2021年11月28日の「FT新聞」No.3231で、 細谷正光賞受賞・「ミステリマガジン」「ミステリが読みたい!」で高順位、破竹の勢いの羽生(齊藤)飛鳥さんによる拙訳『ゾルのモンスター迷宮』(「GMウォーロック」2号)リプレイが配信されています!
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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.12
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『ゾルのモンスター迷宮』をプレイした時期は、ちょうど短編を書いている時期と一緒でした。
短編を書く&資料収集と書き写しもする→頭がデッドヒート! だめだ……脳みそが焼き切れて力が出ない……→そうだ、『ゾルのモンスター迷宮』でリフレッシュだ!→面白かった! 精神エネルギー充電120%! よし、今なら書けるぞ!→最初に戻る
……と、繰り返すうちに、けっこうな人数のキャラが生まれては消えていきました。
『ヴァンパイアの地下道』で死なせたキャラクター7人に次ぐ死亡者数でした。
執筆中支えてくれた彼らの存在を語らず、生還者の翠蓮のみをリプレイの主役として語ることに、さすがに罪悪感にかられたのと、今回はカーラ・カーンという冒険を俯瞰する存在がいたことから、今回は群像劇っぽい仕上がりにしてみました。
それから、短い話なのに、『ゾルのモンスター迷宮』には自由すぎて面白い展開が用意されていたので、それをリプレイに書かないのはもったいないと思ったのも理由です。
なお、登場するモンスターで、外見で一番好みなのは虎人間で、個性で一番好みなのは沼トロールです^^
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
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『カーラ・カーンの秘密の手記』
〜リプレイ『ゾルのモンスター迷宮』〜
著:齊藤飛鳥
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×月×日
我が偉大なる死の女神レロトラー様の親衛隊となる逸材を手に入れるべく、この〈虹色迷宮〉を建設してどれくらいの月日が流れたことか。
我が女神を守る屈強なる戦士、あるいは盗賊が欲しいので、彼ら向けに設定して造ったのだが、踏破した者の数は十指に満たず。
いつからこんなに貧弱な冒険者が増えたんだ。
×月〇日
今日は、久しぶりに見込みのあるドワーフの男戦士を見かけ、声をかける。
名は、〈鈍重なる〉ドーニゲット。
耐久度、体力度、ともに高いが、知性度、速度が低いため、この二つ名をつけられたとか。
しかし、「モンスターぶっ殺して宝をゲットできるとか楽な仕事じゃねえか」と、何の疑いもなく私の申し出を引き受けてくれる単純さ……ゲフンゲフン……素朴な人柄は、親衛隊にふさわしい。
彼の旅立ちを見送った後、私は水晶を使って〈虹色迷宮〉内部を映し出し、ドーニゲットの動向を見守った。
#の扉、^の扉、*の扉と、三連続でクリーチャーと出会わないルートを進むとは、かなりの強運の持ち主。
冒険に必要なのは、夢と勇気と、そしてかなりの幸運だ。
これがなければ、親衛隊に入ってから危険な任務をまっとうすることができない。
ドーニゲットの運の強さに感心していると、彼は!!の扉を開けた。
いよいよ、彼の戦士としての力量を図る好機が来た。
!!の扉の向こうにいるのは、宝石呑みという名のクリーチャー。
ドワーフの男戦士の実力を見せるがいい!
「おらの両刃の斧を食らいな!」
ドーニゲットの斧の攻撃はしかし、宝石呑みのダイヤモンドに似た肌の表皮を傷つけることすらできなかった。
両刃ブロード・アックスを使っておきながら、8点のダメージしか攻撃できない戦士を、私は初めて見た。
「チャオ、戦士野郎」
宝石呑みは、陽気に笑いながら、ドーニゲットへ攻撃する。
両手持ちの武器を装備していて、盾を持っていないため、ドーニゲットの防御はキルテッド・ファブリック(完全鎧)に頼るのみ。
そのため、攻撃力9d6+44の宝石呑みの軽い平手打ちで、即死だった。
〜本日の教訓〜
声をかける戦士の装備もよく気をつけて見ておこう。
△月◇日
ライト・レザーとターゲット・シールドを装備した人間の男戦士を見かけたので、声をかける。
名は、〈強欲なる〉イーライ。
「金と宝が手に入るなら、親でも殺すのオーライだぜ!」
金に目がくらんでいる奴は、制御がたやすい。我が親衛隊の特攻隊長として必ずや逸材となってくれるだろう。
私は、期待を込めてイーライの旅立ちを見送り、いつものように水晶に迷宮内を映し出し、彼の動向を監視した。
イーライは、@の扉をくぐり、さっそくクリーチャーとの戦闘に入った。
しかし、戦っている間中「金、金、金!」「宝、宝、宝!」と言い続ける余裕を見せ、完勝。
これは、頼もしい。
イーライは、オリーブグリーンの壁のある非常に長い通廊に進んだ。
ここは分厚い石壁が飛び出してきて押しつぶす罠が仕掛けてある。
この罠を乗り越えられてこそ、親衛隊にふさわしい逸材。
さあ、イーライ。おまえの真価を今こそ発揮するがいい!
私は興奮のあまり、水晶をつかむ手の震えが止まらなかった。
水晶の向こうの光景から目をそらすことなど、よほどのことがない限り、不可能だった。
「ペグッ!」
飛び出してきた石壁に押しつぶされたイーライから、奇声が漏れ聞こえる。
石壁が元の場所に戻った後、イーライは膝から崩れ落ちた。
それきり、動かなくなった。
「Oh……」
私は、水晶の向こうの惨状に、両目を手で覆って天を仰ぐしかなかった。
〜本日の教訓〜
装備がよくても、幸運度が低ければそれまで。
△月〇日
ここ数日、冒険者の質の低下を考えずにはいられない。
ドーニゲットとイーライ以降三人の男戦士に〈虹色迷宮〉を冒険してもらったのだが、全員踏破できなかった。
イーライと同じように石壁につぶされるも、かろうじて助かった男戦士は、その後蛇にかまれて死亡。クリーチャーとの戦いでのダメージもあったのだろうが、こんなしょぼいタイミングで死なれるとは思わなかった。
二人目の男戦士は、沼トロールのメインディッシュになった。
そして、どうやら食べた人間の知性を取りこんだらしい。
沼トロールはこの〈虹色迷宮〉から脱走。
今までこんなことはなかっただけに、意外な展開だった。
こいつを親衛隊に勧誘しておけばよかったと、悔やまれてならない。
三人目の男戦士は、死の蛙を倒したところまではよかったが、虎人間に一撃で倒された。
いつからこんなに冒険者は弱くなったのか。
いいや。それより、あの沼トロールを勧誘しておけばよかった(大事なことなのであえて二回記す)。
まさか、あんな逸材が自分の迷宮にいたとは、完全なる盲点だった。食べた戦士の名前をもらって〈自由なる〉フランクスと名乗るあの沼トロールを「生け捕り厳守」で、この辺り一帯に指名手配しておこう。
〜本日の教訓〜
過去を振り返っても何も得られない時は前を見よう。
☆月★日
今日は、珍しく親衛隊の勧誘ではなく、人助けをした。
魅力度48で、全裸の褐色肌銀髪のエルフの美女がいたら、男なら誰だって救いの手を差しのべるものだ。
かのエルフの美女は戦士で、長らく〈怪奇の国〉にて遭難していたが、先日ついに脱出に成功。対価として、これまでの装備を失ってしまった上、唯一の戦利品である宝石も魔術師マックスに半分支払い、250gpしか持っていないまま、この地へ飛ばされてきたそうだ。
不憫に思い、〈虹色迷宮〉の冒険は勧めず、着る物と彼女の知り合いのいる〈青蛙亭〉までの路銀を恵んでやった。
すると、アダルティなお姉さま的外見の美女とは思えないほど、手放しで私へ感謝してくれた。
最近、親衛隊の勧誘のため男戦士とばかり会話していたので、心が潤った。
よく考えたら、女神レロトラー様にお仕えする親衛隊が、男だけである必然性はなし。
いざという時には、レロトラー様の御寝所や浴室にも入ってお守りできる女戦士も必要ではないか。
そういうわけで、我が女神レロトラー様。これ、浮気ではありませんからね。
ちゃんと貴女をお守りする親衛隊に繋がる人助けですからね。
〜本日の教訓〜
女戦士も勧誘の対象に加えること。
☆月◇日
先日我が迷宮から脱走した沼トロールを発見。
この沼トロール、食べた人間の戦士の知性を自らに取りこみ、並みのトロールよりも賢くなっていたので、ぜひとも親衛隊に勧誘したかったのだ。
ところが、逃げられてしまった。
どうも、また〈虹色迷宮〉で働かされると勘違いしたらしい。
来る日も来る日も迷宮内の一室で戦士を待つだけの日々と、薄給に嫌気がさしたのだろう。
そりゃあそうだ。外の世界で冒険者をしている方が、ずっと楽しい。
心躍る冒険。たのもしい旅の仲間達。ロマンティックな出逢い。これを一度知ってしまったら、迷宮内勤務は灰色の日々にしか見えまい。
しかし、あの沼トロールは惜しいことをした。
〜本日の教訓〜
迷宮のホワイト経営を心がけるべし。
☆月〇日
夜、何者かに迷宮の扉をたたかれ、応対する。
夜の来訪者の正体は、先日助けたエルフの美女の手紙を持った、黒髪色白ツインテの幼女だった。
手紙によると、あのエルフの美女は、たどり着いた〈青蛙亭〉にて『怪奇の国のアリス』という本を読んだら、夢の中で大冒険。
〈怪奇の国〉での不運を挽回したかのように、現在は金レースのあるドレスのポケットに子猫のスノー・ドロップを入れ、右手にはヘル・ブレード、左手には治癒の錫杖を持ち、しかも大粒のソナン・イエの翡翠まで手に入れたという。
このような幸運に巡り合えたのは私が恩を施してくれたおかげだと、彼女は手紙に綴っていた。
ところで、手紙にはこんな追伸が書き添えられていた。
「カーン様がお造りになった迷宮を冒険する戦士として、わたしの友人であり、かつては旅の相棒だった〈屈強なる〉翠蓮をご紹介します」
翠蓮は、18歳には見えない幼女な外見に似合わず、これまで数々の冒険を成し遂げてきた歴戦の戦士だという。
かの呪われし魔の都・コッロールへ冒険して、幽霊に取り憑かれただけで生還できたとは、まさに逸材。
情けは人のためならずとは、まさにこのことだ!
しかし、今日はもう遅いので、次の日から迷宮の冒険を始めてもらうことにした。
〜本日の教訓〜
情けは人の為ならず。巡り巡って己がため。
☆月△日
夕べ我が〈虹色迷宮〉を挑戦しに来た女戦士の翠蓮に、〈虹色迷宮〉の説明をして送り出し、定番の水晶玉による監視をする。
さっそくクリーチャーの扉を選ぶとは、大丈夫か。
武器と言ったら、銀の懐中時計くらいしか持っていなかったぞ、あの幼女。
早くも冒険終了かと思ったが、銀の懐中時計はヴォーパル・ブレードに変化した!
そして、一刀の下、クリーチャーを斬り捨てていった。
これは、幸先がいい。
続いて、罠が仕掛けてある長い通廊。
罠にかからず、無事に突き当たりの##の扉へ進む。
この部屋にいるクリーチャーは、巨大な緑の蠍だ。
こいつを相手にかなり苦戦しているようでは、正直不安だと思ったが、辛勝した。
蠍の死体から得たポーションを、何の迷いもためらいもなく使って回復に努める姿勢は、感傷的でなくていい。
彼女はしばらくさ迷ううちに、今度は}の印の扉を開ける。
恐ろしい金切り声を上げてくる鷹人間に、幼女の顔がこわばる。
さすがに怖かったか……と思ったら、
「てめえ、鷹人間のくせに『ワッシッシッシッ!』と笑っているんじゃねえヨ!」
と、冷静に指摘してきた。
顔がこわばって見えたのは、ツッコミを入れる前の「何こいつ」的な表情をこちらが読み取り間違えただけらしい。
鷹人間は、だいぶショックを受けたようだが、すぐに気を取り直して戦闘を開始した。
しかし、なかなか決着がつかず。
途中、トイレ休憩を入れて戻ってきたら、翠蓮が勝ち、スカイブレードと盾をゲットしてほくそ笑んでいるのが見えた。たくましい。
またしばらく、彼女の彷徨が続く。
やがて、天井がなくて空が見える通廊にたどり着いた。
ここの茂みには蛇を放ってある。
この前も、ここの蛇に噛まれて命を落とした戦士がいるから、思わず手に汗を握る。
「痛っ!」
手に汗握ったそばから、蛇に噛まれて3ダメージを食らっている。
だが、耐久度はまだあるので、廊下の反対の端の&*の扉に到達し、先に進んだ。
よかった。
それから、再び扉のある部屋に来た時は、印が「ヒヨコが並んでいるみたいでかわいいネ」と、女子特有の基準で&&&の扉を選択。
それから……おおっ!
ついに、〈虹色迷宮〉を踏破しそうだ!
こうしてはおれな(以下文章中絶)
☆月◎日
憤懣やるかたなしとは、まさにこのことだ。
一夜明けても、まだ怒りが収まらない。
昨日、〈虹色迷宮〉を実に数年ぶりに踏破した戦士が現れた。
親衛隊にふさわしい逸材をついに確保できる。
その喜びから、私は事前に約束していない報酬すら特別に与えた。
冒険点も、奮発して与えてやった。
なのに、親衛隊に加わらないかという私の誘いに対する返事は、「NO」だった。
腹が立ったので、調子のいいことを言って〈虹色迷宮〉に再挑戦させて新任の沼トロールの餌食にしてやろうかと思ったが、こちらに対する返事も「NO」
再挑戦しない理由が、恋人と冒険の相棒のもとへ早く帰りたいからとは、初めてのお使いをした子どもか!
嫌味をこめて、我が迷宮を冒険した感想を訊いてみたら、その答えが
「ここのクリーチャーどもがあんまりにもファニーフェイスばかりだったから、あたしの相棒の飲んだくれ岩悪魔がイケメンに思えてきたネ」
だった。
まったく、腹立たしい。
仕方ない。また新たなる戦士を勧誘するか……。
〜本日の教訓〜
教訓は何の役にもたたないので、以後ここに教訓の欄を設けるのをやめる。
(完)
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。
出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.2 収録
ソロアドベンチャー『ゾルのモンスター迷宮』
作:ケン・セント・アンドレ
編・イラスト:デイヴィッド・A・ウラリー
訳:岡和田晃
校閲・協力:吉里川べお
発行 : グループSNE/新紀元社
2021/7/17 - 2,420円