2022年03月22日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.3

 2022年3月10日配信の「FT新聞」、記念すべきNo.3333に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.3が掲載されました。ウィルダーネス・アドベンチャーに乗り出し、『ナイツ・ダーク・テラー』で語られたサキスキン攻囲戦に巻き込まれます。



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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.3

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料の各種を参照しています。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/485917607.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第4話「ウィルダーネス、ウィルダーネス!」の内容となります。

●登場人物紹介

タモト/詩人ドワーフ、2レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、3レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、2レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、死亡中。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、4レベル。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、3レベル。

ジョン・セルター/元・グリフォン聖騎士団員。
アルフリック/カラメイコス大教会の高司祭。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」の長。
「青い鷹」/スレッショールドの街から来たライバル・パーティ。
カラノス/ケルヴィンの街を拠点とする船頭。
ミーシャ/船着場の主。
ピョートル/サキスキンの農場主。
アルファナ/ピョートルの義理の妹。
マーシャ/サキスキン農場の召使い。
クズマ/ピョートルの母。
クロス/狼髑髏族ゴブリンの王。

●新たなるクエスト

 ヨブは事情をグレイにかいつまんで説明する。謎の追っ手から身を隠しつつ、ロスト・ドリームの島を目指さねばならないわけを。
 パーティに選択の余地はなかった。
 他方、カラメイコス教会に運ばれていったシャーヴィリーは、ジョン・セルターの言ったとおり、高司祭のアルフリックに「レイズ・デッド」の呪文をかけてもらうことができた。
 しかし、蘇生できたのはいいもののいまだ体力がもどらない彼女は、その後2週間ほどベッドで休養を余儀なくされた。
 すでにジョン・セルターは姿をくらましていたが、アルフリックとは因縁浅からぬ関係のようで、パーティにセルターの身上を教えてくれた。

●ジョン・セルターとは何者か

 現在スペキュラルムには、カラメイコス教会の宗教騎士団「グリフォン聖騎士団」が逗留している。
 指揮しているのは、アリーナ・ハララン。
 大公国の北に位置する街、スレッショールドの大司教の娘である。
 ウルフホルド丘陵に巣食うオークやオーガーたちを掃討する許可を得るため、ステファン・カラメイコス公爵に謁見に来たのだ。
 そしてジョン・セルターは、その「グリフォン聖騎士団」の名誉ある一員だった。そう、かつては……。
 −−アルフリックは言葉を詰まらせる。
 いまや彼の名声は地に落ち、栄えある騎士としての栄光を身に纏うことはかなわなくなってしまっている。
 その罪状は、とある探索を通して得た、「神より与えられし武器」を手放してしまったことにある。
彼はそのことで、武器に付随する大いなる試練をも拒否してしまったのだ。
 幼い頃よりセルターを知るアルフリックや最高司祭のオリバーらは、事情を聞く必要があると考え、行方を調査していたのであった……。
 そして今後、セルターの情報が手に入り次第教会へと届けることを、パーティは治癒の代償として約束させられた。

●スペキュラルムの街を離れて

 ロスト・ドリームの島へのクエストは、大至急というわけではない。
 それでもシャーヴィリーの回復を待つほどのゆとりはなかった。
 パーティは悩みぬいた末、彼女を教会に残したまま、スペキュラルムを後にした。戦力ダウンになるが、いたしかたがない。
 街道(デュークス・ロード)をさかのぼっていくパーティ。
 途中、クラカトス(古代からの遺跡のある小さな集落)で休息を取ることにした。
 これまで、敵らしき者には遭遇していない。
 けれども、彼らはそこで、遺跡に寝泊りする奇妙な一団と鉢合わせした。
 傍目にはごろつきと見まがうほどであるが、やはり仲間の冒険者であろう。
 彼らは「青い鷲」と名乗り、これからスペキュラルムへ向かう途中と告げた。
 それまではスレッショールドに滞在していたが、最近スペキュラルムに出没する「盗賊王」フレームフリッカーを捕まえるためにやってきたらしい……。
 −−それを聞くと、リアにはピンと来た。
 彼女の所属している盗賊ギルド「盗賊の王国」のギルドマスターこそが、フレームフリッカーその人なのだ。
 しかし、「盗賊王」が最近スペキュラルムで熱心に活動しているなどという噂は聞いたことがない。
 リアのような下っ端からすれば、「盗賊王」はまさしく雲の上の存在、たとえ活動していたとしても、それを知る術はないのである。
 満足のいく情報を与えられないまま、一行と「青い鷹」とは別ルートを辿ることとなった。

●ケルヴィンから

 クラカトスを後にし、引き続き街道を旅していくと、彼らがたどり着いたのはケルヴィンの街だった。
大公国における中継都市的な役割を果たしている大都市である。
 デスモント・ケルヴィン2世男爵の下、街は人口2万を数えるほどにまで繁栄を遂げている。
 シャッタルガ川・ウィンドラッシュ川・ハイリーチ川と、3つの川に囲まれているこの街は、大公国の交通の要にもなっている。
 街に入り、「黄金の船」亭に腰を落ちつけた一行は、相席したペンハリゴン(大公国の北東にある大都市)からやってきた商人たちから情報を得ようとするが……これまた警戒されてうまくいかない。
 仕方なくパーティは川を船で上り、ペンハリゴンその地へと直接向かうことに決めた。
 そこから南下し、目的地を目指そうというのである。
 けれども陸路では時間がかかるので、ハイリーチ川をさかのぼって行くルートをとることにした。

●ハイリーチ川紀行

 なけなしの金をはたいてリバーボートを借り、ケルヴィンで出会ったカラノスという船頭と幾名かの船員とともに、パーティは出航した。
 背後を見ると、街がどんどんと遠ざかっていく。
 向うの空に、何かが浮かんでいるのが見えた。
 どうやら「フライング・カーペット」(空飛ぶ絨毯)に乗っているらしい。
 親切にもカラノスが教えてくれる。あれは、ケルヴィンの西に位置するエルフの街リフリアンに住む、カルディアという名の女エルフが提供している交通サービスなのだ。
 しかるべき金さえ払えば、リフリアンからスレッショールドまで、悠悠自適の空の旅が楽しめるということらしい……。
 しまった、そちらを使えばよかったと後悔しつつ進んでいくと、船の両側にうねるように広がっていた川が、だんだんと狭くなり、流れも速くなってきた。
 南側の岸にある森が迫ってくる。
 ドスンという音がして、船が急に傾いて止まった。よくよく目をこらしてみると、川を横切って張られた鎖に衝突したようだ。
 間髪入れず、川の両岸から、無数の矢が飛んできたではないか!
 おまけに、水夫の一人が、手にダガーを持って、切りかかってくる。
 パーティは必死で矢をかわしつつ、水中の鎖を断ち切る。裏切り者も無事しとめることができ、伏兵たちの攻撃も切り抜けることができた。
 その死体を調べてみると、驚くべきことに、焼印と手枷のあとがありありとうかがえた。
 「アイアン・リング」の手先だ。間違いない。

●「アイアン・リング」のスパイ

 「アイアン・リング」とは、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵直属の、悪名高い狂信的な盗賊ギルドである。
 信頼していた部下が「アイアン・リング」の一員だったとは……。カラノスは喉を詰まらせる。
 午後遅くになって、船はハイリーチ川とヴォルガ川との境目にある船着場に着いた。
 もうトーモントの24日。スペキュラルムを出発してから8日が経過している。
 一行は先を急ごうとするが、まもなく日も暮れるというのに、川の先にまで歩を延ばすのは危険なため、ここで宿をとることにした。
 カラノスは船着場の主であるミーシャを呼ぶが、返事はない。
「大丈夫だ。ミーシャはよくノミだらけの年寄り熊と狩りに行くが、いつも夜までには戻ってくるから、余計な心配は無用」とはカラノスの弁。

●またもや襲撃

 −−ミーシャは戻ってこなかった。
 代わりに船着場に現れたのは、全身に傷を負った一頭の熊だった。
 熊はしばらく周りをうろついていたものの、やがて森の奥へと消えていった。
 パーティが後を追っていくと、かすかな叫び声が夜風に乗って響いてきた。
 木が燃える臭いもする。前方の木々の向うに、ひらめく炎が見えた。声はさらに大きくなってくる。
 叫び声に混じって、武器がぶつかりあう音も聞こえてくる。
 炎はますます激しくなり、紅の輝きが森を包んだ。
ただならぬ空気を感じた冒険者たちは、歩を速める。
 森は、木の橋がかかっている流れの速い川の土手のところにまで続いている。
 それを越えると、柵で囲った農場の門が見える。
建物そのものはほとんど被害を受けていないが、橋の左側にある納屋から、こうこうと炎が舞い上がっている。
 橋の向こうにある楼門から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「道をふさがれる前に急いで!」
 大きな狼の背に乗ったゴブリンの一団が、背後から岸に沿って荒々しく突進してくる。
 門に駆け込む冒険者たち。
 傍らに目をやると、先ほどの熊が倒れていた。

●サキスキンにて

 パーティの全員が門に入ったのを確認すると、女は素早く門を閉め、閂を下ろした。
 彼女は一行を農場の母屋に案内する。
 通された広間には、どうやら家族らしい一団がいた。
 熊を倒したのは、彼らのようだ。
 ひときわ屈強な男が自己紹介をする。
 彼はピョートルといい、このサキスキンという名の農場の主だという。
 先ほど一行を案内してくれたのは、ピョートルの弟であるタラスの妻、アルファナであった。
 ピョートルが状況を説明し、アルファナがそれを補足する。
 農場を襲撃しているのは、狼髑髏族と赤刃族、それに毒蛇族という名のゴブリンの一団であった。
 サキスキンの他にもこの辺りにはいくつかの農場が存在するが、それらも同様にゴブリンどもの襲撃を受けているのだという。
 ミーシャはどこにいるのかについて尋ねた一行に対して、彼は顔をしかめた。
「彼はケルヴィンに事態を告げに行こうとして、殺されてしまった」
 一行はまた、なぜゴブリンどもがここを襲撃しているのかを問いただすが、ピョートルは険しい顔をして首を振るだけだった。

●計略

 窓の外から、女の悲鳴が聞こえた。
 アルファナが叫ぶ。
「あれはきっと召使いのマーシャだわ! ゴブリンどもに捕まったのよ! あいつらはマーシャをなぶり殺しにするつもりに違いない!」
 慌ててヨブは窓を開け、外へと踊り出る。
 しかし、罠だった。
 それはなんと、扮装したゴブリンのメスだったのである。
 気づいた時には手遅れで、ヨブはゴブリンの一団に囲まれることになってしまった。
 あわてて残りのパーティのメンバーが救援に向かうものの、窓から母屋の中に侵入してきたジャイアント・ヴァンパイア・バットに阻まれ、思うように動けない。
 その間、狼髑髏族ゴブリンの王クロスに率いられた8匹のゴブリンが、ラム(破城槌)を抱え、母屋へと突撃してきた。
 必死で食い止める一行。グレイの放った「スリープ」でヴァンパイア・バットたちを無力化し、ようやく皆、母屋の外に出ることができた。
 思わぬ援軍に手下が倒される様子を見て、クロスは引き上げの指令を出した。

●「死の歌」

 満身創痍ながらも、とりあえず休息をとろうと、パーティも引き上げた。
 ピョートルの母クズマによる治療を受けて体制を立て直すが、今度は、反対側からゴブリンどもが攻め寄せてきた。
 農場の西側の橋はゴブリンどもの侵入を防ぐために焼き落としてしまったから、当分の間は安心だと一行はふんでいた。
 しかし、状況判断が甘かった。
 驚くべきことに、ゴブリンたちはベオフリー(攻城用移動塔)のようなものを運んできて、一気に攻め込もうとしているのである。
 パーティは非常な苦労をして、彼らを撃退した。
 −−夜明け前、最後の襲撃が行われようとしていた。
 ゴブリンたちが歌う「死の歌」が、夜風に乗って轟き渡る。
 ゴブリン王クロスと、ラムを構えたゴブリンたちが、今や総攻撃を仕掛けようとしているのだ。

●またもや犠牲者が

 サキスキンの住民たちと一行は協力して、ゴブリンたちに立ち向かった。
 血で血を洗う熾烈な戦い。
 結果、無事ゴブリンたちを敗走させることに成功した。
 が、気づくと、クロスが騎乗していたアイス・ウルフが吐いたブレスの直撃を二度に渡って受けたヨブが息をしていない。
 ヨブの遺体を母屋に運び入れ、悲しみに暮れる一行。
 絶望感。
 その体を包もうとして、アルファナが広間に飾ってあった二枚のタペストリのうち一枚を外した。
そのとき、朝の光を浴びたタペストリがきらきらとまばゆく輝きだした。
 刺繍の一部が金色に光り、地図のようなものを形作り始める。
 驚くべき魔法を目にして、彼らは、新たなる冒険の予感に打ち震えたのであった。
posted by AGS at 21:51| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする