2022年04月21日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.21

 2022年4月21日配信の「FT新聞」No.3375に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.21が掲載されています。新作『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の巻頭シナリオ「“三枚羽根”亭の眠れない夜」や、本日発売「墓穴掘るならご勝手に」が採用している複数プロットのシナリオについて。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.21

 岡和田晃
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 いざ方向を決めると、魔狩人の目の色が変わった。
 シグマーの加護というよりは、動物的な直感としかいえない気がする。
 近くに、混沌がいる。
 私には「魔力の風」が変化するのが見えた。どす黒い「風」だけではない。
 無実の罪で殺された霊魂のようなものが、彼の回りを取り巻いているのだ。
 けれども、魔狩人は悪びれる様子もなく、そのような「尊い犠牲」はやむをえないとでも言うかのように、髪をかきあげ、舌なめずりをした。
 こいつは、自らの正義を確信している。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●「複数の思惑のぶつかり合い?」

 2022年3月末に発売された『ウォーハンマーRPG』のシナリオ集、3冊。
 そのうち『ライクランド綺譚』の概要は、本連載の前回で解説しました。
 引き続いて『眠れぬ夜と息つけぬ昼』を紹介していきたいと思います。
 前回もお話しましたが、このシナリオ集に収録されている作品は、すべてが複数プロットの作品となっています。
 『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の序文では、ベテラン・デザイナーのグレアム(グリーム)・デイビス曰く、
「舞台においては古代ローマ時代から喜劇に必要不可欠であった複数の思惑のぶつかり合い、それによって生まれる狂騒をロールプレイで表現したいと思った」とあります。
 古代ローマの喜劇というとセネカやプラントゥス、テレンティウスの名前を思い浮かべる人もいらっしゃるかもしれませんが……日本の落語なんかでもしばしば見受けられる、「複数の思惑のぶつかり合い」や「すれ違い」から生まれるおかしみが大きなテーマになっていると言えるでしょう。
 単なる群像劇というわけではありません。小説における群像劇が、しばしば作者の考えをたくさんのキャラクターへ断片的に分散させているのに比べ、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』は、一つのシナリオに7本のプロットが存在したとして、それらのなかには交差する内容のものも一部含まれますが、基本的には個々のプロットは独立しており、相互に関わりはありません。
 ゆえに、こう言い換えてもかまわないでしょう。そもそも7本のプロットがあるのであれば、シナリオに登場するNPCたちの思惑は、少なくとも7通りが考えられるということです。そして、それらのシナリオは結局のところ、互いに交わらないことがしばしばです。
 そうした複数の思惑のぶつかり合いは、必然的に狂騒状態を招きます。
 このドタバタが、スラップスティックな面白さを生むというのはもとより、先読みが利いてしまう類型的なシナリオとはまったく異なったストーリー体験をもたらします。
 そう、複数プロットのシナリオは、どうしようもなく"リアル"なのです。
 4月には、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』にも通じる複数プロット・アドベンチャー「墓穴掘るならご勝手に」もコノスから発売になったばかりです。

●個別の小冒険が拡散されていく構造

 そうは言っても、複数プロットのシナリオにおける基本的な考え方に慣れていないプレイヤーは、ある事件の手がかりが、別の事件にどのように関わってくるのか。ともすれば、それが見えずに苦しむことになります。
 そのため、基本的な考え方を押さえておくのは重要です。
 例えば、シティ・アドベンチャーでは、しばしば陰謀劇が扱われます。
 相互にまったく関係のないかに見える事件が、背後の黒幕によって操作されていた……などという話も、まるで珍しいものではないのです。
 ところがマルチプロットのシナリオでも陰謀劇は扱われますが、事件Aと事件Bが、そのまま単線的に結びつく、ということはほとんどありません。
 「事件Aの解決に乗り込んでいるさなか、事件Bが起きた。相互に舞台は同じだけれども、最後まで何の繋がりもなかった」ということもままあります。
 このことがかえって、世界はPCたちだけで動いているとわけではないと、広がりやリアリズムをもたらしているかのように思うのです。
 個々のプロットは、それぞれ別個に説明されたうえで、どのタイミングで関わってくるのかが時系列で整理されていますが、あるプロットの解決に関わるなか、別のプロットが発動するので、必然的に各々のプロットは個別の小冒険として処理せざるをえなくなります。
 こうした個別の小冒険が有機的な繋がりを持つものの、それが単一のストーリーに収斂されるのではなく、逆に拡散される構造になっているのが複数プロット方式の面白いところです。

●『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の基本設定

 あまりに抽象的すぎるとイメージが沸かないかもしれません。
 そのためか、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の基本設定は、巻頭に収められている古典的なシナリオ「"三枚羽根"亭での眠れない夜」をベースにしています。
 裏表紙の解説の現物は、こんな具合になっています。

 アンボスシュタイン家のマリア=ウルリケ・フォン・リーベヴィッツ女伯と、オットー・フォン・ダメンブラッツ男爵との酷烈な面罵合戦についてお話しよう。古今東西のいかなる物語にも似ていない、驚天動地の壮大きわまる劇(ドラマ)で、邪悪な魔女、冒涜的なディーモン、信用ならない暗殺者、悪辣極まりない殺人と、みどころ満載。むろん極めつけに耳目を集めるのは、ナルンの女候と一緒に過ごす、オペラの夕べ。エンパイアが誇る名優中の名優、デトレフ・ジールックが、舞台で我々を愉しませてくれる! 天井桟敷を唸らせる会心の作だ。さあさ寄ってらっしゃい、開幕だ……。
 『眠れぬ夜と息つけぬ昼:ウォーハンマーRPG シナリオ集』には、『ウォーハンマーRPG』のベテラン・ゲームデザイナーであるグレアム・デイビスの手になる5本の卓越したシナリオが収められている。これらの血湧き肉躍るアドベンチャーは個別にプレイすることも、組み合わせて5部構成の叙事詩的なキャンペーンとすることも可能である。そこでは、2つの貴族家門の諍いがライクランドをまたにかけた衝突にまで発展し、我らが大胆不敵な英雄たちが巻き込まれる。さらにこの『眠れぬ夜と息つけぬ昼』では、プレイヤーが選べるまったく新しい種族であるノームと、海千山千の冒険者さえも夢中にさせるバラエティに富んだ酒場でのゲーム(パブ・ゲーム)各種も紹介されている。

 「"三枚羽根"亭の眠れない夜」は、『ウォーハンマーRPG』初版(『さまよえる魂』所収、柘植恵訳)、第2版(『略奪品の貯蔵庫』所収、鶴田慶之訳)でも、それぞれ邦訳されましたので、ご存知の方も多いかもしれません。
 これは一度プレイしたら忘れられない作品で、実はファンタジーRPGならば他のシナリオにコンバートさせることも可能。
 実際、私が最初に「"三枚羽根"亭の眠れない夜」を初めて遊んだのは、『ウォーハンマーRPG』ではありませんでした。
 ヒストリカルRPG『混沌の渦』のシナリオにコンバートしたものを、レフリー(=ゲームマスター)としてプレイしたのです。
 運命点のルールはなかったので若干シビアで、プレイヤーからは「三十分ごとに人が死んでいく」(注:やや誇張気味ですが)、「複雑に絡み合ったと思われるプロットが、実は互いにさっぱり関係なかった」なとどいう感想をいただいたものでした(注:実際には関係あります)。

●中心キャラクター、マリア=ウルリケ女伯

 「"三枚羽根"亭の眠れない夜」のプロットのもっとも基礎となるものは、アンボスシュタイン家のマリア=ウルリケ・フォン・リーベヴィッツ女伯です。
 彼女はオールド・ワールドの有名人、ナルンの女侯エマニュエル・フォン・リーベヴィッツの姪。
 彼女らはオットー・フォン・ダメンブラッツ男爵に深く恨まれています。男爵は自分の父親が、彼女らに殺されたと信じており、裁判沙汰になっているのです。
 しかも、この裁判といっても、昔ながらの決闘裁判。戦いで勝った方に正当性があるというもの。
 わざわざ代理戦士を連れて歩いており、その代理戦士が複数プロットの序盤から出ずっぱりで、否が応でもPCたちは関わらざるをえなくなります。
 初版のシナリオにおいては、このマリア=ウルリケ女伯は、所持品に「多すぎて、書ききれない」と書かれていることからもわかるとおり、わかりやすい典型的な貴族として表象されていました。
 実際、私がGMしたときも、貴族ならではの鼻持ちならない感じや、逆に世間知らずで細かいことを気にしない様子を強調してプレイしていました。
 第4版では、マリア=ウルリケ女伯や、エマニュエル女侯には、それぞれ美麗なイラストが添えられ、一気に親しみが湧く仕掛けがもたらされているとともに、若干マイルドになった印象があります。
 そのぶん、時系列で起こるイベントは4版がもっとも情報量が強化されており、追加ルール「パブ・ゲーム」をさっそく活かすことのできるようなイベントが強化されています。
 単にキャラクターをコテコテなものとして扱うよりは、より外堀を埋める形で、存在感を増すような仕掛けになっていると申しましょうか。

●パブ・ゲームが充実

 「パブ・ゲーム」とは、実際に中世や近世で遊ばれていたようなゲームが、オールド・ワールドではどう遊ばれていたのかをまとめて紹介するもの。
 中世フランスに実際に存在したダイス遊び「アザール」をモデルとした「アル・ザフル」から、おなじみアーム・レスリングやダーツ、さらにはドミノといった馴染み深いもの、スキットル(蒸留酒を入れる携帯用容器)を倒す「仕立て屋に突っ込む獣(ビースト・アマング・ザ・テイラーズ)」から、「セレヴィス」や「緋色の皇后(スカーレット・エンプレス)」と呼ばれるカード・ゲームまで、15種類のゲームが紹介されているのです。
 感心したのは、オールド・ワールドにおけるカード・デッキがきちんと別立てで紹介されていること。
 実は、とりわけ英語圏において、トランプやタロット・カードの歴史は一代潮流をなしており、充実した先行研究があります。ここをリアルにするというのは、架空世界に説得力を与えるうえで、たいへん有効なのですね。
 こうした「パブ・ゲーム」のほか、舞台となる宿屋の設定や登場人物、さらには続くシナリオにおける裁判所やオペラ座の様子が大変生き生きと描かれているのが、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』の特徴ですが……そちらは次回、じっくり確認してみるといたしましょう。
 

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『ウォーハンマーRPG 眠れぬ夜と息つけぬ昼』
 発売日:2022年3月
 価格:4,800円(+税) 書籍発売中/PDFデータ版発売予定

『墓穴掘るならご勝手に』(ウォーハンマーRPG 複数プロット・アドベンチャー)
 発売日:2022年4月
 価格:700円(+税) *PDFデータ版のみ
 https://conos.jp/product/wh-its-your-funeral/

『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/

2022年03月30日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.20

 2022年3月24日配信の「FT新聞」No.3347に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.20が掲載されました。話題の公式シナリオ集3冊刊行、中でも『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』の概要、ユーザーの方々から私に寄せられた声を紹介しています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.20

 岡和田晃
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 −−ここはチーズ店に潜入するのが良さそうだ。
 そう決めたのは、魔狩人の嗅覚に由来する。
「味がよいことで評判のチーズ店だそうだが、混沌の臭いがするんだ」
 と、フレイザーは鼻をひくつかせる。
 まさに動物的な勘というほかなく、わたしは呆れた。
 けれども、すぐに考え直した。魔狩人の経験に信頼を置くのも悪くなさそうだ。
 彼らははた迷惑だけれども、常に前線で混沌と戦っているのは事実だから……。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●えっ、3冊もシナリオが出版!?

 2022年3月、『ウォーハンマーRPG』第4版のシナリオ集が、3冊発売になります!
 −−ええと、にわかには信じられないかもしれませんね。
 大事なことなので、もう一度言います。
 2022年3月、『ウォーハンマーRPG』第4版のシナリオ集が、3冊発売になります!
 かつて本連載で、RPGのシナリオというものは、ゲームマスターしか買わないものとみなされがちで、それゆえに商品としては苦戦しがちだということを書きました。
 けれども、シナリオが充実しなければ、そのRPGの普及は難しいものがあります。
 卵が先か、ニワトリが先か。
 こうしたダブル・バインドに、送り手側であるプロのクリエイターはもとより、受け手側であるユーザーも、しばしば泣かされてきたのが現状です。
 RPGの王道はDIY精神でシナリオを自作していくことなのですが、さりとて無から有を生み出すことはできません。
 そこには素材やお手本が必要です。
 優れたシナリオは、ユーザーがその世界設定で思いつく数歩先の風景を見せてくれ、「このシナリオを実際に回して(運用して)、どのような展開が起きるかを体験してみたい」という希望を惹起するものです。
 読むだけでも愉しいのですが、実際に回してみたくなる。それがRPGシナリオの1つの理想なのではないでしょうか。
 そして、今回発売される3冊は、いずれも「読んで面白く、回して2度愉しい」条件を満たした作品になっていると、太鼓判を押しておきます。

●各シナリオ集の概要

 3月に発売されるのは、以下の3冊となります

・『眠れぬ夜と息つけぬ昼 ウォーハンマーRPG キャンペーン・シナリオ』(待兼音二郎・見田航介・阿利浜秀明・岡和田晃・田井陽平訳)
・『ユーベルスライク冒険集 ウォーハンマーRPG』(白石瑞穂・傭兵ペンギン・吉川悠訳、岡和田晃・待兼音二郎翻訳協力)
・『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』(岡和田晃・田井陽平・見田航介・阿利浜秀明・待兼音二郎訳)

 このうち、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』は、本連載の前回でも言及した、初版時代から『ウォーハンマーRPG』に関わる名匠グレアム・デイビスの手になる作品集(シナリオ5本)で、タイムテーブルやマルチプロットが駆使された複雑で、オペラ座などスケールの大きな冒険を楽しめます。
 新しい種族であるノームに、酒場でのゲームについての追加ルールもあり。著名な『ウォーハンマー・ノベル』でおなじみのあの人も、出てくるかもしれません。全96ページ。
 『ユーベルスライク冒険集』は『ウォーハンマーRPG スターターセット』で紹介されていた街ユーベルスライクとその近郊を舞台にしたシナリオ6本を集成したもの。
 うち5本は英語では独立にPDF販売されていたもので、好評のため、新しいシナリオ1本を加え、単行本として印刷されたもの。キャンペーンや既存の設定に、どううまく噛ませるかという調整案もついています。全128ページ。
 これらは両方とも、印刷版と電子書籍版の双方の刊行が予定されています。
 印刷版は3月28日頃に刊行される手筈で、ホビージャパンの公式サイトやAmazon.co.jpなどの通販サイト、アナログゲーム専門店での予約も、すでに開始されています。
 形態としては書籍ですが、流通は玩具流通なので、書店ではなくゲームショップにアクセスすることを忘れないでくださいね。

●『ライクランド綺譚』詳細

 対して3冊目の『ライクランド綺譚』は電子書籍(PDF形式)のみが刊行され、すでにコノスからダウンロード購入することができます。
 基本、今回出る3冊に収められたシナリオは、内容面ではいずれも甲乙つけ難く、どの作品からプレイしていただいてもかまわないのですが……。
 −−いきなり3冊出て面食らったという人は、『ライクランド綺譚』から入っていただくのがいいかなと私は思います。
 まず、値段が廉価。シナリオ5本で1200円+税ですから、なんと1本264円ポッキリ。
 次に、分量も全36ページと、さほど負担になるほどではありません。シナリオの長さとしても、1回のセッションで終わる短めの話が収められています。
 本作は、同じPDFサプリメントとしてすでに刊行されている『ライクランドの建築』ともリンクする内容で、収録されたロケーションがシナリオとして肉付けが施されています。
 『ライクランド綺譚』単体でも十分にプレイは可能ですが、『ライクランドの建築』があれば、いっそう興趣が増すことでしょう。

●収録シナリオの舞台

 それでは、核心に触れない程度に、『ライクランド綺譚』の収録作を見ていきましょう。収録タイトルの次にあるのは、『ライクランドの建築』で言及された箇所のことを指しております。

・「溺れるなら共に」;ハーツクライン閘門と、閘門管理人住宅を使用;ヴァイスブルック運河を航行するパーティが奇怪な現象に遭遇し、その謎を解く羽目になる。
・「包囲されし宿」;〈飛びかかるペガサス〉亭の地図を使用;魔狩人とその弁舌に熱狂する者らが、混沌がいるのだとパーティの泊まっている宿屋を包囲する。
・「ヴァーレン神殿包囲戦」;ヴァーレン神殿の地図を使用;ビーストマンの襲撃を受けた村。ビーストマンのリーダーと村の要人には思わぬ関係があるらしい。
・「執着は身を滅ぼす」;ヘルベート・ハルツァートの"ひと味違う"チーズ店;謎のチーズを食べてしまった者らが、次々と奇怪な現象に見舞われる。背後には思わぬ輩が!
・「狼の皮を被った羊」;リンブルク農場;農場に長く留まり続け、もてなしを要求するお客をなんとかしてほしいと、冒険者たちが依頼されるが……。

 各シナリオは6〜7ページほどの分量で無駄なく書かれており、シナリオ自作にあたっても、書式の参考になるでしょう。
 必要なデータはNPCや敵のものを含め、すべて完備されていますので、コンパクトながらも、そのまま問題なくプレイできるようになっていますから安心です。

●どういうシチュエーション?

 テストプレイの際には、『ウォーハンマーRPG スターターセット』収録のサンプル・キャラクターでプレイしましたが、バランス面も含め、快適にプレイすることができました。
 『スターターセット』所収のシナリオ「巡回奇譚」は、あくまでもキャンペーンゲームなので、単発のシナリオをプレイしてみたい場合、そちらではなく、『ライクランド綺譚』収録のものを利用するのも一興でしょう。
 コンベンションにはちょうどよい分量ですし、PDFなので、オンライン対応もばっちりです。
 1本は2〜3時間ほどでプレイできるため、時間に余裕のある集まりならば、2本連続のゲーム・セッションというのも可能です。
 ただ、頭からプレイしていく必要はないので、シチュエーションが気に入ったものを運用してみるといいでしょう。

 河川民がプレイヤー側にいるならば、「溺れるなら共に」。
 コテコテの魔狩人を出したいのであれば、「包囲されし宿」。
 ビーストマンをめぐる葛藤を演出したいのなら、「ヴァーレン神殿包囲戦」。
 食べ物をめぐるドタバタ悲喜劇を体感してもらいたいなら、「執着は身を滅ぼす」。
 農場での居候と丁々発止のロールプレイをさせたいのなら、「狼の皮を被った羊」。

 シナリオの傾向としては、ただ単に力押しをしても駄目で、知恵を駆使して状況を切り抜けることが求められます。

●ユーザーの声

 前回でも触れましたが、このあたりのプレイ感覚は、『クトゥルフ神話TRPG』にも通じるところがあるでしょう。
 実際に購入されたユーザーからも、そのような声をいただいております。
 私のもとへ直に届いた感想を、いくつか紹介いたしましょう。

・丹澤悠一さん
『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』ざっと目を通す。これいいな。WFRPはキャンペーンやってるけど、コンベンションで回せるような単発シナリオは書いたことないので参考になる! 単発で遊んで盛り上がったらそのままキャンペーンにしちゃうのもアリよね。
『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』読んで改めて思うのは、WFRPってホラーやミステリー風のシナリオがめっちゃ遊びやすいシステムなんだなぁ。特に単発セッションでは、無理にバトルのバランス取るより、CoCライクなシナリオ作るほうが向いているのかもしれないと思った。

・鋼の旅団さん
シナリオ→スターター→キャンペーンシナリオ→他、多数のシナリオという完璧な順序!
当然、これから期待を寄せるサプリはたくさんあるけれど、まずユーザーが遊ばないと、そもそも始まらないですからね。
できるだけたくさんセッションをする中で少しでも初心者を巻き込むことが、狂信者の使命だな。

・唐島米津さん
「墓穴掘るならご勝手に」いい訳だなぁ(*´ω`*)
(私家訳で「これがお前の葬式よ!」ってしてた)
(なおレイクランド奇譚収録の「執着は身を滅ぼす」の私家訳タイトルは「激ヤバ☆チーズ」でした。センスないなぁ(><))

 岡和田的には「激ヤバ☆チーズ」は大ヒットです!(笑)
 ちなみに、ここで唐島さんが言われた『墓穴掘るならご勝手に』とは、『ウォーハンマーRPG』日本語版公式サイトでPDFオンリーの刊行が予告されたシナリオのことを指します。
 シナリオ構造としては、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』と同じグレアム・デイビスの手になるマルチプロット、タイムテーブルが導入された作品となります。
 『ライクランドの記念碑』は、設定+シナリオソース集で、いずれも着想がぶっ飛んでいて、読んで損はありません。これらは編集の伏見義行さんが訳し、私と待兼音二郎さんが、監修で入りました。詳しい内容は、刊行後にまた紹介していければと考えています。
 『ウォーハンマーRPG』には、勢いがあります!
 この春は、まずもって『ライクランド綺譚』で、オールド・ワールドの息吹に、ぜひ触れてみてください。

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『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/

2022年02月01日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.19


 2022年1月27日配信の「FT新聞」No.3291に、『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.19が掲載されています。環境の変容、シナリオをどこまで深く記述すべきか、『クトゥルフの呼び声』と比較しつつ考察。複数プロットのシナリオ、オンライン・ツールまで話は進みます。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.19

 岡和田晃
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 くだんのチーズ店の主は、店じまいをしたあと、エプレヒノンプラッツ(勘定広場)からほど近くにある〈爆発する豚〉亭で一杯やるのが日課らしい。
 小売人や商店主、あるいは市が目当ての農民が集まり、社交というか格好の情報収集の場にもなっている。
 中産階級の根城と呼ぶに相応しい。
 いったん酒場に寄って探りを入れるか、それとも、閉まっているはずのチーズ店に、そのまま潜入したほうがよいのだろうか?
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●ある「若気の至り」の告白

 RPGを遊ぶためにはシナリオが必要です。
 コンピュータに準えるのであれば、ルールブックやサプリメントはハードウェア、シナリオがソフトウェアに相当する、というのがわかりやすい話でしょう。
 かつてRPGにおいてシナリオを自作するというのは当たり前の話でした。今でも、シナリオを自作するのは最高の喜びの一つだと言えます。
 自分で読むだけであれば、また気心の知れた仲間と内輪で楽しむだけであれば、どんなシナリオであろうとも問題ないとすらいえます。
 私自身、今でこそきっちりと三幕構成を意識したシナリオを、広い層の読者が想定される商業媒体では書きますが、とりわけ十代の頃は決まったプロットに落とし込むのが苦手で、ほとんど完全アドリブに近いセッションをしていたものでした。
 何が苦手だったかというと、自分の頭のなかにある、茫漠としながらもダイナミックなイメージが、形に落とし込むと消え去ってしまいかねないと危惧したんですよね。
 私の場合、自分がGMしたセッションをプレイヤーがリプレイに起こしてくれることがままあったのですが、「あの時のセッション、完全にアドリブだったんでしょ?」と見抜かれたのは一度や二度ではありません。正確に言えば、完全アドリブではなく、キーワード・レベルではメモを作ってあったんですが……。

●下から二番目に酷いセッション

 今回はそのなかでも、私がやらかしてしまった、下から二番目に酷いセッションをご紹介しましょう。
 『クトゥルフの呼び声』(『クトゥルフ神話TRPG』、以下CoC)。ホビージャパンから出ていたブックタイプの5版が、まだギリギリ手に入った1996年のこと。北海道の片田舎の書店で、清水の舞台から飛び降りる思いで版元に注文、入手できたのはいいものの、単体ではどうやってプレイしたらよいかわからず、途方に暮れたものでした。
 CoC第5版のルールブックには4本のシナリオが収録されていました。最初のシナリオは「屋根裏部屋の怪物」。老人が若かりし頃の過ちを告白するというシチュエーションや、学生がオカルト・サークルで怪しげな儀式を行うという状況設定にピンと来ず、実際にプレイしたのはいいものの、ほとんどキーパー(GM)のひとり語りのような内容になってしまいました。プレイヤーたちが1920年代アメリカの雰囲気を知らず、どう動いてよいものか想像できなかったようなのですね。
 当時、私は中学三年生。『ラヴクラフト全集2』(「クトゥルフの呼び声」が入っていた巻)は読んでいましたが、これをどうやってシナリオ化すべきか、想像もつかなかったというのが正直なところです。むろん、プレイヤーは誰もラヴクラフトもクトゥルフ神話も知りません。ルールブックに収録されているクリーチャーは、探索者(PC)に比してあまりにも強大で、迂闊に登場させられないように思われました。
 仕方がないので、第2回目のセッションは、小説「クトゥルフの呼び声」をそのまま再現することにしました。とはいっても、シナリオノートには、「南太平洋」、「ルルイエ」としか書かれていません。あとは完全アドリブ。乗っている船が遭難して気づいたら南太平洋に漂流して、そこでクトゥルフ御大に出逢うというだけの内容。今思えば、キーパーの私が1d100のSANチェック(正式表記はSANロール)をプレイヤーに振らせたい、というのがミエミエでした。
 このセッションは(ゲーム外で)思わぬ展開を見せます。1d100のSANの喪失を振った直後、中学校で立ち上げたTRPG同好会の面々で、図書館をジャックしてプレイしていたのが運の尽き。図書館に来た別の生徒に、「岡和田君が図書館で黒魔術をやってます!」と通報されてしまったのです……。

●無料のシナリオがいくらでもある時代

 私は受け持ちの大学でゲームデザインを教えており、実際に講義内でRPGのセッションを行い、その成果をソロアドベンチャーや多人数シナリオとしてブラッシュアップしていき、期末レポートとしての完成を目指す、ということをやってもらっています。優秀作は、「FT新聞」でもしばしば掲載いただいているのでご存知の方も多いでしょう。
 昨今のCoCブームも相まって、ネットではいくらでも、無料でCoCのシナリオが転がっています。必ずしも優れた作品ばかりが揃っているわけではありませんが、CoCが採用している基本的なベーシック・ロールプレイングのルール(技能値ベースのd100下方ロール)を呑み込んでしまえば、無料で遊び続けることもできてしまうわけです。
 現役の学生と接していると、つくづく思うのですが、こうした新しい層のゲーマーは、過去に想定されてきたような層とは異なる部分が少なからずあります。
 例えば、今期のゲームデザイン論(や幻想文学論)の受講生は、8割が女性で、全員がCoCのことを知っており、キーパー歴五年という人もいました。私が学生の頃には、考えられなかった状況です。けれども、そうした新しいタイプのゲーマーが、必ずしも他のシステムや、ケイオシアム社が作ってきたオフィシャルのCoCのシナリオを知っているかといえば、そうではない、という現実があります。
 優れた小説を書くためには先達の名作に数多く触れるのが大事なのと同じで、優れたRPGシナリオを書くためにはRPGシナリオをたくさん読み、運用していくのが近道です。そこでは、手近な無料のシナリオだけでは見えてこない世界を提示することが、飽きられないためにも必要不可欠になってきます。
 出版されている公式シナリオは、単にソフトを提供するだけではなく、一定の水準を超えた品質、何よりありうべき世界観の像を提示するという意味で、重要なのです。

●CoCと『ウォーハンマーRPG』のシナリオ構造

 CoCの話を長々と続けてしまったので、『ウォーハンマーRPG』の話に軸足を移しましょう。CoCのシナリオと『ウォーハンマーRPG』のシナリオには共通点が多く、とりわけ、シティ・アドベンチャーとホラーという特徴を活かせば、そのまま『ウォーハンマーRPG』にコンバート可能なCoCのシナリオすら珍しくありません。
 ただ、CoCにおいては、SAN値が減って、やがて0にまで下がると永久的な狂気に陥ってしまうのに比べ、『ウォーハンマーRPG』においては、堕落ポイントが溜まっていくと、混沌へ徐々に変異していき、人ならざる存在へと変化していきます。
 同じd100下方ロールが軸なのに、この違いは意外と重要で、つまりCoCにおいては、人間性への期待が基本にあり、それが失われていくことへの葛藤がドラマを構成しています。
 反面、『ウォーハンマーRPG』においては、始めから人間性は期待されておらず、堕落を積み重ね狂気を上乗せしていけば、人間を超えた上位の存在(ケイオス・チャンピオンなど)になることすら不可能ではなくなっているのです。
 シティ・アドベンチャーについても、CoC(特に、基本となる舞台である1920年代アメリカ)の場合には、奇怪な事件の背後には、必ずといってよいほど人智の及ばぬ宇宙的な邪悪が関与しており、放っておくと、その邪悪な存在によって、日常の平穏は壊滅させられてしまいます。つまり、出発点が日常にあり、それを非日常の侵食から食い止めることが主眼にあるわけです。
 対して『ウォーハンマーRPG』においては、奇怪な事件が起きても、冒険者は必ずしもそれを解決せずともかまいません。極端な話、真相解明よりも、危険に満ちた世界で生き延びること、そのものの方に重きを置かれることすら珍しくないのです(もちろん、解明できれば、それは経験点という形でフィードバックされますが)。言い換えれば、出発点からしてすでに非日常となってしまっていると申しましょうか。

●複数プロットのアドベンチャー

 このような特徴があるゆえに、『ウォーハンマーRPG』においては、他のRPGでは危険すぎて、なかなか試みられてこなかった、ある特殊なスタイルのシナリオが商業出版されています。
 それは、複数プロットのシナリオです。小説や演劇、あるいは映画においては、視点人物を複数置いてそれらの思惑が複雑に絡み合う、そんなタイプの作品がしばしば発表されてきました。
 章ごとに語り手が変わり、個別の事件がそれぞれに扱われるが、物語が進むうちに、パズルのピースが嵌まるがごとく、それらがより大きな構造のなかに収斂されていく……そんな小説を、読んだことのある方も少なくないでしょう。
 最近ではRPGにおいても、それこそ『汝は人狼なりや?』のような正体隠匿型ゲームの要素を盛り込んだ作品が少なからず出ていますし(『パラノイア』シリーズ等)、マーダーミステリーでは、こうした発想が当たり前になってきています。
 ただ、『ウォーハンマーRPG』においては、プレイヤーたちには個別の動機や目的、あるいは秘密があっても、パーティを組んで協力して冒険をこなしていくのが基本のスタイルになっています。そうした基本から逸脱せず、複数プロットをシナリオへ落とし込むことはできるのでしょうか?
 −−できます。『ウォーハンマーRPG』のベテラン・ライター、グレアム・デイビス(デイヴィス)が、初版から存在する、ある有名シナリオ(アドベンチャー)において、複数プロットに挑戦しています。なんと、一つのシナリオにおいて七本のプロットが同時進行する、とんでもない話なのです。それらのプロットが、限られた時間軸のなか、ほぼ同一の舞台に詰め込まれるので、引き起こされる事件はドタバタの極み、プレイヤーの介入の仕方も実に様々、展開はさらに千変万化していきます。
 ネタバレを防ぐためにタイトルは伏せますが、このシナリオは初版の時点から存在し、二冊のシナリオ集に収められ、改訂のうえ第二版のシナリオ集にも収められました。第三版においても、一部設定を踏襲した別のシナリオが書かれるほどの人気で、第四版においても、ブラッシュアップのうえでシナリオ集に収録。個別の単発シナリオとしても、キャンペーン・シナリオとしてもプレイできるように工夫されています。
 あまりにもユニークなので、私自身、『混沌の渦』(佐脇洋平・清松みゆき訳、現代教養文庫、邦訳一九八八年)にコンバートして、このシナリオをGMしたこともあるくらいです。
 さらに、グレアム・デイビスは、複数プロットのシナリオについて世界最大規模のRPGコンベンションGENCONで講演を行い、聴衆の反応をもとに『ウォーハンマーRPG』第4版用の単発のシナリオに仕上げています。
 こちらもまた、七本のプロットが同時進行する作品です。初版からの有名シナリオが一晩の事件を扱うのに比べ、新しく書かれたこちらは、昼から夕方にかけての事件を扱っています。

●A4用紙1枚でシナリオはOK!?

 もっとも、隅々まで作り込んだシナリオの方がいつも優れているわけではなく、往々にしてプレイヤーの自由度を束縛し、アドリブのきかない小さくまとまったセッションをもたらしてしまうこともままあります。
 原作:山本弘・作画:こいでたく『RPGなんてこわくない!』(ホビージャパン、1992年)では、大艦巨砲主義の「究極のRPG」に比べ、A4用紙1枚程度のメモでGMをするやり方が紹介されていました。ただ、事前に準備するシナリオ記述を軽くするということは、それだけGMの側が、世界観を読み込んでおく必要を意味します。単に読み込むのではなく、実際の運用経験が、2桁回数から3桁回数はほしいところです。
 私の場合も、自分が仕事で関わってきたタイトル−−T&T、『エクリプス・フェイズ』、『ウォーハンマーRPG』等は、それなりに世界観に通暁しているため、A4用紙1枚程度のメモでも、ほとんど問題なくGMすることが可能ですが、そうなるまでには、少なからず試行錯誤が必要でした。

●オンライン・セッション支援ツール

 オンライン・セッションでは画像素材を用意するのがオフよりも大事な場合が少なくありません。その反面、システム特有のダイスロールの仕方などは、ダイスボットに落とし込まれ、オフラインよりも素早く処理ができる場合もあるので、オンライン・オフライン、それぞれの特性に見合う形で省力化のコツを把握するのが大事になってきています。
 オンライン・セッションのツールは、ユドナリウムやココフォリアといったものが有名で、ユドナリウムは立体でのグリッド戦闘が行いやすいのが売りですが、ココフォリアには『ウォーハンマーRPG』第4版用のダイスボットが搭載されています。
 それらを覚えるのが面倒ならば、Zoomを使って、ダイスも手振り、画像素材もほとんど使わない形でセッションを進めてもかまわないでしょう。掲示板スタイルのテキスト・セッションも面白いです。プレイ期間が長期に及びがちな反面、プレイヤーは1日数分から参加できるという意味でハードルは低いです。
 新しいオンライン・セッション・ツールとしては、買い切りで高機能なFoundry VTTが注目されており、こちらは有志が「オンセ工房」として日本語化しています(https://foundryvtt.wiki/ja/home)。関連するMODを追加していくことで、機能を拡張していくのがウリということで、CoCはむろんのこと、英語では『ウォーハンマーRPG』第4版の公式MODが販売されています。

2021年12月17日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.18

 
 2021年12月16日配信の「FT新聞」No.3249で、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.18が配信されました。前回の記した『ウォーハンマー』シリーズの歴史の補遺と、1983年に出た最初のルールブックをRPGクリエイター目線で紹介していきます。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.18

 岡和田晃
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 だんだん日が落ちてくる。
 昼に市場を席捲していたあぶれ者たちと、少しずつ夜に活躍するごろつきたちが入れ替わっていくのがわかる。
 ユーベルスライクの街は、ひとつの生き物のようだ。
 人混みに紛れて、どこかに見てはならない存在が紛れ込んでいるのではないか。
 そうした懸念をいだきながらも、いや、この手の嗅覚は魔狩人の方が優れているのだからと、なんとか自分に言い聞かせる。
−−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●あなたはミニチュア派? RPG派?

 本連載の前回でまとめた『ウォーハンマー』シリーズの歴史は、おかげさまでかなりの好評をいただきました。しかし、あくまでも英語資料を下敷きにした粗雑なスケッチにすぎず、語り落としてしまった事柄が少なからずあったのも事実です。
 例えばゲームズワークショップ・ジャパンの前にシタデル・ミニチュアを輸入販売していたベンダーには新和やORG、FM企画等があり、配信時にはそこまでのサポートができていませんでしたが、「DFCニュース」に同梱されていたというORGのフライヤーや「ウォーロック」誌のバックナンバーを繰れば、確かにそのことが確認できます。
 また『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』と『ウォーハンマーRPG』の分化も、いささか図式的だったかもしれません。私は2007年、『ウォーハンマーRPG』第2版の公式GMとして、ゲームズワークショップ・ジャパンとコラボし、ミニチュアゲーマーに向けてRPGをレクチャーするというイベントを行いましたが、その時はミニチュアとRPGの両刀遣いのユーザーが、そこまで多い印象はなかったものの、それから15年近くが経過してみれば……ミニチュアやRPGの両方をプレイするユーザーは、もはや珍しくなくなったように思います。

●『ウォーハンマー入門/趣味人への道』の衝撃

 シタデル・ミニチュアを輸入するのみならず、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトルが本格的に日本語展開されるようになった1997年頃は、ちょうど「RPG冬の時代」に差し掛かった頃、あるいは真っ只中でした。
 衝撃的だったのは、ゲームズワークショップ・ジャパンの創業者・籾山庸爾氏の『ウォーハンマー入門/趣味人への道』でした。今でいう"萌え"への追随が浸透しつつあった世相とは正反対の、いわばメタル魂という反骨精神がみなぎっていたからです。
 ケレン味たっぷりの翻訳、京極夏彦風の指抜き手袋の決めポーズなど、これでもかと楽しさを見せつける写真。そもそも自分たちのことを「趣味人」だとうそぶくネーミングがダサかっこいい。自分は人から違うという選民思想を、それは「趣味」にすぎない、だからこそ本気でやるんだというメッセージによって中和しているという言説戦略が採られています。
 それはちょうど、TCGブームやコンピュータゲームの次世代機の攻勢について行けなくなりつつあった人たちを、いわばオールドスクールという別方向へステップアップさせる(決して後退ではないものとして)いざないであるかのように見えました。
 クラシックD&Dの展開がふたたびストップし、翻訳RPGの完全新作は『アースドーン』(柘植めぐみ/グループSNE)ほか、ごく少数に留まり、時代の流れが"なんか違う"ものを感じていた層に、『ウォーハンマー入門/趣味人への道』は届いたのではないかと思われます。めっきり出なくなったボックス・タイプの海外RPGやメタルフィギュアこそが、RPGの王道だと思っていた層です。

●『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』初版を読んでみた

 前項については、さまざまな資料から傍証できたり、逆に「いや、それは違う」という反証としての証言を持ち出すこともできたりするでしょう。ただ、今回は形を変えて、ミニチュアとRPGのよりよい関係について考えてみたいと思います。
 前回記事の資料として、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の貴重な初版(1983年)ルールブックを入手しました。これが実に興味深い内容だったのです。オールドワールドの生活感を演出のキモとする後の『ウォーハンマーRPG』を連想させる内容は意外と少なく、それでいて『ウォーハンマー 大規模戦闘(マスコンバット)ファンタジーRPG』と書かれているのです。装画はジョン・ブランシュ。
 ゲームブックの名作〈ソーサリー〉シリーズのイラストレーターだけあって、さながら"早すぎた『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』ともいうべき雰囲気の作品になっているからです。ちなみにブランシュは、ミニチュアの原型となるイメージ・イラストも多数描いており、FFシリーズのゲームブックで『地獄の館』や『恐怖の幻影』の装画を描いたイアン・ミラーとの共著での画集『Ratspike』(1989年)を出しています。ミラーはマーヴィン・ピークの『ゴーメンガースト』のイラストや、M・ジョン・ハリスンの『ヴィリコニウム』シリーズのグラフィック・ノベル化も手掛けていることでも知られます。
 当時のクリエイターにとって、立体感のある造形ができることが重要です。日本においては、『ネクロスの要塞』や『メタモスの魔城』に関わられたあだちひろしさんが、ブランシュのような仕事を受け持っていたと言えるのかもしれません。余談ですが、あだちひろしさんの一つの出発点に、アバロンヒル社の『魔法の島の闘い』があると教えていただき、感動したものです。
 このあたりは、出たばかりの「ナイトランド・クォータリー」Vol.27に掲載されている、10頁ぶち抜きのあだちひろしストーリーインタビューを参照してください。
 ルールはCD&Dの影響を強く感じさせるものですが、あくまでも独立したエキスパンションとしての大規模戦闘、すなわち小規模のスカーミッシュやダンジョン探検を表現するものとなっています。
 現在の視点では『ウォーハンマーRPG』初版に通じるルールも散見。あるいは『混沌の渦』に『ドラゴン・ウォーリアーズ』といった同時期に親しい版元から出たルール群との照応を感じさせるものも。
 ただ、ジッグラトでの戦闘やダンジョン内での戦闘のモデルケースが提示されています。そういう意味ではウォーゲームの伝統に則る作りとなっており、さらに言えば、それこそH・G・ウェルズが名著『リトル・ウォーズ』で描いたようなシミュレーション・ゲームに近いのかもしれません。あるいはもっと言うと、ヨーロッパに根付いている、玩具の兵隊ゲームのノリでしょうか。
 全体のルール構成はタイプライターで打ったものをそのまま使っており、当時のゲーム出版が、しばしば記録的大ヒットを出しながらも、一方でアマチュア精神の延長線上で作品が生まれてきたという構造的矛盾に取り巻かれていたことがわかります。

●『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』初版のRPG

 そして、全体の3分の1が、RPGとしてプレイするためのルールになっています。能力値に相当するステータスは個人についてのものと戦闘に関するものと技能に大別され、技能はたくさん選んで取得していくというものよりは、出自に付随するかのように、ランダムに決まる職業技能のような雰囲気があり、このあたりはAD&Dみたいな印象を与えます。
 キャラクターは人間、エルフ、ドワーフの三タイプに分かれ、人間の場合は1d100をロールして50以下であれば自由人。逆に90以上であれば騎士や貴族になれてしまいます。このあたりは、『ウォーハンマーRPG』らしいままならなさがありますね。
 属性(アラインメント)もしっかり設定されており、D&Dを輸入販売していた版元が、オリジナルなD&Dを作ってみた、とでも言いたげな内容です。
 にもかかわらず、中近世ドイツをモチーフにしたオールド・ワールドのような背景設定は、まだ十分に詰められてはいなかったようで、付属シナリオ「赤覚川峡谷(The Redwake River Valley)」はタイトルにあるようなロケーションの一帯が地図化されており、さながらD&D第4版のネンティア谷です。読みながら、出てくる「赤覚川峡谷」をオールド・ワールドのどこかに設定して、『ウォーハンマーRPG』第4版のプレイをしてみたくなりました。
 オールド・ワールドではない(と思われる)、トロール丘(Troll Hills)を目の前にしたロケーション。冒険の中核となる魔術師の塔は、その外観がイラスト化、各階の詳細なフロアプランが綴られ、『ウォーハンマーRPG』4版や他のファンタジーRPGシステムに、十分応用可能であるように思われます。実際、サードパーティから出たAD&Dのシナリオに、似たシチュエーションのものがあったことを思い出しました。

●オールド・ワールドはどこから?

 階を上がって進んでいく魔術師の塔だけではなく、地下を掘り下げていく別タイプの迷宮の地図も用意されており、実際にプレイしたユーザーも少なくなかったであろうと思われます。ミニチュアをアーミーのように多数コレクションせずともプレイできるので、こちらの方が需要は大きかったのではないかとすら思わせられます。
 いや、逆に、せっかくミニチュアを集めたのに、ルール的なサポートが十分ではないと満足できなかったプレイヤー向けに、しっかりミニチュアを使うシステムとしてデザインされたのかもしれません。
 『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の第2版(1984年)のルールブックには、数体のキャラクターやモンスターを活躍させるのではなく、数十体から百体ほどのミニチュアたちを扱うためにデザインされた、とはっきり明記がなされていました。
 また、モデルにしているファンタジー文学の文脈も、J・R・R・トールキン(『指輪物語』)、マイクル・ムアコック(『エルリック・サーガ』)、ロバート・E・ハワード(『コナン』シリーズ)だとはっきり示していました。
 『コナン』のハイボリアは広大であり、大規模戦闘にはうってつけ。実際『指輪物語』には大規模戦闘の場面が具体的に描かれ、情景を想像しやすくなっています。そして、いわばこれらのファンタジーに、「ノン」を突きつけてきたアンチ・ヒロイック・ファンタジーが『エルリック・サーガ』だとすると、白面のエルリックの抱えた反骨精神こそが、『ウォーハンマー』のパンク精神の原型には根ざしていたのかもしれません。
 そこから、どこかで見たようなファンタジー世界ではない、歴史性に裏付けられた−−ファンタジーでありながら−−願望充足に流れるものとは真逆なタイプのオールド・ワールドが少しずつ生起してきたのかもしれません。

2021年11月20日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.17

 2021年11月18日配信の「FT新聞」No.3221に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.17」が掲載されています。今回は、英語の資料を使い、〈ウォーハンマー〉シリーズのあゆみを確認しています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.17

 岡和田晃
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 やはり怪しいのは、ヘルベルト・ハルツァートの"ひと味違う"チーズの店。
 けれども、あれだけ魔狩人が詰問したのに、しらを切り続けられているとは思えない。
 普通に考えればシロなんだけれども。
 ラッテンファンガーに正面からその疑問をぶつけてみた。
「そりゃあそうです。大きいネズ公ったって、好き好んで人目につきたくはないでしょう。昼日向から出歩いているわけはありゃしません」
 とすると、時間をずらしたほうがよさそうだ。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●ここで歴史を振り返ろう

 『比類なく有益なスラサーラの呪文集』はもう入手されましたでしょうか。
 魔術師の専用サプリメントとしては、第2版の『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』(ホビージャパン、2007年)が邦訳されていますが、実は初版の頃から魔術師専用のサプリメントは存在しています。
 ちょうど、電子版登場で『ウォーハンマーRPG』第4版がいっそう活気づいてきたタイミングに合わせ、第4版登場までの歴史を振り返ってみたいと思います(これまでの連載で言及してきた情報と一部重複する部分もあることをお断りします)。
 本稿は完璧な通史ではなく、あくまでも各種資料を参考に、重要事項をまとめ直した叩き台にすぎません。メインの資料としては『Designers & Dragons: The '70s』(by Shannon Appelcline , Evil Hat Productions, 2014)を参照いたしました。
 他に岡和田晃がまとめたRPG史の「T&Tのあゆみ」(『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』所収、冒険支援株式会社、2016年)、「〈ゴーストハンター〉シリーズのあゆみ」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.10、アトリエサード、2017年)があり、それらと比べたらまだ粗いものではありますが、参考になる部分はあるかと思い、共有するものです。

●〈ウォーハンマー〉シリーズのあゆみ

■〈ウォーハンマー〉以前(1975〜83年)

 〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズで知られるスティーヴ・ジャクソン&イアン・リビングストンらが1975年に立ち上げた会社がゲームズ・ワークショップで、こちらから〈ウォーハンマー〉は出ている。創立時、すでにジャクソンは「ゲーム&パズル(Games and Puzzles)」誌のライターとして活躍中だったが、アメリカへ出かけた時にD&Dを知り、熱狂する。ゲームズ・ワークショップはイギリスにおけるTSR社の輸入代理店となってD&D製品を売り、それだけではなく『トラベラー』(GDW)や『ルーンクエスト』(ケイオシアム)等の他社製品も輸入していた。
 顧客向けペーパー「フクロウとイタチ(Owl and Weasel)」の後継誌「ホワイト・ドワーフ」誌を出すに至り(1977年創刊、リビングストンが編集長)、D&Dをはじめとした取り扱い作品のサポート記事を載せていた。ゲームズ・ワークショップと「ホワイト・ドワーフ」は、イギリスのRPGシーンの中心地となり、AD&Dのサプリメント『フィーンド・フォリオ』(1979年)にモンスターを提供するなど、イギリスにおけるRPGの一潮流を築く(後のTSR UKの流れ)。この頃から、『ウォーハンマーRPG』のメイン・ライターの一人、グレアム・デイヴィスが参加している。最近でもイギリスBBC(日本で言うNHK)や大手リベラル紙「ガーディアン」(日本で言う朝日新聞あたりに相当)でも、この頃のことが紹介されていた。
 1982年にパフィン・ブックス(日本で言う岩波少年文庫)から出した『火吹山の魔法使い』が大ブームとなり、ラジオ番組やテレフォン・アドベンチャー等でメディア・ミックスされる。もとはD&DをはじめとしたRPGの解説書の予定が、ジャクソン&リビングストンの意向から単体で遊べるゲームブックとなり、しかもパラグラフを選ぶだけではなく、簡単ながら練り込まれたルールシステムが付随していたのがヒットの理由だった。
 ただ、これでゲームズ・ワークショップが販路を拡大したわけではなく、1978年にファンタジー・ミニチュアを扱うラル・パーサ社(アメリカ)と契約し、ミニチュアについても力を入れていた。20世紀初頭のH・G・ウェルズの『リトル・ウォーズ』の時代から、ミニチュアはイギリスで人気だった。「ホワイト・ドワーフ」でラル・パーサのミニチュアをサポートすると同時に、自社ブランドとして子会社のシタデル社を設立し、オリジナルのミニチュアを製造・販売し始めた。
 ゲームズ・ワークショップはボードゲームやRPGにも力を入れており、『火吹山の魔法使い』のボードゲームはもとより、『ドクター・フー』(SFドラマ)や『ジャッジ・ドレッド』(SFコミック)をボードゲームやRPG化している。
 また、ゲームズ・ワークショップが直接・間接的に関わったRPGやゲームブック作品に『ドラゴン・ウォーリアーズ』(1984年〜)、『タイガー暗殺拳』(1985年)、『ローン・ウルフ』(1985年〜)等があり、いずれも日本でも訳されている。〈ファイティング・ファンタジー〉のサポート雑誌「ウォーロック」が創刊されたのも1983年(〜86年、ちなみに日本版「ウォーロック」は84年創刊)だ。
 
■ミニチュアとRPGが並走していた頃(1983〜88年)

 ただ、1980年代半ばからRPGブームが落ち着き始める。1983年に『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』初版が発売される。1984年に2版、87年に3版が出ている。ただ、初版から2版の間は、あくまでも中心はRPGで、「ホワイト・ドワーフ」誌でもサポートはされていたものの、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』はメインの商品とは言い難かった。D&D用の『ダンジョン・フロア・プラン』や、ボードゲーム『タリスマン』(1983年)等と同じ扱い。ただ、1985年に、TSRとの契約が切れてしまうので、以降、TSR関連製品を展開する代わりに『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』がプッシュされるようになってくる。
 1986年に出た『ウォーハンマーRPG』は、ゲームズ・ワークショップでは3番目のオリジナルRPG。『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』との差別化として、当初からアーミーを組まず、個別のキャラクターを演じるのがポイント。
 システムのベースはD&Dに大きな影響を受けていたが、キャラクター・ステータスに1〜10の数値幅を用いる『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』に比べて、『ウォーハンマーRPG』は1〜100の能力値幅を有し、かつ、膨大なキャリアの転職を繰り返すユニークなシステムを採用していた。それでありながら、戦闘ルールは『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』とコンバート可能になっていた(『ファンタジー・バトル』も初版にはRPGとして遊ぶルールが付属していた)。
 魔法の拡張ルール集『レルム・オヴ・ソーサリー』が出す出すと言って果たせなかったものの(出たのは後述するホグズヘッド・パブリッシング時代の2001年)、『ウォーハンマーRPG』時代は評判上々で、リアル志向のキャンペーン・シナリオ〈内なる敵〉シリーズ(1986〜89年)が、AD&D小説『ドラゴンランス』(1984年)等大人っぽい冒険物語を好む層にヒットした。
 『ウォーハンマーRPG』の初版は社会思想社から1991年〜93年に出た。文庫3分冊のルールブックのほか、『さまよえる魂』、〈内なる敵〉二冊、友野詳のリプレイ2冊が出て、「ウォーロック」誌で92年までサポートされた。小説は角川文庫で『ドラッケンフェルズ』が出た。

■ミニチュアとRPGが分化していた頃(89年〜2002年)

 ゲームズ・ワークショップはその後、大手おもちゃ会社ミルトン・ブラドリーと組んでシタデル・ミニチュアを使った『ヒーロークエスト』(1989年、日本版はタカラから出た)から出すなどしていたが、徐々にミニチュアの方に比重を置き始める。
 『ウォーハンマー・アーミーズ』(1988年)、『レルム・オブ・ケイオス』シリーズ(1988年〜等)。そしていよいよ、1987年に『ウォーハンマー40000:ローグ・トレイダー』の初版が発売される。RPG、ミニチュア、SF、ファンタジー、コミックの要素すべてが入っているという点で大ヒットした。結果として、『ウォーハンマー40000』と『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』がゲームズ・ワークショップの製品の核となり、1988年の「ホワイト・ドワーフ」100号では、ほとんど全ページがミニチュアゲーム関連の記事で占められるようになった。結果として、第1号では4000部だった「ホワイト・ドワーフ」の部数は、この頃は50000部にまで伸びていた。
 とうとう1989年にゲーム・ワークショップはRPGラインを切ってしまい、サポートは子会社のフレイム・パブリケーション(Flame Publication)で行うようになり、『ウォーハンマーRPG』関係のクリエイターはそちらへ移籍して、〈ドゥームストーン(Doomstone)〉キャンペーンを製作した。これは『ウォーハンマーRPG』でもAD&Dのルールでも遊べるようになっているというキャンペーン・シナリオ。ただ、フレイム・パブリケーションも1992年には解散してしまい、1995年に『ウォーハンマーRPG』の権利はホグズヘッド・パブリッシング(Hogshead Publishing)へ移籍した。ホグズヘッド・パブリッシングでは『ウォーハンマーRPG』サポート誌「ワープストーン(Warpstone)」を創刊し、これは2版の時代も断続的ではあるが版元を変えて刊行されている。ホグズヘッド・パブリッシングが2002年に倒産すると、『ウォーハンマーRPG』の権利はゲームズ・ワークショップへ戻った。
 1990年代半ばからゲームズ・ワークショップ社は世界的な成長を遂げていくようになる。『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』は第4版(1992年)から第6版(2000年)、『ウォーハンマー40000』が第2版(1993年)から3版(1998年)、そして『ロード・オブ・ザ・リング』のミニチュア・ゲーム(2001年)が製品の核となっていた。
 日本でもシタデル・ミニチュアの輸入は新和・ORG等、複数のベンダーが出掛けていたが、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』が1997年頃からゲームズ・ワークショップ・ジャパンによって紹介されるようになる。

■〈ウォーハンマー〉のコンピュータ・ゲーム化

 〈ウォーハンマー〉のデジタルゲームは意外と少なく、よく知られているのはマインドスケープ(Mindscape)社の『シャドーズ・オブ・ザ・ホーンド・ラット(Shadows of the Horned Rat)』(1995年)、『ダーク・オーメン(Dark Omen)』(1998年)、ブラックホール社の『マーク・オブ・ケイオス(Mark of Chaos)』(2006年)くらいだったが、実はブリザード社の『ウォークラフト:オーク&ヒューマン』(1994年)は『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の影響を強く受けており、同様に『スタークラフト』(1998年)も『ウォーハンマー40000』にインスパイアされたものだった。
 ただ、ゲーム・ワークショップ謹製の製品ではなかったことから、〈ウォーハンマー〉展開にあたっては機会損失でもあった。そして、オンラインゲームについても版権交渉がこじれて、なかなか進展しなかった。
 ようやく、『ダーク・エイジ・オブ・キャメロット』で知られるミスティック・エンターテインメントが『ウォーハンマー・オンライン』を2008年からスタートさせた。ただ、ブリザード社の『ワールド・オブ・ウォークラフト』(2004年)は1000万人以上のプレイヤーを擁したのに比べ、『ウォーハンマー・オンライン』は成功したとは言い難く、後期には10万人程度のプレイヤーしか獲得できなかった。
 
■〈ウォーハンマー〉の小説化

 『ウォーハンマーRPG』は初版の時から、イギリスのSF誌「インターゾーン」の編集者デヴィッド・プリングルと組んで、「インターゾーン」の作家陣にノベライズを書かせていた。ジャック・ヨーヴィル〈ドラッケンフェルズ〉シリーズ、ブライアン・クレイグ〈吟遊詩人オルフィーオの物語〉シリーズなど。前者は『ドラキュラ紀元』シリーズが人気のキム・ニューマン、後者はベテランSF作家・評論家のブライアン・ステーブルフォードの筆名。
 小説は質が高かったため、アメリカにおける〈ドラゴンランス〉シリーズのように一大ブランドとなり、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』が中心になった時代にもそれは続いた。アメリカのメタル・バンド「ボトルスロウアー」やパンク・バンド「スケイヴン」のように、音楽と連動する例もあった。
 1997年には〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズにも参加していたライター・編集者のマーク・ガスコインが、ブラック・ライブラリー社を設立する。ブライアン・クレイグの〈トロールスレイヤー〉シリーズや、ダン・アブネット(『ウォーハンマーRPG』2版の巻頭小説)の〈ファースト&オンリー〉シリーズなどが高く評価されている。並行してコミック化も進められ、〈ウォーハンマー・マンスリー〉(1998〜2004年)のような連載もあった。

■『ウォーハンマーRPG』2版(2005年〜2008年)

 2003年から『ウォーハンマーRPG』第2版の開発が始まり、2005年には、D&D3版系のサード・パーティであったグリーン・ローニン社から『ウォーハンマーRPG』第2版の展開が始まる。2008年には『ダーク・ヒアレシー』をはじめとした『ウォーハンマー40000』版のRPGが展開される。
 前者は日本語版も2006年から発売、『オールドワールドの武器庫』、『オールドワールドの生物誌』、『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』、『堕落の書:トゥーム:オヴ・コラプション』、『救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション』、『ウォーハンマー・コンパニオン』、『スケイブンの書:角ありし鼠の子ら』、キャンペーン〈呪われた道〉三部作、ショートシナリオ『略奪品の貯蔵庫』といった展開がなされ、2015年には『ウォーハンマーRPG』第2版の基本ルールブックは根強いファン活動によって増刷版が刊行になった。
 リプレイは「GAME JAPAN」誌掲載。ダウンロードシナリオは公式サイトで出た。小説は〈ドラッケンフェルズ〉シリーズが4冊と、『渾沌のエンパイア』が出た。また「ウォーハンマー・オンライン」が2009年から日本語版が展開、小説翻訳もウェブに載った。

■『ウォーハンマーRPG』3版以降(2009年〜)

 『ディセント』等のRPG風ボードゲームで知られるファンタジー・フライト・ゲームズ社が2009年に『ウォーハンマーRPG』の第3版を出し、豪華コンポーネントで話題を集めた。しかし、それまでのユーザー層は少なからず困惑した。システムは、より洗練させたうえで『スターウォーズ』のボードゲームに転用されたものの、『ウォーハンマーRPG』2版を支持する声は根強く、『ツヴァイヘンダー(Zweihander ※aはウムラウト)』(2017年〜)というクローンシステムも出ている。そんな折、D&D5版の『ロード・オブ・ザ・リング』サプリメントを出しているキュービクル7社から、2018年に『ウォーハンマーRPG』第4版が出た。『ツヴァイヘンダー』との差別化のためか、初版への回帰色が強く(メイン・デザイナーの一人アンディ・ローは初版のデザイナーでもある)、実際〈内なる敵〉シリーズが4版対応で復刻されている。

 −−and more…。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
『ウォーハンマーRPG』
・ルールブック ¥7,480(印刷版/電子書籍版共通)
・スターターセット ¥3,300(印刷版)/¥2,750(電子書籍版)
・ゲームマスター・スクリーン ¥3,850(印刷版)/¥3,300(電子書籍版)
・ライクランドの建築 ¥770(電子書籍のみ)
・比類なく有益なスラサーラの呪文集 ¥550(電子書籍のみ)

全て、通販サイト『コノス』にて発売中
https://conos.jp/products-tag/warhammer_rpg/

出版社:ホビージャパン(HobbyJAPAN)