2021年07月15日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「ヴァンパイアの地下堂」小説リプレイ


 本日2021年7月11日配信の「FT新聞」No.3091に、齊藤(羽生)飛鳥さんによる、『トンネルズ&トロールズ』完全版の小説リプレイ、「ヴァンパイアの地下堂」(拙訳、『コッロールの恐怖』所収)編が掲載されています。高レベル用ホラー・アドベンチャーをご堪能あれ!

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児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.8
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『ヴァンパイアの地下堂』は、個人記録過去最高で、プレイヤーキャラが死んだソロアドベンチャーです。
何人ものプレイヤーキャラが、様々な最期を遂げていきました。
そんな中、唯一生き残ったのが、今回の主役のディーバです。
その喜びにより、テンションが上がったため、終盤から私の好きな漫画の引用ネタが増えます。
それでは、BGMに『VOODOO KINGDOM』をイメージしつつ、ご笑覧くださいませ^^

※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『怜悧なるディーバのヴァンパイアの地下堂』
〜『ヴァンパイアの地下堂』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:怜悧なる自己紹介

ボクの名前は、〈怜悧なる〉ディーバ。
『ボク』と言っているけど、本当は18歳の金髪碧眼の人間の乙女だからね。
身長158cm、体重はヒ・ミ・ツ!!
職業は、魔術師。レベルは12。
この年齢で、レベル12の魔術師になったのと、知性度68から、つけられた二つ名は〈怜悧なる〉だ。
魔術師組合の同期で、風の噂では奴隷になった落ちこぼれ……失礼、変わり種のエルフの魔術師の幸薄きジークリットが、いまだにレベル一桁代をさまよっているのとは、大違いだ。
さて、そんな優秀な魔術師のボクだから、カザンの魔術師組合からの危険極まりない依頼を受けたのも、当たり前と言えば当たり前なことだった。
「高貴なる者の務め」ならぬ「優秀なる者の務め」は果たさないと、ボクに才能をくれた神様から天罰を食らってしまうからね!


1:怜悧なる旅立ち

主任魔術師のメンスラー様から、これから行くコッロールのヴァクシュミの地下堂の説明と、案内人となる召使いの岩トロールを紹介された。
岩トロールは、岩悪魔みたいなものだろうとたかをくくっていたら、6メートルだって!?
想像していたよりも3倍大きくて、びっくりだよ!
名前は、トラン=トール=ホム。
石のクリーチャーだから、対ヴァンパイアやアンデッドの仲間として、最適だ。
ラバ呼ばわりも護衛呼ばわりも嫌うことを、メンスラー様はさも悪いことのように言ったが、トランは単に自分を正しく評価されたがっているだけじゃないのかな?
異種族差別発言を平然とするとは、メンスラー様は意地が悪いお人だ。
だから、怜悧なるディーバちゃんとしては、差別などせず、岩トロールは酒場でくだをまいている冒険者くずれのおっさんを相手にするように、おだてて利用するのが一番だと思うんだよね。
「君のようなたくましい戦士を旅の相棒にできるとは、ボクはついているよ! 魔法攻撃はボクにまかせて、君は思う存分実力を発揮するといいよ!」
と、挨拶の後に、軽くリップサービスしたら、トランはため口から敬語に早変わり!
ボクのことを「ディーバ様」と呼ぶまでになった!
おかげで、旅の打ち合わせはスムーズに進んだ。
さあ、いよいよ廃都コッロールの冒険が始まるぞ!
ボクとトランは、カザンの魔術師組合事務所を後にした。


2:怜悧なる市内探索

廃都コッロール。
そこは、カザン帝国の地下一帯に広がるヴァンパイアとアンデッド達の都。
その郊外に、ボクとトランがたどり着いたのは、カザン帝国魔術師組合事務所を後にして10日後のことだった。
生者の時が終わりに近づき、アンデッド達死者の時が始まりつつある午後の日差しが、やがて訪れる夜の闇の危険をボクらに告げていた。
「これからどうしますだ? 日のあるうちにヴァンパイアの地下堂へ入りますだか? それとも、日没になってから入りますだか?」
トランは、もっともな質問をする。
ボクの答えは、最初から決まっていた。
「無駄な戦闘を避けて目的を達成したいから、アンデッド達が出て来ない日のあるうちに地下堂の入り口を目指すよ」
トランは、ボクの決定に賛成したので、ボクらはコッロール市内を歩いた。
1000体ものスケルトン・マンが暮らしているので、いつ奴らに襲われるかもしれない。
しかし、今は日中だし、ボクの傍らには6メートルもあるトランがいるから、襲いかかって来る心配はない。
ボクは、姿隠しや幻覚の呪文を使わず、市内を歩いた。
怜悧なるボクの読みは当たり、スケルトン達はただの1人として、襲いかかって来なかった。
おかげで、ボクらは地下堂への秘密の入口にまで無事にやって来ることができた。


3:怜悧なる決断

地下堂の入口である廃墟の壁に近づくと、邪悪なオーラが強烈に放たれていた。
この中に入れば、さらにこのオーラが増すのは容易に見当がついた。
それはつまり、ボクの生命や存在の危機を意味している。
メンスラー様が、トランを紹介してくれて、本当によかった。
こんなに便利な召使いはめったにいない。
……と、感心をしたそばから、トランがとんでもない告白をしてきた。
なんと、彼には入口が小さすぎるため、地下堂には入れないと言うのだ!
魔法で小さくすれば入れると言うあたり、冒険を続ける意思があるのがわかって安心だが、さてどうしたものか。
ちょっと考えてから、ボクは《小さいことはいいことだ》の呪文を思い出した。
この呪文を習得した時、何の役に立つのか、首をかしげたものだが、こういう場合に役立つものなんだね。ちゃんと修行しておいてよかったよ。
「ダトコイイハトコイサイチ……」
呪文を唱え終えると、たちまちトランは元のサイズから4分の1サイズに小さくなる。
「これでよし! さあ、出発だよ、トラン!」
ボクは、先にトランを地下堂の中に行かせると、サンストーンを起動させてから、地下堂のダンジョンへと入った。


4:怜悧なる探索開始

幻の扉を通過した途端、ボクは胸に破壊的な魔力の一撃を食らった!
しまった、怜悧なるボクともあろうレベル12の魔術師が油断していた!
耐久度が10%減るのを感じたけど、魔力度の消費は極力避けたいから、我慢してこのまま探索は継続だ。
ボクは、気を取り直すと、曲がりくねった階段を下り始める。
曲がりくねって歪んだデザインのせいで、見通しがきかない。
こういう場所は、モンスターに遭遇しやすい。
ボクが予想したそばから、階段を上がってきたレッサー・ヴァンパイアと、ばったり鉢合わせしてしまった。
「ギャー……と思ったら、新鮮な血だ! やったー!」
驚いたそばから喜ぶとは、なかなか忙しい奴だ。
出現を予想していた怜悧なるボクは、勇ましく先陣を切るトランの邪魔にならないよう、落ち着いて場所を譲った。
たちまち、トランとレッサー・ヴァンパイアとの戦闘が始まる。
曲がりくねった階段は、身動きが取りにくい。
援護の呪文を放つ時は、トランに当てないように気をつけないとね。
トランは、レッサー・ヴァンパイアをいい具合に打ちのめしてくれた。
おかげで、ボクのしたことと言えば、とどめの魔法を食らわせたのと、動かなくなったこいつの体をあさったことだけ。
ボクの冒険の目的は、この地下堂で少しでも魔術師組合の研究に役立つアイテムを手に入れることだから、罪悪感はない。
レッサー・ヴァンパイアの体をあさると、アミュレットが出てきた。
正直、安物っぽいけど、メンスラー様なら、魔術的価値を見出すかもしれないから、念のため回収だ。
ボクは、レッサー・ヴァンパイアをあんなに打ちのめすとは素晴らしい戦士だと、トランをほめちぎりながら、階段を下り続けた。


