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『ブルーフォレスト物語』小特集の開始にあたって
岡和田晃
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2023年4月からの「FT新聞」リニューアルに伴う新企画!
不定期ではありますが、伏見健二『ブルーフォレスト物語』の小特集を進めたいと思っております。
オールドファンにとっては懐かしく、若いファンにとっては新鮮――というのがこの手の企画の常套句で、それは特に間違いでもないと思うのですが、『ブルーフォレスト物語』は、むしろ“誰にとっても新鮮”な作品であるのが、大きな特徴と思います。
時代の方が追いついてきた。
そう思わせるほど斬新なコンセプトの作品で、リアルタイムで圧倒的な衝撃を与えながら、実際、今に至るまで海外を含め類似作のない、独特の存在感を放っています。
――その心は?
舞台となる「シュリーウェバ」世界、が1つの答えです。
D&DやT&Tのような中世西洋風のファンタジーがメインであった時代、そこで培われた大枠を遊びやすさとして遺しながら、東南アジアやインドの雰囲気が、しっかり入り混ぜられています。
よく言われたのが、「異世界ファンタジーでありながら、おにぎりを食べて違和感のない世界」。
あるいは、デザイナーの言葉を借りれば、以下のようになるでしょうか。
「ヒンドゥー文学、仏教文学、中国や東南アジアの山岳・草原民族に関する資料、そして小さい頃から馴染んでいた聖書の古代中央アジアに関する描写など、そして一度だけ訪れたタイの、悲しげなアユタヤ王朝の記憶が、この世界のイメージとなっています」
『ブルーフォレスト物語』の初版は、1990年にツクダホビーから発売されました。当時、伏見さんは美大生。学生でありながら、ルールブック本文のみならずボックス・セットの隅々までをデザインする、トータル・デザインの先駆けでもあったのです。
イラストレイターには、各種TCG等のイラストでも知られる相沢美良さんと佐々野悟さんが参加しておいでで、世界観を雄弁に伝えていました。
もともと伏見健二さんは、マイクル・ムアコックの〈エルリック・サーガ〉を原作としたRPG『ストームブリンガー』のサポート記事を「タクテクス」に寄稿するところから、ゲームデザイナーとしてのプロ活動を始めた方です。
※「FT新聞」では、No.2904「ヴェルヴェット・サークルの夢の果てに」で『ストームブリンガー』について解説してあるので、どうぞご参照ください(https://akiraokawada.hatenablog.com/entry/2021/01/07/071630)。
ゆえに『ブルーフォレスト物語』は、『ストームブリンガー』が採用していた――現在は『クトゥルフ神話TRPG』ですっかりお馴染みとなった――ベーシック・ロールプレイング・システムという汎用ルールでも採用されたd100パーセンテージ・ロールを軸にしつつ、多彩なクラスや戦術、魔法、さらには「寿命」や「悟り」のルールを導入しています。
亜神という存在が重要な役割を果たしており、この点、ケン・セント・アンドレらT&Tや『ストームブリンガー』のデザイナーも愛読していたロジャー・ゼラズニイのSF小説『光の王』に近いでしょうか。
『ブルーフォレスト物語』は、“ユーザーのクリエイティヴィティを重視すること”が大事なコンセプトとなっています。基本セットさえあれば、どこまでも世界観を広げていけるような、ちょっとしたアイデアや配慮が、随所に込められているというわけです。
今回、「FT新聞」でお目にかけたいのは、ちょうど伏見さんが『ブルーフォレスト物語』をデザインした年齢くらいの若者が、RPGに込められたメッセージを受け止め、実際にシナリオにまで昇華させた作品群です。もちろん、私や水波編集長がしっかり監修し、品質は担保しておりますし、伏見さんご当人の許諾も得ています。
(編集部註:5月以降の日曜ゲームブック枠で順次配信予定です)
『ブルーフォレスト物語』のユニークさを受け入れたのは、世界観にこだわる自作派、とりわけ女性ユーザーでした。1990年頃、ゲーム・コミュニティが圧倒的に男性優位だった時代において、きめ細やかな世界観や人間関係の襞を自然に描くことのできるシステム設計は、新たなユーザー層を開拓したわけですが……現在、私が大学で開講しているゲームデザイン講座の受講生からしても、女性の方が多いくらいです。
こうした状況において、『ブルーフォレスト物語』は何ら異色作でも回顧作ではなく、まったくもって“スタンダード”な思想で設計された作品になっているのです。
とはいえ『ブルーフォレスト物語』は絶版になって久しく、残念ながら、彼女たちは『ブルーフォレスト物語』を知らないままに来てしまいましたが、それゆえに新鮮な出会いともなり、このシステムが彼女たちの創造性を引き出していくのを、私は教室で間近で観察してきました。
おそらく、「FT新聞」の読者の方々にも、これまで『ブルーフォレスト物語』に触れる機会がなかった方もいらっしゃるのではないかと思います。
そこで簡単に、既存のシリーズ展開を紹介いたしましょう。
ツクダホビー版の『ブルーフォレスト物語』はシリーズ化され、キャンペーンシナリオやソロアドベンチャーを含んだ続編が発売されました。1996年にはゲーム・フィールドから第2版に相当する『デザイナーズ・エディション』が発売。例えるならば、ツクダホビー版がD&Dなら、『デザイナーズ・エディション』はAD&D。必殺技の種類が増強するなど、多くの変更点があります。
2008年には、グランペール――実験作を少部数、しかしながら商業ベースで刊行する――グランペール・プロジェクトからツクダホビー版が「リバイバル・エディション」として復刻。こちらにはPDFファイル形式のルールブックの内容をまるごと収めたCD-ROMが付属するなど、電子書籍としてのRPG出版の先駆けにもなっていました。
2010年頃からグランペールで刊行されていたムック本「ブルーフォレスト通信」では、亜神のキャラクターを1 on 1でプレイする第3版の開発が模索され、「ブルーフォレスト通信3」では、プレイアブル版が発表されおり、単体でも遊べます。
現在、『ブルーフォレスト物語』については、角川書店や中央公論社から出ていた伏見さん自身によるノベライズ(「南北朝争乱編」、「蒼き森・失楽園」)、あるいは3DO後期の看板タイトルでプレステーションにも移植されたデジタルゲーム版(『風の封印』)の方がアクセスしやすいかもしれません。それらはTRPG版なしでも楽しめ、世界観を知るにもたいへん有効です。細江ひろみさんが書いた富士見ドラゴンブックの『ブルーフォレスト物語がよくわかる本』も、入門にはピッタリで、学生にも紹介しました。
『ブルーフォレスト物語』は1993年の時点でルールセットが5万セット、小説においては8万部が売れたと記録されています。とりわけ90年代の国産RPGは『ブルーフォレスト物語』抜きに語ることはできない、それくらいのインパクトがあるヒット作で、メインのシステムとして活用していたプレイグループも珍しいものではありませんでした。
今でもSNS等で声をかければ、きっと手を挙げてくださるGMがいらっしゃることでしょう。
しかし、それでも、ルールブックの入手が難しいからなあと、記事を読むのに躊躇してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
ご安心ください。今後、「FT新聞」での『ブルーフォレスト物語』紹介の際には、ルールブックがない方でも記事を楽しめるよう、相応の配慮や工夫を行うつもりです。
――シュリーウェバの風が呼んでいます。青い森へようこそ!
ラベル:ブルーフォレスト物語小特集


