2022年10月20日配信の「FT新聞」No.3557に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説「カラメイコス放浪記」Vol.10が掲載されています。今回はいよいよ、GAZ2『イラルアム首長国連邦』の設定が入り、凶悪無比な「あの」D&Dオリジナルモンスターと対峙します!
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ小説 「カラメイコス放浪記」Vol.10
岡和田晃
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●はじめに
本不定期連載は、岡和田晃が過去にプレイした、クラシックD&Dキャンペーンの小説風プレイリポート(リプレイ小説)で、新和版・メディアワークス版・未訳資料ほか各種の情報を参照し、都度、シナリオの下敷きにしています。今回はGAZ2『イラルアム首長国連邦』の設定も導入しています。
前回の内容はこちら(https://analoggamestudies.seesaa.net/article/491279639.html)をどうぞ。今回はキャンペーン第10話「ビホルダー」)の内容となります。
●登場人物紹介
タモト/『ジルチェフの欺きの斧』を持つドワーフ、6レベル。
ジーン/カラメイコス国教会所属のクレリック、7レベル。
グレイ/ブラック・イーグル男爵領出身のマジックユーザー、6レベル。
シャーヴィリー/カラーリー・エルフ、6レベル。
リア/ギルド「盗賊の王国」に所属するシーフ、7レベル。
プロスペル/ケルヴィンの貴族の息子。ファイター、7レベル。
インジフ/リアの祖父。元「盗賊の王国」スレッショールド支部のギルドマスター。
マレク/リアの兄。故人。
「ルルンの」ヨランダ/対ブラック・イーグル男爵のレジスタンス。
ルートヴィヒ・フォン・ヘンドリックス男爵/邪悪きわまりない貴族。通称「ブラック・イーグル」。
占い師アルヤ/謎めいた美貌の占い師。正体は「盗賊王」フレームフリッカー。
「盗賊王」フレームフリッカー/ギルド「盗賊の王国」のギルドマスター。
アリーナ・ハララン/グリフォン騎士団員。スレッショールドの街を治めるシャーレーン大司教の姪。
シャーレーン大司教/スレッショールドの街の統治者。
ゴルサー/謎の魔法使い。
「砂漠のウズラ」アラディン・アル・スレイマン/イラルアム首長国連邦のデルヴィーシュ。
●殺人事件
スレッショールドで起こった殺人事件に戸惑うパーティ。
しかも被害者はリアの兄、マレクである。
慌てて現場に駆けつけた一行が目撃したものは、見るも無惨に引き裂かれた肉片の山だった。
それを見たインジフは、好々爺の仮面を脱ぎ捨てた。
かつてスレッショールドの裏社会を取り仕切っていた頃に戻ったかのような猛々しい様子で、真相の徹底的な究明にかかることを宣言したのだ。
あまりの剣幕に、取りつくしまもない。
●アラディンとの出会い
一方、「鉤と十字亭」に残っていたメンバーは、奇妙な人物との出会いを果たした。
ターバンを巻き、ぼろぼろになったローブを着込んだ初老の男が話しかけてきたのだ。
彼は、自分が「砂漠のウズラ」、アラディン・アル・スレイマンと名乗った。
砂漠の国イラルアム首長国連邦から、占い師アルヤを尋ねるためはるばる旅してきたらしい。
●イラルアム首長国連邦とは
イラルアムでは、アル・カリムという伝説的英雄が興した一神教、「エターナル・トゥルース」が奉じられている。
信者は「ナーメー」という教典に記された厳格な教えに従って生きる。
彼らは、イラルアムの地を再び牧草が生い茂り、水が空気のように豊かに湧き出る地とするために、まさしく全力を傾注しているのだ。
そしてアラディンは、「ナーメー」の生き方のみを自らの範とし、砂漠で孤独な修行の日々を送ることを旨とする「デルヴィーシュ」と呼ばれる特別な職についているのである。
だが、自ら「砂漠のウズラ」(ウズラは歌が上手な人の意)と称するだけあって、アラディンはなかなかに弁舌巧みである。
詩人ドワーフであるタモトも負けていられない。
二人は「歌合わせ」で詩人としての力を競うことにする。
結果は……。見事、タモトが勝利した。
朗詠があまりにも見事だったので、立ち聞きしていたスペキュラルムの文学サークルの面々からお誘いがかかるほどだった。
その後、彼らはアラディンをアルヤ(フレームフリッカー)に引き合わせようとしたけれども、彼女の姿はいずこかへ消えてしまっていた。
そこで、イラルアム人はこの宿で一夜を明かすこととなった。
●次の日
晩になっても、インジフは「鉤と十字」亭に戻ってこなかった。
代わりに現れたのは、スペキュラルムで密偵をやっているはずの、リアの長兄ダニエルだった。
本人は語らないが、どうやら祖父の呼び出しを受けたらしい。
不穏な雰囲気が立ちこめる。
翌日。起きて食事に向かった一行を待ち受けていたのは、楽しげに話を交わしているアラディンとフレームフリッカーだった。
いつの間に戻ってきたのか。
彼女は、自分たちのテーブルに一行を招いた。
話の内容が、パーティが関わってきた冒険に関係あるらしい。
●アラディンの来訪目的
アラディンは静かに語り始めた。
それによると、彼が国を離れ、フレームフリッカーを尋ねた理由は2つあるという。
1つは、彼の氏族が守護していた「生命の樹」が原因のわからないまま枯れ始めるという事件の、打開策を探さねばならなくなったため。
もう1つは、「フォート・ドゥーム」のブラック・イーグル男爵と名乗る男が、ひそかにイラルアムの首長連に、カラメイコス大公国に攻め込むための手引きを行っていることを、報告するためである。
彼の口から発せられた「生命の樹」という言葉に、パーティは動揺を隠せない。
そこで、パーティはこれまでの冒険を包み隠さず話したうえで、ロスト・ドリームの森に住むカラーリー・エルフを訪れるべきだとアラディンに勧めることにした。
イラルアム人は頷き、「ナーメー」を引用して礼を言った。
「自分はこれからそのエルフに会いにいかねばならない」、と。
「君たちの行く手は死のごとき暗闇に包まれている」と付け加え、多少の手助けにでもなればと、首から下げていた「プロテクションスカラベ」(一定回数の呪いや「フィンガーオブデス」を吸収するアイテム。ただし、「デススペル」には効果がない)を手渡した。
●シャーレーン大司教との会合
宿を後にするアラディンの後ろ姿を眺めつつ、一行はどう行動すべきかを相談し合った。
決定事項はこうである。
ヨランダの提案を受け入れ、まずはシャーレーン大司教と面会して、ステファン・カラメイコス公から預かった書面を渡し、スレッショールドへの難民受け入れを要請しなければならない。
それが終われば、ブラック・ピーク山脈に眠っているという伝説の武器を魔術師ゴルサーが入手してしまう事態を阻止することが急務となっている。
パーティはシャーレーン・ハララン大司教の住む、ターンズ砦へと向かった。
今日はターンズ砦の警備を任されていたアーソル軍曹に挨拶し、大司教に取り次いでもらう。
パーティは、シャーレーン大司教の厳格そうな様子にたじろぎながら難民受け入れの話を持ち出したのだが、相手は拍子抜けするくらいあっさりと了解してくれた。
娘であるアリーナ・ハラランから一行の活躍を聴いていたからだろう。
が、大司教は駆け引きというものを心得てもいる。
交換条件として、パーティブラック・ピーク山脈にあるフォームファイア峡谷に救うノールどもを掃討するという使命を負わされることとなってしまった。
ただ、彼らはもともとブラック・ピーク山脈へと向かう途中だったから、このクエストは渡りに船だった。
●フォームファイア峡谷へ
砦を離れ、「鉤と十字」亭に向かったパーティ。
その途中、なぜか町中で暴れている熊に出くわしたり、スリに間違えられたりとひと騒動あったのだが、無事、一行は再会を果たした。
その足で、フォームファイア峡谷へと通じる道を歩いていく。
殺人事件も心配だが、そちらの方は、海千山千のインジフとフレームフリッカーに任せることにしておいた。
峡谷はなかなか険しく、旅慣れた彼らにとっても決して楽な道程ではなかった。
ノールに襲撃された冒険者の遺骸を片づけ、先へ先へと進んでいくと、急に辺りが濃い霧に包まれてきた。
ほとんど前が見渡せない。
そのうえ、怪しげな旋律が響き渡ってきた。ノールどもが現れたのだ。
だが、経験を積んだ彼らにはノールごときは敵ではない。
順調に掃討していく。
しかし、その背後には、もっと恐ろしいものが控えていた。
●目玉の暴君
空中に浮遊する巨大な球状のモンスター。
頂部には先端に目の付いた10本の突起が映えており、体の正面には大きな主眼がある。
開かれた口は、体全体のおよそ半分を占めており、鋭い牙が間断なく生えている。
「多眼の球魔」と畏れられる伝説のモンスター、「ビホルダー」が、その姿を現したのだ!!
ビホルダーは非常に高い知性を有している。
魔力によるゆっくりとした飛行で移動するうえ、正面の主眼は常に「アンチマジック・レイ」を放っており、敵の魔力を無効化する。
さらに、眼突起はそれぞれ、「チャーム・パーソン」、「チャーム・モンスター」、「スリープ」、「テレキネシス」(念動力)、「フレッシュ・トゥ・ストーン」(石化)、「コーズ・フィアー」(恐怖付与)、「スロー」(減速)、「キュア・シリアス・ウーンズ」(重症治癒)、「デススペル」(死の呪文)の呪文を同時に放つことができる。
まさしく悪夢の到来だ。
あまりの事態に愕然とする一行。
必死で応戦するも、「テレキネシス」の呪文で、頼りにしていたグレイの「スタッフ・オブ・パワー」は奪われてしまうし、リアやヨランダは「チャーム」されてしまう。
それでも必死でエフリーテを呼び出して援軍とし、眼突起のほとんどを切り取ることに成功した。
しかし、ビホルダーも負けてはいない。
眼突起から放たれた「フレッシュ・トゥ・ストーン」の光線が、ドワーフの鋼の抵抗力を貫き、タモトを石に変えてしまったのだ!