2022年07月18日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.7
2022年6月30日配信の「FT新聞」No.3345に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.7が掲載されています。いよいよパーティはロストドリームの島へわたり、カラーリー・エルフたちと対峙します。そこにライカンスロープ勢が襲いかかり……。
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.7
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照しています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/489220627.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第8話「泡沫」の内容となります。いよいよパーティは、ロスト・ドリームの島へと赴きます。
●登場人物紹介
タモト/詩人ドワーフ、5レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、5レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、5レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、4レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、6レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、5レベル。
プロスペル/ペンハリゴンに派遣中の騎士、5レベル。
イリアナ・ペンハリゴン/アルテリスの異母姉。ペンハリゴン家の領土と爵位を要求していた。
ヴァーディリス/ヒュージ・グリーン・ドラゴン。
アルテリス・ペンハリゴン/ペンハリゴンの女男爵。
バーリン/以前一行に同行していたドワーフ。
ゴリーデル/カラーリー・エルフの長。
ジターカ/ハラフ王の第一の部下。
シングル・アイ/隻眼のカラーリー・エルフ。
バーグル・ジ・インファマス/ブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師。
●プロスペルの決断
イリアナ・ペンハリゴン、そしてオーガン将軍による「死の収穫」の野望は打ち砕かれた。
だが、緑竜ヴァーディリスの襲撃によってペンハリゴンが被った被害は、まことに甚大なものであった。
荒廃した街の復興という激務の合間をぬって、女領主アルテリスは、プロスペルを呼び寄せ、今後の身の振り方を尋ねた。
彼の名誉は回復されたものの、事件の背後にブラック・イーグル男爵や「アイアン・リング」、それに緑竜ヴァーディリスまでが関わっていたとわかった今では、彼がこれまで以上の危険にさらされるのは間違いないからだ。
プロスペルは多少煩悶したものの、ケルヴィンには帰らない、と答えた。故郷に波乱の種を持ち込むわけにはいかない。
それよりも、彼は現在の仲間と行動を共にし、自らの手で運命を切り開いていくことを選んだのだ。
●疫病神
仲間の待つ「真鍮製の王女様」亭へと戻ったプロスペル。
だが、彼の口から、「同行したい」という申し出を聞いたヨブは、激しく怒る。プロスペルを足手まといとしか思ってないのだ。
返事代わりに、頭からエールを浴びせかける。
周囲に、険悪な雰囲気が漂った。
が、シャーヴィリーのとりなしなどもあって、とりあえず彼を一行に加える、ということで話はまとまった。
しかし、ヨブはいまだに不服なようで、
「何日でこいつが旅に音を上げるか、賭けをしようぜ」
と、グレイに誘いかける始末である。
旅支度もまとまり、いざ一行は当初の目的を果たすために、ロスト・ドリームの島へと出発した。
ペンハリゴンの門を出ようとしたときに、ぼろをまとった浮浪者らしき一団が、彼らの前に立ちふさがった。
ドラゴンの被害を受けて、住居や職や家族を失った住民たちらしい。
彼らはパーティを「疫病神」と罵り、腐った野菜や果物、犬の死体などを投げつけてきた。
しかし、ヨブが一喝すると、彼らは恐れをなして、すごすごと道を譲ったのだった。
●ハイリーチ川の渡し守
さて、ここからどの道をたどるべきか。
ペンハリゴン沿いを流れるハイリーチ川まで赴くと、漁師の小屋らしきものが見えた。
一行は、なかに住んでいた老人に船を出してくれと交渉するが、なかなか話がまとまらない。
漁の時期でもないのに、船を出すのを渋っているようだ。
相場の何倍もの金を積んで、ようやく船を出すことを承諾させる。
だが、老人と話しているうちに、彼がかれこれ一週間ほど前に、船で一人のドワーフを運んだことが明らかになった。
老人はその件に関しては何か嫌な思い出があるらしいが、あえて口に出すことはしなかった。
無事に川を渡りきると、老人は、湿原には十分気をつけるようにと忠告し、帰っていった。
パーティは地図を確認し、ロスト・ドリームの島の近くにあるヘイヴンという遺跡を目指して歩を進めた。
●湿原での戦い
この辺り一帯に広がる湿原(ムーア)は大変歩きづらい。
馬を連れているパーティではなおさらである。
ぬかるみに足を取られながらも、懸命に一行は先を急いだ。その時である。グレイの使い魔である黒猫ルーが叫んだ。
何かが近づいてくるというのだ。
やってきたのは、4体の狼であった。
遠距離攻撃を使い、接敵するまでに何体かは退治したが、それでも2体がこちらに向かってくる。
1匹は、黒牛かとみまがうほどの体躯を有する漆黒のヘル・ハウンド。
それとは対照的に、もう1匹は純白の毛皮に身を包んだアイス・ウルフであった。
かつてアイス・ウルフのブレスで命を落としたことのあるヨブにとっては嫌な相手である。
が、多少苦戦したものの、なんとか2体とも撃破することに成功した。
しかし、こんな開けた場所でなぜヘル・ハウンドが。疑問に思わずにはいられない。
そのうえ、その後もジャイアント・ビーの一群に襲撃されるなど、騒動の種は尽きそうにない。
●ジターカの塚
翌日。再び一行は湿原をさまよう。
と、そのなかの丘のような部分で、奇妙な塚のようなものが見つかった。
塚には、おそらくハラフ王の時代にまでさかのぼるほど昔に使われていた言葉で、「とこしえに思惟を続けし者ここに」と書かれている。
リアとグレイが塚を深く調べると、かすかに人名らしきものが彫られていた。
それによれば、ここには、ジターカという人物が葬られているらしい。
ジーンの知識によれば、ジターカとは、伝説に謳われるハラフ王の部下であった傭兵隊長の名前だという。
ちょうど、タモトの『斧」の前の持ち主であった「ソールジェイニー」が、ハラフ王の仲間、「狩人ジルチェフ」の部下だったように、英雄には忠実な手下が必要不可欠なのだ。
彼らが古代の伝承に思いを馳せていると、塚がスライドし、その下に石の階段らしきものが現れた。好奇心に負けて、パーティは隊列を整え、中を探検してみることにした。
●廃墟の奥へ
階段を下りると、そこはこじんまりとした石室だった。
行き止まりかと思われたが、タモトが近づくと、突然うなるような音を立てて、壁が横に動き始めた。
これは何かあるに違いない。
パーティは気を引き締めて、奥へと足を踏み入れる。
と、突如先頭のリアが麻痺してしまった。
罠に引っかかってしまったのだ。
そして、戦闘体勢を整える間もなく、部屋の奥から、らんらんと目を光らせた亡霊どもが襲いかかってきた。レイスである。
リアをかばいながら、必死で一行は戦いを続ける。その甲斐あって、なんとか死霊は黄泉へと帰った。
しかしながら、自慢の『斧』でレイスをぶったぎっていたはずのタモトが、レイスによって精気を抜かれ(=レベルドレインされ)てしまった。
気を取り直して、奥へと進む一行。
そこは前の部屋より広めの石室で、その中央には、薄汚れたローブを纏った男が腰掛けていた。
男はうつむき、何か深い問題について考えて込んでいるようだ。
その周りには、悪意に満ちた表情をした、人魂のようなものが4体ほど飛び回っている。
パーティが近づいていくと、人魂は彼らを格好の獲物だと見定め、攻撃を仕掛けてきた。
だが、彼らとて、もはや駆け出しではない。なんなく人魂を葬ることができた。
すると、思いの淵に沈んでいたローブの男が、かすかに顔を上げた。
人魂(マリス)と化していた邪悪な想念が断ち切られたがゆえに、男の精神がある程度解放されたようなのだった。
●ジターカの話
タモトが持つ斧を通して、男は語り始めた。それによると、男はやはりジターカ、ハラフ王の第一の部下であった。
ハラフ王が獣人の王と最後の決戦に望んで相打ちになったときに、彼はハラフの持っていた武器を受け継いだのである。
その後ハラフは、伝承の通り天へと昇った。
地上に残ったジターカは、ハラフ王によってもたらされた均衡(平和)のバランスが崩れないように、王が戻ってくるまで見守り続けるという役目を負った。
しかし、いつしか、その「力の均衡」は破れようとしていた。
「力」そのものが膨張を続け、お互いを浸食しようとしているのである。
そして、それを食い止めようにも、彼が受け継いだ武器は何者かよって奪い去られていた。
このことが決定打となった。
取り返そうにも、ジターカは長い間観察者であることに甘んじ、行動する力を失ってしまっていたのだ。
かくして彼はこの世界を形成する要素の膨張、そしてその先に位置する破滅について、絶えず考え続け、思考そのもののなかに沈潜するようになってしまったのだった。
また、彼は、タモトの持つ斧が、「エネルギー」を象徴していると示唆した。「エネルギー」が膨張を続けると同時に、斧そのものも成長していく。
そして、「エネルギー」が果てしなく膨張を続けていけば、「力の均衡」が崩れ、大いなる波乱が訪れ、世界に破滅がもたらされてしまう。
タモトは今ひとつ腑に落ちない様子で、どうして、それぞれの力の均衡が崩れてしまったのかをジターカに問いただした。
ジターカはしばらく黙っていたが、やがて答えた。
それは、「エントロピー」の力によるものだと。
「エントロピー」とは、すなわちすべてを無に帰す、「死」の力を意味する。
これが、すべての原因なのだ。
そう告げると、ジターカは長年の懊悩から解き放されたことを喜ぶかのようにうっすらと笑みを浮かべ、いずこかへ消え去った。
ジターカの部屋の奥には、量は少ないものの高価な装飾品が残されていた。その中には、魔法のアイテムも含まれていた。
特にグレイは、「ライトニング・ボルト」の書かれたスクロールを手に入れ、躍り上がらんばかりに喜んだ。
●馬がない!
さて、塚から無事地上に戻ると、タモトの斧が一回り大きくなっていた。ジターカと会ったことで、「エネルギー」の力が解き放たれてしまったのか。
とにかく、時間がない。一行はロスト・ドリームの島へと急ぐことにした。
しかし、肝心の馬がいない。怪物に襲われたのか、それとも逃げ出したのか。
原因はわからないが、いなくなったことだけは確かである。
としても、他に移動の手段があるわけもなく、パーティは湿原を歩いていくことにした。
●バーリンとの再会
その途中で、彼らは戦いが行われているのを目にした。1人のドワーフと2体のヒル・ジャイアントが争っているようだ。
しかも、ドワーフはどうやらバーリンらしい。
一行はさすがに知り合いを見殺しにはできないと、ヒル・ジャイアントに攻撃を仕掛けた。
戦闘が終わると、ドワーフは、また助けられたな、と苦笑いした。
パーティは、どうして単身こんな危険な地に来たのかを問いただしたが、彼はのらりくらりと質問を受け流すばかりである。
その言によれば、ここから東に進んだブラック・ピーク山脈のふもとにはドワーフの住む鉱山があって、そこに住む親族を訪ねていく途中らしい。
しかし、一行が聞いたところによれば、その辺りにそんな集落は存在しない。
もっとも、大昔にはあったらしいが……。
彼らがその点を問いただすと、ドワーフは平然と答えた。
ドワーフの慣用句では、「親族を訪ねる」ということは、すなわち「墓参りに行く」ことである、と。
つまり彼は、わざわざロックホームからやってきたついでに、かつて祖先が暮らしていた鉱山を拝みに行くと言いたいのだ。
パーティはどこか釈然としないものを感じたが、深くは詮索せずに、バーリンに別れを告げた。
●カラーリー・エルフの森で
それから何日も、一行は湿地を旅した。
そしてようやく、湿地の端が見えてきた。先には鬱蒼とした森が広がっている。
地図によれば、どうやらヘイヴン、そしてロスト・ドリームの島は、この森の中にあるようだ。
足を踏み入れると、どこからか、敵意に満ちた視線が注がれるのを感じられた。そして、野営中に、弓をつがえたエルフの一団に囲まれてしまった。
エルフの長らしき男は「ゴリーデル」と名乗り、許可なくこの森に立ち入る者はすべからく死すべきである、と告げた。
一行は、ただ目的地であるロスト・ドリームの島へと向かおうとしただけだと弁解するが、エルフたちは全く聞く耳を持たない。
しかも、ゴリーデルによれば、この先にあるのは湖だけで、どこにも島などないらしい。
●デビル・スワインとの戦い
しばらく緊張状態が続いたが、一人のエルフがあげた悲鳴で、緊張の糸が断ち切られた。
ライカンスロープが襲撃をかけてきたのだ!
エルフにとって、ライカンスロープはまさしく天敵である。
なにしろ、ライカンスロープの攻撃を受けてその毒が体に回ると死んでしまうのだ。
ジーンはこの隙に逃げ出そうとする。
が、それよりもこの場でエルフたちに恩を売っておいたほうが得策だろうと思い返し、応援に向かうことにした。
襲ってきたのは、デビル・スワイン(悪魔豚)。
ライカンスロープの中でも最強の部類に属するモンスターである。
一行は二体のデビル・スワイン相手に苦戦を強いられる。
おまけに、悪魔豚は「チャーム」の能力を有している。
そんななか、タモトは急に、斧の力が押さえがたく膨張してくるのをを感じた。
そして、斧はまるで意志を持ったかのように、手近にいたヨブに斬りかかったのだ。
だが、タモトの懸命の努力で、なんとか斧の暴走は止んだ。
一方、パーティが総力を結集したおかげで、なんとかデビル・スワインは葬られた。
●謎の小男
ゴリーデルは一行に謝意を伝えるとともに、どうしてこのようなモンスターが現れたのかを説明した。
そもそもの原因は、黒いローブを着た謎の小男のためらしい。
小男はエルフたちに、自分はロスト・ドリームの島の情報を求めてここに来たのだ、と釈明した。
だが、男の瞳に邪悪な色を感じ取ったゴリーデルは、情報の提供を拒否した。
男は苦々しげに、
「ならば、この森のエルフを根絶やしにしてからじっくりと湖を探検しよう」
と言い放ち、去っていった。
それからである。この森にライカンスロープどもが放たれたのは……。
●ロスト・ドリームの島にまつわる伝説
ここまで激しくライカンスロープが襲撃をかけてくるようになった以上、ゴリーデルは決心を固めた。
男が何を狙っているのか、それを知るためにも一行に力を貸すことにしたのである。
そして、彼はパーティをエルフの集落へと案内した。
道中で、ゴリーデルはロスト・ドリームの湖にまつわる伝説を話し始めた。
――かつて、湖の中心部には島があり、そこは神殿が建てられていた。
神殿は、この世界の均衡を保つという役割を果たしており、カラーリー・エルフたちはその番をしていたのである。
しかし、あるときその均衡が破れ、暴走した力によって島は水中に沈んでしまった。
かくして彼らは故郷を追われ、その周囲の森に住み着くことになったというのである。
●エルフたちの会合
あらかた話し終わると、ゴリーデルはパーティを木の上にある自らの住居に呼び寄せた。
エルフの会合に出席させるためである。
彼は一行の人数ぶんの指輪を取り出し、周りに集ったエルフたちに語りかけた。
「呪いによってかつての楽園に足を踏み入れることがかなわなくなった我々に代わり、これらの方々に、悪しき者たちからロスト・ドリームを守ってもらおう。
そのためには、太古の昔より伝わる指輪を貸与することが必要不可欠である」と。
指輪には「ウォーター・ブリージング」(水中呼吸)と「ワード・オブ・リコール」(帰還)の魔力が込められており、安全な探索には欠かせないからだ。
エルフたちの意見はまっ二つに割れた。なかでも反対派を代表するシングル・アイという名のエルフは、ゴリーデルを「誇りを忘れた背徳の輩」だと罵り、氏族に伝わる宝が一行の手に渡るのを断固として阻止しようとした。
しかし、ゴリーデルは族長としての権限を行使し、指輪をパーティに手渡すことを強引に決定してしまった。
シングル・アイは怒髪天を衝くばかりに怒り狂った。
そして、突如、彼は、黒いローブを着た小男へと姿を変えた。
なんと、彼の正体は悪名高い魔術師にして「アイアン・リング」の首領、バーグル・ザ・インファマスだったのである!
バーグルは彼らの不意をつくと、パーティとエルフたちの中心めがけ、「クラウドキル」(死の雲)の魔法を投げかけた。
猛毒が辺りを包み、エルフたちが苦痛に悶え、倒れてゆく。
一行はかろうじて雲をかわした。だが、グレイが逃げ遅れ、雲の中に飲まれてしまった。「アイアン・リング」の首領は高らかに笑い、続いて「テレポート」の呪文の詠唱を始めた。
その瞬間、黒い雲をかき分け、リアの矢と、ヨブの渾身の一撃がバーグルに到達した。
邪悪な魔術師は攻撃をかわしきれず、断末魔の悲鳴を上げると、そのまま倒れ、息絶えた。