2021年6月17日配信の「FT新聞」No.3067に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.10が掲載されています。スケイヴンの話題の続きから、グリーンスキンへ。『ヒーロークエスト』、ハーミットインについても触れています。きみはスノットリングを知っているか?!
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.10
岡和田晃
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わかった。ユングフロイト家は、悪魔術の使い手のために「愚者の石」ことワープストーンを探し求めている。
魔法の触媒に使えるし、それを使って鼠人間どもとも取引ができる、という寸法だ。どちらに転んでも損はしない。しかし、混沌は着実に世を穢しゆくことになるが……。
精鋭の下水道調査隊長に率いられた調査隊員でもない限り、ここユーベルスライクの下水道を隅から隅まで探索し、奴らを根絶することなどできはしない。
それどころか、見たこともない精度のワープストーン・マスケット銃で撃ち抜かれるのが関の山だろう。
――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より
●ワープストーン兵器!?
スケイヴンについては、いくらでも語れる!
これ、『ウォーハンマーRPG』のみならず、オールド・ワールドに“生きる”人であれば、誰しもの同意を得られるのではないかと思います。
とはいえ、実際のセッションでどうスケイヴンを運用するのかは、GMのセンスが問われるところなんですよね。
連載の前回をお読みになった「鋼の旅団」さんからは、「今回は、鼠とワープストーンでしたね。私も以前、どうしても敵のボスにチェーンソーを持たせてPLに恐怖を植え付けたかったので、考えた末に動力をワープストーンにしたことがあります。鼠は、ミ〇キーやマイティマ〇スに走ってしまうので、自制の意味でほとんど使わなかったんですよね〜。」というコメントを頂戴しました。
確かに、私も『ウォーハンマーRPG』第2版の『スケイブンの書』を作って、「暗黒ガンバの冒険」と銘打った酷いシナリオをGMしたことがあります(笑)。
チェーンソーの動力をワープストーンというのは、トビー・フーパー監督の名作ホラー映画『悪魔のいけにえ』(1974年)を彷彿させますね。
ワープストーンを動力というと、知らない人には突飛に見えるかもしれませんが、『スケイブンの書』には、ワープロック・ピストル、ワープロック・ジャザイル、ワープファイアー・スロワー、ワープパワー・アキュムレーター急速充填型、ワープ・エネルギー・コンデンサー改といった、ワープストーンを使ったアイテムも紹介されており、それらを扱うのが得意なスクリール氏族やウォーロック・エンジニアというキャリアも設定されているほどなのです!
出版されたばかりの第4版のシナリオ『角ありし鼠(Horned Rat)』(未訳)でも、鼠大隊長(クラン・チーフテン)、魔道技術鼠(ウォーロック・エンジニア)等のデータが追加されており、前述のものに加えて、さらにはワープロック・マスケット銃(!)なんて2版になかった武器までデータ化がなされています。
●スケイヴンか、グリーンスキンか?!
また、あーるじぇい@owljeyさんからは、「知恵あるネズミ人スケイヴンの特集。自分もAFFでスケイヴンのテロリストから街を守るシナリオを作ったことがあったけど、使い勝手のよい連中!オーバーテクノロジも変異体も許容しちゃう。「スケイヴンの書」欲しいなあ。」というコメントをいただきました。
『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』(AFF)で、スケイヴンを出したという興味深い証言でした。
そう、スケイヴンみたいな悪役は、意外にも詳細に設定されていないので、他のシステムへの導入も楽なのですね。
ただ、ワンダリング・モンスターとして登場させ、プレイヤー・キャラクターたちを襲わせるのなら、別にクリーチャーではなく、ならずものたちに襲撃させればいいわけで、そのほうがよっぽどオールド・ワールドらしくなります。あーるじぇいさんはそこのところをよくおわかりで運用されたことがわかりますね。
あるいはグリーンスキン。スケイヴンと人気を二分するクリーチャーですが(異論は認めます)、『ウォーハンマーRPG』第4版では、オーク、ゴブリン、スノットリングの3種類が紹介されています。
ゴブリンについては説明不要でしょう。単体では脆弱ですが、徒党を組むと勢いを増すところは、スケイヴンに似ています。
地上や野外での戦闘はゴブリン、地下での戦闘はスケイヴン……などと使い分けるとよいでしょう。
『ウォーハンマー オンライン』日本語版が稼働していた時には、待兼音二郎氏の訳で、「チョッパの物語: ひとつかみほどのチョッパども 第一章「棒と石と」、第二章「モルクさまのお言葉」が公開されていたのですが、サービス終了とともに読めなくなっているのが残念です。グリーンスキン側に視点を当てたのがユニークな小説で、それこそT&Tのヴァリアント『モンスター! モンスター!』(グループSNE、2019年)にも通じる、「逆転の発想」で書かれているものと思います。
ただ、同じく待兼音二郎氏が翻訳に参加しているウォーハンマー・ノベル『渾沌のエンパイア』(ホビージャパン、2008年)でも、グリーンスキンとの戦闘は描写されておりますので、ぜひ入手できるうちにゲットしておくのがよいでしょう。
●「嫌悪」と「憎悪」
それでは、『ウォーハンマーRPG』におけるオークやゴブリンは、他のファンタジーRPGとどう違うのでしょうか?
まず、ドワーフはゴブリンと犬猿の仲で、灰色山脈の洞窟で終わることなき抗争を繰り広げています。
これはルール的には「嫌悪」や「憎悪」という形で表現されています。
「嫌悪」というのは心理特徴の一つで、「嫌悪」の対象となるクリーチャーを目撃すると、〈冷静さ〉でテストをせねばならず、失敗するとそいつらを攻撃してしまうんですね。ただ、この時の攻撃というのは物理的な攻撃に限らず、罵声を浴びせるとか嫌がらせをするとか、そういったものでかまわないわけです。
そして、「憎悪」という心理特徴は、いわば「嫌悪」の上位互換。「憎悪」している対象を見て〈冷静さ〉のテストに失敗すると、やむにやまれず皆殺しにしたくてたまらなくなるわけです。
ゴブリンは「嫌悪(グリーンスキン)」の特徴を持っており、かつ、選択次第で「憎悪(ドワーフ)」を持つことになります。
グリーンスキンとは同族なので、同族同士は絶えずいがみあい、しかしドワーフを見かけたらやむにやまれず襲いかかる……といった特性が、うまくルール的に表現されているというわけですね。
●オークの方がゴブリンよりも強い!?
ところで、わりと見過ごされやすいところでは、オールド・ワールドでは、ゴブリンよりもオークの方が体格は大きく、データ的にも強力です。
数はゴブリンよりも少ないのですが、そのぶんボアー(猪)に乗って突撃を仕掛けてくるなど、多彩な攻撃手段をもっています。
また、『ウォーハンマーRPG』第4版では特に表現されていませんが、とりわけ『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』においては、オークはチョッパと呼ばれる、鉈のような武器を好んで使うことでも知られています。
このあたりはゲームズ・ワークショップの自社ブランドであるシタデル・ミニチュアでうまく表現されていますね。あるいは、ミニチュア映えがするということで、生まれた設定なのかもしれません。
●ハーミットインの挑戦
『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』は1990年代中盤〜後半から日本に本格紹介されました。ゲームズ・ワークショップ・ジャパン初代代表の籾山庸爾氏で、ブックレット『趣味人への道』は、とても優れた入門書でした。
