『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.15
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回は以前、独立した記事として紹介したCM3モジュール「悪魔の住む河」(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/481129030.html)の設定を導入しています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/498492467.html)。キャンペーン第14話「ナイトシェイド」の後半と、キャンペーン最終回「終結」の前半となり、過去の伏線が次々と回収されていきます。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、8レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、9レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、8レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、8レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、9レベル。
シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
オーガン将軍/グレイの父。「常勝将軍」と言われるが、かつてパーティと敵対した。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。とかく信用ならない。
バーリン/ドワーフの国ロックホームの使者。実は……。
ゴネリル、リーガン、コーディリア/邪悪な魔女三姉妹。
インセンディアロス/ヒュージ・レッドドラゴン。
「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマン/イラルアム首長国連邦のデルヴィーシュ。
バリムーア/36レベルのマジックユーザー。自らを高位のアンデッド、リッチと化した。
オパール・ドラゴン/中立のドラゴン。
●大公国軍の敗走
スレッショールドへ戻った一行は、大司教に事情を説明した。シャーレーンは神妙な面持ちで頷き、ブラック・ピーク山脈を指差した。
そう、「ヴォイド」は、すさまじい勢いで広がり、その大きさは遠くからでも容易にうかがえた。
しかも、たたみかけるように悪い知らせが続く。
大公国軍が劣勢で、ケルヴィンが陥落するのも時間の問題だという。
進退窮まったパーティは、オーガン将軍の「ギアス」を解いてもらって、少しでも戦争を好転させようと考えた。
だが、バーグルの魔力はさすがに強かった。シャーレーン大司教の唱えた渾身の「ディスペル・マジック」でも、完全には魔法を解くことがかなわなかった。
かくなるうえは、自分たちが戦争に赴き、カラメイコス軍に協力するしかないのだろうか?
●ポリマス
そのとき、大司教の傍らに座っていたドワーフが立ち上がった。
なんとそこには、あの、ロックホームからの使者ことバーリンがいたのである。
彼はおもむろに、「おまえたちはおまえたちでしかできないことを為すべきだ」と一行に告げた。
アルタンテーペ山脈に眠る「ジルチェフの溶鉱炉」へ行き、『エントロピー(死)』の領域によって毒された四つの「武器」――すなわち「オルトニットの滅びの槍」、「ペトラの嘆きのメイス」、「オーケンシールドの欺きの斧」、「ヒュターカーンの虚無の剣」――を鍛造し直し、新たな「予見」の力を作り出さねばならないのだ。
なぜ、このドワーフはそのような事情を知っているのだろう?
怪しむ一行に、バーリンは自分の正体を話した。
そう、彼は「ポリマス」なのだ。
――あらゆる冒険者はイモータル(不死者、神)になることを夢見る。そして、それには信じられないほど莫大な労力がかかる。
「ポリマス」は、別名「転生者」と呼ばれ、「物質の領域」を通って、イモータルに近づく道のことである。
ポリマスは、一つの「アーティファクト(イモータルが作った宝)」を求めて、3回のさらなる人生で成功をおさめなければならない。
ひとたびアーティファクトを手に入れるや否や、その記憶や経験は剥奪され、新たな人格に転生する。
そして、ふたたびアーティファクトを求める旅に出るのだ――
バーリンは、失われたアーティファクトを探し求めるうちに、アルタンテーペ山脈の地下に、ハラフの仲間であったイモータル、ジルチェフが封じられているのを知った。彼は「エントロピーが広がるのをことさら嘆いた。
そして、エントロピーを打破する手段は、「予見」の可能性に見出すしかないということを、バーリンに語ったのだった。
●スレッショールド出発
ブラック・イーグル男爵の軍勢が、ここスレッショールドまで攻め上ってくる日も近い。
パーティは、バーリンを仲間に加え、急いでアルタンテーペ山脈へと向かうことにした。
しかし、肝心の移動手段が確保できない。
スレッショールドに残っていた軍馬のほとんどが、すでに戦いのために出払ってしまっていたということもあるが、それよりも必要なのは、馬よりも早く移動できる交通手段だった。
シャーレーン大司教は意を決し、教会の奥、秘蔵の宝物庫を開放し、来るべき困難の時に備え、一行に分け与えた。
その量なんと、サプリメント『マーベラスマジック』より12個分という大盤振る舞いである!
思いもかけない後続支援に勇気づけられた一行は、宝物庫から手に入れた「フライングカーペット」を使い、バーリンとともに「ペトラの溶鉱炉」へと向かった。
しかし、不安もあいまってか、その光景は必ずしも美しいものではなかった……。
ジーンがアーマークラス(防御力)を改善させるために身に付けた「ヘアネスハット」(髪が異常なほど伸びる代わりに、アーマークラスと寒さ、電光などへの耐性がつく)が、観るものに畏怖の念をもたらしたからである。
●イラルアム兵との遭遇
途中、遭遇したフライングヒドラ二体をやすやすと撃退した一行。
だが、その後、パーティは恐るべき光景を目にしたのであった。
それは、セレニカから、デュークス・ロード砦を経由する街道を抜けて押し寄せる、イラルアム首長国連邦の傭兵軍の姿であった。
パーティは、「砂漠のウズラ」アラディンの言葉を思い出した。
おそらく、この軍隊は、ブラック・イーグル男爵の軍勢と共謀して、カラメイコス大公国軍を挟撃するつもりなのだろう。
しかし、シャーヴィリーが奏でる「チャーミングハープ」(集団に「チャーム」の魔法をかけられる魔法の楽器)の強力な効果により、なんとか、彼らがカラメイコス大公国に侵入するのを阻止することに成功した。
●三人の老婆
アルタンテーペ山脈の麓にたどり着いたパーティだったが、目指す「ジルチェフの溶鉱炉」へは、どのようにしたら入り込めるのか。
バーリンが言うには、「溶鉱炉」に近づくためには、二つの道のりがあるという。
それは、外の目から隠されている正面の入り口から入る方法と、山頂に空いたカルデラの中から侵入する方法だ。
しかし、正面の出入口は危険だという。
というのも、以前バーリンが山の内部の洞窟へと入り、ジルチェフの居場所を調べて脱出したした際、こちらの出入口を使って逃げ出したからだ。
おそらく、侵入者が舞い戻ってくるのに備えて、邪悪な存在によって飼い慣らされているジャイアントの大群が、その場所を守護していることであろう、と……。
一行はしばし迷うが、山頂へと向かうことに決めた。
パーティが険しい山道で歩を進めていくと、眼前に三人の醜い老婆が姿を現した。
彼女らはそれぞれ、ゴネリル・リーガン・コーディリアと名乗り、侵入者たちに死が訪れると不吉な予言を残し、消え去った。
●インセンディアロス
老婆どもを観て、バーリンの表情がこわばった。
というのも、以前侵入した際に、彼はジルチェフを閉じ込めている張本人が、この老婆三姉妹であることを知ったからである。
敵にこちらの居場所が知られてしまった!?
躊躇する暇もなく、猛スピードで巨大なレッドドラゴンが飛来してきたではないか。
三姉妹が呼び出したレッドドラゴン、インセンディアロスである!
彼女のブレスにより、たちまちパーティの半分が戦闘不能となってしまった。しかしながら、決死の一行は全勢力を振り絞って、この凶悪な大長蛇を退治した。
しばし休息した後、一行はふたたび山を登り始めた。
そして、上空を飛び回っていた、インセンディアロスの子ども(スモール・レッドドラゴン)を確保撃破し、巣のなかに眠っていた莫大な量の宝を手に入れることができたのだった。
●カルデラの底は
ドラゴンの巣に眠っていた宝の中に、「クライミングロープ」(自在に上り下りが可能になるロープ)を発見した一行は、渡りに船と、さっそく山の中へ降りていった。
そして、はじめに見えた張り出し口を東に進んでいった。
その先に待ち受けていたポルターガイスト三体を退治し、そのねぐらでまたもや大量の宝を手に入れると、据え付けられていた魔法のポールで下の階へと降りていった。
部屋中に撒き散らされた死体に紛れ込んでいたリベンナントの不意打ちを受け、「フィンガー・オブ・デス」の呪文を食らい、危うくグレイが死にかける。
だが、以前、「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマンから渡された「プロテクションスカラベ」が身代わりとなって砕け散り、辛うじて一命を取り留めることができたのであった。
●ヘリオンたちの話
その後、キャリオン・クローラーが密集している通路をからくも回避したパーティは、二番目のポールを降りた。
バーリンによれば、その先にはマグマだまりが広がっており、そこに「ジルチェフの溶鉱炉」があるとのことだった。
しかし、見たところ、「溶鉱炉」の周りには、何体ものヘリオン、エフリーテ、フレイムサラマンダーが渦巻いて、何やら儀式らしきものを繰り広げており、一筋縄ではいきそうにない。
