2021年10月24日配信の「FT新聞」No.3196に、齊藤(羽生)飛鳥さんによる、T&T小説リプレイvol.11『もつれた国のアリス』編が掲載されています。『怪奇の国!』とのリンクがニクい。『もつれた国のアリス』に出てくるイサルキア王国を知りたい方は、『T&Tがよくわかる本』を。
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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.11
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いまだに、『怪奇の国!』からジークリットは出られていません。
そこで、『もつれた国のアリス』形式なら、他の冒険ができると思い、彼女にプレイしてもらいました。
ルイス・キャロルの論理学と言葉遊び、T&Tのくせの強いキャラクター達が、短いながらもきれいに凝縮されているミニソロアドベンチャーも、ジークリットでプレイすると、彼女の幸運なんだか幸薄いんだかわからない冒険になるのだとわかりました。
ダイスのせいなのか、はたまたキャラクターに引っ張られるのか。謎です。
何はともあれ、ソロアドベンチャーは奥深くて面白いです^^
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
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『もつれた国のジークリット』
〜『もつれた国のアリス』リプレイ〜
著:齊藤飛鳥
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0:幸運なる〈怪奇の国〉
私の名前は、〈幸運の〉ジークリット。
エルフの女性。303歳。銀髪金眼褐色肌の戦士。
軽い気持ちで冒険をし始めた〈怪奇の国〉をさ迷い続けて、幾星霜。
最近では、もともとの二つ名〈幸薄き〉に戻そうか、まじめに検討中。
今日もガンマンとの決闘に勝利したところで、いつもとは違う出来事が起きた。
「ああ、忙しい忙しい! このままだと遅刻しちゃいます! 」
何と、ガンマンが消えた後を、白ウサギが走っていくではないか!
もしかしたら、あの白ウサギを追いかけていけば、この怪奇の国から出られるかも!
全速力で私が白ウサギを追いかけていくと、魔術師たちが論争しているところへ出くわしてしまった!
片方は、「壮麗なる」マクシミリアン(通称マックス)だ。
この〈怪奇の国〉の創設者なんだから、出口を知っていてもおかしくない!
私は、マクシミリアンたちの会話に口をはさんだ。
1:幸運なる会話
「ごきげんよう。どうなさいまして? 」
〈怪奇の国〉から出る方法を教えてもらうため、私はお行儀よく挨拶した。
と言っても、いくらお行儀よく挨拶しても面接官が採用してくれるかどうかは全然別の話なんだよね……と、どこからともなく私の脳内へ流れこんでくる異世界の知識を押しやって、私はマクシミリアンたちの話に耳を傾けた。
「ここな魔術師ウォーケンから、厄介な相談を持ち掛けられてな。互いにそっくりな『約定の神』と『解放の神』を、できるだけ短い質問で見分けたいという話じゃ。『約定の神』は常に本当のことを言い、『解放の神』は常に嘘をつく」
うわ、本当に厄介だ!
ここは、知性度と幸運度で1レベルのSRをやってみるとしますかね。
ヘイ、ダイス!
知性度成功!
幸運度失敗!
なんてことでしょう!
そういうわけで、私にひらめいたのは、こんな質問だった。
2:幸運なる質問
「簡単でしてよ。あなたは嘘つきかと、訊けばいいと思いまーす。そうすれば……て、だめだ。どちらも、“いいえ”としか答えないわね」
大見栄切ったけれど、だめなものはだめだった。
マクシミリアンが、あからさまにため息をついた。
ちょっとちょっと、そこまで露骨にがっかりしないでくれる?
せめて、助けになろうとした心意気くらい評価してよね!
あーぁ、こうもうまくいかないとは、私はやっぱり〈幸薄き〉ジークリットなのかしら……。
3:幸運なる論争
私が落ちこんでいる間、マックスと魔術師ウォーケンの論争は、だんだんエスカレートしていった。
そう表現すれば聞こえはいいけれど、実際には呪文という名の肉体言語に走り出しちゃったわよ、こいつら!
「くらえ、《炎の》……」
「遅い! くらえ、《呪い》! 」
ウォーケンの呪いをくらったマックスは、その場でぐるぐる円を描いて回り始めた!
まずい!
マックスがいかれたら、私が〈怪奇の国〉から出られる方法がわからなくなるじゃないの!
慌てふためく私をよそに、魔術師ウォーケンは自分の世界に浸りきっていた。
「神々の話はだいたいわかった、あとは愛しいリリア姫を迎えにイサルキア王国へ赴くのみ! 」
リリア姫、誰?
いつ、『約定の神』と『解放の神』を見分ける話から、そんなラブな話になっていたの?
そんな疑問を声に出す暇もなく、魔術師ウォーケンは、マクシミリアンの傍らにある〈怪奇の国〉へと消えていった……て、あれ?
私、〈怪奇の国〉から出られているじゃない!
……と、喜んだそばから、マクシミリアンがぶつぶつとすっごく不吉なことをつぶやき始めた。
これは、危険な予感!
速度で1レベルのSRだけど、速度2倍にしてくれる魔法のブーツを装備しているおかげで、何とか成功!
私は全速力で駆け出した!
4:幸運なる結末
地面を抉り、蹴飛ばすように走っているうちに、急に足が空を切った。
続いて、浮遊感。
いやいや、「感」どころか浮遊しているのそのものだわ!
どうやら、私は走っているうちに、カトラス・スフィンクスに掴まれ、大空へファラウェイしてしまったようだ。
カトラス・スフィンクスは、チェシャ猫のように笑うと、何やら私へ語りかけてきた。
言葉遊びを駆使したその語り口調に、私は次第にまぶたが重くなってきて……。
……。
……。
……。
目が覚めると、そこは科学実験装置の置かれた部屋だった。
私の片手には、空のビーカーが握られている。
ビーカーからは、酒の匂いがする。
どうやら、ビーカーの中身の液体は何か確かめるために飲んで、酔いつぶれてしまったらしい。
すると、今までのことはすべて夢?
冒険点300をゲットできたのはいいとして、私はいつになったら〈怪奇の国〉から出られるのォォーッ!?
(完)
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齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。
出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
ミニソロアドベンチャー『もつれた国のアリス』
著:岡和田晃
発行 : グループSNE/新紀元社
2021/4/16 - 2,420円