2025年09月06日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.27

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.27

 岡和田晃
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 魔女が生き延びるためには、手段を選んではいられない。
 とにかく頭を使うこと。素性を探ってくるものには、さりげなく呪いをかけること。
 できるだけ、周囲の者も煙に巻いていかねばならない。
 それだけではなく、古来からある魔力の伝統に、自らを同調させていけば――ほら、世の理(ことわり)を転倒させることができる。
 くちゃくちゃと、あらかじめ用意したニガヨモギと豚の贓物の混ぜものを噛みながら、わたしは歩き、歩き、また歩いた。こうすれば誰でも――わたしを追うものであれ、そうでない第三者であれ――跡をたどることはできなくなる。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

 2025年8月に開催されたオンリーコンベンション合わせで、『ウォーハンマーRPG』の新しいサプリメント『血と茨』が発売になりました。これまで、多数のサプリメントに噛んできたパドレイグ・マーフィーがデザインした作品です。似非魔術師と魔女、つまり魔法諸学府に参加せず、いわば非合法で呪文を習得・行使する者らにスポットを当てた作品になっています。本作が“長躯の火葬者”ことグットフリート・スニグソン――皮肉なことに、帝国暦2513年、魔女と通じた疑いから火あぶりに処された魔狩人――の思い込みと偏見に満ちた語りによって構成されています。
 PDFオンリーの作品ですが、そのぶん安価で入手でき、「魔女と似非魔術師のための24の新たな呪文」と銘打たれています。翻訳はホビージャパンの伏見義行さん。最近では『ファイナルファンタジーXIV TTRPG』のデザイン&ルールライティングで知られていますね。こちらに、私、見田航介さん、阿利浜秀明さん、田井陽平さん、待兼音二郎さんが総出で監修に入っています。
 構成としては、先だって出ている『比類なく有益なスラサーラの呪文集』(ホビージャパン、邦訳2021年)に似ています。こちらは、エルフの至高魔術師スラサーラが厳選した八色の魔法体系の各呪文を紹介するということで、八大魔法諸学府に対応した内容になっています(翻訳:伏見義行、監修:岡和田晃、待兼音二郎)。
 ただ、『血と茨』には、『比類なく有益なスラサーラの呪文集』には付属していなかったNPCと関連したシナリオソースも付属しており、ともすれば“追われ、狩られる側”として一辺倒になりがちな似非魔術師や魔女に、いっそうの深みを与えることに成功しています。
 似非魔術師とは“祝福されし者”などと自称し、当局公認の魔法諸学府とはまったく別個に、自己流で魔法を習得して使おうとする者のこと。魔女に至っては、自らの力や正体を隠し、何らかの手段で魔法を行使する者らのことを指します。ただし、魔女は禍つ神々(ルイナス・パワーズ)を崇拝しているわけではなく、魔法そのものに関心があり、その由来には注意を向けません――そのことは魔狩人たち自身も、重々承知していることなのです。
 こうした細部の設定の魅力が、『ウォーハンマーRPG』を他のRPGと一線を画すものとするだけの魅力を与えることを成功させています。第4版になって、似非魔術師は「似非魔術師見習い」→「似非魔術師」→「上級似非魔術師」→「似非大魔術師」、魔女は「呪い師」→「魔女」→「邪術師」→「黒魔術師」と、それぞれ4段階の成長をすることができるようになったわけで、これらのキャリアをプレイヤーとして遊んだり、ゲームマスターとしてシナリオに登場させたりする際には必携と言ってしかるべきでしょう。
 似非魔術師の魔法は似非魔術、魔女の魔法は俗魔術と呼ばれ、いちおうの系統を構成しています。混沌と背中合わせであるにせよ、それそのものとは言い難く、古代の伝統に連なる神々の贈り物、というのが特徴的です。
 まさに土着の迷信――そう形容したくなる魔法にあふれています。「悪意」の呪文は、周囲の雰囲気を悪くする空間を生み出すもの。「接骨」の魔法は骨折の治療。「禊」の魔法は呪いを解くもの。「施肥」の魔法は大地を豊穣なものとする魔法。「夢弄り」は悪夢を見させる魔法――といった具合に、ファイアーボールやアイスストームのような派手さとは無縁ながらも、地に足のついた呪文が、多数存在しています。
 一方、俗魔術の方はどうなのでしょうか? こちらはもっと呪術的な性格が強く、「二枚舌の呪い」は対象に思ってもいないことを喋らせる呪いをかけるもの。「ロードストーン」は、犠牲者の血液と磁鉄鉱を利用し、相手の位置を探る現代のGPSめいた効能を得るもの。「血の契約」は、遵守しなければ負傷や疲労がより悲惨になる呪いを受ける契約を結ばされるもの。「痛みの瓶詰」は死の瞬間に受けるような苦痛を一時的に与えるもの。「迷い道」は、薬草と贓物の混合物を噛みながら歩いた術者の道のりを、後に通る者が正しく進めなくするという呪文……。
 いかがでしょうか? 『ウォーハンマーRPG』のサプリメントではありますが、他のRPGにも取り入れたくなるような魅力たっぷりの呪文が揃い踏みで、創作のインスピレーションにもなるでしょう。
 また、3体の精霊も準備されていますが、これも皮肉たっぷりなもの。1体、「骨取りモロック」と呼ばれる死と長引く傷の精霊は、他人を骨折させたり怪我をしやすくする呪いをかけられるが、とにかくスケールの小さな悪霊めいた感覚がコミカルで愛らしく(?)、それこそ藤子不二雄のコミックにも通じるユーモアを感じさせますね(AかFかは人によって意見が分かれるかと)。
 NPCも3人、6本+αシナリオソースが用意されていますが、ここでは若き魔狩人のトール・イェーガーフントを紹介しましょう。彼はなんと、自身が“魔力の風”の影響を受けているため魔法使いを見分けられるのですが、そのことに気づいておらず、人一倍教条主義的な魔狩人として、師にあたるグットフリート・スニグソンを告発して火刑台に送ってしまうのです! なんとアツい設定なのでしょうか。
 そうそう、豆知識もお伝えしておくと……NPCとシナリオソースの章は「綺麗と汚い」と監訳しましたが、原題は「FAIR AND FOUL」。シェイクスピアの『マクベス』の第1幕第1章、「綺麗は汚い、汚いは綺麗(Fair is foul, and foul is fair)」から、さりげなく引用されているわけですね。「FT新聞」でもゲームブックの文学性について興味深い議論が交わされてきましたが、『ウォーハンマーRPG』もまた、世界文学の伝統に連なるゲームなのだと、この機会に言い切ってしまいましょう。

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 『ウォーハンマーRPG 血と茨』
  魔女と似非魔術師のための24の新たな呪文
  発売日:2025年8月
  価格:700円(+税) *PDF版ダウンロード販売のみ
 ・コノス
  https://conos.jp/product/wh_blood-and-thorns_pdf/
 ・DLsite
  https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ01444533.html/?utm_medium=affiliate&utm_campaign=sns_link&utm_content=RJ01444533&utm_source=hobbyjapan.co.jp%2F

初出:「FT新聞」No.4607(2025年9月3日)