2021年07月04日
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11
第4版ルールブックのPDF版、新作の発売と話題沸騰中ですが、2021年7月1日配信の「FT新聞」No.3081に「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11」が掲載。オウガの解説です。新作「ライクランドの建築」に出てくる建物をオウガに守らせ、あるいは襲撃させましょう!
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.11
岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
わたしはユングフロイト家の周辺を探ることにした。
魔力の風を感知されたら困るので、なるべく魔法を使わずに、あの手この手を使うのだ。
わたしはフレイザーを連れて、うらぶれた肉屋へ赴いた。そこで、たたき売りされているクズ肉を能う限り買い漁る。
そして、“くしゃみだらけでぶっ飛んだ”亭と看板が出ているスパイス店に行く。ここのオーナーはハーフリングで、オウガたちの好みを知り尽くしている。
買った肉を味付けしてもらうわけだ。肉から向こうに任せることもできるが、ここぞとばかりにふっかけられてしまうので、食材はこちらで用意するに越したことはない。
「なあ、この肉は何に使うんだ?」
フレイザーが勘の鈍い質問をしてくる。
「決まっているでしょ。オウガの衛兵たちに食べさせてやるのよ」
――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より
●オウガ! オウガ! オウガ!
オールド・ワールドのクリーチャーについて、これまでスケイヴン、グリーンスキンと解説してきましたが……それ以外にも他のファンタジーRPGお馴染みのクリーチャーが、『ウォーハンマーRPG』では登場します。
――ずばり、オウガやトロールです!
オウガ(Ogre)は、ゲームによっては「オーガ」、「オグル」などと訳されてきました。日本におけるRPG黎明期の代表的な解説書である早川浩『RPG幻想事典』(ソフトバンククリエイティブ、1986年)では、「オグレ」というユニークな訳語が当てられていたのが印象深いところでした。
D&D系列のゲームでは、ゴブリンやオークよりは強いもののトロールやジャイアントには劣る、いわば中級レベル帯の代表的な敵役として登場します。
クラシックD&Dは、モンスターを狩っても獲得できる経験点はそう大したものではなく、頭を使って宝を得て初めて、充分な成長ができるだけの経験点が得られるというシステムでした。大抵のクリーチャーは、ねぐらにお金を溜め込んでいるわけで、ワンダリング・モンスターとして出逢うような連中はろくな宝を持っていないものが常なのですが……オーガの場合は、大金をもってウロウロしているので、恰好のターゲットでした。昔話や伝承の「人食い鬼」がオーガの起源と思われますが、これでは、どちらが悪どいかわからない。
そんなオウガは、『ウォーハンマーRPG』では独特の立ち位置を与えられています。独自の思想をもっていて癖があるものの、頼りになる用心棒、何よりもグルメなのです!
第4版のルールブックでは、オウガは以下のように説明されています。筋骨隆々ですが暴力的で、常に腹を減らしている。基本的には力こそ正義。そして……。
はるか東の土地からわらわらとやって来たオウガたちは、常に地平線の果ての新たな肉を狩るべく放浪を好むことから、オールド・ワールドでごく普通に見られる。数十年に渡る食料探しの旅を経て、彼らは次の肉にありつく可能性がより高そうな方法として、地元の服を着て、彼らが理解する地元の風習に従い、その地に融け込もうと熱心に働くようになる。
そう、意外なことに、人間(やデミヒューマン)の社会に溶け込んでいるんですね。扱いやすいとは到底いえませんが、それでも美味しい食べ物を与えていれば文句は言わない。領邦軍における壁役、いかついので用心棒としてもピッタリです。
●オウガとハーフリングは仲良し
オウガはとりわけハーフリングとは――意外に思われるかもしれませんが――大の仲良しだったりするのです。第4版のルールブックでも、特段にコラムを設けて、両者の関係は解説されています。オウガはハーフリングのために、安価で頑丈な労働力を提供する。逆にハーフリングは料理の腕前を生かした料理人として、とびきりのごちそうを振る舞う。そういったWin-Winな関係が成り立っている、というわけです。しかし残念なことに、しばしばハーフリングの料理よりもハーフリング自身のほうが美味しい、という展開にもなってしまうこともあるようですが……。
ハーフリングが料理好きというのは、『指輪物語』や『ホビットの冒険』のイメージが応用されていますね。ただ、『ホビットの冒険』に出てくるトロールのイメージは、『ウォーハンマーRPG』や他のファンタジーRPGではオウガとトロールへ、区分される形で踏襲されているのではないかと思えてなりません。それどころかオウガとトロールはしばしば対立し、第4版のシナリオソースとして英語で公開されている無料PDF「ライクランドに冒険あり!(Adventure Afoot in the Reikland )」では、オウガの料理人がリバー・トロールの肉を求めるという、奇妙なシチュエーションのシナリオソースが収録されています。
●奇書「エンパイアのオウガ」
『ウォーハンマーRPG』第2版では、「エンパイアのオウガ」というウェブエンハンスメントがありました(訳:鈴木康次郎、チェック:阿利浜秀明、岡和田晃)。これはもともと、英語ではBlack Industriesから『ウォーハンマーRPG』第2版が出ていた時分にダウンロードが可能だったものです。ちなみにBlack Librariesというのが、〈ウォーハンマー・ノベル〉を専門で出版している版元のことですね。第2版の日本語公式サイトは閉鎖されていますが、Web Archiveには残っているため(https://web.archive.org/web/20170623035746/http://hobbyjapan.co.jp/wh/dlfiles/empire_ogre.pdf)、そちらで読むことが可能です。
「エンパイアのオウガ」は純正品というよりも、かつて第2版の公式サイトで私の翻訳で公開されていた「ライク川にかかる橋」のように、ファン・マテリアルだったものです。とはいえ、筆頭製作スタッフは『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・デザイナーの一人、アンディ・ロー氏であり、雑誌で言えばファンジンというよりはセミプロジンに近いものでしょう。
なのに、必ずしも公式だと銘打たれていないのは、まずはオウガをパーティに入れると、バランスが大きく崩れかねないから。『ウォーハンマーRPG』が面白いのは、バランスが崩れる、というのに2つの意味があることです。1つは戦闘バランス。一般的にオウガは、ドワーフよりも打たれ強いですからね。もう1つは社会的地位ですね。オウガはドワーフよりも、社会的地位が低い、つまりエンパイア社会において、充分に受け入れられてはいない、ということなのです。
かように癖があることを前提とすれば、オウガをPCとすることは、なかなかユニークです。オウガ・キャンペーンすら可能であり、私自身。スケイヴン・セッションにオウガPCを織り交ぜるという離れ業を試してみたことすらあります。
●オウガの奇妙な背景
「エンパイアのオウガ」の基本設定は、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』のアーミーブック「オウガ・キングダム」の設定を拡充させたものとなっています。オウガは“大アゴ様”という神を崇めていますが、これはワープストーンの彗星(!)によってあけられたクレーターのこと。複雑な哲学や芸術は理解できませんが、それを補って余りあるほどにパワフル。内面の懊悩とは無縁。しかし、混沌の生き物ではない(混沌への特別な耐性はない)。それがモブではなくプレイヤー・キャラクターにできるのですから、最高ですね。ロールプレイの腕前も試されるというものです。
「エンパイアのオウガ」のQ&Aでは、オウガとハーフリングが、同じ遺伝材料で“旧き者”から創造されたと、衝撃の事実がさらっと明かされています。この“旧き者”というのは、初版では“オールド・スラン”と訳されていた太古の存在ですね。
そして、オウガとハーフリングの関係は、『指輪物語』や『シルマリルの物語』におけるオークが、堕落したエルフとして位置づけられていた(もともとは同じ種族である)という設定を彷彿させます。
こうした背景を、実際にセッションに取り入れるのかはGM次第でしょうが、キャンペーンの合間に仄めかしておいたりすると、ぐっと奥行きが増すだろうと思います。第4版では、アルトドルフの警護など、NPCとしてオウガは使われることが奨励されているようですが、クリーチャー・データのテンプレートは、数値的にアレンジすることもできるとコラムで解説されています。「エンパイアのオウガ」のデータは第2版ですが、身体的特徴の決定表や命名表は、そのまま第4版にも使えてしまうでしょう。