2021年06月10日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.9

 2021年6月8日の配信の「FT新聞」No.3058に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.9が掲載されました。今回は『ウォーハンマーRPG』第4版におけるワープストーンの扱いから、第2版の『スケイブンの書』やクラストパンク・バンドSkavenの紹介までを扱っています。『ルーンクエスト』の『トロウルパック』の話も出てきますよ!


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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.9

 岡和田晃
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「スケイヴンだと? そんなものは実在するわけがない」
 魔狩人フレイザーは、そう胸を張る。
「確かに、ちょっと大きな鼠をいくつも狩ったことがある。あるいはミュータントだったかもしれぬが、ラットマンの大帝国など、子ども騙しの絵空事だろう」
 ……これだから、この魔狩人は成績がよくないんだ。
 わたしは適当に相槌を打ち、ちょっと安堵した。そう遠くない将来、暗殺鼠(マスター・アサシン)が、こいつを闇から闇へ葬るかもしれない。あるいは、鼠奴隷にされるか。いずれにせよ、最期の瞬間まで、目の前の異形をスケイブンなのだと、彼は認めやしないだろう。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●ワープストーンの驚異

 『ウォーハンマーRPG』に存在する「賢者の石」。それがワープストーン(Warpstone、"歪みの石"ほどの意)です。『ウォーハンマーRPG』第4版においては、触るのはむろんのこと、近くに身を置くだけでも、堕落ポイント獲得の基準になってしまいます。
 それでは、ルールブックではどのように解説されているのか、具体的に確認してみましょう。p.233では、以下のように記述されています。

「ワープストーンとは物質界における純粋な魔法の塊である。その不自然な起源は誰が見てもすぐはっきりと分かる。それは目に痛みをもたらし、長い間近づいていたものをなんでも突然変異させてしまうからだ。その形は様々だが、それはしばしば火打ち石のような硬い切子面を持ち、不気味な緑色の光を放っている。」

 ……というのが、ワープストーンに関する描写です。では、結局のところ、どんな成分によって形作られ、それに触れると、具体的にどのような効果が起きるのでしょうか。ルールブックの同じページでは、次のように説明されています。

「この物質を徹底的に調べてもはっきりとしたことは分からない。ワープストーンは混沌の要素が顕現したものであり、その存在は深く穢れているのだ。ワープストーンに直に触れた者たちは病気や狂気、突然変異を引き起こす危険があり、この物質を一欠片でも摂取した者は自分の肉体や精神が破滅的に歪んでしまう定めとなる。それにもかかわらず、この不安定で危険な物質が呪文や儀式にとってすさまじいエネルギー源だと考えている無謀で野心的な愚か者たちが世界に溢れている。」

 そう、人型生物にとっては危険極まりない、いわば核物質のようなものであり、エンパイアではワープストーンの使用は禁止されています。
 けれども、ワープストーンは呪文の触媒として、非常に有効なのです。しかも手っ取り早く、強力な効果をもたらすことができます。
 第4版のルールでは、呪文発動および〈魔風交信〉の際にワープストーンを用いる魔術師は適切なテストにおいて成功レベル(SL)が2倍になるのです!
 これは桁外れに強力です。もちろん、ワープストーンの影響を撒き散らすことにもなりますから、広範囲に堕落を与えることになります。
 ゲームマスター裁量で、呪文そのものをワープストーンで強化する事例、あるいは劇物としてワープストーンを携帯するということが、認められるケースもあるでしょう。
 そう、混沌の信者たちは、ワープストーンを使うことに、何ら躊躇いを見せません。そして、それ以上にワープストーンの虜となっている存在がいます。混沌の鼠人間スケイヴン(スケイブン)なのです。
 スケイヴンはワープストーンを用いた超テクノロジーを開発しており、彼らにとっては、ワープストーンは燃料であると同時に通貨のようなものとしても使われるのです。

●スケイブン? スケイヴン?

 勘の鋭い方は、第2版の『ウォーハンマーRPG』では、「スケイブン」表記が採られ、第4版では「スケイヴン」表記になっていることにお気づきではないかと思います。
 実は第2版の時には、訳語はできるだけ既訳に合わせるという方針で、当時の『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』が「スケイブン」表記になっていたことから、そちらに合わせて「ブ」を使いました。
 ただ、第4版の翻訳の際には、スケイヴンが出てくる『Total War: Warhammer II』(2017)のようなコンピュータゲームが広がりを見せており、また、できるだけ原音に近い表記を心がけるという意味で、「スケイヴン」と「ヴ」を使うものと、訳語を変更しています。
 その他、改めて見直しをかけ、微妙に表記を変えている訳語もいくつかありますから、ご興味のある方は、確認をしてみるのも一興かと存じます。

●スケイヴンなぞ絵空事だ!

 混沌の鼠人間スケイヴン……と書きましたが、エンパイアにそんなものは存在しません。「ただちにその存在を忘れてください」。
 せいぜい、悪戯っ子を躾ける際の脅し文句として使われるくらいで、実在するとは公的に認められておらず、「スケイヴンを見た」などと言ってしまえば、正気を失ったと思われるのが関の山でしょう。
 そうした隙を突く存在として、スケイヴンはながらえてきたのです。
 スケイヴンは『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』でも人気のクリーチャーですが、ふだん人間が見て見ぬ振りをするような、いわば人間の粗悪なパロディといった色彩が濃厚です。
 噛み砕いて言えば、『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男のような、"強きを助け、弱きをくじく"メンタリティ。それがスケイヴンなのです。
 しかも、ねずみ男は基本的には一匹狼ならぬ一匹鼠ですが、スケイヴンは徒党を組むのが常套手段。あるいは物陰から暗殺をしたり、罠を仕掛けたりするのも大好きです。
 しかし、スケイヴンは存在しないことになっているクリーチャーなので、たとえ襲われても、信じてもらえないこともザラにあるというわけです。あまりに強調すると、頭がおかしくなったと思われてしまうでしょう。
 ゲームマスターはそうした特徴を生かしてシナリオをデザインすれば、グッと雰囲気が出ること請け合いです。
 『ウォーハンマーRPG』第4版には、クランラット(鼠雑兵)、ストームヴァーミン(鼠強兵)、ラット・オウガ(鼠強兵)の3タイプのラットマンたちのデータが掲載されています。
 精鋭戦士のストームヴァーミン、パックマスター(鼠調教師)にしつけられるラット・オウガは強力ですが、冒険で出くわす可能性は低いでしょう。
 どこにでもいるのが、クランラットなのです。スケイヴンは、都市の下水道網を利用し、しばしば網の目のような大帝国を建設しています。
 子どもが不意に神隠しにあったり、下水道調査隊員が行方不明になったりした場合、スケイヴンの仕業であることも珍しくありません。
 第2版の『ミドンへイムの灰燼』は、まさしくミドンヘイムの下水道に潜って、スケイヴンたちと戦うところから幕を開けるシナリオなのでした。

●スケイヴン版『トロウルパック』

 『ウォーハンマーRPG』の凄まじいところは、こうしたスケイヴンに関しての設定を集成し、まるまる一冊本を作ってしまうところです。
 『ウォーハンマーRPG』第2版のサプリメント『スケイブンの書−−角ありし鼠の子ら』(ホビージャパン、2010年)が、まさにそうした本なのでした。私も微力ながら翻訳に参加しております。
 このサプリメントは、結果として、書籍として刊行された第2版の最後のサプリメントとなってしまいましたが、そのあまりの異様さに、私としては早くから惚れ込んでいた作品でした。
 「これは『ウォーハンマーRPG』版『トロウルパック』だ!」と思ったからです。
 『トロウルパック』とは、会話型RPG(テーブルトークRPG、TRPG)『ルーンクエスト』のサプリメント、第2版対応(1982)、第3版対応(1988)等があり、後者は1993年に日本語化されました。
 ボックスの中に、まるまるトロウル(『ルーンクエスト』日本語版ではこう表記している)に、トロウルの歴史や生態系を事細かに記した冊子や、トロウルをプレイヤー・キャラクターにして冒険ができるシナリオも同梱されていたのです。
 なかでも驚くべきは、「サンダーブレス・ガブリガッツ・レストラン」。トロウル用のレストランのことですが、『トロウルパック』には、厚紙で印刷されたそのメニューが、挿絵入りで同梱されていたわけですが、「ピクシーのてんぷら、ドワーフの尻肉、エルフの胴体」など、強烈の一言。決して検索してはいけません!
 ただ、『ルーンクエスト』の主要な背景世界であるグローランサにおいて、トロウルは単なる悪食のやられ役ではありません。高度な知性と独自の哲学をもった誇り高い種族で、とても強力なのですが、唯一の弱点が生殖能力。
 神話時代の第一期、「夜と昼の戦い」にて、トロウルが崇める母神カイガー・リートールが裏切りの神グバージに破れ、トロウルには呪いがかけられました。
 以来、生まれてくる子どもの大半がトロウルキンという、不完全な「鬼っ子」になってしまったのです。この呪いのせいで、トロウルは強力にもかかわらず、いまだグローランサ世界を支配することができていない、というわけです。
 トロウルはトロウルキンをトロウルだとみなしておらず、兵士・奴隷・食料のいずれかに区分してしまいます。
 しかし、実は『トロウルパック』を使えば、トロウルキンをプレイすることもでき、強力なトロウルの顔色をうかがいご機嫌を取りながら、少しでも長生きすべく権謀術数をめぐらす……なんてプレイもできてしまいます。
 こうしたトロウルキンのプレイングは、『ウォーハンマーRPG』におけるスケイヴンのプレイングにも似ているかもしれません……『スケイブンの書』を用いれば、スケイヴンをプレヤー・キャラクターにすることもできるのですから。
 その他、『トロウルパック』には、トロウルの解剖図も載っており、当然『スケイブンの書』では、これをリスペクトしたとおぼしきスケイヴンの解剖図も観ることができます。

