニチュアゲームが出ています(日本語版は『ウォーハンマー』とだけ呼ばれることも多いですが、本記事では区別のために「FB」と略称とします)。
 『ウォーハンマーFB』は1990年代半ばから、日本でも紹介されるようになり、あちこちに専門ショップが出来ているため、ご存知の方も多いかもしれません。
 同じ〈ウォーハンマー〉でも、ミニチュアゲームとRPGは、共通する世界観を持ちながら、ゲーム・スケールがそれぞれ異なる別作品です。
 もっとも、RPGがきっかけとなってFBを始める例や、逆の例も多く見受けられます。
 『ウォーハンマーRPG』はミニチュアが必須ではありませんが、あればゲームの状況をしっかりと可視化できますし、「トロール殺し」(心に傷を負ったドワーフが、獣脂で髪をオレンジのモヒカンに逆立て、死に場所を求めてさまようというキャリア)のように、独自のキャラクターを表現するには、FBのミニチュアが使いやすいからですね。
 かいつまんで言うと、『ウォーハンマーFB』ではアーミー(軍団)単位を扱います。逆に『ウォーハンマーRPG』は個人の生活に焦点を当てた仕様になっているのですね。

★泥臭い中近世ヨーロッパを扱う

 理想化されたロマンスとしての中世ではなく、中世から近代への移行期、近世のヨーロッパから多くのモチーフが採られています。
 『ウォーハンマーRPG』の舞台であるオールド・ワールドは、現実のヨーロッパとほぼ同じ地図として描かれていますが、とりわけ第4版では、エンパイアという神聖ローマ帝国時代、三十年戦争期のドイツがモチーフの多くを提供しています。
 プレイにあたっては西洋史の知識は必要ありませんが、あればディテールの描写や演出に役立ちます。「Role&Roll」(新紀元社)では、2011年から隔月で、「戦鎚傭兵団の中世"非"幻想事典」という、創作やRPGに応用可能な、中世ヨーロッパ社会史の入門記事を連載しており、お役に立つと思います(「Role&Roll」Vol.195で60回!)。
 「Role&Roll」での「戦鎚傭兵団」とは、待兼音二郎・見田航介の各氏と私が組んでいるユニット名で、ネーミングの由来は、『ウォーハンマーRPG』の翻訳でつながったことです。オールドスクール・ファンタジーRPGと実際の歴史の交点に着目していますので、「FT新聞」読者の方には、ご一読いただければと思います。

★発売元の総本山は英国ゲームズ・ワークショップ社

 ゲームズ・ワークショップ社と聞いて、「FT新聞」の読者の方は、何を思い出されるでしょうか? そう、〈ファイティング・ファンタジー〉のゲームブックですね。
 もともとゲームズ・ワークショップ社は、アメリカ発のRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を、イギリスで扱う代理店だったのですが、1982年からは『火吹山の魔法使い』が大ヒットしました。
 ゲームズ・ワークショップが直接・間接的に関わったRPGやゲームブック作品に『ドラゴン・ウォーリアーズ』(1984年〜)、『タイガー暗殺拳』(1985年)、『ローン・ウルフ』(1985年〜)等があり、いずれも日本でも訳されています。〈ファイティング・ファンタジー〉のサポート雑誌として「ウォーロック」が創刊されたのも1983年(〜86年、ちなみに日本版「ウォーロック」は86年創刊)です。
 ゲームズ・ワークショップはボードゲームやRPGにも力を入れており、『火吹山の魔法使い』のボードゲームはもとより、『ドクター・フー』(SFドラマ)や『ジャッジ・ドレッド』(SFコミック)をボードゲームやRPG化しています。
 RPGで使うメタル・フィギュアについても、アメリカはラルパーサ社の製品をイギリスで販売するなどしていましたが、自社ブランドとしてのシタデル社をゲームズ・ワークショップ社の子会社として打ち立てました。
 『ウォーハンマーFB』では、シタデル・ブランドのミニチュアが使われ、ペイントに用いる塗料の「シタデルカラー」は、ミニチュアや模型がお好きな方であれば、きっとどこかで耳にしたことがあるはずです。

