2022年8月11日配信の「FT新聞 No.3487」に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.8が掲載されています。見どころは、詩を使って世界の成り立ちを説明するところでしょうか。マスタールールセットの設定を踏襲しています。戦闘も激しい!
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.8
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照しています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/489882767.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第9話「薄明」(前編)の内容となります。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、6レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、5レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、6レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。戦士、6レベル。
バーグル・ジ・インファマス/悪の魔術師。
ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
バリムーア/リッチ。
ステスシル/バンシー。もとカラーリー・エルフ。
ハラフ、ペトラ、ジルチェフ/カラメイコスの建国神話にちなんだ伝説の人物。
テレリィ・フィンゴルフィン/ロスト・ドリームの島のエルフ。
ハービンガー/ロスト・ドリームの島のエルフ。
ロキ/「エントロピー」を司るイモータル。
●グレイの死
「悪名高き」魔術師、バーグル・ジ・インファマスを撃破することに成功した一行。しかし、「クラウドキル」(死の雲)が晴れていくと――エルフたちの死体に混じり――グレイまでもが倒れていた。
すでに事切れている。
その顔は赤黒く、表情には苦悶の跡が生々しい。
そして隣には、彼の使い魔だった黒猫も倒れている。また一人犠牲者が……。皆、途方に暮れる。
ただ一つの慰めは、バーグルが持っていた、多量のポーションとマジックアイテム、それに数々の魔法が記されたスペル・ブック(呪文書)だけだった。
なかでもやっかいだったのは、バーグルが身につけていた「セキュリティー・ポーチ」(警報機能付き財布)だった。自我を持っており、パーティの神経を逆撫でするようなことばかり告げるのである。
●エルフの提案
ゴリーデルが申し出た。「生命の樹」の力を使えば、彼を生き返らせることができるかもしれない、と。
エルフたちにも多数の犠牲者が出たという事実を考え、戸惑うパーティ。
しかし、ゴリーデルは恩人に対する当然の報いだ、と言い張って主張を曲げなかった。
ようやく、バーグルがかくも執拗に狙い続けるロスト・ドリームの湖の秘密に関心が向くようになったというのだ。
ロスト・ドリームの島が湖に沈んだときに受けた呪いのために、カラーリー・エルフでは、島に近づくと気が狂ってしまう。
だが、バーグルがあれほどまでに執着していたからには、きっと何かがあるはずだ。
その謎に触れることのできる機会は、今しかない。
グレイを蘇らさなければ……。
パーティは、エルフの申し出を受けることにした。
●「生命の樹」の奇蹟
ゴリーデルの案内によって、一行は「生命の樹」のある広場に到着した。
天まで届くかと思われるその威厳たるや、とても言葉で言い尽くせないほど。
けれども彼らは、むしろ不思議な親しみを感じた。
皮肉屋のヨブでさえ、ただ黙って樹を見上げている。
多少の陰りを見せてはいたが、樹は日の光を浴びて燦然と輝いていた。
エルフの族長は説明する――「生命の樹」は、死者への「想い」を媒介するにすぎない、と。
