2021年06月09日

児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる「怪奇の国のアリス」小説リプレイ

 2021年6月3日の「FT新聞」に、新刊『蝶として死す』が絶好調の児童文学・ミステリ作家の齊藤(羽生)飛鳥さんによる『怪奇の国のアリス』(T&T完全版)の小説リプレイが掲載されております。
 これまでは、Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイトに掲載されたものを「FT新聞」に採録していく形をとっていましたが、今回は「FT新聞」が初出で、Analog Game Studiesに採録していくという形をとっております。許諾をいただいた「FT新聞」の水波流編集長、および齊藤(羽生)飛鳥さんに感謝します。


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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
『トンネルズ&トロールズ』完全版・小説リプレイ
Vol.6
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『不思議の国のアリス』をベースにしたソロアドベンチャーとは、すなわち、自分もアリスのように不思議な冒険をできるということ!
なんて素敵なんでしょう!
ということで、『怪奇の国のアリス』はすぐにでもプレイしたかったのですが、ちょうど拙作『蝶として死す 平家物語抄』(4月刊行/東京創元社)の校正の時期等と重なってしまい、涙を飲んで一心地つくまで冒険を我慢しました。
そして、迎えた大型連休。
思いきりプレイしました。
そして、エルシー、アリスン、アトリの三人のキャラクターを見送ってから、おなじみの女戦士・翠蓮で挑み、ようやく生還できました。
合計四人のキャラクターで冒険したのに、すべて違う物語となっていて、しかも、まだ他のルートがあるようなので、『怪奇の国のアリス』の手厚さと奥深さにはただただ驚くばかりです!
おかげさまで、大型連休が本当の意味でゴールデンなウィークとなりました^^


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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『怪奇の国の屈強なる翠蓮』
〜『怪奇の国のアリス』リプレイ〜

著:齊藤飛鳥
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0:屈強なる入眠

ふぁ〜あ……。
あたしの名前は〈屈強なる〉翠蓮。
黒髪色白ロリ体型が卑怯なまでにキュートな18歳の女戦士ネ。
このたび、相棒のシックスパックと別行動して、久しぶりに里帰りをしたから、えらく疲れたヨ。
何せ、ついでに世界各地にある兄ちゃんの5人の花嫁達の実家への里帰りにまで付き合わされたものだから、ちょっとした英雄叙事詩も真っ青の大冒険だったサ……。
こうして、シックスパックの兄のクォーツが経営している〈青蛙亭〉にまで、無事に戻って来られてよかったヨ。
小汚くてみすぼらしい部屋でも、今は豪邸にいる気分ネ。
花嫁達の実家から実家に移動する間に、モンスターとの戦闘が数え切れないほどあって、何度おととし死んだ愛犬の黒旋風の幻を見かけたことカ……。
さあ、久しぶりにぐっすり眠……て、ランプの下に本が置いてあるネ。
何なに『怪奇の国のアリス』……?
何だか、面白そうヨ!
「それでは、憑かせていただいているお礼に、私めが朗読して差し上げましょう」
「宇宙一いらねえお節介はやめて、とっとと地獄へ行きやがれ」
前の冒険で行ったコッロールにて取り憑いてきたゴーストに優しく遠慮してから、あたしは『怪奇の国のアリス』を読み始めたネ。


1:屈強なる覚醒

目が覚めたら、大きな樫の木にもたれて川の岸辺にいるのは、百歩譲っていいとするヨ。
でも、白いエプロンドレスでボーダーの靴下姿になっているのはどういうことネ?
しかも、川には猫くらいの大きさのウサギが泳いでいるし、ちっともわけがわからないヨ!
あたしは、腹立ち紛れにウサギ目がけて小石を投げる。
狙いがはずれるとは、おかしいネ。
もしや、あたしの能力値が変わっているのかも。
「当たりです。レベル3の戦士であるはずのあなたのレベルが1になっているし、職業も盗賊に変わっています」
「いたのカ、ゴースト」
「あと1回、あなたの行動を邪魔したら昇天する約束ですから、まだいますよ。ちなみに、あなたの今の詳しい能力値は、こちらです」
ゴーストは、手のひらに今のあたしの能力値を書いてくれたヨ。
体力度13。耐久度11。器用度11。速度13。幸運度13。知性度11。魔力度14。魅力度14。
ふむふむ、知性度に関しては、今までよりも上がっているネ。
「そして、所持金は10gp。武器はポケットナイフで、装備はクロースです」
「ポケットナイフとクロース!? そんな薄い装備だけじゃ、すぐに死にそうネ! 」
「その時は、私めが先輩ゴーストとして、エスコートするので、ご安心を」
「宇宙一いらねえお節介第二弾を早くも提供しようとするなヨ」
あたしがゴーストへやんわりとお断りしたところで、ウサギがやって来たヨ。
「なんてことをするんですか、お嬢さん! 」
「ウサギがしゃべったネ! 」
驚くあたしに、ウサギはまるきり無頓着で、マイペースにポケットから銀の時計を出して時間を見ると、遅刻するとか言ってウサギ穴へ走っていったヨ。
フリルの服を着たしゃべれるウサギなんて、最高にかわいいネ!
「ウサギ紳士さん、ちょっとあたしと話していこうヨ」
「すみませんが、私は女だし、遅刻しそうなんです! さよなら! 」
「そう言わず待つネ、ウサギ淑女さん! 」
あたしは、急いで四つん這いになってウサギ穴中に入ると、ウサギを追いかける。
穴の中はすぐに二手に分かれていて、左のトンネルには鍵のかかった木の扉、右にはただのトンネルがあったヨ。
「魔法の《開け》を使えば、扉を開けることができますよ」
「寝る前まで戦士だったのに、いきなり魔法なんてよくわからないから、無難に右を進むヨ」
ゴーストのアドバイスを聞きつつ、あたしは右のトンネルを進んでいった。


2:屈強なる庭園

右のトンネルを抜けると、シャクナゲのお花畑がきれいな庭園に出たネ。
そこには、桃の木と野リンゴの木と、淀んだ水をたたえた願いの井戸もあったヨ。
そして、ウサギがいたネ。
「おーい、ウサギ淑女さん! お話ししようヨ」
「またお嬢さんですか? 」
ウサギは、かわいい顔を心底うんざりさせて、自分はウルクの女王と正午に会う約束に遅刻しそうだと説明。
それが終わると、すみやかにアザレアの合間にあいた小さな穴へ走っていってしまったヨ。
「ウサギ淑女さ〜ん」
呼びかけたけど、返事は無し。
追いかけるしかないけど、この穴はあたしには小さすぎるネ。
願いの井戸とかいう、思わせぶりな名前の井戸があるから、幸運を祈ってコインを3枚入れるヨ。
「はい。では、お約束どおり、あなたの邪魔をさせていただきますよ」
ゴーストの囁きが聞こえたのと、井戸へのコイン投げを失敗したのは同時だったネ。
ここ最近ずっとおなじみだった左肩の湿った重みがなくなったのはよかったけど、コインも3枚なくなってしまったヨ……。
何か腹が立ったから、野リンゴを八つ当たりでかじってやるネ!
おぉ、うまい具合に体が小さくなったヨ!
これなら、ウサギの通った穴に入れるネ!
あたしは、思いきって穴を飛び降りる。
ゆっくりとしたペースで落ちていくと、何やら面白い物が置かれた棚が前を通過したヨ。
冒険者のさがで、あたしは迷わずお宝を手に入れようと手をのばす。
おもちゃのスリング、ゲット!!
……と、喜んだのも束の間。
あたしは、砂丘の端に着地という名の落下をしたヨ……。


3:屈強なる砂丘

ここは痛みを紛らわすためにも、ウサギの姿を砂丘に探し求めるネ。
あ、いたヨ!
「お〜い、ウサギ淑女さ〜ん」
あたしが呼びかけたところで、ウサギは立ち止まる。
少なくとも、最初はそう思ったネ。
でも、実際は、足を取られて砂地に潜む怪物に引きずりこまれていただけだったヨ!
「こいつは、バンダースナッチ! 危険な相手だから、逃げて! 」
「かわいいウサギを見捨てて誰が逃げるヨ! 」
ちょうど、あたしにはさっき手に入れたばかりのおもちゃのスリングがあるネ。
あたしは、バンダースナッチに、おもちゃのスリングについていた魔法の小石をぶつけた。
やった!
一撃で倒せたヨ!
あたしは、ウサギに駆け寄った。
でも、ウサギはすでに致命傷を負わされていたネ!
「逝かないと……」
「台詞の漢字が違っているヨ! 大丈夫、すぐに医者を探せば助かるネ! 」
「助からない傷なのは、わかってます……。私の懐中時計を持って行って。ブレードを呼び出せます。3回ボタンを押すように……」
「最期の言葉が取説でいいのカ、あなたの一生!? 」
「女王に伝えて……私は待ち合わせの時間に間に合わないと……」
「約束するけど、最期の言葉が伝言板じみたのでもいいネ!? 」
……ウサギは、それきり息を引き取ったヨ。
あたしの手に残ったのは、ウサギが愛用していた懐中時計だった。
出会いも突然なら、別れも突然なんて、まさに怪奇の国ネ。
くやしいから、怪奇の国らしくなく、しんみりとお墓を作ってやるサ!
あたしは、ウサギの墓を掘り始めた。
ん?
やたらと何度も影が落ちてくるヨ。
空に何かいるネ?
見上げてみると、そこにはジャブジャブバードがいたヨ!
しかも、露骨にウサギの遺体を狙ってきたサ!
あたしは、すぐにおもちゃのスリングでジャブジャブバードへ魔法の小石をぶつけた。
ジャブジャブバードは、一撃で倒れたネ。
あたしは、ウサギの墓を掘り終えると、コースト式の埋葬法でお弔いを始めたヨ。
副葬品に、ウサギ愛用の懐中時計……と思ったけど、彼女はあたしに『持って行って』と言っていたから、一緒に埋めたら悪いネ。
ここは、あたしの持っているお金から6gp分のコインを、冥土の川の渡り賃として副葬品にしよう。
あたしは、ウサギとコイン6枚を一緒に埋めて、この悲しみの砂丘を後にしたヨ。


4:屈強なるオアシス

砂丘を歩き続けるうちに、あたしはオアシスにたどり着いた。
久しぶりの水を、あたしがたっぷり飲んでいると、背後に嫌な気配を感じたネ!
ここは、本業のレベル3の戦士らしく、振り返って攻撃するヨ!
あたしは、おもちゃのスリングで魔法の小石を放った。
でも、背後にいた黒檀の魔術師は、パチンと手をたたいただけで、あたしのおもちゃのスリングをバラバラの破片にしてしまったネ!
何つー奴サ!
こんなことなら、ポケットナイフをかまえておけばよかったネ!
あたしがうろたえている間、魔術師のおっさんは、あたしに手を借りたいことがあるだの、開けゴマだの言って、近くの崖面に小さな裂け目を出現させたヨ。
そして、自分には小さすぎるから、あたしに中へ入ってランプを持って来いと命令し始めた。
断れば、次にバラバラにされるのは、あたし自身。
そんな気がして、あたしはしぶしぶ引き受けた。
裂け目の中は洞窟になっていて、あたしは魔術師のおっさんに言われたとおり、ランプを見つけてきたネ。
でも、裂け目が小さくなっていて、あたしは出られなくなってしまったヨ!
「ランプを渡したら、そなたを脱出させてやろう! 」
いちいち偉そうで頭にくるおっさんネ。
だけど、今は言うことをきくしかないヨ。
あたしは、魔術師のおっさんにランプを渡した。
すると、おっさんは高笑いと共に裂け目を閉じて、あたしを閉じこめやがったネ!
性格ねじ曲がったおっさんめ!
鼻毛がはえすぎて息がつまってくたばりやがれヨ! 
もっとおっさんの悪口を言いたいけど、このままいつまでも怒っているだけでは、外へ出られない。
あたしは、魔術師のおっさんへの怒りを力に変えて、洞窟の奥深くにある、瓦礫に覆われたトンネルを片づけ、脱出作業に取りかかったヨ。
この手の体力勝負なら、得意ネ。
あたしは、見事に瓦礫を片づけると、トンネルを慎重に進んでいった。


5:屈強なる森
トンネルを抜けると、そこは緑にあふれた森だったヨ。
何だか、まっすぐ行ったところで、煙の臭いがするので、山火事かも知れない。
様子を見に行くネ。
山火事だとわかったら、さっさと来た道を走って逃げよう。
臭いからして、煙はこっちから来ているヨ。
あたしが歩いて行った先には、火はどこにも見当たらず、水煙管を咥えた恰幅のいい大柄のレプラコーンか木の枝に腰かけていたネ。
そして、無遠慮にあたしへ煙を吹きかけてきたヨ!
「てめえの母ちゃんは、煙草の吸い方もろくに教えなかったのカ」
水煙管をたたき壊してやる前にあたしが淑女的に呼びかけると、レプラコーンはきつい眼差しを向けてきたネ。
どうやら、彼の母親はジャブジャブバードにさらわれて餌にされるという、非業の死を遂げたため、母親の話題はきついらしい。
「俺は、それを忘れるために煙草を吸っているんだ」
レプラコーンは偉そうに言ってから、水煙管から煙が出ないことに気がつき、罌粟を欲しがりだす。
「おまえが吸っていたのは、煙草じゃなくて、ヤバいクスリじゃないのサ! 」
あたしのもっともな指摘も耳に入らない様子で、レプラコーンは枝から飛び降り、地面に罌粟がはえていないか探し始める。
どう考えても、このままだとこいつはヤク中に成り下がるヨ。
あたしは、レプラコーンの話し相手になることにした。
レプラコーンの人生は、予想通りにひどいものだったネ。
父親失踪で苦労していたとどめに、母親が惨殺されたから、彼の中でヤバいクスリへ手を出すハードルが低くなったのだろう。
でも、今は細かいことはさておき、レプラコーンが母親を失った悲しみを乗り越えさせてヤバいクスリとバイバイさせるのが大事ヨ。
「母ちゃんを失った悲しみを忘れるために罌粟を吸っているみたいだけどサ。罌粟を吸っていたら、かえって母ちゃんを思い出してしんどくなるヨ」
「言われてみれば……。よし、今日から罌粟を水煙管で吸うのはやめた! これは、ほんのお礼だ」
レプラコーンは、銅の卵をくれた。
何に使うのか、さっぱりわからないけど、もらえる物はもらっておくのが冒険者の流儀ネ。
「何かあんたにもっと感謝の念を示したいな。何かしてほしいことはあるかい? 」
「だったら、ウルクの女王とは、どこに行けば会えるから教えてもらえたら助かるヨ」
すると、レプラコーンはハート型の蔓をたどっていけば会えると教えてくれたネ。
あたしは、教わったとおりにハートの蔓をたどって歩き出した。


6:屈強なる迷路

ハートの蔓をたどっていくうちに、丘の斜面にある迷路のような生け垣に足を踏み入れたヨ。
むせ返るような花の匂いで、花粉症になりそうネ。
魔力度がどんどん下がるのを感じるヨ。
早いところ、この迷路から出るに限るサ。
あたしは、入り口から三叉路に分かれている道に目を向ける。
わからない時は、直進あるのみヨ。
あたしが直進すると、そこには薔薇庭園の鉄柵があった。
中では3匹のスライシー・トーヴが白薔薇を赤薔薇にペイントする作業をしている真っ最中だったネ。
それを横目に右手に曲がると、道はしばらくしていきなり左手に折れたヨ。
道なりに進んでいくと、キノコの半かけらを拾ったネ。隣の苔で書かれた文字には『私をかじって』とあるから、何かに役立ちそうサ。
やがて、道は行き止まりになってしまったヨ。
そこには、巣とツリーハウスがあったネ。
あたしは、まず巣の中を調べてみることにした。
巣の中には、金貨50枚相当はするエキゾチックな卵があったヨ!
これはいいネ!
さっきレプラコーンからもらった銅の卵と取り替えて、卵をゲットするヨ!
母鳥が帰ってくる気配がしたので、あたしは卵と銅の卵を取り替えると、素早く物陰に隠れた。
母鳥は、何も気づかず卵を温め始める。
すると、卵が割れる音がして、割れた卵の合間から色とりどりの煙が漂いだしたネ!
出てきたのは、願い事を何でも叶えてくれるジニーだった。
たまげる母鳥には悪いけど、これはチャンス!
あたしは、ジニーに駆け寄った。
願いを叶えてくれるというジニーに、あたしはこう願った。
「ウサギ淑女さんを生き返らせてほしいネ! 」
ジニーは目を閉じ、精神を集中して、足元の地面に入ったヨ。
一瞬の後、あたしの足元の地面が振動してきたネ!
びっくりして飛びのくと、穴から血まみれで腐った体のウサギがはい出してきたヨ!
「ごごごごご主人さまああああ……バンダースナッチから助けようとして下さりぃぃぃ、永遠の感謝を捧げますぅぅぅぅぅ……」
「キャラ変わってるゥゥーッ! 」
あたしのショックをよそに、ズタボロなウサギの中からジニーの声が聞こえてきたヨ。
「こいつはゾンビ・ラビット。汝の腹心の友になってくれるに相違ない」
「完璧な蘇生ができないならできないと正直に言っても、あたしは怒らなかったヨ? 何で無茶な蘇生をしたネ!? 」
ジニーに一言言ってから、あたしはゾンビ・ラビットについてくるよう命令して、再び歩き出したネ。
……目の前で死なれたことと言い、ゾンビとして蘇ってきたことと言い、今日はウサギ好きの心をえぐる一日サ。
また薔薇庭園の前に戻ると、あたしらは来た道を戻り始めた。
それから、右の通廊に行くと、ネズミが子ども達にびっくりするほど退屈な歴史の講義をしているところに出くわしたヨ。
こんなに退屈だと、かえってどこまで退屈か気になるネ。
「ごごごごごご主人様がきくならぁぁぁぁぁ……私も聞きますぅぅぅぅぅ」
あたしとゾンビ・ラビットは、眠気と戦いながら、歴史の講義を聴いたネ。
そのおかげか、+3の[歴史]タレントを獲得したヨ。
「源頼義、義家、義親、為義、義朝、頼朝、頼家、実朝……よし、これで河内源氏の流れが頭に入ったから、歴史力アップしたネ! 」
「ごごごごご主人様ぁぁぁぁぁ。いったい、どこの国の歴史ですかぁぁぁぁぁ」
「細かいことは気にしないヨ。では、前進サ! 」
あたしは、ゾンビ・ラビットと連れ立って歩き出した。


7:屈強なるツリーハウス

あたしらは、元来た道を引き返し、巣の近くにあったツリーハウスにやって来た。
ゾンビ・ラビットの衝撃で、ツリーハウスを調べるのをすっかり忘れていたので、今度こそ調べてやるサ!
気合いを入れてツリーハウスによじ登ると、太った男が牡蠣の貝殻でできたベッドに横たわって苦しんでいるネ。
「何を苦しんでいるヨ? 」
「牡蠣を7000個食ったら、このざまよ……。おかげで太りすぎて扉から外へ出られないんだ! 」
酒を飲みすぎるどこぞのアル中岩悪魔と言い、さっき出会ったヤク中レプラコーンと言い、あたしの出会う男どもは、自制心ってヤツを生まれてすぐにどこかへ落としてきたようネ。
「ごごごごご主人様、困っているみたいだからぁぁぁぁぁ、助けてあげましょうよぉぉぉぉぉ」
「助けると言っても、どうやるネ……あ、そうだ! 」
あたしは、前に拾ったキノコの半かけらを思い出したヨ。
怪奇の国の食べ物は、巨大化する効果があったりするから、もしかしたらキノコの半かけらを食べさせたら小さくなるかも!
あたしは、さっそく男にキノコの半かけらをあげたネ。
効果はすぐに出て、男はあっという間に小さくなったヨ。
「おかげで家から出られるようになったよ。こいつは俺からのお礼だ! 」
そう言って、男がくれたのはノミだったネ。
武器としては使えないけど、あたしは冒険者。
もらえる物は遠慮なくもらっておくヨ。
こうして、あたしらはツリーハウスを後にして、ウルクの女王を探しに再び歩き出したネ。


8:屈強なる果樹園

やがて、おいしそうな果実が実った果樹園の前にたどり着いた。
果樹園には、かつらをかぶったスズメバチという、強烈すぎる見た目のクリーチャーがいたけど、腹ぺこな今は関係なし!
あたしは、果実を食べに果樹園に入ったヨ。
「ごごごごご主人様、スズメバチが襲いかかってきましたぁぁぁぁぁ! 」
「だったら、戦うまでネ! 」
あたしは、ポケットナイフを取り出し、スズメバチと戦い始めた。
そして、気がついたヨ。
ゾンビ・ラビットが一緒だと、1ラウンド目に勝つたびに体力度が1上がるネ!
思いがけず、強くなれる理由を知ったヨ!
ゾンビ・ラビットを連れて進めーッ!
おかげで、あたしは、泥だらけの走馬灯に酔いながら、からくもスズメバチを倒すことができたネ。
「ごごごごご主人様、スズメバチがこんな物を落としていきましたぁぁぁぁぁ」
ゾンビ・ラビットがそう言って拾ってきたのは、スズメバチのかつらだったヨ。
「それ、男にとってパンツよりも気まずい落とし物サ! 」
あたしの指摘に、ゾンビ・ラビットは首をかしげるばかりだった。
う〜ん……何とも微妙な戦利品を手に入れてしまったネ……。


9:屈強なる移動式商店

微妙な戦利品を手に入れたあたしらは、またもスライシー・トーブ達が白薔薇に赤いペイントをしている薔薇庭園の前に迷いこんだ。
何だか、同じ所をぐるぐる回っているネ。
今度は、左手の道に行ってみるヨ。
すると、しばらくして、移動式商店が見えてきた。
「ごごごごご主人さま、お買い物していきましょうよぉぉぉぉぉ」
「それ、名案ネ」
あたしらは、こうして移動式商店に入った。
すると、店長はナイトキャップをかぶったかわいいヒツジさんだったヨ!
しかも、便利なアイテムが色々と売られているのが嬉しいネ!
「あ。でも、あたし、お金は残り1gpしか持ってなかったから買い物できないヨ! 」
何せ、所持金10gpのうち、井戸で3gp、ウサギ淑女の副葬品として6gp使ったせいネ。
「大丈夫ですよ、お客さん。所持品を半額で下取りいたしますから、そのお金で買い物して行って下さいな」
「気に入ったヨ、その提案! 」
あたしは、所持品をカウンターに出した。
ノミとスズメバチのかつらは2つ合わせて1gpと見事なまでに二束三文だったけど、エキゾチックな卵は25gpで買い取ってもらえたネ。
これに、今持っている所持金をたすと、合計27gp。
買えるのは……一つしかないヨ。しかも、使い道が微妙にわからない代物だ。
買うべきカ。買わないべきカ。
「ごごごごご主人様ぁぁぁぁぁ。まだ決まらないんですかぁぁぁぁぁ? 」
「ちょっと時間かかりそうだから、そこで休んで待っていてネ」
ゾンビ・ラビットは、あたしに言われたとおり、店内の片隅へ休みに行った。
あたしは、それからさんざん迷った結果、換金するだけにしたヨ。
「ゾンビ・ラビット、用が済んだから出発ネ」
しかし、返事はなかったヨ。
ゾンビ・ラビットは、休んでいた場所から、忽然と姿を消していたネ!
突然の出会いと別れは、怪奇の国だからではなく、白ウサギのライフワークな気がしてきたヨ。
あたしは、ちょっぴり悟りながら、移動式商店を後にした。


10:屈強なる薔薇園

移動式商店を左に曲がって進んでいくと、屋敷にたどり着いたネ。
屋敷の玄関には、かつらをかぶった魚顔をした使者がいたヨ。
ハチと言い、この世界のクリーチャー達はかつら愛好家が多いネ。
魚顔をした使者達は、女王から公爵夫人へのクローケーの招待状を届けに来たと言っているところだった。
あたしが公爵夫人と嘘の名乗りを上げてもいいけど、「こんなにロリかわいい公爵夫人がいるか」とすぐに見抜かれそうだから、ここは正直に女王がどこにいるか尋ねるのが無難ヨ。
「おまえたち、女王陛下はどこにいらっしゃるか、知っているネ? 」
魚顔の使者は、薔薇園でクローケーをすると教えてくれただけでなく、薔薇園までの行き方まで教えてくれたヨ。
何だか移動式商店の店長と言い、使者達と言い、ようやっとまともな住民に出会えた気がするネ。
今まで出会った住民は、本当にひどかった。特にあの魔術師のおっさん。水虫になって死んで欲しいサ。
あたしは、使者達に教えてもらったお礼を言うと、薔薇園目指して歩き出す。
しばらくして、三叉路になっている道に出たヨ。
すると、あのヤク中になりかけていたレプラコーンがやって来た。
何種類もの毛皮を合わせて作った服と杖というコーデになっているのは、罌粟を吸いすぎた後遺症カ?
レプラコーンは、罌粟をやめて女王の出納係に職場復帰したと言い、それもこれもあたしのおかげだと感謝してきた。何だ、こいつ。ちゃんとわかっているネ。
それから、あたしに薔薇園までの道のりと、《幸運に勝るものなし》の呪文をかけてくれたヨ。
出納係であることと言い、魔法を使えることと言い、意外とこいつは優秀カッ!?
レプラコーンが去った後、あたしはまた分かれ道に出た。
確か魚顔の使者は、左に行ったら右に行くよう行っていたネ。
そこで、右の道に進むと、右手に錠のかかった柵があって、あの白薔薇に赤いペンキを塗っていたスライシー・トーヴ達がいたヨ。
ここから薔薇園に入れるので、スライシー・トーヴに呼びかけたけど、怒鳴って断るだけネ。
これじゃ、いつまで経っても、らちが明かないヨ。
そう言えば、今のあたしは盗賊で魔法が使えたネ。
あたしは、薔薇園の扉に〈開け〉の呪文を使った。
本来戦士のあたしが魔法を使うなんて、うまくいくのか正直かなり心配だったけど、扉がひとりでに開いたヨ!
これは、面白いネ!
あたしは、意気揚々と薔薇園に入ったヨ。
すると、スライシー・トーヴ達が怒ってあたしを追い出しにかかってきたネ。
ここは、あたしの故郷に古くから伝わる伝統の危機回避法を使うサ。
「まあまあ。少ないけれども、これでも受け取ってヨ」
あたしは、スライシー・トーヴ達に賄賂として20gpを握らせたネ。
「なあ、ぶっちゃけ言って俺は何も見てない」
「奇遇だな。俺もだ」
「さあ、休憩がてら紅茶でも飲みに行こうぜ」
話がわかるスライシー・トーヴ達は、そう言って薔薇園から出て行ったヨ。
あたしは、薔薇を見物しながら、女王がやって来るのを待ったネ。
う〜ん、薔薇のいい香りヨ!


11:屈強なるクローケー

薔薇園で待つこと数分後、ウサギ淑女の最期の伝言を伝える相手、ようするにウルクの女王が、お付きの者達を率いてやって来たネ。
その手には打球杖が握られている。
女王は、あたしに気づくと詰問してきたヨ。
「そなたは、クローケーに招かれているのか? 」
「招かれてないけど、バンダースナッチに襲われて亡くなった白ウサギさんからの伝言を届けに来たネ。『地獄で待つ』とのことヨ」
……あれ? 何か若干ウサギ淑女の伝言を間違えた気がしたけど、約束の時間に来られなくなったと女王に伝わったからよしとするヨ。
「白ウサギめ、命を落としていて幸運だったわ。さもなくば、首を斬ってやったところよ」
「あと、クローケーは面白そうだからやってみたいネ」
女王が怒りにまかせ、白ウサギじゃなくて、あたしの首をはねたげに見てきたので、あたしは急いで話題を変えたヨ。
これは正解だったようで、女王は表情をやわらげたネ。
「わらわは、平民の誰も、わらわと一緒にクローケーをやらせるつもりはないわ。まずは自分の価値を証しだてねばならぬ」
なに、この女王。面倒くさいヨ。
「兵士たちよ、わらわの娘を連れて参れ! 」
女王はそう言って、兵士に棺桶を持ってこさせたネ!
なに、この急展開!?
とりあえず、あたしは棺の蓋を開ける。
中にはウルクの女の子が横たわっていたヨ。
あたしは、女の子の脈を確認した。
「柳翠蓮、死亡確認!! 」
「勝手に我が姫を殺すでない、愚か者めが! ただ、眠っているだけじゃ」
「あー、宗教的な解釈の違いネ。あたしは、よその宗教には寛容だから安心するヨ、狂信女王様」
「誤解したまま偉そうな口をきくでない! ある魔女が、ハンサムな王子が彼女の唇にキスをするまで眠る魔法を我が姫にかけたのじゃ。だが、あいにくハンサムな王子など、わらわの求婚を拒むたびに殺していったため、この国には一人もおらぬのだ! 」
何かさらりと大量殺戮を告白したネ、ウルクの女王。
「で、この国には残りカスしかいないってことカ。理解したヨ、残りカスの女王様」
「理解したのはよいが、何やら腹立たしい物言いをするのう。とにかく、平民よ。わらわとクローケーをしたいならば、我が姫を目覚めさせてみよ」
「承知したネ」
女王は、無理難題をあたしにふっかけてやった顔をしている。
でも、あたしには、活路が見えていたので、失敗したら首をちょん切られる恐怖なんて、これっぽっちもなかったヨ。
「ハンサムな王子がいないなら、ハンサムなロリがキスをすればいいネ! 」
あたしは、兄ちゃんの花嫁達が兄ちゃんへしていたやり方で棺に横たわる姫にキスをしたヨ。
効果抜群、姫はすぐに目を覚ましたネ!
「大成功ヨ! 」
「見事! しかし、言い忘れていたが、そうすると眠りの呪文が我が姫からそなたへ移るのじゃ」
「大事な情報を伝え忘れているんじゃないネ、この鬼畜婆……」
女王に悪態をついているそばから、あたしの意識はスーッと遠のいていったヨ……。


あたしは、青蛙亭で目を覚ました……。
「おきなさい。おきなさい わたしの かわいい すいれんや。おはよう すいれん。もう 朝ですよ」
ちがった。
まだ夢の中だったネ。
誰サ、この優しそうなおばさんは?
さっさと目を覚ますに限るヨ……。


「チェックアウトは朝の9時だぞ! 弟の相棒だからと言って、無銭飲食娘は甘やかさねえからなッ! 」
ドアをたたく汚いだみ声が聞こえてくる。
よかった。
ここは間違いなく青蛙亭ネ!
あたしは、今度こそ間違いなく目を覚ました。
まだやかましいクォーツの声を無視して、あたしは荷作りしながら、背負い袋の中身を確認する。
そこには、レベル3の戦士の装備にしてはしょぼすぎるポケットナイフと布の服が入っていた。
そして、レベル3の戦士には上等すぎるほど立派な銀の懐中時計も入っていたヨ!
「夢だけど、夢じゃなかったネ! 」
あたしは、ウサギ淑女の形見を背負い袋にしまい直すと、袋を背負った。
左肩に憑いていたゴーストが成仏したおかげで、かんたんに背負えたヨ。
さあ、酔いどれ岩悪魔の小汚い面と、ファビュラスなジーナのきれいな笑顔を見に帰るとするネ!


(完)


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齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙されたて。
2021年4月に連作短編歴史ミステリ『蝶として死す 平家物語推理抄』(東京創元社)を刊行。
平安時代末期を舞台に、平清盛の異母弟・平頼盛(よりもり)が探偵役として、犯人当てあり、トリック当てあり、被害者当てあり、動機当てあり……と、各種の謎に挑む本格ミステリでもある。
6月刊行予定のアンソロジー『本格王2021』(講談社)に、『蝶として死す』所収の「弔千手(とむらいせんじゅ)」が収録。
上記のような大人向け推理小説の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

出典元:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
『怪奇の国のアリス+怪奇の国!』
  (T&Tアドベンチャー・シリーズ9)
 著:ジョエル・マーラー、キース・A・アボット
 訳:岡和田晃
 発行 : グループSNE/書苑新社
 2021/2/26 - ¥1,980
posted by AGS at 17:34| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする