2012年12月13日

【レビュー】まさかのシュルレアリスムRPG『Itras By』英訳版の登場!

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【レビュー】まさかのシュルレアリスムRPG『Itras By』英訳版の登場!

 八重樫尚史 (協力:岡和田晃)

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 あなたは『Itras By』という会話形RPG(テーブルトークRPG、TRPG)をご存知でしょうか。
 もともとノルウェーで2010年に発売され、Vagrant Workshop社(ペンギンを遊ぶRPG『Valley of Eternity』の英訳もした最近僕のお気に入りのゲーム会社)が2012/12/07に英訳版を出したばかりの新しいRPGです。
 この記事では、『Itras By』の概要を、手短にご紹介いたします。
 英文を参考にまとめたものですので、早合点や読み間違いなどがあるかもしれませんが、ご容赦いただけましたら幸いです。
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itras_by_slide.jpg
※(画像は公式サイトより)

 コンセプトを見た段階で、僕のハートは鷲掴みにされました。
 「1920年代で、シュルレアリスムを遊ぶRPG!」
 エッジを利かせるにも程があるというものです!
 僕も最初は「アンドレ・ブルトン(シュルレアリスム運動の理論的指導者)という名前にひっからない人はお断り」なゲームかと思っていました。
シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫) [文庫] / アンドレ ブルトン (著); Andre Breton (原著); 巖谷 國士 (翻訳); 岩波書店 (刊)
シュルレアリスム宣言;溶ける魚
 実はそういった近代美術史ファンに限定されたゲームという訳ではなくて、1920年代の架空の都市でキャラクターを演じるという『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』などに通じるゲームです(結構、欧州ではそういったゲームのニーズがあるようです。同じくVagrant Workshopが英訳したドイツ産の『Vampire City』もそんな感じでしたし)。
 そう、『Itras By』というこのゲームの名は、英語で書くと「Itra's City」、日本語では「イトラの街」という意味です。基本的にはこのイトラという名の街の一人となって遊ぶRPGになります。

 ただし、この『Itras By』はより旧来の会話型RPGから離れたシステムを持っていて、簡単に言えばダイスレスで数字データもないゲームです。その代わりに、基本的に行為判定には「Chance Card」(チャンス・カード)というカードを使用します。
 「Chance Card」には8種あって、単純な成功失敗以外の効果が出る仕組みです(ゲーム的に説明すると、“部分的”成功のようなもの)。
 また、別に「Resolusion Card」(レゾリューション・カード)というものがあり、プレイヤー各人はこれを1セッションで1回使わなければならないというシステムです。
 こちらのカードは、危険な状況などで判定を行おうとする際に使用されます。ここがシュルレアリスムという所の肝で、カードによってはとんでもないロールプレイが要求されます。

 例えば「Cut Scene」(カット・シーン)というカードを引くと、強制的に3時間ぶんの時間が跳びます。しかしプレイヤーは、そのまま続けてロールプレイしなければなりません。また、その際に空白の3時間の描写は禁止です(!)。
 中でもRPG的にとんでもないのが「Masquerade!」(マスカレード!)というカードで、これを引くとそのシーンの残り、全てのプレイヤー(ゲームマスター含む)がキャラクターをスワップしてプレイします。
 「オートマティズム(自動筆記)」とか「コラージュ」といったシュルレアリスムの手法を導入したということなのでしょう。
  カード部分は、オフィシャルページでPDFファイルとして公開されています。英語になりますが、興味のある方はご覧ください。

・Itras by Chance Cards(公式サイトより)
http://www.vagrantworkshop.com/files/itras_by_chance_cards.pdf

 これまでの他のゲームと比較するとすれば、方向的にはやはり『ローズ・トゥ・ロード』(2010年版)に近いでしょうね。
 カード使用法でも、『TORG』のサイドストーリーカードや『深淵』の運命カードの流れの延長線上に位置づけることができそうです。また、カードゲームの『ワンス・アポン・ナ・タイム』も遊び方としては似ているかもしれません。

 まだ遊べていませんが、おそらく実際にプレイしてみると、ゲーム・セッションは、「スラップスティック」なナラティヴ・スタイルのゲームになると思います。カードの助けがあるので、意外と運用しやすいかもしれません。
 ノルウェー版公式サイトには『Itras By』、というよりもシュルレアリスムの空気を掴むことができるように、ルイス・ブニュエル監督でサルバドール・ダリも参加したシュルレアリスム映画の代表作「アンダルシアの犬」等をサンプリングしたティーザー動画が用意されています。
 1920年代のシュルレアリスムとはなにかを知るよすがになるかもしれません。
 ただし、結局なにがなんだかよくわからない(これぞシュルレアリスム)かもしれませんし、映画史上に残る名シーンである「眼球切断シーン」が入っていますので、そういったものに耐性のない方は、くれぐれも再生ボタンを押さないでください。


 ここ最近、海外では2046年の日本でサイバーパンク(「ニュー公明党」が政権第1党をやる)フランス産の『Kuro』(http://www.7emecercle.com/7cercle/jdr/kuro.php?page=Inf)のような尖ったゲームが出ています。
 そして『Itras By』みたいに、英語圏以外のゲームであっても英語に翻訳されるものも登場し、PDFファイルで、ほとんどタイムラグなく手に入るようになりました。いい時代になったものです。

・Vagrant Workshop『Itras By』特設ページ
http://www.vagrantworkshop.com/index.php?categoryid=8&p2_articleid=42

※2012/12/13 一部修正。
posted by AGS at 15:02| レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする