2021年10月08日
児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』リプレイ
T&T小説リプレイvol.10『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』が、2021年9月26日配信の「FT新聞 」No.3168に掲載。お楽しみください。
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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.10
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コッロールの冒険は、いつも過酷です。
コッロールを舞台にした『ヴァンパイアの地下道』をプレイした時に見送ったキャラクターの数が、いまだに最多です。
でも、ミニソロアドベンチャーだから、大丈夫☆
……と、ハッピーエンドを目指し、『ヴァンパイアの地下道』で唯一生還したキャラクターのディーバでプレイしたら、コッロールはコッロールだと思い知らされたのでした。
恐るべし、廃都コッロール!!
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
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『怜悧なるディーバの冒険』
〜『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』リプレイ〜
著:齊藤飛鳥
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0:怜悧なる依頼
ボクの名前は、〈怜悧なる〉ディーバ。
職業は、魔術師。
『ボク』と言っているけど、18歳の金髪碧眼の乙女だよ。
さて、ボクは今、友人である癒し手ブリッタニーの依頼を受けているところだ。
「廃都コッロールへ冒険しに行ったきり帰って来ない、夫のスヴェンを探してほしいの。こんなことを頼めるのは、あなたしかいないわ」
かつてボクが、カザンの魔術師組合に所属していた時に引き受けたコッロールへの冒険は、それなりに人口に膾炙していたらしい。
まっ、コッロールへ冒険しに行って、帰ってきた者なんてほとんどいないから、それも当然か。
噂によると、ボク以外にコッロールから生きて帰ってきた者と言えば、人間の女戦士と男の岩悪魔の二人組くらいしか、いないらしいしね。
「わかった。引き受けよう。それで、君の夫は、具体的にはコッロールのどこへ冒険しに行くと、言っていたのかな?」
「コッロール南部にある廃城へ行くと言い残していったわ」
「なるほどね。わかった。では、今すぐ行ってくるよ」
ボクがドアを開けて外へ出ようとすると、ブリッタニーがひどく驚く。
「こんな夜中にコッロールへ行くなんて危険じゃない、ディーバ?」
「何を言っているのさ。大事な友達の夫を助けに行くんだ。一秒でも早く行動しなきゃね」
ボクは、心配そうなブリッタニーをなだめ、一路コッロールへと向かった。
1:怜悧なる廃城
廃都コッロール南部にある廃城。
そこに到着した時には、夜もすっかり更けていた。
でも、それがどうした?
ボクは、廃城の中へ突入した。
城壁の中へ入ると、薄暗い。仕方なく《猫目》の呪文を使う。
すると、人影が見えた。
「スヴェン? ボクだよ。君の妻のブリッタニーの友人で、魔術師の〈怜悧なる〉ディーバだよ」
ところが、呼びかけた人影は、暗灰色の肌と長く突き出した耳、赤い瞳、長い白髪をした、身長3mはある長身痩躯の美丈夫だった。
筋骨隆々な小男で、ブリッタニーにとってだけは美男子に見えているスヴェンとは、似ても似つかない別人だ!
むしろ、どうやって人間違えできたんだ、さっきのボク!
「余に声をかけるは、誰ぞ? 余が宇宙より飛来せしヴァンパイア・ロードのグローギス・カーン・マキシムスと知ってのことか」
……宇宙にも、ヴァンパイア・ロードっていたんだ?
いやいや、そんなことにびっくりしている暇があるなら、確実にこいつを仕留めよう!
「! エラクモデレコ」
ボクは、4レベルの《これでもくらえ!》をかけた。
2:怜悧なる決着
ボクがかけた《これでもくらえ!》は、まっすぐにマキシムスへと襲いかかる。
「ふん、児戯に等しいわ」
マキシムスが言うなり、彼の持っている杖が輝き出す。
「[異星のカンフー]第一の奥義、暗夜彷徨脚! 」
マキシムスは、杖を軸にして、体を宙に浮かせると、そのまま勢いよく回転し、両足でボクの呪文を蹴り飛ばしてしまった!
「呪文を蹴り飛ばすなんて、そんなのあり!? 」
生まれて初めて見る反撃方法に、ボクは愕然とするしかなかった。
「辺境の星の民草よ。余に歯向かった勇気に敬意を表し、褒美をくれてやろう」
勝ち誇ったマキシムスは、そう言って、まだ愕然として棒立ちになっているボクへ近づくと、首筋に牙を立てた……。
「うぇえ、まずい! 何だ、貴様。とうにヴァンパイアではないか! 」
マキシムスは、思い切り顔をしかめる。
「名乗り遅れたね。ボクは、偉大なるソーサラー・ヴァンパイア・キングのヴァクシュミ様の下僕の一人、《怜悧なる》ディーバ。わけあって、友人の夫を探しに来たんだ」
マキシムスは、不機嫌そうにマントの裾で口元を拭く。
「その方の友人の夫? それと思しき輩なら、つい先日献上品として異次元へ転送したぞ。二度とこの星へ帰ることは叶わぬであろうよ」
「えぇっ!? まいったな。ブリッタニーへ、どう伝えればいいか……」
怜悧なるボクだけど、友人へつらい報告をするのはさすがに悩む。
「民草も、このコッロールの地に斃れたことにして、伝えねばよいのではないか? 人の一生は短い。数十年ほど棺で休めば、目覚めた時にはその友人はとうに息絶えているから、民草が気まずい思いはすまい」
ボクがヴァンパイアだとわかると、マキシムスは意外にも親身なアドバイスをくれた。
「いいね! そうするよ!」
そういうわけで、ボクはヴァクシュミ様から与えられた石室へと戻り、石棺の中でひと眠りすることにした。
夢の中で、ブリッタニーが夫も友人も喪ってしまったと嘆いていて、ちょっぴり胸が痛んだけど、目が覚めたらスッキリしていた。
つくづく、ボクもヴァンパイアらしくなったものだ。
さーて、太陽に注意しつつ、数十年ぶりの地上を楽しむとしよう!
(完)
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齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。
出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
ミニソロアドベンチャー『ヴァンパイア・ロードと対峙せよ!』
著:岡和田晃
発行 : グループSNE/新紀元社
2021/4/16 - 2,420円