5:怜悧なる分かれ道

階段を下りきると、堅い岩を削ってできた狭い回廊に出た。
その先にはトンネルがあり、道が左右に分かれていた。
危なっかしい足元の道で、呪文《そこにあり》で調べてみようかという考えが浮かんだけど、さっきの戦いで魔法を使ったばかりだから、魔力の消耗はできるだけ避けたい。
せっかくトランがいることだし、先に歩かせて危険かどうか様子見をすればいい。
「どちらの道へ行きますだ?」
「左へ進むよ。さあ、行った行った」
ボクは、トランを先頭に左の道を進む。
道は、ちょっと歩いてすぐに右に曲がり、また左右分かれ道になっていた。
迷った時には、左へ進むのがいいと、昔読んだ本に書いてあったことを覚えている怜悧なるボクは、また左の道を選んだ。
今度は6メートルほど歩いたところで、右に曲がる。
左の道を選ぶたびに、必ず道が右に曲がっている法則でもあるのかな?
そんなことを考えながら、曲がり角にさしかかった時だ。
ボクは左手に古い扉を、曲がり角の先に大きな部屋があるのを見つけた。
今まで左の法則で進んできたボクだけど、扉は鍵がかかっている可能性がある。
だけど、これまでの探索でボクらは鍵を入手してない。だから、扉に入ろうとしても開けられないかもしれない。
それよりも、扉がない大きな部屋を探索しに行った方が効率がいい。
怜悧なるディーバちゃんの辞書には『バカの一つ覚え』はないのだ!
ボクとトランは、扉の前を通りすぎて、大きな部屋へと向かった。


6:怜悧なる選択

大きな部屋は、一言で言うと、まがまがしい部屋だった。
天井は蜘蛛の巣で覆われているし、壁には背筋が凍りつくような、おぞましいデス・マスクがたくさんかけられている。
ボクの《魔力感知》と本能が、ここにある物も、この場所も、とてつもなく危険だと告げている。
はっきり言って、このデス・マスクはすべて呪われているよ!
部屋の中を見渡すと、ボクらが入って来たのとは違う扉が遠くの角にひっそりとあるのを見つけた。
扉には、【死せる者のみがこの扉を通るべし】と書いてあった。
扉を開ける前から、強烈なまでにまがまがしくも強大な魔力を感じた。
でも、それだけ、ここには魔術師組合の研究に役立つほど貴重な物があるとも言える。
ボクは、迷わず部屋に入った。
やっぱり、すさまじい魔力だ!
それに、思ったとおり、たくさんデス・マスクがある!
なんて、呪いに満ち満ちた部屋なんだろう。
トランに至っては、部屋に入ってすぐにダッシュで部屋の外に出たよ!
「ディーバ様。自分は、廊下に避難……でねえ、見張りをしていますだ。あの……頼むから、その部屋のマスクには何もしねえで……」
「お言葉だが、トラン。ボクの任務は、こういう物を持ち帰ることなんだよ」
ボクは、トランの助言を受け流し、部屋の壁にかけられたたくさんのデス・マスクの中から、金とトルコ石のルーンで彩られたマスクを見た。
これこそ、メンスラー様が持ち帰ってきてほしいと頼んだものだ。
魔力の弱いマスクと、強いマスクがあるけど、どちらにしようかな?
「そんなガラクタはうっちゃっておいて、外に出ておいでなせえ!」
考えるボクの背中に、トランの必死の叫びが聞こえてくる。
トランには悪いが、ボクにとって大事なのは、メンスラー様からの依頼であり、ボクの使命感だ。
二度とここへ来るつもりはないから、思いきって魔力の強いマスクを持ち帰ろう。
ボクは、魔力の強いマスクを手に取った。


7:怜悧なる衝動

魔力の強いマスクを、こうして手に取ってつくづくながめるに、気味の悪いマスクだ。
ヴァンパイア……仮面……うっ、頭痛が……!
なぜだろう?
人間をやめると、声高らかに宣言しながらマスクをかぶりたい衝動に猛烈に駆られる!
こんな見るからに呪いがかかっているマスクなんてかぶったら、命を落としかねないと、怜悧なるボクの頭は理解しているのに、猛烈にマスクをかぶりたい!
仮面なしじゃNO LIFEな気分だ!
部屋の外で、トランがおびえて早く出て来いと言っているのが聞こえるけど、今はそれどころではない。
「俺は人間をやめるぞー!」
気がつけば、ボクは声高らかにそう宣言して、マスクをかぶっていた。
でも、かぶったそばから、早く脱がなくてはという思いにかられた。
ボクは、必死になってマスクをかぶり続けたい衝動に打ち勝ち、やっとの思いでマスクを顔から引っぺがした。
危なかった……あともう少しマスクをはずすのが遅かったら、どうなっていたことやら。
ボクが額の冷や汗をぬぐったところへ、部屋の中のまがまがしくも邪悪なオーラがいっそう強まるのを感じた。
死そのものが、ボクの背後にたたずんだら、こんな気分かな……。
トランは、恐怖のあまり、全速力で逃げていく。
怜悧なるディーバちゃんよりも、怜悧なる判断だ。
名ばかりの怜悧なるディーバちゃんは、逃げられず、背後を振り向くほかない状況に陥っている。
ボクが振り向くと、そこには濃い霧が立ちこめていた。
霧はやがて濃度を増して、具象化していく。
具象化した先に待っていたのは、太古のヴァンパイアだった!
一目見ただけで、背筋が凍りつく恐ろしい姿をした彼こそ、この地下堂のあるじ、ソーサラー・ヴァンパイア・キングのヴァクシュミだった。
要約すると、ボクの血を吸いに来たと語るヴァクシュミに対して、ボクができることは、ただ一つ。
《わたしをどこかへ……》の呪文を唱えるだけなのだが、魔力がたりない!
終わった……。
Tamam Shudだよ……。
「言い残すことはないか、ちっぽけな魔術師よ?」
ヴァクシュミは、いたぶるように微笑を浮かべながら、弱者の最期のあがきを嬉々として待ちかまえる。
「血を吸われてヴァンパイアの下僕となるなら、男とは思えない妖しい色気と透き通るような白い肌と輝く金髪を持つ魅力度カリスマ級の吸血鬼の下僕がよかっ……」
「もうええわ」
世にも珍しいヴァクシュミのイラッとした声を最期に、ボクは血を吸われ、意識は闇の底へと沈んでいった……。


8:怜悧なる目覚め

目が覚めると、地下堂の一室の石棺の中にいた。
新入りの下僕風情のために、わざわざ部屋と石棺をお与えくださるとは、ヴァクシュミ様は、マジ王様。キングの中のキングだよ!
しかも、ヴァンパイアになったおかげで、魅力度も上がり、ボンキュッボンのナイスバディになった!
ヴァクシュミ様、最高!
ヴァクシュミ様、万歳!
さらには、召集をかける以外は好きなことをしてもいいとは、なんて寛大なんだろう!
カザンの魔術師組合よりも、ずっと労働条件がいいや!
ボクは、すがすがしい気分で、地下堂を出た。
夜空には、赤い三日月がのぼり、吸血コウモリ達が群れをなしてはばたく音が聞こえる。
こんな美しい夜は生まれて初めてだ。
おや、新鮮な血のつまった皮袋がパーティーを組んでやってきたぞ。
さっそく襲撃だ!
皮袋達は、ボクを見るなり、いっせいに攻撃をしかけてきた。
「無駄無駄無駄ァーッ!!」
ボクは、すかさず反撃する。
呪文は覚えているし、魔法の力は上がっているから、あっという間に皮袋どもを戦闘不能にできた。
「頼む……命だけはお助けを……」
何か言っているけど、関係なし!
いっただきま〜す!

(完)


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行予定のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト(新)
2020-04-16 児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「ヴァンパイアの地下堂」(『コッロールの恐怖』所収)リプレイ
https://akiraokawada.hatenablog.com/entry/2020/04/16/213228

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