2021年11月18日配信の「FT新聞」No.3221に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.17」が掲載されています。今回は、英語の資料を使い、〈ウォーハンマー〉シリーズのあゆみを確認しています。
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.17
岡和田晃
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やはり怪しいのは、ヘルベルト・ハルツァートの"ひと味違う"チーズの店。
けれども、あれだけ魔狩人が詰問したのに、しらを切り続けられているとは思えない。
普通に考えればシロなんだけれども。
ラッテンファンガーに正面からその疑問をぶつけてみた。
「そりゃあそうです。大きいネズ公ったって、好き好んで人目につきたくはないでしょう。昼日向から出歩いているわけはありゃしません」
とすると、時間をずらしたほうがよさそうだ。
−−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より
●ここで歴史を振り返ろう
『比類なく有益なスラサーラの呪文集』はもう入手されましたでしょうか。
魔術師の専用サプリメントとしては、第2版の『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』(ホビージャパン、2007年)が邦訳されていますが、実は初版の頃から魔術師専用のサプリメントは存在しています。
ちょうど、電子版登場で『ウォーハンマーRPG』第4版がいっそう活気づいてきたタイミングに合わせ、第4版登場までの歴史を振り返ってみたいと思います(これまでの連載で言及してきた情報と一部重複する部分もあることをお断りします)。
本稿は完璧な通史ではなく、あくまでも各種資料を参考に、重要事項をまとめ直した叩き台にすぎません。メインの資料としては『Designers & Dragons: The '70s』(by Shannon Appelcline , Evil Hat Productions, 2014)を参照いたしました。
他に岡和田晃がまとめたRPG史の「T&Tのあゆみ」(『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』所収、冒険支援株式会社、2016年)、「〈ゴーストハンター〉シリーズのあゆみ」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.10、アトリエサード、2017年)があり、それらと比べたらまだ粗いものではありますが、参考になる部分はあるかと思い、共有するものです。
●〈ウォーハンマー〉シリーズのあゆみ
■〈ウォーハンマー〉以前(1975〜83年)
〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズで知られるスティーヴ・ジャクソン&イアン・リビングストンらが1975年に立ち上げた会社がゲームズ・ワークショップで、こちらから〈ウォーハンマー〉は出ている。創立時、すでにジャクソンは「ゲーム&パズル(Games and Puzzles)」誌のライターとして活躍中だったが、アメリカへ出かけた時にD&Dを知り、熱狂する。ゲームズ・ワークショップはイギリスにおけるTSR社の輸入代理店となってD&D製品を売り、それだけではなく『トラベラー』(GDW)や『ルーンクエスト』(ケイオシアム)等の他社製品も輸入していた。
顧客向けペーパー「フクロウとイタチ(Owl and Weasel)」の後継誌「ホワイト・ドワーフ」誌を出すに至り(1977年創刊、リビングストンが編集長)、D&Dをはじめとした取り扱い作品のサポート記事を載せていた。ゲームズ・ワークショップと「ホワイト・ドワーフ」は、イギリスのRPGシーンの中心地となり、AD&Dのサプリメント『フィーンド・フォリオ』(1979年)にモンスターを提供するなど、イギリスにおけるRPGの一潮流を築く(後のTSR UKの流れ)。この頃から、『ウォーハンマーRPG』のメイン・ライターの一人、グレアム・デイヴィスが参加している。最近でもイギリスBBC(日本で言うNHK)や大手リベラル紙「ガーディアン」(日本で言う朝日新聞あたりに相当)でも、この頃のことが紹介されていた。
