2022年12月14日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.11
2022年11月17日配信の「FT新聞」No.3585に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.11が掲載されています。セービング・スローに強いはずのドワーフが石になり……そして現れたアベンジャーの正体は!?
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.11
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/492760331.html?1668560922)をどうぞ。今回はキャンペーン第11話「腐爛」の前半となります。このあたりからコンパニオンルールセットを本格導入していますね。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
ヨブ/ロスト・ドリームの島で死亡していた戦士。しかし……。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。故人。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
イリアナ・ペンハリゴン/ペンハリゴン家の領土と爵位を要求している。
バーグル・ジ・インファマス/邪悪なブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。
※2022年10月20日配信の「FT新聞」No.3557のVol.10でのヨブのプロフィールは間違いで、今回のプロフィールに同じです。お詫びして訂正します。アーカイブでは修正済みです。
●敗走
ブラック・ピーク山脈へノールどもを掃討に出かけた一行だったが、そこで突然出現したビホルダーによって、パーティ半壊の憂き目にあってしまった。
おまけに、頼みの綱のタモトは、ビホルダーの眼突起から発せられた「フレッシュ・トゥ・ストーン」の光線をまともに浴びて、全身が石と化してしまっていた。
さすがというべきか、『欺きの斧』には埃一つついていないのだが、使い手がいなければどうにもならない。
不利を悟った一行は、とりあえず「エフリーテ・ボトル」から呼び出したエフリーテを楯にして、戦場から撤退することにした。
●再準備
スレッショールドの街に戻ったパーティは、とりあえずシャーレーン大司教の住む、ターンズ砦へと向かった。
そこで彼らは、高額の喜捨を行って、大司教の側近のマジックユーザーにタモトの石化を解いてもらった。
ついでに、彼らは大司教にことの次第を告げ、見事報酬を釣り上げることに成功した。
その前金で、彼らは回復のスクロールやちょっとしたマジックアイテムを買い集め、再度ブラック・ピーク山脈に向かった。
途中聞いた話では、スレッショールドはインジフの起こした抗争で荒れているとのことだったが、一行が到着したときには沈静化していた。きっと、フレームフリッカーが迅速に事後処理を行っているのだろう。
●洞窟にて
パーティは、前回の轍を避けるべく、慎重に山道を行軍していった。
ノールの領域にさしかかると、警戒を強め、見張りのトログロダイトどもを打ち倒すと、敵の本拠地と思われる洞窟の中に潜入した。
洞窟を奥へ奥へと進んでいく。即死罠をいくつも乗り越え、無事、奪われた「スタッフ・オブ・パワー」を回収した。
いよいよ親玉と対決が待っている。
●計略
かび臭い洞窟の奥深くでビホルダーは傷を癒すのに専念していた。
しかし、予想外に修復には時間がかかった。本来ならば10本あるはずの眼突起が、7本しか戻っていなかったのだ。
ビホルダーは来るべき敵襲に備え、ちょっとした計略を練った……。
――ビホルダーのいる場所に足を踏み入れたパーティは驚愕した。
なんと、ビホルダーが2体いるのだ!
そのうち、前にいるほうがニヤニヤ笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる。
思わずあとずさりする。だが、ひるんではいられない。
攻撃を仕掛けると、突然、目の前のビホルダーが爆発した!
ビホルダーによく似た爆発生物、「ブラストポア」である!!
そしてその隙をついて、もう一体のビホルダー、そして配下のマンスコーピオン、ジャイアント・スコーピオン4体、ノール25体が襲いかかってきた。
●背後の陰謀
決着はあっけなく着いた。
グレイが手にした「スタッフ・オブ・パワー」を用いて使った「アイス・ストーム」が思いのほか強力だったせいもあるが、再戦にかける一行の意気込みが、敵のそれとは比較にならなかったことが決定的な要因であろう。
ビホルダーが援軍として呼びつけたモンスターたちも、ものの数ではなかった。
リーダー格のマンスコーピオンなぞは、「チャーム」に抵抗しきれずに、パーティのためにせっせと回復呪文を使わされる始末。
その様子を見て、生き残ったノールどもはあっけなく降伏してしまった。
ノールの族長クラスガットが言うには、彼らはいやいやビホルダーのために働かされていたのだという。
ビホルダーを呼び出したのは、山頂近くに居を構えている、「ゴルサー」という男の仕業らしい。
ゴルサー! その名を聴いて一行は慄然とした。
最初の冒険にて、タモトの斧が眠っていた洞窟を支配していた魔術師の名である。フレームフリッカーらが教えてくれた、ブラック・ピーク山脈に眠る『伝説の剣』と、ゴルサーとが無関係だということは考えにくい。
だが、深追いは禁物である。
パーティはここで手に入れた宝をもとに体制を立て直すべく、再度、スレッショールドに戻ることにした。道中、激しい地震に何度となく見舞われた。間違いない。何かが起こりつつあるのだ。
●テネスサール野へ
スレッショールドに戻った一行を、青ざめた顔をしたシャーレーン大司教が出迎えた。彼は、事態をかいつまんで説明する。
それによると、リアの兄、マレクを殺害したのは「アイアン・リング」の一派であり、スレッショールド内に拠点を作って、モンスターどもを招き入れるための手引きをしていた、とのこと。
しかも、そのモンスターどもはイリアナ・ペンハリゴンという女戦士に率いられているらしい。
イリアナ! 『ペトラの嘆きのメイス』を持つ女である。因縁浅からぬ相手だ。
しかも、彼女がスレッショールドに攻撃を仕掛けてきたというのだ。
次々と明らかになる陰謀の数々に、もつれ合った糸をふりほどくための場所が、垣間見えたような錯覚すら覚える。
大司教の説明によると、「グリフォン聖騎士団」の活躍によって、街中のモンスターは撃破された。
しかし、イリアナはスレッショールド近くの、テネスサール野という場所に砦を構えており、今度は正面から突撃してくる気配である。
「グリフォン聖騎士団」が迎撃に向かっているが、応じきれるかどうかは定かではない。
パーティはシャーレーン大司教の要請を受けて、息着く間もなく、テネスサール野へ向かった。
●作戦
「グリフォン聖騎士団」の団長、アリーナ・ハラランは、憔悴した様子で一行を歓迎した。
彼女が戦況を説明する。
現在のところ、双方ともに小康状態に入っているのだが、いつ戦闘が再開してもおかしくない緊迫した状態となっている。
敵軍は主に、オーク、オーガー、ヒル・ジャイアントから成っている。
本来ならば、これらのモンスターは乱暴な気質ゆえに、あまり統制がとれていないものなのだが、敵の指揮官であるアベンジャー(復讐者)の力で、その弱点を克服し、実に組織だった攻撃をかけてくるのである。
アリーナはそこで提案する。
もうすぐ、再び両軍が激突することになるだろう。その際、一行は遊撃隊として、指揮官であるアベンジャーらを直接攻撃してほしい、というのだ。
危険な任務だが、もし成功すれば、戦況を一気に覆すほどの、多大な効果が得られるだろう。彼らは命を受け、一路戦場へと向かった。
●再会
戦闘は再開された。至る所で怒号が巻き起こり、血しぶきが舞っている。パーティはそれを後目に、指揮官を探す。
と、それらしき、四人組を発見した。
全員が、バーディング(馬用の鎧)をつけたウォー・ホースにまたがっている。
そのうち一人は紛れもない、イリアナ・ペンハリゴンである。
傍らには、黒いローブに身を包んだ男が寄り添っている。以前とはだいぶ容貌が異なっているが、バーグル・ザ・インファマスだ。
一度ヨブに肉体を破壊されたものの、「マジック・ジャー」の呪文で魂を別の場所に移しておいて、別の身体に乗り移ったようだ。
そしてその背後には、全身を鎧(フル・プレート)で包んだ二人の男がじっと戦場を眺めている。あれがアベンジャーか。
一行はさまざまな手を駆使して、無事、軍隊が交戦している場所より、彼らを引き離すことに成功した。
だが、それとて彼らがパーティを脅威だと認識してのこと。ただちにバーグルは「ファイアーボール」の詠唱に入り、アベンジャー二人は巨大な剣を抜いて距離を詰めてくる。
が、対するパーティも黙ってはいない。すぐさま、グレイが「ヘイスト」をかけ、次に「アイス・ストーム」を4人に向けて放つ。
リアやジーンも負けてはいない。エルブン・ボウやスリングで、もっとも「危険」なバーグルを射倒しようとする。集中攻撃を喰らったバーグルは、たちまち瀕死の重体を負ってしまった。
慌ててイリアナが「キュア・オール」での治療を行うが、すっかり怖じ気づいたバーグルは、仲間を見捨て、「テレポート」の呪文で逃れ去ってしまった。
だが、彼がいた場所に、突如、宙に浮かぶ奇妙な宝石のような物体が現れ、一行に向かってゆっくりと進んできた。
一方、アベンジャー二人を迎撃したタモトとヨランダは、相手の力量があまりにも強大なことに驚きを隠せなかった。
加勢に入ったシャーヴィリーの「マジック・ミサイル」が、アベンジャーの顔面に命中し、その衝撃で兜の目庇が吹き飛んだ。
そこから現れたアベンジャーの素顔は、なんとヨブのものだった。
パーティは目を疑ったが、間違いない。
ロスト・ドリームの湖で散っていったはずの、ヨブその人だ。