2023年02月08日

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.13

 2023年1月12日の「FT新聞」No..3641に、クラシックD&Dのリプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.13が掲載されています。首都スペキュラルムが陥落し、パーティは選択を迫られます。


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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.13

 岡和田晃

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●はじめに

 本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回はカラメイコス大公国の秘めた歴史に迫りますが、名作モジュール『ナイツ・ダーク・テラー』やリプレイ『ミスタラ黙示録』の影響が色濃いですね。
 前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/495480305.html)。キャンペーン第12話「大伽藍」の前半となります。PCの離脱も増え、DM側が複数のルートを示したうえで、パーティがどこを選んだのか、その軌跡がよくわかります。

●登場人物紹介

タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、7レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、8レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、7レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、7レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、8レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、8レベル。

インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。
シャーレーン大司教/スレッショールドの領主。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリクス男爵/別名「ブラック・イーグル」。ステファン・カラメイコス公爵のいとこで、内戦を画策している。
ステファン・カラメイコス3世/カラメイコス大公国の支配者、首都スペキュラルムの領主。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。今回は意外なことに……。
ヴァーディリス/グリーン・ドラゴン。
ゴルサー/獣人族ヒュターカーンを操っている存在。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。
プファール/ヒュターカーンが崇めるイモータル。
グリ・ベン・カール/ヒュターカーンの隠れ谷に住む古代人「トラルダー」のリーダー。

●スレッショールドへの帰還

 戦いに疲れたパーティはスレッショールドへと戻り、シャーレーン大司教に事の次第を報告することにした。
 というのも、今や彼らの手の内には4つの「武器」のうち――「槍」は折れたままだとしても――3つまでが揃ってしまったからである。
 「武器」は集まると危険だ。しかし、無造作に放置してしまえば、ただならぬ事態に繋がってしまうのは間違いない。
 アリーナたち「グリフォン聖騎士団」に事後処理を任せ、パーティは戦場を後にした。

●スペキュラルム陥落

 スレッショールドへの道中には、さしたる難事もなかった。
 大司教に面会し、事の次第を報告した一行は、その返答として、彼らがいない間に街で沸き上がっていた騒動――「アイアン・リング」の内通者によるもの――をインジフとフレームフリッカーがいかに解決したかを教えてもらった。
 にもかかわらず、依然として大司教の見通しは暗いようだ。
 それもそのはず、ルートヴィヒ「ブラック・イーグル」フォン・ヘンドリクス男爵の手によって、王都スペキュラルムが陥落したとの知らせが届いたのである!
 公爵ステファン・カラメイコス3世率いる大公国軍は、ケルヴィン以南に後退し、そこに戦線を敷くことに決めたのだという。
 パーティはどうするべきかを逡巡した。
 今から南下して、「ブラック・イーグル」を打倒すべきではないのか、との思いが頭を離れなかったのだ。

●プロスペルとの別れ

 そのとき、プロスペルが会議室に入ってきた。
 戦乱の報を受け、自分はケルヴィンに向かい、父の手助けをするつもりだと告げた。
 プロスペルの悲壮な決意を見て取った一行には、もはや留め立てするすべはなかった。
 大司教の了承を得た彼は、「短い間だったが楽しかったよ」とパーティに告げ、すぐさま旅支度を始めたのだった……。

●「武器」をどうするか?

 プロスペルの決断によって、パーティの進むべき道は自ずから決まった。
 だが、はからずも集まってしまった「武器」をどう処理すべきか。
 シャーレーンの記憶に残っていた伝承とパーティが集めた知識を総合して考えると、『剣』は、四つのうちで最も強力な存在である。
――『剣』に属する、第四の「力」とは、「思考」である。すべての存在を分類し、他のあらゆる領域をその道具とする「思考」こそが、神(イモータル)の本質である――
 その『剣』に対抗するだけの力を得るためには、たとえ危険を伴うものだとしても、残り三つの力が必要となるだろう。
 まして、相手は「エントロピー」に毒されてしまっているのだから、なおさらだ。
 というわけで、とりあえず「武器」はパーティ手元に保管されることとなった。

●ジーンの錯乱?

 そのとき、ジーンの心に、何かが呼びかけてきた。破壊衝動が全身を駆けめぐる。
 指令は、どうやら背負い袋の中にある「ペトラの嘆きのメイス」から発せられているらしい。
 いつもは飄々としたジーンも、さすがにこの事態には戸惑いを隠せない。
 だが、「今はまだその時ではない」と『メイス』に言い聞かせ、辛うじて自制心を保ったのだった。

●ブラック・ピーク山脈への再出発

 スレッショールドを後にした一行は、ノールの集落へ向かい、族長のクラスガットに案内させ、ゴルサーの住む場所へと連れていってもらうことにした。
 だが、世の中うまくはいかない。
 ノールたちはゴルサーと鉢合わせするのを非常に恐れていたので、フォームファイア峡谷の途中にある巨大な滝までパーティを導くと、尻尾を巻いて退散してしまった。
 ごうごうと激しい水しぶきを立てて流れる滝の傍らには、暗いトンネルの入り口が見える。
 そして、そこは滝の上に続く古代の道へと繋がっているようだ。
 なかに入り、侵入者の気配を嗅ぎつけて寄ってきたオーカー・ジェリー、ブラック・プディング、タランテラなどを撃退すると、彼らは一路、中の螺旋階段をかけ上った。

●待ち伏せ

 出口付近には、2体のアイアン・ゴーレムが待ち伏せていた。
 しかも、その背後からは、4体のオーガーが弓を撃ってくるではないか。
 さてはゴルサーが、一行がやってきたことを察知し、手下を使って攻撃を仕掛けてきたのか?
 パーティは多少苦戦したものの敵を撃破し、山道を奥深くへと分け入っていった……。

●バーグル・ジ・インファマス襲来!

 山の小道は崩れたところもあれば、ところどころ落石があったり狭くなったりしているところもあって、なかなか進んでいくのに時間がかかる。
 気がつけば、もう日も暮れかけていた。
 軽く休憩をとった一行がふと空を見上げると、ワイヴァーンがこちらへと近寄ってくるのに気がついた。そして、その背中には人影らしき者がうかがえる。
 飛竜はものすごい勢いでこちらに向かってくる。乗っているのは、バーグル・ジ・インファマスだった。迎撃の姿勢をとる一行。
 すぐさまグレイが、「ワンド・オブ・パワー」のチャージを使用し、「ファイアーボール」を投射する。
 だが、今回は相手も用意周到だった。こんなこともあろうかと、バーグルは「スペルターニング・リング」をはめたうえ、あらかじめ自分に「ミラー・イメージ」をかけておいたのである。
 当然ながら、「ファイアーボール」は使い手のもとへと跳ね返った。
 なんとか直撃は免れたものの、パーティは大打撃を被った。

●バーグルの提案

 だが、不思議とバーグルは何もしてこなかった。
 ワイヴァーンに乗って一行の頭上をぐるぐると旋回しているだけなのだ。
 その代わり、パーティのもとに、彼の声だけが届けられた。「べントリロキズム」(腹話術)の呪文である。
 それによれば、どうやら彼はパーティに攻撃をする意図はなく、話し合うための機会を持ちたがっているとのことだ。
 半信半疑の一行に対して、彼は自らの心中を語りはじめた。

●ゴルサーの陰謀

 バーグルが言うところによれば、今、一番危険なのはゴルサーだという。
 というのも、彼はイモータル(神)である「ロキ」の誘いにのって、ヒュターカーンたちの信仰する「プファール」を復活させようと企んでいるからである。
 ヒュターカーンというのは、「ハラフ王の詩」に登場する、獣人たちの末裔のこと。
 彼らは伝説上の存在ではなく、このブラック・ピーク山脈の隠れ谷に居を設け、ひっそりと暮らしていたのだった。
 だが、ゴルサーはヒュターカーンの渓谷に眠る『剣』に目をつけ、口車で獣人たちを騙し、自らの計画のための手先として使っているのだという。
 プファールは邪悪な神として悪名高い。
 もしそれが甦れば、現在大公国で起こっている戦乱とは比べようもないほど激しい、まさしく未曾有の危機が訪れることだろう。
 そして、ゴルサーの計画を打ち破るためには、一行の力が必要不可欠だというのだ。
 彼らが有している『武器』の力が。

