2021年04月22日

D&D小説リプレイ「悪魔の住む河を蔽う呪詛」


 本日2021年4月22日配信の「FT新聞」No.3011に、D&D小説リプレイ「悪魔の住む河を蔽う呪詛」を掲載いただきました。
 クラシックD&Dコンパニオン・レベル用モジュールの高レベルリプレイを、お蔵出ししてお届けします。保管庫でも読めます(配信時発生した文字化も訂正済)。

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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(クラシック)リプレイ「悪魔の住む河を蔽う呪詛」

岡和田晃

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●はじめに

 本作は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(クラシック)のルールシステムを用いてプレイしたRPGセッションを、主にダンジョンマスター(DM)の視点から小説風に再構成したものです。
 クラシックD&Dとは、日本で最初に翻訳されたD&Dの版(新和より、1985年〜)。クラシックD&Dは1〜36レベルまでキャラクターレベルを上昇させることができ、その都度ゲームスケールも広がっていくのですが、もっとも頻繁にプレイされるのは、レベル4〜14を扱う『エキスパートルールセット』(通称青箱)の範囲内(とりわけ「ネームレベル」と呼ばれる9レベルまで)です。
 ところが、今回プレイした「悪魔の住む河」は、それよりもさらに上級レベルのキャラクターを扱う『コンパニオンルールセット』(15〜25レベル対応ルール)の対応モジュール(CM3)です(日本語版は1989年に発売されました)。
 一国の趨勢を担うほど強力に成長したキャラクターたちが、本格的なダンジョン探検に乗り出したら……というコンセプトでデザインされた凶悪無比なアドベンチャー、パワープレイの妙味をご堪能ください。
 デザイナーはダグラス・ナイルズとブルース・ネスミス。ダグラス・ナイルズは〈ムーンシェイ・サーガ〉シリーズ(荒俣宏訳、富士見ドラゴンノベルズ)等のD&D小説や、D&D系ゲームブック『奪われた竜の卵』(鷹井澄子訳、富士見ドラゴンブック)で、日本でも人気を集めました。2019年にも『ドラゴンの教科書』が邦訳されたばかりです(原書房)。
 実際のプレイは2003年頃に行われ、当時岡和田は大学生。ゲームデザインとライター修行を兼ねて、できるだけ詳しいプレイリポートをつけるようにしていた時期のこと。本格的な商業デビュー前の作品を、非営利でお蔵出しした原稿であるがゆえ、お見苦しいところもあるかもしれませんが、実セッションを経ているがゆえの展開にはなっており、是非そこのところをご堪能ください。
 細部はDMである私がアレンジを加えておりますが、内容は「悪魔の住む河」の核心に触れているため、同作をプレイ予定の方は、終了後にお読みいただけましたら幸いです。複雑な立体構造ダンジョンをお楽しみください。
 なお、キャラクターの初期アイテムを決めるため、ゲームアクセサリー(AC4)『マーベラスマジック』を使用しています。

●登場人物

「輝ける」ファラミア:21レベルパラディン(*)。
ヨーシオンス:22レベルのドルイド(*)。
ジャック:20レベルのマジックユーザー。
レー・ザ・ブロークンハート:23レベルのシーフ。
ハインツ伯爵:ノルウォルド王エリコールの片腕。
カッター:依頼人の少年。
シーア:謎の予言者。
ネロス:17レベルのマジックユーザー。
将軍:魔法帝国アルファティアの将軍で、ノルウォルドの地に呪いをかけた。
(*は『コンパニオンルールセット』で追加されたキャラクタークラス) 

●リプレイ本編

 D&Dのオフィシャルワールド、ミスタラ世界の北方に位置するノルウォルド王国。近年入植されたばかりのこの未開の地では、南方の一大帝国ジアティスと、東方の魔法帝国アルファティアが、領土をめぐって日々熾烈な戦いを繰り広げていた。アルファティア側の譲歩により、国の主権は形だけでもジアティス皇帝の三男エリコールのものとなってはいたが、いまだジアティスとアルファティアとの確執は根強い。加えて、北方の地ならではの過酷な自然環境や、時折王国を襲い来る邪悪の尖兵どもが、王国を平和に統治することをさらに難しくしている。

 エリコール王の片腕と称されるハインツ伯爵もまた、尽きてやまない種々の問題に心を痛める一人であった。王国を突如襲撃してきたフロスト・ジャイアントの一団を無事撃破したまではよかったものの、今度は農民たちの間に奇妙な噂が広がり、租税の収入が滞っているのである。やむなく彼は、日々懇意にしていた国内でも有数のつわものどもを呼び寄せ、彼らの意見に耳を傾けることにした。
 間もなく、堂々たる威厳を全身にみなぎらせ、冒険者たち、いや、もはやそんな領域を超越してしまった者たちが入城してきた。先頭を行くのは21レベルパラディン(HP97)、「輝ける」ファラミア。その後には、22レベルの放浪のドルイド(HP67)、ヨーシオンス。また、国内に塔を構えるほどの実力者、20レベルマジックユーザー(HP46)のジャック、そして、ノルウォルドの盗賊ギルドのギルドマスター、レー・ザ・ブロークンハート、シーフ23レベル(HP64)も続いてやってきた。

 彼らが謁見の間に集結し、伯爵から問題事の相談をうけていると、突然、門番の制止を押し切って、一人の12歳くらいの少年が部屋に飛び込んできた。少年はカッターと名乗り、伯爵様の助けを願うため、わざわざここまでやってきたのだと説明する。今年に入ってから、彼の村では、なぜか急に畑の作物が腐っていってしまったり、家畜が死んでしまったり、たとえ生き残っていたとしても凶暴になって飼い主に襲いかかってくるようなありさまで、とても税を納めるような余裕がないのだという。「でも問題なのはそれだけではありません」カッターは悲壮な面持ちで続ける。「村の近くにモンスターが出没するようになったのです。特に新月の間は、モンスターは日中にも現れ、村の人は皆おびえながら暮らしています。今では、隣の家の人が変死したり、突如村人が意地悪くなったり、凶暴になったりすることすらあるのです。このままでは破滅です。伯爵様、どうか、どうか、僕たちをお助けください」

 伯爵は当惑する。それもそのはず、国内は、いたるところで混乱した情況を呈しており、一つの村に割くだけの人的、経済的な余裕はないのである。
 と、突然、室内が暗くなり、冷たい風が吹き始めた。空中に突如、部屋を覆わんばかりの巨大な頭蓋骨が出現したのだ。その眼窩は闇に包まれており、鼻や口、耳からは水が流れ落ち始めている。水は床に触れるとたちまち血と化した。そして、おもむろに頭蓋骨は語り始めた……。

「人々の血は穢れ、探索の間にも土地は腐り続ける。
 大地は蝕まれ、文明は滅びゆくのである。
 むなしく探しまわっても、救いは常にお前の手の内にある。
 この邪悪を止められる者はいない。呪いの源を見出さぬ限りは。」

 そう告げると、骸骨は忽然と消え失せてしまった。
 ただならぬ雰囲気が謁見の間を包んだ。どうやら事は予想外に大きいようだ。
 少年は言った。「村の近くを流れる河に、シーアという名の予言者が住んでいます。彼はかつて村人たちにこう言いました。『水が血となり予言が為されるとき、私を探せ』と。」
 沈黙。しばらく後に伯爵は振り返り、一行に向かって重々しく言葉を吐いた。
 「少年の村へ行ってくれ。頼む。」

***

 村は伯爵の領地のいちばん外れに位置していた。馬で行けば3、4日かかる。1日目の昼、目の前に4匹のグリズリー・ベアが姿を現した。しかし、5ヒットダイス(1ヒットダイスはPCの1レベルに相当する)のモンスターなど彼らの敵ではない。瞬殺。
 2日目の昼、今度一行の目の前に現れたのは、通常の8倍はあろうかという巨大なトロール(ガルガンチュアトロール、ヒットダイス51)であった。緑色をした狂気の瞳をらんらんと輝かせ、やる気十分である。先頭のファラミアはそれなりに苦戦したものの、しょせん敵は1体。ヨーシオンスの「キュア・オール」の魔法や、一度に7本もの矢が飛ぶジャックの「マジック・ミサイル」などの後方支援によって、無事ガルガンチュアはその巨体を大地に横たえる羽目となった。ジャックはあえなくつぶされかけたが。
 その晩、ファラミアを除いた3人は奇妙な夢を見た。驚くほど醜い三人の老婆が20フィートはある巨大な黒ウサギに乗って現れ、けたたましい笑い声を上げたかと思うと、ストーム・ジャイアント、ヒュージ(超巨大)ゴールドドラゴン、そして通常の8倍の大きさのガルガンチュア・ビホルダーが現れ、哀れ一行はトマトピューレにされてしまったのである。相次ぐ不吉な予兆におののく一行。

 次の日、ようやく村が見えてきた。しかし、家々の煙突からは煙も出ておらず、通りにも人の姿は全く見えない。怪しむ一行。とりあえず、ジャックが「ウィザード・アイ」の呪文を用いて村を探索することに。魔法の目が見たものは、物陰に隠れ、手にダガーを構えた村人たちの姿だった。
 両親の安否を心配するカッターをなだめようと、今度はレーが、「ハイド・イン・シャドー(影潜み)」を使用して、村に入る。だが、しばらく歩いているとレーは、物陰から突然現れた村人たちにのしかかられ、組み伏せられそうになる。彼女の技は失敗していたのだ! 村人を必死でふりほどくと、レーはあわてて逃亡を図る。
 この様子じゃあ、村への潜入は諦めたほうがよさそうだ、とふんだ一行は、今度は少年が言ったシーアの島へ行くことに決めた。
 シーアの島は、村の傍らを流れている河、サーベル・リバーの中ほどにある、さしわたし100フィートほどの小さな島である。島の周りには黒っぽい水が渦を巻いており、接近は容易ではなさそうだ。が、一行はウォーターウォーキングリングの使いまわしという、実にD&D的な手法で河を渡りきってしまった。

 だが、島の中には枯れ果てた木や草のほかには何も見えない。しかし、一行が島を探索しているうちに、カッターの姿が見えなくなった。と、突然少年の悲鳴が聞こえた。あわてて声のしたほうに近寄っていくレー、すると、足元が急になくなり、穴の中へと落ち込んでしまった。
 穴の中は豪華な調度の部屋だった。そして部屋の奥のソファーには、絹で全身を覆った女性が横たわっていた。ベールで隠されているので、残念ながら顔は見えない。彼女は優しく、レーに傍らのテーブルにおいてある豪奢な食事をとるように言う。だが、長年の経験の甲斐あって、レーにはそれが、幻影でカモフラージュされただけの腐った食べ物であることがわかった。
 その頃には、残りの一行も部屋に到着していた。観念した女はフードを上げた。そこに現れたのは、ヘビの頭髪を有した非常に醜い女の顔であった。だが、さすがは歴戦のつわもの、誰一人として石化することもなく、無事1ラウンドでメデューサを肉塊へと変える。

 ほっと一息ついたのも束の間、シーアが友好的とはいえない人物だとふんだ一行は、警戒しながらも、歩を進める。先頭のレーが10フィート棒を取り出し、床をコツコツ叩きながら進んでいったおかげで、途中の橋が幻影だということにも無事気がつき、ジャックがあやうく飛び移ることに失敗して、下の泥沼に蠢いているマッドマンの餌食になりかけたことを除いては、何事もなく次の部屋に進むことができた。10フィート棒の先に鏡を取り付けたり、Xレイビジョン・リングやインビジビリティ・リングを併用したり、相手の手の届かないところから矢を射続けるというセコイ手法で、次の部屋で待ち受けていたガルガンチュアガーゴイル&グレムリンのいやらしいコンビも比較的楽に退治することができた。

 問題は次の部屋だった。Xレイ・リングで部屋をうかがうと、石像が散乱しているのが見えた。これはメデューサかコカトリスか、それともバジリスクか。とりあえず、ふたたびレーが透明になって、部屋に潜入した。
 どうやら奥にいるのはバジリスクらしい。だが、透明化したレーには当然気づかない。安心して部屋の奥の方へと行こうとすると……。突如、石像の一つから謎の怪光線が発射された! レーは対:死の光線のセービングスローを行うことに。20面体で4以上の数値を出せば成功だ。だが、出た目はなんと3! あわれレーは、「ディスインテグレイト(粉砕)」の一撃を喰らって文字通り塵と化してしまったのだ! 塵になってしまったら、たとえヨーシオンスが持っている「レイズ・デッド・フリー」の呪文を使ったとしても甦ることはかなわない!

 絶望感にとらわれる一行。しかもご丁寧に、レーの所持品が入っていたホールディングバッグ(こちらは塵にならずにすんだ)は、見えない何かによって部屋の中央にあった穴へと蹴り落とされる。
 だが、落ち込んでばかりもいられない。とりあえず一行は、バジリスクをおびき寄せて撃退し、次に現れたファイア・エレメンタルやインビジブル・ストーカー(こいつがレーのマジックアイテムを落とした犯人)を次々と打ち倒していく。しかし、彫像が恐ろしく、なかなか部屋のなかに踏み込むことができない。

 と、彫像が消えたかと思うと、目の前に年老いたローブの男が現れた。なんと彫像は、「スタチュー」の魔法で姿を変えた魔法使いだったのだ! 業を煮やした魔法使いは、一行の前に「テレポート」して現れ、敵を一網打尽にしようとしたのである。「パワーワード・スタン」の詠唱が辺りに響き渡る。しかし、間一髪のところでかけた、ジャックの「リムーブ・カース」の呪文が功を奏した。魔法使いの瞳から狂気の色が消えたのである。
 「わしは何をしていたんじゃ」魔法使いは放心した呈で告げた。彼が言うには、自分は17レベルのマジックユーザー、ネロスであり、旅の途中で、彼はサーベル・リバーの水を飲んだ。それから意識がなくなって、気がつくとここにこうしていたのだという。意識をなくしている間に起こった出来事はぼんやりとは記憶に残っていたものの、とても自分が行ったというような実在感はない。無意識のうちに抵抗しようとはしたものの、それも結局無駄であった。彼を操っていた大いなる存在には、一切の魔法は効果がなかったのである。
 彼の処置に戸惑う一行。しかし、ファラミアはなんと、レーの代わりに、ネロスを仲間に入れようと提案する。当然ながら反発もあった。たとえ操られていたのだとしても、罪なきものを手にかけたという罪悪は免れるものではない。そんな奴を仲間にいれていいのか? と。けれどもファラミアは言う。「ネロスが我々の仲間を手にかけたからこそ、彼は我々とともに行動しなければならない。彼の罪を購うためには、そうするより他にないのだ。きっと、神もそうおっしゃるはずだ」 
 かくしてネロスはパーティの一員として迎えられることになったのである。

 部屋の中央の穴は、螺旋階段となっていた。一行は先に進むと共に、レーのマジックアイテムを回収しようと、下の回路に降りていく。だが、そこにはマン・スコーピオンと、その配下のジャイアント・スコーピオンが待ち構えていた。素早く引き返す。そうして、今度はヨーシオンスが「コンジュア・エレメンタル」で呼び出したファイア・エレメンタルを突っ込ませ、弱ったところを突撃して、無事マン・スコーピオンを撃退する。マン・スコーピオンの死体から、レーの持っていたホールディング・バックを回収することもできた。部屋の様子を見てわかったのだが、どうやらマン・スコーピオンの敗退は、エレメンタルの強さというよりも、レーの奇妙なマジック・アイテムをうまく活用できなかったためらしい。たとえば、彼女が持っていた「スター」というアイテム。これはオルターネイト・ワールドゲイトを開くための魔法のアイテムである。これを使えば、TSR社(D&Dの発売元)の西部劇ロールプレイングゲーム『BOOTS HILL(R)』の世界から、シェリフ(保安官)を呼び出すことができる。しかし、彼は戦わず、腰に挿していた拳銃をくるくる廻し、ポーズを決めた後、ウィンクをして、そのままもとの世界に帰ってしまうのだ。他にも、「ファンファーレ」という名前の扇(ファン)。この扇はクラブ+2として使えるものの、殴るたびに、あたりにけたたましい騒音が鳴り響き、周囲の生き物の怒りを買ってしまうという困ったアイテムである。こうした奇矯なアイテムを自在に使いこなせるのは、やはり専門家であるレーだけなのだろう。しかし、彼女はもういない。

 とりあえず一段落ついた一行は、ヨーシオンスの「スピーク・ウィズ・ザ・デッド」の呪文によってレーと会話をし、彼女のマジックアイテムを譲り受けることに成功する。そして、いざ次の部屋へ進もうと扉を開けると、その部屋で待っていたのは、巨大な、そう、超大型の、黒い羽根がテラテラと光る、ドラゴンであった……。
 一行はすぐさまもとの部屋にもどり、扉に「ホールド・ポータル」をかける。そしてとりあえず、十分な魔法を使えるようになるために休息することにする。

 その間もドラゴンが「ベントリロキズム(腹話術)」の魔法で、執拗にファラミアの気を引こうとするものの、さすがに通用しない。休息を終え、ジャックによって、「ヘースト」の魔法を「パーマネンス(永久化)」された一行は、ヨーシオンスの「トゥルーサイト」の呪文でドラゴンの弱点を調べると、すぐさま総攻撃をかけ、わずか2ラウンドでヒュージ・ブラックドラゴンを屠ってしまう。そんなこんなで、無事シーアの島のいちばん奥の部屋にたどり着いた。

 その部屋は六角形で、壁は黒いタペストリーに覆われていた。タペストリーには灰色の糸で、さまざまな戦争の光景が織り込まれていた。部屋の中央には赤く輝く炭が入れられたケトル(容器)が置かれていた。その横の空中に、苔むした一冊の本が浮いていた。さらにその後方には、黒いローブを着た一人の老人が、あぐらを組んだままやはり宙に浮いていた。顔はフードに隠されていてはっきりとはうかがうことができない。
 彼は自分がシーアだと名乗った。ヨーシオンスがここに来た理由を告げると、シーアはおもむろに頷いて、朗々と、歌うように語り始めた。
 「昔この地に極めて勇敢な、一人のアルファティアの将軍がいた。しかし、彼の部隊に対する本国からの補給はまことに僅かなものだった。そしてとうとう、彼の部隊は、この河の岸で蛮族どもに襲われ、全滅してしまったのである。彼は怒りと裏切りに全身を震わせ、愛用の魔法のサーベルを振り上ると、呪いの言葉を吐いた。『100年が七の七回巡る間、この地は荒廃し、未開のままであるがいい!』 言葉が響き渡ると同時に、突如雷が光り、サーベルを二つに引き裂いた。将軍とサーベルは河に落ち、二度と発見されることはなかった。だが、蛮族のシャーマンの一人がサーベルの柄を河岸で発見し、来るべき呪いの到来に備えて慎重に保管した。

 長い間呪いのことは忘れられていた。誰もこの地の開発などをたくらんでいなかったからである。だがしかし、最近になって、この地は開拓されるようになった。そのために、呪いも発動しはじめたのである。それが、おまえたちが見てきたような忌まわしき事態の原因となったのだ。
 私は、長い時間を研究に費やして、ようやく、サーベルの柄のありかを見出した。それは、フレイムズマウス山のタワー・オブ・テラーの中にある。それを持ってくれば、私がこの河の呪いを解いてやろう。私は研究のためについていってやることはできぬが、この地を救うためには、この探索に成功するしかないのだ。」

***

 フレイムズマウス山は従来は死火山だと思われてきた山であるが、近年になって急に活動が盛んになってきた。駆け出しの頃を思い出し、山を登っていく一行。と、600フィートほど先に洞窟の入り口が見えてきた。そのとき、突然、夕闇の中から、突然煙のようなものが巻き上がると、人の形を取り始めた。三人の老婆となったのである。今や一行は全てを思い出した。老婆は彼らがノルウォルドにやってきたばかりのときに打ち倒した、ゴネリル・リーガン・コーディリアの三姉妹であったのだ。彼女たちは耳障りな笑い声と不吉な予言を残して、消え去ってしまう。危険を感じた一行は、洞窟をさけ、ジャックの「マス・インビジビリティ(集団透明化)」の呪文によって透明となって、一路山頂のカルデラを目指すことに。

 ようやく山頂が見えてきた。と思ったのも束の間、何か巨大な、赤い飛行物体が近づいてくるではないか。ヒュージ・レッドドラゴン、インセンディアロス(アーマークラス−5、ヒットダイス22、ヒットポイント108、1ラウンドに6回攻撃、さらに急降下攻撃などのオプションあり)である! 姿が見えないから安心、と一行はそのまま登山を続ける。しかし、明らかにレッドドラゴンはこちらをめざして飛んでくるようだ。しかも、そのスピードは異常なほど速い。長年の経験から危険を感じた一行は、ただちに散開し、迎撃体勢に入った。「しまった! インバルネラビリティ(不死身)ポーションをとっておくんだった!」 ファラミアが叫ぶが、もう遅い。
 大型のドラゴンは賢い。自在に呪文を唱えられる。そう、侵入者に気づいたのも、彼女があらかじめ「ディテクトインビジブル」、「ヘースト」、「ESP(思考を読む)」の魔法をかけていたからである。けれども、彼女は自分の力を過信していた。自分に「インビジビリティ」をかけるのを怠っていたのである。おまけに、大いなる神のきまぐれによって、彼女は「ファンタズマルフォース(幻影)」を使って、自分の隣にもう一匹の巨大なドラゴンを出現させることさえ忘れていたのだ。
 それに比べて、冒険者たちは文字通り必死だった。ドラゴンのブレスを喰らえば一撃でパーティが半壊してしまう可能性すらある。かくして、彼らの全力を尽くした総攻撃を喰らい、なんとインセンディアロスはわずか1ラウンドで撃墜されてしまった。

 だが、安心したのはほんの束の間だった。母竜の断末魔の叫びを聞いて、さらに、5体のスモール・レッドドラゴン(ヒットポイント45)がこちらに向かってきたのだ! 死の予感が一行をかけめぐるが、とりあえずやるだけのことはやろうと、ファラミアはレーの形見であるショートボウ+5で攻撃し、ヨーシオンスは「レジスト・ファイアー」を唱え、ジャックとネロスは「スタチュー」の魔法を使い、石像に変身。そうして変身したまま攻撃魔法を放ち、遠距離からドラゴンどもを壊滅させようとする。「マジック・ミサイル」や「アイス・ストーム」、「ディスインテグレイト」などを延々と放ち続ける2体の石像。
 しかし、彼らの迎撃も思うようにはいかず、1体しか倒せない。残る4体のドラゴンどもは1体が石像に、残り3体がファラミアとヨーシオンスに向かってきた。ドラゴンの最初の攻撃はもちろん、ドラゴンのヒットポイントと同じだけのダメージを与えるドラゴン・ブレスである。そんなわけでファラミアとヨーシオンスは3回の対:ドラゴンブレスでセービングスローを行う羽目に。結果、ファラミアは死亡。ヨーシオンスは「レジスト・ファイアー」のおかげで生きてはいるものの、もはや虫の息である。スタチューどもが必死にもう1体を撃破しているうちに、ヨーシオンスはかろうじて先制を取り、自分に「キュア・オール」をかけるのに成功した。

 兄弟を殺され怒り狂ったスモール・ドラゴンは、攻撃の矛先を、魔法を飛ばしてくる生意気な石像の方へ向けた。ドラゴンのツメや牙を受け、ネロスは石像であるにもかかわらずヒットポイントが一桁まで落ち込み、殺されそうになる。けれども、必死で、ヨーシオンスはドラゴンの攻撃をかいくぐって、ファラミアに「レイズ・デッド・フリー」をかけることに成功する。
 ネロスをおとりにして目の前のドラゴンのうち1体を屠ったジャック。それを見て、もう1体はたじろぐが、あえて攻撃を続ける。そのうちに、生き返ったファラミアは、ドラゴンに愛用のインテリジェント・トゥーハンデッドソード+3ウィズ・ライティング「クロスファイア」を叩き込む。ヨーシオンスが何度か死にそうになったものの、この後何ラウンドかかかって、ようやく一行は勝利を収めることができた。

 ドラゴンどもは火口のカルデラを巣にしていたようだ。山のような財宝。120000枚の銀貨、75000枚の金貨、15000枚のプラチナ貨、金貨200000枚の価値はあろうかという装飾品、それに金貨70000枚の価値はあろうかという宝石、12本のポーションやスクロールなどなど……。だが、この程度の宝には見慣れている一行はさして気を惹かれた様子はなく、逆にカルデラの底に、さらなる縦穴が続いていたのを発見した。宝物のなかにまぎれていたクライミングロープを使い、降りていく一行。すると、そのおよそ1000フィート下はマグマだまりとなっており、天井から300フィート以内のところに、3つの張り出しのあるトンネルが見えた。
 そのうちのトンネルの一つに降り立った一行は、とりあえず奥へと進んでいこうとするが、そこに待ち受けていたのは、通常の8倍はあろうかというガルガンチュア・ファイアー・エレメンタル(ヒットダイス64、ヒットポイント252)であった! とっさに身構える一行だが、ジャックは落ち着いて、ネロスにしたのと同じように、エレメンタルにも「リムーブ・カース」をかける。だが、何も変化した様子はない。どうやら1回では足りないようだ。ジャックはもう1度、「リムーブ・カース」を唱える。かくしてエレメンタルは無事自分のプレーンに帰ることができた。

 その奥の通路を行く一行。そのとき、偶然「ディテクトインビジブル」をかけていたネロスは、その部屋に透明化されたゴルゴン(石化ブレスを吐く巨大な雄牛)が3体待ち構えているのに気がついた! しかも、そのうちの1体は、今まさにブレスを吐こうとしている! 慌ててネロスは逃げ帰り、代わりに入ったヨーシオンスが、ドルイド最強魔法「クリーピング・ドゥーム」をかけると、現れた1000匹の虫に押しつぶされ、ゴルゴンどもはたちまちミンチになっていった。
 その奥は二手に分かれていた。カッターが上がいいと言うので、一行はそれに従い、長い階段を上っていった。すると、そこで彼らが見たものは、たくさんの彫像に囲まれた部屋だった。壁にはシーアが告げたような、悲惨な歴史が連作で描かれている。部屋の奥には、祭壇と、そこに掲げられたサーベルの柄が見える! しかし、警戒を重ねた一行は、なかなか動こうとしない。ジャックが「テレキネシス」の魔法でサーベルの柄を取り寄せるが、それをネロスが鑑定すると、どうやら偽物らしいということが判明した。
 意を決した一行は、エレメンタルを呼び出して、1つずつ像を調べてさせていくことに決めた。結果は正解。いちばん奥の彫像の持っていたサーベルが本物だったのだ。

 これでクエストは完了だ! 意気揚々と帰路につく一行。しかし、悲劇はそれからだった。一足先に「テレポート」の呪文で地上に向かったネロスは、100面体を振って100を出してしまう。そう、こともあろうに瞬間移動に失敗してしまったのである! 結果は「低すぎ」。よく知っている場所へテレポートするときにこの結果になるのは100回に1回の確率である。思わぬ貧乏くじを引いてしまった彼は、「ドーン」という大きな音を立て、フレイムズマウス山の岩の中に埋もれてあわれ圧死してしまう。

 そうとは知らない一行は、前方を塞ぐヘリオン(炎の哲学者)を無事回避し、来た道を通って、無事地上に出ることができた。だが、ネロスの姿はどこにも見えない。散々骨折ってさがしたあげく、ネロスがテレポートに失敗したと結論づけた一行は、「アニメイト・デッド」の呪文によってドラゴンゾンビを作り出し、岩を掘らせて、ようやくネロスの死体を発見する。そして、その土まみれの死体は「レイズ・デッド・フリー」によって、すぐさま活動を始めるのであった……。

***

 ようやくサーベルの柄を手に入れ、シーアの島への帰還を果たした一行。しかし、シーアは何も言わず、ただ手を差し出すだけである。いぶかしんだ一行がそれを拒否すると、シーアは机に戻り、再び本を読み始める。仕方がないので、柄を渡すと、シーアはカッターを近くに呼んだ。
 そうして彼は言った。「コルスの息子エルバスよ、腕を前に伸ばすがよい」 ゆっくりとカッターが右手を伸ばすと、シーアは続けた。
 「長く失われていた、ソードの柄を握るよい。ソードの力を得るのだ」
 カッターはしっかりと柄を握り締めた。その途端、シーアは未知の言語で勝利の雄叫びをあげた。柄はまぶしい光に包まれ、同時にカッターの体は溶けて縮んでいき、何かの姿に変化した。
 すべてが終わったとき、その場に立っているのは、完全なサーベルを手にしたシーアだけだった。サーベルの刃は、青い魔法的な光に包まれている。シーアはサーベルを握り締めて言った。

 「おまえたちは皆死ぬがよい。今や再び我が手にサーベルがそろい、呪いは成就した。この地は永遠に荒れ果てたまま残るのだ。我が手にサーベルあるかぎり誰にも邪魔はできぬ」

 そう、シーアはアルファティアの将軍が放った呪いが具現化した存在だった。カッターはまたの名をエルバスといい、自分の真の正体を知らぬまま、川辺で義父コルスに拾われ、養子となったのである。


***

 かくして最後の戦いが始まった。シーアはサーベルを手に、ひたすら斬りかかってくる。そしてその背後のタペストリーからは、次々とサーベルクローや、ビホルダーや、ガルガンチュアヘルハウンドや、ドロウ・エルフが姿を現し、攻撃を仕掛けてくる。
 ジャックとネロスはモンスターを退治し、その発生源であるタペストリーを破壊するのに精一杯。おまけに、シーアはスペル・イミュニティを持っており、あらゆる魔法が通用しないようだ。戦闘は長引き、いっこうにらちがあかない。
 ファラミアは、シーアの手からサーベルを落とし、部屋の端へと蹴り飛ばすが、シーアはテレキネシスを用いてすぐさまそれを回収してしまう。ネロスも「インビジブル・ストーカー」を使って、サーベルを回収しようとするがうまくいかない。このような状態が何度となく繰り返される。
 息の根を止めては「レイズ・デッド・フリー」で甦るファラミアに業を煮やしたシーアは、今度は攻撃目標を変え、魔法の使い手から倒そうと、ヨーシオンスに攻撃を始める。サーベルに斬られ、一撃で44ダメージを食らったヨーシオンスは、残りヒットポイント2の瀕死状態に陥ってしまった。ヨーシオンスが死ねば、もはや回復は不可能になってしまう。
 そのときだった。ヨーシオンスを斬ったサーベルの刃を通じて、彼の心に、カッター少年が語りかけてきた。「僕を取り戻して、それでシーアに攻撃するんだ!」

 ヨーシオンスは大声をあげてファラミアにそのことを伝える。ファラミアはうなずいて、ふたたびシーアの手からサーベルを落とすと、それを拾って、一刀のもとにシーアを斬った! サーベルの刃が体に食い込むと、かれは断末魔の叫びをあげる。彼の体はドロドロと溶けていった。だが、その、かつてシーアだったものの上に、ゆっくりと黒い霧が立ち込めて、シーアの顔となった。
 「お前たちはまだ救われたわけではない。お前たちはここで私を倒したが、私はすぐに戻ってきて、お前たちを含むすべての者に、私の怒りの大きさを教えてやろう」
 そう告げると、霧は雲散霧消した。同時に、島全体が崩れ始める。慌てて、一行は外に出ようとする。ファラミアとヨーシオンスとネロスは、ヨーシオンスの「トランスポート・スルー・プラント」の魔法で、無事外に出ることができた。しかし、その魔法では、3人までしか運ぶことができないので、ジャックは自分で「テレポート」の魔法を使って外に出ることにする。
 ジャックはテレポートが成功したかどうかを確かめるために、100面体ダイスを振った。結果は97! 「高すぎ」である。ちなみにこうなる確率は100回に3回。落下したときに彼は臀部をしたたかに打ったものの(ダメージ7D6)、無事一命を取り留めた。 崩壊していく島を眺める一行。だが黒い霧はいっこうに晴れる気配がない。

 ファラミアの手に握られたサーベルが、おもむろに話し始める。
 「僕を助けて下さって、どうもありがとうございました。でも、すべてが終わったわけではありません。シーアは死にましたが、呪いの力はいまだ残ったままなのですから。呪いを解くためには、私の刃を、河の源(ハート・オブ・ザ・リバー)に突き立てなくてはなりません。そうしなければ、呪いを永遠に封じ込めることはできないのです」
 一行はため息をついた。まだ続きがあるのか。とりあえず休んでからだ。あと一息だ。ゆっくり休んで英気を養い、それから、ハート・オブ・ザ・リバーに向かおう。
 ファラミアはサーベルを地面に起き、日ごろ愛用しているソード「クロスファイア」を手にとった。旅立つ前に磨いておかねば。と、誤って指を切ってしまった。まがりなりにも21レベルのパラディンであるファラミアは、めったにこんなミスはしない。少し間を置いて、ファラミアは自分を傷つけた剣に話しかけた。

 「わかったぞ。お前、やきもちをやいているんだろう」

【初出:早稲田大学TRPGサークル乾坤堂プレイリポート】

posted by AGS at 11:28| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする