2012年06月26日

第25回遊戯史学会例会を聴講して――将棋の初心者、教えます

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第25回遊戯史学会例会を聴講して――将棋の初心者、教えます

 蔵原大

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 2012年5月26日、遊戯史学会の例会(第25回)にいってきました(http://www.asahi-net.or.jp/~rp9h-tkhs/yugishi.htm )。
01遊戯史.JPG
 三軒茶屋でおこなわれた例会での発表は、将棋と囲碁がテーマ(http://www.asahi-net.or.jp/~rp9h-tkhs/yugisi03.htm )。

 ● 「将棋における超初心者の上達過程」(by 堀口弘治〔日本将棋連盟棋士七段〕)
 ● 「囲碁家元本因坊文書の基礎的研究」(by 高尾善希〔立正大学文学部史学科非常勤講師〕)

 うち前半の方は、堀口氏が幼稚園や高校で将棋を教えているその体験をもとにしたものでして、初心者教育の点ですこぶる実践的(http://www.shogi.or.jp/player/kishi/horiguti-kou.html)。せっかくなので、いただいたレジュメの要旨を一部ご紹介します。

 ☆初心者に対する精神的サポート

 初心者の多くは、「将棋は難しい」と思っている。ある意味それは、正しい感覚である。私達将棋関係者は普及のため、「将棋は誰でも出来て、とてもやさしいゲームですよ」とよく言うが、実際将棋を教えてみて様々な壁があることもよく知っている。

 まずは、駒の動かし方やルールの説明に最低でも30分以上はかかる程教えることが多い。そして、そのあと初心者がどのように駒組みを進めていけばよいのか、適切に説明することは至難の業である。つまり、初心者の大きな壁の1つは、「何をどのように、何の目的で指すのか」見当もつかないことである。人間は、わからないとつまらなくなる。さらに、失敗するこわさ、負ける悔しさ、自己嫌悪・バカにされる恥ずかしさが加わり、ここで多くの人が脱落してしまう。

 また実際考えることは、面倒でかなり疲れる作業である。本将棋において考え、神経を使わなければいけないことは、数々あり緊張・集中した時間はそれほど長くは続かず、混乱と挫折感だけ残り、ここでもやはり将棋は敬遠されてしまう。

 そこで、生徒の「やる気」を引き出し、持続させる指導者の技術と創意工夫と熱意が必要となる。

 まず大切なことは、指導者が使う言葉は、シンプルに分かりやすくすることである。たとえば、「角の斜め右前の歩を動かして角を使えるようにしましょう」「角の横に金が移動して角の頭を守りましょう。」など動作と目的を分かりやすく伝えることである。専門的に言えば、もっと細かく説明する必要はあるところではあるが、この段階では、そうするとかえって混乱させてしまう。そして、普通の手が指せたら、ほめてあげることである。なぜなら将棋のほとんどの手は悪手なので、私達プロから見れば、当たり前の手であっても、悪手の山から普通の手が選べたことは多いに評価すべきことだからである。初心者が矢倉や美濃囲いが出来たという事は、凄いことなのである。「出来た」という達成感、「わかった」「ホメられた」という喜びの体験を積み重ねていくことは、将棋を続ける上で大切なことである。

 そして実戦の指導において心がけることは、失敗をおそれさせず、のびのびと指させることである。本来初心者には、失敗という概念は必要ない。失敗がなければ初心者ではないからである。すべてが「成長途上の手」であり、「貴重な体験」だ。次から改善して指せるように気がつかせるため、その都度指摘してあげることが良い。

 指導者は決して、早く強くさせようとして焦ってはいけない。根気よく相手の理解度を見ながら、ステップバイステップ、繰り返し、繰り返し、行きつ戻りつで十分である。

 ときには勝つ喜びを与えるため、指導者は上手に負けてあげることも必要だ。

 また、自分がどのレベルなのか級の認定も大事な動機づけになる。子供の場合、賞状・認定証・スタンプ・テストの花丸など、小道具やちょっとした工夫でとても喜ぶ。

 そして、なにより「棋は対話なり」将棋はコミュニケーションのゲームなので、勝負に集中するときとは別に、生徒同士・先生と生徒、和やかな雰囲気を作ることも続けられる要因となる。『指導法
ベストはないが ベターあり』である。時には、目先を変えてリレー将棋・青空将棋・トランプ将棋やミニ将棋・パズル・駒遊びなども取り入れても面白い。欲を言えばこのほか、将棋の歴史の話や礼儀作法なども指導できるとなおよい。将棋の面白さと楽しさ、素晴らしさを知ってもらうためにも、指導者の柔軟かつ幅広い知識と豊富な経験に裏付けられた、人間的魅力が大きく物を言う。


 このなかで紹介されている「生徒の「やる気」を引き出し、持続させる」工夫は、将棋だけでなくゲーム、武道、技術全般を教えるのにも応用できそうな内容です。難しい知識をレクチャーされる場合に、こうしたテクニックが参考になれば幸いです。

 ところで話は変わりまして、近年では将棋・囲碁のプレイ能力と論理力との関連性が注目され、各大学がそうした知的スポーツを講義として取り込んでいます。いわゆる「シリアス・ゲーム」系にも関係してくる話かと。

 ○ 青山学院大学で囲碁授業を開始:
 http://www.nihonkiin.or.jp/news/2012/02/post_390.html

 ○ MNC科目「囲碁で学ぶ数理科学入門」:
 http://www.waseda.jp/mnc/letter/2010jun/teachers_column.html

 ○ 全学共通科目|大東文化大学: (「囲碁と将棋A・B」という科目があります)
 http://www.daito.ac.jp/education/whole_university/common.html

 ゲームとは単なるエンターテイメントではなく、公共に資するものでもある、という現代社会の一面がこんなところからも垣間見えます。

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★【余 談】(酔った象さん=王子さま)

 なお例会では、将棋や囲碁についての発表に関連して、さまざまな将棋のバリエーションが展示されていました。
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 中国製の「軍人将棋」というのは初めて見ましたが、なるほどコマの種類が見やすく、けっこう使い勝手が良さそうです。
003中国将棋.JPG
 中国の将棋「象棋」は日本のとは異なり、コマは丸く、盤の真ん中に「河」があったりします。
004朝鮮将棋.JPG
 朝鮮の将棋では「漢」「楚」の二つの陣営に分かれてたたかうのだそうです。古代中国の、秦帝国がほろんだあとの項羽と劉邦のあらそいをモチーフにしたと言われています。

 そして極めつけがこれ。
005酔象.JPG006太子.JPG
 いわゆる「古将棋」というやつの駒でして、「酔象」が成ると「太子」に変わります。「太子」は「王将」の代わりとして機能する優れもの。とはいっても「古将棋」は駒が多すぎ。ほかにも「仲人」とか「麒麟」とか......おぼえきれません。誰が気合いの入った方、挑戦してみてくださいな。

posted by AGS at 17:07| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする