2021年09月15日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.14

 2021年9月9日配信の「FT新聞」No.3151に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.14が掲載されています。『ライクランドに冒険あり!』を使って、実際にオリジナル・シナリオをデザインするための実例を示しております。ゲームマスター・スクリーンについての質問も!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.14

 岡和田晃
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 マルクトプラッツでは、襤褸をまとって悪臭を漂わせている男が何やらわめいていた。
「本当なんだ。見たんだよ、先祖代々ネズミ捕りの、このライネッケ・ラッテンファンガーが言うんだから間違いない!」
 肩に担いだ棒からは鼠や甲虫が吊り下げられており、どうやら、ネズミ捕りというのは間違いないらしい。
 しかし、市民の多くは怪訝な面持ちで、狂人を見るかのように遠巻きにラッテンファンガーを睨めつけている。
「ふむ、面白いのがいるな」
 フレイザーはそう告げ、ニヤリと笑った。きっと、ろくなことを考えていない。

 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●「一回性」を体験すること

 RPGを長くプレイし、とりわけゲームマスターをやっていると、どうしてもオリジナルのシナリオをデザインしたくなってきます。
 最近は状況が若干変わり、市販シナリオのニーズもいっそう高まってきたように言われますが、ことオールドスクールRPGにおいては、シナリオを自作するのが当たり前の前提として、ルールブックが記述されていることも珍しくありません。
 私個人としては、市販のシナリオを使うのは大好きです。デザイナーが「その世界の何を表現したいのか」が、的確に落とし込まれていることが多いからなのであり、コンピュータになぞらえれば、“ルールブック(システム)はハードウェアであり、シナリオはソフトウェアのようなものである”とすら考えています。
 反面、市販のシナリオには問題点も、ないわけではありません。よく言われることではありますが、一番の問題点は、「シナリオが市販されていること」そのもの。つまり、事前に内容を知ることができてしまうわけです。
 すべてのシナリオが内容を知っていると愉しめないわけではありません。ただし、そもそもRPGは世界における、巻き戻し不可能な「一回性」を、キャラクターの視点から体験するものと考えるならば、読んだことのあるシナリオにプレイヤーとして参加することと、まったく未知の状態でシナリオに挑むことを、同列に置くことはできないでしょう。

●アドベンチャー・シナリオのタイプ

 これが大前提ではありますが、『ウォーハンマーRPG』のシナリオにはいくつかのパターンというものは確実に存在し、例えば初心者ゲームマスターでも楽に運用が可能な、基本となる中央プロットから逸脱しないタイプのシナリオがあります。
 逆に、舞台やNPCの設定は詳細に決められているものの、プレイヤー・キャラクターの関わり方や事件を起こすタイミング等の多くがGMに委ねられる、そういったタイプのシナリオも少なからず存在します。特に後者の場合は、プレイヤーがある程度ストーリーを知ってしまっていても、GMがそれをアレンジしてしまえば、ほとんど未知のように愉しめてしまうというメリットもあるわけです。
 『ウォーハンマーRPG』第2版についていえば、都市型の連続シナリオを集成したキャンペーンシナリオ群「呪われし道」3部作の第1部『ミドンヘイムの灰燼』には、GMが展開をコントロールしやすいタイプのシナリオが集められています。第2部『アルトドルフの尖塔』になると、一気に自由度が増して驚くかと思います。
 『ウォーハンマーRPG』第4版の日本語版公式サイトで無料公開されている「流血の夜」の導入部は、かなり強引な巻き込まれ型の展開となっています。とはいえ、全体的にスプラッタ・ホラー映画のような雰囲気が強く打ち出されているため、理不尽ではあっても納得できないというものではありません。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』に同梱されているキャンペーンシナリオ「巡回奇譚」は、ほぼ全編がユーベルスライクの街での冒険となっていますが、シティ・アドベンチャー特有の「何をやっていいいかわからない」丸投げ感はなく、ファンタジーRPGでままある「序盤はオーク退治」めいた単調さとも無縁です。
 むしろ近世都市ならではの驚きの展開が待っていますが、それでも手に負えなくてセッションが崩壊する、という事態にも陥りづらいはずです。

●アドベンチャー・フックからシナリオを作る

 「巡回奇譚」の後半からは、ユーベルスライクの街で出くわすいくつかのミニ・アドベンチャーをキャラクターが解決していくという漫遊記スタイルになります。ここでのミニ・アドベンチャーの書式は、『ウォーハンマーRPG ルールブック』の「第10章:壮厳なるライクランド」に記されたアドベンチャー・フックや、日本語版公式サイトから無料ダウンロードできる『ライクランドに冒険あり!』の書式によく似ています。
 つまり、フックを膨らませてシナリオ化する実例を、「巡回奇譚」で学べてしまうというわけなのですね。
 加えて、『スターターセット』の「アドベンチャー・ブック」には、実際のフックも多数、収められています。これらは半組みのキットのようなもの、各々のGMが自由に想像の翼を広げるためのツールというわけですが、フックをアレンジして冒険に仕立てるには、ちょっと慣れが必要かもしれません。
 そこで、実際にアレンジを試してみるとしましょう。「荘厳なるライクランド」から、ユーベルスライクの項目を見てみると、以下のように記されているのがわかります。

 ユーベルスライクは灰色夫人峠の近くに位置する町だ。灰色夫人峠は灰色山脈を越えてブレトニアに入るための二つだけの主要経路の一つである、そうした立地から、この町では年中オールド・ワールド中からやってきた交易商人や旅行者が見られる。この頑強な要塞都市は“黒岩”と呼ばれ、町に入ろうと企んでいるあまり歓迎できないすべての旅人のために、町の防壁が隙間なくつなげられている。ユーベルスライクは近接する灰色山脈のドワーフ氏族と長きに渡る協力関係を築いており、町のドワーフ住人の代表者が町の参事会に席を持っているのもこの町の特色だ。ユーベルスライクの特に有名な建造物の一つは、トイフェル川にかけられた豪壮な橋で、それは“敬虔帝” マグナスの時代にドワーフたちによって建設されたものだ。ライクランドで見られる最も荘厳な土木建築の偉業として広く称賛されているその橋は、ベーゲンハーフェンからダンケルベルク、さらにナルンへとつながるすべての交易路をつなげている。ユーベルスライクはあらゆる種類の取り引きを扱っているが、中でも最も良く知られているのはドワーフたちの金属細工技術と鉱石だ。

 ユーベルスライクの街の概要が簡潔に整理されていますが、これだけではシナリオ化するには、少々、付け加えなければならない要素が多いと思います。そこで、対応する『ライクランドに冒険あり!」のアドベンチャー・フックを見てみましょう。
 『ライクランドに冒険あり!』では、ユーベルスライクは二箇所で言及されています。そのうち、「漆黒の闇の中へ」と題されたフックは、次の通りになります。

 先祖代々ネズミ捕りであるライネッケ・ラッテンファンガーによれば、ユーベルスライク地下にある下水道で、これまで見たこともないような何かを目撃したとのことだ。ビーズ状の小さな目がついているだけだが、粘着性の黒いベトベトした奇妙な斑点が左右の壁にへばりついているのが発見されたのである。中には、寸法や方位といった数字のような形をしているものもあり、大きな門型構造物のように見えると彼は断言する。さらに彼は、羊皮紙に羽ペンで書きつけるような奇妙な引っ掻き音が、彼の獲物が動き回ることで起きる通常音に加わっていたと断言する。ネズミが読み書きを学んだ、なんてことがあるだろうか? いずれにせよラッテンファンガーは護衛を探している。護衛たちはユーベルスライクを案内してくれる博識な案内人を味方にする代わりに、散々な目に遭うかもしれない。結局のところ、下水道は町の至るところに繋がっているのだから……。

