2021年04月27日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.7

 本日2021年4月27日配信の「FT新聞」No.3016に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」Vol.7が掲載されました。T&Tにおける僧侶をヒントに、『ウォーハンマーRPG』における神々を総覧しつつ、版上げでいなくなった神、データのない神の取り扱いについてなどにも触れています。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.7

 岡和田晃
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 魔狩人フレイザーに連れられて、ユングフロイト家ゆかりの建物を、あれこれ見て回る。
 傍目には親娘か、年の離れた兄妹にしか見えないだろう。
 わたしが改めて魔力の風との交信を試みるたびに、フレイザーは顔をしかめる。わたしの方は、まるで気にしないでエーテルの痕跡をたどり、「真のダハール」がどこから来たのか、見極めたいと思った。
 魔狩人に絡むチンピラはいない。ミュータントは別だが、フレイザーは銃弾で、たちまち彼らの額に風穴を開ける、
 やがて、わたしは少しずつわかってきた。この混沌の妖術師(ケイオス・ソーサラー)は、いまは忘れられた混沌の神々を崇めているのだ。ナーグルでも、コーンでも、スラーネッシュでも、ティーンチでもない、神。それらに反旗を翻したマラルを崇めているのだ。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●土俗的な息吹を伝えるもの

 オールドスクールRPGは、しばしばゲームだからといって、再現する世界を無機質な数字の塊として表現するような振る舞いを、基本、退けます。
 ただ、そうであっても、世界の何がゲームとして表現でき、何が表現できないのかを、割り切って区別しているのとも違うわけです。
 近代の原理では割り切れない、土俗的なダイナミズム。魔術にも共通する要素ですが、より日常に即した形で、宗教はその息吹を伝えてくれるものです。

●T&Tの宗教ルール

 宗教について考えるには、あらかじめ宗教に関する設定がないなかで、本格的に宗教を導入した事例について考察するのが手っ取り早いでしょう。
 そう、『トンネルズ&トロールズ』の僧侶魔法についての追加ルールです。
 これは「Mirable Dictu!」というタイトルで、1983年の「ソーサラーズ・アプレンティス」17号に掲載されました。
 カール・エドワード・ワグナーのダークファンタジー小説「ミセリゴルド(Misericorde)」が載った号で、また裏表紙には、2020年に日本語版が出たばかりの『RPGシティブックII』(書苑新社)の広告が載っていた……。
 そんな頃の話ですが、いまは〈RPGシティブック〉シリーズも、あるいは「ナイトランド・クォータリー」のような雑誌も元気ですから、まったく古いという感じは受けませんね、
 邦訳は「『T&T』世界での僧侶」として、「ウォーロック」Vol.21(1988年)に載りました(清松みゆき訳)。社会思想社版『モンスター! モンスター!』(社会思想社現代教養文庫、1989年)にも収められていますので、ご存知の方も多いでしょう。
 この記事はオールドスクール・ファンタジーRPGが、史実の宗教をデザインに取り入れようとする際にしばしば採られてきた考え方の筋道を、はっきりと伝えるものになっているのです。

●時代によって神は変わる

 設定の根っこにあるのは、神々の力は信者の力に比例すること。そして、ある宗教での神が、別の宗教では悪魔とされることが挙げられます。
 トゥアハ・デ・ダナーンの神々はフェアリーとなり、バアルやモレクは悪魔となりました。ドルイドが信仰していた“角を持つもの”はサタンと同一視されました。つまり、時代の趨勢によって、あるいは民族や宗派によって、神々の顔は様々に変貌していくのです。
 実際、訳者の清松みゆき氏による、3柱のオリジナルの神々が、『ハイパー・トンネルズ&トロールズ』のルールブック(社会思想社現代教養文庫、1991年)に掲載されました。これらは意図的に、神々のある種の面を誇張してみせたアクが強いものとなっており――私も自作のソロアドベンチャー「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」(『傭兵剣士』所収、書苑新社、2019年)で登場させたことがありますが――むしろ反面教師として提示されたように思います。
 1994年版の『ハイパーT&T』改訂版からは、出てくるのはよりスタンダード志向のハイ・ファンタジーな神々に変わり、『ドラゴン大陸』(角川スニーカーG文庫、1995年)では、勝利神スークと鋼鉄神ベルクボーン、破壊神オーボーと混沌神ンヌープが別々に設定され、さりげなく神々の複数の相(かたち)が提示されていたものです。 

●エンパイアの主要な神々

 それでは、『ウォーハンマーRPG』ではどういった神々がいるのでしょう? まさしく、こういう区別は『ウォーハンマーRPG』の独壇場、といってよいかもしれません。
 第4版のルールブックに載っているエンパイアの主要な神々は……。

・ヴェレナ(学識、正義、知恵の神):信者は写字生、法律家、学者など。
・ウルリック(戦い、冬、狼の神):信者は主に戦士。またミドンランドの領邦では広く信仰されている。
・シグマー(エンパイアの主神):エンパイアの守護神で、とりわけライクランドの領邦で広く信仰されている。もとはエンパイア皇帝が神となったもの。
・シャリア(慈悲と治癒の神):信者は主に貧民、医師、病人、虐待を受けた女性など。
・タール(自然、春の神):信者は遊牧民、森の住民、その他農民。タラベックランドの領邦で広く信仰されている。
・マナン(海、外洋の神):信者は船乗り、漁師、商人など。荒ヶ原[ウェイストランド]で信仰されている。
・ミュルミディア(軍略の神):信者は軍人など。ティリア、エスタリアで広く信仰されている。
・モール(死と夢の神):信者は葬儀屋やアンデッド・ハンターなど。オストマルクで広く信仰されている。
・ラナルド(ペテン、盗賊、幸運、貧困の神):信者は無頼、博徒、貧民。
・リア(多産、生命、夏の神):信者は農家、薬草師、助産師等。

 これらが基本的な神々で、プレイヤー・キャラクターが信仰するのは、だいたいはこれらです。ルールブックやシナリオ集、小説なんかでも頻繁に言及されるのは、このあたりです。

●ライクランドの地域神

 これらに加え、ライクランドの神々としては、以下のような地域神もいます。これらになると、ぐっと登場頻度は落ちてしまいますが、なかなかユニークです。

・カチャ(心和ませる美人の神):信者は売春婦、愛人稼業に従事する者など。
・クリオ(歴史の神):信者は学者。
・ディラト(女性の神):もちろん信者は女性。
・ベーゲナウアー(ベーゲン川の神):信者は船頭、商人、ベーゲンハーフェンの街の人々。
・ボルヒバッハ(修辞法の神):信者は扇動家、政治学者、法律家
・ライク爺様(ライク河の神):信者は、はしけの船頭、商人、漁師など。

 なるほど地域密着型、あるいは生活密着型の神々といった塩梅ですね。ボルヒバッハやクリオあたりはNPCが信仰しているとして登場させてもおかしくないですし、ベーゲナウアーやライク爺様は「内なる敵」キャンペーンをプレイする際に、彩りを添えてくれますね。
 カチャやディラトのような女性を守る神が出てくるのは、それこそ自然に男性中心主義的な価値観を相対化することにつながると思います。

●ドワーフ、エルフ、ハーフリングの神々

 信仰はデミヒューマンたちも持っています。彼らは人間とは異なる神々を信仰することが多いのです。ゲームによっては、エルフは信仰とは無縁だったりもしますが、『ウォーハンマーRPG』はこの点、徹底していますね。

【ドワーフの神】
・バラヤ(醸造、炉端、癒しの神):信者は職人、学者、医者。
・グリムリル(戦士、勇気の神):信者は兵士、スレイヤー。
・グルングニ(採掘、金工、石工の神):信者は職人、坑夫。

 これらはドワーフの神でもメジャーで、特にグリムリルあたりは、ブライアン・キングの〈ウォーハンマー〉小説『トロール殺し(Trollslayer)』(未訳、1999年)あたりでも出てきたと記憶します。このシリーズ、めちゃくちゃ戦闘シーンが多いので、「さすが〈ウォーハンマー〉だ!」と叫びたくなるような内容です。

【エルフの神】
[カダイ]
・アシュリアン(すべての創造物、天国、不死鳥の神):信者は支配者、判事、法律家。
・イシャ(多産、生命の神):信者は農村地帯のエルフ、とりわけウッドエルフ。
・クルノス(動物、狩りの神):信者は狩人、木こり、動物とともに働くエルフ。
・ホエス(知恵、知識、教育の神):信者は学者、魔術師、完璧主義者。

 エルフはハイ・エルフとウッド・エルフに大別されますが、前者はアシュリアンやホエス、後者はイシャやクルノスを信仰することが多いようです。
 また、[カダイ]というグループのほかにも、[キタライ]というグループのエルフの神々や、どちらにも属さないモライ=ヘグという神もいます。これらはエルフの面倒をほとんどみないため、信仰を集めることはほとんどありません。
 ちなみにエルフの聖職者はいますが、祝福や奇跡を使うのではなく、魔術師たちと同じ8大魔法大系の呪文を使用します。

【ハーフリングの神】
・エスメラルダ(健康、家、もてなしの神):多くのハーフリングが信者。
・クウィンズベリー(知識、祖先、伝統の神):学者が信者。
・ヒャシンス(出産、多産、性交の神):助産婦、妊婦、道楽者が信者。
・ヨシアス(農業、家畜の神):農民、牧畜民、庭師。

 多くのハーフリングはエスメラルダを崇めていますが、人間のように神殿を立てたりはしません。神々を鎮める必要が生じたら、長老に委ねられます。

●データのない神を信仰することはできるのか?

 もちろん、それ以外の神々を信仰するのも、できないではありません。
 私は『ウォーハンマーRPG』の第2版で、鮫の神ストロムフェルズの司祭をプレイしたことがあります。GMの許可を得て、基本のデータはマナンに準じました。
 ストロムフェルズ教団は攻撃的で、マナン教団をライバル視しており、またエンパイアでは禁教となっているのですが、あえてそれをロールプレイしたということですね。
 人間社会の通常信じられている倫理とは別種の信念をもっていて、かつ混沌信者でもないキャラクターを演じるのは、なかなか難しいことでした。
 結果、私は何かにつけて鮫に生贄を捧げたがるダメな司祭をプレイする羽目になってしまいましたが、ダイスのいたずらで、「神の天罰」というファンブル表を振ってしまい、鮫が暴走して股間を食いちぎられるという悲惨な目に逢いました(実話)。

●版上げによって、いなくなった神々

 このように、『ウォーハンマーRPG』には、実にバラエティ豊かな神々が設定されていますが、版によって、神々の種類や内実は、微妙に異なってきています。
 例えば、『ウォーハンマーRPG』初版には、魔狩人の神ソルカンというのが出てきまして、キム・ニューマンの小説〈ドラッケンフェルズ〉シリーズ内でも言及されているのに、私の知る限り、2版のルールブックにも4版のルールブックにも登場しません。
 また、混沌の神々のなかにも、マラルという裏切り者がいました。混沌の神々と反目していて、滅ぼそうとする神ですが、2版や4版のルールブックで言及されたのは見たことがありません。
 もちろん、公式で「これらの神々はなかったことになりました」とアナウンスされているわけではないのですが、せっかくですので、これらをアレンジしてシナリオに登場させても面白いでしょう。
 ……そう、神々には沢山の相(かたち)があるのですから!

●RPGの基本はユダヤ教?

 『「T&T」世界の僧侶』では、「ファンタジー・ロールプレイの宗教はユダヤ教に基づいたものになりがち」なので、呪文リストには聖書に基づいたものを入れた、とあります。《蛇作り》の呪文と同様の効果を持つ〈モーゼズ・スタッフ〉などですね。
 ユダヤ教が基本、というと若干ハテナと思わないでもないのですが、要するに『旧約聖書』に出てくる奇跡は呪文に応用させやすい、ということでしょうね。それこそ、チャールトン・ヘストン主演の映画『十戒』(1957年)での有名な、海が割れるシーンをイメージすれば早いかもしれません。
 また、クラシックD&Dの僧侶は、回復呪文をひっくり返して相手を傷つける呪文とするような「逆呪文」を使うことができるのですが、T&Tの僧侶呪文リストにも、逆呪文はしばしば記載されています。逆呪文は、治癒と呪いを並用できる僧侶には、まさにピッタリです。その例としては、「サウロがダマスコへの途上で視力を失った逸話」を元に〈目に光/目に鱗〉の呪文で表現されています。
 つまり、『旧約聖書』、『新約聖書』に出てくる奇跡はRPGと相性がよい、ということでしょう。
 これは、ケルト的な多神教の世界でありながら、一神教的な不寛容さも残存しているオールド・ワールドを考えるうえで、貴重な示唆を与えてくれます。あなたの使おうとする奇跡は、何が元ネタになっているのかと、考えてみるのも面白いですね。

●僧侶魔法、奇跡の体系化ということ

 もっとも、『「T&T」世界の僧侶』は、記事としては、それほど親切なものではありません。僧侶呪文が多数追加されてはいるものの、追加キャラクター・タイプである僧侶や侍祭が仕える教団や神々に関しては、読者であるゲームマスターが個々にデザインするものとなっているからです。あくまでも、半組みのキット方式なのですね。
 『ハイパーT&T』の僧侶呪文は、T&Tの僧侶呪文から、曖昧な呪文をバッサリとカットし、ユーモアを増量しつつ体系化させて成り立っています。これはこれで、一つの回答としては正解でしょう。
 宗派によって、使えない呪文や特殊な呪文などが設定されているのですが、他方の『ウォーハンマーRPG』は、個々の宗派によって、異なる奇跡の大系が、すでに容易されています。
 次回は、魔術と奇跡を対比させながら、その意味するところを考えてみたいと思います。

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