2021年02月02日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」No.2932に、「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2」が掲載されています。以下、同内容を再録いたします。

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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.2

岡和田晃
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 わたしは魔力の風との交信を試みた。けれども、眼前にミュータントが迫っている状態では、どうにも気が散る。軽く舌を噛み、じりじりと後ずさりしていると、そいつがニヤリと笑ったかに見えた。間髪入れず、爪を振り上げて飛びかかってくる。
 何かが炸裂する音、そして悲鳴……恐る恐る目を開けると、飛び出した両眼のちょうど真ん中、化物の眉間のあたりに、ぽっかり穴が空いていた。
 どう、と倒れる。思わず振り返ると、黒い羽根付き帽を被った魔狩人が立っていた。胸の鎧は……ブレスト・プレートか。両手に構えたピストルからは、硝煙が立ちのぼっている。
 −−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より


 本連載のVol.1では、『ウォーハンマーRPG』の歴史と概要をお伝えしました。Vol.2の今回は、発売が予告されている『ウォーハンマーRPG スターターセット』を紹介しつつ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(クラシック)』との比較から、その特徴を解説していきます。

★本気のRPG、それが『ウォーハンマーRPG』!

 現在、ホビージャパンから発売されている『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』(第4版)は、ハードカバー・フルカラーのA4判で350ページほどと、分厚い書籍の中に、ぎっしりと情報が詰まっています。
馴染みのない方は、騙されたと思ってページを繰ってみると、異世界を表現するための本気度に、きっと驚かれるのではないかと思います。
 もっとも、『ウォーハンマーRPG』が本格的な作りだったのは、初版の時からそうでした。社会思想社現代教養文庫から発売されていた『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』が出た時のインパクトを、ご記憶の方もおられるでしょう。なにせ、文庫版で3分冊。1巻と2巻は600ページ、3巻でも500ページを超えていましたから。俗に「(形状が)サイコロ(のような)本」とも言われました。

★気後れしてしまう方には『スターターセット』を!

 ただ、中にはあまりの分厚さに気後れしてしまう方もおられるかもしれません。そうした方は、ゲームマーケット2020秋のホビージャパン・ブースで日本語版の発売が予告された『ウォーハンマーRPG スターターセット』をお待ちいただくのがよいでしょう。
 これは、入門用のボックス・セットで、箱の中に、導入用のシート、ルールサマリー、作成済みキャラクター6人、それらのキャラクターに行動の動機を与えるハンドアウト、そして、導入用の冒険シナリオ(5幕の連作形式+シナリオソース10本)の収められた本と、舞台となる都市ユーベルスライクのガイドブック、地図が4枚、それに10面体サイコロ(ブランド品)が2つに、戦闘時の「優位」を記録するための大量のトークン、それにボックスの裏を利用する簡易ゲームマスター・スクリーンがワンセットになっている、というものです。導入用シート、キャラクターシートや同梱の本2冊に、地図はすべてフルカラー!
 海外RPGでも、はたまた国産のRPGでも、昔から入門用のパッケージをボードゲームのようにボックス・タイプで発売するという形式がありますが、その『ウォーハンマーRPG』版、とご理解下さい。
 箱を開ける時のワクワク感は格別ですし(これは「アンボックス」などと言われ、海外では動画配信されることもしばしばです)、なんといっても、最小の準備でセッションを始めることができるのが最高です。それでいて、ベテランにとっても資料的価値が高いものです。
 舞台になっているユーベルスライクの街は、『ウォーハンマーRPG』第4版のメイン・フィールドであるライクランドという領邦の南部にあるものです。ボックスに同梱されたガイドブックでは、ユーベルスライクの歴史と、ユーベルスライクを支配するユングフロイト家、近年の皇帝カール・フランツによる政治的な侵攻、さらには街の具体的なロケーションが70カ所以上扱われ、周辺諸領や暗黒のカルト教団までもが紹介されています。
 ユーベルスライクは旧版ではあまり目立ちませんでしたが、第2版の地域ガイド本『シグマーの継承者』でもきちんと出てきますし、未訳の第3版でも、ドワーフの設定などで言及されています。PCゲームの『Total War WARHAMMER』でも登場しますよ。
 なんといっても、ユーベルスライクはジャック・ヨーヴィルの〈ウォーハンマー〉小説『ドラッケンフェルズ』の舞台であるドラッケンフェルズ城にほど近いところが素晴らしい。初版では『ドラッケンフェルズ』を再現する冒険シナリオも出版されていましたが(未訳)、『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や『スターターセット』でも、ドラッケンフェルズ城については言及がありますので、探してみるのも一興でしょう。
 ちなみに、『ドラッケンフェルズ』には吸血鬼ジュヌヴィエーヴという有名なキャラクターが出てきますが、彼女はヨーヴィルがキム・ニューマン名義で書いた〈ドラキュラ紀元〉シリーズ(アトリエサードから新版が刊行中)にも出演しています。タイムリーにも、『《ドラキュラ紀元一九五九》ドラキュラのチャチャチャ』の発売が、この2月中になると予告されています。

★初版のデザイナーは、D&Dの仕事もしていた

 『ウォーハンマーRPG』は1986年に初版ルールブックが出ていますから、今年(2021年)で35周年です。『ウォーハンマーRPG』に2年先駆けて始まった『ドラゴン・ウォーリアーズ』もそうなのですが、初版の『ウォーハンマーRPG』は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(新和や電撃ゲーム文庫から邦訳もされた、いわゆるクラシックD&D[CD&D]、特に1983年からの第4版以降)との差別化が、陰に陽に意識されていたように思います。
 実際、『ウォーハンマーRPG』に参加していたクリエイターの多くは(フィル・ギャラハー、ジム・バンブラ、グレアム・デイヴィス、グレアム・モーリス等)、CD&Dを当時出していたTSR社のUK支社の仕事もしていました。
 CD&Dがお好きな方は、1989年に邦訳が出た『X8モジュール 炎の島』(新和)や、1996年に邦訳が出た『ナイツ・ダーク・テラー 黒い夜の恐怖』(電撃ゲーム文庫)をご確認いただければと思います。
「CD&Dも魅力的だが、より『ウォーハンマーRPG』らしさを追求するにはどうしたらいいか?」という問いが、行間から溢れているのがおわかりになることでしょう。

★クラシックD&Dと『ウォーハンマーRPG』の違い

 試しに、2つのシステムをおおまかに比較してみましょう。
 CD&Dは20面体ダイスの1回振りで、基本的な判定が行われますが、『ウォーハンマーRPG』では、技能システムをベースにした10面体サイコロ2個で%を作る(今では『クトゥルフ神話TRPG(クトゥルフの呼び声)』等でお馴染みの)やり方が基本になっています。
 職業(クラス)の数が最小限に抑えられたCD&Dとは違い、『ウォーハンマーRPG』では、100種類を超える職業(キャリア)を転職しながら渡り歩くシステムが採られています。
 低レベル帯ではダンジョン探険が中心のCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、初期段階から、街での冒険が活発に行われるようになっています。
 古代から中世の雰囲気を色濃く遺すCD&Dに比べ、『ウォーハンマーRPG』では、中世から近世への過渡期における都市での冒険が中心で、銃器すら出てきます。
 CD&Dでは(「スレッショールド」の街など)地名や文化は英語がベースのものが少なくありませんでしたが、『ウォーハンマーRPG』の舞台であるエンパイアでは(「アルトドルフ」の街など)ドイツ語ベースが基本。
 戦闘でも、アーマークラス制による処理のスピード感を重視したCD&Dに比べ、命中部位やクリティカル・ヒット表など、戦闘はリアル志向で危険性が強調されています。
 もちろん、「どちらが優れている」というわけではなく、自分の表現したい世界観に合わせて、システムを選択すればよい、という話ですね。きっと、クリエイターもそう考えていたことと思います。

★嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界 

 『ウォーハンマーRPG』第4版のコンセプトは、「嶮難(けんなん)なる冒険に満ちた残酷な世界(A Grim World of Perilous Adventure)」です。
 残酷さをもたらす根幹にあるのは、"禍つ神々(ルイナス・パワーズ)"と呼ばれる"混沌"の邪神たちや、その手下であるディーモン(『ウォーハンマーRPG』ではこう表記します)が、絶えず、オールド・ワールドを侵攻しようとしてくることです。
 かつて世界の安寧を守ってきた太古の魔術がすでに破られ、"混沌の時代"が到来してしまっているのですが、こうした"混沌"との戦いが、『ウォーハンマーRPG』の重要なテーマになっています。
 混沌の正体は不明です。一見、善きものに見える魔力も、煎じ詰めれば混沌の力に由来するということが少なくありません。
 混沌の神々を崇拝することは非合法であるため、通常は地下に潜伏していますが……敵は、彼らだけではありません。混沌に穢されたミュータントやビーストマンや、人間たちと別種の論理で動くグリーンスキン(ゴブリン類のこと)やネズミ人間スケイヴン、といった勢力が跳梁跋扈しているからです。
 仲間であるはずの人間たちですら、まるで信用はできません。その日を暮らすのもやっとのため、数枚の銅貨のために、平気で人殺しに手を染めるような連中だって珍しくないからです。
 案の定、ドワーフとエルフは互いを煙たく思っており、しばしば人間をも見下していることは言うまでもありません(第4版ではドワーフとエルフの不仲は「嫌悪」という特徴で表現されますが、パーティの仲間に関しては無視してもよい、という救済策が提示されています)。

★エントロピーに対峙せよ!

 こうした厳しい世界の中で、わずかに残る希望を失わずに悪戦苦闘を続ける、というのが『ウォーハンマーRPG』のプレイヤー・キャラクターの立ち位置です。
 混沌との戦いに終わりはなく、勝利の道筋は見えません。世界が滅びる"終焉の刻(エンド・タイムズ)"は、刻一刻と近づいていますが、避けようがない衰滅(エントロピー)を、少しでも遅らせようと悪あがきをするわけです。『ウォーハンマーRPG』には8種類のクラスが存在し、各クラスに8種類のキャリアがあり、それらは4段階のキャリア・レベルで成長を遂げていきます。つまり単純計算で、基本ルールブックだけで256種類(!)のキャリアが用意されているわけですが、成長するにつれて、社会的な地位は上がっていき、混沌をめぐる世界の真実に気づく……といった仕組みになっています。
 こうしたコンセプトも、実はCD&Dへのアンサーであると言えます。CD&Dは、キャラクターのレベルが上がるごとに、社会的な地位も上昇していき、15レベル以上を扱うコンパニオン・ルールセット(緑箱)からは、領主となって自領の経営に乗り出したり、あるいは今いる世界(物質界)を離れて次元界をまたにかけた冒険に出向いたりすることになるのですが、やがて直面するのは、宇宙のすべてに熱力学的な死をもたらす「エントロピー」との対峙にほかなりません。
 私自身、「エントロピーとの戦い」をテーマに、『ウォーハンマーRPG』やCD&DのキャンペーンをGMとして運営したことがあります。

★変化するシステム

 D&DにはCD&Dのほかに、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』という別ラインのシリーズがあり、それらは2000年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版で統合され、2003年の第3.5版、2008年の第4版、2014年の第5版と、システムを大きく様変わりさせています。
 『ウォーハンマーRPG』の第2版は、D&D第3版の系列のサードパーティであったGreen Ronin社が関わっていたため、緻密な状況の再現がウリであったD&D第3.X版を意識しつつも、随所でゲームマスターのファジーな判断を加えやすいデザインになっていたと、私は現場で何度となくプレイして、つくづく実感しました。イベントでは、「D&D第3.X版と、『クトゥルフ神話TRPG』をハイブリッドさせたようなシステム」と紹介したこともありました。
 『ウォーハンマーRPG』第4版は、世界観的には初版回帰の色彩が強いシステムで、実際、メイン・スタッフには名作ユーモア・シナリオ「エウレーカ!」で知られるアンディ・ローも名を連ねていますが、システムも独自の変化を遂げてきました。
 ただ、第4版の『ウォーハンマーRPG』を、純粋に数理的なルールシステムに限って言えば、単純に他のファンタジーRPGと比べることは、以前の版に比べて、難しくなってきているように思えます。第4版では「優位」等、独自のギミックが増えてきたからです。
 それでも、「キャラクター作成の時に、ダイスでランダムにキャラクターを選んだ場合、任意に選んだ場合よりも、ボーナスとして経験点をもらえる」といった具合に、オールドスクールRPGファンならば、「なぜ、ここに気づかなかったんだろう」という、痒いところに手が届くようなルールが増えています。
 既存のファンのみならず、ゲームデザインの最新形がどうなっているのかを知るためにも、ぜひ、第4版に触れていただければと思います。


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