蔵原大

※当ブログAnalog Game Studies(AGS)は『エクリプス・フェイズ』公式サイト(Homepage | Eclipse Phase: http://eclipsephase.com/ )で承認されているファンサイト(Fan Websites)の一つです( http://eclipsephase.com/resources )。なお記事中の訳語は暫定的なものなので今後の修正もありえる旨、御了解いただきたくお願いします。※
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【ファイアーウォール(FIREWALL)】
SFゲーム『エクリプス・フェイズ』( http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html )の無料簡易版(Quick-Start Rules)の冒頭では、このロールプレイングゲームにおけるプレイヤーの立場がこう設定されています。
「ファイアーウォールに加われ。それは如何なる犠牲を払おうともトランスヒューマンを救おうと模索する超党派陰謀団のことだ。あるいは独自の計画を戴くキャラクターを演じたまえ」(Join Firewall, a cross-faction conspiracy that seeks to save transhumanity.at any cost. Alternately, play a character with their own agenda.)
しかし当の「ファイアーウォール」とは何なのでしょう。それは消防団や自警団、それとも警察や正規軍なのでしょうか。なぜ「陰謀団」というウサン臭い呼称が付されているのでしょう。「トランスヒューマン」※を「救おう」というのはどういう意味なのでしょう。今回は既存の『エクリプス・フェイズ』ルールブックやサプリメントから抜粋訳出して、この非合法結社の概要をご紹介したく思います。
ちなみに『エクリプス・フェイズ』デザイナーのロブ・ボイル(Rob Boyle)氏のコメントにあるように、このゲームが「私たちが重要と考えたテクノロジーの発展によって引き起こされた社会的・政治的な問題を紹介したい」ためのツールとして用意されたことは、架空の団体ファイアーウォールと現実の社会との関連を考える上で参考になるかもしれません( http://analoggamestudies.seesaa.net/article/199514106.html )。
なお文中に※を付けた用語は、記事末尾に解説を入れています。

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■ ファイアーウォールの概要〔訳注:本文は英文基本ルールブック(Eclipse Phase: The Roleplaying Game of Transhuman Conspiracy and Horror, 2009)の84〜85頁を訳出〕( http://www.eclipsephase.com/releases )
ファイアーウォールは「地球壊滅」※以後の「トランスヒューマン」※を守るための秘密の戦いにおいて最前線を担っています。ファイアーウォールとは複数の細胞組織や個人から成る独立したネットワークで、その構成員はありとあらゆる勢力・文化・背景・居住地から募集されます。新たな構成員となりそうな人物は内々に接触を受け、君の持つ技能や知識をトランスヒューマンの永続的生存を保障すべく努力している秘密のネットワークに役立てないかと誘われます。ファイアーウォールの理念は単純:実世界にある諸々の脅威、それがトランスヒューマン社会の内部に端を発するのであれ、外部の地球外生命体に由来するのであれ、とにかく危機からトランスヒューマンを保護するというものです。
ファイアーウォールの工作員は「監視員」(sentinels)と呼ばれ、単独行動や自前の資源を活用するよう奨励されます。監視員は「目」(Eye)と呼ばれる社会ネットワークに連結されており、それによって援護、追加の技能、資源を得ることができます。このネットワーク中に監視員が有している「i-rep」※は、監視員がどの程度信用されているのかという指標であり、助けを求める際に何が得られるかを決定する要素です。またファイアーウォールは、例えば「人格データ投射」※や「身体の再着用」※の必要があるならば、多額の資金や大量の兵站物資を供出します。監視員がファイアーウォールの作戦中に落命する場合、「皮質記憶装置」※もしくは「バックアップ」※を通じての死後の復活を保障されています。
監視員は呼出しを受ければいつでも駆けつけるのが在るべき姿です。例えば、近くで何か問題が起きたとか、自分の特別な資質が求められている、そういう場合には仕事を引き受けなければいけません。監視員は任務のたびにそれにふさわしい臨時の特別チームを組まされて投入されるのが通例です。多くの監視員はファイアーウォールの任務を完遂した後には自ら信ずるところに従って行動しますが、ファイアーウォール関係の長期に渡る様々な任務に関して、監視員の複数チームが連絡を取り合ったり、情報の共有、共同で作業を続けることも珍しくありません。
ファイアーウォールの基本的な作戦は、ファイアーウォールの分権的資産を確保する「代理人」(proxies)と呼ばれる工作員によって組織・運営されています。典型的な代理人は個々の監視員よりも沢山の情報を所持しており、任務遂行に必要と判断すれば、各監視員の「i-rep」※及び監視員が知るべきか否かに応じて情報を提供します。各代理人が採る接触・任務説明を始めとした諸々の行為の手法は千差万別です。

