2022年01月13日

『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ「トロールストーン〜または伸ばしたブランデストック〜」

 本日2022年1月13日配信の「FT新聞」No.3277に、『トンネルズ&トロールズ』の小説リプレイ「トロールストーン〜または伸ばしたブランデストック〜」が掲載されています。主にT&T第5版時代の断片的な情報から、オリジナルのラルフ大陸の設定を作り、シナリオ化した作品です。

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『トンネルズ&トロールズ』小説リプレイ
トロールストーン〜または伸ばしたブランデストック〜

 岡和田晃
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●はじめに

 本シナリオは、『トンネルズ&トロールズ』(T&T)のリプレイ小説です。5版のルールブック(社会思想社、1987年)に収録されている「トロールストーンの洞窟」を中核に組み入れつつ、ルールブックの随所で仄めかされているラルフ大陸(ドラゴン大陸、ルールフとも)各地の情報やNPCの設定を自分なりに咀嚼し、各種T&Tソロアドベンチャーはむろんのこと、クラシックD&D、『ファイティング・ファンタジー』、ワーグナーの歌劇などの要素を取り入れ、オリジナルの「ラルフ大陸」を描き、歴史も自分で作り直してみたのでした。
 実際にプレイしたのは2002年5月12日。当時、私は大学3年生。「ウォーロック」Vol.26(1989年2月)掲載のラルフ大陸(ドラゴン大陸)の地図は見たことがあり、そのほかは『ハイパーT&Tワールドガイド ドラゴン大陸』(角川スニーカーG文庫、1995年)も愛読していましたが、それらをそのまま流用したわけではありません。
 T&T完全版が発売されてから、ドラゴン大陸の歴史的背景が、従来とは比較にならないほど、はっきりとわかるようになりました。そうしたものを知ってから見直すと、まるでパラレルワールドのような読み味になっており、これはこれで面白いかもしれません。後に私が発表する「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」シリーズ(『傭兵剣士』所収、グループSNE/書苑新社、2019年)の原型のように見えるところもあります。
 掲載にあたっては、最低限の誤字脱字を修正しました。用語はT&T第5版に合わせつつ、カッコでT&T完全版対応も行いました。

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●ラルフ大陸を覆う影

 偉大なる大魔術師や賢者ですら、この大陸の歴史を正確に知る者はいない。知識という名の麗しき女神は、その体を覆うヴェールを剥がれることを極度に忌み嫌っているからだ。歴史と時間は唸るように変転と流転を繰り返し、「事実」を憶測と伝説に塗り替えている。もつれた糸は、修復不能なまでに複雑に絡み合って、何が虚飾で何が真実なのは誰にもわからなくなってしまっている。
 しかしながら、「恐怖」という名の原初の体験だけは、鋭利なアフリカ投げナイフ(刃)が突き刺さってしまったくらいに深く、人びとの心に刻み込まれている。
 そう、この辺りを見舞った二つの大戦の惨禍は、いまだ悪夢となって彼らの心の奥底に根付き、その平穏を脅かし続けているのだ……。

●大魔術師戦争

 ラルフ大陸南部に、四人の強大な力をもった魔法使いが住んでいた。大陸南西部を手中におさめた「カザン帝国」の支配者である「偉大なる」カザン、時間と空間の理を知り尽くした「時の大帝」ダークスモーク、邪悪な死人占い師として名高い「黒の」モンゴー、それに、謎に包まれた魔術師「尽きることなき欲望の」グリッスルグリムであった。彼らはお互いに干渉し合わないという無言の協定を守ることで、どうにか力の均衡を保ってきた。だが、張り詰めた緊張の糸は、いつかは裂けてしまうものだ。

 口火を切ったのはモンゴーであった。彼は、自分が研究していた死人の軍団を操るためのアーティファクト「シャムタンティの指輪」の製造法が、ダークスモークに盗まれたのではないかという疑念に憑かれたのである。一方、時を同じくしてダークスモークの方も、自らの時を操るためのアーティファクト「ウェルサンティの無敵の砂時計」が、モンゴーに狙われているではないかという懸念を抱いた。
かくして、二人の魔法使いはそれまで研究に向けていた情熱を、自らの敵を打ち倒すために傾けるようになったのである。
 モンゴーは、外宇宙から大いなる悪魔「スグセルバ」を召還し、ダークスモークの住む城を襲わせた。一方、ダークスモークの方は、ドラゴンボーン山脈に巣食うドラゴンやバルログたちを従え、それを迎撃した。これが、大魔術師戦争の始まりである。
 偉大な大魔術師に疑惑の念を抱かせた張本人は、現在では皮肉と虚飾を司る神、フル・フールであったと言われている。しかし、未曾有の混乱の中でだれが真実を知りえようか。
 モンゴーとダークスモークの勢力は見事に拮抗していた。いつ果てることもない争いに、国土はひたすらに荒廃の一歩をたどっていった。だが幸いにして両者の力は拮抗していたために、来るべき破滅は先延ばしにされていた。その調和の天秤を大きく揺らした張本人が、「偉大なる」カザンである。
 カザンは、自分が「時」の秘密を知ることを切望していた。永劫なる時の前には、たとえ偉大なる魔術師といえども全くの無力である。自らの帝国に「時」の力が加われば、もはや恐いものはない。カザンはモンゴーに味方し、その見返りとして「ウェルサンティの無敵の砂時計」を手に入れようと考えた。そして、契約が結ばれた。
 カザンのトロール軍団が加わると、戦況は一変した。スグセルバは滅ぼされ、ダークスモーク自身は次元の外へかき消えた。こうして、大魔術師戦争は終わりを告げたのである。
 だが、勝ちを得たモンゴーも傷ついていた。彼は自らが神々の手によって、もしくは自らが製造したアーティファクトによって踊らされていた空虚な存在に過ぎないことを悟った。ダークスモークの城(現在は、「レミシン」という廃墟になっている)の最深部に隠されていた「ウェルサンティの無敵の砂時計」をカザンに渡して約束を果たすと、彼は自らの塔に結界を張りそこに蟄居してしまった。
 四人の大魔術師のうち、最後の一人であるグリッスルグリムは醜い争いには加わらず、終始中立を保ち続けていた。というのも、彼は争いに加わらないと約束することで、他の三人より莫大な量の黄金を受け取っていたからである。黄金の輝きこそが彼の求めるものであり、魔術師同士の勢力争いに加わり、平穏が乱されることなどは彼の望みではなかったのである。

●カザン・レンジャー戦争

 カザンは狂喜した。「時」の秘密を握ったからには、自らが「時」を支配し、「時」を超越することができる存在になったと確信したのである。しかし、カザンの野望はあえなく潰えた。愛妾レロトラーの叛乱によってである。
 エルフとオーク(ウルク)の混血である「ユーワーキー」(外見はエルフよりも美しく、内面はオークよりも醜い堕天使のような種族)のレロトラーは、カザンが得た時の秘密を知りたいと切望していた。そのため、カザンの配下にあった将軍カーラ・カーンを抱き込み、クーデターを起こしたのだ。
 愛妾に気を許し、「無限の砂時計」を発動させる魔法の言葉を教えてしまった愚帝カザンは、ろくな抵抗もできずに帰らぬ人となった。かくして、カザンの「帝国」は、その後レロトラーとカーラ・カーンのものとなった。レロトラーは女帝として即位し、カーラ・カーンを片腕に据えて、「今後は恐怖こそが、この地を覆う因果律となるであろう」と宣言した。
 レロトラーの恐怖政治はあまりにも過酷に過ぎるものだった。カザンが帝国の君主であった時代は自治を許されていた都市国家、「コースト」・「デルヘイヴン」・「カーマッド」・「ノーア」の諸侯たちは彼女の暴虐非道に耐えかね、連合して帝国に宣戦を布告した。これが、「カザン・レンジャー戦争」の起こりである。連合軍がゲリラ戦を多用したことにより、「レンジャー」の名が冠せられたのであった。
 けれども、レロトラーの部隊は強力に過ぎた。善戦を尽くしたものの、コースト連合は長い戦乱の間に疲弊し、帝国に休戦を申し出たのだった。連合軍の予想を超えた抵抗ぶりにさんざん煮え湯を飲まされていたレロトラーは、やや厳しめの条件を提示したものの、結局その提案を受領することにした。

●絶え間なく続く裏切り

 後に「死の女神」と畏敬をこめた二つ名で呼ばれるほど冷酷かつ残忍な女レロトラーが、なぜそう簡単に和睦を受け入れたのか? それには理由があった。彼女の二人の妹、ロレーヌとシルヴィアが、隙をついて彼女を裏切り、国を乗っ取ろうとしたからである。レロトラーが用いている軍事力の中核をなしていたのは、強力なトロール軍団だった。トロール軍団は、小トロール、グレート・トロール、岩トロールの三種からなり、その無類の攻撃力は、たちまち連合軍を絶望の底に叩き込んだ。
 レロトラーが粗暴なトロールたちを軍隊として統率できたのは、彼女が持つアーティファクト「トロールストーン」の魔力によるものが大きかった。彼女はトロールストーンを13の破片に分割し、それぞれ腹心の13人の部下に分け与えたのである。かくして、凶悪さ、残忍さにおいて無類の力を誇る、「カザン帝国のトロール軍団」が形成された。
 ロレーヌとシルヴィアは、カザン帝国の主力である「トロール軍団」を乗っ取れば、レロトラーに太刀打ちできると考えた。そのため、二人は八方手を尽くして、「レロトラーの13人の部下」に接近することにした。二人は密かに「黒の」モンゴーと接触を持った。近年のカザン帝国の暴虐ぶりに鼻持ちならないものを感じていたモンゴーは、さんざん迷った末に、ロレーヌとシルヴィアに力を貸すことにした。彼が与えたアーティファクト「モレーノの象牙羽根飾り」の魔力によって、「13人の腹心の部下」たちの魔法は解かれた。こうして、「カザン・レンジャー戦争」のさなかにも、着々と叛乱の準備は整えられていったのである。
 しかし、叛乱は未然に鎮圧された。内通者が出たためである。レロトラーはこの事実を知るやいなや、ただちに連合軍と講和を結んだ。そして、「ウェルサンティの無敵の砂時計」の力を解放し、「腹心の部下」とロレーヌ・シルヴィアの陰謀を撃退した。13人の部下が持っていた「トロールストーン」の力は「砂時計」の力によってあえなく逆流した。「象牙羽根飾り」も「砂時計」には効果がなかった。
その結果、「トロールストーン」の魔力が体内に蓄積されてしまったために、「腹心の部下」はそれぞれその身をトロールへと変えられ、カザンとコーストの間の丘陵地帯の洞窟に、「トロールストーン」と共に封印されてしまった。そして、洞窟の入り口には「強くもなければ、弱くもない者」たちによってのみ、「力か金貨の二通りの方法」で開けることの出来る魔法の扉が置かれたのだった。
 レロトラーは身内にも容赦なかった。ロレーヌは、「砂時計」による拷問を受け、永遠に死ぬことのかなわない幽鬼として洞窟の一つに封印されたのである。
 一方、シルヴィアはかろうじて難を逃れた。彼女は姉への復讐を胸に、カザンを後にした。彼女らの計画をレロトラーに知らせたのがモンゴー本人であったことは、知る術もなかった。

