2022年2月24日配信の「FT新聞」No.3319に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.2が掲載。鏡の都スペキュラルムの酒場ブラック・ハート・リリィを舞台とするシティアドベンチャーで、著名NPC「ルルンの」ヨランダも登場します。
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.2
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が学生時代にプレイした、クラシックD&Dのキャンペーンゲームの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料の各種を参照しています。
なにぶんデビュー前の(20年以上前!)の原稿を整理しているため、拙い部分が多々ありますが、ご承知のうえお読みください。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/485557276.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第3話「忍び寄る暗黒」の内容となります。前回はダンジョン探検でしたが、今回はシティーアドベンチャーです。パーティ分割が発生したため視点が次々に切り替わることを念頭に置いていただければ幸いです。
●登場人物紹介
タモト・ロックフリンガー/詩人ドワーフ、2レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、2レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、2レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、1レベル。
ティシェ・リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、3レベル。
エミーリオ/酒場「ブラック・ハート・リリイ」の亭主。
「ルルンの」ヨランダ/絶世の美女にして評判の踊り子。
ヨブ/ブラック・イーグル男爵領の避難民の戦士、3レベル。
●大喧嘩
恐怖のダンジョンからカラメイコス大公国の王都スペキュラルムへと帰還を果たした、我らが冒険者一行。
はたして「ゴルサー」とは何者なのか。そして、占い師の予言の真偽はいかに……。
だが悩んでいてもしかたがないとばかりに、報酬を得た一行は、久方ぶりに根城としている宿屋、「ブラック・ハート・リリィ」で冒険の間に溜まったストレスを発散すべく、狂騒の限りを尽くしていた。
そんな彼らを冷ややかな目で見ている一人の男。
酒場の隅のストゥールに腰かけ、静かに酒をあおっている。
筋骨隆々とした姿、あちこちに見られる生々しい傷跡が、明らかに彼が歴戦のつわものであることを、何よりも雄弁に物語っている。
久しぶりの冒険の成功に酔ったのか、一行はあまりにもはしゃぎすぎた。
そして、男はその日、あまりにも機嫌が悪かった。
ドスを利かせてパーティにすごみかかる男。負けずに言い返す熱血少年グレイ。
周囲は険悪な雰囲気に包まれる。
見るに見かねてジーンがとりなそうとするが、かえって逆効果。
頭に血がのぼった男は、手にしていたビールをジーンの頭にぶっかけ、かくして両者の諍いは殴り合いにまで発展し、酒場は大混乱となった
●いざ祭りへ
翌日、トーモントの14日。ノームの商隊が到着してから起こった、ちょっとしたお祭り騒ぎも、今や最高潮に達していた。
外の賑わいに惹かれて出て行くタモトとシャーヴィリー、そしてジーン。
いまだ体の節々から疲れが取れないうえに、昨日の喧嘩に巻き込まれて生傷が絶えないにもかかわらず、この元気はどこから来るのだろうか。
しかしまた、リアの部屋をノックする者がいた。
入ってきたのは、宿の主、エミーリオである。困りぬいた様子でリアに相談を持ちかける。同情したリアは、とりあえず話だけでも聞いてみることにする。
曰く、ここ「ブラック・ハート・リリィ」では、通常の酒場や宿屋としての業務のほかに、ちょっとした舞台もとり行っている。
中でも人気があるのが、最近舞台に立つようになった、エキゾチックな雰囲気を漂わせた妙齢の美女、「ルルンの」ヨランダだ。