★『ウォーハンマーRPG』、3つの日本語版

 初版の日本語版は1990〜93年、社会思想社現代教養文庫から刊行されました。翻訳は安田均・高山浩・江川晃・岡聖子ら各氏が中心で、リプレイは友野詳氏が担当。いずれもグループSNEの面々です。デビュー直後の柘植めぐみ氏も、柘植恵名義でシナリオの訳に参加しています。
 第2版の日本語版は2006〜15年、ホビージャパンから出ています。翻訳は待兼音二郎・鈴木康次郎・阿利浜秀明・見田航介ら各氏に私を加えたメインの翻訳チームに、定木大介氏・鶴田慶之氏が別働隊でシナリオ集等の翻訳に参加しています。
 発売されたばかりの第4版(2020年、ホビージャパン)のルールブックでは、待兼音二郎・見田航介・阿利浜秀明、成田未来、田井陽平の各氏に私が、メインの翻訳チームを結成しています。翻訳協力には傭兵ペンギン氏。
 残念ながら初版と第2版はすべて絶版になっていますが、これら3つの『ウォーハンマーRPG』日本語版は、そのままの形で互換性はありませんが、資料として応用することは充分に可能です。
 とりわけ、第4版は初版回帰という色合いが強く、古書で旧版を適価で見つけたら、押さえておいて損はありません。

★〈ウォーハンマー〉関連作品あれこれ

 ジャック・ヨーヴィル〈ドラッケンフェルズ〉やブライアン・クレイグ〈吟遊詩人オルフィーオ〉シリーズほか、〈ウォーハンマー〉は関連小説が何百冊も発行されており、日本語版になっているものも少なからずあります。これらも、お読みになって損はありません。
 ボードゲームでは、『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』というマルチプレイゲームも日本語化されました。
 コンピュータ・ゲームでは、『ウォーハンマー:Chaosbane』や『ウォーハンマー:ヴァーミンタイド』といった人気作も、注目を集めています。余談ですが、コンピュータ・ゲームの有名作『ウォークラフト』は〈ウォーハンマー〉の影響を強く受けているんですよ。
 なお、『ウォーハンマーFB』には、『ウォーハンマー40000』というSFシリーズがあり、英語圏ではこちらの方が人気なくらいで、RPG版も発売されています(未訳)。ミニチュア版の『ウォーハンマー:エイジ・オヴ・シグマー』という、オールド・ワールドを舞台にしないシリーズもあり、RPG版も出ています(未訳)。

★『ウォーハンマーRPG』を一言で言えば?

 これまで『ウォーハンマーRPG』各版のキャッチコピーを比べると、その世界観がよく伝わってきます。

【現実っぽく、パンクな、超ド級のスケールと高完成度のRPG!
 『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』全3冊
 RPGの面白さ、だいごみを
 とことん突き詰めた
 新しい王道をいくファンタジーの本格派!】
 (初版の広告)

【ウォーハンマー・ロールプレイングゲームの残酷な世界で、君は異色の英雄として危険な冒険に打って出る。君はエンパイアの無法地帯に踏み込み、余人があえて立ち向かおうとせぬ、あるいは歯向かうこと能わざる脅威に立ち向かう。君は十中八九、どこかの糜爛した地獄穴で犬死にするに違いない。ただしことによると、かすかな望みではあるが、不浄なる変異種、身の毛のよだつ業病、腹黒い陰謀、正気の爆散を招く宗教儀式を耐えて生き延び、運命の果実をつかむかもしれない……。】
 (第2版の紹介文)

【『ウォーハンマーRPG』は、君をここ、オールド・ワールドへと連れ戻す。ならず者たちを団結させ、君ならではの(アンチ)英雄を生み出し、そして、邪悪な腐敗、陰謀を張り巡らす策謀家、破壊を目論む恐るべきクリーチャーたちを掻き分けて、活路を拓くためにいざ出発せよ。】
 (第4版の紹介文)

 つまり、無慈悲でパンクな世界観なのですね。本格ダークファンタジー、ファンタジーパンクなどと、『ウォーハンマーRPG』は形容されることが多いように思えます。
 ピリリと辛い、まさしく大人のためのRPGなのです。
 「パンク」というのは、もともとパンクロックに由来する音楽用語ですが、文化を介した既成権力に対する反逆のスタンスを示すものとして、広く転用されるようになりました。実際、スケイヴンやボルトスロワーといった、〈ウォーハンマー〉からの影響を公言している広義のパンク/ヘヴィメタル・バンドすら存在するほどです。

 〈ウォーハンマー〉全体における『ウォーハンマーRPG』の位置、世界観の大枠と、根本にあるパンクなダークファンタジーという姿勢について、今回は語りました。
 次回は、具体的にシステムについても紹介していければと思います。
 死は、あなたの隣人。恐怖は、あなたの友。
 リアリティあふれるオールド・ワールドの冒険を、是非ともお愉しみください。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
■今日の新聞に対するご感想はコチラ!
ぜひ、お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m

https://jp.surveymonkey.com/r/2ZM78SP

【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。
https://ftnews-archive.blogspot.com/

■FT新聞をお友達にご紹介ください!

https://ftbooks.xyz/ftshinbun

----------------------------------------------------------------
メールマガジン【FT新聞】
発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)