※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2946に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.3
岡和田晃
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「なんてこと(シグマーズ・ブラッディ・ハンマー)……」
一難去ってまた一難。トロールから逃げてボグ・オクトパスに遭うとは、よく言ったもの。
薄暗い物陰に佇んでいたのは、忘れもしない、魔狩人フレイザーだ。
「よお、レジーナ。貴様の顔は忘れようにも忘れられねぇ。色々と愉快なことをやらかしてくれたからな。貴様の周りからは、混沌の臭いがするんだ、それはもう、プンプンとな。実際、貴様のおかげで、ミュータントを一人狩ることができたってなもんだ」
フレイザーとは腐れ縁だ。シグマーへの狂信の割に異端摘発の「成績」がよくないこいつの前で、学府に認められていない魔法をかけ、魔女狩りの口実を与えなくて本当によかった。
わたしはサッシュ(帯)に忍ばせている、身代わり人形のことを思った。いざとなれば、思い切って針を突き刺せばいい。こいつに激痛の呪いをかけられる。その隙に……。
「そんなに警戒するなって。実はな、貴様にちょっとした相談(はなし)があるんだ」
――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より
好評いただいている本連載、Vol.3の今回は、『ウォーハンマーRPG』第4版の実際のキャリアを総覧し、『ウォーハンマーRPG スターターセット』のサンプル・キャラクターを紹介、さらには多様性(ダイヴァーシティ)の問題にまで話を広げていきます。
●キャリア・クラスについて
『ウォーハンマーRPG』の大きな特徴は、その職業(キャリア)の豊富さです。およそ中世から近世にかけて存在してきた、ありとあらゆるタイプの職業が、「キャリア」として網羅されていると言っても過言ではないでしょう(サプリメントで、さらに追加されていきますから)。
生活感あふれるキャリアを出発点にして物語を紡いでいけば、その生活がそのまま「冒険」に直結する、というのが『ウォーハンマーRPG』の醍醐味です。
プレイヤーが演じるキャラクターの就くキャリアは第4版では、学士、都市民、農村民、野外民、河川民、無頼、戦士の8通りのクラスに分類されています。
初版をご存知の方は、キャリア・クラスがウォリアー(戦士系)、レンジャー(野人系)、ローグ(町人系)、アカデミック(学者系)の4つに大別されていたのをご記憶かもしれません。4版では、それがさらに細分化されている、ということになります。
●キャリア総覧
学士に区分されるキャリアは、薬剤師、技師、弁護士、修道士、医者、司祭、学者、魔術師。
都市民に区分されるキャリアは、扇動家、職人、物乞い、捜査官、商人、ネズミ捕り、都市住民、警備兵。
廷臣に区分されるキャリアは、顧問、芸術家、決闘者、渉外使者、貴族、召使い、密偵、所領管理人。
農村民に区分されるキャリアは、領地代官、似非魔術師、薬草師、狩人、鉱夫、占い師、偵察兵、村人。
野外民に区分されるキャリアは、賞金稼ぎ、御者、芸人、鞭打苦行者、伝書、行商人、街道巡視員、魔狩人。
河川民に区分されるキャリアは、川舟乗り、水先案内人、河川巡視員、河川の民、船乗り、密輸商人、港湾労働者、難破船荒らし。
無頼に区分されるキャリアは、斡旋人、いかさま師、故買人、墓荒らし、無法者、ゆすり屋、盗賊、魔女。
戦士に区分されるキャリアは、騎兵、衛兵、騎士、剣闘士、流れ者、兵士、スレイヤー、戦闘司祭。
●『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリア
なかなか壮観ではないでしょうか。『ウォーハンマーRPG』ならではのキャリアを解説していくと……。
ネズミ捕りは、害獣駆除業者のこと。彼らなしでは都市の衛生は成り立ちません。
決闘者は、裁判の被告や告発者の替わりに決闘に参加する代理戦士。
似非魔術師は、魔法諸学府で公認されていない、似非魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。
鞭打苦行者とは、己や他人の贖罪のために世界が終るまで自らを鞭打ちながら旅して回る者のこと。中世史によく登場しますよ。
魔狩人とは、混沌の信者や非合法の魔術を使う者たちを追い求めて火刑にしようとする者。
斡旋人は麻薬窟や売春宿など悪徳とされるサービスへの手引きを行う者。ポン引きですね。
魔女とは、俗魔術と呼ばれる魔法体系を使う者。男性キャラクターでも「魔女」です。
スレイヤーとは、心に傷を負い、獣脂で髪をモヒカンに逆立て、死に場所を求めて彷徨うドワーフ戦士。
戦闘司祭とは、シグマー神に仕える僧兵で、ハンマーを手に前線で戦う者。『ウォーハンマーFB』が好きな方はお馴染みかもしれません。
これが、例えば鞭打ち苦行者ならば「狂信者」→「鞭打苦行者」→「悔悟者」→「終末預言者」と、キャリア・パスをステップ・アップしていき、獲得できる技能や異能も増えていくという塩梅です。
鞭打苦行者は世捨て人なので収入は増えませんが、通常はキャリア・パスが上がると、収入や社会的な地位が増していきます。
●キャリアはどうやって選べばいい?
これらのキャリアはダイスでランダムに選ぶこともできますし、任意のものをチョイスしてもかまいません。
ただ、ランダムで選んだ場合、ボーナスで経験点が入ります(いいルールなので、何度でも紹介しておきます)。
ちなみに、初版の時には、技能が1つ(乗馬)しかない、街道巡視員のようなキャリアもありました。それはそれで面白く、弱いキャリアをプレイして成り上がっていくのも『ウォーハンマーRPG』の醍醐味ですが、2版からはバランスが調整され、基本的に著しく不利な職業というのはなくなりました。
ただ、キャリア毎の社会的な立場はさまざまです。
例えば、魔女の使う俗魔術は非合法で、使うと死刑に処されます。それゆえ、常に魔狩人に追われる立場を余儀なくされます。
それはシナリオの導入に使うこともできますが、魔女と魔狩人をパーティに同居される場合、何らかの理由付けが必要となります。
『ウォーハンマーRPG』の冒険はシティアドベンチャーが基体になることが多いのですが、もちろんダンジョン探険等、ファンタジーRPGに期待される冒険は一通り、こなせるようになっています。
あらかじめシナリオの舞台が決まっていれば、それに合わせて、ゲームマスターがクラスを指定しても面白いでしょう。
●サンプル・キャラクターには、こんな設定も
このあたりが便利なのは、日本語版の発売が予定されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』です。
『スターターセット』には人間の兵士サルンドラ、ドワーフのスレイヤーのグンナー、ハーフリングの盗賊モルレラ、人間の魔術師フェルディナント、ハイ・エルフの商人アムリス、人間の魔狩人エルゼ、といった6体の作成済みキャラクターが収められています。
フルカラーですが、あらかじめ折りたたまれており、自分だけが知っておくべき情報を、周りに見せずに済むように配慮されています。
数値的なデータだけではなく、各キャラクターには、瞳の色や髪の色、家族構成、出生地、決めゼリフ、行動の動機、パーティの他の面々との関係、さらには自分だけの秘密が設定されています。
パーティの関係と自分だけの秘密は、1つないしそれ以上を、プレイヤーが任意に選択します。
●サンプル・キャラクターはこういう性格
サルンドラは貴族の出身なので、自然とパーティのリーダー格になりますが、酒好きで、いつも周りを騒がせ、「放っておけない」と思わせます。
グンナーは家族を亡くしてスレイヤーの誓いを立てたドワーフですが、戦闘マシーンに徹しきれない人間味(ドワーフ味?)のあるキャラクターです。
モルレラは人懐っこいハーフリングですが(人間の子どもくらいの身長の種族で、料理が得意)、夫も子どももいる肝っ玉母さんです。
フェルディナンドは、紫水晶(死の魔法体系の魔術を駆使する学府)の魔術師たるべく修行をしています。無口ですがこちらも貴族の出で育ちはよく、義理堅い一面もあります。
アムリスは人間に興味しんしん、好奇心いっぱいのハイ・エルフです。能力的に強力なので、いざという時には頼りになります。
エルゼは魔狩人の母から直に教えを受け、シグマー神を熱心に崇めています。静かに、強固な意志をもって任務を遂行する仕事人気質のキャラクターです。
これらのキャラクターに、ユーベルスライクを舞台にした付属シナリオをプレイする際には、街周辺の情報が、あらかじめ「ハンドアウト」として手渡されます。
このハンドアウトの情報を駆使すれば、ゲームセッションの導入がすんなり行き、なかには冒険をスムーズに進めるための手がかりにもなる、という塩梅なのです。
●多様性(ダイヴァーシティ)を前提とした雰囲気づくり
『ウォーハンマーRPG』の各キャリアには、それぞれ味わい深いイラストが添えられていますが、描かれるキャラクターの男女比は、ほぼ半々になっています。
『ウォーハンマーRPG スターターセット』の導入シートでは、キャラクターだけではなくプレイヤーも、肌の色に関わらず、和気あいあいと卓を囲む様子がイラストで示されています。
サンプルキャラクターも、男女比は半々。人間と異種族の比率も半々です。
『ウォーハンマーRPG』は、中世から近世にかけての厳しい社会背景を舞台に、シニカルなブラックユーモアが多々、登場する世界を描いています。
だからといって、ゲームセッションを通じて、既存の性・人種/民族(エスニシティ)等の差別を正当化するようなことが、あってはならないのは当然のことです。
微妙かな? と思えるシチュエーションがあれば、しっかり卓の合意を取るのが安全ですし、ルールブックにはそのための指針も記されています。
ルールやガイドラインのみではなく、多様性(ダイヴァーシティ)を許容するための雰囲気づくりも大事になるのですが、第4版はそのための配慮も行き届いています。
●卓を囲む仲間を「大人」として尊重するために
多様性についての議論が進んでいる英語圏でも、残念なことにレイシズム的な言説が問題になることが、ままあります。
昨年も、英語圏のあるオールドスクール・ファンタジーRPG関係の企業のトップが、あからさまな人種差別発言を行い、SNSでそれに便乗するゲーマーたちも現れる、という事件が起こってしまいました(ことを重く見た取引先の企業が、差別発言を看過せずに取引停止を宣告する自体にまで発展しました)。
レイシズムやセクシズムの問題は、誰にとっても非常に身近なものとなっています。誰もが加害者になりえるというわけです。
ほろ苦い大人のためのRPGだからこそ、『ウォーハンマーRPG』第4版はユーザーに対して、多様性(ダイヴァーシティ)のあり方を――声高な演説ではなく――ごく自然なあり方として表現しているのです。
それはつまり、卓を囲む相手を平等な仲間、「大人」として尊重するためのスタイルなのでしょう。
そこに甘んじることなく、自らの発言や振る舞いを常に省みて、RPGを通して、社会、そこに生きる人間、そして歴史の連なりを、より深く理解していくことができれば最高ですね。