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《遊びにひそむ民俗 3》
●本文:草場純(遊戯史学会・理事)、解説:蔵原大(遊戯史学会・理事)
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《本 文》
日本(とは限らないが)の民俗の中には、いろいろなところに「形式化された問答」というのがある。
昔話の中では山姥(やまんば)とお札(ふだ)が問答をしたり、犬・猿・雉も黍団子(きびだんご)による利益誘導もさることながら、桃太郎との問答によってお供となっていくと考えるべきだろう。ヤマトタケルに至っては、ことあげによって命を落とす。そう言えば「人狼(じんろう)」は、問答によって命を落とすゲームとも言える。
伝承遊びに注目すれば民俗的な問答は更に顕著で、今まで紹介した「今年の牡丹(ぼたん)」でも、「あぶくたった」でも、オニとコドモの問答は、遊びの主要な部分を占めている。よく知られる「花一匁(はないちもんめ)」も「問い」と「答え」の繰り返しによる、文字通りの問答が遊びの本体であり、民俗の透けて見える部分でもある。
( https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=l2Bgxl06NX4 )
問 ♪ふるさとまとめて花一匁 答 ♪ふるさとまとめて花一匁
問 ♪となりのおばさんちょっと来ておくれ 答 ♪鬼がこわくて行かれない
問 ♪おふとんかぶってちょっと来ておくれ 答 ♪おふとん破れて行かれない
問 ♪お釜かぶってちょっと来ておくれ 答 ♪お釜底抜け行かれない
問 ♪鉄砲かついでちょっと来ておくれ 答 ♪鉄砲弾なし行かれない
問 ♪それはよかよか どの子が欲しい 答 ♪あの子が欲しい
問 ♪あのこじゃ分からん 答 ♪この子が欲しい
問 ♪このこじゃ分からん 答 ♪相談しよう
問 ♪そうしよう
それぞれに隠喩されているものの詮索は民俗学に譲り、ここでは遊びからゲームに発展した「問答」を見てみよう。
「なぞなぞ」などの言葉遊びは、ゲームと言うよりはクイズだが、明治から大正期に流行った字花(チーハー)は、それなりにゲーム性が高い。これは親が予め定められた漢熟語の中の一つを正答と指定し、曖昧なヒントを出して回答を募るギャンブルゲームである。こうした「親の決めた正答を子が察して当てる」というゲームシステムは、手本引きなどにも見られるものである。とは言えもちろん日本の専売と言うわけではない。現代では、たほいや(ディクショナリー)や、アップルトゥアップルなどとして多用されている。絵が絡めば、ディクシットやカレイドス、アイデンティクやテレステレーションなどもこの類といえるかもしれない。
とは言え、例えば「ディクシット」と「手本引き」を比較したとき、その文化的な背景の大きな違いに、深い考えを覚えずにはいられない。これを民俗の違いに結びつけるのは、牽強付会に過ぎるだろうか。
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《解 説》
草場純氏は、双六の前近代史研究などで知られるゲーム研究者です。
本文は、草場氏が以前にNPO法人世界のボードゲームを広める会「ゆうもあ」の機関誌『ゆうもりすと』に掲載した記事の転載です。
なお草場氏は、三宅陽一郎氏(デジタルゲーム学会・理事)と共に「ゲームデザイン討論会」を開催しております。2015年3月には、神保町にある「奥野かるた店」で公開討論会のパネリストを務められました。
● 【ゲームデザイン討論会―公開ディスカッション2015.03.14】
● 遠藤雅伸も登場。アナログゲームとデジタルゲームの歴史的邂逅レポ(エキサイトレビュー、小野憲史)
「ゲームデザイン討論会」のハッシュタグ:#game_dsgn。
( https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=fG-l8z3bIkQ )