一計を案じたパーティは、タモトとバーリンに「ポーション・オブ・エレメンタルフォーム」(エレメンタル変化のポーション)を飲ませ、ファイアー・エレメンタルに変身させて、ヘリオンと交渉させようと考えた。
マジックアイテムを使い、万一の時は、すぐさま一行のもとに戻れるよう、安全のための処置も予断なく行った。
だが、誤算があった。近づいてみるとわかったのだが、ヘリオンたちを指揮していたのは、三人の老婆と、髑髏姿の魔術師だったのである。
そう、黒幕であるゴネリル・リーガン・コーディリアと、「生命の樹」を狙う邪悪なリッチ、「バリムーア」が待ち受けていたのである。
タモトとバーリンは、敵に見つからないように注意しながら、ヘリオンに話しかけた。
そして、ヘリオンの一人から、悪しきものたちによってジルチェフが溶鉱炉から追放され、別の場所に幽閉されたこと、その結果、溶鉱炉の源泉となっていたドラゴン・ルーラー「オパール・ドラゴン」がもうじき目覚めそうだ、という情報を得られた。
溶鉱炉やマグマの正体は、封印されていたこのドラゴンの力を利用したものだったのである。
つまり悪しき者たちはオパール・ドラゴンの力を自らのものにするべく、守護者であったヘリオンたちを操って、地下深くから、その主人を呼び寄せようとしていたのであった。
●逃走
だが、幸運はいつまでも続くものではない。長々と話していたため、バリムーアに不審がられてしまったのである。
二人はとりあえず、ここは一旦退却し、閉じこめられているジルチェフのもとへと向かうことにした。
バリムーアが放った「メテオ・スウォーム」(魔流星)の呪文をかわしつつ、来た道を戻るパーティ。
最初の張り出しを反対方向に進み、今にもファイアーエレメンタル・プレーンからプライム・プレーン(物質界)へ実体化して現れようとしている巨大なファイアー・エレメンタルを避けた。
また、次の部屋で「インビジビリティー」の呪文をパーマネンス(永久化)されているゴルゴンたちの不意打ちを受けて、あえなくジーンが石化しかかり、ひとときも休むヒマがない。
ゴルゴンの部屋から続く長い階段をかけ登っていくと、ようやく巨大な部屋に到着した。と、部屋に入ると、途端に外に透明なハンマーの渦が現れ、パーティの退路を遮断した。
●ジルチェフ解放
部屋の中には、等間隔に並んだ石像が10体安置されていた。
奥には、幅の広い、台座らしきものが見える。
石像にはそれぞれ、古代トラルダー語で、碑名のようなものが刻まれていた。
順番に、「無限なるもの」、「無限なるものの意識」、「実在性」、「神性」、「思考」、「自然」、「予見」、「反省」、「思弁」、「知」の十個。
どうやら、この中から三つの石像を選んで順番に並べ、台座の上へと押し上げなければならないようだ。
一行は熟考した末、これまで入手した四つの武器を連想させる語(「無限なるものの意識」=時間、「実在性」=物質、「自然」=エネルギー、「思考」)を候補から除き、続いて、<イモータル>や悪しき力を連想させる語(「無限なるもの」、「神性」、「知」)を候補から除外した。
そして、残った「予見」、「反省」、「思弁」の三つの語句を正解の候補とし……。
「過去」→「未来」←「現在」
――と見合うように、
石像を「反省」、「予見」、「思弁」の順番に並べて、台座の上に押し上げたのだった。
すると、まばゆい光が煌めいた。
あまりの神々しさに一行は発狂せんばかりの恐怖を味わったが、ただちにそれが邪悪な存在によるものではないことに気がついた。
ジルチェフの封印が解かれたのである。ジルチェフはただちに一行の考えを読みとると、そのまま、ヘリオンたちのいた場所まで一行をテレポートした。
溶岩の中から、目をみはるほど巨大なドラゴンが現れた。パーティの目の前で、大きく口を開けている。
チャンスは今しかない、とのバーリンの叫びを受けて、一行は事の次第を理解した。このオパール・ドラゴンこそが、ジルチェフの溶鉱炉なのだ!
ニュートラル(中立)のドラゴンは、それを操る者によって、ローフル(秩序)にも、ケイオティック(混沌)にも変わりうるのだ。
一行は、手持ちの武器を次々とドラゴンの口中に放り込んだ。
危うく失敗しかけたものの、タモトの手にあった「ドラッグ・ネット」(引き寄せの網)や、リアの矢を使って、無事全てを投入することに成功したのだった。
辺りが激しく揺れた。マグマが吹き上がる。
侵入者を撃退しようと、バリムーアらがドラゴンを暴走させてしまったのだ。
オパール・ドラゴンのブレスがパーティを焼き尽くさんとする、まさにその瞬間、解放されたジルチェフが、一行をテレポートさせた!