●ストーン・ジャイアントとの奇妙な問答

 しかし、今までバーグルのおかげで惨憺たる目に遭ってきた一行は、簡単には信用しない。
 バーグルは一晩の猶予を与えると言い放ち、ワイヴァーンに乗り、去っていった。
 パーティはあれこれと考えるが、埒があかない。仕方がないので、目の前の谷を越えることにした。
 ここには、かつて橋がかかっていたような跡があったが、ずっと昔に崩れてしまっており、向こう側に渡るためには一度峡谷の底に降りて、そこからまた這い上がって行かねばならないようだ。
 とりあえず身軽なリアが呪文で透明化し、様子を探ることになった。
 すると、底には暗い洞穴があり、なかにはストーン・ジャイアントとケイブ・ベアーが住んでいるのがわかった。
 進退窮まるとはこのことだが、時間がない。
 一行はジャイアントに事情を説明し、通行許可をもらおうとした。
 頭の構造が人間と異なるジャイアントとの交渉はなかなか辛いものがあったものの、ゴルサーに対する利害が一致したため、無事通してもらうことができた。

●バーグルとの協定

 ようやくヒュターカーンの隠れ谷への入り口が見えてきた。
 道は険しい斜面の橋で急に途絶え、その向こうには、岩壁が先の道を塞いでしまっている。
 壁には二つの大きな門があるが、そこに続いていたはずの橋梁は、遙か昔に崩れてしまっていた。
 一行は内部にどう潜入するか頭を悩ませていると、案の定バーグルが戻ってきた。
 結局、彼らはこの魔術師と今回に限って手を結ぶことにした。
 というのもバーグルが、ゴルサーの背後には緑竜ヴァーディリスがついていることをほのめかしたからである。
 ヴァーディリス! 確かに危険な存在だ。
 パーティは、二人の魔術師の間に何があったのかを心中邪推しつつも、彼の申し出を受けたのである。
 一行はバーグルからドラゴンコントロール・ポーションの強化版を受け取った。
 そして、いつでも彼とコンタクトがとれるよう「伝達の太矢」を手渡すと、自らはスペキュラルム軍との決着をつけるべく、ワイヴァーンで去っていった。

●鬼の居ぬ間に

 バーグルが去って間もなく、隠れ谷の方から巨大なドラゴンが飛び立つのが見えた。
 緑竜ヴァーディリスだ!
 どこへいくのかはわからないが、入るのは今のうちだ。
 彼らは急いで崖をのぼり、石の門をゆっくりと押し開けた。
 その向こうには、四方を険しい山に囲まれた広い谷が靄のなかに広がっていた。
 ここまで辿ってきた道と同様に、これら古代の遺物の栄光は、とうの昔に消え去ってしまっていた。
 底に沿って続いている小道の石は草に覆われ、脇には朽ちた建物が建ち並んでいる。
 ――死のような静寂が支配している。

●死の谷

 あてもなく進んでいくパーティの前に、3体のマンティコアが現れた。
 難なく退治したのはいいものの、他にも危険が潜んでいるかもしれない。
 彼らはとりあえず廃屋の一つの中で休息をとった。
 夜中に侵入してきたディスプレイサー・ビーストを撃退し、翌朝。
 谷全体は思いのほか広い。そこに、小規模の集落の廃墟が点々としているのだ。いくつか、森のようなものも見受けられる。
 彼方には、うっすらと神殿の伽藍のようなものが見えた――あの中にゴルサーがいるに違いない!
 一行はいきりたち、すぐさまそちらに向かうことにした。

●トラルダー救出

 途中、彼らは太鼓の音を耳にした。
 この谷にも、廃れていない集落があるのか!
 警戒しながら音のした方へ赴くと、ジャッカルの頭をした獣人、ヒュターカーンが祭りのようなものを繰り広げていた。
 皓々と燃える篝火の前には、生け贄の人間たちが数人くくりつけられている。
 これは見過ごせない。パーティは、彼らを救出することにした。
 戦闘自体は、あっけなく済んだ。
 人間たちのリーダーであるグリ・ベン・カールの言うところによると、彼らは「トラルダー」であって、ヒュターカーンとの戦いに敗れたことから、捕虜にされてしまっていたらしい。
 ちなみに「トラルダー」とは、今カラメイコス大公国に住んでいるトララダラ人たちの祖先である。
 彼らのうち文明化による「堕落」を拒んだ者たちが、こうして山の中で静かに暮らしていたのだ。
 絶えず、獣人たちと戦いを繰り広げながらも……。

posted by AGS at 17:39| 【連載】カラメイコス放浪記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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