2024年03月05日

『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.25


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.25

 岡和田晃
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

「それで?」
 わたしが問い詰めると、霊は「ひぇっ」と言ったきり、不意にかき消えてしまった。
 霊は定命の者を恐れない。ただ、羨望し恨みをぶつけるだけである。
 市長の像の裏には、何かが隠されているのは間違いないだろう。
 わたしは“魔力の風”の乱れをひしと感じた。いや、“視えた”。
 しかし、この像の台座そのものには、何ら邪悪な印象を受けない。おそらくはエルフ由来だろう。
 確かにエルフは鼻持ちならない連中だけど、生者へ憎悪をぶつけて恥じない、根本的な邪悪とはまた別だ。
 静寂のなか、ざわざわと見えない風が揺れる。
 ――魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より

●お次は『Imperial Zoo』と『Up In Arms』

 不定期連載に移行してから、およそ1年2ヶ月ぶりの「『ウォーハンマーRPG』を愉しもう!」となります。
これまでの内容については、Analog Game Studiesに再録されておりますので、必要あればご確認いただければと存じます。

https://analoggamestudies.seesaa.net/category/27608570-1.html

 幸い、現状の日本語版では、既成のシナリオだけでも、遊び続けられるくらいの分量のシナリオは提供されており(シナリオ集が、『ユーベルスライク冒険集』、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』、『ライクランド綺譚』の3冊が出ています)、ぜひトライをいただきたいのですが、今後のラインナップとしては、『Imperial Zoo(帝立動物園・仮題)』と、武器や装備に関するサプリメント『Up In Arms』があがっています。
 このうち前者は、待兼音二郎さん・見田航介さん・阿利浜秀明さん・田井陽平さん、そして私のチームが翻訳を担当しておりまして、待兼さん曰く、「こちら、2版の『オールド・ワールドの生物誌』の4版版かと思いきや、エンパイア領内に加えてブレトニアへティリアも含めた調査旅行の記録でもあり、リプレイの一種として読むこともできます。調査旅行の参加メンバーの人間関係にもじつに奥深い設定があり、冒険の終章に至って判明する、ほろ苦い、届かぬ思いのごときもの、これがじつに唸らせられるものとなっておりますので、ぜひ期待してお待ちください」ということで、今しばしお待ちいただければと存じます。

●最近の関連ニュースを!

 「FT新聞」ではすでに、これくら!さんがNo.3971と3978で、ユーザーの立場から「ウォーハンマーRPGビギナーズハンドブック」を書かれており、第1回(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/501889942.html)では世界における冒険者としての立ち位置、第2回(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/501889954.html)では『ウォーハンマーRPG』のクラスやキャリアの詳細が記されており、よくまとまっているため、セッションにおけるサマリーとしても活用できそうです。
 『ウォーハンマーRPG』はFoundry VTTをはじめ、オンラインセッションツールを駆使すれば、かなりリッチな環境でオンラインセッシ曰くョンを楽しむことができ、SNSでは、そうしたセッションの光景をしばしば目にすることができます。
 しかし、オフラインもいいもの。公的な関連ニュースで外せないのは、2023年11月より、アシェットコレクション・ジャパンにて、週刊ウォーハンマーこと『ウォーハンマー40,000:IMPERIUM』の刊行が始まっていることでしょう。これは週刊分冊百科形式で、毎週、アーミーやペイントキット、解説記事をコレクションしていくというもの。『ウォーハンマー40,000』を比較的安価で始められるスグレモノで、私も定期購読していました。ファンタジーではなくSFがテーマの作品ではありますが、グリムダークな世界の色調は共通しています。
 なお、グリムダークとは、「残酷で暗い」SFやファンタジーを解説するための用語として英語圏では定着した感がありますが、もとは『ウォーハンマー40,000』発祥の言葉です。

●『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』が出たぞ!

 『ウォーハンマーRPG』ファンにとり外せないのは、『ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート』(ポール・デイヴィス著、傭兵ペンギン訳、ホビージャパン、以下『コンセプトアート』)が発売になったことでしょう。
 A4変形ハードカバー192頁フルカラーの豪華版ですが、コノスとDLsiteにて、PDF版の発売も開始されています。ヴィジュアル面については、公式サイトから試し読みをすることが可能です(https://hj-trpg.com/news/detail.html?id=1162
 すでに「Role&Roll」Vol.227の「Brand New Games」でも取り上げられているとおり、同作はCreative Assemblyが開発したPC戦略ゲーム『Total War:WAHAMMER』シリーズ三部作のコンセプトアートをまとめたものです。
 開発裏話やコンセプトの紹介、さらにはフルレンダリングされたアートは美麗で、『Toral War』のユーザーに向けたものですが、実質的には『ウォーハンマーRPG』のサプリメントと呼んでしかるべきものでしょう。
 なぜか? それは、オールド・ワールドで暮らす各種族やクリーチャーの実態が事細かに紹介されている以上に、有名NPCたちが見事にヴィジュアル化されているからですね。『ウォーハンマーRPG』に親しんだことのある方であれば、版を問わずに愉しめること、請け会いです。
 『ウォーハンマーRPG』は歴史のあるゲームですが、一方で、随時、関連作が展開され、変化というよりも細部の具体化が進められていく、そのようなタイトルにもなっています。
 この連載でも書いたことのある話ではありますが、展開が盛んなRPGでは、しばしば「More Rules, More Powers!」というスタンスが取られます。より強力なデータの提供をもって、サプリメントの購買動機とするものですね。
 私はそうしたスタイルを必ずしも否定するものではないのですが、パワーのインフレにはいつか限界が来て、抜本的なリセットがなされてしまい、その際のガッカリ感が半端ないものであることも知っています(笑)。
 加えてRPGに限らず『ウォーハンマー』は、ワールドワイドに展開されている作品であり、かつて揶揄されていたような「イギリス人のゲームだから、エルフがイギリスに準えて贔屓されている」なんていうイメージは、もはや程遠いものになっています。
 こうしたなか、今回の『コンセプトアート』は、これまで緻密な文章で表現されていた世界を、アートの角度から捉えるとこうなっていたんだ、と再発見できる喜びがあります。
 この際に痛感されるのが、ミニチュアとの連動の強みです。『ウォーハンマーRPG』は作品世界をとても大事にする作品で、フランチャイズ展開の際、イメージの統一性は慎重に保たれています。これは私自身が、2版の公式リプレイを「GAME JAPAN」誌で連載した際、強く実感したことでもあります。

●エンパイア

 それでは具体的に内容を見ていきましょう。序文に続くのは「エンパイア」、『ウォーハンマーRPG』の主たる部隊についてですね。
 ここでは皇帝カール・フランツ、金属の魔法体系を担う最高主席魔導師バルタザール・ゲルト、さらにはエンパイアのウィザード、トループ、ノーブル等のアートが掲載されています。
 カール・フランツはまさにスーパーヒーロー、バルタザール・ゲルトはなかに人がいることさえ定かではないようなミステリアスな雰囲気が出され、トループは“傾奇者”と形容すべきランツクネヒト(ドイツ傭兵)風か。
 グッと引き込まれますが、解説コメントも面白く、テクニカル・アート・ディレクターのクリス・ヴォラーによれば、都会の大きな建物と田舎の要素が対照的なエンパイアの背景をデザインするにあたり、「慎重に誇張するのが鍵となった」と述べているのが興味深いところ。人物を描くにあたっても、同様の配慮がなされていると語られています。
 建物のディティールについても、実際のスケッチを添えたうえで、鳩罠・物干し紐・屋根窓・煙突等まで作り込まれた複雑さを擁していることがわかるようになっています。
 また、『ウォーハンマーRPG』はスチームパンクの要素が盛り込まれており、上記で動く戦車スチームタンクのヴィジュアルも、ばっちり紹介されています。

●ドワーフ

 続いてドワーフです。中近世ヨーロッパ風のファンタジーでもっとも大事なものの一つが、「ドワーフがちゃんと書かれていること」でしょう。これはイメージの素となる神話や伝承に、直結する要素だからです。
 クリス・ヴォラーはミニチュアゲームのアーミーブック(背景資料)を読み込むとともに、それをビデオゲームに落とし込むうえで、ヴァイキングや中世初期のヴィジュアルを参照し、その要素を盛り込んでいます。
 やはり、ルーンはヴァイキング由来のようですね。スレイヤー(トロール殺し等)はケルトの戦士たちのファッションをもとにしているとのことです。
 ドワーフの髭の編み込みが幾パターンも示されるのは、ドワーフ・ファンにとってはたまらないものがありましょうが(笑)、ドワーフの基地や醸造所のデザインは、それこそトールキン『ホビットの冒険』や『指輪物語』の映像版からの影響も感じさせます。
 スチームパンク要素もばっちりで、ドワーフのジャイロコプター(蒸気ヘリ)や各種大砲のカラーコンセプトも示されていますよ。

 それでは次回はクリーチャー。グリーンスキン(ゴブリン類)やヴァンパイア・カウント等の設定も見ていくといたしましょう。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
ウォーハンマー オールド・ワールド コンセプトアート
 著者:ポール・デイヴィス
 翻訳:傭兵ペンギン
 定価:本体5,000円(税別)
 A4変形ハードカバー192頁フルカラー
 公式サイト
 https://hj-trpg.com/news/detail.html?id=1162

●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●

初出:「FT新聞」No.3991(2023年12月28日配信)