●『スケイブンの書』の裏話

 少し裏話をしますと、『スケイブンの書』は、なかなかアクの強い一冊なので、翻訳出版するまでには、だいぶ苦労しました。私なぞは、当時、ゲームマスターの仕事をしていたホビージャパンの『ウォーハンマーRPG』コンベンションはむろんのこと、あちこちのコンベンションで『スケイブンの書』のインパクトを吹聴して周り、編集者を説得し、何度も企画書を出して、ようやく通ったことをよくおぼえています……だって、22種類ものスケイヴンがらみの新キャリアが追加されているんですよ!?
 第4版でも、新作『角ありし鼠(Horned Rat)』のPDF版が発売されたばかりですが、これは第4版対応の〈内なる敵〉キャンペーン・ディレクターズカット版の第4巻という位置づけになっています。スケイヴンについての解説もありますが、あくまでも中心はシナリオなのです。
 ただ、第2版の『スケイブンの書』は現在、Amazonマーケットプレイスでも2万円超えと、相当なプレミア価格になっており、なまなかな入手は難しい状況になっています。
 しかし、『ウォーハンマーRPG』第2版公式サイトに掲載されていたプレビューは、Web Archiveに残っているので、参照は可能です(https://web.archive.org/web/20170622233841/http://hobbyjapan.co.jp/wh/dlfiles/chr.pdf)。
 こちらを読んで、シナリオソースに活用することは充分に可能でしょう。


●スケイヴンと黒死病

 小説『ドラッケンフェルズ』に登場する劇作家・俳優のデトレフ・ジールックは、『ハムスタットの鼠』という戯曲も書いているらしく、その冒頭は、次のような合唱から始まってるといいます。

「全員:鼠! 鼠! おぞましい鼠!
 警備兵:通りに鼠が!
 ギュッサー氏:家に鼠が!
 ギュッサー夫人 :わたくしの髪に鼠が!
 ギュッサー少年:ぼくのズボンに鼠が!
 メイド:ベッドに鼠が!
 女家庭教師(ガヴァナス) :ゆりかごに鼠が!
 プフェラー師:スープに鼠が!
 居酒屋亭主:柄杓(ひしゃく)に鼠が!
 全員:鼠! 鼠! おぞましい、おぞましい鼠!」(『スケイブンの書』より)

 こうした、あちこちが鼠であふれかえるというイメージは、ヨーロッパの14〜15世紀頃に猖獗(しょうけつ)を極めた、黒死病(ペスト)の記憶を想起させるものがあります。黒死病は、当時のヨーロッパの人口を3分の1にまで激減させたといいますが、当然『ウォーハンマーRPG』においても、黒死病はそのままの名前で登場します。
 なにせ、帝国暦1111〜1115年の間に、ライクランドの人口を10分の1にまで激減させ、時の皇帝ボリス一世の生命までをも奪ってしまったのですから。その脅威は根本的に克服されたわけではなく、『ウォーハンマーRPG』第4版に出てくるジャイアント・ラットは、黒死病を媒介する可能性があります。
 ただ、救済策もないではなく、アース・ルートという薬草を使えば、黒死病がらみのすべてのテストに+10され、エルフは夜顔という麻酔用の薬草を使って黒死病を治療する手段も有しているといいます。

●伝説のクラストパンク・バンド

 スケイヴンはロック・バンドにもなっています。カリフォルニア州オークランドで活動していた、そのものずばりSkavenという名前のクラストパンク・バンドです。
 クラストパンクとは第一義に、「その原基と言うべき七〇年代後期〜八〇年代初頭に興った「アナーコパンク」の無政府主義的な思想/哲学を継承しつつ、メタルを始めとした周縁的な多様な文化と混交を果たし、それ自体がある種の「鵺(ぬえ)性」を孕んだ異形の存在として発展を遂げたもの」だと、自身がクラストパンク・バンドのDeformed Existenceに参加している黒杉研而氏が、「ナイトランド・クォータリー」vol.24(アトリエサード、2021年)に書いています。
 クラストパンクは、SFやファンタジーと相性がよいのですが、『ウォーハンマーRPG』も、その枠に入っていたようです。YouTubeでアップされている同名のEPの音源(https://www.youtube.com/watch?v=R9mOw31cqAs)には、ヴォーカルのZebediah Gammackのコメントが付いています。
 このバンドについては、「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」No.70(アトリエサード、2017年)に私が寄せた「ロック・ミュージックとRPG文化(その5)伝説のクラストパンク・バンド、スケイブン」に詳しいのですが、「Debacle Path vol.2」(Gray Window Press、2020年)には、Skavenのギターだったジェフ・エヴァンスのインタビューも掲載されており、同記事についての言及もあります。ぜひチェックしてみてください。


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