2022年12月5日配信の「FT新聞」No.3613に、『ダンジョンズ& ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.12が掲載されています。今回はアラインメント論争(?)が展開されますね。
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.12
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/494816801.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第11話「腐爛」の後半となります。今回からは、クラシックD&Dの隠れた重要概念である「エントロピー」も言及されます。訳語を充てるならば「衰退」ですが、音訳だとSF的なマルチプレーンの概念ともリンクするものとわかりますね。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
ヨブ/死亡していたはずが、アベンジャーとなっていた戦士。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
ジョン・セルター/グリフォン聖騎士団員だが、行方不明。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
イリアナ・ペンハリゴン/ペンハリゴン家の領土と爵位を要求した女性。
バーグル・ジ・インファマス/魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。やられてなお罠を仕掛け……。
ロキ/『エントロピー(死)』の領域に属する「イモータル(神)」。
●泥沼の戦況
かつての恋人を目の前にして、ヨランダが剣を振るう手は鈍る。
その隙を突くかのように、イリアナが、メイスの魔力で彼女の前へとワープし、ヨブと二人で挟み撃ちにしてくる。
が、頬を涙で濡らしながらも、さすがはヨランダ。
抜群の観察力で、ヨブの顔色が、ゾンビのように生気が失せているのに気がついた。
目の前にいるのはヨブではない、と自らに言い聞かせ、果敢に反撃を挑む。
残る面々も、ただひたすらに反撃を仕掛け、戦局はまさしく泥沼と相成った。
イリアナはリアの起死回生の射撃をまともに喉に受け、そのまま息絶えた。
ヨブも、ヨランダとジーン、そしてシャーヴィリーの三人を相手にして、長くはもたなかった。
ヨランダの剣の一閃が、ヨブに三度目の死を与えた。残るは、首領格のアベンジャー、ただ一人である。
●対決
アベンジャーは、最後に自分だけが残されたことに気づくと、乾いた笑い声を上げ、兜を外した。
その下から現れた素顔は、なんと、あの聖騎士ジョン・セルターの姿だった。
かつては緑竜ヴァーディリスと単身相まみえたほどの男が、なぜやすやすと悪(イーヴィル)の軍門に下ったのか……。
ヨブの時にも増して、一行は疑問と絶望感が入り交じる、やりきれない感情に包まれた。
すると、彼は今まで使っていた剣を投げ捨て、代わりに『槍』を手に取り、高らかに吼えた。
タモトの斧やイリアナのメイスと並ぶ、『オルトニットの滅びの槍』である。
――緊張が走る。
『斧』を手にしたタモトが『槍』を持つ騎士に挑戦すべく、ゆっくりと進み出た。
●哀れな仔山羊
一方、バーグルが残した空飛ぶ宝石は、ゆらゆらとパーティのもとにまで近づいてきた。
不吉なものを感じた一行は、グレイの「ウェブ」で宝石を絡めとった。
そのうえで、シャーヴィリーが持つ「トリック・アニマル・パック」から呼び出した山羊に、宝石を調べに行かせた。
おっかなびっくり山羊が近づいていったその瞬間、轟音とともに宝石が爆発した。
――マジックユーザーの7レベル呪文、「ディレイド・ブラスト・ファイアーボール」(遅発する火の球)である。
戦場に、哀れな骸がまた一つ増えたのだった……。
●『オルトニットの滅びの槍』の秘密
騎士とドワーフ。真っ向から対峙しているのは奇妙な取り合わせだ。
二人が構える槍と斧が、戦場に降りしきる雨を受け、鈍色に輝いている。
そして、血の臭い。
勝負は一瞬で決まる。誰もがそう思った。
両者は、間を取りながら、お互いを懐かしむように語り合っている。
ジョン・セルターは、グリフォン聖騎士団員からアベンジャーに身を落とした経緯を語った。
返す刀で、タモトは彼の過ちを、自らの力に溺れ滅んでいった過去の騎士たちになぞらえて諭そうとした。
ジョン・セルターがグリフォン聖騎士団を追われたのは、緑竜ヴァーディリスに一騎打ちを挑んだものの、形勢不利だと悟るや、命惜しさに逃げ出したからだ……という話がお定まりだった。
しかし、セルター自身の弁によれば、それは「槍自身が戦うことを拒否した」からにほかならない。
それを聞いてタモトは、ロスト・ドリームの湖の底に記されていた、槍の性質を思い出した。
――『槍』に属する、第一の「力」とは、「物質」である。それは破壊に耐え、不変と安定を象徴する。ローフルの性格とファイターのクラスに属し、「時間」 と敵対し、「思考」に秩序を与える。また、それは「大地」から力を得る――
では、なぜ『槍』が戦うことを拒否したのだろうか?
それは、『槍』の力が、「エントロピー(死)」によって、歪められてしまっていたからである。
結果、『槍』が属している「物質」の概念が変容し、その力がケイオティック(混沌)なものとなってしまっていた。
パラディン(聖騎士)であるセルターが、『槍』の真の力を引き出せなかった理由は、まさしくここにこそあった。
『槍』は緑竜にはまるで役に立たず、ドラゴンのブレスから身を守るどころか、その威力を何倍にも増幅し、彼に跳ね返した。
絶望したセルターは『槍』、ひいては全てが信じられなくなった。
彼は、はじめて自らの力を疑った。
そうして、幾重も懐疑を重ねたあげく、『槍』の真の力を引き出すためには、パラディンであってはいけないという認識に至った。
『槍』の潜在力を生かし切るには、混沌に身を委ね、アベンジャーの道を究めねばならないと悟ったのである。
ローフルの道もケイオティックの道も、方向性こそ違えども、大局的に見れば同じ――セルターは、そう認識しつつ、さらにその先をも見据えていた。
自分がアベンジャーの道を究め、イモータル(神)にも匹敵する力を得れば、そのとき初めて、「エントロピー(死)」を作り出したイモータルである「ロキ」の力を打ち破ることができる。
『槍』の力をねじ曲げた「エントロピー(死)」さえ破壊すれば、歪んだものの全てが正しき道へと回帰する。
そして、自分ももとのパラディンに戻ることができる。
――セルターは、そこまで考えていたのだ。
●疑問
けれども、タモトはセルターの話を聞いても釈然としなかった。
何かが足りないのだ。
我々は皆イモータル(神)の操り人形にすぎない、という主張も、ローフルもケイオティックも根は同じという考え方も、アベンジャーとして起こした罪は、後になってゆっくりと償えばいいという楽観主義も、まあ理解できなくはない。
しかし、タモトにはセルターが、どうも楽な道に逃げてしまったようにしか見えなかった。
なぜかはわからない。だが、彼の主張には賛同できないのだ。
戦う理由としては、それだけで十分だろう。
●破砕
アベンジャーが『槍』を構えて、すさまじいスピードで突撃をかけてきた。
タモトは、真っ正面からそれを受け止め、力を逆用しつつアベンジャーを馬から叩き落とそうとした。
が、槍の一撃は思いのほか強く、ドワーフの小さな身体では耐えられそうになかった。
衝撃のあまり、タモトは反撃する機会を待たずに気絶してしまった。
そのとき、『斧』から、まばゆいばかりの光がほとばしり、巨大な透明の楯となって、タモトを包み込んだ。「フォースフィールド」である。
「エネルギー」の領域に属する、『ジルチェフの欺きの斧』の秘められた力が発動したのだ。
『槍』は、「フォースフィールド」を破りきれず、真っ二つに折れてはじけ飛んだ。
●結末
『槍』が破壊された時点で、勝負は決まったようなものだった。アベンジャーは、自らの選んだ道が間違っていたことを、心の底から思い知らされた。
彼は天に向かって高らかと慟哭した。
そして、よろよろと放り投げた大剣の側にまで歩み寄った。
彼が何をしようとしているのかを察したシャーヴィリーが止めに入ろうとするが……ヨランダが無言で制止した。
かくして、ジョン・セルターは自刎し、その苦悩に満ちた生涯の幕を下ろしたのだった。
●その後
指揮官がいなければ、所詮モンスターどもは烏合の衆。
たちまち、「グリフォン聖騎士団」の猛攻を受け、散り散りになって敗走していった。
アリーナ・ハラランが一行のもとを訪れ、ねぎらいの言葉をかけた。
彼女は、ことの顛末を聴いてさめざめと涙し、哀れな騎士の魂が救われることを切に祈った。
一方、ジーンは戦場にめぼしいものがないか探し回っていた。「スピーク・ウィズ・ザ・デッド」の呪文でイリアナ・ペンハリゴンの霊を呼び出し、有用な情報を得ようとすらしていた。
失敗して、さんざん罵詈雑言を浴びせられたりもしたが、そんなことでジーンはめげない。
そう、今や彼の左手には、『ペトラの嘆きのメイス』が握られているのだから……。
2022年12月30日
2022年12月14日
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.11
2022年11月17日配信の「FT新聞」No.3585に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.11が掲載されています。セービング・スローに強いはずのドワーフが石になり……そして現れたアベンジャーの正体は!?
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.11
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/492760331.html?1668560922)をどうぞ。今回はキャンペーン第11話「腐爛」の前半となります。このあたりからコンパニオンルールセットを本格導入していますね。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
ヨブ/ロスト・ドリームの島で死亡していた戦士。しかし……。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。故人。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
イリアナ・ペンハリゴン/ペンハリゴン家の領土と爵位を要求している。
バーグル・ジ・インファマス/邪悪なブラック・イーグル男爵の片腕たる魔術師で、盗賊ギルド「アイアン・リング」の首領。
※2022年10月20日配信の「FT新聞」No.3557のVol.10でのヨブのプロフィールは間違いで、今回のプロフィールに同じです。お詫びして訂正します。アーカイブでは修正済みです。
●敗走
ブラック・ピーク山脈へノールどもを掃討に出かけた一行だったが、そこで突然出現したビホルダーによって、パーティ半壊の憂き目にあってしまった。
おまけに、頼みの綱のタモトは、ビホルダーの眼突起から発せられた「フレッシュ・トゥ・ストーン」の光線をまともに浴びて、全身が石と化してしまっていた。
さすがというべきか、『欺きの斧』には埃一つついていないのだが、使い手がいなければどうにもならない。
不利を悟った一行は、とりあえず「エフリーテ・ボトル」から呼び出したエフリーテを楯にして、戦場から撤退することにした。
●再準備
スレッショールドの街に戻ったパーティは、とりあえずシャーレーン大司教の住む、ターンズ砦へと向かった。
そこで彼らは、高額の喜捨を行って、大司教の側近のマジックユーザーにタモトの石化を解いてもらった。
ついでに、彼らは大司教にことの次第を告げ、見事報酬を釣り上げることに成功した。
その前金で、彼らは回復のスクロールやちょっとしたマジックアイテムを買い集め、再度ブラック・ピーク山脈に向かった。
途中聞いた話では、スレッショールドはインジフの起こした抗争で荒れているとのことだったが、一行が到着したときには沈静化していた。きっと、フレームフリッカーが迅速に事後処理を行っているのだろう。
●洞窟にて
パーティは、前回の轍を避けるべく、慎重に山道を行軍していった。
ノールの領域にさしかかると、警戒を強め、見張りのトログロダイトどもを打ち倒すと、敵の本拠地と思われる洞窟の中に潜入した。
洞窟を奥へ奥へと進んでいく。即死罠をいくつも乗り越え、無事、奪われた「スタッフ・オブ・パワー」を回収した。
いよいよ親玉と対決が待っている。
●計略
かび臭い洞窟の奥深くでビホルダーは傷を癒すのに専念していた。
しかし、予想外に修復には時間がかかった。本来ならば10本あるはずの眼突起が、7本しか戻っていなかったのだ。
ビホルダーは来るべき敵襲に備え、ちょっとした計略を練った……。
――ビホルダーのいる場所に足を踏み入れたパーティは驚愕した。
なんと、ビホルダーが2体いるのだ!
そのうち、前にいるほうがニヤニヤ笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる。
思わずあとずさりする。だが、ひるんではいられない。
攻撃を仕掛けると、突然、目の前のビホルダーが爆発した!
ビホルダーによく似た爆発生物、「ブラストポア」である!!
そしてその隙をついて、もう一体のビホルダー、そして配下のマンスコーピオン、ジャイアント・スコーピオン4体、ノール25体が襲いかかってきた。
●背後の陰謀
決着はあっけなく着いた。
グレイが手にした「スタッフ・オブ・パワー」を用いて使った「アイス・ストーム」が思いのほか強力だったせいもあるが、再戦にかける一行の意気込みが、敵のそれとは比較にならなかったことが決定的な要因であろう。
ビホルダーが援軍として呼びつけたモンスターたちも、ものの数ではなかった。
リーダー格のマンスコーピオンなぞは、「チャーム」に抵抗しきれずに、パーティのためにせっせと回復呪文を使わされる始末。
その様子を見て、生き残ったノールどもはあっけなく降伏してしまった。
ノールの族長クラスガットが言うには、彼らはいやいやビホルダーのために働かされていたのだという。
ビホルダーを呼び出したのは、山頂近くに居を構えている、「ゴルサー」という男の仕業らしい。
ゴルサー! その名を聴いて一行は慄然とした。
最初の冒険にて、タモトの斧が眠っていた洞窟を支配していた魔術師の名である。フレームフリッカーらが教えてくれた、ブラック・ピーク山脈に眠る『伝説の剣』と、ゴルサーとが無関係だということは考えにくい。
だが、深追いは禁物である。
パーティはここで手に入れた宝をもとに体制を立て直すべく、再度、スレッショールドに戻ることにした。道中、激しい地震に何度となく見舞われた。間違いない。何かが起こりつつあるのだ。
●テネスサール野へ
スレッショールドに戻った一行を、青ざめた顔をしたシャーレーン大司教が出迎えた。彼は、事態をかいつまんで説明する。
それによると、リアの兄、マレクを殺害したのは「アイアン・リング」の一派であり、スレッショールド内に拠点を作って、モンスターどもを招き入れるための手引きをしていた、とのこと。
しかも、そのモンスターどもはイリアナ・ペンハリゴンという女戦士に率いられているらしい。
イリアナ! 『ペトラの嘆きのメイス』を持つ女である。因縁浅からぬ相手だ。
しかも、彼女がスレッショールドに攻撃を仕掛けてきたというのだ。
次々と明らかになる陰謀の数々に、もつれ合った糸をふりほどくための場所が、垣間見えたような錯覚すら覚える。
大司教の説明によると、「グリフォン聖騎士団」の活躍によって、街中のモンスターは撃破された。
しかし、イリアナはスレッショールド近くの、テネスサール野という場所に砦を構えており、今度は正面から突撃してくる気配である。
「グリフォン聖騎士団」が迎撃に向かっているが、応じきれるかどうかは定かではない。
パーティはシャーレーン大司教の要請を受けて、息着く間もなく、テネスサール野へ向かった。
●作戦
「グリフォン聖騎士団」の団長、アリーナ・ハラランは、憔悴した様子で一行を歓迎した。
彼女が戦況を説明する。
現在のところ、双方ともに小康状態に入っているのだが、いつ戦闘が再開してもおかしくない緊迫した状態となっている。
敵軍は主に、オーク、オーガー、ヒル・ジャイアントから成っている。
本来ならば、これらのモンスターは乱暴な気質ゆえに、あまり統制がとれていないものなのだが、敵の指揮官であるアベンジャー(復讐者)の力で、その弱点を克服し、実に組織だった攻撃をかけてくるのである。
アリーナはそこで提案する。
もうすぐ、再び両軍が激突することになるだろう。その際、一行は遊撃隊として、指揮官であるアベンジャーらを直接攻撃してほしい、というのだ。
危険な任務だが、もし成功すれば、戦況を一気に覆すほどの、多大な効果が得られるだろう。彼らは命を受け、一路戦場へと向かった。
●再会
戦闘は再開された。至る所で怒号が巻き起こり、血しぶきが舞っている。パーティはそれを後目に、指揮官を探す。
と、それらしき、四人組を発見した。
全員が、バーディング(馬用の鎧)をつけたウォー・ホースにまたがっている。
そのうち一人は紛れもない、イリアナ・ペンハリゴンである。
傍らには、黒いローブに身を包んだ男が寄り添っている。以前とはだいぶ容貌が異なっているが、バーグル・ザ・インファマスだ。
一度ヨブに肉体を破壊されたものの、「マジック・ジャー」の呪文で魂を別の場所に移しておいて、別の身体に乗り移ったようだ。
そしてその背後には、全身を鎧(フル・プレート)で包んだ二人の男がじっと戦場を眺めている。あれがアベンジャーか。
一行はさまざまな手を駆使して、無事、軍隊が交戦している場所より、彼らを引き離すことに成功した。
だが、それとて彼らがパーティを脅威だと認識してのこと。ただちにバーグルは「ファイアーボール」の詠唱に入り、アベンジャー二人は巨大な剣を抜いて距離を詰めてくる。
が、対するパーティも黙ってはいない。すぐさま、グレイが「ヘイスト」をかけ、次に「アイス・ストーム」を4人に向けて放つ。
リアやジーンも負けてはいない。エルブン・ボウやスリングで、もっとも「危険」なバーグルを射倒しようとする。集中攻撃を喰らったバーグルは、たちまち瀕死の重体を負ってしまった。
慌ててイリアナが「キュア・オール」での治療を行うが、すっかり怖じ気づいたバーグルは、仲間を見捨て、「テレポート」の呪文で逃れ去ってしまった。
だが、彼がいた場所に、突如、宙に浮かぶ奇妙な宝石のような物体が現れ、一行に向かってゆっくりと進んできた。
一方、アベンジャー二人を迎撃したタモトとヨランダは、相手の力量があまりにも強大なことに驚きを隠せなかった。
加勢に入ったシャーヴィリーの「マジック・ミサイル」が、アベンジャーの顔面に命中し、その衝撃で兜の目庇が吹き飛んだ。
そこから現れたアベンジャーの素顔は、なんとヨブのものだった。
パーティは目を疑ったが、間違いない。
ロスト・ドリームの湖で散っていったはずの、ヨブその人だ。