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■ ファイアーウォールと他の勢力との関係〔訳注:基本ルールブックの361頁「FIREWALL AND OTHER ORGANIZATION」の一部、サプリメント『サンワード』(Eclipse Phase: Sunward, 2010)の156頁「FIREWALL」の一部を抜粋訳出しました〕( http://www.eclipsephase.com/releases )
○ 内圏(Inner System、木星軌道の内側:訳注)との関係:内圏にある殆どの勢力は、ファイアーウォールのことを「違法なゴロツキ集団」であって無政府主義者に操られて社会の中枢を脅かす連中であると見なしています。逆に一部のハイパーコーポ(EP世界を牛耳る大企業:訳注)はファイアーウォール内部にこっそり権力を及ぼし、自らの目的のために、例えば他のハイパーコーポや勢力に対するスパイ活動や破壊工作等に彼らを活用できると考えています。
○ 木星共和国(Jovian Republic)との関係:木星の軍事独裁政権はファイアーウォールとそれに関係する物を全て毛嫌いし、自国の勢力圏内に存在するファイアーウォールの活動にはどんな些細なものであれ攻撃を仕掛け、その際には極端な手段の行使を厭いません。
○ タイタン(土星の衛星にある民主国家:訳注)との関係:タイタン市民の中でも事情通の大半はファイアーウォールの活動に必ずしも敵対的ではなく、ファイアーウォールは規制をかけられた上で合法化されるべきだと考えています。
○ 惑星連合(Planetary Consortium、EP世界における最大勢力:訳注)との関係:惑星連合は公式にはファイアーウォールの存在を否定しています。非公式には捕らえられてファイアーウォールの一員だと判明した人物は「オーバーサイト」※に引き渡され厳しい処置を受けた末、おそらくは「プロジェクト・オズマ」※への転向を迫られ、あっさり行方不明となるでしょう。ファイアーウォールと惑星連合とは特別な状況下でなら戦術的目標を共有できる可能性がありますが、戦略的目標の点ではまず間違いなく敵対しています。さらにファイアーウォールはこれまで、惑星連合に属する様々なハイパーコーポや部局が行っている諸計画の矛盾点を利用することも少なからずありました。

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■ 訳者による用語解説〔下記用語の一部はEclipse Phase: Quick Start Rulesの6頁「TERMINILOGY」でも解説されています〕
○ 地球壊滅(the Fall):EP世界における地球は大戦争によって焦土と化しました。詳しくはこちらの記事を参照(http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html)。
○ トランスヒューマン(transhuman):EP世界における遺伝子強化、肉体を機械に置き換えた等の処置を受けた新しい人類形態の総称です。詳しくはこちらの記事を参照(http://analoggamestudies.seesaa.net/article/183475700.html)。
○ i-rep:未来経済における電子通貨の一種で、組織内における信用と引き換えに財貨や情報を獲得する際の指標となります。詳しくは英文基本ルールブックの357頁「OPTIONAL RULE: I-REP」を参照。
○ 人格データ投射(egocasting):通信回線を通じて人格データを送信することを言い、非常な遠距離の旅行、例えば太陽の近くから木星軌道に向かう場合などに行われます。詳しくは英文基本ルールブック(2009)の275〜276頁「EGOCASTING」を参照。
○ 身体の再着用(resleeving):人格データ(文学的には「魂」に相当します)を新しい物理的身体(人間の肉体・機械など諸々を含みます)に移し変える行為です。EP世界では新しい身体に乗り換えることは身体の死亡や「人格データ投射」時に行われる普通の処置です。詳しくは英文基本ルールブック(2009)の270〜272頁「RESLEEVING」を参照。
○ 皮質記憶装置(cortical stack):大脳皮質の奥に埋め込まれた記憶装置で、脳に宿る人格データ(人格・記憶・技能)を記録します。皮質記憶装置を持っている人が死亡した場合、装置を回収すれば内部のデータを別の新しい身体に移し変えてもらえれば、事実上の「復活」をはたすことができます。詳しくは英文基本ルールブック(2009)の268〜270頁「BACKUPS AND UPLOADING」を参照。
○ バックアップ(backup):EP世界では不測の事態を想定し、人格データの予備を第三者の外部記憶装置に委託する有料の保険サービスが(とりわけ危険な目に会いそうな職種の間で)流行っています。この予備データを称して「バックアップ」と言います。詳しくは英文基本ルールブック(2009)の269〜270頁と330〜331頁にある「BACKUP INSURANCE」を参照。
○ オーバーサイト(Oversight):ハイパーコープの大同盟である惑星連合に属する機関「公正自由市場監督局」(Oversight Directorate for Fair and Free Markets)のことです。主な業務は市場経済における不正取引の摘発等ですが、その権限は他の機関からの掣肘を受けることなく拡大し、今では惑星連合に敵対的な勢力(無政府主義者・生物学的保守主義系テロリスト・犯罪組織その他......)に対する処理もまた担当しています。詳しくはサプリメント『サンワード』(2010)の150〜152頁の「OVERSIGHT」を参照。
○ プロジェクト・オズマ(Project Ozma):惑星連合に属する情報機関ですが、存在するという点以外の詳細は謎に包まれています。詳しくは英文基本ルールブック(2009)の85頁「PROJECT OZMA」を参照。
〔訳者注意:ファイアーウォールの真の歴史、暴力性、長期戦略に関しては英文基本ルールブック(2009)の355〜361頁で説明されています。ですが、そうした極秘情報は普通の市民や下級の監視員には知るすべがありませんから、知っている等と公言する連中は嘘つきでなければ組織の機密を漏洩する反逆者に違いありません。同士諸君、逆賊に死を!!〕

陰謀団ファイアーウォール(FIREWALL)と何ぞや? by 蔵原大(Dai Kurahara) is licensed under a Creative Commons 表示 - 非営利 - 継承 3.0 非移植 License.
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Bibliography: EclipsePhase-2nd.pdf, EclipsePhase_QuickStartRules.pdf, PS+21200_EP_Sunward.pdf which all have been produced from Catalyst Game Labs and Posthuman Studios in 2009-10.
※読者の方のご指摘により、一部記述を修正済です。この場を借りて感謝いたします。(201109/09)