『モンスター!モンスター!』のあゆみ 補遺
岡和田晃
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2024年2月8日に配信の「FT新聞」No.4033に掲載された「『モンスター!モンスター!』のあゆみ」につき、さすがに4000字を超えてしまうことから、別途切り分けていた情報を補遺として述べたいと思います。
まず、『モンスター!モンスター!』には、なんと、第ゼロ版(Edition Zero)が存在します。これはM!M!の初版と同じ1976年に発表されたプレイテスト・エディションが、第2.7版のクラウンドファンディングに伴い復刻されたもの。個別にDrive Thru RPGでも購入することができます。
タイプ打ちの原稿が再現されていたり、ケンのアイデア・メモ書きがそのまま挟まれていたり、なかなか興味深い内容です。
序文もM!M!初版とは違います。曰く、ケンはアリゾナ州フェニックスではじめてRPGをデザインした人物であること。それはD&DではなくT&Tであって、T&Tはもともと「トンネルズ&トログロダイズ」(トログロダイド=穴居人)という名前だったが、初版刊行前のテストプレイでそれを話したらメンバーに笑われ、ロブ・カーヴァーから「トンネルズ&トロールズ」というワーキング・タイトルを提案されたということ)が書かれています。
T&TではモンスターはMR表記ですが、それを人間と同じく能力値表記にして10倍、20倍も成長するようにしたら面白いだろうということ。『キングコング』や『ゴジラ』が銀幕のスターであるなら、きっと本作も気に入ってもらえるだろうというもの。
なかなか興味深い設計思想で、M!M!の出発点がわかりますね。
M!M!のゲーム・エンジンを使ったサードパーティとしては、サラ・ニュートン『豹の女帝のねぐら』(ミッドジャマー・プレス、2023年)も話題です。
単なる設定の裏返しではないクリーチャー視点から、剣と魔法の世界やエドガー・ライズ・バローズ(『ターザン』『火星シリーズ』)風のエキゾティシズムを再構築したもので、世界設定はズィムララ(ジムララZimrala)へのオマージュも含まれる模様。
これはハードカバー400ページにも及ぶ設定の分厚さもさることながら、アートワークの美麗さにも目を惹かれますが、実はこれは生成AI(Midjourney)を駆使して書かれたもの。単に出力されたものを集めたのではなく、綿密なディレクションやポスト・プロダクションが施されており、実に壮麗です。
ちなみに昨今のゲーム研究の領域では、フェミニズムやポストコロニアリズム研究の視点から、RPG産業における白人男性の圧倒的な優位が批判的に取り上げられることが少なくありません。ただ、「図書新聞」2021年7月号での伏見健二さんによる『怪奇の国のアリス』書評で指摘されているように、T&Tは初期からコアメンバーに女性(リズ・ダンフォースら)が参画しており、独特なジェンダー感が保持されています。サラの仕事も、その流れに棹さすものだと言えそうです。
私は最近文芸評論家として、生成AIと文学に関するインタビューを受けました。共同通信・安藤涼子記者による配信記事として、「「受賞作にAI」波紋 芥川賞の九段理江さん発言 新たなツール、共存模索」と題し、「神奈川新聞」2024年2月6日号をはじめ、「福井新聞」2月3日号、「埼玉新聞」2月4日号ほか、各地の新聞に掲載されています。
記事には直接の言及という形では反映されてはおりませんが、生成AIの利用は文学よりもイラストレーションの方が一歩先んじている部分もあり、その文脈で『豹の女帝のねぐら』を紹介に使わせてもらいました。
M!M!は古典的なRPGではありますが、最新の技術的関心ともリンクしているのです。
その他、M!M!については、関連のソロアドベンチャーやGMアドベンチャーも出ていますが、そちらの紹介はまたの機会にとっておきましょう。
ところで、これまで私は『モンスター! モンスター!』と表記を採ることが多かったのですが、前回からはFT書房式に合わせて『モンスター!モンスター!』と、エクスクラメーション・マークの後に全角を開けずに表記することにしてみました。
略称のM!M!のエクスクラメーション・マークは前回は全角にしてみましたが、今回からは半角としています。第2.X版以降の動きについては、まだ日本語版が出ていない段階ですので、多少の表記揺れがあるかもしれませんが、どうぞご海容ください。
その他、今後のM!M!の展開につき、ご意見があればお寄せいただけると幸いに存じます。
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初出:「FT新聞」 No.4034(2024年2月9日号)