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『ウォーハンマーRPG』を愉しもう! Vol.20
岡和田晃
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−−ここはチーズ店に潜入するのが良さそうだ。
そう決めたのは、魔狩人の嗅覚に由来する。
「味がよいことで評判のチーズ店だそうだが、混沌の臭いがするんだ」
と、フレイザーは鼻をひくつかせる。
まさに動物的な勘というほかなく、わたしは呆れた。
けれども、すぐに考え直した。魔狩人の経験に信頼を置くのも悪くなさそうだ。
彼らははた迷惑だけれども、常に前線で混沌と戦っているのは事実だから……。
−−魔女レジーナが書き遺した手記「ありえざる遭遇」の章より
●えっ、3冊もシナリオが出版!?
2022年3月、『ウォーハンマーRPG』第4版のシナリオ集が、3冊発売になります!
−−ええと、にわかには信じられないかもしれませんね。
大事なことなので、もう一度言います。
2022年3月、『ウォーハンマーRPG』第4版のシナリオ集が、3冊発売になります!
かつて本連載で、RPGのシナリオというものは、ゲームマスターしか買わないものとみなされがちで、それゆえに商品としては苦戦しがちだということを書きました。
けれども、シナリオが充実しなければ、そのRPGの普及は難しいものがあります。
卵が先か、ニワトリが先か。
こうしたダブル・バインドに、送り手側であるプロのクリエイターはもとより、受け手側であるユーザーも、しばしば泣かされてきたのが現状です。
RPGの王道はDIY精神でシナリオを自作していくことなのですが、さりとて無から有を生み出すことはできません。
そこには素材やお手本が必要です。
優れたシナリオは、ユーザーがその世界設定で思いつく数歩先の風景を見せてくれ、「このシナリオを実際に回して(運用して)、どのような展開が起きるかを体験してみたい」という希望を惹起するものです。
読むだけでも愉しいのですが、実際に回してみたくなる。それがRPGシナリオの1つの理想なのではないでしょうか。
そして、今回発売される3冊は、いずれも「読んで面白く、回して2度愉しい」条件を満たした作品になっていると、太鼓判を押しておきます。
●各シナリオ集の概要
3月に発売されるのは、以下の3冊となります
・『眠れぬ夜と息つけぬ昼 ウォーハンマーRPG キャンペーン・シナリオ』(待兼音二郎・見田航介・阿利浜秀明・岡和田晃・田井陽平訳)
・『ユーベルスライク冒険集 ウォーハンマーRPG』(白石瑞穂・傭兵ペンギン・吉川悠訳、岡和田晃・待兼音二郎翻訳協力)
・『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』(岡和田晃・田井陽平・見田航介・阿利浜秀明・待兼音二郎訳)
このうち、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』は、本連載の前回でも言及した、初版時代から『ウォーハンマーRPG』に関わる名匠グレアム・デイビスの手になる作品集(シナリオ5本)で、タイムテーブルやマルチプロットが駆使された複雑で、オペラ座などスケールの大きな冒険を楽しめます。
新しい種族であるノームに、酒場でのゲームについての追加ルールもあり。著名な『ウォーハンマー・ノベル』でおなじみのあの人も、出てくるかもしれません。全96ページ。
『ユーベルスライク冒険集』は『ウォーハンマーRPG スターターセット』で紹介されていた街ユーベルスライクとその近郊を舞台にしたシナリオ6本を集成したもの。
うち5本は英語では独立にPDF販売されていたもので、好評のため、新しいシナリオ1本を加え、単行本として印刷されたもの。キャンペーンや既存の設定に、どううまく噛ませるかという調整案もついています。全128ページ。
これらは両方とも、印刷版と電子書籍版の双方の刊行が予定されています。
印刷版は3月28日頃に刊行される手筈で、ホビージャパンの公式サイトやAmazon.co.jpなどの通販サイト、アナログゲーム専門店での予約も、すでに開始されています。
形態としては書籍ですが、流通は玩具流通なので、書店ではなくゲームショップにアクセスすることを忘れないでくださいね。
●『ライクランド綺譚』詳細
対して3冊目の『ライクランド綺譚』は電子書籍(PDF形式)のみが刊行され、すでにコノスからダウンロード購入することができます。
基本、今回出る3冊に収められたシナリオは、内容面ではいずれも甲乙つけ難く、どの作品からプレイしていただいてもかまわないのですが……。
−−いきなり3冊出て面食らったという人は、『ライクランド綺譚』から入っていただくのがいいかなと私は思います。
まず、値段が廉価。シナリオ5本で1200円+税ですから、なんと1本264円ポッキリ。
次に、分量も全36ページと、さほど負担になるほどではありません。シナリオの長さとしても、1回のセッションで終わる短めの話が収められています。
本作は、同じPDFサプリメントとしてすでに刊行されている『ライクランドの建築』ともリンクする内容で、収録されたロケーションがシナリオとして肉付けが施されています。
『ライクランド綺譚』単体でも十分にプレイは可能ですが、『ライクランドの建築』があれば、いっそう興趣が増すことでしょう。
●収録シナリオの舞台
それでは、核心に触れない程度に、『ライクランド綺譚』の収録作を見ていきましょう。収録タイトルの次にあるのは、『ライクランドの建築』で言及された箇所のことを指しております。
・「溺れるなら共に」;ハーツクライン閘門と、閘門管理人住宅を使用;ヴァイスブルック運河を航行するパーティが奇怪な現象に遭遇し、その謎を解く羽目になる。
・「包囲されし宿」;〈飛びかかるペガサス〉亭の地図を使用;魔狩人とその弁舌に熱狂する者らが、混沌がいるのだとパーティの泊まっている宿屋を包囲する。
・「ヴァーレン神殿包囲戦」;ヴァーレン神殿の地図を使用;ビーストマンの襲撃を受けた村。ビーストマンのリーダーと村の要人には思わぬ関係があるらしい。
・「執着は身を滅ぼす」;ヘルベート・ハルツァートの"ひと味違う"チーズ店;謎のチーズを食べてしまった者らが、次々と奇怪な現象に見舞われる。背後には思わぬ輩が!
・「狼の皮を被った羊」;リンブルク農場;農場に長く留まり続け、もてなしを要求するお客をなんとかしてほしいと、冒険者たちが依頼されるが……。
各シナリオは6〜7ページほどの分量で無駄なく書かれており、シナリオ自作にあたっても、書式の参考になるでしょう。
必要なデータはNPCや敵のものを含め、すべて完備されていますので、コンパクトながらも、そのまま問題なくプレイできるようになっていますから安心です。
●どういうシチュエーション?
テストプレイの際には、『ウォーハンマーRPG スターターセット』収録のサンプル・キャラクターでプレイしましたが、バランス面も含め、快適にプレイすることができました。
『スターターセット』所収のシナリオ「巡回奇譚」は、あくまでもキャンペーンゲームなので、単発のシナリオをプレイしてみたい場合、そちらではなく、『ライクランド綺譚』収録のものを利用するのも一興でしょう。
コンベンションにはちょうどよい分量ですし、PDFなので、オンライン対応もばっちりです。
1本は2〜3時間ほどでプレイできるため、時間に余裕のある集まりならば、2本連続のゲーム・セッションというのも可能です。
ただ、頭からプレイしていく必要はないので、シチュエーションが気に入ったものを運用してみるといいでしょう。
河川民がプレイヤー側にいるならば、「溺れるなら共に」。
コテコテの魔狩人を出したいのであれば、「包囲されし宿」。
ビーストマンをめぐる葛藤を演出したいのなら、「ヴァーレン神殿包囲戦」。
食べ物をめぐるドタバタ悲喜劇を体感してもらいたいなら、「執着は身を滅ぼす」。
農場での居候と丁々発止のロールプレイをさせたいのなら、「狼の皮を被った羊」。
シナリオの傾向としては、ただ単に力押しをしても駄目で、知恵を駆使して状況を切り抜けることが求められます。
●ユーザーの声
前回でも触れましたが、このあたりのプレイ感覚は、『クトゥルフ神話TRPG』にも通じるところがあるでしょう。
実際に購入されたユーザーからも、そのような声をいただいております。
私のもとへ直に届いた感想を、いくつか紹介いたしましょう。
・丹澤悠一さん
『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』ざっと目を通す。これいいな。WFRPはキャンペーンやってるけど、コンベンションで回せるような単発シナリオは書いたことないので参考になる! 単発で遊んで盛り上がったらそのままキャンペーンにしちゃうのもアリよね。
『ライクランド綺譚 ウォーハンマーRPG 単発シナリオ集』読んで改めて思うのは、WFRPってホラーやミステリー風のシナリオがめっちゃ遊びやすいシステムなんだなぁ。特に単発セッションでは、無理にバトルのバランス取るより、CoCライクなシナリオ作るほうが向いているのかもしれないと思った。
・鋼の旅団さん
シナリオ→スターター→キャンペーンシナリオ→他、多数のシナリオという完璧な順序!
当然、これから期待を寄せるサプリはたくさんあるけれど、まずユーザーが遊ばないと、そもそも始まらないですからね。
できるだけたくさんセッションをする中で少しでも初心者を巻き込むことが、狂信者の使命だな。
・唐島米津さん
「墓穴掘るならご勝手に」いい訳だなぁ(*´ω`*)
(私家訳で「これがお前の葬式よ!」ってしてた)
(なおレイクランド奇譚収録の「執着は身を滅ぼす」の私家訳タイトルは「激ヤバ☆チーズ」でした。センスないなぁ(><))
岡和田的には「激ヤバ☆チーズ」は大ヒットです!(笑)
ちなみに、ここで唐島さんが言われた『墓穴掘るならご勝手に』とは、『ウォーハンマーRPG』日本語版公式サイトでPDFオンリーの刊行が予告されたシナリオのことを指します。
シナリオ構造としては、『眠れぬ夜と息つけぬ昼』と同じグレアム・デイビスの手になるマルチプロット、タイムテーブルが導入された作品となります。
『ライクランドの記念碑』は、設定+シナリオソース集で、いずれも着想がぶっ飛んでいて、読んで損はありません。これらは編集の伏見義行さんが訳し、私と待兼音二郎さんが、監修で入りました。詳しい内容は、刊行後にまた紹介していければと考えています。
『ウォーハンマーRPG』には、勢いがあります!
この春は、まずもって『ライクランド綺譚』で、オールド・ワールドの息吹に、ぜひ触れてみてください。
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『ウォーハンマーRPG』ホビージャパン公式サイト
https://hobbyjapan.co.jp/whrpg/