しかし、そのヨランダが、急病で舞台に立てなくなったというのである。
困りぬいたエミーリオは、まずは質より量を確保するのが肝心と、つてを頼って代役を探し回ったのだったが、その一人として、こともあろうにリアに白羽の矢が立った。
エミーリオの強引な説得に負けたリアは、いつもの盗賊稼業から一転し、「ブラック・ハート・リリィ」の踊り子として、酒場の舞台に立つこととなってしまった。
●競技大会
祭りに向かったリア以外のパーティは、射的やレスリングなどの競技を、色々と回っていた。
ノームの商隊が帰途に就くのはトーモントの15日目である。今日はその前日ということもあるのか、今までで一番の賑わいをみせているようだ。それもそのはず、今日は各地から猛者が集う一大イベントがとり行われるのだ。
その名も、「比類なく奇妙な競技大会」。
ノームの街ハイフォージは、町全体が奇抜な発明に狂っていることで悪名高い。
彼らはまた、その独特のセンスで新たな競技(一応、彼らは「スポーツ」だと銘打っている)を開発し、もしくは探し出し、無辜の犠牲者にそれを行わせるのも大好きなのである。
しかも困ったことに、その競技は、端から見ているぶんに限っては愉快なのだ。
この大会では、彼らが一年かけて集めてきた粒よりの競技が披露される。
成り行きに身を任せたシャーヴィリーは、「比類なく奇妙な競技大会」の種目「足指相撲」に、タモトは、目玉競技「タルベルトンジャク」に参加することとなってしまった……。
結果、シャーヴィリーはいいところまで行ったのだけれども、相手の足のあまりの臭さに耐え切れず、準決勝で惜しくも敗退を喫してしまった。
●奇妙な競技
タモトは、競技のルールのあまりの難しさに、そのもじゃもじゃ頭を痛めていた。
ステージの上の年老いた賢者が、何度も、噛んで含むようにルールの説明を繰り返している。
−−この競技は、遥か東方「Kozakura」の国から伝わったものであり、非常に厳密かつ明確な規則に沿って行われる。競技者は、まず自分が相手をどのような方法で打ち破るかをイメージする。
そして、そのイメージを「ルーン」という形として示すことで具現化し、相手にぶつけるのである。
「ルーン」の作り方、すなわちどのような形でイメージが具現化されるかには三つのパターンがあり、それは、各々の競技者が、どのように手を握るかによって決定される。
手を開いた状態は、「防具」を意味し、人差し指と中指を突き出したまま残りを握ったままにした状態は「武器」を意味する。すべての指を握った状態は、「魔法」を指す。
そして、「防具」は「魔法」には強いが「武器」には弱い。「武器」は「防具」には強いが「魔法」には弱い。「魔法」は、「武器」には強いが「防具」には弱い。
相手に自分の力をぶつけるためには、この三すくみを理解しつつ、相手を打ち負かすことのできるような「ルーン」を示さねばならないのである。
だがしかし、それだけでは不十分だ。
「ルーン」の力を最大限に発揮するためには、三すくみを利用して相手を打ち負かした上で、そのルーンがどの方向を向いているのかを指を指して示し、その場所に相手の顔を導かねばならないのである。云々−−
だが、この難しいルールをなんとかのみこんだタモトは、偶然か僥倖か、はたまたハラフの天啓か、輝かしい優勝という名の栄光を手にしてしまったのである!
1000GPという大金と、副賞として魔法のアイテム「エルブン・ブーツ」と「フライング・ポーション」を手にしたタモトは、王者にふさわしい威厳を込めて、一大パフォーマンスを行った。
観客を前にしたタモトは、おもむろにポーションを飲み干した。
そして、何を思ったのか、「みなさんさようなら」と大声を上げて宙に浮かび、そのまま会場を後にしてしまったのだ!
たちまち会場は大喝采に包まれる。
観衆の中にはシャーヴィリーも含まれていた。
あっけにとられて見送ったのも束の間、慌てて後を追いかけて走っていった。
●楽屋にて
リアは舞台の楽屋に足を踏み入れた瞬間、自分がまるで別世界の住人になったような心持になった。
妖艶と言うのかはたまた淫靡と言うべきか、とにかくはじめて見る世界である。
ほとんど衣装の役目を果たさないほどわずかな薄絹を身に付けリハーサルに勤しむ一団を目にして、純情なリアは、ほとほと当惑したというほかはなかった。
尻ごむリアに対して、誰かが後ろから声をかけてきた。
振り返ると、「ルルンの」ヨランダその人が、微笑みながら立っているではないか!
