2021年09月15日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「“ほうき拳”をめぐる冒険」小説リプレイ

 8月22日配信の「FT新聞」No.3133で、齊藤(羽生)飛鳥さんが、拙作「“ほうき拳”をめぐる冒険(アヴァンチュール)」(「GMウォーロック」創刊号所収)のリプレイ小説が掲載されました。

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.9
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『“ほうき拳”をめぐる冒険』は、『傭兵剣士』と世界観を共有していますし、そのまま『傭兵剣士』に進めるようになっている優れものです。
これは、今まで書いたことのない、翠蓮とシックス・パックの馴れ初めリプレイができると、ノリノリでプレイしました^^
どんなシチュエーションであろうと、どんなキャラクターであろうと、相棒として打ち解ける姿しか思いつかないシックス・パックの個性は、やはり素晴らしいです。


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『屈強なる翠蓮の冒険エピソード0』
〜『“ほうき拳”をめぐる冒険』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:屈強なる思い出話

あたしの名前は、〈屈強なる〉翠蓮。
黒髪色白ロリ体形がポイント高い女戦士ヨ。
相棒は、飲んだくれ岩悪魔のシックス・パック。
今日は、こいつとどうやって知り合ったか語るネ。


1:屈強なる傭兵剣士

当時1レベルの戦士だったあたしは、青蛙亭史上最大の無銭飲食をやらかした後、〈黒のモンゴー〉なる魔術師に雇われたヨ。
モンゴーいわく、元の持ち主の〈赤の魔術師〉が、塔のどこかに、きわめて重要な魔法のアイテムを隠蔽しているから、回収してきてほしいとのことネ。
「回収するのはいいけど、地図はないのかヨ」
「ない。地図を作るよう雇った戦士が、行方不明でな」
地図はない。
でも、魔法のアイテムはほしい。
こいつ、とんでもないドケチの欲ばりじじいネ。
でも、一文無しのあたしには、こいつに雇われて金を稼ぐほか、選択肢はなし。
雇用関係だけだから、人柄は二の次、三の次にしてやるヨ。
「では、行ってくるサ」
あたしは下り階段を進むと、勢いよく扉を開けて冒険を開始したネ。


2:屈強なる新任傭われ剣士

勢いよく扉を開けると、「グフッ」とガマガエルを踏み潰したような音がしたヨ。
よく見たら、扉に前任の雇われ剣士が目を回して倒れているネ!
「こっちが襲う前に獲物が扉にはねられて気絶とか、前代未聞なんだけど……」
怪物が、形容しがたい表情で、床にのびているドワーフのおっさん戦士と、ロリロリしくかわいいあたしを見比べ始めたヨ。
「隙あり!」
あたしは、扉の先にいた、長い腕を持つ2メートル半はある怪物ほうき拳こと“ナックル・ダスター”に襲いかかったネ!
不意打ちのおかげで、“ほうき拳”へそれなりに攻撃を与えられたと思ったけど、なかなか倒れてくれないヨ、こいつ!
その時だったサ。
あいつが、あたしの前に姿を現したのは……。


3:屈強なる相棒

瘤のある頭。
小脇に抱えたビヤ樽。
“ほうき拳”の背後から、出てきたこいつこそ、のちにあたしの冒険の相棒になる岩悪魔のシックス・パックだったネ。
初対面だったけど、すでに酔っぱらっていやがったヨ。
その証拠に酒臭い息を吐き散らしながら、シックス・パックは“ほうき拳”を攻撃し始めたサ。
あたしとシックス・パックによる二人がかりの攻撃に、“ほうき拳”は耐えきれなくなっているネ。
それをいいことに、あたしは“ほうき拳”にとどめの一撃を繰り出したヨ。
「ふぅ、やっと倒せたぜ。そうだ、名乗り遅れたな。俺様の名前は、シックス・パック。よろしくな!」
「あたしは、翠蓮ヨ。よろしく」
「よろしくな。ところでよぉ、翠蓮。実は、前に契約を結んだ相棒はあの通りとんずらこいちまったし、その前の相棒は奴隷としてて売り飛ばされちまって、俺様、一人ぼっちなんだ。一緒に冒険をしねえか?」
あたしは、考えたネ。
酒臭い息を漂わせるアル中岩悪魔は、はっきり言って一緒に日常生活を送りたい相手ではない。
でも、1レベルのまだまだひよこな冒険者のあたしでは、この先、無事に冒険を達成できるか、かなり怪しい。
利用できるものは、何でも利用するに限るヨ。
あたしは、決心した。
「いいネ。では、今日からおまえはあたしの仲間サ」
「決まりだ! これは、契約を結んだ祝い酒だ。とっておきだぜ」
シックス・パックは、ポーションにビールを混ぜて、あたしにくれた。
「あたし、まだ18歳ヨ」
「細けえことは気にするな。さあ、飲め!」
シックス・パックは、強引にあたしに酒を飲ませてきた!
「何かクラクラするネ……」
酒が強すぎたせいで、あたしは自分と世界の境界があやふやになってきたヨ。
まるで、自分が世界に溶けこみ、無になっていくような感覚がしてきた。
「俺様の特製酒で、存在感が薄くなったようだな。次の戦闘の時には、敵の最初の攻撃目標からはずれるかもな!」
「『かもな!』じゃねえヨ、飲んだくれ岩悪魔。もし、特製酒で変な効果が出たら、どうしてくれる気サ!?」
腹を割ったトークで、早く打ち解けようと、あたしは赤裸々な心情をシックス・パックに明かしたネ。
「その時は、新しい相棒と契約したまでの話だ!」
「そうかそうか。あたしもてめえがくたばった暁には、新しい岩悪魔と契約するヨ」
こうしてお互い腹を割ったトークをしたおかげで、相手の本性がすっかりわかったあたしらは、二人で始める冒険の第一歩として、来た反対側の扉を抜けたネ。


4:屈強なる誘導

扉を抜けると、岩壁の部屋に出たヨ。
そこにも扉が四方に付いていて、次の部屋に行けるようになっていた。
「西へ行こうぜ、相棒」
「は、何でサ?」
「いいから、西の扉にしようぜ! さあ、西へ行こう! レッツ西だ! 西西西!」
「あーあー、わかったネ。西へ行ってやるヨ」
あたしは、シックス・パックの誘導に従って、西の扉を開けたネ。
「ここが、さっきの“ほうき拳”がいた部屋だ。あのガタイを見て、ビビった連れがとんずらしたってわけ。記念すべき12人目の相棒だったんだけどなぁ」
「おまえ、今までどんだけ相棒を見殺しにしてきたヨ?」
「うお、何だよ、あの北に置かれている木箱! エルフ臭くてたまらねえぜ!」
シックス・パックは、あたしの質問をはぐらかし、木箱から離れていく。
まったく、しょうもない奴ネ。
でも、ある意味、わかりやすいから、いいとするヨ。
あたしが、何気なく南側の壁に触れると、妙な感じがしたネ。
よく見たら、巧妙にアルコーヴが隠されていたヨ!
中には、“ほうき拳”を象っためのうの像が安置されているネ!
「けっ、なんだなんだ。不細工な野郎をモデルにするなんて、せっかくのめのうがかわいそうだぜ」
謎の嫉妬をするシックス・パックを放っておいて、あたしは“ほうき拳”の像に触ってみた。
途端に、重々しい音と共に像が動き出したヨ!
「なんてことをしてくれやがったんだよ、翠蓮! こうなったら、戦うしかねえな!」
「おまえが意外と割り切る性格でよかったネ!」
奴からの最初の攻撃は、存在感が薄くなっているおかげで食らわなくてすんでいるから、助かるヨ。
あたしらは、“ほうき拳”の像と戦闘を始めた。


5:屈強なる幕開け

結論から言うと、シックス・パックを仲間にしたあたしの判断は正しかったネ。
1レベルのあたし一人では到底かなわなかった敵も、こいつがいるおかげで、倒せたヨ!
“ほうき拳”の像は砕け、中から〈赤の魔術師〉の紋章の付いたナックル・ダスター(拳鍔)が飛び出してきたネ。
「これがモンゴーが探して求めていた魔法のアイテム? ずいぶん戦士向きの武器サ」
「おいおい、魔法のアイテムが一つだなんて、誰が決めたんだよ? もっと探せば、もっといい魔法のアイテムをゲットできるし、お宝だって見つけられるぜ。さあ、冒険を続けようぜ!」
「そうネ! じゃんじゃん魔法のアイテムもお宝もゲットしていくヨ!」
モンゴーのもとへ魔法のアイテムを届けるのはやめ、あたしはシックス・パックとさらに冒険を続けることにしたネ。
まさかその後、酒蔵に迷いこみ、酔いつぶれたせいで所持金たった1gpになる運命が待っているとも知れずに……。

(完)


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齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『GMウォーロック』Vol.1 収録
 ミニソロアドベンチャー『“ほうき拳”をめぐる冒険』
 著:岡和田晃
 発行 : グループSNE/新紀元社
 2021/4/16 - 2,420円

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編集: 水波流、緒方直人
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posted by AGS at 06:22| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする