2022年10月19日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.24

 2022年10月6日配信の「FT新聞」No.3543に、「『ウォーハンマー RPG』を愉しもう!」Vol.24が掲載されました。今回は英語版の新作『ザルツェンムント』や、待望の日本語版新作サプリメント『ライクランドの記念碑』について紹介しています!

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.24

 岡和田晃
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 苦悶の表情を浮かべた霊は、問わず語りに、故郷グリュンブルク南部にいた頃、ホルガー・ラウク市長の立像に悪戯した経験を話し出す。
「石を投げつけ、ゴミを投げつけ、時にはもっと“ステキな”ものまでをもぶつけてきた。
 ケバケバしく飾られていた像は見る影もない。
 悪臭紛々とし、金目のものは引き剥がされている。よほど腹に据えかねていたのだろう。
 ただ、やりすぎると市長の霊が戻ってくると及び腰な連中がいたのも確かで、実際のところ像の影はおかしくないのを見て、それで……」
 わたしは困惑した。幽霊が幽霊怪談を語り始めたのか? それとも、市長の幽霊との対決、ということなのか?
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●お待たせしました

 少し間が空いてしまいました。当初から本連載は隔週ペースというハイペースで書きたいことをあれこれ綴って参りましたが、文字数からすると“異常”な頻度を少しセーヴしつつ……他の連載や企画と並行する形で、『ウォーハンマーRPG』についてもじっくり語っていければと考えますので、どうぞ長い目で見てやってください(『ユーベルスライク冒険集』についても語り足りないですし)。

●新作サプリメント、これが面白い

 英語版の新しめのサプリメントで岡和田のお気に入りは、『ザルツェンムント:塩と河の都(Salzenmund: City of Salt and River)』です。
 ザルツェンムントとは、エンパイア北部の両方ノードランドの首都で、名目上の君主はテオドリック・ガウサー選帝侯ですが、勅許自由都市として、アルトドルフのように権謀術数が蠢くというよりは、「半分ノース人」と揶揄されるような、のびのびして大らかな気風で知られています。そのぶん好戦的な面もあるようです。
 私は都市設定サプリメントが好きで、第2版のときはミドンランドの首都ミドンヘイムの都市サプリメントも兼ねた『ミドンヘイムの灰燼』の企画を持ち込んで自分で訳したほどなのですけど、まさかミドンヘイムよりもさらに北にあるザルツェンムントが単独のサプリメントになるとは、夢にも思いませんでした。まさしく情熱が奇跡を呼んだ1冊です。

●日本語版の新作『ライクランドの記念碑』

 で、日本語版はどうなのか、という話しですが、これまためでたく、『ウォーハンマーRPG』第4版の日本語版公式サイトでアナウンスされていた新作サプリメント『ライクランドの記念碑』が出版されました!
 PDFオンリーで700円、15頁構成と、取り回しのいい小著ですが、中身はぎっしり詰まって濃厚です。何より、「このサプリメントは『ウォーハンマーRPG』じゃないと出せない」感が素晴らしい!
 こちらは編集の伏見義行さんが翻訳を手掛け、私と待兼音二郎さんが監修に入っています。
 しかしいったい、なぜ「記念碑」? 原著のタイトルは「Monuments of the Reikland」ですから、忠実な訳になっています。それでは商品紹介を見てみましょう。

 『ウォーハンマーRPG ライクランドの記念碑』には、五つの注目すべき記念碑、彫像、塔が記されており、プレイ中のキャンペーンに登場させたり、新たな物語を始めるきっかけづくりとしたりするのに最適だ。
 各記念碑の外観の詳細な描写だけではなく、その記念碑に秘められた危険な秘密や陰謀などが、新たな冒険の幕開けとなるだろう。

 ――うーん、わかったような、わからないような? 「五つの注目すべき記念碑、彫像、塔」って何なのでしょう? 『ウォーハンマーRPG』ファンの「鋼の旅団」さんは、これは「シグマー像とホエスの白い塔とストーンヘンジ」とおっしゃっています。
 『ウォーハンマーRPG』をご存知ない方には馴染みが薄そうな言葉を解説すると、シグマー像とは、エンパイア建国の英雄にして今は神となった者の像ということ。ホエスの白い塔とは、ウルサーン諸島にあるハイ・エルフの塔のことで、あらゆる知識が集積され、至高魔術(ハイ・マジック)の研究がなされている場所。「ホエス」とは、『ウォーハンマーRPG』第4版のルールブックでは、エルフの神々に分類されています。
 どれもオールド・ワールドでは有名な固有名を冠するもので、そう思いたくなります。

●5つの記念碑とはどんなもの?

 ただ、『ウォーハンマーRPG』は、私たちの予想の遥か先を行ってくれておりました。『ライクランドの記念碑』で解説されるのは、次の5つ。

・ホルガー・ラウク市長の立像
 凶作なのに小麦粉の供給を操作して私服を肥やした市長が、自画自賛のために造った彫像。市民から嫌われているので、頭部は取れて代わりに腐ったカブが置かれている。

・アウエルスヴァルトの戦いの戦没者追悼碑
 ゴブリンやオークの軍勢から人々を護るため、決死隊を組んでドワーフが大砲(キャノン)の弾込めをする時間を稼いだマルタ・フォン・ヴァレンシュタイン女男爵らの108名に及ぶ戦没者の追悼碑。

・フォン・プロツカナルの時計塔
 分や秒まで刻まれるばかりか、メリーゴーランドまで付いている精巧な機械仕掛けの時計塔で、製作者の技師ゲルト・フォン・プロツカナルはこれがため狂気に陥った。

・マッケンシュタインの鷹の像
 オーベルヴァルト群とマッケン男爵領との境界を示す鷹の像で、幸運の印とみなされており、旅人は嘴部分に触れると前途を見通すことが可能となる。

・パラノスの柱
 翡翠の学府の主席魔道士(パトリアーク)であるガーヴァン・パラノスにちなんだ脊柱で、高さは67フィート(約20メートル)を越え、隅々までが植物で覆われている。

 興趣を損ねない程度に記念碑群の概要を伝えると、こんな具合になります。実に細かいものながら、固有名を入れ替えれば他の地方――さらには他のファンタジーRPGでも――使えそうな、そんな設定ばかりなのです。
 こうした普遍性があるにもかかわらず、こんなサプリメントが発売されるのは『ウォーハンマーRPG』くらいだろうと思わずにはいられないところが、実によく“わかっている”のです。
 各々の記念碑には、あっと驚く秘密や仕掛けが隠されており、これが謎と危険に満ちた世界オールド・ワールドの深奥に、それぞれの切り口から踏み込んでいるのが読ませます。もちろん、NPC等の関連する追加データも収められており、初心者GMでもこの記念碑を扱うシナリオをデザインしたくなるのは請け合いですし、手慣れたGMならば個々の設定だけで、そのままセッションが出来てしまうことでしょう。
 加えて、個々の記念碑にまつわる設定の拡張案も、アドベンチャー・フックとして記されているといった具合で、ぬかりがありません。

●『ライクランドの記念碑』を活用しよう

 もともと、『ウォーハンマーRPG』第4版「古代の遺跡と恐るべき廃墟」の節があり、太古のちからが眠る闇石の輪、〈大魔法使い〉コンスタント・ドラッケンフェルズの塔、危険な山頂に現れるヘルスパイア、息を飲むような絶景ロウレィ群礁、歌う太古の支石墓(ドルメン)、といった曰くありげな場所が紹介されており、読者はそれらを参考にシナリオを作成することができました。
 ただ、『ライクランドの記念碑』は、公式サイトから無料ダウンロードできる『ライクランドに冒険あり!』とはまたテイストが異なります。思うに、記念碑というブツにこだわったところがオールド・ワールドらしさなのではないかと。
 つまり、今回の冒頭で紹介した『ザルツェンムント』のように街まるごとをデザインするのではなく、だからといってあまり抽象的にもなりすぎず、どの都市にでも応用できて具体的にイメージしやすいのが記念碑本、ということなのでしょう。
 「この記念碑の秘密はこういうのかな?」と予想したくなるユーザー心理を、絶妙なバランスで突いているのです。
 「ホルガー・ラウク市長の銅像」について言えば、汚職の疑いが濃厚な政治家が自身の銅像の建立を企てる……これは現代日本においても、ついこの間ニュースになったばかりの話でして、同種の事例は日本のみならず世界各地で起こっていることなのですね。
 そういう意味では、本書はいつの時代にどこの場所で起きてもおかしくない事件を題材にしているわけですが――世界観的には矛盾がないものの――あっと驚くどんでん返しを仕掛けることで、既視感を満足度に変えるための工夫がなされているのです。
 是非『ライクランドの記念碑』をはじめ、『ウォーハンマーRPG』第4版の各種サプリメントを入手し、フル活用なさってみてください。
 翻訳・紹介している側も、皆さんの応援こそが力の源であるのです。

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『ウォーハンマーRPG ライクランドの記念碑』
 オールド・ワールドの五つの注目すべきモニュメント
 発売日:2022年10月
 価格:700円(+税) *PDF版ダウンロード販売のみ
 https://conos.jp/product/whrpg-5elements/

『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
 https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/


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