心なしか顔色は悪いけれども、その美貌は少しも衰えることを知らない。
落ち着いたアルトの声で、彼女は口を開いた
「あなたが、私の代役を引き受けてくれた娘ね」
ヨランダはくすくす笑っている。
●ヨブの場合
気がつくと自分の部屋だった。
二日酔いでがんがんする頭を押さえながら、ヨブは昨晩の出来事を思い起こそうとしていた。
……だめだ、あのくそ坊主にビールをぶっかけてから、何がどうなったのか。酒場に下り、遅い昼食をとることにした。
その時、若い魔法使い風の男が、目の前を悠々と通り過ぎていった。
たちまち記憶が甦る。昨日やり合った連中の一人だ。
借りを返してやろうと、ヨブは男の後をつけることにした。
ヨブは剣匠(ソードマスター)で、ブラック・イーグル男爵領の避難民である。
いまや酒場の看板スターとなった、「ルルンの」ヨランダらといっしょにここスペキュラルムにやってきて、今日でちょうど三ヶ月目。
常に極度の緊張を強いられてきた以前に比べ、確かにすべてが楽になった。
だが、この巨大な都スペキュラルムは、あまりにも退屈なのも確かだ。
魔法使いが入っていったのは、舞台の裏の楽屋であった。
覗いてみると、いつもどおりに半裸の女たちが、夜の舞台のリハーサルをしている。
傍らには、ヨランダが立っていた。
ヨブの視線に気がつくと、ヨランダは表情を崩し、こちらに来るよう手招きする。
●暗殺者
タモトが降り立ったのは、競技の場所からだいぶ離れた、さびれた路地裏で。
息を切らせて追いつくシャーヴィリー。
が、ほっとしたのも束の間だった。
タモトを追いかけてきたのはシャーヴィリーだけではなかったのである。
黒い覆面をした男が二人彼らのそばに立っていた。
薄暗い裏通りで、ショート・ソードの刃が不気味に光っている。
一方のタモトとシャーヴィリーは、武器防具の類はほとんど宿に置いてきてしまっていて、ほとんど丸腰に近い状態だ。
なんとか応戦しようとするものの、覆面男の凶刃を胸に受け、あわれシャーヴィリーは倒れてしまった。
それを見たタモトは戦意を失い、降伏を申し出ることに。「待ってくれ、お前たちは一体何が望みなんだ」
くぐもった声で男は答える。
「斧を渡せ。知らないとは言わさん」
タモトはすぐさま悟る。あの洞窟から取ってきた斧のことか。
半ばやけになって、彼は事情を説明する。
「あれは宿に置いてきてしまったんだ。ここにはない。わしらを殺してもそれは手に入らんぞ」
その時だった。
物陰から、無精髭にレザーアーマーといういでたちの精悍な男が現れ、覆面男に切りかかった。
予期せぬ襲撃者の到来に、覆面男たちはものも言わず倒される。
すかさず男はシャーヴィリーのもとに駆け寄り、持っていた薬草を傷口にすりこむ。
しかし、シャーヴィリーが再び目を開くことはなかった。
顔からはどんどん生気が失われ、とうとうカラーリー・エルフは冷たい骸と化した。
つまり、死んだのである。
●明かされる策謀
ヨランダの指示に従って、ヨブは「孔雀の尻尾」亭のドアを開いた。
一見、中産から上流階級向けの普通の宿屋だが、ここはあのラデュ家の当主、アントン・ラデュが経営する直属の店。
アントン・ラデュが率いる盗賊ギルド〈ヴェールド・ソサイエティー〉とは因縁浅からぬに違いない。
警戒しながら中に入ると、ヨランダの席へと案内された。
低い声で、やにわに彼女が言う。
「ブラック・イーグル男爵が、配下の騎士団を連れてスペキュラルムにやってきているのよ」
青天の霹靂である。
逃亡が感づかれてしまったのだろうか。
ヨランダは首を振る。
「何のために彼がやってきたのかはわからない。けれども、わたしたちの知らないところで、とてつもなく大きな陰謀が形を成しつつあるのは確かなの」
彼女は舞台に立つ傍ら、いまだブラック・イーグル男爵領に残る同胞たちを救い出すために、ひそかにスペキュラルムにいる仲間を集め、レジスタンスを結成していたのだ。
そして、彼女は後ろ盾を得るために、あえて、危険を承知でラデュ家に近寄った。
「昨日の晩あなたと一緒にやりあっていた連中、あの中にドワーフがいたでしょう。彼が持っていた斧、あれはハラフ王の仲間だった狩人ジルチェフの一番の部下、ソールジェイニー・オーケンシールドのものなのよ。エミーリオが教えてくれたわ。
そこであなたに頼みがあるの。あの斧をロスト・ドリームの湖に住むカラーリー・エルフに届けてちょうだい。本来ならばわたしが行くべきだろうけど……。斧の力を引き出すにはそれしかないの。いや、少なくとも、ブラック・イーグルだけには渡さないで。わたしが彼らを牽制しておくから、その間に」
ヨランダの必死の願いと、提示された15000GPにも及ぶ高額の報酬、そして事の重大さを認識したヨブは、彼女の依頼を引き受けることに決めた。
そして、万一の場合に備えて、力づくでも依頼を成功させるために、いくつかの物品を受け取った。
●大不評
そのころ、「ブラック・ハート・リリィ」ではいつもと違った騒ぎが起きていた。
「ルルンの」ヨランダが参加しなかったために、観客は露骨に不満を示し、腐った野菜や卵をそこら中に投げつけて回ったのだ。
おまけに公演の最中に、突然黒づくめの男たちが乱入し、「ヨランダに会わせろ」と言ってくる始末。
しばらくの間エミーリオと男たちの間で押し問答が続いていたが、らちがあかないとみるや、いきり立った凶漢どもは剣を抜き、楽屋へなだれこんできた。
−−その行く手に、グレイが立ちふさがった。
●逃げたはいいが
グレイの「スリープ」の呪文で、男たちは次々と眠りについていった。
エミーリオは男たちを柱に縛りつけると、遅れていた公演の第二部の幕を上げた。
しかし、まずいことに、公演の途中で呪文の効果が切れてしまった。
男たちは縛られたロープを力任せに断ち切ると、舞台へと乱入してきた。
ダンスの進行はストップする。
いいかげん酔いが回った観客たちは度重なる中断に烈火のごとく怒り、たちまち酒場は幾度目かの混乱の渦に巻き込まれた。
黒服の男たちがしきりにヨランダを探していることから、斧の事情を知っていたエミーリオは、グレイたちがこの件に一枚噛んでいるとの察しをつけた。
混乱に乗じてグレイとリアとジーンを裏口から逃がしてくれる。
通りに出た彼らは、他のメンバーと合流しようと走り出した。
その途端、グレイは誰かとぶつかった。顔を上げると、そこに立っていたのは、「孔雀の尻尾」亭から戻る途中のヨブであった……。
●わずかな可能性
助けてくれたことに対して礼を言うと、精悍な男はだまって頷き、ジョン・セルターだと名乗った。
彼は倒れたままのシャーヴィリーを背にかつぐと、黙って路地を歩き始める。あわてて後を追うドワーフ・タモト。
路地を出ると、そこはカラメイコス教会だった。
おもむろにセルターは告げた。
「……俺の名前を出して、高司祭のアルフリックに頼むんだ。蘇生の術をかけてくれるやもしれん……」


