2023年05月25日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.16


 2023年4月6日の「FT新聞」No.3725で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ小説「カラメイコス放浪記」のVol.16が配信となりました。最終回です。皆さまご愛読ありがとうございました。


●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.16

 岡和田晃

●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●


●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は以前、独立した記事として紹介したCM3モジュール「悪魔の住む河」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/481129030.html)の設定を導入しています。バーリンが「ポリマス」だったというのは、『竜剣物語』からの影響もありますね。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498492899.html)。キャンペーン最終回「終結」の後半です。旧版のシステムで行われた20年以上前の冒険を再現するという「FT新聞」でしかなしえない企画でしたが、長きにわたるご愛読ありがとうございました。都度いただく感想に励まされました。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、9レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、10レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、9レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、8レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、10レベル。

「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のマスター。
シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
ステファン・カラメイコス/カラメイコス大公国の公爵。
ルートヴィヒ・「ブラックイーグル」・フォン・ヘンドリックス/公爵の邪悪な甥で、国を二分する戦争を仕掛けた張本人。
「ルルンの」ヨランダ/ブラック・イーグル男爵領の避難民にして、レジスタンス。
ヨブ/かつてパーティの一員だったファイター。故人。
プロスペル/かつてパーティの一員だったファイター。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。とかく信用ならない。
バーリン/ドワーフの国ロックホームの使者。実は、「ポリマス」と呼ばれる転生者。
ティアマット/5つ首のクロマティック・ドラゴン。キャンペーンの最終ボス。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。
ハラフ/トララダラ人の英雄で、イモータル(神)となった存在。
ペトラ、ジルチェフ/ハラフの仲間で、同じくイモータルとなった。
プファール/ヒュターカーンのイモータル。

●目覚め

 気がつくと一行は、コテージのような場所に寝かされていた。
 こっそりパーティの後を追ってきた「盗賊王」フレームフリッカーらが、麓で倒れている一行を発見し、介抱してくれたのである。
 フレームフリッカーはパーティに、情勢を簡単に説明する。
 ──ブラック・イーグル軍の猛攻により、すでにケルヴィンの防衛ラインは突破されてしまったのだ。
 今や、スレッショールドの手前で、最後の決戦のための大布陣が敷かれようとしているらしい。
 シャーレーン大司教は最終手段として「聖戦」の呪文を発令し、一般市民をも兵士として駆り出さざるをえなくなっているという。
 「生命の樹」の腐食が止まったとのことで、周辺の森に住むエルフたちも参戦してくれたが、それでも敵の猛攻の前には心許ない、とのことである。
 フレームフリッカーは続いて、タモトの手に握られている簡素な斧が何であるかを尋ねた。
 善良なドワーフは山の中で起こった出来事をつぶさに説明し、この斧こそが、バーリンの言う「予見」の力が結晶して生まれたものである、とのことを悟ったのであった。
 ジルチェフの姿はもうどこにも見えないけれども、この斧に込められている「予見」の力こそが、『エントロピー』を打破するために最も必要とされているものであることを、タモトは実感していたのである。
 一方、リアは8人の強面の男たちに囲まれていた。彼らは、フレームフリッカーとともにやってきた「盗賊の王国」の構成員たちであるが、この度フレームフリッカーの部下として働くよう、ギルドマスターに命令されたのである。 
 予想だにしなかった、「盗賊王」の粋な計らいに目を回したリアであったが、「親分」と呼んで慕ってくる男たちを前に、威厳を保とうと必死で努力するのだった。

●スレッショールドへの帰還

 インセンディアロスの炎によって、来るときに使ったフライングカーペットは焼けてしまっていたが、フレームフリッカーが連れてきたペガサスに乗り、一行はスレッショールドへの帰路についたのだった。
 途中、巨大なロック鳥とすれ違った。その羽根の所々が焼けただれていたのが、妙に気になるところだった。
 スレッショールドに到着すると、ステファン・カラメイコス三世、アリーナ・ハララン、インジフ、そしてエルンスト・ブロッホ(グレイのネクロマンシーの師匠)らが、次々とパーティを出迎えてくれた。
 彼らはパーティの労をねぎらい、暖かい言葉をかけてくれたのだった。
 アリーナは、グリフォン聖騎士団の精鋭たちの中にも、戦死した者が相次いだという事実を悲しげに語り、いよいよ今晩最後の戦いの火蓋が切って落とされるだろう、と一行に告げた。
 そしてステファン公は、アリーナの言葉を補完するかのように、「決戦のためにぜひ皆の力を貸してほしい」と頼んだ。
 一方、エルンストは愛弟子グレイに、「何があっても生き延び、究極のネクロマンシーの力を手に入れよ」、と告げた。
 そしてインジフは孫娘であるリアに、「もしこの争いが終わってスレッショールドが無事に存続したならば、お前がわしの後を継いで、「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスターとなるのだ」と、悲壮な面持ちで語ったのだった。
 インジフはリアを引き離し、「ギルドマスターの心得」を得々と語り続ける。
 その様子に、どことなく彼女は不審なものを感じた。と、人気がない場所に入り込むやいなや、相手はただちに正体を現した。
 そう、邪悪な魔術師バーグル・ジ・インファマスが、リアの祖父に「ポリモーフ」の呪文を使って化けていたのである。
 不意を付かれたリアは、「ディスインテグレイト」(粉砕)の呪文をまともに受けてしまった。
 しかし、リアは辛うじて呪文に抵抗し、続けざまに矢を放った。「ミラー・イメージ」で作っておいた残像をかき消されたバーグルは、形勢不利と悟り、再び「テレポート」で逃げ出した。

●戦場にて

 カラメイコス軍とブラック・イーグル軍が、正面からぶつかり合った。いよいよ、双方の総力を結集した最終決戦が始まったのだ。
 一行は、以前テレスサール野の戦いにおいて行ったように、本隊から離れ、遊撃隊として直接敵の指揮部隊を叩く役回りとなった。
 トロールやオーガー、オークどもからなる部隊と、決死のカラメイコスの兵士たちが激突する。
 一行は側面から忍び寄り、軍隊を指揮している、ブラック・イーグル男爵ならびにその親衛隊と思われる面々に向かって、突撃をかけた。
 大規模戦闘に役立つ「ヴィクトリィ・ロッド」(勝利のロッド)を振りかざして、戦意を鼓舞するルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクスの行く手を、前回の冒険で入手した「ヴィクトリィ・ロッド」を構えて立ちふさがるタモト。
 二つのロッドは共鳴し合ったかと思うと、次の瞬間激しい音をたてて爆発した。
 しかし、爆風に圧倒されることもなく、親衛隊はランスを構えてこちらに向かってくる。
 どうやら、防御が薄そうなスペルキャスター陣に狙いをつけているようだ。
 けれども、間一髪で詠唱が間に合った「アース・クエイク」(大地鳴動)の呪文をまともに受けて、親衛隊のほとんどは地面に空いたクレバスの中に呑み込まれていったのだった。
 そして、残りの面々は、リア、シャーヴィリー、グレイの力によって、次々と打ち倒されていった。

●狂乱のバーリン

 一方、ブラック・イーグル男爵とタモトとの戦いは、白熱さの度合いを増していた。
 と、脇腹に激しい一撃を受けてよろめいたタモトをカバーするべく、後方に控えていたバーリンも戦いに加わった。
 「予見」の斧を手にしたタモトと、「ポリマス」であるところのバーリンを相手にしては、さすがのブラック・イーグルも形勢不利である。
 タモトの打撃で吹き飛ばされた次の瞬間、バーリンのバトルアックス+4が唸り、次の瞬間、男爵の首は宙を舞っていた。
 しかし、ブラック・イーグルの身体から、奇妙な煙のようなものが立ちのぼると、すぐさまバーリンを取り巻いた。
 そう、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵にとどめをさしたバーリンは、「リーンカーネーション」の呪文をかけられ、ブラック・イーグルの身体に乗り移っていた怒り狂える「ヒュターカーン」のイモータルこと「プファール」に、肉体と精神を乗っ取られてしまったのである。
 狂乱したバーリンは、そのままタモトに襲いかかった。
 しかし、渾身の一撃がかわされると、そのまま溢れ立つ破壊衝動を抑えることができず、バーリンは向きを変えて、戦場の混乱の渦中に自ら飛び込んでいったのだった。

●ティアマット

 その時だった。戦場を暗い影が覆った。
 破壊と流血に誘われたのか、はたまたバーグル・ジ・インファマスらの悪しき力に惹かれたのか、いよいよクロマティック・ドラゴンの女王ティアマットが、ブラック・ピーク山脈の住処を離れ、この場所へとやってきたのである。
 5つの首からそれぞれ違ったブレスを吐き、戦場を阿鼻叫喚の渦へと変えている……。
 いや、5つではない、6つだ。シャーヴィリーは、ドラゴンの首が1つ増えていることに気がついた。
 そう、かの緑竜ヴァーディリスもティアマットの身体に取り込まれ、クロマティックドラゴンの身体を形成する一部分となり下がってしまったのである!
 加えて驚くべき事が起こった。
 ドラゴンの姿を見て、狂乱したバーリンは格好の獲物を見つけたとの様子で飛びかかり、その脚に組み付いたのである。
 腹にドワーフの斧をたたき込まれて、ますますいきり立つティアマット。
 パーティは顔を見合わせて頷くと、クロマティックドラゴンの侵攻を阻むべく、立ちふさがった。
 グレイが「エアリアルアンカー」(風の精霊の鈎)を投げつけてドラゴンの動きを止め、ドラゴンのブレスを「予見」の斧の力で時間を止めることでかわし、シャーヴィリーの「ヘイスト」の呪文によって強化されたタモトが、ドラゴンの急所に「予見」の斧を二度叩き込んだ。
 「予見」の力によって、『エントロピー』の象徴であるクロマティックドラゴンは浄化され、霧のように消えていった。
 だが、その隙を狙って、忽然と姿を現したバーグル・ジ・インファマスが、お得意の「ディスインテグレイト」を、新たな「武器」の力に恐れをなしているタモトに向かって唱えたのだった。
 けれども、パーティの気迫の前には、バーグルの魔法など、もはや脅威たりえなかった。
 「ディスインテグレイト」は、タモトの生命力をいささかも傷つけることなくかき消え、失意のバーグルは十八番の「テレポート」でまたもや逃げ去ったのだった。

●解放されたイモータル

 ティアマットの死体が消えて行くのと同時に、そこから発したまばゆい光が、戦場全体を包み込んだ。
 光は上空の一点へと収束していった。そして、巨大な人間の形を取った。
 最前列で敵の部隊と闘っていたステファン公は、突然現れた光の正体を悟った。
 イモータルにして、トララダラ人の救世主である、ハラフ王が再びこの地に甦ったのである。
 イモータルの威光を前にしてたじろいだブラック・イーグル軍は、次々と戦意を失い、敗走していった。
 カラメイコス軍は、辛くも勝利をおさめたのである。
 続いて、バーリンの身体、カラーリー・エルフが持参してきた「生命の樹」の実、そしてタモトの「予見の斧」からも、同じように光が発し、上空で人の形をとった。
 ハラフ、ジルチェフ、プファールらのイモータルが、再びこの地に甦ったのである。
 彼らは、その場にいた皆に向かって、
 「戦乱は終わりを告げた、ここカラメイコスの地において、古来から不和と軋轢の原因となっていた『エントロピー(死)』の力は、封ぜられた」と厳かに告げた。
 イモータルらは、「ポリマス」であるバーリン、そして一行の活躍によって、ロキが、この地に『エントロピー』の力を持ち込み、陰謀を仕組んでいたのだということを知ったのである。
 ステファン・カラメイコス三世とアリーナ・ハラランは、その場の人々を代表してイモータルらに、自らの意志を伝えた。
 その言葉を傾聴したイモータルらは、カラメイコスの地の復興に手を貸すことを約束した。
 ハラフとプファールらは土地の復興を手助けし、ペトラは人々に安寧をもたらし、そしてジルチェフは外敵から国を守ることを約束したのである。
 「ポリマス」のバーリンは亡き者となっていたが、プファールの力でまたどこかで転生し、新たな生を得ることになるだろう、とも。

●その後

 もはや語るべきことは多くない。
 ブラック・イーグルの軍勢は破れ、ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵は死んだ。
 王都スペキュラルムを初め、男爵領に支配されていた地域は次々と解放され、もとのように平和な暮らしを送ることができるようになった。
 スレッショールドにおいても、「聖戦」発令によって精力を使い果たしたシャーレーン大司教の痛ましい死、影の部分から街を統率していた盗賊ギルドの崩壊によって、いささかの混乱をきたしたものの──再び、大公国の要所としての、復興の兆しを見せ始めている。
 そして、『エントロピー』の力を阻止するという、当面の目的を果たしたタモト、リア、ジーン、グレイ、シャーヴィリー、「ルルンの」ヨランダの6人は、よく話し合った結果、今度は各自、自分たちの道を歩んでいくことに決めたのだった。
 「予見の斧」をはじめ様々なアーティファクトに翻弄され、疲れてしまったタモトは、公爵から渡されたなけなしの金を手に、故郷の村へと帰っていった。
 リアは、亡き父親や祖父の後を継ぎ、「盗賊の王国」のスレッショールド支部長となった。今では、「盗賊王」フレームフリッカーのよき片腕となっている。
 ジーンとシャーヴィリーは平和な暮らしに飽きたらず──神殿やエルフたちの懇願を振り切って──ステファン・カラメイコス公のジアティス時代の義兄弟であるエリコール王が治める、ノルウォルドの地に出向くことに決めた。エリコール王の側近として、フロスト・ジャイアントの軍勢と闘いながら未開の地を切り開くという、刺激的な人生を送ろうと決意したのだ。
 共に魔法帝国グラントリでネクロマンシーの道を究めようという師エルンストの誘いを振り切ったグレイも──独自の道で力を追求するため──戦いを生き残った父オーガン将軍とともに、ノルウォルドの地へと向かった。
 パーティと分かれ、戦いに身を投じていたプロスペルは、ケルヴィン陥落の際に、トロールの棍棒からオーガン将軍をかばい、命を落としていた。
 「ルルンの」ヨランダはヨブの墓を見舞った後、しばし、故郷ルルンの復興活動に携わった。
 後に、海を越えて、南のミンロサッド・ギルドへと渡っていった。一説では海賊になったとも言われているが、事の次第は定かではない。
 ──ひょっとすると、恋人ヨブが命を落すこととなったその元凶である、シャドウ・エルフらの行方を探しているのかもしれないが、それはまた別の話である。

posted by AGS at 10:56| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする