2011年10月15日

【レビュー】華麗なる大空の騎士たち―空戦ゲーム「Wings of War」―

【レビュー】華麗なる大空の騎士たち―空戦ゲーム「Wings of War」―

 蔵原大

Wings of War

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【ゲーム紹介の本文】

 今回の記事は、「Wings of War」(以下WoW)という、第一次世界大戦の空中戦を再現したイタリア製のミニチュア・ウォーゲームのご紹介です(NEXUSという会社が販売しています)。2007年にイタリア人たちとプレイしたのですが、ルールは簡単(将棋よりずっと楽でしたので、ゲームのシステムにすぐなじむことができました。

 ゲームの詳しい内容は、NEXUS社の運営するサイト( http://www.wingsofwar.it )をご覧いただきたくお願いしますが、ここではほんのさわりだけを書きとめておきます。
Wings of War

 WoWでは、プレイヤーは(画像にある)ミニチュアの航空機を操縦して、敵機を撃墜すべく、大空(にみたてた平らな盤ならなんでも可)を駆け回ります(基本セットは最大4人までプレイ可能)。ゲームの手順は「移動の計画」「移動(戦闘)」「移動(戦闘)」「移動(戦闘)」という、4回の行動の繰り返しです。ルールは非常に単純で、基本ルールの説明には口頭で5分ほどを要する程度です。あとは実際に飛んで、ゲームの流れを習得してください。

 WoWの英語ルールは、"WINGSOFWAR.IT." WINGSOFWAR.IT: Wings of War. ( http://www.wingsofwar.it/read.asp?id=2658 ) から無料ダウンロードできます。日本でも店頭購入("Role&Roll"やイエローサブマリン)の場合は邦訳ルールがついている場合があります。お店の人に確認しておくとよろしいかと。こちらのサイト( http://a-gameshop.com/SHOP/WOW1.html )では5,550円で販売されています。

 アマゾンですとこんな感じです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00067ID0G/ref=pd_sim_t2
http://www.amazon.co.jp/dp/B00097DDD0/ref=pd_sim_t2
http://www.amazon.co.jp/dp/B000ALCC3C/ref=pd_sim_t1

 このゲームでは、移動の操作も戦闘の判定もすべて備え付けのカードを使い、サイコロはまったく使いません。移動は、移動用のカード(プレイヤーが手持ちの中から選んだもの)に描かれた矢印にそって、飛行機のミニチュアを動かすだけでいいのです。戦闘は、だれかの飛行機が他のプレイヤーの飛行機の機銃の射程内に入ったときに発生します。その場合は射撃用カードを引き、そこに書かれている数字やマークを頼りに、敵を撃墜できたかどうか判定します。
Wings of War

 WoWに登場する航空機は、現実には布やワイヤー、ベニヤ板などで継ぎはいだハリボテの複葉機でした(重さはせいぜい乗用車並みの1トン)。第二次世界大戦以後とはちがい、大型の機関銃とかミサイルなんて代物は備えておらず、敵機を撃墜するのはなかなか大変です。従って4人プレイの場合、撃ったり撃たれたりと、プレイ時間は1時間ほどになるでしょう。ゲームで使用する盤の大きさを狭めると、飛行機の機動の余地がなくなるため、プレイ時間を短縮できると思われます。とはいえこの場合、飛行機があっさりゲーム盤の外側に転げ落ちる危険性があります(蔵原はそれをやっちゃいましたが)。

 このゲームの興味深い所は、第一次世界大戦当時の空戦で実際に使われた戦法をお試しできる点です。以前にプレイした際、往時の空戦に詳しいプレイヤーが史実の戦術を解説しながらやってみせ、見事勝ち抜きました。クルクル回る複葉機の戦いを体験してしまうと、第二次世界大戦になっても旋回性能にこだわった日本軍やイタリア軍の気持ちがなんとなく理解できますね。WoWのように戦争の一幕をうまく切り取ったゲームは、歴史に思いを馳せる際のいい教材になります。
The evolution of the dogfight
(Quoted from "The Beginning of the Dogfight." http://www.warandgamemsw.com/blog/539229-the-beginnings-of-the-dogfight/ )

 好評だったこのWoW、その続編にあたる第二次世界大戦バージョンがあるそうです。その名も「Dawn of War」(戦争の夜明け)とか( http://a-gameshop.com/SHOP/WOW6.html )。

 アマゾンにもありました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B002PHLVYK/ref=pd_sim_t4

 こちらのクラブでもプレイされていますよ:West Tokyo Wargamers
 http://analoggamestudies.seesaa.net/article/203599618.html

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【ご参考までに:第一次世界大戦について】

 ご興味ある方向けに、第一次世界大戦についての参考書にも触れておきます。
 日本語で読める中で特に面白いのは以下のものです。

○ A.J.P.テイラー、倉田稔訳『第一次世界大戦―目で見る戦史』
第一次世界大戦―目で見る戦史
 http://www.amazon.co.jp/dp/4794823215

 高校の教科書ではあんまり取り上げられない第一次世界大戦、その始まりから終わりまで一連の流れをきっちり描いている本です。塹壕だらけの戦場がどうして生まれたのか、そもそもどうしてヨーロッパのど真ん中が戦場となったのか、空戦だけでなく戦略から人々の暮らしぶりまで解説されています。


○ バーバラ.W.タックマン、山室まりや訳『八月の砲声』
 http://www.amazon.co.jp/dp/4480853359

 テイラーの本とは打って変わって、こちら『八月の砲声』では第一次世界大戦勃発の数ヶ月しか扱われていません。しかし内容は濃密でして、開戦までの駆け引き、ドイツ軍の猛進撃、タンネンベルク、そしてパリをめぐる決戦などなど、ドラマチックな場面が生き生きと記されています。現代史は第一次世界大戦の落とし子である、と喝破する著者タックマンの語りは、一度読むとはまりますよ。


○ [映画]ブルーマックス
 http://www.tsutaya.co.jp/works/10025095.html

 この映画のタイトル「ブルーマックス」はドイツ軍の勲章の名前でして、身分卑しいパイロットが勲章欲しさに大活躍......というのが粗筋です。当然ながら空中戦のシーンも登場します。


○ [映画]ガンバス
 http://movie.goo.ne.jp/movies/p15799/

 資料的価値は完全にゼロのこの作品ですが、飛行機マニアなら一度は見て損ありません。やさぐれパイロット共がオンボロ複葉機(しかも妙な改造)を操って、ドイツ軍の巨大な飛行戦艦(全金属製飛行船のドでかいヤツ)と戦うという、チョーめちゃくちゃストーリー。派手な撃ち合いもさりながら「これ、実際には飛べないだろ〜」という改造機がゾロゾロ繰り出されるのは見もの。


○ [映画]紅の豚
紅の豚
 http://www.tsutaya.co.jp/works/10004154.html
 http://www.amazon.co.jp/dp/B00005R5J6

 ご存知、宮崎アニメ映画です。舞台は世界恐慌直後の地中海、ブタになった賞金稼ぎ(元空軍パイロット)が愛機に乗り込み奮戦します。第一次世界大戦が終わって10年以上たったという設定ですが、飛行機のテクノロジーは大戦当時とさほど変わっていません。主人公の回想シーンにイタリア軍複葉機(しかも水上機)が出てくるのもオツなものです。飛行機の機銃弾を一個一個チェックして「サビ弾まじってやがる」とブツブツ言いつつ整備する場面、ムッソリーニが台頭する時代背景に「いかがでしょう、愛国国債をお買いになっては」「そういうことは人間同士でやるんだな」等とさりげなく触れているあたり、実にオヤジくさく渋い逸品。
posted by AGS at 21:24| レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする