※FT書房が「広告なし・非営利・日刊」で運営しているメールマガジン「FT新聞」2021年1月19日発刊のNo.2918に寄稿した「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!Vol.1」を、Analog Game Studiesにも採録します。
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1 No.2918
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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.1
岡和田晃
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一人の人間の行為が、全世界に永遠の平和をもたらすような物語を聞きたいとおっしゃるなら、お話しすることもできます−−でも、そんな話がどんなにばかげて、嘘っぱちなのか、あなたにもよくおわかりのはずです。
−−ブライアン・クレイグ『嵐の戦士』(岡聖子訳)
小便臭い脇道から飛び出してきたそいつは、わたしが初めて見るような姿だった。田舎の民兵のような服装(なり)をしているのに、眼柄(がんぺい)がカニのように突き出しているのだ。黄色い爪は長く伸び、渦を巻くようにねじくれている。開かれた口からはよだれが滴り、おぞましい腐臭が漂ってくる……。歯には何かの肉片が絡みついている。わたしは、吐き気をもよおさずにはいられなかった。
−−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より
★はじめに
あなたは『ウォーハンマーRPG』を知っていますか?
2020年9月1日に、発売が電撃的に発表され、月末には第4版の基本ルールブックがホビージャパンより発売されました。「あの『ウォーハンマーRPG』が復活!?」と、SNSではかなりの話題を集めたので、ご記憶の方も多いだろうと思います。
ただ、「FT新聞」をお読みの方には、ゲームブックや他のRPG(会話型RPG、テーブルトークのRPG)には親しんでいても、『ウォーハンマーRPG』には馴染みがない、という方もいらっしゃるかもしれません。
それもそのはず。もともと英語圏でも日本でも、『ウォーハンマーRPG』は1980年代のゲームブック・ブームが一段落した後の、"次の一手"として展開された作品でしたから。
ただ、その奥深い背景世界やルールシステムは、知らないで済ませるには、あまりにももったいない。そこで、「FT新聞」編集長の水波流氏からの依頼を受けまして、『ウォーハンマーRPG』について、紹介する記事を連載していきたいと思います。
★おことわり
筆者である私は『ウォーハンマーRPG』第2版、および第4版の翻訳に参加、「GAME JAPAN」誌2008年3月号〜9月号まで第2版リプレイ「魔力の風を追う者たち」「混沌狩り」を連載し、各種コンベンションでゲームマスターをしてきました。
しかし、それ以前に、初版の頃から『ウォーハンマーRPG』に深く親しんできたつもりです。
当時、私は18歳で上京したて。大学に入ったらRPGを辞めようかと悩んでいて、まだ遊んでいなかった『ウォーハンマーRPG』を"最後のゲーム"にするつもりだったのですが……蓋をあけたらご覧の通り。綿密な考証を軸に作り込まれた世界観にすっかり魅了されてしまったのでした。
私は大学では創作学科にいたのですが、ユーロピアン・スタイルのダークファンタジーは当時、軽視されていて、そこに非常な不満がありました。そんな私に、『ウォーハンマーRPG』は、自分の志向性が間違っていなかったと教えてくれた作品でもあります。
ゆえに、私は『ウォーハンマーRPG』に恩義を感じているのです。あくまでも本記事は、いち『ウォーハンマーRPG』ユーザー(個人)としての批評・紹介であり、日本語版の「公式見解」および「公式サポート」ではない、とあらかじめお断りしておきます。
★公式情報は……。
公式情報については、ぜひ『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』や、ホビージャパンから発売予定の『ウォーハンマーRPG スターターセット』をご参照下さい。日本語版公式サイトからは、キャラクターシートやシナリオ「流血の夜」等が無料ダウンロードできます(https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/)。
★タイトルについて
第2版および第4版の日本語版では、わかりやすさを重視し『ウォーハンマーRPG』という表記になっていますが、オリジナルは『Warhammer Fantasy Roleplay』というタイトルになっており、英語版から遊んでいる古強者(ヴェテラン)の中には、『ウォーハンマーFRP』という呼び方をする人も少なくありません。
このFRPという呼び方は、日本では1987年にホビージャパンから発売された『指輪物語ロールプレイング』等で提唱されていたものですが……。こと〈ウォーハンマー〉においては、『ウォーハンマー・ファンタジー・バトル』(以下、『ウォーハンマーFB』と略)等のミニチュアゲームと区別するために使われることが多い印象です。
★『ウォーハンマーRPG』と『ウォーハンマーFB』
『ウォーハンマーRPG』は、イギリスのゲームズ・ワークショップ社が1986年に発売した作品です。その前段階として、1984年には、『ウォーハンマーFB』というミニチュアゲームが出ています(日本語版は『ウォーハンマー』とだけ呼ばれることも多いですが、本記事では区別のために「FB」と略称とします)。
『ウォーハンマーFB』は1990年代半ばから、日本でも紹介されるようになり、あちこちに専門ショップが出来ているため、ご存知の方も多いかもしれません。
同じ〈ウォーハンマー〉でも、ミニチュアゲームとRPGは、共通する世界観を持ちながら、ゲーム・スケールがそれぞれ異なる別作品です。
もっとも、RPGがきっかけとなってFBを始める例や、逆の例も多く見受けられます。
『ウォーハンマーRPG』はミニチュアが必須ではありませんが、あればゲームの状況をしっかりと可視化できますし、「トロール殺し」(心に傷を負ったドワーフが、獣脂で髪をオレンジのモヒカンに逆立て、死に場所を求めてさまようというキャリア)のように、独自のキャラクターを表現するには、FBのミニチュアが使いやすいからですね。
かいつまんで言うと、『ウォーハンマーFB』ではアーミー(軍団)単位を扱います。逆に『ウォーハンマーRPG』は個人の生活に焦点を当てた仕様になっているのですね。
★泥臭い中近世ヨーロッパを扱う
理想化されたロマンスとしての中世ではなく、中世から近代への移行期、近世のヨーロッパから多くのモチーフが採られています。
『ウォーハンマーRPG』の舞台であるオールド・ワールドは、現実のヨーロッパとほぼ同じ地図として描かれていますが、とりわけ第4版では、エンパイアという神聖ローマ帝国時代、三十年戦争期のドイツがモチーフの多くを提供しています。
プレイにあたっては西洋史の知識は必要ありませんが、あればディテールの描写や演出に役立ちます。「Role&Roll」(新紀元社)では、2011年から隔月で、「戦鎚傭兵団の中世"非"幻想事典」という、創作やRPGに応用可能な、中世ヨーロッパ社会史の入門記事を連載しており、お役に立つと思います(「Role&Roll」Vol.195で60回!)。
「Role&Roll」での「戦鎚傭兵団」とは、待兼音二郎・見田航介の各氏と私が組んでいるユニット名で、ネーミングの由来は、『ウォーハンマーRPG』の翻訳でつながったことです。オールドスクール・ファンタジーRPGと実際の歴史の交点に着目していますので、「FT新聞」読者の方には、ご一読いただければと思います。
★発売元の総本山は英国ゲームズ・ワークショップ社
ゲームズ・ワークショップ社と聞いて、「FT新聞」の読者の方は、何を思い出されるでしょうか? そう、〈ファイティング・ファンタジー〉のゲームブックですね。
もともとゲームズ・ワークショップ社は、アメリカ発のRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を、イギリスで扱う代理店だったのですが、1982年からは『火吹山の魔法使い』が大ヒットしました。
ゲームズ・ワークショップが直接・間接的に関わったRPGやゲームブック作品に『ドラゴン・ウォーリアーズ』(1984年〜)、『タイガー暗殺拳』(1985年)、『ローン・ウルフ』(1985年〜)等があり、いずれも日本でも訳されています。〈ファイティング・ファンタジー〉のサポート雑誌として「ウォーロック」が創刊されたのも1983年(〜86年、ちなみに日本版「ウォーロック」は86年創刊)です。
ゲームズ・ワークショップはボードゲームやRPGにも力を入れており、『火吹山の魔法使い』のボードゲームはもとより、『ドクター・フー』(SFドラマ)や『ジャッジ・ドレッド』(SFコミック)をボードゲームやRPG化しています。
RPGで使うメタル・フィギュアについても、アメリカはラルパーサ社の製品をイギリスで販売するなどしていましたが、自社ブランドとしてのシタデル社をゲームズ・ワークショップ社の子会社として打ち立てました。
『ウォーハンマーFB』では、シタデル・ブランドのミニチュアが使われ、ペイントに用いる塗料の「シタデルカラー」は、ミニチュアや模型がお好きな方であれば、きっとどこかで耳にしたことがあるはずです。
★『ウォーハンマーRPG』、3つの日本語版
初版の日本語版は1990〜93年、社会思想社現代教養文庫から刊行されました。翻訳は安田均・高山浩・江川晃・岡聖子ら各氏が中心で、リプレイは友野詳氏が担当。いずれもグループSNEの面々です。デビュー直後の柘植めぐみ氏も、柘植恵名義でシナリオの訳に参加しています。
第2版の日本語版は2006〜15年、ホビージャパンから出ています。翻訳は待兼音二郎・鈴木康次郎・阿利浜秀明・見田航介ら各氏に私を加えたメインの翻訳チームに、定木大介氏・鶴田慶之氏が別働隊でシナリオ集等の翻訳に参加しています。
発売されたばかりの第4版(2020年、ホビージャパン)のルールブックでは、待兼音二郎・見田航介・阿利浜秀明、成田未来、田井陽平の各氏に私が、メインの翻訳チームを結成しています。翻訳協力には傭兵ペンギン氏。
残念ながら初版と第2版はすべて絶版になっていますが、これら3つの『ウォーハンマーRPG』日本語版は、そのままの形で互換性はありませんが、資料として応用することは充分に可能です。
とりわけ、第4版は初版回帰という色合いが強く、古書で旧版を適価で見つけたら、押さえておいて損はありません。
★〈ウォーハンマー〉関連作品あれこれ
ジャック・ヨーヴィル〈ドラッケンフェルズ〉やブライアン・クレイグ〈吟遊詩人オルフィーオ〉シリーズほか、〈ウォーハンマー〉は関連小説が何百冊も発行されており、日本語版になっているものも少なからずあります。これらも、お読みになって損はありません。
ボードゲームでは、『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』というマルチプレイゲームも日本語化されました。
コンピュータ・ゲームでは、『ウォーハンマー:Chaosbane』や『ウォーハンマー:ヴァーミンタイド』といった人気作も、注目を集めています。余談ですが、コンピュータ・ゲームの有名作『ウォークラフト』は〈ウォーハンマー〉の影響を強く受けているんですよ。
なお、『ウォーハンマーFB』には、『ウォーハンマー40000』というSFシリーズがあり、英語圏ではこちらの方が人気なくらいで、RPG版も発売されています(未訳)。ミニチュア版の『ウォーハンマー:エイジ・オヴ・シグマー』という、オールド・ワールドを舞台にしないシリーズもあり、RPG版も出ています(未訳)。
★『ウォーハンマーRPG』を一言で言えば?
これまで『ウォーハンマーRPG』各版のキャッチコピーを比べると、その世界観がよく伝わってきます。
【現実っぽく、パンクな、超ド級のスケールと高完成度のRPG!
『ウォーハンマー ファンタジーRPGルールブック』全3冊
RPGの面白さ、だいごみを
とことん突き詰めた
新しい王道をいくファンタジーの本格派!】
(初版の広告)
【ウォーハンマー・ロールプレイングゲームの残酷な世界で、君は異色の英雄として危険な冒険に打って出る。君はエンパイアの無法地帯に踏み込み、余人があえて立ち向かおうとせぬ、あるいは歯向かうこと能わざる脅威に立ち向かう。君は十中八九、どこかの糜爛した地獄穴で犬死にするに違いない。ただしことによると、かすかな望みではあるが、不浄なる変異種、身の毛のよだつ業病、腹黒い陰謀、正気の爆散を招く宗教儀式を耐えて生き延び、運命の果実をつかむかもしれない……。】
(第2版の紹介文)
【『ウォーハンマーRPG』は、君をここ、オールド・ワールドへと連れ戻す。ならず者たちを団結させ、君ならではの(アンチ)英雄を生み出し、そして、邪悪な腐敗、陰謀を張り巡らす策謀家、破壊を目論む恐るべきクリーチャーたちを掻き分けて、活路を拓くためにいざ出発せよ。】
(第4版の紹介文)
つまり、無慈悲でパンクな世界観なのですね。本格ダークファンタジー、ファンタジーパンクなどと、『ウォーハンマーRPG』は形容されることが多いように思えます。
ピリリと辛い、まさしく大人のためのRPGなのです。
「パンク」というのは、もともとパンクロックに由来する音楽用語ですが、文化を介した既成権力に対する反逆のスタンスを示すものとして、広く転用されるようになりました。実際、スケイヴンやボルトスロワーといった、〈ウォーハンマー〉からの影響を公言している広義のパンク/ヘヴィメタル・バンドすら存在するほどです。
〈ウォーハンマー〉全体における『ウォーハンマーRPG』の位置、世界観の大枠と、根本にあるパンクなダークファンタジーという姿勢について、今回は語りました。
次回は、具体的にシステムについても紹介していければと思います。
死は、あなたの隣人。恐怖は、あなたの友。
リアリティあふれるオールド・ワールドの冒険を、是非ともお愉しみください。
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