●蛇と蛇

 シルヴィアはレロトラーへの復讐を遂げるために、常に中立を保ち続けている「尽きることなき欲望の」グリッスルグリムに接触することにした。グリッスルグリムは、シルヴィアに会ってたいそう喜んだ。それは、彼女が覚えていた《黄金蛇作り》の魔法のためだった。この魔法によってのみ呼び出される「黄金蛇」は、噛み付いた者を何でも黄金に変えてしまうという不思議な魔力を持つ。「黄金蛇」の力に魅せられたグリッスルグリムは、シルヴィアの要望に従い、「無敵の砂時計」を破ることのできる武器「黒檀のブランデストック」を鋳造した。しかし、長年の安楽な生活のせいで警戒心が薄れていたグリッスルグリムは、シルヴィアが「ブランデストック」を手に入れるやいなや用済みとなり、あえなく殺されてしまった。シルヴィアの操る無数の「蛇」の力によって、彼自身がその塔を彩る黄金の一つに変えられてしまったのだ。カザンといい、グリッスルグリムといい、たとえ大魔術師といえども、不意を突かれれば実に無力である。
 「ブランデストック」とは、長い柄を持った武器で、片方の先端に小さい斧、もう片方に短いスパイクがついている。また、柄の中に長い剣が隠されていて、簡単に伸ばすことができる。グリッスルグリムは、この伸ばした状態のブランデストックに、「時」の呪縛を破ることの出来る魔法をかけたのであった。
 しかし、シルヴィアは実に用心深かった。たとえ武器を手に入れても、彼女は満足しなかった。直接干戈を交えるのはまだ早い。とりあえず、彼女はコーストの支配者であるヘルベルト・フォン・ブラバントに接近した。愛妾の一人になりすまし、ヘルベルトを操って、対カザン帝国への戦力を蓄えようとしたのであった。しかし、相次ぐ戦争で国土は疲弊しきっている。やはり、人間だけの軍隊では心もとない。彼女は側近の魔術師ダイヤモンドを使って、「13人の腹心の部下」が封じられている洞窟の封印を解かせ、トロールストーンの欠片を回収していくことにした。
 一方、モンゴーはモンゴーで新たな策を練っていた。彼は仲間の魔術師「マリオナルシス」をそそのかし、カザンの真東に、巨大な「オーバーキル城」を建てさせた。一方、自身は着々と力を蓄えた。転んでもただでは起きないシルヴィアの性格を知っていたモンゴーは、姉妹が同士討ちしている間に、漁夫の利を狙おうとしていたのである。マリオナルシスを利用することで、レロトラーの注意を引き付けようと企んだのだ。
 だが、そんなモンゴーの動きに気づかないほどレロトラーも愚かではなかった。彼女は破壊と死を崇める「赤いローブの僧侶団(通称、『赤い蛇』)」と協定を結び、モンゴーの塔の西に彼らの寺院を建てさせた。レロトラーは邪教として忌み嫌われている彼らの教義を認めるかわりに、モンゴーの動向を観察させることにしたのだった。

●迷宮探検家たち

 だが、巧妙に張り巡らされた魔法使いたちの陰謀にも、一つの穴があった。彼らは、迷宮探検家の存在を考慮に入れていなかったのである。ダイヤモンドが解放したトロールたちの洞窟は、いつのまにか迷宮探検家たちの知るところとなったのである。
 迷宮探検家。冒険によって生業を得るごろつきどもの総称である。彼らはあるときはその名の通り迷宮にもぐり、またあるときは隊商を護衛したり傭兵として戦争に参加したりもする。
 彼らにとって、「トロールの住む」洞窟についての噂は、まさしく格好のものだった。彼らはトロールの洞窟に潜っては出、潜っては出して、中の宝を掻きだしてゆくのである。ついには「トロールストーン」そのものを手に入れる者まで現れる始末。さらには、手に入れただけでなく「トロールストーン」を暴走させる者まで出てきてしまった。
 こうなると、さすがに手には負えなくなってくる。けれども、この事実をシルヴィアに知らせてしまっては、自らの不手際が責められてしまう。それでなくても陰謀を張り巡らすのに忙しいシルヴィアを煩わせるわけにはいかない。
 開き直ったダイヤモンドは、「とりあえず迷宮探検家たちの自由にさせておいて、トロールストーンを取り出させよう、そしてその後、彼らを抱きこんでコースト軍に編成させよう」という無謀な計画を考えるに至ったのだった。
 ダイヤモンド自身は強力すぎて、洞窟そのものは解放できても中の扉は開けられない。その問題も、彼らに任せればすべてが解決するのである。

●コーストにやってきたのは

 今まさに、コーストの街にやってきた一行がいた。田舎での冒険に飽き飽きして、そろそろ都会で一旗揚げようと考えてのことである。幸い、彼らには田舎で厩肥を掘り返していただけではなく、カザン・レンジャー戦争の古兵たちから武器の使い方を習ったり、それを活用したりする時間が十分にあった。そのため、彼らの身なりは卑しくとも、ヴェテランの迷宮探検家に劣らないだけの技量と経験は備えられていたのである。
 「必要以上に口を利かない」のがモットーの盗賊にして「名もなき森」のエルフの、フィル。常にトレーニングを欠かさず、坑道掘りに卓越した技術を示す「青の丘陵」出身のドワーフの戦士、ハーラキ。そして、暗殺を生業とし、常にチャクラムとスパイダー・ベノムを欠かさない魔術師であり、なおかつ「まどわしの森」出身のエルフであるマルケス。そして、小村出身の精悍な人間の戦士、ベック。
 これまでと同じように、彼らは行く先々で騒動の種となっていた。このコーストでも、公爵お付きの大商人ドリンをはめて零落させたり、盗賊町と呼ばれる通りで追い剥ぎを返り討ちにしたりとやりたい放題。そして彼らが行き着く先は、やはり例の、トロールの宝窟の探索であった。