 だいぶ具体的になってきましたね。これをそのままシナリオの大枠として用いることはできそうですが、まだGMが決めなければならないことは残っています。まず、「ラッテンファンガー」の素性です。
 ルールに従ってデータまで決めればなおよし、ですが、面倒ならばルールブックp.311にある「ライクランドの住人たち」をいじって使うくらいでもいいでしょう。
 次に、事件の真相について考えます。いちばんありそうなのは、これはスケイヴンの仕業だというものです。
 そこで下水道の地図を描きます。地上からつながる位置を街のどこかに設定し、あとはフリーハンドでよいので、水路の線を引いて部屋を決め、部屋のいくつかにスケイヴンを配置します。データはルールブックのp.336の「忌まわしきラットマンたち」から引っ張ってきます。p.315にはジャイアント・ラットのデータもあり、これはミスリードに使えますね。
 ルールブックではスケイヴンは、クランラット、ストームヴァーミン、ラットオウガの3体が紹介されています。いきなり出すにはラットオウガは強力なので、今回は除くとして、部屋を10箇所作ったら、うち3箇所には敵を配置しておきます。出現数はPCの人数に合わせて調整するとよいでしょう。
 私なら、PCが4人だとすると、最初は戦闘慣れも兼ねてジャイアント・ラットを2〜3体とし、奥の部屋には、スケイヴンを出現数を3体ほど配置しておきます。戦闘しているうちに、少なくとも1体は逃亡させ、さらに奥にいるストームヴァーミンと合流させ、遭遇と遭遇の間に繋がりをもたせます。
 ほとんど無害な通常サイズの鼠しか出ない部屋や、溜め込んだ宝のある部屋(金貨3d10枚くらいを置けばよいでしょう)を設定しても面白いでしょう。あるいは危険物質ワープストーンがある部屋などを設定すると、フックでのほのめかしに意味が生まれます(「数字のような形」のものはこの場所を示していた、というわけです。もちろん、容易に近づかせないよう、禍々しい雰囲気を演出します)。
 水路を設定するにあたっては、水が深い箇所では〈水泳〉技能テストが必要となる機会を設けるなどすれば、一気に雰囲気が高まります。『ウォーハンマーRPG』なので、必ずしもスケイヴンを殲滅する必要はありません。戦闘は何が起きるのかわからない、危険なものですし、まずは地下に潜む脅威の存在を知らしめることが大事なのです。下水道には、鼠熱などの病気の危険も待っています……。
 ただ、「スケイヴンなぞ絵空事」というのがオールド・ワールドの「常識」ですし、社会的地位の低いネズミ捕りの言うことなど、まともに聞いてくれる人はそう多くありません。しかし、ラットマンたちは実際にいて、何かを企てています。それを具体化していけば、次の冒険への「引き」になるでしょう。

●GM独自のユーベルスライクを作ってもよい

 ユーベルスライクの設定は『スターターセット』にありますので、それを眺めながら、地下からつながっているポイントと、スケイヴンの動機を設定することもできるでしょう。逆に、『スターターセット』の設定をあまり気にせず、GM独自のユーベルスライクを決めて、「公式」との矛盾など気にせず、それに則ってしまってもいいかもしれません。プレイヤーにもし、『ウォーハンマーRPG』に詳しい人が混じっていたとしても、「今回は“私の”ユーベルスライクをやりますから」と前もって断っておけばOKです。
 これがシナリオの一案です。シンプルすぎると思われるかもしれませんが、私が初めて『ウォーハンマーRPG』にプレイヤーとして参加した際、こういった「典型的な」シナリオを遊びましたが、充分に愉しむことができました。

●アドベンチャー・フックから別のシナリオを作る

 あるいは、このフックから別のシナリオを作ることもできます。
 例えば、潜んでいたのが混沌の邪教徒やミュータントだったらどうでしょう。あるいは、人しれず逢瀬を重ねる恋人たちが、人を近づけまいと擬装していたとしたら?
 もちろん、スケイヴンはどこにでもいますから、こうした者たちとも絡んでくることでしょうが、意外な展開を加味すれば、仮に『ライクランドに冒険あり!』を読んだ事がある人がプレイヤーに混じっていたとしても、問題なくセッションを運営できるというわけです。

●『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』も出るぞ!

 そんなこんなで、いよいよ『ウォーハンマーRPG スターターセット』の発売が近づいてきました。それと同じ9月30日に、『ゲームマスター・スクリーン』も発売になる予定です。
 ご存知ない方に説明しますと、マスタースクリーンとは、GM用のついたて。
 セッション運用に便利なチャートがまとめられており、かつ場を盛り上げるイラストレーションも添えられています。
 今回発売となる『ウォーハンマーRPG』第4版用のゲームマスター・スクリーンは、厚紙四つ折り・フルカラーの頑丈なもので、ゲームマスター・ガイド(32ページ・フルカラー)もついています。紹介文は、以下の通り。

 アルトドルフに聳える頼もしい砦の如くに頑丈で目立つ『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』は、『ウォーハンマーRPG』の重要なルールを簡潔にまとめた、ゲームマスターのためになる便利なツールです。
 一方の面にはオールド・ワールドの腐敗した都市のアートワークが広がり、もう一方の面には各種表やサマリー、ルールの抜粋が掲載されています。加えて、スクリーンは君のシナリオを詮索好きなプレイヤーの目から隠すために大いに役立ちます。
 また、32ページの『ゲームマスター・ガイド』は、実用的なヒントや巧妙なトリック、各種選択ルールなど初心者GMにもベテランGMにも役に立つ記述が多数掲載されています。
 『ゲームマスター・ガイド』と『ゲームマスター・スクリーン』は君のキャンペーンを斬新で心躍る物にしてくれるでしょう。

 本連載の前回で、「こちらは私が翻訳に直接噛んでいるわけではなく」と書きましたが、その後、私と、基本ルールブックのメイン訳者の待兼音二郎さんが、訳語のチェック等で協力をいたしました。
 −−という流れで、次回はマスタースクリーンの紹介もしていきたく思うのですが、ここで本連載をお読みで、(他のRPGの、あるいは『ウォーハンマーRPG』の別の版の)マスタースクリーンをお持ちの皆さんに質問です。
 「あなたのお気に入りのマスタースクリーンと、その理由は何ですか?」
 編集部宛にお便りをいただくか、Twitterで私(@orionaveugle)宛にメンションをいただけましたら、次回の記事執筆にあたっての参考とさせていただきます。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
■予約受付中
ウォーハンマーRPG スターターセット ¥3,300
https://www.amazon.co.jp/dp/B09B231VR1/

ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン ¥3,850
https://www.amazon.co.jp/dp/B09F6CMBF3/

出版社:ホビージャパン(HobbyJAPAN)
発売予定日:2021年9月30日

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2021年08月13日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.13

 2021年8月21日配信の「FT新聞」No.3123に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.13」が掲載されました。『ウォーハンマーRPG スターターセット』を紹介しつつ、無料ダウンロード・マテリアル「ライクランドに冒険あり!」にも触れています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.13

 岡和田晃
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 チーズ店に限らず、ユーベルスライクの街では、噂に事欠くことがない。
 積極的にゴシップの種を探し回っているつもりがなくとも、自然と、「魔力の風」ならぬ風の噂で、耳に入ってきてしまうのだ。
 ユングフロイト家、エンパイア皇帝、そしてオストランド選帝侯の噂も……。
 いや、首都のアルトドルフや、血に塗れたべーゲンハーフェンの街についてまで。
 ……それでいて、肝心の真相はつかめない、もどかしさがあるのだけど。
 ベーゲンハーフェン家を牛耳っているトイゲン家と、ここユーベルスライクのユングフロイト家はどういう関係にあるのか、知りたいのはそこなのに。
 しょうがない、マルクトプラッツ(市場広場)へと向かおう。わたしはそう決めた。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●『スターターセット』がやってくる、ヤア、ヤア、ヤア!

 待ちに待った『ウォーハンマーRPG スターターセット』が9月30日頃、ホビージャパンから発売となります。玩具流通なので、全国のゲームショップで手に入れることができるのですけど、Amazon.co.jpのようなオンライン書店でも入手ができるようになっています(8月31日頃でアナウンスが出ていましたが、1ヶ月伸びてしまったようです、申し訳ありません)。
 すでに、この連載でも何度か触れてきたのですが、改めて説明すると……。

 『ウォーハンマーRPG スターターセット』にはウォーハンマー世界に生命を吹き込むために必要なすべてが収められている。
 初めて遊ぶ場合でも、次なる叙事詩的キャンペーンを準備中という場合でも、
 このボックス・セットは『ウォーハンマーRPG』に心惹かれるすべての人にとって最高の出発点となる。

 内容物:
 「これを最初に読むこと」導入シート
 作成済みの、すぐに使えるキャラクター6人
 アドベンチャー・ブック
 ユーベルスライク・ガイドブック
 ルールサマリー・シート3枚
 ハンドアウト・シート3枚
 優位トークン49個
 詳細極まる地図4枚
 Qワークショップ社(ポーランドの著名ブランド)による特製ダイス2個
 簡易ゲームマスター・スクリーン1枚(ボックス裏面)

 ……上記のような内容となります。
 一般的にボックスタイプのゲームの生産は難しいことから、いま英語版の実物を取り寄せると、びっくりするような値段がかかってしまいかねないのですが、日本語版は入門セットということから、コストは3000円+税と、可能な限り抑えめに設定されています。
 オリジナルを忠実に翻訳し、しかし、必要な訳注や解説は添える形で、プレイアブルになっています。
 ちなみに、『ウォーハンマーRPG』日本語版公式サイトでは、ゲームマスター・スクリーンの発売予告も出ています(http://hobbyjapan.co.jp/whrpg/)。こちらは私が翻訳に直接噛んでいるわけではなく別チームの仕事ですが、どうぞ愉しみにお待ちください。

 『ウォーハンマーRPG ゲームマスター・スクリーン』は、内側にウォーハンマーRPGの重要なルールの要約や予期せぬ出来事に対応するための諸表が、外側にはオールド・ワールドの荒れ狂う都市の息を呑むようなアートワークが記されたゲームマスター向けのスクリーンである。
 スクリーンを用いることで、プレイヤーの詮索好きな目から彼らの前に待つ厄介な冒険の筋道を隠しておくことができるだろう。

 『スターターセット』に出てくるサンプル・キャラクターについては、本連載のVol.3(「FT新聞」No.2946)で解説しましたので、そちらをご覧いただければと存じます(https://analoggamestudies.seesaa.net/category/27608570-3.html)。
 今回は、それ以外のパートも紹介していきましょう。 

●『スターターセット』のメインとなる2冊

 『スターターセット』の「これを最初に読むこと」導入シートでは、『ウォーハンマーRPG』の世界観が小説のように綴られ、観音開きのシートを開けると、セット内の解説が記されています。
 なんといっても柱となるのは、2冊の本。旧版やミニチュアゲームをやり込んでいる人にとっても、必ずや有用なガイドとなるに違いないものです。
 もちろん、基本ルールブックから広がる「次の一作」としても最適です。ルールブックにはシナリオが付属していないのは――公式サイトからダウンロードできる「流血の夜」でもカバーできますが――それとは別に「巡回奇譚」をプレイするのでも面白いでしょう。

 「アドベンチャー・ブック」は、初心者から熟練者までのあらゆるプレイヤーを、ユーベルスライクというロールプレイの豊穣の舞台に招き入れる。初心者は入門用アドベンチャーを体験することで、ゲームのルールを楽しみながら習得できる。また、熟練者向けに10本のシナリオが別途収められてもいて、初めての場所や新顔のキャラクター、そして未知なる恐怖によって君の「ウォーハンマーRPG」のゲーム世界を広げることができる。

 さらに「ユーベルスライク・ガイドブック」では、ユーベルスライクの血塗られた歴史と近年の紛争が彩り豊かに描き出される。渦中の町中の70箇所を上回る地所や、周辺諸領について詳述するだけでなく、地域一帯で跳梁跋扈する暗黒教団の数々をも紹介するものとなっている。

 「アドベンチャー・ブック」のメインは、「巡回奇譚」と題された5幕構成のシナリオです。3〜5回にほどに分けてゆっくりプレイするのもよし、細部をアレンジしつつ1回で完走を狙うのもよし。
 『ウォーハンマーRPG』ならではの冒険ですが、シティ・アドベンチャーに必要なもろもろの要素が贅沢に盛り込まれていて、飽きの来ない作りになっています。

●ルールサマリー・シートには何が書かれている?

 ルールサマリー・シートは、能力値と技能の解説、テストの解説、戦闘の解説、状態の解説、負傷の解説、エンパイアとユーベルスライクの解説がまとめられた簡易シートで、プレイヤー側に置いておくと、使いやすいでしょう。ゲームマスターは「アドベンチャー・ブック」を読んだあとで、このルールサマリー・シートを読むと、理解が進むと思います。
 基本ルールブックを持っている場合、あらかじめ簡略化されたルールサマリーをベースにするか、基本ルールの方を使うか、プレイグループの習熟度に応じて方針を統一しておくと、アプローチがしやすいことと愚考します。

●ハンドアウト・シートはユニーク

 ハンドアウト・シートはユニークな内容です。『クトゥルフ神話TRPG』(『クトゥルフの呼び声』)でのハンドアウトとは、シナリオに登場する日記や手紙などを、探索者(プレイヤー・キャラクター)にわかりやすいよう手渡すためのものでした。
 マテリアルとしての雰囲気(筆跡、血痕や破れ目の演出、etc……)が出せるばかりではなく、シナリオの謎を推理していくための手がかりにもなるのです。
 また、昨今はハンドアウトというと−−国産RPGに限らず、海外RPGにも出てくるのですが−−シナリオに応じてGMから与えられた裏設定、ということを意味します。
 今回のハンドアウトは、どちらかといえば後者に近いのですが、精確にはどちらにも分類しきれない部分があります。
  というのも、パーティが合流する前に把握していた噂が、複数書かれている、という類のもので、シナリオ・ヒントとロールプレイの題材の中間なのです。
 そのなかには、シナリオのヒントとなるものもあれば、そうではないものもあります。いずれにせよ、ユーベルスライクの街やエンパイアを理解にするための助けになるものではありますが。
 画期的なのは、形骸化しがちな出会いのシーンが、このハンドアウトというギミックによって新鮮なものとなることですね。何より世界とキャラクターを序盤から自然に一体化させることができる、優れたギミックだと思います。

●優位トークンとダイス、地図

 これは『ウォーハンマーRPG』第4版独自のルールである、「優位」をカウントするためのトークンで、キャラクターごとに6個、GM用に13個が用意されています。第4版では、とにかく優位を積み重ねていくのが戦略として大事なので、トークンはあればあるだけ便利です。ぜひ、活用してください。

 それと10面体ダイス。10面体ダイスが同梱されたボックス・ゲームというと、ツクダホビーのボックスタイプRPGをつい連想してしまいますが、ダイスはポーランド製の高級品。いわゆるツクダ・ダイス(カットの仕方が異なる10面体ダイス)とは違います(笑)。
 余談ですが、私が最初にGMをしたRPGは小学校高学年でプレイした『ロードス島戦記コンパニオン』なのですが−−これも10面体ダイスを使って%を出すゲームという意味では『ウォーハンマーRPG』に通じるところがありますが−−当初はダイスの確保に悩み、「さんすうセット」のなかに入っていた10面体ダイスを使っていましたが、これがツクダ・ダイスだった、ということを思い出しました(笑)。

 地図は「詳細極まる」という形容が伊達ではないほどの内容。見事です。
 期待していてください。

●『ライクランドに冒険あり!』も出たぞ!

 『スターターセット』に先んじて、またPDFサプリメント『ライクランドの建築』へ向こうを張るかのように、『ライクランドに冒険あり!』が日本語版公式サイトで、無料ダウンロード可能になっています(http://hobbyjapan.co.jp/whrpg/pdf/WHRPG_AAR_JP0531.pdf)。
 これは、英語版が無料でPDFファイルがダウンロード可能になっていたものの全訳です。内容としては、ルールブックの世界設定パートを補完するシナリオソース集となります。

 このPDFファイルで提示されるアドベンチャー・フックはGMが『ウォーハンマーRPG ルールブック』の「第10章:壮厳なるライクランド」に記載された場所を用いてオリジナルのアドベンチャーを自作するためのアイデアと、全体を通じてライクランドに関するいっそう詳しい情報を与えてくれる。
 アドベンチャー・フックごとに使いやすそうな場所が太字で記載されているが、必要に応じて気楽に場所を変えたり中身を変えたりしてもかまわない。

 ……という内容なんです。全10ページで、それぞれルールブックの各項目に対応するようになっています。
 いずれのアドベンチャー・フックも奇想天外、自力で思いつかないようなぶっ飛んだギミックばかりです。
 しかしエンパイアならば「ありそう」と思える内容、絶妙なバランス。
 ゲームマスターは必読ですし、あくまでもフック集ですから、世界観を深く知るための参考としても活用することができるでしょう。
 読者の「鋼の旅団」さんは、とりわけ「イカれたレース」「ワインと幽霊」「ワイン祭り」「大空の目」「サウンド オブ ミュージック」に刺激を受けたと教えてくださいました。
 あなたはどれが気に入りましたか?


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2021年07月16日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12


 2021年7月15日に配信された「FT新聞 No.3095」に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12」が掲載されています。今回は「ライクランドの建築」発売記念! 同作に取り上げられたロケーションについて、またRPGの電子書籍と紙媒体との幸福な関係について、考察を提示しています。

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12 FT新聞 No.3095
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.12

 岡和田晃
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 肉だけでは足りない。わたしはヘルベルト・ハルツァートの"ひと味違う"チーズの店へと出向いた。
 ここは「ユーベルスライク最高」を謳ってはいるものの、ライバルになるチーズ店が街のなかに、それほどあるわけではない。
 ただ、客への目配りはきいていて、エンパイア産の硬質なチーズと、ブレトニアの"お上品な"チーズの両方が売られている。
 フレイザーはくんくんと臭いを嗅ぎ、店主のヘルベルト・ハルツァートに、間口に見合った税はきちんと収めているか、混沌に汚染された商品を扱ってはいないか、と、魔狩人らしい執拗さで根掘り葉掘り聞き出そうとしている。
 しかし、ブレトニアのにおいは懐かしい。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●「ライクランドの建築」が出たぞ〜!

 2020年9月末に『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』(第4版、ホビージャパン)が発売されてから9ヶ月ほどが経過しました。
 『ウォーハンマーRPG スターターセット』に先駆けたサプリメントの第1弾として、7月頭、皆さんのお手元に「ライクランドの建築」をお届けすることができました。おかげさまで、あちこちで話題になり、大変な好評を集めています。
 「ライクランドの建築」はPDFオンリーのサプリメントで、第4版のホーム地域であるライクランドに存在する各種の建築物について、解説するものです。
 こういうコンセプトの資料は、それこそ初版の頃からありました。お持ちの方は、初版ルールブック日本語版の分冊3の付録1に、「オールド・ワールドの建築物」として、よくある建物の設定と地図が紹介されているのを確認することができるでしょう。
 今回邦訳されたのは、その第4版バージョンとなります。PDFファイルで15ページのハンディなサプリメントですが、フルカラーで見栄えがよく、またオンラインセッションにも使いやすいスグレモノだと思います。
 それこそT&Tや『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』など、別のシステムにも応用することも簡単です。

●「ライクランドの建築」内容紹介

 内容は、商業建築、住宅、宿屋と酒場、公共建築、宗教建築と大別されます。目次にまとめれば、以下の通りとなっています。ひとこと解説を加えて紹介してみましょう。
 これらの設定は、西洋史の専門文献を渉猟しても、なかなか実運用可能なまでに洗練を見せているものは少ないため、手間暇を考えれば、このサプリメントを買ったほうが早いといえます。

・商業建築
 商店
  ヘルベルト・ハルツァートの"ひと味違う" チーズの店
 →ユーベルスライクの街で最高を謳うチーズ店。地上3階、地下1階。お家騒動や、"婚活"にまつわるシナリオソース付き。

 倉庫
  オルデンハラー倉庫
 →初版の付属シナリオ「オールデンハラーの契約」の舞台はナルンの街でしたが、こちらはアルトドルフのライクフォード地区の埠頭にある、2階建ての倉庫について。見張りについてのシナリオソース付き。

・住宅
 農場
  リンブルク農場
 →農場の広大な敷地がまるごとマップに。GMにとっては、ビーストマンやグリーンスキンに襲撃させるのに最適です。シナリオソースにはそれ以外の、ミステリ小説風のものもあります。

 都市住宅
  "後家女将" ハークルの下宿屋
 →アルトドルフの富裕層の地区、ゲルナー丘地区に建つ下宿屋。地上4階、地下1階。定番(?)の、地上げにまつわるシナリオソースも! オールド・ワールドで『めぞん一刻』をやってみたらどうなるのでしょうか……!?

・宿屋と酒場
 馬車宿
  〈飛びかかるペガサス〉亭
→アルトドルフからベーゲンハーフェン沿いにある馬車宿。街道巡視員も駐在しています。第4版日本語版の公式サイトから無料ダウンロードできるシナリオ「流血の夜」もそうでしたが、馬車宿というのは定番中の定番なのです!

 酒場
  〈太鼓と帽子〉亭
 →こちらはシグマー広場のそばにある、市中のタイプの酒場ですね。自前のエールを売り物にするのではなく、他の醸造所の造ったエールを売りにする、ソムリエ・タイプのお店なのが面白い。

・公共建築
 閘門式運河
  ハーツクライン閘門と閘門管理人住宅
 →閘門は「こうもん」と読みます。運河の水位を調整するための施設です。河川巡視員の出番ですよ〜! 他のファンタジーRPGにはあまり出てこない設定かもしれませんが、ぐっと中近世らしくなります。

 信号塔
  信号塔 NG-163-HY
 →古代から近世にかけて、いわばインターネットの代わりになるのが、この信号塔です。円形の4階建て。難解な暗号を送り合って必要な通信を行う施設です。

 料金所
  プフィーファー料金所
 →通行税を徴収するための施設です。GMにとっては、街道のあちこちに設置させたくなること請け合い!

・宗教建築
 シグマ−神殿
  ヴァーレン神殿
 →シグマー神殿は専用のサプリメントが、『ウォーハンマーRPG』第4版対応のPDFサプリメントとして発売(未邦訳)されているのですが、典型的な神殿の例が収められています。魔狩人の拠点として便利ですね。

 辻の祠
  ディースドルフの石舞台
 →シグマーはエンパイアの主神のために一神教的なイメージですが、こちらは地母神リアの祠。より異教的なイメージですね。それこそ『ドラゴンクエスト3』に出てくるような「ほこら」として運用できそうです。

●PDF販売という画期的な試み

 「ライクランドの建築」は原書で5ドルだったもので、日本語版は700円にて、コノスからダウンロード購入ができるようになっています。ライセンス料、翻訳料等のもろもろを加味すれば、ほぼ世界標準の価格で購入ができるという流れですね。
 また同時に、基本ルールブックもダウンロード販売が開始されました。
 画期的だったのは、これらが特定の電子ブックリーダーに依拠しない、PDF形式の販売になっていること。
 また、画像取り込み形式ではないため、検索も可能です。ふだん読む時は印刷版のルールブックを参照し、キーワードで調べたい場合にはPDF版を使う……という併用も可能でしょう。妖怪帽子さんがTwitterで示しておられたのですが、ルビについても、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"は、「禍ルイナス・パワーズつ神々」で検索すれば引っかかり、「ルイナス・パワーズ」で検索すればルビ単体もヒットします。

●日本における海外RPG電子版の流れ

 海外RPGの電子版は発売までのハードルが高く、また紙の本に比べて、まだまだ売上が伸びづらいため、また海賊版への対応が難しいことから、日本でもあまり普及はしてきませんでした。
 もちろん、10余年前には、『ロールマスター』日本語版のPDF版(ICE JAPAN、2008〜09年)や、汎用ワールドセッティング『ハーンワールド』(日本語版はサンセットゲームズ、2006年)を『ロールマスター』の簡易版たる『HARP(ハープ)』(日本語版の『HARP LIGHT』は、2008年)でプレイできるようにしたガイドブック『HARP HARN GUIDE』が、コロンビア・ゲームズのサイトからダウンロードできるようになっていました(いずれもICE JAPAN、現在は終了)。
 また、『パラノイア』シリーズの日本語版(ニューゲームズオーダー、2014年〜)は、当初から電子版に力を入れ、関連作品は電子版も売られています。『スケルトンズ』(ハロウ・ヒル、2018年〜)等のハロウ・ヒル作品も電子書籍と紙媒体を連動させる試みをなしています。クラシックD&Dベースのミニマムながらも整理のよいシステム『ザ・ブラック・ハック』は著者のサイトで日本語版が無料公開されていますし(2016年)、近年ではDrive Thru RPGのようなRPG関係のPDF販売サイトで購入可能なインディ・ゲームも散見されますが、それでも歴史と伝統のあるビッグゲームのPDF版が日本で大々的に展開されるというのは珍しいことだというほかありません。

●電子書籍のデメリット

 製作サイドにいる皮膚感覚としては、電子書籍と紙媒体での書籍は、モノとしての「所有している」という感覚に大きな違いが出るためか、そもそもの市場規模として比較にならないというのが現状です。
 また、紙媒体であれば、絶版になっても古書店や図書館を丹念にあたれば、現物にアクセスすることが可能になっていますが、電子版はいったん供給が止まると、現物にまったく当たれなくなるというデメリットもあります。
 これはゲームに限った話でもないのですが、紙媒体の耐用年数は一般に50年ほどと言われます。100年前の資料でも、さほどの問題なく現物を読むことができるものも少なくありません。
 また、電子書籍版は紙媒体よりも、ずっと非公認の海賊版を作成するのが容易です。なにせ、印刷の手間が省けるわけですから。
 海賊版対策については、英語圏でも古くから悩みの種となっているところで、実際にD&D第4版は海賊版対策として、長年、電子版の販売が停止されていました。
 コノスから販売されているPDFは、特定の電子ブックリーダーのサービスが停止したら読めなくなる、といった類のものではなく、PDFなので普通に読むことができるわけですが、購入時に電子透かしを入れることで、海賊版対策はなされている、とのことでした。売り方によって、できるだけ、モノとしての所有に近い感覚を出そうとしているわけです。
 
●電子版RPGは共有できてナンボ!?
 
 他方、電子書籍は便利だからと、プレイグループの間では共有できてしかるべき、という考え方があるのも確かです。
 私が画期的だと思ったのは、東南アジア風のオリエンタル・ファンタジーRPGの泰斗である『ブルーフォレスト物語』がグランペールから復刻したとき(2008年)、本文の内容をすべて収めたCD-Rが付属していたことです。これはGMのセッションを円滑に進めるために、一部のデータをプレイグループで共有することが、デザイナーの伏見健二氏によって正式に許可されていました。
 ただし、著作権を放棄しているわけではありませんので、データをそのままネットにアップしたり、勝手に製本して販売したりするのはNGなわけですが、それでも電子版のRPGがほとんどなかった時期には、なんとも大胆で、かつ先駆的な試みでした。
 ここでもう一つ着目してほしいのが、ポストヒューマンSFホラーRPG『エクリプス・フェイズ』(新紀元社、2016年〜)です。これはCreative Commonsの「BY(表示)−NC(Noncommercial、非営利)−Share Alike(継承)」が付いています。つまり、『エクリプス・フェイズ』関連のクレジットを添えたうえで、非営利であれば、作品を改変・変形・加工してできた作品についても、元になった作品と同じライセンスを継承させた上で頒布を認める。
 極端な話、非営利であれば、ルールブックを全文印刷して配布してもかまいません(印刷代はかさみますが)。これはオリジナル・デザイナーの意向により、「Role&Roll」に連載されている日本語でのサポート記事も、すべてそうなっています。
 また、ネットマガジン「SF Prologue Wave」上での何十もの『エクリプス・フェイズ』シェアード・ワールド小説も、Creative Commonsを利用して行われています。
 
●ルールブック未所持問題の解決
 
 ネット上のRPG関係の議論は、過去の議論の蓄積が共有されないためか、しばしば堂々めぐりの様相を呈します。思い返せば、今ほどネットが普及していない頃から、自前でルールブックを買わないプレイヤーはしばしば散見されました。それで自前でシステムを作ってしまう人もいましたので、一概に悪いと言い切れない部分もありますし。そもそも同調圧力でルールブックを買うように仕向けるのも、どこか間違っている気がします。

 私の信条は、RPGは「文学」である、というものです。その作品世界を自分のクリエイティヴィティの一部とするため、つまりルールや背景を読み込むためにルールブックを購入する必要があるので、ルール未所持のゲームをプレイする気持ちにすらなれないタイプのゲーマーなのですが……人によってゲームをどこに位置づけるかは異なってきます。
 こうした状況のエレガントな解決方法として、『エクリプス・フェイズ』の大胆な挑戦は、もっと着目されてよいでしょう。ルールブック未所持問題がいやなら、『エクリプス・フェイズ』をプレイすればいいのです。これは冗談ではありません。

●うまく併用していこう

 さて、『ウォーハンマーRPG』に立ち返ってみれば、PDFで発売されていた作品をまとめてハードカバーで書籍化する、連作シナリオの1話目のみを無料にする、追加魔法(カード含む)をPDFによる薄い追加サプリメントとして発売するなどの試みをしており……それ自体として新規性があるわけでは必ずしもないのですが、「内なる敵」キャンペーンのリヴァイヴァルを含む、大型サプリメント群の刊行ペースがきわめて早く−−あるいは旧版とクリエイターが重複しているために、さほど大きなイメージ変更もないゆえにか−−かなり柔軟な印象を与えるのに成功しているように思えます。
 いずれにせよ、ウイルス禍のなか、それまでオフライン・セッションが専門だった層も、オンラインに進出せざるをえなくなった状況において、電子版の必要性は、かつてよりもいっそう増しているのが現状です。
 つまり、うまく紙媒体と電子媒体を使い分け、共存させていくことができるのかが、今後のRPGシーンを占うのは間違いないわけで、『ウォーハンマーRPG』第4版日本語版は、そのための試金石になるのかもしれません。


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2021年07月04日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11


 第4版ルールブックのPDF版、新作の発売と話題沸騰中ですが、2021年7月1日配信の「FT新聞」No.3081に「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11」が掲載。オウガの解説です。新作「ライクランドの建築」に出てくる建物をオウガに守らせ、あるいは襲撃させましょう!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11

 岡和田晃
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 わたしはユングフロイト家の周辺を探ることにした。
 魔力の風を感知されたら困るので、なるべく魔法を使わずに、あの手この手を使うのだ。
 わたしはフレイザーを連れて、うらぶれた肉屋へ赴いた。そこで、たたき売りされているクズ肉を能う限り買い漁る。
 そして、“くしゃみだらけでぶっ飛んだ”亭と看板が出ているスパイス店に行く。ここのオーナーはハーフリングで、オウガたちの好みを知り尽くしている。
 買った肉を味付けしてもらうわけだ。肉から向こうに任せることもできるが、ここぞとばかりにふっかけられてしまうので、食材はこちらで用意するに越したことはない。
「なあ、この肉は何に使うんだ?」
 フレイザーが勘の鈍い質問をしてくる。
「決まっているでしょ。オウガの衛兵たちに食べさせてやるのよ」
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●オウガ! オウガ! オウガ!

 オールド・ワールドのクリーチャーについて、これまでスケイヴン、グリーンスキンと解説してきましたが……それ以外にも他のファンタジーRPGお馴染みのクリーチャーが、『ウォーハンマーRPG』では登場します。
 ――ずばり、オウガやトロールです!
 オウガ(Ogre)は、ゲームによっては「オーガ」、「オグル」などと訳されてきました。日本におけるRPG黎明期の代表的な解説書である早川浩『RPG幻想事典』(ソフトバンククリエイティブ、1986年)では、「オグレ」というユニークな訳語が当てられていたのが印象深いところでした。
 D&D系列のゲームでは、ゴブリンやオークよりは強いもののトロールやジャイアントには劣る、いわば中級レベル帯の代表的な敵役として登場します。
 クラシックD&Dは、モンスターを狩っても獲得できる経験点はそう大したものではなく、頭を使って宝を得て初めて、充分な成長ができるだけの経験点が得られるというシステムでした。大抵のクリーチャーは、ねぐらにお金を溜め込んでいるわけで、ワンダリング・モンスターとして出逢うような連中はろくな宝を持っていないものが常なのですが……オーガの場合は、大金をもってウロウロしているので、恰好のターゲットでした。昔話や伝承の「人食い鬼」がオーガの起源と思われますが、これでは、どちらが悪どいかわからない。
 そんなオウガは、『ウォーハンマーRPG』では独特の立ち位置を与えられています。独自の思想をもっていて癖があるものの、頼りになる用心棒、何よりもグルメなのです!
 第4版のルールブックでは、オウガは以下のように説明されています。筋骨隆々ですが暴力的で、常に腹を減らしている。基本的には力こそ正義。そして……。

 はるか東の土地からわらわらとやって来たオウガたちは、常に地平線の果ての新たな肉を狩るべく放浪を好むことから、オールド・ワールドでごく普通に見られる。数十年に渡る食料探しの旅を経て、彼らは次の肉にありつく可能性がより高そうな方法として、地元の服を着て、彼らが理解する地元の風習に従い、その地に融け込もうと熱心に働くようになる。

 そう、意外なことに、人間(やデミヒューマン)の社会に溶け込んでいるんですね。扱いやすいとは到底いえませんが、それでも美味しい食べ物を与えていれば文句は言わない。領邦軍における壁役、いかついので用心棒としてもピッタリです。

●オウガとハーフリングは仲良し

 オウガはとりわけハーフリングとは――意外に思われるかもしれませんが――大の仲良しだったりするのです。第4版のルールブックでも、特段にコラムを設けて、両者の関係は解説されています。オウガはハーフリングのために、安価で頑丈な労働力を提供する。逆にハーフリングは料理の腕前を生かした料理人として、とびきりのごちそうを振る舞う。そういったWin-Winな関係が成り立っている、というわけです。しかし残念なことに、しばしばハーフリングの料理よりもハーフリング自身のほうが美味しい、という展開にもなってしまうこともあるようですが……。
 ハーフリングが料理好きというのは、『指輪物語』や『ホビットの冒険』のイメージが応用されていますね。ただ、『ホビットの冒険』に出てくるトロールのイメージは、『ウォーハンマーRPG』や他のファンタジーRPGではオウガとトロールへ、区分される形で踏襲されているのではないかと思えてなりません。それどころかオウガとトロールはしばしば対立し、第4版のシナリオソースとして英語で公開されている無料PDF「ライクランドに冒険あり!(Adventure Afoot in the Reikland )」では、オウガの料理人がリバー・トロールの肉を求めるという、奇妙なシチュエーションのシナリオソースが収録されています。


●奇書「エンパイアのオウガ」

 『ウォーハンマーRPG』第2版では、「エンパイアのオウガ」というウェブエンハンスメントがありました(訳:鈴木康次郎、チェック:阿利浜秀明、岡和田晃)。これはもともと、英語ではBlack Industriesから『ウォーハンマーRPG』第2版が出ていた時分にダウンロードが可能だったものです。ちなみにBlack Librariesというのが、〈ウォーハンマー・ノベル〉を専門で出版している版元のことですね。第2版の日本語公式サイトは閉鎖されていますが、Web Archiveには残っているため(https://web.archive.org/web/20170623035746/http://hobbyjapan.co.jp/wh/dlfiles/empire_ogre.pdf)、そちらで読むことが可能です。
 「エンパイアのオウガ」は純正品というよりも、かつて第2版の公式サイトで私の翻訳で公開されていた「ライク川にかかる橋」のように、ファン・マテリアルだったものです。とはいえ、筆頭製作スタッフは『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・デザイナーの一人、アンディ・ロー氏であり、雑誌で言えばファンジンというよりはセミプロジンに近いものでしょう。
 なのに、必ずしも公式だと銘打たれていないのは、まずはオウガをパーティに入れると、バランスが大きく崩れかねないから。『ウォーハンマーRPG』が面白いのは、バランスが崩れる、というのに2つの意味があることです。1つは戦闘バランス。一般的にオウガは、ドワーフよりも打たれ強いですからね。もう1つは社会的地位ですね。オウガはドワーフよりも、社会的地位が低い、つまりエンパイア社会において、充分に受け入れられてはいない、ということなのです。
 かように癖があることを前提とすれば、オウガをPCとすることは、なかなかユニークです。オウガ・キャンペーンすら可能であり、私自身。スケイヴン・セッションにオウガPCを織り交ぜるという離れ業を試してみたことすらあります。


●オウガの奇妙な背景

 「エンパイアのオウガ」の基本設定は、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』のアーミーブック「オウガ・キングダム」の設定を拡充させたものとなっています。オウガは“大アゴ様”という神を崇めていますが、これはワープストーンの彗星(!)によってあけられたクレーターのこと。複雑な哲学や芸術は理解できませんが、それを補って余りあるほどにパワフル。内面の懊悩とは無縁。しかし、混沌の生き物ではない(混沌への特別な耐性はない)。それがモブではなくプレイヤー・キャラクターにできるのですから、最高ですね。ロールプレイの腕前も試されるというものです。
 「エンパイアのオウガ」のQ&Aでは、オウガとハーフリングが、同じ遺伝材料で“旧き者”から創造されたと、衝撃の事実がさらっと明かされています。この“旧き者”というのは、初版では“オールド・スラン”と訳されていた太古の存在ですね。
 そして、オウガとハーフリングの関係は、『指輪物語』や『シルマリルの物語』におけるオークが、堕落したエルフとして位置づけられていた(もともとは同じ種族である)という設定を彷彿させます。
 こうした背景を、実際にセッションに取り入れるのかはGM次第でしょうが、キャンペーンの合間に仄めかしておいたりすると、ぐっと奥行きが増すだろうと思います。第4版では、アルトドルフの警護など、NPCとしてオウガは使われることが奨励されているようですが、クリーチャー・データのテンプレートは、数値的にアレンジすることもできるとコラムで解説されています。「エンパイアのオウガ」のデータは第2版ですが、身体的特徴の決定表や命名表は、そのまま第4版にも使えてしまうでしょう。


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2021年06月25日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.10

 2021年6月17日配信の「FT新聞」No.3067に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.10が掲載されています。スケイヴンの話題の続きから、グリーンスキンへ。『ヒーロークエスト』、ハーミットインについても触れています。きみはスノットリングを知っているか?!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.10

 岡和田晃
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 わかった。ユングフロイト家は、悪魔術の使い手のために「愚者の石」ことワープストーンを探し求めている。
 魔法の触媒に使えるし、それを使って鼠人間どもとも取引ができる、という寸法だ。どちらに転んでも損はしない。しかし、混沌は着実に世を穢しゆくことになるが……。
 精鋭の下水道調査隊長に率いられた調査隊員でもない限り、ここユーベルスライクの下水道を隅から隅まで探索し、奴らを根絶することなどできはしない。
 それどころか、見たこともない精度のワープストーン・マスケット銃で撃ち抜かれるのが関の山だろう。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●ワープストーン兵器!?

 スケイヴンについては、いくらでも語れる!
 これ、『ウォーハンマーRPG』のみならず、オールド・ワールドに“生きる”人であれば、誰しもの同意を得られるのではないかと思います。
 とはいえ、実際のセッションでどうスケイヴンを運用するのかは、GMのセンスが問われるところなんですよね。
 連載の前回をお読みになった「鋼の旅団」さんからは、「今回は、鼠とワープストーンでしたね。私も以前、どうしても敵のボスにチェーンソーを持たせてPLに恐怖を植え付けたかったので、考えた末に動力をワープストーンにしたことがあります。鼠は、ミ〇キーやマイティマ〇スに走ってしまうので、自制の意味でほとんど使わなかったんですよね〜。」というコメントを頂戴しました。
 確かに、私も『ウォーハンマーRPG』第2版の『スケイブンの書』を作って、「暗黒ガンバの冒険」と銘打った酷いシナリオをGMしたことがあります(笑)。
 チェーンソーの動力をワープストーンというのは、トビー・フーパー監督の名作ホラー映画『悪魔のいけにえ』(1974年)を彷彿させますね。
 ワープストーンを動力というと、知らない人には突飛に見えるかもしれませんが、『スケイブンの書』には、ワープロック・ピストル、ワープロック・ジャザイル、ワープファイアー・スロワー、ワープパワー・アキュムレーター急速充填型、ワープ・エネルギー・コンデンサー改といった、ワープストーンを使ったアイテムも紹介されており、それらを扱うのが得意なスクリール氏族やウォーロック・エンジニアというキャリアも設定されているほどなのです!
 出版されたばかりの第4版のシナリオ『角ありし鼠(Horned Rat)』(未訳)でも、鼠大隊長(クラン・チーフテン)、魔道技術鼠(ウォーロック・エンジニア)等のデータが追加されており、前述のものに加えて、さらにはワープロック・マスケット銃(!)なんて2版になかった武器までデータ化がなされています。

●スケイヴンか、グリーンスキンか?!

 また、あーるじぇい@owljeyさんからは、「知恵あるネズミ人スケイヴンの特集。自分もAFFでスケイヴンのテロリストから街を守るシナリオを作ったことがあったけど、使い勝手のよい連中!オーバーテクノロジも変異体も許容しちゃう。「スケイヴンの書」欲しいなあ。」というコメントをいただきました。
 『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』(AFF)で、スケイヴンを出したという興味深い証言でした。
 そう、スケイヴンみたいな悪役は、意外にも詳細に設定されていないので、他のシステムへの導入も楽なのですね。
 ただ、ワンダリング・モンスターとして登場させ、プレイヤー・キャラクターたちを襲わせるのなら、別にクリーチャーではなく、ならずものたちに襲撃させればいいわけで、そのほうがよっぽどオールド・ワールドらしくなります。あーるじぇいさんはそこのところをよくおわかりで運用されたことがわかりますね。
 あるいはグリーンスキン。スケイヴンと人気を二分するクリーチャーですが(異論は認めます)、『ウォーハンマーRPG』第4版では、オーク、ゴブリン、スノットリングの3種類が紹介されています。
 ゴブリンについては説明不要でしょう。単体では脆弱ですが、徒党を組むと勢いを増すところは、スケイヴンに似ています。
 地上や野外での戦闘はゴブリン、地下での戦闘はスケイヴン……などと使い分けるとよいでしょう。
 『ウォーハンマー オンライン』日本語版が稼働していた時には、待兼音二郎氏の訳で、「チョッパの物語: ひとつかみほどのチョッパども 第一章「棒と石と」、第二章「モルクさまのお言葉」が公開されていたのですが、サービス終了とともに読めなくなっているのが残念です。グリーンスキン側に視点を当てたのがユニークな小説で、それこそT&Tのヴァリアント『モンスター! モンスター!』(グループSNE、2019年)にも通じる、「逆転の発想」で書かれているものと思います。
 ただ、同じく待兼音二郎氏が翻訳に参加しているウォーハンマー・ノベル『渾沌のエンパイア』(ホビージャパン、2008年)でも、グリーンスキンとの戦闘は描写されておりますので、ぜひ入手できるうちにゲットしておくのがよいでしょう。

●「嫌悪」と「憎悪」

 それでは、『ウォーハンマーRPG』におけるオークやゴブリンは、他のファンタジーRPGとどう違うのでしょうか?
 まず、ドワーフはゴブリンと犬猿の仲で、灰色山脈の洞窟で終わることなき抗争を繰り広げています。
 これはルール的には「嫌悪」や「憎悪」という形で表現されています。
 「嫌悪」というのは心理特徴の一つで、「嫌悪」の対象となるクリーチャーを目撃すると、〈冷静さ〉でテストをせねばならず、失敗するとそいつらを攻撃してしまうんですね。ただ、この時の攻撃というのは物理的な攻撃に限らず、罵声を浴びせるとか嫌がらせをするとか、そういったものでかまわないわけです。
 そして、「憎悪」という心理特徴は、いわば「嫌悪」の上位互換。「憎悪」している対象を見て〈冷静さ〉のテストに失敗すると、やむにやまれず皆殺しにしたくてたまらなくなるわけです。
 ゴブリンは「嫌悪(グリーンスキン)」の特徴を持っており、かつ、選択次第で「憎悪(ドワーフ)」を持つことになります。
 グリーンスキンとは同族なので、同族同士は絶えずいがみあい、しかしドワーフを見かけたらやむにやまれず襲いかかる……といった特性が、うまくルール的に表現されているというわけですね。

●オークの方がゴブリンよりも強い!?

 ところで、わりと見過ごされやすいところでは、オールド・ワールドでは、ゴブリンよりもオークの方が体格は大きく、データ的にも強力です。
 数はゴブリンよりも少ないのですが、そのぶんボアー(猪)に乗って突撃を仕掛けてくるなど、多彩な攻撃手段をもっています。
 また、『ウォーハンマーRPG』第4版では特に表現されていませんが、とりわけ『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』においては、オークはチョッパと呼ばれる、鉈のような武器を好んで使うことでも知られています。
 このあたりはゲームズ・ワークショップの自社ブランドであるシタデル・ミニチュアでうまく表現されていますね。あるいは、ミニチュア映えがするということで、生まれた設定なのかもしれません。

●ハーミットインの挑戦

 『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』は1990年代中盤〜後半から日本に本格紹介されました。ゲームズ・ワークショップ・ジャパン初代代表の籾山庸爾氏で、ブックレット『趣味人への道』は、とても優れた入門書でした。
 現在、籾山氏はオールドスクール・ファンタジー・ミニチュアのブランドである「ハーミットイン」(https://hermitinn.theshop.jp/)を経営しておられます。
 私もよく利用しますが、アザーワールド・ミニチュア、ラルパーサ・ヨーロッパ、リーパー・ミニチュアを、独自のセレクトによって輸入・販売しておられ、籾山氏の「哲学」がにじみ出た運営スタイルを含めてお勧めできます。
 私がお気に入りのブランドは、アザーワールド・ミニチュア。AD&DやクラシックD&Dをリスペクトしたクリーチャー造形が素晴らしく(蜘蛛の女王ロルスにそっくりのミニチュアもあります!)、AD&Dの『プレイヤーズ・ハンドブック』の表紙すら再現されているほどで、この泥臭さこそがファンタジーの淵源だと思う身にはピッタリで、眺めているだけで創作のイマジネーションが湧いてくるほどです。
 ハーミットインでは、これらのミニチュアをコレクションし、あるいはペイントするだけではなく、実際にそれを使ってソロプレイのミニチュア・ゲームが愉しめるよう、『デス・オア・グローリー』というオリジナル・ゲームも製作・販売されています。基本ルールとクエストモジュールが2つ、すでに出版されていますよ。

●『ヒーロークエスト』と『バトルマスター』

 ゲームズ・ワークショップ・ジャパンの設立前には、新和版D&Dの翻訳監修者だった故・大貫昌幸氏らのORGが、シタデル・ミニチュアを輸入・販売していました。「ウォーロック」や「オフィシャルD&Dマガジン」誌等に広告が出ていたので、ご存知の方も多いだろうと思います。
 ただ、実は誰もが知っている大手の玩具メーカーから、シタデル・ミニチュアが出ていたことはありました。それは『ヒーロークエスト』。1991〜92年頃にタカラから日本語版が発売された「立体迷宮RPGボードゲーム」で、ダンジョン・タイル、マスター・スクリーンに、35体のフィギュア、15個の家具・宝箱等のミニチュアに、シナリオが入っていて、そのまま入門用RPGとして愉してしまうお得なものでした。
 私は中学生の時、地元のおもちゃ屋に、『ヒーロークエスト』がひっそりと残っていたのを発見し、友人と地元でしか使えない商品券を出し合って共同購入、使い倒したのを記憶しています。
 「ウォーロック」のVol.63(1992年3月)では、『ヒーロークエスト』のリプレイを読むことができますが、近年の英語圏でのゲーム研究においては、それこそ『ヒーロークエスト』のようなボードゲームとRPGの両方の要素を持つ作品群が注目されており、専門の研究書も出ています(Marco Arnaudo, Storytelling in the Modern Board Game: Narrative Trends from 1960s to Today. Jefferson, NC: McFarland, 2018)。
 こちらは未訳ですが、私の参画しているボードゲーム読書会@高田馬場のサイトで、レジュメと討議の音源が公開されていますので、ご興味のある方はご覧ください(https://www.boardgamereaders.com/books/storytelling)。
 ちなみに、1992年には『バトルマスター 伝説の騎士団』という、それこそ『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の入門セットのようなゲームが、野村トーイから日本語版が発売されています。ミニチュア105体を駆使し、野外でのインペリアル軍とカオス軍の戦いを表現するというのですから、そのものずばりですね。こちらについては、私は未プレイなのですが、Rman氏のサイトにプレイレポートがありますので、ぜひチェックしてみてください(http://ror.main.jp/kikaku_battlemaster.htm)。

●スノットリングを忘れずに!

 ところで、オークやゴブリンはいいとして、『ウォーハンマーRPG』第4版には、スノットリングというクリーチャーのデータが収められているのも、見逃せません。これはゴブリンよりもさらに小柄な連中で、ゴブリンよりも数が多く、毒キノコや排泄物などを敵に投げつけるのが大好きな連中です。
 これまた人気クリーチャーで、ウォーハンマー版アメフトともいうべき『ブラッドボウル』シリーズでは、スノットリングの専門チームがあるほどに、可愛らしい奴らなのです。
 友野詳氏の『ウォーハンマーRPG』初版のリプレイシリーズにも、スノットリングは出てくる話がありますから、RPG派の方はそちらを読んでみるのも面白いでしょう。


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