1982年にパフィン・ブックス(日本で言う岩波少年文庫)から出した『火吹山の魔法使い』が大ブームとなり、ラジオ番組やテレフォン・アドベンチャー等でメディア・ミックスされる。もとはD&DをはじめとしたRPGの解説書の予定が、ジャクソン&リビングストンの意向から単体で遊べるゲームブックとなり、しかもパラグラフを選ぶだけではなく、簡単ながら練り込まれたルールシステムが付随していたのがヒットの理由だった。
ただ、これでゲームズ・ワークショップが販路を拡大したわけではなく、1978年にファンタジー・ミニチュアを扱うラル・パーサ社(アメリカ)と契約し、ミニチュアについても力を入れていた。20世紀初頭のH・G・ウェルズの『リトル・ウォーズ』の時代から、ミニチュアはイギリスで人気だった。「ホワイト・ドワーフ」でラル・パーサのミニチュアをサポートすると同時に、自社ブランドとして子会社のシタデル社を設立し、オリジナルのミニチュアを製造・販売し始めた。
ゲームズ・ワークショップはボードゲームやRPGにも力を入れており、『火吹山の魔法使い』のボードゲームはもとより、『ドクター・フー』(SFドラマ)や『ジャッジ・ドレッド』(SFコミック)をボードゲームやRPG化している。
また、ゲームズ・ワークショップが直接・間接的に関わったRPGやゲームブック作品に『ドラゴン・ウォーリアーズ』(1984年〜)、『タイガー暗殺拳』(1985年)、『ローン・ウルフ』(1985年〜)等があり、いずれも日本でも訳されている。〈ファイティング・ファンタジー〉のサポート雑誌「ウォーロック」が創刊されたのも1983年(〜86年、ちなみに日本版「ウォーロック」は84年創刊)だ。
■ミニチュアとRPGが並走していた頃(1983〜88年)
ただ、1980年代半ばからRPGブームが落ち着き始める。1983年に『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』初版が発売される。1984年に2版、87年に3版が出ている。ただ、初版から2版の間は、あくまでも中心はRPGで、「ホワイト・ドワーフ」誌でもサポートはされていたものの、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』はメインの商品とは言い難かった。D&D用の『ダンジョン・フロア・プラン』や、ボードゲーム『タリスマン』(1983年)等と同じ扱い。ただ、1985年に、TSRとの契約が切れてしまうので、以降、TSR関連製品を展開する代わりに『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』がプッシュされるようになってくる。
1986年に出た『ウォーハンマーRPG』は、ゲームズ・ワークショップでは3番目のオリジナルRPG。『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』との差別化として、当初からアーミーを組まず、個別のキャラクターを演じるのがポイント。
システムのベースはD&Dに大きな影響を受けていたが、キャラクター・ステータスに1〜10の数値幅を用いる『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』に比べて、『ウォーハンマーRPG』は1〜100の能力値幅を有し、かつ、膨大なキャリアの転職を繰り返すユニークなシステムを採用していた。それでありながら、戦闘ルールは『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』とコンバート可能になっていた(『ファンタジー・バトル』も初版にはRPGとして遊ぶルールが付属していた)。
魔法の拡張ルール集『レルム・オヴ・ソーサリー』が出す出すと言って果たせなかったものの(出たのは後述するホグズヘッド・パブリッシング時代の2001年)、『ウォーハンマーRPG』時代は評判上々で、リアル志向のキャンペーン・シナリオ〈内なる敵〉シリーズ(1986〜89年)が、AD&D小説『ドラゴンランス』(1984年)等大人っぽい冒険物語を好む層にヒットした。
『ウォーハンマーRPG』の初版は社会思想社から1991年〜93年に出た。文庫3分冊のルールブックのほか、『さまよえる魂』、〈内なる敵〉二冊、友野詳のリプレイ2冊が出て、「ウォーロック」誌で92年までサポートされた。小説は角川文庫で『ドラッケンフェルズ』が出た。
■ミニチュアとRPGが分化していた頃(89年〜2002年)
ゲームズ・ワークショップはその後、大手おもちゃ会社ミルトン・ブラドリーと組んでシタデル・ミニチュアを使った『ヒーロークエスト』(1989年、日本版はタカラから出た)から出すなどしていたが、徐々にミニチュアの方に比重を置き始める。
『ウォーハンマー・アーミーズ』(1988年)、『レルム・オブ・ケイオス』シリーズ(1988年〜等)。そしていよいよ、1987年に『ウォーハンマー40000:ローグ・トレイダー』の初版が発売される。RPG、ミニチュア、SF、ファンタジー、コミックの要素すべてが入っているという点で大ヒットした。結果として、『ウォーハンマー40000』と『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』がゲームズ・ワークショップの製品の核となり、1988年の「ホワイト・ドワーフ」100号では、ほとんど全ページがミニチュアゲーム関連の記事で占められるようになった。結果として、第1号では4000部だった「ホワイト・ドワーフ」の部数は、この頃は50000部にまで伸びていた。
とうとう1989年にゲーム・ワークショップはRPGラインを切ってしまい、サポートは子会社のフレイム・パブリケーション(Flame Publication)で行うようになり、『ウォーハンマーRPG』関係のクリエイターはそちらへ移籍して、〈ドゥームストーン(Doomstone)〉キャンペーンを製作した。これは『ウォーハンマーRPG』でもAD&Dのルールでも遊べるようになっているというキャンペーン・シナリオ。ただ、フレイム・パブリケーションも1992年には解散してしまい、1995年に『ウォーハンマーRPG』の権利はホグズヘッド・パブリッシング(Hogshead Publishing)へ移籍した。ホグズヘッド・パブリッシングでは『ウォーハンマーRPG』サポート誌「ワープストーン(Warpstone)」を創刊し、これは2版の時代も断続的ではあるが版元を変えて刊行されている。ホグズヘッド・パブリッシングが2002年に倒産すると、『ウォーハンマーRPG』の権利はゲームズ・ワークショップへ戻った。
1990年代半ばからゲームズ・ワークショップ社は世界的な成長を遂げていくようになる。『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』は第4版(1992年)から第6版(2000年)、『ウォーハンマー40000』が第2版(1993年)から3版(1998年)、そして『ロード・オブ・ザ・リング』のミニチュア・ゲーム(2001年)が製品の核となっていた。
日本でもシタデル・ミニチュアの輸入は新和・ORG等、複数のベンダーが出掛けていたが、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』が1997年頃からゲームズ・ワークショップ・ジャパンによって紹介されるようになる。
■〈ウォーハンマー〉のコンピュータ・ゲーム化
〈ウォーハンマー〉のデジタルゲームは意外と少なく、よく知られているのはマインドスケープ(Mindscape)社の『シャドーズ・オブ・ザ・ホーンド・ラット(Shadows of the Horned Rat)』(1995年)、『ダーク・オーメン(Dark Omen)』(1998年)、ブラックホール社の『マーク・オブ・ケイオス(Mark of Chaos)』(2006年)くらいだったが、実はブリザード社の『ウォークラフト:オーク&ヒューマン』(1994年)は『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の影響を強く受けており、同様に『スタークラフト』(1998年)も『ウォーハンマー40000』にインスパイアされたものだった。
ただ、ゲーム・ワークショップ謹製の製品ではなかったことから、〈ウォーハンマー〉展開にあたっては機会損失でもあった。そして、オンラインゲームについても版権交渉がこじれて、なかなか進展しなかった。
ようやく、『ダーク・エイジ・オブ・キャメロット』で知られるミスティック・エンターテインメントが『ウォーハンマー・オンライン』を2008年からスタートさせた。ただ、ブリザード社の『ワールド・オブ・ウォークラフト』(2004年)は1000万人以上のプレイヤーを擁したのに比べ、『ウォーハンマー・オンライン』は成功したとは言い難く、後期には10万人程度のプレイヤーしか獲得できなかった。
■〈ウォーハンマー〉の小説化
『ウォーハンマーRPG』は初版の時から、イギリスのSF誌「インターゾーン」の編集者デヴィッド・プリングルと組んで、「インターゾーン」の作家陣にノベライズを書かせていた。ジャック・ヨーヴィル〈ドラッケンフェルズ〉シリーズ、ブライアン・クレイグ〈吟遊詩人オルフィーオの物語〉シリーズなど。前者は『ドラキュラ紀元』シリーズが人気のキム・ニューマン、後者はベテランSF作家・評論家のブライアン・ステーブルフォードの筆名。
小説は質が高かったため、アメリカにおける〈ドラゴンランス〉シリーズのように一大ブランドとなり、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』が中心になった時代にもそれは続いた。アメリカのメタル・バンド「ボトルスロウアー」やパンク・バンド「スケイヴン」のように、音楽と連動する例もあった。
1997年には〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズにも参加していたライター・編集者のマーク・ガスコインが、ブラック・ライブラリー社を設立する。ブライアン・クレイグの〈トロールスレイヤー〉シリーズや、ダン・アブネット(『ウォーハンマーRPG』2版の巻頭小説)の〈ファースト&オンリー〉シリーズなどが高く評価されている。並行してコミック化も進められ、〈ウォーハンマー・マンスリー〉(1998〜2004年)のような連載もあった。
■『ウォーハンマーRPG』2版(2005年〜2008年)
2003年から『ウォーハンマーRPG』第2版の開発が始まり、2005年には、D&D3版系のサード・パーティであったグリーン・ローニン社から『ウォーハンマーRPG』第2版の展開が始まる。2008年には『ダーク・ヒアレシー』をはじめとした『ウォーハンマー40000』版のRPGが展開される。
前者は日本語版も2006年から発売、『オールドワールドの武器庫』、『オールドワールドの生物誌』、『魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー』、『堕落の書:トゥーム:オヴ・コラプション』、『救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション』、『ウォーハンマー・コンパニオン』、『スケイブンの書:角ありし鼠の子ら』、キャンペーン〈呪われた道〉三部作、ショートシナリオ『略奪品の貯蔵庫』といった展開がなされ、2015年には『ウォーハンマーRPG』第2版の基本ルールブックは根強いファン活動によって増刷版が刊行になった。
リプレイは「GAME JAPAN」誌掲載。ダウンロードシナリオは公式サイトで出た。小説は〈ドラッケンフェルズ〉シリーズが4冊と、『渾沌のエンパイア』が出た。また「ウォーハンマー・オンライン」が2009年から日本語版が展開、小説翻訳もウェブに載った。
■『ウォーハンマーRPG』3版以降(2009年〜)
『ディセント』等のRPG風ボードゲームで知られるファンタジー・フライト・ゲームズ社が2009年に『ウォーハンマーRPG』の第3版を出し、豪華コンポーネントで話題を集めた。しかし、それまでのユーザー層は少なからず困惑した。システムは、より洗練させたうえで『スターウォーズ』のボードゲームに転用されたものの、『ウォーハンマーRPG』2版を支持する声は根強く、『ツヴァイヘンダー(Zweihander ※aはウムラウト)』(2017年〜)というクローンシステムも出ている。そんな折、D&D5版の『ロード・オブ・ザ・リング』サプリメントを出しているキュービクル7社から、2018年に『ウォーハンマーRPG』第4版が出た。『ツヴァイヘンダー』との差別化のためか、初版への回帰色が強く(メイン・デザイナーの一人アンディ・ローは初版のデザイナーでもある)、実際〈内なる敵〉シリーズが4版対応で復刻されている。
−−and more…。
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『ウォーハンマーRPG』
・ルールブック ¥7,480(印刷版/電子書籍版共通)
・スターターセット ¥3,300(印刷版)/¥2,750(電子書籍版)
・ゲームマスター・スクリーン ¥3,850(印刷版)/¥3,300(電子書籍版)
・ライクランドの建築 ¥770(電子書籍のみ)
・比類なく有益なスラサーラの呪文集 ¥550(電子書籍のみ)
全て、通販サイト『コノス』にて発売中
https://conos.jp/products-tag/warhammer_rpg/
出版社:ホビージャパン(HobbyJAPAN)