現在、籾山氏はオールドスクール・ファンタジー・ミニチュアのブランドである「ハーミットイン」(https://hermitinn.theshop.jp/)を経営しておられます。
私もよく利用しますが、アザーワールド・ミニチュア、ラルパーサ・ヨーロッパ、リーパー・ミニチュアを、独自のセレクトによって輸入・販売しておられ、籾山氏の「哲学」がにじみ出た運営スタイルを含めてお勧めできます。
私がお気に入りのブランドは、アザーワールド・ミニチュア。AD&DやクラシックD&Dをリスペクトしたクリーチャー造形が素晴らしく(蜘蛛の女王ロルスにそっくりのミニチュアもあります!)、AD&Dの『プレイヤーズ・ハンドブック』の表紙すら再現されているほどで、この泥臭さこそがファンタジーの淵源だと思う身にはピッタリで、眺めているだけで創作のイマジネーションが湧いてくるほどです。
ハーミットインでは、これらのミニチュアをコレクションし、あるいはペイントするだけではなく、実際にそれを使ってソロプレイのミニチュア・ゲームが愉しめるよう、『デス・オア・グローリー』というオリジナル・ゲームも製作・販売されています。基本ルールとクエストモジュールが2つ、すでに出版されていますよ。
●『ヒーロークエスト』と『バトルマスター』
ゲームズ・ワークショップ・ジャパンの設立前には、新和版D&Dの翻訳監修者だった故・大貫昌幸氏らのORGが、シタデル・ミニチュアを輸入・販売していました。「ウォーロック」や「オフィシャルD&Dマガジン」誌等に広告が出ていたので、ご存知の方も多いだろうと思います。
ただ、実は誰もが知っている大手の玩具メーカーから、シタデル・ミニチュアが出ていたことはありました。それは『ヒーロークエスト』。1991〜92年頃にタカラから日本語版が発売された「立体迷宮RPGボードゲーム」で、ダンジョン・タイル、マスター・スクリーンに、35体のフィギュア、15個の家具・宝箱等のミニチュアに、シナリオが入っていて、そのまま入門用RPGとして愉してしまうお得なものでした。
私は中学生の時、地元のおもちゃ屋に、『ヒーロークエスト』がひっそりと残っていたのを発見し、友人と地元でしか使えない商品券を出し合って共同購入、使い倒したのを記憶しています。
「ウォーロック」のVol.63(1992年3月)では、『ヒーロークエスト』のリプレイを読むことができますが、近年の英語圏でのゲーム研究においては、それこそ『ヒーロークエスト』のようなボードゲームとRPGの両方の要素を持つ作品群が注目されており、専門の研究書も出ています(Marco Arnaudo, Storytelling in the Modern Board Game: Narrative Trends from 1960s to Today. Jefferson, NC: McFarland, 2018)。
こちらは未訳ですが、私の参画しているボードゲーム読書会@高田馬場のサイトで、レジュメと討議の音源が公開されていますので、ご興味のある方はご覧ください(https://www.boardgamereaders.com/books/storytelling)。
ちなみに、1992年には『バトルマスター 伝説の騎士団』という、それこそ『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』の入門セットのようなゲームが、野村トーイから日本語版が発売されています。ミニチュア105体を駆使し、野外でのインペリアル軍とカオス軍の戦いを表現するというのですから、そのものずばりですね。こちらについては、私は未プレイなのですが、Rman氏のサイトにプレイレポートがありますので、ぜひチェックしてみてください(http://ror.main.jp/kikaku_battlemaster.htm)。
●スノットリングを忘れずに!
ところで、オークやゴブリンはいいとして、『ウォーハンマーRPG』第4版には、スノットリングというクリーチャーのデータが収められているのも、見逃せません。これはゴブリンよりもさらに小柄な連中で、ゴブリンよりも数が多く、毒キノコや排泄物などを敵に投げつけるのが大好きな連中です。
これまた人気クリーチャーで、ウォーハンマー版アメフトともいうべき『ブラッドボウル』シリーズでは、スノットリングの専門チームがあるほどに、可愛らしい奴らなのです。
友野詳氏の『ウォーハンマーRPG』初版のリプレイシリーズにも、スノットリングは出てくる話がありますから、RPG派の方はそちらを読んでみるのも面白いでしょう。