すなわち、死者を甦らせる根本的な力は、それを願う人々の内部に根付いている。
「樹」は、その力を増幅するのだ。
エルフの導きに従い、一行はグレイへの思慕を高めていった。
すると、「生命の樹」からまばゆいばかりの光が発せられ、グレイのもとへと集まってきた。
光は一度途絶えかけたが、なんとか拡散を免れた。
そして――グレイは息を吹き返した。
●バリムーアの襲撃
狂喜する冒険者たち。
しかし、それも束の間、辺りに暗雲が立ちこめてきた。何やら強大で邪悪な力が近づいてきているのである。
とっさに戦闘態勢を整える一行。
――ローブ姿の男がそこにいた。
フードから垣間見える相貌は、生ける者のそれではない。
蛆のわいた骸骨そのものである。
そう、冒険を志す者ならば必ずどこかで耳にする、「死王」リッチの姿があったのだ。
彼らは直感的に彼こそが、「生命の樹」を狙う邪悪な存在、バリムーアだと気づいたのである。
リッチはすさまじく強力だった。
パーティは初めて、全滅への恐怖というものを痛感した。
とりわけヨブは、バリムーアの放つライトニング・ボルトの直撃(注:ダメージ20d6、セービングスロー成功でダメージ半減)をまともに受け、半死半生の重体である。
だが、一行も伊達に経験を積んできたわけではなかった。
恐るべき猛攻を見せ、バリムーアをたじろがせたのである。
なかでも、彼はタモトの斧に並々ならぬ畏れを感じていたようだった。
予定していたはずのヴァンパイアの援軍もなかなか現れず、100ポイントを超えるダメージを被ったバリムーアは、かろうじて「マジック・ドアー」の呪文で退散したのであった。
●哀しみのあとで
次から次へと現れる、思わぬ敵の数々との戦いですっかり疲弊したパーティ。
生命の樹への危険は回避されたが、ぐずぐずしてはいられない。
カギは、ロスト・ドリームの島にこそある。
その日はとりあえず、バーグルとバリムーアによって殺されたエルフたちを荼毘に付すこととなった。
悲しみに暮れるエルフたち。
葬式のあとの集会で、ゴリーデルは今度こそ、正式に彼らに島の探索を依頼することにした。
今度は、誰も反対する者はいない。
詩人ドワーフのタモトと「語り部」技能を持つプロスペルは、共に手をとり、哀しみの歌を歌う。
シャーヴィリーはそれに合わせて得意の踊りを披露するが、転んでしまい、大失敗。
しかし、そんなことも気にならないほど、彼らの悲哀は深かった。
一行は「エルフの友」と認められ、永遠の友情の絆が誓われた。
なかでも弓使いのリアには、特製のエルブン・ボウ+3が贈呈された。
一方、甦ったばかりのグレイはその隙を見計らって、なんとエルフたちの倉庫に忍び込もうとする!
いたずら好きの性根は、奈落(アビス)より帰還しても直っていないようだ。
が、さすがにそうは問屋が降ろさない。
エルフたちに乞われて、タモトがその場を見張っていたのである。
●湖への旅路
翌日となった。
エルフたちに見送られ、湖を目指す一行。
途中、シャルガグと名乗る奇妙な森の小人や、ジェリアンという騒々しい鳥人間をやりすごし、歩を進めていった。
時はすでに、フラーモント(4月)の下旬になっていた。
いつしか、周囲には霧が立ちこめている。
しかし、そのなかから、かすかに、湖らしきものが見えてくる。
指輪をはめ、一呼吸置くと、パーティはおそるおそる近づいていった。
湖との距離が狭まるにつれ、霧は濃さを増していく。けれども、湖の縁にまでたどり着くと、不思議なことに、その周りだけ霧が晴れていた。
そして、一行は、自身に奇妙な変化が起きているのに気がついた。
なんと、ヨブとグレイ、そしてタモトとプロスペルの性格(アラインメント)が変わってしまったのだ。
「ケイオティック」(混沌)のヨブとグレイは「ローフル」(秩序)に、反対に「ローフル」のタモトとプロスペルは「ケイオティック」になってしまった。
ニュートラル(中立)のリアとシャーヴィリーはいつも通り、変わった様子はない。
不思議なことに、ケイオティックの権化のような破戒僧ジーンにも、変化の兆しは見られない。
いつもと正反対なまでに様子が異なってしまった一行は、さすがに戸惑いを隠せない。
特にタモトとプロスペルは、日頃胸に溜めていたやりきれない思いが一気に解き放たれてしまい、まったく手がつけられないほどだった。
だが、タモトはアラインメントが変わると、手にしている斧が、いつもよりしっくりくるように思えてならなかった。
ともあれ、目的は果たさねばならない。
一行は湖に足を踏み入れた。
●ロスト・ドリームの湖
彼らは湖を底に向けて歩いていった。
水はとても澄んでいて気持ちいいが、生息している生き物も多くてうんざりさせられる。
電気ウナギやサメの猛攻をくぐり抜け、マン・オー・ウォー(80本の触手を持つ大クラゲ)をやりすごし、さんざんあたりをさまよった。
数時間経って、ようやく、神殿らしきものが見えてきた。
朽ちた門に手をかけ、ゆっくりと中に足を踏み入れる一行。
神殿そのものは、かなり古い作りになっている。
あちこちを探索し、スペクターを退治したり、ちょっとしたマジックアイテムを発見したりする一行。
そして、いよいよ神殿の中央部の柱が林立する部分に足を踏み入れると、突如、魔法の罠が発動し、パーティの半数が麻痺してしまった。
呼応するかのように、前面に据えられていたオリハルコンと青銅の像が動き始めた。
青銅の像はグレイの呪文「ウェブ」によってすぐさま無力化されたが、問題なのはオリハルコンの方である。
なんと、像は2ラウンドに1回、「ライトニング・ボルト」を放つことができるのだ。
しかも、麻痺したキャラクターたちに対しては、背後からシャドウが4体襲いかかってきた。
またもや危機であるが、彼らは大ダメージを受けつつも、辛くも勝利をおさめることができた。
忌々しげに、ばらばらになったオリハルコンの像を眺める一行だったが、軍資金とするため、回収するのを忘れない。
リアには像の形が、以前ヴォーテックスにて出会った、「ザ・ウゥープス・マン」と名乗った謎の男とどこか似ているように思えてならなかった。
●第一のタペストリ
ジーンの持つ「ヒーリング・スタッフ」でなんとか傷を治し、さらに奥へと進んでいくパーティ。
そこにはタペストリが掛けてあった。何やら詩文のようなものと、それに則した絵が描かれている。
新王は深い思いに沈んでいた。
清らの花の話をはじめて耳にし、その予言に
心をひそかに打たれ、激しい愛を覚えた夜の夢と
聞きおよんだ物語がこよなく偲ばれてきた。
胸にしみる声は今なお耳にやきつき、
旅の人が宴を辞したのはつい今しがたのよう。
ときおりさす月光が風にがたつく窓辺を照らし、
青年の胸を灼熱の炎が燃えさかるようだった。
不思議な時代が過ぎ去り、まるで淡く消えゆく夢のようだった。
「ペトラよ」と王が言った。
「愛する者の心の切なる願いとは何であろうか。
教えておくれ、その者に手を貸そうではないか。
力はわれらのもの。そなたが天上にまた幸福をもたらすとき、
すばらしき時代がやってこよう」
「時がたがいに睦み合うならば、
未来が現在と、また過去と結ばれ、
春が秋に近づき、夏が冬と交わり、
青春が戯れる真面目さで老年に肩を寄せれば、
わがいとしの殿方、そのときこそ苦痛の泉は枯れ、
すべての感覚を満たす望みは叶えられましょう」
王妃はそう答えると、麗しい王に抱擁された。
「よくぞ話しておくれた。
ついに至上の言葉がまことそなたの口から発せられた。
それは、心ある人の口元に浮かんではいたが、
そなたの口をついてはじめて、清らに力強く響きわたった。
急ぎ馬車を曳け、われ自らおもむいて、
まずは一年の四季を、それから人間の四季を迎えるとしよう」
「王」がハラフを指し、「ペトラ」が伝説にあるハラフの妻、女王ペトラであることはわかったものの、謎を解くカギにはなりそうにない。
やむをえず歩を進め、二つ目の神殿に入る。
●ステスシルの悲劇
二番目の神殿も、基本的な構造は最初と同じだった。
またもやタペストリがある。
そしてその前には、エルフの形をとった幽体が立って、すすり泣きをあげていた。
不死の魂、ハウント(ホーント)である。なかでも、これは「バンシー」という種類のハウントらしい。
「ローフル」なグレイが近づくと、バンシーの周りのエクトプラズムに阻まれ、結果、彼は10歳老化してしまった!
だが、リスクは大きかったものの、なんとか話を聞くことができた。
このバンシー(名前はステスシル)は、かつてはこの神殿に住んでいたカラーリー・エルフだった。
神殿は、この地を統べる「力」を統御するための施設で、ステスシルはその守護者だったのである。
しかしある時、「力」が暴走し、調和は破れた。
こうして島は湖の底に沈み、エルフたちはアンデッドとなってこの地に縛り付けられたのだった。
ここまで語るとバンシーは、これ以上生きていることほど苦しいことはない、自分を哀れに思うのならば殺してくれ、と嘆願した。
「ローフルの」ヨブはそれを聞き入れ、ひと思いにステスシルを斬った。
残されたタペストリにはこう書かれていた。
●第二のタペストリ
疲れ果てた時の、疲れた心よ。
善・悪の網をきっぱり切って、来い、
おまえの魂は、いつまでも若い、
霧はいつも輝いていて、薄明は灰色だ、
中傷の火に焼かれながら、
希望はなく、愛も失われていくけれど。
来い、心よ、丘が丘に連なるところへ、
そこには、虚ろな森と、丘をなす森の、
神秘的な兄弟たちがいる、
そこでは変わっていく月がその意志を遂げ、
神は佇んで寂しい口笛を吹き、
「時」と「この世」はいつも飛び去り、
愛よりも灰色の薄明が優しく、
希望よりも朝の露が親しいところなのだ。
●最後の神殿
3つ目の神殿は、他の二つよりもずいぶんと規模が大きかったが、基本的な構造は同じであった。
巣喰っていたベルヤー(水中に住むヴァンパイア)を退治して奥に進むと、左右対称の四つの部屋があった。中央には台座が据えてある。
いったん離れ、神殿の中央を進んで行くと、男女二人のエルフが立っていた。
男はテレリィ・フィンゴルフィン、女の方はハービンガーと名乗った。
男は手にワンドを、女の方はロッドを持っている。
背後には、虹色の空間が口を開けていた。
彼らこそが、この場所で一行を待ち受けていたカラーリー・エルフだった。
二人はうなずくと、タモトの持つ斧の秘密と、この神殿のいわれを語りはじめた。
●『武器』の秘密
ハラフ王が最後の戦いを終え、天上に召されたとき、彼が手にしていた『剣』は、この神殿に納められることとなった。
『剣』のほかにも、彼の仲間たちが持っていた武器はそれぞれ、その最も信頼できる部下の手によって、ここに運ばれた。
武器はそれぞれ、このカラメイコスの地を統べる、ある種の「力」を象徴していた。
ハラフは、その「力」が拡散し、悪しきものの手に渡ることを恐れて、武器をこの地に集め、安定を保つことにしたのである。
武器は全部で4つ。『槍』と『斧』と『メイス』、そして『剣』である。
『槍』に属する第一の「力」とは「物質」である。それは破壊に耐え、不変と安定を象徴する。ローフルの性格とファイターのクラスに属し、「時間」と敵対し、「思考」に秩序を与える。また、それは「大地」から力を得る。
『斧』に属する第二の「力」とは「エネルギー」である。それは数多くの力と活動の源である。ケイオティックの性格とデミヒューマンに属し、「時間」による荒廃に対抗して、「物質」を最も高い領域に押し上げようとする。それはまた、「炎」から力を得る。
『メイス』に属する第三の「力」とは「時間」である。それは万物に変化をもたらし、大局的な安定を保つ。あらゆるところに存在し、過去の流れを再循環させる。ニュートラルの性格とクレリックに属し、変化に対応した「物質」と敵対する。そして、「エネルギー」の減少をもたらし、「思考」に歴史の教えを授ける。「時間」は「水」から力を得る。
『剣』に属する第四の「力」とは「思考」である。すべての存在を分類し、他のあらゆる領域をその道具とする「思考」こそが、神(イモータル)の本質である。「思考」は具現にして哲学、そして理解を象徴する。あらゆるアラインメントとシーフのクラスに属し、「エネルギー」の混沌とした過剰さに敵対し、「時間」の効果を操作して、「物質」に、力と秩序と形を与えようとする。
そう、タモトの持つ「ジルチェフの欺きの斧」こそが、この「エネルギー」に属する伝説のアーティファクトだったのである。
しかし、他の武器はどこにあるのだろう?
●「エントロピー」
一行の疑問に、テレリィは力無く首を振った。「エントロピー」の力によって、すべては失われてしまったのだ。
「エントロピー」は、別名「死」と呼ばれ、その目的はあらゆるエレメントとは無関係に、この多元宇宙そのものを完全に破壊することにある。
「エントロピー」は多元宇宙という名の織物のほころびであり、腐敗・風化・消失を象徴する。これは万物に停止をもたらし、忘却を引き起こす。
そのうえ、「エントロピー」そのものは他の力がなくては存在できず、忘却をもたらす前に、まず征服の対象を求める。
「エントロピー」は「物質」を破壊し、「エネルギー」を停止させ、「時間」を停滞させ、新たな「思考」を止めようとする。
「エントロピー」を司っているのは、「ロキ」という名のイモータル(神)であった。「ロキ」は、神殿を守っていたエルフたちを、巧みな言葉でたぶらかして、神殿内に「エントロピー」の力を持ち込んだ。
征服のための媒体を得た「エントロピー」はすぐさま膨張を重ね、「武器」の力は信じられないほど大きなものとなった。エルフたちは有頂天となり、本来の職務を忘れて、「力」を用いて気ままに振る舞った。
そのため、彼らは神の罰を受けたのである。神殿は沈み、武器はいずこかへ拡散した。
後に残ったのは、ロキの高らかな笑い声だけだった……。
――そこまで語り終えると、テレリィは一息ついた。大きく息を吸って、続ける。
武器はしばらくの間はそのなりを潜めていた。しかし、最近になってその力の暴走が顕著になってきた。
もはや一刻の猶予もない。武器を集め、しかるべきところにて「安定」させる必要があるのだ。
彼らの説明によれば、一つ目のタペストリの詩句は「安定」を歌っており、二つ目のそれは「エントロピー(薄明)」の浸食を象徴しているとのことだった。
●シャドウ・エルフ
そのときだった。
彼らの背後の虹色の空間から、髪や肌の色が異なるほか、まったく瓜二つのエルフが現れ、絶叫した。
「騙されてはならない、こいつらの言うことはすべてまやかしだ!」
エルフの亜種、シャドウ・エルフである。
彼らは、エルフの国アルフハイムの地下に「星の都(シティ・オブ・スターズ)」という国を建設して住まい、地上での覇権を虎視眈々と狙っているらしい。
アルフハイムのエルフたちの側は彼らのことを快く思ってはおらず、双方はことあるごとに敵対しているのである。
男は告げた。
「奴らに武器を渡せば、それこそ世界の破滅が訪れる。我らと一緒に来て「星の都」を地上に建設するための力を貸すのだ。それこそが、最善の道である!」
戸惑う一行。シャドウ・エルフたちは言葉巧みに語りかける。
女のほうは、「星の都」がシャドウ・エルフのみならず、あらゆる生き物にとってどれだけすばらしい楽園であるのかを嬉々として歌い始める。
※途中引用された詩は、ノヴァーリス『青い花』(青山隆夫訳、岩波文庫)と、イェイツ『ケルトの薄明』(井村君江訳、ちくま文庫)の掲載作を下敷きに、シナリオに合わせて変更・改訳を加えたものです。
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