●トロールストーンの洞窟へ

 下町の酒場で、洞窟に入ったことのある探検家、「西部の男」ハイグレイから辛抱強く情報を聞き出した迷宮探検家たちは、宝窟の奥に眠る謎の石を長く持っていると自らがトロールと化してしまうということを知る。そのうえ、洞窟はあらかた探索されてしまっているようだ。魔術師の塔の迷宮探索とか、カザンへの隊商の護衛とか、今まで聞きかじったさまざまな誘惑に心が動くが、伝え聞く宝の大きさに、彼らは宝窟行きを決心する。
 盗賊町でいまだ探索されていない宝窟の在りかを教えてもらい、一行は馬を駆って一路洞窟へと向かう。
「ストラック・グリー・グリム・ドゥリム・ウルー・ウルクスマグク・ニクス・ウトアー」
 切り立った崖にぽっかりと口を開けている洞窟の入り口をふさいである扉には、ジャイアント語でこう記されていた。フィルとマルケスが訳してみると、その大意は、「この扉は、力か金貨に従う。ほかはだめだ!」だった。
 力か金貨? そうだ、よく見てみれば、扉には目があり、口があり、手が生えている。もしや、「力に従う」とはこの腕とアームレスリングをしろ、ということか? 喜びいさんだハーラキが勝負する。結果は明白だった。ハーラキの圧倒的な膂力(体力度でのセービングロール7レベル成功)によって、扉はあっという間にねじふせられてしまった。余裕綽々で奥へと進む一行。すると突然、洞窟の奥から巨大な岩が転がってきた! 軽い傷を負いながらも、なんとかかんとか岩をかわしたパーティは、さらに奥に進むことにする。
 来た道のほかに、フォークのような三叉路が広がっている。奥に進んだ一探検家たちは、すぐさま袋小路に突き当たった。見上げると、天井には穴があいて、羽目板らしきものがおいてある。どうやらさきほどの大岩はここから落ちてきたもののようだ。
 引き返そうとした一行だったが、その時、天井の穴から何かが襲い掛かってきた! 巨大な吸血コウモリである! しかも四匹もいる!
 だが、さすがは手だれ、瞬く間にコウモリどもを退治した。彼らは再び三叉路に戻り、西の方へと進んでみる。そこは巨大なクレバス(割れ目)が広がっていた。危険なものを感じた一行はとりあえず戻って、今度は西に進んでみる。するとその先は大きな広間で、中にはどんよりと濁った水溜りがあった。またもや危険なものを感じた一行は、ハーラキがピックアックス(つるはし)で壁を崩して足場をつくり、その上を通ることで水溜りに触れるのを避けた。さらに奥へ進むと、その先は幾重にも折れ曲がった挙句にY字路になっていた。何の気なしに左に進むとまたもやY字路。その先を左に進むと、そこは広間で、多くの骨が散乱していた。ベックはその骨を大魔術師戦争時代のものだと見当づけたものの、危険なのでそれに触れるのは極力避けた。
 一行は二番目のY字路に戻って、そこを右に行ってみる。すると、そこには巨大なスフィンクスがいた。彼女の謎かけを難なく解き、さらに奥へ進むと今度は謎のプレートが。白い石か黒い石をはめればいいらしい。彼らは考えるが答えが出ない。とりあえず黒石をはめるがこれが大間違い。洞窟の天井が崩れ始める。しょうがないので彼らはその場を後にした。落石でちょっと怪我してしまったけれども。
 今度は一つ目のY字路を右に行ってみることにした。奥へ進むと、なにやら不気味な、コブラが喉を鳴らすような音が聞こえてきた。恐れをなした一行は、戻って反対の道を進んだ。するとどうだろう、そこには噂のトロールがいるではないか! そして、その周りには莫大な黄金の数々が!
 トロールが気づかないうちに、すかさず《これでもくらえ!》の魔法をかけよう、との意見もあったが、とりあえず、例の「トロールストーンによってトロールに変身」事件が気になっていた一行は、マルケスが偶然覚えていた魔法語(テレパシー。どんな生き物とも会話ができる)を使って、トロールに話しかけてみることにした。
 トロールは悲しげな顔をして事情を語った。すなわち、このリプレイ小説の「絶え間なく続く裏切り」の節に記されているようなことを話したのである。このトロールこそ、レロトラーの「13人の腹心の部下」の一人なのだ。そしてそのそばには、ロレーヌの霊も漂っているという。
 トロールは語る。「このくびきから解き放ってくれれば、この広間にある宝をすべて差し上げよう、むろんこの『トロールストーン』も」と。しかし、その呪いを解き放つためには高レベルの魔法使いによる《厄払い》をかけねばならないようだ。
 とりあえず彼らはコーストに戻り、噂に聞いた大魔術師「ダイヤモンド」のもとへ行き、事情を説明して魔法をかけてもらうことに決めた。
 話を聞いて、ダイヤモンドは驚いた。一行が発見した『トロールストーン』は、13ある石のうちでもっとも強力なものだったのだ。慌てふためいて彼は一行と共に洞窟へと向かった。

●巡らされた糸を揺らすのは誰か?

 しかしどうだろう、そこには案の定、赤いローブの僧侶たちが待ち伏せていた。そういえば、彼らもこの宝窟の魔力に惹き付けられていると聴いたことがあった。パーティがトンネルを後にしているすきに、トロールストーンを奪おうとしていたのである。
 探検家たちは慌てて僧侶たちを食い止めようとする。するとその時、僧侶たちの指揮官らしき姿が見えた。それはなんと、レロトラーの片腕である「カーラ・カーン」の姿だった。ダイヤモンドがカーラ・カーンを食い止めている間に、一行は赤いローブの僧侶たちに挑みかかる。
 怪しげな光が僧侶の杖に集まってくる。「死」のルーンが輝きを増してくる。
「危ない、《変身強制》の呪文が飛んでくるぞ! カエルになっちまう!」マルケスが叫ぶ。
 だが、時すでに遅し。マルケス自身は、すでに自分が唱える魔法の準備に追われて、阻止するだけのゆとりはない。その時だった。
 それまで黙っていたフィルがいきなり腰のマン=ゴーシュを抜き放ち、僧侶の杖を折りにかかったのだ! 不意を突かれた僧侶は対処しきれず、魔法は失敗してしまった。その隙を突いて、ハーラキとベックがバーサーク化し、僧侶たちに踊りかかる。さらに、ハーラキの持つピロムには、マルケスの《魔剣》(《凶刃》)の魔法がかけられ、通常の3倍の破壊力を有するに至った!
 狂乱化した戦士2人の猛攻をまともに受け、赤ローブの僧侶たちは10人全員が40メートルほども吹っ飛んで(40ダメージのオーバーキル)、あわれ息絶えた。
 しかし飛ばされながらも、僧侶の杖の1つから魔法が放たれた! 《まぬけ》の呪文で、標的はマルケス。結果、マルケスは知性度が3(獣並み)にまで下がってしまった。
 僧侶たちがやられたのを見て、さすがのカーラ・カーンも劣勢を悟った。捨て台詞も残さずに去っていく。とりあえず、彼らは勝利を収めたのだ。
 ダイヤモンドがことのあらましを告げる。今や、探検家たちはすべてを知ってしまった。そのうえで、彼は一行に選択を迫る。来るカザン軍とコースト軍との全面戦争において、コースト軍の一員として働く気はないか、と。シルヴィアが指し示すブランデストックに従えば、必ずや勝利と栄光が保証される。彼は、そう、一行に告げた。
 しばらく考えた末、探検家たちは答えを出した。ハーラキとマルケスは、日々の糧を選び、コースト軍に入隊することを承諾する。一方、フィルとベックは、今までの気楽な暮らしを捨てきれず、そのまま冒険家業を続けることを決意したのだった。
 こうして彼らは袂を分かち、自らの道を進むこととなった。けれども、どの道を行こうとも、今後、彼らの陰謀に巻き込まれていかずに生きていくことはかなわない。しかし、彼らには「トロールストーン」が示すような大きな力が残っている。巡らされた糸をゆすぶり、陰謀家をそこから追い落とすのは、探検家のみに許された特権なのだ。

posted by AGS at 10:21| 小説・リプレイ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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